※本記事は、Laurence D. Fink氏(BlackRock 会長兼CEO、世界経済フォーラム暫定共同議長)とElon Musk氏(Tesla CEO、SpaceX最高エンジニア、xAI CTO)による対談セッション「Conversation with Elon Musk | World Economic Forum Annual Meeting 2026」の内容を基に作成されています。本セッションは、透明性・一貫性・説明責任といった信頼の原則を中心テーマに掲げた第56回世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議2026)にて行われました。動画の詳細は https://www.youtube.com/watch?v=IgifEgm1-e0 でご覧いただけます。本記事では、セッションの内容を要約しております。なお、本記事の内容は登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。世界経済フォーラムの詳細については公式ウェブサイト(http://www.weforum.org/ )をご参照ください。
1. 開会・導入
1-1. Larry Finkによる登壇紹介とセッションの趣旨
Larry: 今日はこうして皆さんと一緒にいられることを嬉しく思います。今週のダボスは本当に充実した一週間でした。様々な会話が交わされ、意見が一致することもあれば、そうでないこともありました。しかし今日、和平合意という形で具体的な成果が生まれたことは、まさに世界経済フォーラムが目指している「対話と理解、そして解決」の体現だと思います。そして今日のセッションのゲストとして、わざわざカリフォルニアからお越しいただいたElon Muskをご紹介します。
Elon: ありがとうございます。その和平サミットのことを聞いて、思わず「それはグリーンランドの一部とベネズエラの一部を取引するPIC(平和)なのか?」と笑ってしまいました。
Larry: 私たちが求めているのは、ただ平和だけです(笑)。今日のセッションでは、AI、ロボティクス、エネルギー、宇宙といったテーマを横断しながら、テクノロジーの可能性と、それを実現するためのエンジニアリング的規律・スケール・実行力について深く掘り下げたいと思っています。これほど多岐にわたる技術領域を同時に推進している人物は、Elonをおいて他にいないでしょう。だからこそ、このダボスの場での対話に意義があると考えています。
1-2. Tesla株式パフォーマンスと投資の広がりへの提言
Larry: 少し数字の話をさせてください。私はBlackRockのCEOとして、上場以来の株主への複利リターンが21%であることを誇りに思っています。しかしElonがTeslaを上場させて以来の複利リターンは43%です。これはもう一つの広告として申し上げたいのですが、特にヨーロッパの方々に聞いていただきたい。もし多くの年金基金がTeslaの上場時にElonと並んで投資していたとしたら、どれほどのリターンが得られていたでしょうか。これほどの規模を持ちながら、これほどの複利リターンを実現している企業は、他に存在しないと思います。改めて、おめでとうございます。
Elon: ありがとうございます。これはTeslaの素晴らしいチームの成果です。私個人の功績ではありません。
Larry: そのうえで本題に入りたいと思います。Elonは現在、AI、ロボティクス、宇宙、エネルギーをすべて同時進行で手がけています。エンジニアリングの観点から見たとき、これらの取り組みに共通するものは何でしょうか。
Elon: どれも非常に困難な技術的挑戦であることは間違いありません。しかしそれ以上に、私のすべての会社に共通する目標があります。それは文明の未来を最大化すること、そして意識を地球の外へ拡張することです。
2. Elonのビジョン:文明の未来と意識の拡張
2-1. 各企業に共通する目的——「文明の確率的最大化」と地球外への意識拡張
Elon: 私のすべての会社に共通する目標は、文明が素晴らしい未来を持てる確率を最大化すること、そして意識を地球の外へ拡張することです。SpaceXを例に挙げると、その使命はロケット技術を進歩させ、生命と意識を地球の外——月、火星、そしていずれは他の星系——へと延伸することです。私たちは常に、生命と意識というものを「儚く、壊れやすいもの」として捉えるべきだと思っています。なぜなら、私たちの知る限り、地球以外に生命が存在するという証拠はどこにもないからです。
Larry: よく「宇宙人は私たちの中にいるのか」と聞かれることはありますか?
Elon: ありますよ。私自身が宇宙人だと答えることもあります(笑)。あるいは「未来から来た」とも言えるかもしれません。でも本気で言えば、もし宇宙人が地球にいるとすれば、それを知っているのは私だろうと思っています。私たちはStarlinkの衛星を9,000機打ち上げていますが、一度たりとも宇宙船を回避するための軌道修正をしたことがありません。ですから私の結論は「わからない」ということですが、少なくとも言えるのは、生命と意識は極めて稀な存在であり、もしかすると私たちだけかもしれないということです。
2-2. 生命と意識の希少性という仮説と、SpaceXの使命
Elon: もし意識を持つ存在が私たちだけだとしたら、私たちはその「意識の灯火」を絶やさないために、あらゆる手を尽くさなければなりません。私の頭の中にある映像は、広大な暗闇の中で揺れる小さな蝋燭です。その蝋燭は、少しの不注意で簡単に消えてしまう。だからこそ、生命を多惑星に展開することが重要なのです。地球上で自然災害や人為的な災害が起きたとしても、意識が他の場所で継続できるように——それがSpaceXの存在意義です。
Larry: その哲学は、Teslaにも通じるものがあるのでしょうか。
Elon: はい。Teslaはもともと持続可能なエネルギー技術を推進する会社ですが、今やそのミッションに「持続可能な豊かさ(Sustainable Abundance)」という概念を加えています。ロボティクスとAIを組み合わせることで、これがすべての人にとっての豊かさへの道筋になると確信しています。よく「世界の貧困をどう解決するか」「すべての人に高い生活水準をどう提供するか」という議論がありますが、私はその答えはAIとロボティクス以外にないと思っています。もちろん、それには慎重に向き合わなければならない課題も伴います。AIやロボティクスの扱いを誤れば、James Cameronの映画のような世界——つまりターミネーターの世界——になりかねない。それは絶対に避けなければなりません。しかし、もしAIが実質的に無償で遍在し、ロボティクスも同様に普及したとすれば、それは人類史上かつてない規模での経済拡大をもたらすはずです。
3. AIとロボティクスがもたらす豊かさと人間の意義
3-1. 「持続可能な豊かさ」——ロボット経済の構造と貧困解消への道筋
Larry: その豊かさの拡大は、広く行き渡るものになるのでしょうか。それとも一部の人々に集中してしまうのでしょうか。
Elon: 考え方として整理すると、多数のヒューマノイドロボットが存在する世界では、経済的産出量は「1台あたりの平均生産性」×「ロボットの台数」で決まります。私の予測では、ロボットの数は人間の数を上回るようになります。そしてその規模になると、財やサービスの供給があまりにも豊富になり、人々はもはやロボットに何を頼むか思いつかないほどになる。それが本当の意味での豊かさです。AI企業は可能な限り多くの顧客を獲得しようとしますから、自然とAIは世界中に広がっていきます。AIのコストはすでに非常に低く、月単位で意味のある変化が起きるほどのスピードで下がり続けています。オープンモデルも広く普及しており、最先端のクローズドモデルからおよそ1年遅れで追いついてくる状況です。ですから豊かさが一部に集中するのではなく、広く行き渡るというのが私の見立てです。
Larry: 具体的にどのような場面でロボットが活躍するイメージですか。
Elon: たとえば子どもの見守り、ペットの世話、そして高齢者の介護などが挙げられます。私の友人の多くが、高齢の親の介護に苦労しています。費用がかかるうえに、若い世代の人口が減っているために、老いた親を世話できる人の数が絶対的に不足しています。もしロボットが高齢の親を安全に見守り、介護してくれるとしたら、それは本当に素晴らしいことだと思います。そういった用途が普及していくことで、豊かさは特定の産業や富裕層だけのものではなく、社会全体に届いていくはずです。全体として、私は未来について非常に楽観的です。驚くべき豊かさに向かっていると思いますし、今は間違いなく人類史上最も興味深い時代です。
3-2. ポスト労働社会における人間の目的と役割の再定義
Larry: しかしそうなると、人間の意義や目的はどこに求めればよいのでしょうか。ロボットがすべての仕事をこなすようになったとき、人間はどう生きるのか。
Elon: それは難しい問いですね。完璧な答えはないと思います。ただ、構造的に整理すると、「やらなければならない仕事が存在する」ことと「すべての人への豊かさ」は、両立しません。もし特定の仕事が必要不可欠で、一部の人しかそれをこなせないとすれば、その豊かさは必然的に狭いものになってしまう。逆に言えば、真に広範な豊かさを実現するためには、労働の必要性そのものがなくなることが前提条件になるわけです。
Larry: では人間は何のために生きるのか、という哲学的な問いが残りますね。
Elon: そうです。そこは認めざるを得ません。ただ、人間には楽しみとしての仕事、創造的な活動、社会への貢献、あるいは純粋な知的探求といった営みがあります。労働が「生存のための義務」でなくなったとき、人間はむしろ自分が本当にやりたいことに集中できるようになる、という見方もできます。もちろん、そこに新たな課題が生まれることも事実ですが、私は総じてその未来を肯定的に見ています。
4. 老化・寿命延長に関する仮説と考察
4-1. 「同期クロック仮説」——観察から導かれる老化メカニズムへの洞察
Larry: 話は変わりますが、AIやロボティクスが進化するこの新しい時代に、私たちは老化を逆転させることができるでしょうか。あるいは少なくとも、その恩恵を目にすることができるでしょうか。
Elon: 老化の問題には、実はあまり時間を割いて考えてきませんでした。ただ、直感的に言えば、これは非常に解決可能な問題だと思っています。老化の原因が何であるかを突き止めたとき、それは驚くほど明白なことだとわかるはずです。なぜそう思うかというと、人間の体のすべての細胞は、ほぼ同じ速度で老化するからです。私はこれまで、左腕だけが老いていて右腕は若い、という人を一度も見たことがありません。
Larry: 確かにそうですね。それは何を意味するのでしょうか。
Elon: つまり、体内には何らかの「同期クロック」が存在しているはずだということです。35兆個にも及ぶ体のすべての細胞が、同じタイミングで老化していくということは、それらを統一的に制御しているメカニズムがある、ということを示唆しています。もしその同期クロックの仕組みを解明できれば、老化というプロセスそのものに介入できる可能性があります。これは微妙で捉えどころのない問題ではなく、むしろ非常に明確な構造を持った問題のはずです。だからこそ、一度解明されれば「なぜこんなに明らかなことに気づかなかったのか」と思えるほど、シンプルな答えが見つかるのではないかと考えています。
4-2. 死の社会的メリットと寿命延長実現の見通し
Elon: ただ一方で、死には実は一定の「社会的メリット」があることも認めなければなりません。
Larry: それはどういう意味ですか?
Elon: もし人々が永遠に、あるいは非常に長い時間生き続けるとしたら、社会が硬直化するリスクがあります。物事がただ固定されていき、変化が起きにくくなる。活力を失い、停滞してしまう可能性があるわけです。世代が交代するからこそ、新しいアイデアが生まれ、社会が前進していく側面もあります。死はその意味で、社会の更新機能を担っているとも言えます。
Larry: それは逆説的ですが、深い洞察ですね。
Elon: そうは言っても、寿命を延ばす方法、あるいは老化を逆転させる方法が見つかる可能性は非常に高いと思っています。その点については楽観的です。先ほどの同期クロックの話に戻りますが、そのメカニズムさえ解明できれば、介入の手がかりが得られる。AIがこうした生命科学の謎を解くうえでも、大きな役割を果たすことになるでしょう。
5. AIの展開を阻むボトルネックと太陽エネルギーの優位性
5-1. 電力制約という根本問題——チップ生産と電力供給のミスマッチ
Larry: AIモデル、自律型機械、ロケット——これらはすべて、膨大なコンピューティングリソースとエネルギーを必要とします。製造スケールも含めて、そこへ到達するためのボトルネックは何でしょうか。そして繰り返しになりますが、その恩恵を広く行き渡らせるためには何が必要でしょうか。
Elon: AIの普及という観点で言えば、限界要因は根本的には電力です。AIチップの生産量は指数関数的に増加しています。しかし電力供給の増加率は年率3〜4%が限界です。このミスマッチは深刻で、早ければ今年中に、生産されたチップの数が実際に稼働させられる数を上回る状況が来るかもしれません。ただし中国は例外です。
Larry: 中国は現在、100ギガワット規模の原子力発電所を建設していますね。
Elon: 実は中国で最も大きいのは太陽光発電です。中国の太陽光パネルの生産能力は年間1,500ギガワットに達していると思います。そして実際に年間1,000ギガワット以上を導入しています。太陽光は断続的な電源ですから、安定した連続供給量に換算するには4〜5で割る必要があります。バッテリーと組み合わせた場合の試算では、これは約250ギガワットの安定電力に相当します。米国の平均電力消費量が500ギガワットですから、中国が太陽光だけで米国の電力消費量の半分に相当する安定電力を毎年追加していることになります。これは非常に大きな数字です。
5-2. 太陽は太陽系エネルギーの実質100%——物理的論拠と地上・宇宙での活用試算
Elon: 地球上でも、そして地球を超えた宇宙においても、エネルギーの話をするときに最も重要な事実があります。それは、太陽が太陽系のエネルギーの実質的に100%を占めているということです。太陽は太陽系の質量の99.8%を占めており、木星が約0.1%、残りはすべて「その他」です。仮に木星を熱核反応炉で燃やしたとしても、太陽が生み出すエネルギーの量は依然として100%に丸められます。木星をさらに3つ太陽系に持ち込んで、それらすべてと太陽系のその他すべてを燃やしたとしても、太陽のエネルギーは依然として100%に丸められる。つまりエネルギーの話は、究極的には太陽の話に帰着するわけです。
Larry: その太陽エネルギーを地上でどう活用するか、具体的な規模感を教えていただけますか。
Elon: 粗い試算として、約160キロメートル×160キロメートルの太陽光パネルで、米国全土の電力をまかなうことができます。ユタ州やネバダ州、ニューメキシコ州の片隅に相当する面積です。もちろん一か所に集中させる必要はありませんが、米国の国土面積に占める割合としては非常に小さいものです。同じことはヨーロッパにも言えます。スペインやシチリアの比較的人口の少ない地域を使えば、ヨーロッパ全体が必要とする電力をすべて生み出すことができます。では、なぜそれが進んでいないのか。米国では、太陽光パネルに対する関税障壁が極めて高いことが原因の一つです。中国がほぼすべての太陽光パネルを製造しているため、その関税が太陽光導入の経済性を人為的に悪化させています。
6. Tesla・SpaceXのエネルギー戦略と宇宙の経済学
6-1. 米国内太陽光製造100GW計画と関税障壁の問題
Larry: では米国やヨーロッパが、商業的に太陽光発電を大規模に構築するためには何が必要でしょうか。
Elon: 私たちが何をしようとしているかをお話しします。SpaceXとTeslaの両チームが、それぞれ独立して、米国内で年間100ギガワットの太陽光発電を製造・展開するための取り組みを進めています。おそらく3年ほどで達成できると思っています。これはかなり大きな数字です。他の企業や国にも同じことをするよう促したいと思っています。米国の関税政策は私たちがコントロールできるものではありませんが、他の国々に対しては、中国製のソーラーセルは非常に低コストであり、大規模な太陽光導入を進める価値は十分にあると伝えたいです。関税の問題さえなければ、経済合理性は明らかです。
Larry: その規模感は確かに大きいですね。ただ、そこに至るまでのコスト——コンピューティング、チップ、製造ラインの構築、そしてその電力供給——これらは膨大な投資を必要とします。それでも恩恵が広く行き渡るという確信はどこから来るのでしょうか。
Elon: AI企業は可能な限り多くの顧客を獲得しようとするため、自然とAIは世界中に届いていきます。コストはすでに急激に下がっており、月単位で意味のある変化が起きています。太陽光も同様で、製造コストの低下は止まりません。エネルギーとAIのコストが下がり続ける限り、その恩恵は必然的に広がっていくと考えています。
6-2. Starshipによる完全再使用化と宇宙AIデータセンターの構想
Larry: 宇宙の話に移りましょう。歴史的に宇宙開発は資本集約的で、政府が主導するものでした。SpaceXがそのモデルを根本から変えましたが、今まさに規模が拡大し始めているように見えます。自動化やAIが、宇宙開発の経済性をどのように変えつつあるのかを教えてください。
Elon: SpaceXが今年達成しようとしている最大のブレークスルーは、ロケットの完全再使用化です。これまで誰も達成したことがありません。宇宙へのアクセスコストを下げるうえで、これは非常に重要な要素です。Falcon 9では、ブースター段を着陸させることで部分的な再使用を実現しており、すでに500回以上の着陸に成功しています。しかし上段は再使用できず、大気圏再突入時に燃え尽きてしまいます。この上段のコストは、小型から中型のジェット機に相当します。
Larry: そのStarshipというのは、火星行きに使うロケットですよね。
Elon: はい、火星と月、そして大量の衛星打ち上げにも使います。Starshipは史上最大の飛行機械です。今年中に完全再使用化を実証できれば、それは深遠な発明となります。完全再使用化によって、宇宙へのアクセスコストは100分の1に下がります。これは再使用可能な航空機と使い捨ての航空機の経済的差異と同じ構造です。毎回飛行機を捨てなければならないとしたら、フライトのコストは極めて高くなる。しかし燃料補給だけで済むなら、コストは燃料代だけです。Starshipで完全再使用化を達成すれば、宇宙へのアクセスコストは航空貨物のコストを下回る水準、つまり1ポンドあたり100ドル以下になると考えています。
Larry: 宇宙での太陽光発電についても伺いたいのですが、その電力を地球に送り返すことは可能なのでしょうか。それとも宇宙空間で消費する、たとえばAIデータセンターの電力として使うということになるのでしょうか。
Elon: 宇宙に太陽光発電によるAIデータセンターを構築するというのは、誰がどう考えても合理的な選択です。宇宙では太陽光が常に降り注いでいます。昼夜のサイクルも、季節性も、天候もない。さらに大気による減衰がないため、同じ太陽光パネルでも地上の約30%多くの電力を得られます。これらを合わせると、宇宙に設置した太陽光パネルは地上の約5倍の発電効率を持つことになります。そして冷却の問題も、宇宙では非常に効率的に解決できます。太陽に向けた面で発電しながら、太陽から離れた方向にラジエーターを向けるだけでよい。宇宙の日陰は宇宙背景放射の温度、つまり約3ケルビンですから、冷却システムとして極めて優れています。これらを総合すると、AIを設置する最もコストの低い場所は宇宙になります。それは2年以内、遅くとも3年以内に現実のものになるでしょう。
7. 自動運転・ヒューマノイドロボットの展開ロードマップ
7-1. 自動運転「解決済み問題」——FSDの安全実績とロボタクシー展開計画
Larry: Teslaの工場を訪問したとき、ロボットを実際に見せていただきました。ロボティクスの大きな発表も控えているとのことですが、その前に自動運転の話をさせてください。Tesla Full Self-Driving(FSD)のソフトウェアはどのくらいの頻度でアップデートされているのですか。
Elon: FSDのソフトウェアは、場合によっては週に一度更新しています。そしてその安全性については、最近非常に興味深い動きがあります。一部の保険会社が、Tesla FSDを使用している顧客に対して保険料を半額にするという提供を始めました。FSDがそれほど安全であることが、データとして実証されているからです。保険会社はリスクを数値で判断しますから、これは市場が自動運転の安全性を認めたという非常に明確なシグナルだと思います。
Larry: その保険会社はFSDの使用状況をモニタリングすることで、そのような判断をしているわけですね。
Elon: そうです。そして率直に言えば、自動運転はこの時点で本質的に解決済みの問題だと思っています。Teslaはすでにいくつかの都市でロボタクシーサービスを展開しています。今年末までには米国全土で非常に広く普及するでしょう。またヨーロッパでの監視付き自動運転の承認については、来月中に取得できる見通しを持っています。中国でも同様のタイミングで承認が得られることを期待しています。
Larry: それはかなり早いペースですね。ヨーロッパで来月というのは本当ですか。
Elon: はい。規制当局との協議は進んでいます。自動運転技術の安全性が実績として積み上がっているからこそ、このスピードで承認プロセスが進められているのだと思います。
7-2. Tesla Optimusの段階的展開——工場導入から一般販売へ
Larry: ヒューマノイドロボットについてはどうでしょうか。何十億台ものロボットという話をされていましたが、具体的にどのくらいのスピードで製造現場や一般社会に展開されていくのでしょうか。
Elon: ヒューマノイドロボティクスは非常に速いペースで進歩しています。現在、Tesla OptmusのロボットはすでにTeslaの工場内で単純な作業をこなしています。今年末までには、より複雑な作業に対応できるようになると思いますが、この段階ではまだ産業用の環境に限定した展開になります。そして来年末、つまり2026年末までには、一般消費者向けにヒューマノイドロボットを販売できると考えています。
Larry: その時点でどのような水準の性能を想定していますか。
Elon: 一般販売に踏み切るタイミングは、信頼性が非常に高く、安全性も十分に確保され、そして機能の幅も広い——その三つの条件が揃ったときです。基本的にどんなことを頼んでも対応できる、という水準を目指しています。自動車のFSDがソフトウェアの更新によって継続的に機能が向上し続けているのと同様に、ロボットも実際に稼働しながらデータを蓄積し、能力を高めていきます。工場という制御された環境での稼働実績を積み重ねることで、一般家庭での安全な使用に必要な信頼性を確立していくというのが、私たちのアプローチです。
8. AI知能の進化予測と個人的哲学・展望
8-1. 「今年末に人類最高知性を超えるAI」——5年以内の人類集合知超越という予測
Larry: 10年後、20年後を見据えたとき、AIや宇宙技術における成功とはどのような姿でしょうか。3年先と10年先では、どちらがより見通しやすいですか。
Elon: 10年後に何が起きるかは正直わかりません。ただ、AIの進化スピードを考えると、今年末までに、あらゆる人間よりも賢いAIが登場すると思っています。遅くとも来年中には実現するでしょう。そして2030年から2031年、つまり今から約5年後には、AIは人類全体の知性を集合的に上回るレベルに達すると予測しています。
Larry: それは驚くべき予測ですね。その進化は私たちの社会にどのような影響をもたらすのでしょうか。
Elon: AIは私たちがまだ問うことすら知らない問いに答えを出す助けになるでしょう。宇宙の意味とは何か、物理学の標準モデルは正しいのか、宇宙の始まりと終わりはどのようなものか——そういった根本的な問いに対して、AIは人間が単独では到達できなかった洞察をもたらすはずです。だからこそ私はAIの進化を恐れるよりも、それを人類の知的探求の延長線上にあるものとして捉えています。
8-2. SF読書体験から生まれた好奇心の哲学と火星への意志
Larry: 少し個人的な話をさせてください。Elonは21世紀最大の起業家であり産業家と言っても過言ではないと思いますが、あなたをここまで突き動かしてきたものは何ですか。好奇心の原点、あるいはキャリアの中でのエピファニーのような瞬間はありましたか。
Elon: 子どもの頃、SF小説やファンタジー小説、そしてコミックをたくさん読んでいました。テクノロジーが好きで、将来こんな場所に立っているとは想像もしていませんでした。今の自分がいる場所は、考えれば考えるほど信じられないほど非現実的に感じます。ただ、未来についての本、SF作品を読みながら、いつかサイエンスフィクションをサイエンスファクトに変えたいという気持ちが芽生えていました。Star Trekのような、巨大な宇宙船が宇宙を旅し、他の惑星へ向かい、他の星系を目指す——そういう世界を本当に実現したいと思っています。
Larry: まるでビームで瞬間移動できればニューヨークに帰れるのにと思いますよ(笑)。
Elon: 本当にそうです(笑)。私の哲学の中心にあるのは、「好奇心」です。生命の意味とは何か、標準モデルは正しいのか、宇宙の始まりと終わりはどのようなものか、私たちはまだどんな問いを問うべきかすら知らないのではないか——そういったことを純粋に知りたいと思っています。AIはこれらの問いに向き合う助けになるはずです。エイリアンの存在についても、もし宇宙船が他の星系へ到達できるようになれば、私たちは宇宙人と出会うかもしれないし、あるいは数多くの絶滅した文明の遺跡を発見するかもしれない。いずれにせよ、私はただ宇宙で何が起きているのかを知りたいのです。
Larry: 生きている間に自分で火星に行くつもりはありますか。それはかなり長い旅になりますよね。往復で何年もかかるのでは。
Elon: 片道6ヶ月です。ただ惑星の位置関係が合うのは2年に一度しかありません。行くつもりはあります。「火星で死にたいか」とよく聞かれますが、私の答えは「はい、ただし着陸の衝撃で死ぬのはご免です」というものです(笑)。
9. 閉会・まとめ
9-1. Larry Finkの総括とElonの最後のメッセージ——「楽観主義者として間違う方が、悲観主義者として正しいより人生の質は高い」
Larry: 残り時間もわずかになってきましたが、最後に一つだけ。Elon Muskをめぐる神話や誤解は世の中にたくさんあります。しかし私が個人的に知る彼は、素晴らしい友人であり、会うたびに多くのことを学ばせてくれる人物です。彼のやってきたこと、彼という人間、そして彼が描く未来のビジョンに、私は心から刺激を受けています。そしてその未来は、決して悪いものではないと思っています。彼の楽観主義には、私も同意します。Elon、ありがとうございました。最後に何か一言ありますか。
Elon: 皆さんに伝えたいことがあるとすれば、未来に対して楽観的であり、興奮してほしいということです。そして一般論として、人生の質という観点から言えば、楽観主義者として間違える方が、悲観主義者として正しいよりも、実際には良い生き方だと思っています。悲観論が正しかったとしても、それで得られるものはほとんどありません。一方で楽観的に行動することで、たとえ結果が思い通りにならなかったとしても、その過程で多くのものが生まれます。だから私は、根拠のある楽観主義を持ち続けることを皆さんにお勧めしたいと思います。
Larry: 本当にありがとうございました。今日のセッションが皆さんにとって有意義なものであったことを願っています。Elon、ダボスまで来てくれて、改めて感謝します。
Elon: こちらこそ、ありがとうございました。
