※本記事は、国連機関ITU(国際電気通信連合)が主催するグローバルAIプラットフォーム「AI for Good」のウェビナー「GeoAI Education」の内容を基に作成されています。本ウェビナーはUN-GGIM学術ネットワークが企画し、GeoAI教育・訓練の課題と機会をテーマに開催されました。ウェビナーの詳細およびアーカイブ動画はAI for Good公式サイト(https://aiforgood.itu.int/summit23/ )またはYouTubeにてご覧いただけます。
登壇者は以下の通りです。モデレーターを務めたSunye Li氏はトロント・メトロポリタン大学土木工学部ジオマティクス工学教授およびUN-GGIMアカデミックネットワーク副議長。共同モデレーターのMaria Brovelli氏はミラノ工科大学教授およびUN-GGIMアカデミックネットワーク議長。発表者のAli Mansurian氏はスウェーデン・ルンド大学地理・生態系科学部准教授およびルンド大学GISセンター所長。Lukendra Chohan氏はKing Labs Incorporationの創設者およびOGC GeoAI・メタバースドメイン作業部会の共同議長。Ming-Hsiang Tsou氏はサンディエゴ州立大学地理学部教授、Human Dynamics in the Mobile Ageセンター所長、およびビッグデータアナリティクス修士課程プログラム創設ディレクターです。
本記事ではウェビナーの内容を要約・再構成しております。原発表者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りが生じている可能性もありますので、正確な情報や文脈についてはオリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。またAI for Goodのネットワーキングコミュニティプラットフォーム「Neural Network」(https://aiforgood.itu.int/neural-netw... )もあわせてご参照ください。
1. イントロダクション
1.1 AI for Goodプラットフォームとウェビナーの目的
Andrea Manara(ITU): 本日はAI for Goodへようこそ。AI for Goodは、国際電気通信連合(ITU)が40の国連姉妹機関と連携し、スイスと共同で主催する、行動志向のグローバルかつ包括的な国連AIプラットフォームです。AIの実践的な応用を特定し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けてスケールアップすることを目的としています。本日のセッションでは、ライブビデオウォール機能を通じて質問やコメントを投稿していただき、活発な議論の場を作っていただければ幸いです。
本日のセッションは、GeoAI Discoveryシリーズの新しいエピソードとして位置づけられています。このシリーズは2022年初頭に立ち上げられ、GeoAIの応用、政策・倫理、そしてGeo for Goodの未来について議論してきました。気候変動、デジタルツイン、エネルギー、生態系、農業、水・食料システム、保健など多岐にわたるテーマを扱ってきており、過去のエピソードはYouTubeおよびニューラルネットワーク上でご覧いただけます。
Sunye Li(トロント・メトロポリタン大学): 改めて、GeoAI教育ウェビナーへようこそ。本ウェビナーは、国連グローバル地理空間情報管理(UNGGIM)の学術ネットワークが主催するものです。私はトロント・メトロポリタン大学でジオマティクスの教授を務めており、UNGGIMアカデミックネットワークの副議長も兼任しています。本日は、著名なゲストの方々にご登壇いただいています。ミラノ工科大学のMaria Brovelli教授も共同モデレーターとして参加いただいており、彼女はUNGGIMアカデミックネットワークの議長でもあります。
GeoAIは、地理空間情報科学、人工知能、データマイニング、そして高性能コンピューティングを組み合わせ、地理空間ビッグデータから知識を抽出しようとする新興分野です。近年、研究・開発面では大きな進展が見られてきましたが、教育・訓練という側面にはまだ十分な注意が払われてきませんでした。本ウェビナーでは、複数の専門家による発表とパネルディスカッションを通じて、GeoAI教育・訓練の課題と機会を探ります。教育者、雇用者、そしてGeoAIコミュニティの様々なステークホルダーが抱えるニーズや懸念に応えることが、本ウェビナーの目標です。
1.2 GeoAIとは何か——定義・歴史・GIサイエンスにおける位置づけ
Ali Mansurian(ルンド大学): GeoAIの話に入る前に、まずAIそのものの定義を整理しておきたいと思います。インターネットで検索すると様々な定義が出てきますが、それ自体が一つの課題でもあります。私が興味深いと感じた定義が二つあります。一つはWikipediaによるもので、AIを「データや情報から機械が知覚する知性であり、人間や動物が示す知性とは対照的なもの」と説明しています。もう一つはOECDによるもので、「現実あるいは仮想の環境に影響を与えうる予測・推薦・意思決定を行うことのできるシステム」と定義しています。この二つを統合すると、AIとは「周囲の情報から知覚された知性であり、予測・推薦・意思決定のために活用されるもの」と言えるでしょう。
AIは決して新しい概念ではありません。1950年代には単純パーセプトロンモデルとして研究が始まり、1975年頃まで急速に発展しました。しかしその後、政府やベンチャーキャピタルがAIの価値に懐疑的になり資金が途絶えたことで、いわゆる「AIの冬」の時代を迎えました。その後、X-CONやLISPマシンのような専門家システムが登場し、ふたたび注目を集めました。そして現在、インターネット上の膨大なビッグデータを学習に活用できるようになったことで、AIは爆発的な成長期に入っています。AIは第四次産業革命の中核をなす技術であり、この文脈で地理空間データとの統合、すなわちGeoAIを考えることが重要です。
GeoAIとは、地理空間データとAI技術を統合したものです。GIサイエンスの中でAIが活用される領域は非常に広く、GIS・リモートセンシング・空間データインフラ(SDI)の三つを中心に整理することができます。GISでは、複雑な空間的意思決定問題に対して多目的最適化手法を用いたり、機械学習を使って空間統計問題や空間的時系列分析、予測モデルの構築に役立てたりしています。エージェントベースモデルのような可視化シミュレーション技術も、空間的・時間的なダイナミックなプロセスの分析に使われています。リモートセンシングでは、機械学習が衛星画像の分類、物体検出、変化検出に活用されています。SDIの文脈では、地理空間ウェブサービスの自動合成といったソリューション開発に最適化手法や機械学習が応用されています。こうした広範な応用可能性があるからこそ、GeoAIをGI教育の重要なトピックとして位置づける必要があります。
2. GeoAI教育の課題と経験(Ali Mansurian、ルンド大学)
2.1 GIサイエンスにおけるAIの応用領域——GIS・リモートセンシング・SDI
Ali Mansurian: 私が所属するルンド大学GISセンターについて簡単にご紹介します。スウェーデン南部の美しい都市Lundにあるルンド大学は、QSランキングで過去50〜60年にわたってトップ100に位置づけられてきた大学です。私が所属する地理・生態系科学部もQSの地理学分野でトップ25に入っており、GISセンターはその一部として北欧でも有数のGIS研究拠点となっています。センター内ではGIS、リモートセンシング、SDIに関する多様な研究グループが活動しており、私はその中でGeoAIの研究方向を率いています。本発表は、こうした研究・教育の経験に基づいたものです。
GeoAIのコースを設計・実施するにあたって直面した課題を述べる前に、まずGIサイエンスにおけるAIの応用領域を整理しておきたいと思います。大きく三つの領域に分けて考えることができます。
一つ目はGISです。ここでは多目的最適化手法を従来の多属性意思決定手法の代替として用い、複雑な空間的意思決定問題を解くことができます。また、機械学習は空間統計問題の解決、空間的時系列分析、予測モデルの構築に活用されています。エージェントベースモデルに代表されるシミュレーション技術は、空間・時間的なダイナミックプロセスの分析に有効です。二つ目はリモートセンシングです。機械学習は衛星画像の分類、物体検出、変化検出といったタスクに広く使われています。三つ目はSDI(空間データインフラ)であり、特に地理空間ポータルの領域では、最適化手法・機械学習・エージェントベースモデルを組み合わせることで、地理空間ウェブサービスの自動合成ソリューションの開発が可能になっています。こうした応用の広がりを踏まえると、GeoAIをGI教育の重要なトピックとして位置づけることの必要性は明らかです。
2.2 GeoAI教育における7つの課題——アルゴリズムの多様性から学生評価まで
Ali Mansurian: GeoAIのコースを開発しようとすると、その学際的な性質と、地理空間概念とAIアルゴリズムの複雑な相互作用から、様々な課題が生じます。私自身の経験をもとに、特に重要だと考える7つの課題を挙げたいと思います。
第一の課題は、技術・アルゴリズムの多様性です。GeoAIに関連するAI技術とアルゴリズムのリストは非常に長大です。たとえば最適化手法だけを取っても、メタヒューリスティクスという枝があり、その中に単一解探索と集団ベース探索があり、後者の中には進化的アルゴリズムや群知能があり、それぞれにまた多数のアルゴリズムが存在します。機械学習についてChatGPTにリストを生成させると、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、人工ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワークなど、非常に長い一覧が返ってきます。では、GeoAIのカリキュラムにどの技術・アルゴリズムを含めるべきなのか。最適化に重点を置くべきか、予測に重点を置くべきか、地理シミュレーションに重点を置くべきか。各カテゴリの中でどのアルゴリズムを使うべきか。これらは、カリキュラムを設計する際に必ず向き合わなければならない問いです。
第二の課題は、技術的複雑性と学生の多様な専門背景です。GeoAIを学ぶには、地理空間分析の知識、プログラミングスキル、データサイエンスの素養が必要です。しかし、修士課程の学生を例に取ると、物理地理学出身の学生、人文地理学出身の学生、地理情報学・情報学出身の学生、その他の工学系出身の学生が同じ教室に座っています。GeoAIは大規模な地理空間データ、複雑なアルゴリズム、データ処理・機械学習・空間分析のための専門ツールを扱うものです。そのような学生たちが、GeoAIを学ぶために必要なプログラミングやデータサイエンスの基礎知識をすでに持っているかどうか、持っていない場合にどう準備させるか——これが第二の課題です。
第三の課題は、GeoAI専用アルゴリズムの存在と教育上の位置づけです。機械学習をGISアプリケーションに適用する場合、ラスタマップからデータを抽出して機械学習モデルに投入するというアプローチ、つまり空間データを通常の属性データと同様に扱う方法を取ることもできます。しかし地理空間データには「空間的自己相関」という概念があり、近隣データの影響、すなわち空間ラグを考慮する必要があります。これは通常のデータサイエンスでは扱わない地理空間特有の性質です。こうした問題に対応するため、地理的加重ランダムフォレスト、地理的加重人工ニューラルネットワーク、グラフ畳み込みニューラルネットワークなど、GeoAI専用のアルゴリズムが開発されてきています。カリキュラムでは、汎用AIの基礎とこれらのGeoAI専用手法の双方を教える必要がありますが、時間が限られている中でどのようなバランスを取るべきかが問われます。
第四の課題は、能動的学習(Active Learning Teaching、ALT)の実装です。ALTとは、学生を学習の能動的な参加者として関与させる指導戦略のことを指します。Bloomのタキソノミーが示すように、ALT手法を用いると学生はより高次の学習を達成できることが知られています。教室・実験室・個人演習など様々な場面でALT技術を活用できますが、GeoAI教育においてどのALT技術が有効であり、GeoAIの各単元にどう実装するかは、依然として検討すべき課題です。参考として、私が関わったSPIDERプロジェクト——欧州5大学の連携によるオープン空間データインフラ教育プロジェクト——では、SDI教育の各トピックに対して有効なALT技術を整理したツールシートを作成し、ウェブサイトで公開しています。GeoAI教育においても同様のロードマップを作成する必要があると考えています。
第五の課題は、GeoAIの法的・倫理的側面です。現在、AIの法的・倫理的側面を整理しようとする取り組みが技術的活動と並行して進んでいます。欧州委員会によるAI法整備の試みはその典型例です。リスク、信頼対セーフガード、企業がリスクを恐れずにAIを活用するためのインセンティブ、プライバシー、著作権——これらが議論の中心テーマです。GeoAIに関連するものはどれか、またコースの中でこれらの非技術的側面にどれだけの深さで触れるべきか、という問いがあります。さらに私が実際に直面したのは、データプライバシーや著作権の問題がデータ関連コースで扱われるべき内容なのか、それともGeoAI関連コースで扱うべき内容なのかという境界線の問題です。重複を避けつつ必要な内容を確実にカバーするためには、この境界を明確にする必要があります。
第六の課題は、急速な技術進化とカリキュラム更新の問題です。最近のニュースでもAIの急速な発展に対するさまざまな警告が報じられていますが、教育の観点からは、新しいアルゴリズムや技術が次々と生まれることで、コース教材の更新頻度をどう設定するかという問題が生じます。GeoAIコースを開発する場合、更新の頻度はどうあるべきか、どの水準まで更新し、それ以上の内容は学生の自主学習や博士課程・ポスドクレベルの学習に委ねるべきか。私の見解では、GeoAIコースのカリキュラムはしばらくの間は動的に保ち、急速な更新が不要なバランスポイントを見つけるまで試行を続けるべきです。
第七の課題は、学生評価の設計です。理論的知識を評価すべきか、実践的スキルを評価すべきか、あるいはその両方か。評価の形式として、理論試験だけで十分か、そもそも理論試験は必要か——学生は既存のライブラリを使えるのだから、理論を深く知る必要はないのではないか——という問いもあります。理論試験と実技試験の組み合わせが良いのか、理論試験と最終プロジェクトの組み合わせが適切なのか。AIは理論的な側面を持ちながら、実践的スキルにも大きな比重が置かれる分野です。どのように評価を設計し、試験をどう構成するかは、引き続き議論が必要なテーマです。
2.3 ルンド大学でのコース設計の実践——シラバス構成と学生の反応
Ali Mansurian: 以上の課題を踏まえて、ルンド大学のGIS・リモートセンシング修士プログラム向けにGeoAIコースを実際に設計・実施しました。最後のスライドとして、その経験をお伝えしたいと思います。
コース設計にあたっては、これらの課題を念頭に置きながら、理論と実験(ラボワーク)を組み合わせ、能動的学習を部分的に取り入れる構成としました。カリキュラムの具体的な内容としては、まず最適化の領域では単一目的最適化として遺伝的アルゴリズム(GA)に焦点を当て、多目的最適化ではNSGA-IIアルゴリズムを中心に扱いました。機械学習の領域では、回帰・決定木・サポートベクターマシン・人工ニューラルネットワーク・CNNを中心とした深層学習・アンサンブル学習といった手法に絞り込みました。地理空間的加重機械学習については一つのモジュールを設け、基本的な概念を紹介しましたが、詳細な内容までは立ち入ることができませんでした。倫理・SDIについては1コマの講義のみとなっており、十分とは言えませんが一定の示唆を与えるものとしています。また、自習と自己学習を促すセミナーを設け、学生の最終評価の重要な部分を占める大型プロジェクトも組み込みました。
このコース全体は7.5クレジット、すなわち5週間相当の学習量に相当します。これが完璧なカリキュラムだとは言いません。しかし複数の議論と検討の末に、GeoAI教育の様々な側面をカバーできる一つの形として行き着いたものであり、今後もさらに発展させていく予定です。
Maria Brovelli(ミラノ工科大学): Aliのコースにおいて、学生たちはこの新しいGeoAI教育にどんな期待を持っていましたか?そして実際に、コースを終えた後の反応はいかがでしたか?
Ali Mansurian: 非常に良い質問です。先ほど課題として挙げたように、学生の背景の多様性がコース設計に大きく影響します。私の所属する地理・生態系科学部では、受講する学生の大多数が物理地理学を専門としており、プログラミングやデータサイエンスの知識は非常に限られています。こうした学生にとって今回のカリキュラムは非常に興味深いものに映ったようですが、まずプログラミングを学んでからAIアルゴリズムを実装しなければならないという点でかなりの負担を感じたようです。それでも最終的には、多くのことを学べたという満足感を持ってくれていました。一方、工学系学部から来た少数の学生は、プログラミングの素養がすでにあるため、コースのワークロードは適切であり、さらに学びたいという意欲を示していました。今年初めて実施したコースですので、統計的に十分な母数があるとは言えませんが、全体的な印象としては学生に好意的に受け止められたコースだったと感じています。
Maria Brovelli: 限られた時間の中で、どのトピックを優先的に教えることにしたのですか?
Ali Mansurian: 最適化・機械学習・地理シミュレーションという三つのカテゴリで整理すると、今回は最適化についてはGAとNSGA-IIのみに絞り込みました。機械学習はこれだけ注目されている分野ですので、最も重点を置きました。地理シミュレーションについては、ワークロードが過大になることを懸念してこの回のコースからは除外しました。実際、評価の段階でもその判断は正しかったと確認できました。アルゴリズムの選定においては、GIコミュニティで広く使われている手法——人工ニューラルネットワーク、CNNを中心とした深層学習、ランダムフォレスト等——を基準としました。さらに、これらの技術を学ぶための前提条件となる科目も一部カリキュラムに組み込みました。ただし、これらの技術的内容を詰め込むと、倫理や法的側面を扱う時間がほとんど残りません。今回は1コマの講義しか充てられなかったことは反省点であり、十分ではないと認識していますが、ある程度の示唆は与えられたと思っています。
3. GeoAIとAIの差異と類似——産業界の訓練ニーズへの含意(Lukendra Chohan、King Labs)
3.1 地理空間データの固有の特性とAIへの統合の必然性
Lukendra Chohan: 私はミネアポリスを拠点とする起業家であり、GeoAIのアルゴリズムを学術研究から産業界の実践へと橋渡しすることに取り組んでいます。Aliの発表が非常に深みのある内容だったのに対して、私の発表はより浅い視点からのものになりますが、産業界の立場から補足できることをお伝えしたいと思います。
まずAIの基本的なパラダイムの転換から話を始めます。従来のソフトウェアシステムは、データに対してどう処理するかというルールを人間がコードとして明示的に記述するものでした。一方、現代の機械学習システムは根本的に異なります。ルールを直接コードするのではなく、入力データと対応する答え(ラベルなど)を両方与え、機械自身がそこからルールやモデルを学習するというパラダイムです。地理空間データが爆発的に増加している今日、すべての事象に対してルールを手作りし続けることはもはや不可能であり、だからこそAIの役割がますます重要になっています。
AIの価値をわかりやすく示す例を一つ挙げましょう。二枚の画像の間の違いを見つけるという作業は、人間が一枚ずつ対処すれば容易にできます。しかし、これが数百万枚の画像になったとしたらどうでしょうか。AIはいったん正しい違いを識別するよう訓練されれば、そのすべてを自動的かつ高速に処理できます。これがAIの本質的な約束です。
では、なぜ地理空間的な視点がAIに不可欠なのでしょうか。知性とは脳だけに宿るものではありません。たとえば非常に熱いものに触れたとき、脳から信号が届く前に手を引っ込める——これは反射という形で身体全体に埋め込まれた知性の働きです。感覚器官と周囲の環境が知性に大きな役割を果たしているのです。私たちは空間的な環境との相互作用を通じて学習しています。これこそが地理空間的な視点を意味するものであり、現在の多くのAIアルゴリズムにはこの視点が欠けています。GeoAIはその欠落を埋めようとするものです。
地理空間データには他のデータとは異なる固有の特性があります。まず空間的自己相関の問題があります。Toblの第一法則が示すように、空間上の要素や文化的構造物は突然変化するのではなく、近いものほど互いに関連しています。これは空間・時間における連続性を保証するものです。多くの機械学習アルゴリズムはデータが独立かつ同一に分布している(IID)という前提に基づいていますが、地理空間データはこの前提を満たしません。したがって、空間的自己相関を明示的に考慮する必要があります。
地図と投影の問題も重要です。地図は目的に応じた投影を必要とします。方位を保持したければある投影を、面積を保持したければ別の投影を、距離を保持したければまた別の投影を使う必要があります。GISのような技術はこれらの変換を容易に行えますが、一般的なAIアルゴリズムはこうした空間的な意味を理解していません。
その具体的な例として、Google Mapsに「ジュネーブとスイスの距離は?」と尋ねると、ジュネーブはスイス国内にあるにもかかわらず、システムは二つの重心間の距離として数値を返してしまいます。同様に「フランスとドイツの距離は?」という問いに対しても、二国の重心間の距離として答えが返ってきます。これらは地理的に意味をなさない問いですが、現在のAIアルゴリズムはこのような空間的な文脈を理解できていないことを示しています。GeoAIはまさにこの「空間的な感覚」をAIアルゴリズムに持たせることを目指しています。
コンピュータビジョンとリモートセンシングの差異も見逃せません。コンピュータビジョンは可視光のスペクトルのみに着目しますが、地理空間の領域では電磁波スペクトル全体を活用してきた長い歴史があります。アルゴリズムは可視光帯域だけでなく全スペクトルを活用できるよう構築・訓練される必要があります。
さらに、衛星画像に見られる領域一貫性(Region Consistency)という重要な特性があります。農地や樹木などの要素を画像内で移動させても画像の意味はほとんど変わりませんが、人間の顔画像では鼻を目の位置に、目を耳の位置に移動させると全く別のものになってしまいます。この地理空間データに特有の領域一貫性は、データをグラフネットワークとしてモデル化する際にも有用な性質です。
空間データを扱う際に生じる具体的な技術的問題も挙げておきましょう。近接性や面積に基づいて空間データをソートしようとすると、緯度・経度による単純なソートができないという問題があります。また、ある点がポリゴン(たとえば国)の境界内にあるかどうかを判定するクエリは、通常のデータには存在しない地理空間特有のものです。因果関係は時間の方向に沿って成立するため、空間時系列データを扱う際には前後を自由に入れ替えることができません。こうした制約すべてが、地理空間データサイエンスにおいて専用の手法が必要とされる理由です。
3.2 GeoAI専用手法と産業界調査から見えるスキルギャップ
Lukendra Chohan: 地理空間データの特性に対応するため、専用の手法が開発されてきています。空間的自己相関への対応として、線形回帰の代わりに空間自己回帰を用いること、CNNが近接性を捉えるのに優れているため地理空間データでも有効であることはよく知られています。しかし空間的自己相関だけでなく、空間的異質性——近いものは似ているが完全に同じではないという性質——にも対応する必要があります。この異質性に対応するために地理的加重回帰(Geographically Weighted Regression)が開発されてきました。
私が特に紹介したいのがSVANN(Spatially Variable Artificial Neural Network)という手法です。基本的なアイデアは、回帰モデルにあるベータとイプシロンという係数を位置依存にするというものです。地理的加重回帰がそうであるように、異なる位置に対して異なる重みを付与し、それをニューラルネットワークに投入することで新しい手法が生まれます。私たちが実際にこの手法を試したところ、非常に良い結果が得られました。このように、地理空間データの特性を考慮した専用手法を研究・活用することが、GeoAIの本質的な部分です。
次に、OGC(Open Geospatial Consortium)のGeoAIドメイン作業部会で実施している産業界調査の初期結果をご紹介します。この調査はまだ進行中であり、昨日時点での初期結果に基づいていますので、今後結果が変わる可能性がある点はご了承ください。調査の目的は、民間セクターがGeoAIの観点から何を必要としているか、どのようなスキルを求めているかを把握することです。
GeoAI人材の確保については、43%の回答者が「優秀な人材を見つけるのが難しい」と感じています。これは産業界にとって深刻な課題であり、一方で従業員のアップスキリングによって対応できると考えている企業もあります。学術界は、企業が新卒採用だけでなく既存社員の再教育という形でGeoAI人材の確保を図っていることを認識する必要があります。
GeoAI系学位とCS系学位の優位性については、どちらの学位を持つ人材がより適切かという問いに対して、回答がほぼ50対50に分かれました。つまり産業界はGeoAI系とCS系の学位を同等に評価しており、どちらか一方が優れているという明確な答えは出ていません。
大学卒業生の現状スキルについては、GeoAI関連プロジェクトに即戦力として対応できる卒業生を輩出できているかという問いに対して、大多数が「できていない」と回答しました。この結果は、Aliが取り組んでいるGeoAIカリキュラムの開発、そして今回のウェビナーや後続のイベントが目指している方向性の正しさを裏付けるものです。産業界のニーズに応えられるカリキュラムを開発し、確実に実装することが急務です。
GeoAI人材・能力の不足については、すべての回答者が「十分な人材・能力が社内にない」と回答しており、これは完全なコンセンサスと言えます。ただし、アップスキリングに自信があると答えた企業もあれば、それさえも難しいと感じている企業もあり、状況は様々です。
またほぼすべての回答者が、GeoAI研究の最新動向を継続的に把握したいという強い意向を示しており、GeoAIのハブやリソースを設けてほしいという要望が87%の回答者から上がっています。その他の提案としては、ジャストインタイム型のオンライントレーニングリソース、ソーシャルメディアを活用したナレッジマネジメントリポジトリ、そしてGeoAIの標準化グループの設置といったものが挙がっています。標準化グループについてはOGCに既に存在していますが、コミュニティ全体からそのニーズが認識されているという点は重要です。
3.3 GeoAI教育カリキュラムに求められるスキルセットと今後の展望
Lukendra Chohan: 調査結果を踏まえて、GeoAI教育カリキュラムに盛り込むべきスキルを整理してみます。
まず倫理・安全の領域です。Aliが詳しく取り上げていましたが、私からは高い視点での整理をお伝えします。地理データには固有のバイアスが存在します。たとえば途上国は先進国に比べてデータが大幅に少なく、データの不平等が生じています。スケールの問題、つまり異なる解像度・縮尺のデータが混在することも課題です。また、どの問題を解決対象として選ぶかという問題設定自体にも、問題を選ぶ人々が住む地域や背景に起因するバイアスが入り込む可能性があります。データプライバシーについては、モデルがデータを学習しているがデータ自体は保持していないケースでの境界線の問題や、同意、自己決定権、補完性原則(データガバナンスはそれが最も合理的な最低レベルで行われるべき)などの概念を理解することが重要です。
次に計算スキルです。プログラミング言語などの基礎的な計算能力は不可欠です。さらに、産業界の視点からは現在ほとんどの実務がクラウド上に移行していることを強調したいと思います。クラウド環境でのAPI開発、コンテナの活用方法、クラウドネイティブな変更管理の手法を習得することは、今や基礎的スキルの一部として位置づける必要があります。これは純粋に研究・学術の観点でカリキュラムを設計しているとなかなか見えてこない視点ですが、産業界への即戦力という観点では非常に重要です。
地理空間科学の知識とAIの知識はもちろんのこと、特に強調したいのがドメイン知識の統合です。これはデータの選定、モデルの設計、そして損失関数の設計において重要です。私たちが実際に経験した例として、土壌の炭素量計測のアプリケーションがあります。このケースでは、物理システムの性質、具体的には質量保存の法則をモデルの損失関数に組み込みました。その結果、純粋にデータのみから学習させた場合と比べてはるかに良い結果が得られました。ドメイン知識を機械学習モデルの設計に活かす能力は、GeoAI教育において欠かせない要素です。
Maria Brovelli: LLM(大規模言語モデル)、たとえばGPTのようなシステムがGeoAIのタスクをどの程度こなせるようになっているかについても触れていただけますか?
Lukendra Chohan: はい、これは重要な観点です。GPT等のLLMは、地名認識(Location Mention Recognition)などのタスクにおいて、タスク特化型のモデルをすでに凌駕するパフォーマンスを示しています。しかし、地理的な質問応答やジオパーシング(地名の地理的解析)といったより複雑なクエリに対しては、まだ十分な性能を発揮できていません。ただし、それが今後も変わらないと仮定するのは誤りでしょう。もしLLMがこれらの複雑なタスクもこなせるようになれば、ほぼ誰もがGeoAIを活用でき、自然言語インターフェースを通じてGeoアルゴリズムを開発できるようになります。その前提に立てば、カリキュラムの設計はどうあるべきか——この問いに対する答えを今から考えておく必要があります。Aliが述べていたように、技術の変化のスピードが非常に速い以上、特定のアルゴリズムやツールの習得だけに特化した教育では不十分です。学生が自ら学び続ける能力を身につけること、そして技術的な変化の文脈を理解する力を育てることが、カリキュラム設計の根本に据えられるべきです。
Maria Brovelli: OGCのGeoAI作業部会では、標準化やベンチマーキングに関してどのような活動をしていますか?また教育との接点はあるのでしょうか?
Lukendra Chohan: OGCのGeoAIドメイン作業部会では主に、実際にGeoAI問題に取り組んでいる人々や、GeoAIを問題解決に活用している人々から幅広く意見を収集し、彼らが直面している課題を把握することに力を入れています。その課題を通じて、どのような標準が必要かを特定するというアプローチです。ベンチマーク用データセットの整備については、OGCのマンデートではないものの、コミュニティから強い関心が寄せられており重要なニーズとして認識されています。標準化の方向性としては、データのラベリング方法、メタデータ管理、異なるGeoAIアルゴリズム間の相互運用性確保のための標準化が議論されています。現在、GeoAI標準のロードマップを記した短い論文を数か月以内に公開し、コミュニティからのフィードバックを求める予定です。また、ジオデータキューブへの注目も高まっており、OGCはこの分野にも力を入れています。さらに、アカデミアがカリキュラムを設計する際に意識してほしい点として、クラウド関連のスキルに加えて、「学ぶことを学ぶ(Learn to Teach)」というパラダイムも重要です。Mingが述べているように、学生自身が新しいことを学ぶ方法を習得することがトレーニングの一部となるべきです。また産業界では、人々が協働して問題を解決し、その過程で評価も共に受けます。しかし学術界では、協働はしばしば不正行為とみなされ、個人評価が中心です。学術の評価制度と産業界の実態の乖離をどう埋めるかは、カリキュラム設計において真剣に考えるべき課題です。
4. ビッグデータ・メタバースとGeoAIの統合——動的3D/4D GIS教育(Ming-Hsiang Tsou、サンディエゴ州立大学)
4.1 GeoAIの範囲とソーシャルメディア・人流データへの応用
Ming-Hsiang Tsou: 皆さん、おはようございます。カリフォルニア州サンディエゴから参加しており、こちらはまだ朝7時頃です。本日は、GeoAIのアプリケーション的側面、特にビッグデータとメタバースを絡めたGIS教育への応用に焦点を当ててお話しします。
まず私が約9年前に設立したHuman Dynamics in the Mobile Age(モバイル時代における人間ダイナミクス)センターについてご紹介します。このセンターのコンセプトは、ビッグデータ・人間ダイナミクス・ソーシャルウェブを組み合わせた学際的・超学際的研究を行い、学術的なイノベーションを通じて疾病の発生、健康格差、災害避難といった現実世界の問題を解決することです。公衆衛生、地理学、土木工学、コンピュータサイエンス、言語学、ソーシャルワーク、社会学など、非常に多様な分野の教員が集結しています。また約4年前には、GIサイエンスとビッグデータを融合させたビッグデータアナリティクスの修士課程プログラムをサンディエゴ州立大学に新設しており、機械学習とAIはこのプログラムの主要なカリキュラムの一つとなっています。
GeoAIの範囲についてお話しする前に、AlとLukendraの発表でも触れられたAI・機械学習・深層学習の関係を改めて整理しておきます。AIが最も大きな概念であり、その下に機械学習があり、深層学習は機械学習の中でニューラルネットワークに特化した新しい発展領域です。この構造をGIサイエンスに当てはめると、私たちGIS専門家はすでに20年から30年前からGeoAIを実践してきたと言えます。GeoAIは決して新しいものではなく、今日のAIアルゴリズムの普及に伴い、これまでの研究を「GeoAI」という言葉で再ラベリングしているという側面があります。
GeoAIの範囲は非常に広く、GIサイエンスにおける既存の研究の多くを包含しています。シミュレーション・予測モデル・エージェントベースモデルはもちろん、空間的な専門用語に特化した自然言語処理(NLP)、空間的意思決定支援システムも含まれます。地理空間的機械学習の領域では、地理的加重回帰モデル、サポートベクターマシン、ホットスポット分析に使われるGetis-Gアルゴリズムなど、すでに多くの手法がGeoAIの一部として位置づけられます。これらは教師あり・教師なしの地理空間的機械学習として分類することができます。さらに最近では、地理空間的深層学習アルゴリズムも多くのGISアプリケーションで利用可能になっています。
ソーシャルメディアとGeoAIの統合は、私が特に注力している領域です。TwitterやWeibなどのソーシャルメディアデータを地理空間情報と組み合わせることで、大気汚染、災害対応、パンデミック予測など多様な問題を分析できます。具体的な応用例として、クレジットカードのセキュリティシステムがあります。銀行や金融会社はすでにクレジットカードの利用履歴を活用したセキュリティシステムを運用しており、異なる国で同時にカードが使用されるとアラートが発動します。これはGeoAIを使って利用者の位置情報を主要な変数として不正を検知する仕組みです。またソーシャルメディア上でのボットによるフェイクニュースや過剰な広告の発信源を位置情報に基づいて特定することも、GeoAI技術の重要な応用です。さらに、災害対応時にソーシャルメディア上に投稿されるさまざまなメッセージを地理空間的に分析することで、被害状況の把握や支援の最適化に貢献できます。
人流モデリングもGeoAIの重要な応用領域です。都市内や都市間での人の移動をどのように予測するかという問いに対して、エージェントベースモデルとGeoAIを組み合わせることで、現実に近いシミュレーションが可能になります。特にCOVID-19パンデミック以降、この分野への注目は急速に高まっています。
4.2 COVID-19パンデミック対応におけるGeoAIの実践
Ming-Hsiang Tsou: COVID-19パンデミックへのGeoAIの応用は、この技術の実践的な価値を示す最も説得力のある事例の一つです。私たちがサンディエゴで実施した研究をもとに、具体的にどのようにGeoAIを活用したかをお伝えします。
まず取り組んだのは、COVID-19感染のホットスポット分析です。GeoAIを用いてサンディエゴ郡内の感染集中地域を特定した結果、感染者の大多数がサンディエゴ南部のヒスパニック系コミュニティが居住する地域に集中していることが明らかになりました。この地理的な知見は、限られた医療資源や介入措置をどこに集中すべきかを判断する上で直接的に役立ちました。
次に、感染率に影響を与える社会的変数の特定に取り組みました。GeoAIと回帰モデルを組み合わせ、「社会的健康決定要因」と呼ばれる社会的変数が感染率に与える影響を分析しました。その結果、低所得、低教育水準、マイノリティであるという属性を持つグループは、一般人口と比較してCOVID-19に感染するリスクが最大3倍高いことが明らかになりました。この知見はサンディエゴ郡の行政担当者に提供され、公衆衛生政策の立案に活用されました。
さらにソーシャルメディア分析を通じて、マスク着用をはじめとする公衆衛生上の介入政策に対する市民の反応を把握しました。人々がどのような意見を持ち、政策に対してどのような態度を示しているかをリアルタイムで分析することで、介入政策の効果をフィードバックとして行政に提供することが可能となりました。このように、公衆衛生介入に対する市民の反応を地理空間的に把握することは、政策決定において非常に重要な情報源となります。
最後に、人流データを活用したパンデミック拡大シミュレーションモデルの構築に取り組みました。人々がどのように異なる地区・都市間を移動するかというデータをGeoAIに投入し、COVID-19が都市間でどのように拡大するかをシミュレーションしました。このモデルは、感染拡大の予測だけでなく、移動制限などの介入措置の効果を事前に評価するためにも活用できます。これらの応用事例は、GeoAIが単なる学術的な研究テーマにとどまらず、現実の社会課題に対して具体的な価値をもたらせることを示しています。
4.3 メタバース・VRとGeoAIの教育統合——サンディエゴでの実証事例
Ming-Hsiang Tsou: 次に、私が最近取り組んでいるメタバースとVRをGeoAIおよびGIS教育に統合する試みについてお話しします。
約4年前から、GIS教育のためのバーチャルリアリティ(VR)環境の構築に取り組んできました。特に注目したのは、低コストで実現できるVRアプリケーションの開発です。Google Cloudのモデルを活用し、Unityという非常に普及している3Dゲームエンジンと、BlenderおよびGISを組み合わせることで、実際の地理情報に基づいた3D仮想世界を構築しました。建物の3D構造はGoogleマップとその周辺の3Dデータを元にしており、現実のサンディエゴの地理的環境を忠実に再現しています。
この技術を応用したプロジェクトとして、サンディエゴの小学生を対象とした「通学路安全教育」VRゲームを開発し、実際の小学校で実証しました。特に社会的脆弱性の高いコミュニティの児童を対象として、家から学校までの通学路における安全について学ぶことを目的としています。ゲームの中では、プレイヤーが仮想の街を歩きながら、歩行者と車両の間のインタラクションを体験します。AIは歩行者と車両それぞれの行動ルールを定義し、さらに既存のルールを予測・学習する役割を担っています。地図上でのナビゲーション、信号の色の変化への対応、ランドマークへの到達といった要素がゲームに組み込まれており、児童が実際のVRヘッドセットを装着して楽しみながら安全について学べる仕組みになっています。この実証実験では、対象校の児童たちが非常に楽しんで取り組む様子が確認されました。
このVRゲームの開発プロセスは決して単純ではなく、Unity、Blender、GIS、Google Cloudなど複数のツールを組み合わせる高度な技術的作業を必要としました。アバターやオブジェクト——車両、雨滴、気象現象など——の定義にはAIが活用されており、GISシミュレーションの中でこれらがどのように動作・相互作用するかをAIが決定します。この実証事例が示しているのは、メタバースとVRがGeoAI教育に新たな可能性をもたらすということです。3Dおよび4Dのアプリケーション環境において、気象シミュレーションをはじめとした様々な地理的プロセスをリアルタイムで可視化・体験できるようになります。
さらに将来的な展望として、GISアプリケーションをあらゆる最先端技術を統合するコンテナとして活用する構想があります。VR・ブロックチェーン・AIなどの技術をGISアプリケーションという枠組みの中で統合し、より高度なアプリケーションを構築することが可能になると考えています。また、GISモデルビルダーのように多くのGISアルゴリズムを組み合わせて問題を解く場合、将来的にはAIが自動的に最適なGISアルゴリズムの組み合わせを選択してくれるようになるでしょう。たとえば「次の建設地のサイト選定に最適なアルゴリズムを見つけてほしい」とAIに依頼すれば、AIが様々な手法——オーバーレイ、セレクション等——を自動的に組み合わせて最善の解を導き出すというシナリオが現実になりつつあります。
4.4 GeoAI教育の方針——批判的思考・自己学習能力・学際協働
Ming-Hsiang Tsou: GeoAI教育において最も重要だと考えることをお伝えします。GeoAI技術は非常に速いスピードで変化し続けています。私たちが教育者として学生に教えられることには限界があります。では何を教えるべきか。技術やスキルそのものに加えて、それと同等かそれ以上に重要なのが、学生が自ら新しいことを学ぶ能力を身につけることだと私は考えています。
自己学習技術の育成という観点から、私のコースでは学期の最初の2〜3回のラボ演習を、YouTubeチャンネルや潜在的なオンライン学習リソースをリスト化し、学生自身がそれらの教材を探索するという内容に充てています。これは単に技術を教えるだけでなく、技術を自ら学ぶ方法を教えるということです。新しい技術は6か月ごとに登場します。教室ですべてを教えることは不可能ですから、学生が卒業後も継続的に自己学習できる能力を持つことが不可欠です。
Maria Brovelli: 批判的思考を教えることの重要性についても触れていただいていましたが、具体的にどのような方法で実践されているのでしょうか?
Ming-Hsiang Tsou: 批判的思考は確かに非常に重要です。ほとんどのツールを使えば必ず地図や数値として何らかの結果が出力されます。しかし学生はその結果を批判的に評価できなければなりません。私のコースでは、毎回の中間試験は理論と基礎的な概念に焦点を当てていますが、すべてのコースに学期末の最終プロジェクトを設けています。2〜3名のグループで取り組むチームプロジェクトであり、学期末にプレゼンテーションを行い、その発表に対して私と学生が協働して批判的な評価を行います。特に強調しているのは、非常に多くのアルゴリズムやモデルがある中で、適切な問題に対して適切なモデルを選ぶことが学生の責任であるという点です。同じ問題を2〜3種類のアルゴリズムで解かせ、そのうちの一つか二つしか適切でなく、残りは不適切であるという状況を意図的に作ることもあります。卒業後の学生が、誤ったツールで誤った問いに答えてしまうという問題を多く見てきたからこそ、この訓練は非常に重要だと考えています。
Maria Brovelli: GIS教育者として単独で取り組むことの限界についても言及されていましたが、学際的な協働の必要性をどのようにお考えですか?
Ming-Hsiang Tsou: GIS科学者・GIS教育者として、私たちはAI技術に関する包括的な知識を単独で持つことはできません。AIは非常に速いスピードで変化しており、コンピュータサイエンス、グラフィックデザイン、データサイエンスなど他分野の専門家との協働なしに、より良いGeoAI教育カリキュラムおよびGeoAIアプリケーションを開発することは困難です。またGISアプリケーションの空間的自己相関や空間的異質性といった固有の特性は非常にユニークであり、これらをあらゆる先端技術を統合するための「接着剤」として活用することが重要です。GISアプリケーションをコンテナとして、VR・ブロックチェーン・AIといった技術を統合していく視点が、GeoAI教育にも求められます。
最後に教育者としての推奨事項をまとめると、GeoAI技術の変化の速さを所与として、技術・スキルの習得とともに批判的思考の育成をバランスよく行うことが最重要課題です。AIの結果を誤用・誤解釈するリスクを学生が自ら識別できるようにすること、そして自己学習能力を教育の中に意図的に組み込むことが、GeoAI教育の根幹をなすべき方針であると考えています。
5. パネルディスカッションと今後の展開
5.1 教育実践の共有——コース設計・トピック選定・学生評価をめぐる議論
Maria Brovelli: 発表者の皆さん、大変興味深い発表をありがとうございました。ここからはパネルディスカッションに移りたいと思います。まず私からUNGGIMアカデミックネットワークが実施しているアンケート調査へのご協力をお願いしたいと思います。各大学が現在GeoAIについて何をしているかを概観し、今後シラバスや体系的な知識体系(Body of Knowledge)を構築していくための基礎資料とすることを目的としています。ぜひご回答いただき、広くご周知いただければ幸いです。
では最初の質問をAliにお願いします。先ほどのご発表でルンド大学でのGeoAIコースについてお聞きしましたが、学生たちはこの新しい教育に対してどのような期待を持っていましたか?そして実際にコースを終えた後の反応はいかがでしたか?
Ali Mansurian: 先ほども触れましたが、私の所属する地理・生態系科学部では受講学生の大多数が物理地理学を専門としており、プログラミングやデータサイエンスの知識は非常に限られています。そのような学生にとって今回のカリキュラムは非常に興味深いものに映ったようですが、まずプログラミングを習得してからAIアルゴリズムを実装しなければならないという点でかなりの負担を感じていました。それでも最終的には多くのことを学べたという満足感を持ってくれていました。一方、工学系学部からの少数の学生はプログラミングの素養がすでにあるため、ワークロードは適切であり、さらに学びたいという意欲を示していました。今年初めて実施したコースですので統計的に十分な母数とは言えませんが、全体的な印象としては学生に好意的に受け止められたと感じています。
Maria Brovelli: ありがとうございます。私自身は今までGeoAIに関してほんのわずかな時間しか割けていませんでしたが、来年度は学生向けに何か提案したいと考えています。Mingにも同じ質問をさせてください。学生への教育経験の中で、最も重要だと思うトピックは何でしょうか。もし20時間しかGeoAIを教える時間がないとしたら、何を優先しますか?
Ming-Hsiang Tsou: ビッグデータアナリティクスのプログラムでは機械学習とビッグデータアナリティクスをすでに多く取り入れています。20時間という制約の中で何を教えるかという問いに対して、私が最も重要だと考えるのはアルゴリズムや技術そのものだけではなく、新しいことを自ら学ぶ方法を教えることです。今日では多くの人がYouTubeやソーシャルメディア、オンライン学習ツールを活用して新しい技術を習得しています。私のコースでは学期の最初の2〜3回のラボ演習を、潜在的なオンラインリソースやYouTubeチャンネルを自ら探索することに充てています。技術を教えるだけでなく、技術を自ら学ぶ方法を教えるという視点が非常に重要です。新しい技術は6か月ごとに登場しますから、すべてを教室で網羅することは不可能です。
Maria Brovelli: 批判的思考を教えることの重要性についても触れていただいていましたね。具体的にどのような方法で実践されているのでしょうか?
Ming-Hsiang Tsou: 私のコースでは中間試験を理論と基礎概念の確認に使いつつ、すべてのコースに学期末のグループ最終プロジェクトを設けています。2〜3名のグループで取り組み、学期末にプレゼンテーションを行い、その内容に対して協働で批判的な評価を行います。特に強調しているのは、数多くのアルゴリズムやモデルの中から適切な問題に対して適切なモデルを選ぶことが学生自身の責任であるという点です。同じ問題に対して2〜3種類のアルゴリズムを試させ、そのうち一つか二つしか適切でないという状況を意図的に作ることもあります。卒業後に誤ったツールで誤った問いに答えてしまう事例を多く見てきたからこそ、この訓練の重要性を強く感じています。
Maria Brovelli: Aliにも改めて確認させてください。限られた時間の中でトピックの優先順位をどのように決めましたか?
Ali Mansurian: 最適化・機械学習・地理シミュレーションという三つのカテゴリで整理すると、まず機械学習が最も注目されている分野ですので、ここに最も力を入れました。最適化については完全に無視することはできません。たとえばGISにおけるサイト選定はすべて最適化に基づいていますが、GAとNSGA-IIのみに絞り込みました。地理シミュレーションについては、ワークロードが過大になることを懸念して今回は除外しました。評価の段階でもその判断は正しかったと確認できました。アルゴリズムの選定においては、GIコミュニティで広く使われているもの——人工ニューラルネットワーク、CNNを中心とした深層学習、ランダムフォレスト等——を基準としました。ただし、これらの技術的内容を詰め込むと倫理や法的側面を扱う時間がほとんど残りません。今回は1コマの講義しか充てられなかったことは反省点ですが、一定の示唆は与えられたと考えています。
5.2 標準化・コミュニティ形成・GeoAIシラバスの体系化に向けて
Maria Brovelli: LukendraはOGCのGeospatial AI作業部会の共同議長を務めていますね。標準化やベンチマーキングについて何に取り組んでいるか、また教育との接点についてお聞かせください。
Lukendra Chohan: OGCのGeoAIドメイン作業部会では主に、実際にGeoAI問題に取り組んでいる人々や、GeoAIを問題解決に活用している人々から幅広く意見を収集し、彼らが直面している課題を把握することに力を入れています。その課題を通じてどのような標準が必要かを特定するアプローチです。ベンチマーク用データセットの整備はOGCのマンデートではありませんが、コミュニティから強い関心が寄せられており重要なニーズとして認識されています。データのラベリング方法、メタデータ管理、異なるGeoAIアルゴリズム間の相互運用性確保のための標準化が議論されており、GeoAI標準のロードマップをまとめた短い論文を数か月以内に公開してコミュニティからのフィードバックを求める予定です。
教育との接点という観点では、アカデミアがカリキュラムを設計する際にクラウド関連スキルをより重視してほしいと思っています。産業界ではほとんどの実務がクラウド上に移行していますので、クラウド環境でのAPI開発、コンテナの活用、クラウドネイティブな変更管理の手法は今や基礎的スキルです。また、産業界では人々が協働して問題を解決し評価も共同で受けますが、学術界では協働がしばしば不正行為とみなされ個人評価が中心です。学術の評価制度と産業界の実態のこの乖離をどう埋めるかは、カリキュラム設計において真剣に考えるべき課題です。
Maria Brovelli: それは非常に鋭い指摘ですね。実際に私のコースでは国際的な学生が一緒に取り組む形式を取り入れており、多様な出身・背景を持つ学生が協働することで経験をより豊かにしています。この点は重要な示唆として受け止めています。ではCOVID-19のGeoAI応用についての質問が来ていますので、Mingに答えていただけますか?
Ming-Hsiang Tsou: GeoAIをCOVID-19対応に活用した研究についてはすでに発表の中でお伝えしましたが、改めて整理しますと、まずホットスポット分析によってサンディエゴ南部のヒスパニック系コミュニティへの感染集中を特定しました。次に社会的健康決定要因と感染率の関係を回帰モデルで分析し、低所得・低教育水準・マイノリティ属性を持つグループは一般人口の最大3倍のリスクがあることを明らかにしました。ソーシャルメディア分析ではマスク着用などの公衆衛生介入に対する市民の反応をリアルタイムで把握し、その情報をサンディエゴ郡の行政担当者に提供しました。さらに人流データを活用した都市間感染拡大シミュレーションモデルも構築しており、人々が異なる地区・都市間をどのように移動するかに基づいて感染拡大を予測することが可能です。これらはGeoAIが現実の社会課題に具体的な価値をもたらせることを示す好例です。
Sunye Li: ここで各発表者にまとめの一言をお願いしたいと思います。GeoAIに特化したシラバスやBody of Knowledgeを構築することの重要性についてどうお考えですか?Aliから始めてください。
Ali Mansurian: GeoAIというトピックの重要性は疑う余地がありません。衛星画像からクラウドソーシングデータ、ソーシャルメディアまで、大量の地理空間データが存在しており、それをAI技術で分析して新たな知識を生み出す能力が求められています。そのためには次世代の専門家を育成する必要があり、GeoAI教育は不可欠です。しかし良いGeoAIプログラムやコースをどう設計するかについてはまだ多くの議論が必要です。現在の学生はまだGeoAIとは何か、どのように実践で活用できるかを十分に理解していません。このトピックは非常に複雑で急速に進化していますので、個人で対処するのは難しく、協働が必要です。GIS専門家とAI専門家が連携することも不可欠です。
Ming-Hsiang Tsou: Aliの意見に全面的に賛成です。協働は絶対に必要です。加えて、オンラインリソースや共有ポータルの整備も重要だと思います。包括的な学習モジュールや教科書を一から作る必要はありません。各大学がGeoAIを含むGISの授業でどのようなカリキュラムやラボ演習を使っているかを共有するだけでも素晴らしいリソースになります。アイデアを交換し互いに参照できるポータルやハブを作ることが、コミュニティ全体の底上げにつながります。
Lukendra Chohan: 全員が述べたように協働による取り組みは非常に重要です。一点付け加えるとすれば、作成するコンテンツを静的なものとして捉えるのではなく、分野自体が急速に進化していることを踏まえ、コミュニティとして継続的に最新の研究動向を共有し続ける仕組みを設けることが重要です。Mingが言及したGeoAIハブのようなものが、単なるカリキュラムリポジトリにとどまらず、最新の研究動向や実践事例を継続的に発信するコミュニティプラットフォームとして機能することが理想的です。アンケート調査の結果でも、人々は最新の研究動向を常に把握したいというニーズを持っていることが示されており、この点はカリキュラムの中核リソースと同様に重要な要素です。
Maria Brovelli: 皆さんのご意見を聞いて、今回のウェビナーを単なる一回限りのイベントとして終わらせることなく、GeoAI教育に関する取り組みを継続的に発展させていきたいという思いを強くしました。学生たちも期待を持っており、彼らのキャリアと未来のために、そして持続可能な開発目標の達成という観点からも、この取り組みを持続可能な形で前進させることが重要です。
Sunye Li: Mariaの言葉に同意します。今回のウェビナーは本当に充実した内容でした。特にMingには早朝から参加していただき、心から感謝申し上げます。すべての発表者とご参加いただいた皆様に御礼を申し上げます。
Andrea Manara(ITU): 発表者の皆さん、そしてご参加いただいた聴衆の皆さんに心より感謝申し上げます。今回のウェビナーは非常に充実した内容でした。次のステップとして、7月5日にGeoAIワークショップを開催します。これはAI for Goodグローバルサミットの前日にあたります。Mariaのリーダーシップのもと、アカデミア・民間セクター・国連などすべてのステークホルダーが参加し、地理空間AIの基盤を構築するための議論を行います。GeoAIのシラバスとBody of Knowledgeの定義、コース設計における期待の明確化と計画支援、そして地理空間データのこの新興分野における重要性と関連性の提示といったテーマが中心となります。ワークショップへの参加登録リンクをチャットに掲載していますので、ぜひご登録ください。
