※本記事は、アイルランド政府(企業・観光・雇用省)がEU理事会議長国の行事としてRoyal Dublin Society(RDS)で開催したInternational AI Summit 2026の公式ライブ配信のうち、午後セッションと閉会の内容を基に作成しています。本サミットは政策立案者、研究者、産業界のリーダーが集まり、欧州の競争力、デジタルレジリエンス、責任あるAIの展開について議論する場で、「応用AIと分野別の価値創出」「インフラ:欧州のAI能力の構築」「今後のAIの機会」という3つの柱で構成されています。
動画の詳細は https://www.youtube.com/watch?v=MrHTVWQkmkE でご覧いただけます。本記事では動画の内容を要約しています。原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については元の動画をご覧いただくことをお勧めします。
1. パネル:企業変革とAI(Harry Goddard、Philipp Herzig、Niall Twomey、Robin Washington、Amit Zavery)
1.1 午後の導入映像と、ServiceNow・Salesforceの社内変革
司会: 皆さん、お帰りなさい。交流の時間と、外の展示ブースを回る機会を楽しんでいただけたでしょうか。今朝議論したように、AIにおけるリーダーシップとは、画期的な技術だけの話ではありません。イノベーションが花開くための適切な条件を整えることでもあります。そこで午後は、アイルランドと欧州がAIの時代を主導するために必要な基盤について考えます。まずはこちらの映像をご覧ください。
導入映像: AIのブレークスルーはすべて、一つのアイデアから始まります。しかしアイデアをインパクトに変えるには、それ以上のものが必要です。大規模なイノベーションを支えるインフラです。計算能力、半導体、先進的なネットワーク、研究能力、持続可能なエネルギー。これらはAIが発展し、成長し、価値を生み出すことを可能にする基盤であり、合わせて欧州のAIの未来を支える背骨になります。欧州全域で、政府、研究者、イノベーター、産業界が、変化の速い世界で競争するのに必要な能力に投資しています。企業、公共サービス、研究者が、自信を持ってイノベーションを進めるのに必要な道具を利用できるようにするための能力です。アイルランドはその取り組みで決定的な役割を果たしています。長く確立されたテクノロジーの拠点として、アイルランドはグローバルな投資、国内企業、世界水準の研究、そして公共の大志を結びつけています。私たちは計算資源へのアクセスを強化し、先端製造を支え、研究の卓越性に投資し、AIの可能性を現実世界での展開へと変えるエコシステムづくりを助けています。AIにおけるリーダーシップは技術だけの話ではないからです。人材、インフラ、研究、投資、そして組織がAIを自信を持って展開できる明確なルールを結集し、イノベーションが花開き信頼が育つ条件を整えることです。AIに対する欧州の大志は、それを実現する能力と自信によって裏打ちされなければなりません。アイルランドは、その両方を築く手助けをしています。
司会: 多くの組織にとって、AI革命はもはや実験の段階ではなく、企業全体の変革の段階に入っています。AIがすでに組織の運営のあり方をどう変えつつあるのかを探るパネルをご紹介します。モデレーターはDeloitte IrelandのCEOであるHarry Goddardさんで、SAPのDr. Philipp Herzigさん、FenergoのNiall Twomeyさん、SalesforceのRobin Washingtonさん、ServiceNowのAmit Zaveryさんにご登壇いただきます。
Harry Goddard: 皆さん、ようこそ。これほどの専門性とリーダーシップを持つ方々を今日の午後のサミットにお迎えできて、とても嬉しく思います。今朝は多くの時間を使って、欧州について、そして新しいAI経済について考えるときに欧州が取りうる姿勢について考えてきました。また、そうした状況の中でスタートアップやスケールアップを生み出すためのビジネス環境についても伺いました。しかしもちろん、仕事の多くが行われるのは、人々が今まさに雇用され、技術が今まさに展開されている企業の中です。皆さんの多くは、世界中のほとんどの企業を動かしている技術を提供している組織を代表しています。ですから、そうした企業の中でAIが生み出す機会を皆さんがどう考えているのかを伺えるのは、本当に貴重な機会だと思います。
ただ、まずはコンサルタントとしてよく受ける質問から始めなければならないと感じています。クライアントと会って、AIで何ができるかを助言しようとすると、こう言われるのです。「あなたが私に何ができると思うかはぜひ聞きたいが、まずはあなた自身が何をしているのかを教えてほしい」と。そこでAmitさん、まずあなたから、ServiceNowの社内でAIをどう考え、それが仕事、アーキテクチャ、プラットフォーム、そして事業そのものにどう影響し、どんなインパクトを与えてきたのかを伺えればと思います。
Amit Zavery: お招きいただきありがとうございます。皆さんにお会いできて嬉しいです。AIは間違いなく、ServiceNowの社内で私たちがしていることのすべてを変えました。事業のあらゆる部分の運営の仕方という観点からもそうです。どの部署も、以前とは違うやり方で仕事をしています。私たちは昨年「AI native blueprint」を打ち出しました。全従業員が、何を考えるべきか、自分の仕事をどう違うやり方でこなすべきかについて、それを指針として従っています。製品の作り方やチームの組み方も同じです。製品を届けるうえでのエンジニアリングの厳格さのあり方も、今では大きく違います。
もちろん多くのAIツールを使っていますが、デザインやプロトタイピングにも使って、製品を届けるまでの反復をより速く回せるようにしています。営業でも同じことが起きています。営業チームはAIを使って、商談に向けてより良い準備をし、万全の態勢で臨んでいるだけでなく、顧客が成功できるよう、はるかに多くの文脈に即したデータを提供しています。カスタマーサポート、カスタマーサクセス、法務、人事でも同じことが起きていて、どれも変革されつつあります。
私たちには「Now on Now」というプログラムがあり、ServiceNowの製品をServiceNowの社内全体に導入しています。それによって従業員はより良く仕事ができるようになっています。従業員が質問し、問題を解決できる一つの統合された入口を設けています。ServiceNowはもともと常に自動化をテーマにしてきましたが、今ではAIを使って、以前よりもはるかに速く問題を解決しています。同じように、私たちの製品も今では非常にAIネイティブになっています。顧客は、私たちが製品にもたらしているあらゆるイノベーションの恩恵を受け、製品から価値を引き出しています。昨年私たちは、AI製品を社内全体に導入したことで、ServiceNow社内で約10億ドルの企業価値が生まれたと算出しました。
2年前の状況と今を比べると、まったく違う世界ですし、今も進化し続けています。もちろん、コンプライアンスのためのガードレールや、すべてが確実に守られていること、AIへの投資から確実に価値を引き出していることなど、多くの仕組みを整えなければなりませんでした。しかし、そうしたガードレールをすべて整えたことで、セキュリティなどを常に念頭に置きながら、自信を持ってあらゆるものを打ち出せるようになっています。すべてが違っていて、わくわくしていて、とても速いのです。
Harry Goddard: 確かに動きが速く、膨大な変化ですね。そして挙げていただいた例の多くは、チームが力を発揮できるようにすることに関わっています。
Amit Zavery: そうです。
Harry Goddard: Robinさん、それを踏まえて伺います。Salesforceでのあなたの役割から考えて、AIはオペレーション全体、そしておそらく財務にもどんな影響を与えてきましたか。仕事がどう進化してきたのかも具体的に教えてください。
Robin Washington: Amitさんが挙げた点は、Salesforceにとってだけでなく、私たちの顧客にとっても非常に重要だと思います。ですから、これからお話しするSalesforceの話も、その観点から申し上げたいと思います。私たちが果たしている役割を考えると、私たちが支えている15万の顧客は、どうすればエージェント型企業になれるのか、その青写真として私たちを見ています。これは非常に重要なことだと思っていて、私たちはその役割を非常に真剣に受け止めています。
おっしゃるとおり、私たちが見ているのは技術だけではありません。もちろん技術はその大きな部分を占めます。私たちには「Salesforce on Salesforce」、つまり自社を最初の顧客とする「Customer Zero」というプログラムもあります。エージェント型企業になるための自社の変革です。しかし私たちはこれを、技術をはるかに超える大きな変革として捉えています。そこには人間の要素があります。それは昔からそうでした。私たちは今、人間のためだけでなく、エージェントのためのソフトウェアも作っています。そしてAmitさんが言ったように、仕事の流れの中にエージェントがいることで、すべてが変わりつつあります。プロセスを考え直さなければなりませんし、従業員の構成について考えなければなりませんし、より広いエコシステムについても考えなければなりません。
プロセスを再設計するにあたって、私たちは「四つのR」と呼ぶものを持っています。プロセスを再設計しながら、従業員をどう再配置するか、どうリスキリングするか、そして組織をどう作り直すかを考えるのです。一つ重要な事実をお伝えすると、私たちには85,000人を超える従業員がいますが、この18か月の間に、少なくともそのうち20,000人が、以前とはまったく違う役割や職に就いています。それがその再設計とリスキリングの一環です。私たちはこれを、従業員のキャリアを前進させ、エンゲージメントを高めるものとして捉えていますが、同時に、エージェント型企業になる中で見えてくる生産性の向上にも本当に焦点を当てています。
そして何より重要なのは、私たちはまだ始まったばかりだということです。素早く失敗するという要素もありますし、一歩引いて、未来の仕事、私たちの働き方について本当によく考えること、つまりAIとエージェントを活用して仕事そのものを圧縮していくことでもあります。ですから、本当にわくわくする時期です。そして私たちは、顧客がエージェント型企業になっていく過程で信頼できるアドバイザーとなるための青写真を作っているところです。
1.2 SAPの使い方の抑制とトークン費用、Fenergoのボトルネック連鎖と社内エキスパートの効果
Harry Goddard: 85,000人の従業員のうち20,000人が再訓練を受けたというお話には驚かされました。Philippさん、外で話していたとき、あなたは製品のリリーススケジュールについて考えておられると言っていましたね。事業の中には、市場に出さなければならない製品の一定のリズムのようなものがあります。Robinさんの、従業員を作り直し、新たな力を身につけさせなければならないという話も踏まえて、SAPでは生成AIを推進力、加速剤として展開することを考える中で、どんな経験をしてきましたか。
Philipp Herzig: 興味深いことがあります。昨年の12月ごろまで、エージェントによるコーディングが本格化するまでは、私は社内を走り回って「ここでもっとAIを使え」「あそこでも使え」と言っていました。もちろん、さまざまなツールがありましたし、自社のJouleでの経験もありましたし、ほかにもたくさんのものがありました。もちろんあらゆるモデルもありました。熱心な人たちもいて、開発者たちも気に入っていましたし、そういった具合でした。それでも私はずっと「もっとAIを、もっとAIを」と言い続けていたのです。つまり、どちらかと言えば押し付けでした。
それが今では、会話の向きが逆になりました。特にエンジニアリングでは「いやいや、これにはAIを使うな」「あれにもAIを使うな」と言うようになっています。なぜかというと、私は計算機科学者として訓練を受けた人間なのでなおさら感じるのですが、人々があまりにも興奮していて、こうしたモデルを使うことに本当に熱中している一方で、必ずしも最も賢い使い方をしているわけではないからです。例えば、いつもコードベース全体をモデルに放り込んだりします。すると突然、巨額のトークンの請求書が届いて、「いやいや、それはだめだ」となるわけです。そこで、コンテキスト管理をうまくやる方法があるのではないか、何をモデルに入れ、応答をどう扱うのか、といったことを考え始めます。ですから、これはある種の終わりのない知的な営みになっているのです。
多くの顧客もそれを経験していると思います。覚えていらっしゃるでしょうか、皆が「SAPのシステムにもServiceNowのシステムにも、MCPサーバーをそのまま載せられる」と言っていた時期がありました。確かに、概念実証の段階ならかなりうまくいきます。しかし、エンタープライズとしての成熟度をすべて備えたうえで規模を拡大し、さらにトークン効率を高めようとすれば、それに対処できるソフトウェアシステムが必要なのです。
だからこそリスキリング全体が必要になるわけです。もちろん、最初はそれを始動させる必要があると思います。舞台裏ではトークン・マキシングの話もしましたが、それはもちろん物事を動かし始めるための取り組みです。導入が思うようなペースで進んでいないと感じたら、そういうことをしたくなるかもしれません。しかしその後は、当然ながら速やかに成果のほうへと向きを変えなければなりません。私たちもSAPの立場から顧客と話す際には、まさにそれに取り組んでいます。私たちは本気でプロセスの再設計を考えています。リードから入金まで、調達から支払いまで、といったプロセスです。売上債権の回収日数を改善してキャッシュフローを良くできないか、在庫を最適化できないか、といった、さまざまな業界における具体的なビジネスの成果を本気で考えます。そしてそこから技術へと逆算して、その価値を最も効率的に届ける方法を見つけるのです。SAPで大規模に起きているリスキリングとは、そういうものだと思います。
Harry Goddard: つまり、これが本当に反映しているのは、私たちは皆ツールから始めて「これは素晴らしい、これで遊べる」と思ったものの、実際には企業として商業的な価値を追求する中で、人々がツールを使う際の適切なガードレールを確保し、ユースケースから価値を生み出し、組織内のプロセスの一部としてツールが適切に使われるよう適切なガバナンスを整えなければならない、ということですね。
Niallさん、Fenergoはアイルランドではとてもよく知られていますが、世界の舞台ではそれほど知られていないかもしれません。まずFenergoの使命を少し説明していただき、そのうえで、ここにいる他のパネリストと比べると規模が少し違うことを踏まえて、生成AIが組織の中にどんな影響を与えているのか、あなたの視点を伺えればと思います。
Niall Twomey: ご存じない方のために申し上げると、Fenergoは2009年に創業しました。金融危機の最中で、危機を無駄にするな、というわけです。私たちの仕事は、基本的に金融機関が金融犯罪と戦えるようにすることです。顧客のことを本当に知っているか。顧客は想定どおりの行動をしているか。実際には不正やマネーロンダリングなどをしていないか。それを私たちが担っています。規模感をお伝えすると、従業員は700人以上で、数百の金融機関を顧客に持っています。世界の上位50の金融機関のうち30社が、KYCとAMLのすべてに私たちを使っています。そして私たちは創業初日からグローバルに展開しました。2009年当時、アイルランドにはFenergoにとってのビジネスがあまりなかったので、北米に行き、世界中を回り、最終的にアイルランドに戻ってきたのです。これが私たちの概要です。
Fenergoの皆さんがここにいたら、単純化しすぎることをお許しください。AIの使い方という点では、私たちは基本的に、製品を作り、顧客にサービスを提供しています。AIの観点では、まずコーディングにAIを応用し、コードの書き方は完全に変わりました。ところがやってみると、実は一本の糸を引っ張っていたことに気づいたのです。何が起きたかというと、エンジニアリングが信じられないほど効率的になり、より多くの要件を引き込むようになりました。しかし、要件定義やプロトタイピング、つまりプロダクトマネージャーやプロダクトオーナーが追いつけなくなりました。そこで彼らを作り直さなければなりませんでした。次に、より多くのものを顧客に出せるようになりましたが、今度はレビューとリリースのプロセスが追いつかなくなりました。そこでそれも作り直さなければなりませんでした。そして顧客自身により多くのものを提供し始めると、今度はサポートチームが追いつかなくなったので、サポート用のエージェントを投入しました。ですから組織全体が、波紋が広がるようなものなのです。一つの領域に取り組んでいるつもりでも、実際には他のすべての領域に取り組むことになります。あらゆるボトルネックがはっきりと見えてくるからです。
規模感をお伝えすると、私たちは当然すべてを計測しています。生み出される製品機能は5倍に伸びました。顧客にサポートエージェントを提供したところ、興味深いことに、すべてのサポート問い合わせの86%がエージェントによって解決されました。しかし本当に興味深かったのは、顧客からの質問が3倍に増えたことです。顧客にとっては、相棒ができたようなものだったのです。助けてくれる専門家ができたわけです。以前なら、その質問はしなかったでしょうし、そもそもチケットを起票しなかったでしょう。自分専属の専門家のアシスタントがすぐそばにいるようなものです。これがFenergoの一つの側面です。
Fenergoのもう一つの側面は、私たちがこの分野そのものにサービスを提供していることです。ですから、深い専門家でなければなりません。AIを展開し始めたとき、私たちは一連の専門家を用意しました。私たちは規制、コンプライアンス、信頼を扱っているので、その一連の専門家です。一例を挙げると、「プロダクトエキスパート」と呼ぶものを作りました。私たちの製品群についてすべてを知っているエキスパートです。先ほど申し上げたように従業員は700人ほどですが、4か月で80,000件の質問が寄せられました。これはまさに私たちが望んでいた形でした。現実の世界には、少数の本物の専門家しかいません。それを、あらゆる会議、あらゆる場面で、全員の手元に専門家がいる状態にしたいのです。そしてこれは問いも投げかけます。人々は以前より多くの情報を見つけるようになりました。以前はおそらくこうした質問をしていなかったでしょうし、何も知らないまま、あるいは誤った情報を持ったままでいたのでしょう。ですから、従業員を本当に教育していたわけです。
そして最後に、今私たちが取り組んでいる大きな領域は、全員に自分の首席補佐官、Chief of staffが付いている状態を実現することです。ここにいる方の中には、私は違いますが、Chief of staffが付いている方もいるかもしれません。しかし私は全員に自分のChief of staffを持ってほしいのです。私の1週間の多く、そしてきっと皆さんの1週間の多くも、会議に出ることに費やされています。そこにはそれまでの会話の流れがあります。今どこまで進んでいるのか。以前の会議があったが、誰がフォローアップしたのか。全体像を教えてほしい、目を通しておくべき追加の文脈を教えてほしい、ということです。私たちが集めているあらゆる情報をモデルに載せていけば、それをまとめ上げ、整理し、フォローアップしてくれるChief of staffを作れると考えています。そうすれば人は解放されて、戦略的な思考に集中できます。それがFenergoの社内でAIを応用するうえでの、私たちの次のフロンティアです。
1.3 計画と組織の変化:四半期計画、AI Control Tower、forward deployed engineer、顧客接点の高度化
Harry Goddard: 非常に実践的な例をたくさん挙げていただき、素晴らしいです。今朝Edmond Scanlonさんが話していたことを思い出しました。AIを展開したユースケースで、副次的に得られた恩恵の一つが、チーム内のメールの量の25%削減だったという話です。Amitさん、市場は大企業の将来、つまりロードマップや投資計画をどう考えているかに関心を持っています。しかしAIによって、それははるかに動的な環境になりました。
Amit Zavery: 確かにそうです。
Harry Goddard: この新しい環境の中で、計画と戦略をどう考えていますか。そして組織の中でそれはどう変わりましたか。
Amit Zavery: おっしゃるとおりです。AIのイノベーションの速さと、起きている変化の量を考えると、イノベーションだけでなく、新しい能力についても、それらがどうつながり合い、顧客がどんな恩恵を受けられるのかを考える必要があります。例えば昨年、私たちは「AI Control Tower」という製品を打ち出しました。あらゆるAIシステムについて、可視化、発見、コスト管理、そしてライフサイクル管理までを行えるようにするという考え方です。以前なら、こんな製品は考えもしなかったでしょう。
ですから、私たちが打ち出すもののサイクルは、顧客のユースケースから非常に速く生まれてきています。顧客と話して聞いたことの一つは、彼らにとっての最大の課題は、次々と入ってくるエージェント型システムだということでした。何をすればよいのか、どこから、どう始めればよいのか、どう監視し、どう管理すればよいのかがわからなかったのです。そこで私たちは製品ポートフォリオを考え直さなければなりませんでした。コンプライアンスをどうもたらすのか、可視性をどうもたらすのか、導入の障壁をどう取り除くのか。そうした指針を提供できれば、できるだけ早く他の能力も提供できるからです。
ですから今では、計画はほぼ四半期ごとになっています。その動的な状況の中で、私たちは小さなチーム、いわば「アイデア・ポッド」を作りました。私たちはこれを戦略的イニシアチブと呼んでいますが、重要なプロジェクトに応じて、さまざまなグループから人を集められるものです。以前は、各製品チームやエンジニアリングは、もう少し固定されていました。特定のグループに属していて、同じソフトウェアを新しい機能を加えながら何度も作り、リリースしていました。そういう時代は終わったと思います。ですから今の計画の立て方は四半期単位ですが、同時にチームも変えています。ロードマップを変えるだけでなく、何をする必要があるかに応じて人を入れたり外したりもしています。
そしてPhilippさんが言っていたように、チームにどうツールを与えるかについては非常に賢くなければなりません。トークン・マキシングは、もちろん以前のばかげた話で、もう過去のものになっていることを願っています。それよりも、どこでどの能力を使えば製品をより速く出せるか、です。品質の水準、セキュリティの水準、コンプライアンスの水準、ガバナンスを、製品全体で保ちながら、毎月アップデートを出せるようにすることです。ですからチームは大きく変わっています。Robinさんのところほど従業員は多くなく、私たちは30,000人ですが、それでもリスキリングは必要です。プロダクトマネージャーが、デザインエンジニアやソフトウェアエンジニアと一緒に物事を考え直すような形で、計画の立て方を変えています。そしてチームは非常に動的なので、1年単位の計画を渡すことはできません。もうそういう計画はありません。予算もほぼ四半期ごとに変わっています。何年もの間、人々が続けてきた標準的なやり方とはまったく違う運営の仕方です。
それには多くの課題が伴いますが、同時にはるかに良い成果も生まれています。新しい製品イノベーションが届けられているのが見えています。私たちはちょうど、Flowと呼ぶAIネイティブの新製品を出したところです。これは6か月前には、構想としてすら存在していませんでした。業務プロセスの自動化と、助けを求める人々の依頼やインシデント管理の自動化を、SlackやCopilot、あるいはClaude Coworkのような場の中で行う、という考え方です。つまりヘッドレスな形で統合し、誰かが後から作業しなくても、その場で自動化が起きるようにするということです。こうした多くの変化が実際に生まれているのは、以前とは違う今の運営の仕方のおかげです。
Harry Goddard: 素晴らしいですね。技術によってはるかに機敏で動的になれるという利点を活かし、Niallさんの言っていた「顧客の要件がより早く、より多く届くようになり、それに応え、選別しなければならない」という点にも対応しているわけですね。Robinさん。
Amit Zavery: 顧客の要件について、一つだけ付け加えさせてください。多くの企業が、いわゆるforward deployed engineerについて話し始めていると思います。これは私たちの多くが始めていることの大きな部分になっていて、顧客のすぐそばに張り付いてニーズを理解し、それをフィードバックするのです。初期のプロトタイピングを行い、それを製品に持ち帰ります。20年前のソフトウェアはこうやって作られていたのに、私たちはいつの間にかそれを忘れていて、今ようやく本来あるべき姿に戻ってきたのです。これもまた大きな変化です。
Harry Goddard: それは大きな変化ですね。Robinさん、それを踏まえて伺います。Salesforceはさらに多くの従業員を抱えていて、同じ課題にも、多くの点で同じ形で対応していると思います。つまり、より機敏なチーム、より機敏な製品です。しかし私たち人間は、確実さや明確さ、定義がはっきりしていることを好みます。仕事がどう進化しているか、そしてそれが社内のチームにどんな影響を与えているかを考えたとき、組織としてその変化の中で人々をどう導き、その環境で力を発揮できるように整えていくのでしょうか。
Robin Washington: とても良い質問です。その前に、Amitさんの話に沿って一つ考え直しておきたいことがあります。私たちが目にしているAIの素晴らしい恩恵の一つは、AIがSalesforceのイノベーションの価値を本当に高めていることです。製品群を考えると、中核のプラットフォームとアプリケーションに加えて、Agentforceのようなものや、ヘッドレスな使い方があります。Salesforceにログインする回数は減っても、最終的に人々はより多く使っているのです。彼らは追加の価値を見いだしています。
そしておっしゃるとおり、鍵は信頼です。個人の生活でこうしたツールを使うのは一つのことですが、ビジネスの場、規制された環境などでは、自分たちの環境が信頼できるとわかっていたいものです。そこにこそ、顧客をその観点から本当に助ける機会があると見ています。私たちの環境の中のワークフローやデータなどを信頼してもらえるということです。私たちの製品が持つ決定論的な性質と、LLMの確率的な性質、その組み合わせこそが、そしてそのインターフェースこそが、本当の違いを生むのだと思います。
人々についてのご質問も同じことです。社内でツールを使うことです。
Harry Goddard: なるほど。
Robin Washington: 人々に正しいツールに慣れてもらわなければなりません。私たちにも管理しなければならない同じ予算があり、投資対効果を求めています。しかし焦点は成果に当てています。どんな成果をもたらせるのか、解決しようとしている問題は何か、それにどう取り組むのか、ということです。例えばhelp.comは私たちのオンラインサポートですが、最初の対応をエージェントに担わせることで、従業員の働き方の範囲を大きく変え、より先回りしたサポートへと移すことができました。それが何をもたらすかというと、従業員のエンゲージメントが高まります。そして顧客とのやり取りが増えています。基本的なことをエージェントで自動化したことで、より多くの問い合わせが来るようになり、従業員は顧客とより深く関われるようになっているのです。ですから、顧客について得られる洞察が向上していますし、従業員と顧客の両方を、より高いレベルのサービスへと移しています。このように、私たちの製品だけでなく、こうしたエージェントを使った私たちの働き方そのものが、顧客がSalesforceを活用する力と、そうしたツールを使って私たちが顧客を助ける力を、全体として高め、向上させていると見ています。
Harry Goddard: そのメッセージは素晴らしいですね。サポート部門があるレベルにあったときには、それなりのエンゲージメントしか得られなかった。それが今ははるかに充実し、おそらくより魅力的なものになって、顧客との対話の中で、はるかに高いエンゲージメントとはるかに大きな価値が得られているわけですね。
Robin Washington: そうです。結局のところ、すべては投資対効果の話です。エージェントから得られる知見が多いほど、顧客からのエンゲージメントが高まり、私たちはより良い形で顧客の前に立ち、支えることができ、顧客を維持できるようになります。それこそがすべてで、顧客の成功なのです。
1.4 変化への不安の乗り越え方と、金融業界における「最も信頼できるAI」
Harry Goddard: その話題に移るとして、Philippさん、顧客があなた方のプラットフォームの最新版を導入し始める中で、AIによって一部のプラットフォームが強化される前にはそれほど、あるいはそこまで深くは尋ねてこなかったようなことで、今どんなことを聞いてきますか。エンタープライズソフトウェアの導入について、顧客の考え方がどう変わってきているのでしょうか。
Philipp Herzig: 全体としては、私たちの歴史的な背景、つまりオンプレミスのソフトウェアの時代に根ざしていることも踏まえると、顧客はまず、イノベーションのスピードに気づき始めました。「これについていけるのはクラウドだけだ」と言ったわけです。もちろんそれが、多くの顧客がアプリケーションをクラウドへ移し、アプリケーションを近代化するなどの動きにつながりました。
そして、不安についての質問ですが、これはとても良い問いだと思います。社内のあらゆる部門でも、顧客においても、毎回ちょっとした変革管理の曲線があるのです。不安から始まり、進んでいく曲線です。どの部門もそうです。私たちのサポートも同じことを経験しました。「これで、こうしたチケットをすべてかわせる」と。実際、AIだけで非常に多くのチケットをかわしています。人間がまったく触れることなく、しかも顧客はそれを気に入っています。そして「では、サポート担当者はもう不要なのか」となったわけです。いいえ、違います。彼らは今、問題解決の担い手になっています。本当に難しいチケットを引き受け、ただチケットをかわすのではなく、製品の問題を実際に直し始めているのです。
私たちには、コンサルタント向けのJouleがあります。Deloitteの皆さんにも使っていただいていて、非常に成功している製品ですが、コンサルタントをよりうまく導くものです。こう言うこともできるでしょう。「これでやることが50%減った。では残りの50%で何をするのか」と。答えは、より多くのプロジェクトを手がけられる、ということです。顧客にもっと速く、もっと高い品質でサービスを提供し、プロジェクトを期限どおりに完了させられます。素晴らしいことです。
そしてこのサイクルは、顧客でも同じように起きます。クラウドに移ると、「では、IT管理者としての自分にはもうやることがないのか」となります。しかしその後で気づくのです。「待てよ、自分の環境にはまだやるべきことがたくさんある」と。例えば今はサイバーの問題が入ってきています。それをどう守るのか、ということです。つまり、常にそういうことが起きているのです。AIは知識労働者にさまざまな生産性向上をもたらすだけではありません。確かにそれはありますし、本物です。分野や業界などによって段階はさまざまですが、現実です。しかし現実には、コーディングでもサポートでも、結局のところ仕事そのものがとてつもなく変化しているのです。そして人々が「ああ、本当に変わっている。なくなったわけではない」と言うようになる。確かに、自分がしていた活動、毎日していた多くのタスクの一部はなくなりました。しかしそれは、はるかにわくわくする、はるかに価値のある、はるかに意味のあるものへと移っているのです。自分が生み出せるインパクトという点でもそうです。そうなると、それはまさに顧客にとっての導入のフライホイールになります。そして結局のところ、優れた製品を届けるときには、それを設計しなければならないのです。
Harry Goddard: なるほど。あなた方の組織と顧客との接点における変革は、非常に説得力がありますね。社内での変革がうまくいくことが、エコシステムの観点からも、はるかに大きな一体感につながっているというのは、非常に力強いことです。Niallさん、あなたはもともと非常に規制の厳しい環境で事業をしておられます。少なくとも上位50の銀行や金融機関のうち30社が顧客ですね。その業界は、AIとAIの導入をどう考えているのでしょうか。
Niall Twomey: ダーツの的があるとすれば、私たちの金融サービスの仕事はど真ん中です。業界にいない方のために申し上げると、この業界は信じられないほど書類が多いのです。ですから、構造化された書類や非構造化の書類を解析し、通知文書を作成するのに生成AIが使えます。また、信じられないほどルールと方針に基づいて動いています。エージェントに何をすべきか伝えたいとすれば、その方針はもうそこにあります。過去40年、50年にわたって存在してきたものです。そして、パターンに基づく意思決定が非常に多いので、機械学習などが使えます。ですから、これはまさに完璧なのです。
そして金融機関の事業部門は、24時間365日製品を販売していますが、コンプライアンス部門は平日の9時から5時まで、週5日しか動いていません。大きなずれがあるのです。ですから事業部門は変革を切望していて、変革への圧力がそこにあります。意欲はあるのです。しかしこの分野で私たちが言っているのは、勝つのは最も多くのAIを持つ金融機関ではなく、最も信頼できるAIを持つ金融機関だ、ということです。勝つのはそういうところです。これは疑いの余地がありません。
そして欧州企業としてここに拠点を置き、世界で事業を展開している立場から申し上げると、EUのAI法は実は良い基準になっています。欧州で事業をしていない金融機関と仕事をする場合でも、説明可能性、選択の余地、偏りのなさ、監査可能性といった、私たちがそれに沿って作り上げてきた基準を、初日から設計に組み込んでいるということは、世界中の金融機関に参入するうえで大きな勝因になります。それは私たちにとって大きな恩恵です。ただし、信頼できるAIでなければなりません。そうした能力をすべて備えていても、それをまとめて説明し、規制当局に示すことができなければ、勝ち目はありません。説明に回っている時点で負けているのです。この分野では、弁明する立場にはなりたくないのです。
それに付け加えるとすれば、これは間違いなく非常に厳しい目にさらされますが、事業部門にはそれを実現したいという強い意欲があります。そして今、最大級の金融機関の一部で見られるのが、先ほどの「Control Tower」の例です。セキュリティにおけるSIEMのようなもので、AIのためのControl Towerとは、「そうした能力をすべて持っていて、それを証明できるのはわかった。でも、こちらでも監視したい」というものです。ですから、それとの互換性が必要になります。そして最大級の金融機関の中には、自前のモデルを持ち込みたいというところもあります。そうしたことがすべて揃っていても、私たちが持っているデータは彼らにとって中核的な知的財産だと見ていて、競合他社や競合するモデルが自分たちのデータから学ぶことがないよう確実にしたいのです。ですから、自分たちが管理するモデルを使いたいわけです。つまり、自社のAIだけでなく、他社のAIも使えるという能力が、勝つための重要な鍵になっています。
しかし私たちは、こうしたことをすべて歓迎しています。その基準を満たせれば、競合他社はその基準を満たすのに苦労するということだからです。参入し、販売するのはより難しくなりますが、実際に時間を投じて理解を深めていれば、それが競争優位になります。ですから私たちはこれをマイナスとは見ておらず、むしろ私たちの中核的な知的財産の一部であり、私たちを独自の存在にしているものだと考えています。
Harry Goddard: 金融危機の最中に金融機関に焦点を当てた組織を共同で創業し率いてきた方として、あなたには間違いなく機会を見つける力がありますね。
Niall Twomey: 危機の中にこそ、ですね。
Harry Goddard: もう時間になってしまったとは信じられません。今日伺ったいくつもの視点、つまり、再訓練、リスキリング、仕事の再考に注ぐべき膨大な労力と投資、はるかに大きな機敏さを生む環境づくり、顧客とのより緊密なつながりの構築、データの活用、組織全体のエンドツーエンドのサプライチェーンについて考えることは、どれも組織や企業がこの驚異的な技術を活かすための重要な推進要因だと思います。お時間と視点を共有していただき、本当にありがとうございました。とても楽しい議論でしたし、もっとずっと長く続けられたと思います。皆さん、いつものようにパネリストに拍手をお願いします。
3. 対談:労働の未来(Fionnuala(ICTU)、Una Fitzpatrick)
3.1 労働者は反テクノロジーではない、団体交渉と現場の知見、役割内の変化
モデレーター: 次の対談に向けてステージを準備しますので、少しお待ちください。今朝から、そしてこの午後も、AIが仕事の世界をどう変えているかについて多くの話を伺ってきました。先ほどもRyanairのEddieさんからその話がありました。この対談では、いくつもの問いを投げかけ、できれば答えを出したいと思います。今、実際に何が変わっていて、働く人と雇用主は現場で何を経験しているのか。AIは主に仕事を置き換えるものなのか、それとも仕事の中で人が担うタスクを変えているのか。新しく、より良い仕事の最大の機会はどこにあるのか。そしてAIが生産性を大きく高められるとすれば、その恩恵は企業、働く人、そしてより広い社会の間でどう分かち合われるべきなのか。こうした働く人に関わる問いについて話していただくため、アイルランド労働組合会議(ICTU)の全国執行委員でCWU IrelandのHead of Organising and CampaigningのFionnualaさんと、IbecでTechnology IrelandのDirectorを務めるUna Fitzpatrickさんをお迎えします。
ようこそお越しくださいました。Fionnualaさん、外に出られたと思いますが、今日は全国で公共部門の労働者によるストライキが行われていることを皆さんもご存じだと思います。今朝ここで講演したBrad Smithさんは、聞いていなかったかもしれませんが、仕事の世界について考えるときは労働組合と話しに行くよう会場の人々に勧めていました。今日ここでは、将来の仕事について常に意識的であるべきだと繰り返し話してきました。今日のような日には、あなたはより良い賃金や労働条件を求める一方で、その見返りとして「では生産性をどう高めるか」を考えなければならず、その生産性の中にAIが入ってきます。そして公平かどうかはともかく、「人は変化を嫌い、新しい技術を取り入れたがらない」という見方をされることがあります。公共部門の将来の仕事について本格的に話し合っている今日のような日に、それは出発点として妥当な見方なのでしょうか。
Fionnuala: ありがとうございます。いいえ、それは公平な見方ではないと思います。働く人と労働組合は反テクノロジーではないということを、皆さんにぜひ理解していただきたいと思います。ありふれた言い方を使えば、働く人とその組合は、最初の産業革命の頃からあらゆる種類の技術の進歩を乗り越えてきました。ただし決定的に重要なのは、そうした変化が、働く人の声が確実に届くよう、協議と合意を通じて乗り越えられてきたということです。最終的に決定を下すのは人だからです。技術は道具です。道具は私たちの利益のために使うこともできれば、私たちに害を与えるために使うこともできます。例えば原子を分裂させたとき、それを診断やがん治療に使うこともできれば、核兵器に使うこともできます。害を生むのは必ずしも技術そのものではなく、そうした決定に関わる人々がいるのです。
そして決定的なのは、団体交渉の権利が法律で定められていないアイルランドでは、影響を受ける働く人との関わりこそが本当に必要だということです。私たちは、労使経済フォーラムの下に設けられるAIフォーラムを歓迎しますが、それは単なるおしゃべりの場以上のものでなければなりません。こうした議論の中で、意味のある前進がなければなりません。
モデレーター: つまり技術そのものではなく、それをめぐる早い段階からの積極的な関わり、意思決定の一部になることで、仕事への波及効果を理解し、その結果について考えられるようになる、ということですね。団体交渉に触れられましたが、ごく実務的に言うと、アイルランドのような国でそれはどんな形であるべきでしょうか。
Fionnuala: 技術を使っているのは働く人です。彼らが技術を展開し、その結果を理解しています。例を挙げると、コンテンツモデレーションです。人間のモデレーターがいる場合、彼らは文化的な側面や言語的な側面、そうした微妙なニュアンスを理解しています。技術企業や雇用主がAIのアルゴリズムを導入してその仕事を引き継がせると、そのニュアンスや理解は失われてしまいます。働く人自身と関わることは、その仕事をより深く理解することにつながり、そうでなければ見えなかったはずの潜在的な悪影響を予測できるようになることを意味します。
モデレーター: わかりました。Unaさん、あなたはAIのような技術を自然に受け入れやすい業界にいらっしゃいます。将来の仕事や役割がどうなるかについて、会員企業からどんな不安や懸念を聞いていますか。
Una Fitzpatrick: 確かに、この数年で非常に大きな変化を目にしてきました。ただ、その多くは役割の中での変化です。役割が何をするものなのかを定義し直し、技術の変化を反映させているわけです。多くの会員企業では、仕事のうち比較的単調だった部分を自動化できるようになり、より革新的で人間中心の仕事に人を充てられるようになるという、非常に大きな進歩が見られます。そしてAIの導入には、検証と判断という非常に大きな要素が伴います。それには事業の経験が必要ですし、理解できるだけの知識が必要です。AIを検証できるだけの知識を持ってもらうには、自分の会社や従業員の中で人を育てていくことが求められるのです。
Fionnualaさんの話に戻ると、従業員に必要な関わりのモデルについては、実は私たちはかなり意見が一致していると思います。Ibecとしては、従業員との関わりについて自主的なアプローチを支持しています。特に私が関わっているテック業界では、労使が関わり合う仕組み、例えば従業員評議会が活発に機能しています。ですから、そうした関わりは実際に行われています。また、職場にAIを導入する企業に対しては、それをどう導入するのか、どんな方針を設けるのかについて従業員と関わることが、EUのAI法でも求められています。雇用主として、自社でAIをどう使うのかについて従業員向けの非常に明確な指針と方針を持つことが本当に重要です。それが従業員に確実性を与えますし、企業にとっても確実性をもたらし、非常に安全で確実な形でイノベーションを進められるようになります。
3.2 生産性の配分とエントリー職の行方、エンゲージメントと団体交渉の違い、最終メッセージ
モデレーター: Fionnualaさん、Unaさんが、この技術によって単調で戦術的な作業に費やす時間が減り、もっと戦略的で未来志向の仕事に移れるようになっている例を挙げていましたが、それはあなたの組合員の一部が実際に経験している現実だと思いますか。彼らはその可能性に納得するでしょうか。
Fionnuala: 可能性は確かにあります。生産性が向上する可能性はあります。しかし当然、次に出てくる問いは、その生産性の向上で誰が恩恵を受けるのか、ということです。例えば週4日勤務についての議論を検討しているでしょうか。同時に、入門レベルの仕事の質が落ちていく可能性も考えなければなりません。もし入門レベルの弁護士や翻訳者をAIのアルゴリズムで置き換えてしまえば、キャリアを通じて自分のスキルと経験を使い、成長していく人がいなくなります。では10年後、上級の弁護士や上級の翻訳者は誰になるのでしょうか。こうした非常に有用になりうる道具を使うのであれば、それをどう使うのか、そして働く人にとって5年後、10年後にどんな波及効果があるのかを考えなければなりません。
モデレーター: その点についてですが、Unaさん、入門レベルの役割に関して、このAIの転換期にいる若い世代について何が見えていますか。いずれ落ち着く時期が来て、戦場の霧が少し晴れるとは思いますが、それがどう展開し始めているかについて、初期の事例のようなものはありますか。
Una Fitzpatrick: あります。あなたの比喩を借りれば、霧は晴れつつあると思います。新しい技術革命が起きるときは、当然ながら即座の反応があり、確かに採用面で多少の縮小が見られたと思います。しかし今、会員企業と話していると、新卒採用を増やそうという強い動きが見えています。先ほどここに登壇したTinesも、100の新しい職のうち50を新卒向けにすると話していました。こうした動きがますます増えています。先ほど申し上げたボトルネックのとおり、AIには膨大な量の検証と判断が必要なので、実際に人を組織に迎え入れ、経験の段階を踏ませて育てる必要があり、そうすれば彼らがそうした検証や判断を担えるようになるからです。ですから、毎年着実に増加へと戻っていくのが見られると思います。
テック業界の観点から言えば、変化の時期にあっても新しい雇用が生まれていることを強調しておくことが大切だと思います。アイルランドのテック業界の雇用者数は全体として前年比で増えています。この数年に多少の混乱があった中でもです。ここには非常に強力なエコシステムがあり、非常に強い多国籍企業と、本当に優れたアイルランドの地元企業がそろっていることがわかると思います。そしてそのモデルこそが、人々の雇用の可能性を大きく強めてきたものです。私たちは人材を国外から呼び込むことに頼る一方で、国内の人材も育てていて、今必要とされるスキルとアップスキリングにも頼っています。それは私たちが強く求めてきたことです。ですから、National Training Fundの資金の一部が解き放たれるという発表があったのは本当に嬉しく思います。私たちはこれからもそれを求め続けます。業界向けの研修について、私たちには要望が殺到しているからです。
モデレーター: そのアップスキリングについて、Fionnualaさんに伺います。今日示された未来と予測の一部を受け入れるなら、将来の新しい仕事について考え始めなければなりませんし、アップスキリングについても考え始めなければなりません。人々を一緒に連れていき、上げ潮がすべての船を持ち上げるような状況をつくるために、政府、雇用主や大企業、スタートアップの間で、責任の線はどこに引かれるとお考えですか。それはどんな形であるべきでしょうか。
Fionnuala: それは団体交渉という形であるべきです。そして、Unaさんにやんわり異を唱えさせてください。確かに関わりは行われていますし、関わること自体は素晴らしいことです。しかし、従業員と働く人が実際に変化を起こせる力を持つ仕組みがなければ、関わりは協議という形を取ってしまいます。そしてそれは本質的には一方的な意思決定なのです。
国として、私たちはこれを本当に正しく進めなければならないということも申し上げておきたいと思います。働く人は、それを設計し、展開し、使う人であるだけではありません。それを消費する人でもあるのです。これが正しく扱われなければ、反発が起きるかもしれません。今日、どの学校の前、どの病院の前でもいいので見てみれば、働く人が自分たちの声を届ける手段がほかにないと感じたときに何が起きるかがわかるはずです。
モデレーター: 会場の皆さんに残したい一つのことは何ですか。団体交渉とおっしゃると思いますが、念のため、ほかに何かあるかもしれないので。
Fionnuala: そうです、団体交渉です。ただ、私たちにはここで機会があると思います。これは変革をもたらす議論です。AIとは、いわば一連の技術をまとめて売り込むためのマーケティングの言葉であって、そうした決定を下しているのは人です。人間が意思決定を担い、制御を保つことは大切ですが、働く人がその団体交渉による対話の中にいることが絶対に欠かせません。
モデレーター: ありがとうございます。Unaさん、最後の言葉をお願いします。
Una Fitzpatrick: 三つのことを申し上げたいと思います。雇用主に対しては、人に投資してください、ということです。世界最高の技術を持っていても、人に投資しなければ、望む生産性は生まれません。従業員、特にテック業界の従業員に対しては、テック業界の従業員はたくましいということです。彼らは変化に十分に対応できますし、これを受け入れています。アップスキリングとリスキリングを続けてください。そして政府とより広い社会に対しては、これがパラダイムシフトであることは今では認識されていると思います。Fionnualaさんにも同意しますが、これは国の責任です。私たち全員に果たすべき役割があります。ですから、教育制度全体にわたって、アップスキリングとリスキリングの役割があるのです。
モデレーター: ありがとうございます。アイルランド労働組合会議の全国執行委員であるFionnualaさんと、IbecでTechnology IrelandのDirectorを務めるUna Fitzpatrickさんでした。皆さん、温かい拍手をお願いします。
4. パネル:AI時代の人材とスキル(Hilary O'Meara、Francine Katsoudas、Anthony Moisant、Maureen Walsh、Joanne Wright)
4.1 AI Workforce Consortiumの知見と、Indeedの採用データが示す若手キャリアの状況
司会: AIの話題の中でも、仕事への影響ほど議論を呼ぶものはそう多くありません。世間の議論では混乱や恩恵の分配への懸念が目立ちがちですが、AIは生産性を高め、新しい仕事を生み、新しい形の経済的価値を引き出す機会にもなります。このテーマについて、Accenture IrelandのCountry Managing DirectorであるHilary O'Mearaさんにモデレーターを務めていただきます。登壇者は、CiscoのFrancine Katsoudasさん、IndeedのAnthony Moisantさん、Ibec会長のMaureen Walshさん、IBMのJoanne Wrightさんです。
Hilary O'Meara: こんにちは。この素晴らしいパネルの皆さんとご一緒できてとても嬉しく思います。きっと良い議論になります。というのも、雇用主であれ従業員であれ、他の立場であれ、この会場にいるほぼ全員が今まさに気にかけているテーマだからです。私がCEOの方々と話していて、AIについて真っ先に挙がるのは「うちの社員は適応できるのか」「将来に必要なスキルと能力は社内にあるのか」という問いです。一方で従業員の側には「AIに自分の仕事を奪われるのではないか」という不安があります。このパネルでは、その両方を掘り下げていきます。
さっそく本題に入りますが、Franさん、あなたから始めさせてください。事前の打ち合わせで、AI Workforce Consortiumの話を伺って、とても興味深いと思ったからです。これは11社が参加するコンソーシアムで、IBM、Indeed、Cisco、そしてAccentureも加わっています。AIに関わる職務に向けて、人々のアップスキリングとリスキリングを進めることを目指しています。こうした企業が手を組んだことに惹かれたので、まずはコンソーシアムの主な重点領域と、そこから何を学んだのかを伺えればと思います。
Francine Katsoudas: ここに来られて本当に嬉しいです、Hilaryさん。物事がこれほど急速に変わっているときこそ、皆が集まることがとても大切だと思います。それをまさに実践しているのがこのコンソーシアムです。約3年前に集まったとき、私たちは、自分たちの会社がAIを同じように経験しているのかどうかに強い関心を持っていました。わかったのは、各社がまったく違う事業をしているにもかかわらず、AIが職務に与え始めていた影響はよく似ていた、ということです。最初の調査では、すでに92%の職務がAIを組み込んでいました。「これは業界を問わず起きているのだ」とわかったことは大きな学びでした。では、私たちはどう踏み出せばよいのか。
まず見えてきたのは、当然かもしれませんが、リーダーシップの重要性です。リーダーがAIを活用すると、そのチームは2倍の頻度でAIを使うことがわかりました。私たちがしなければならない手本の示し方について、ここには一つの気づきがあります。また、スキルと学習について議論することが非常に重要で、その考え方を大きく変える必要があることもわかりました。
コンソーシアムはつい最近、サイバーセキュリティに関する報告書を出しました。そこでわかったのは、多くの企業が技術には力を注いでいるものの、人にはそれと同じ程度には目を向けていない、ということです。それは技術が素晴らしいからなのですが、だからこそ人に目を向けることが大きな機会になると考えています。さらに、詳しく見ていくほど得られるものも増えます。サイバーセキュリティの分野では、世界全体の求人数が10%増えていますが、その増加は主に上級レベルで起きています。こうしたコンソーシアムからの学びが私たちをより良くし、人々が将来の計画を立てる助けになるのだと思います。
Hilary O'Meara: ありがとうございます。Anthonyさん、今の話をもとに伺います。共感できるテーマもあったと思いますが、Indeedは採用を通じてあらゆるデータを見ておられます。Franさんの話に同意されますか。付け加えることはありますか。
Anthony Moisant: まさに共感しますし、今日のパネル全体を通じて語られてきたのは、スキル習得、アップスキリング、そして私たちが入りつつあるスキルを軸にした環境のことだと思います。Indeedの使命はとてもシンプルで、人々が仕事を見つける手助けをすることです。シンプルですが、実はそれほど簡単ではありません。私たちのプラットフォームの規模では、1分間に約31件の採用が成立しています。
その過程で、雇用主が何を求め、求職者が何を求めているのかを分析し、そのデータを使ってマッチングを行っています。同時に、社会としてどこへ向かっているのかについて、世界中のリーダーに知見を提供するためにもそのデータを使いたいと考えています。そこで見えている一つは、キャリアの初期段階での大きな混乱です。ただ、ここアイルランドには楽観できる材料があります。新卒向けの求人は増えていて、前回のピークの時期をすでに上回っているのです。ですから懸念すべきことはたくさんありますが、この問題に立ち向かう適切な力はそろっていると思います。そしてキャリアの初期にいる人たちを会社に迎え入れ、その熱意や内に燃える意欲に触れると、「まさにこれこそ、事業が停滞するのを防ぐために必要なものだ」と気づかされるのです。
4.2 IBMの生産性向上、中小企業の準備ギャップ、Ciscoの学習時間
Hilary O'Meara: ありがとうございます。今日は一日を通して、AIが私たちの組織に何をもたらすのかについて多くの話を伺ってきました。AIが大きな破壊的変化であり、労働力にとっても大きな変化であることは明らかです。Joanneさん、あなたはまさにその渦中にいて、IBMで変革を担っておられます。その取り組みと、組織内で進む大きな変化に人々がどう反応しているのかを教えてください。
Joanne Wright: Hilaryさん、先ほども話していたことですが、まず誰もが、今が完全な競争優位を得るために活かせる重要な局面だと気づいています。仕事の新しいやり方を探し、データをどう活かしてビジネスの成果と知見につなげるかを考え直すことができるのです。私のチームについて言えば、CIO部門では、エージェントによるコーディングを使って処理能力と成果を2倍にしています。オペレーション部門では、データを使ってセルフサービスで分析を行い、支援している事業部門に、はるかに速く知見を届けられるようになっています。
ここで目指しているのは、非常に重要な深い専門分野の知識と、技術への好奇心を結びつけることです。そしてあなたのコンソーシアムの話に戻ると、人々に教え、訓練し、導入に本当に慣れてもらう方法を形にできれば、三つの大きなビジネス成果を達成できたと言えると思います。私たちは2年半で45億ドルの生産性向上を実現しました。これは営業費用の約30%の改善にあたり、私たちはそれを成長のためのフライホイールに注ぎ込んでいます。そのお金を、新しい技術、人材、スキル、リスキリングに再投資しているのです。そして二つ目の成果はスピードです。スピードが上がれば、機敏に動き、方向転換する力も高まります。これは私たちが話をするどの業界のどの顧客にとっても、極めて変化の激しい今の世界で欠かせないものだと思います。
そして最後の成果は、従業員のエンゲージメントが高まったことです。始める前や、2年前の時点であれば、それがすぐに成果として表れるとは言わなかったでしょう。しかし実際にそうなっています。振り返ってみると、従業員に道具と能力を与えれば、はるかに価値があり、インパクトのある仕事ができるようになるのです。私たちは今、そういう時代にいると思います。だからこそ、業界、政府、従業員、他の企業と協力して、それを本当に形にしていくことが私たちに求められているのです。
Hilary O'Meara: 変革を進める中で、従業員を一緒に連れてきたように聞こえます。それはFranさんが話していたリーダーシップ、つまりトップが率先して技術を受け入れ使うという点にもつながりますね。私たちもいつも言っていることですが、この労働力の変革を引き起こし、関わりを生み出すには、リーダーが先頭に立たなければなりません。
Maureenさん、次はあなたに伺います。ここまでFranさん、Anthonyさん、Joanneさんにお話しいただきましたが、三人とも非常に大きな多国籍企業のリーダーです。あなたはアイルランドの企業を代表するIbecの会長としてここにいらっしゃいます。ここまでのテーマが中小企業にとってどんな機会を意味するのか、ぜひ伺いたいと思います。欧州の企業のほとんどは中小企業ですから。
Maureen Walsh: そのとおりです、Hilaryさん。ここに立てることを光栄に思いますし、今日の登壇者の皆さんは本当に素晴らしかったので、このパネルに加われることは名誉です。今日は中小企業の可能性について多くの話を伺ってきたと思います。スタートアップの話もたくさんありました。米国を見ると、この1年で新たに570万社のスタートアップが生まれ、過去20年で最多になっています。アイルランドもスタートアップの数が過去最高で、Sligoがその先頭に立っています。欧州でも、2025年のスタートアップの数は2023年と比べて60%増えています。ですから、機会という点では本当に驚くべき状況だと思います。
今日は人間の側面についても詳しく議論されてきたので、少しその話をしたいと思います。準備の度合いには差があるのです。今朝から伺ってきたように、AIの導入はすでに始まっていて素晴らしいことです。外の会場にいる皆さんも信じられないような取り組みをしています。しかし、どれだけ準備ができているか、中小企業にどれだけ深く根づいているかには差があります。
前向きに言えば、そのためにできることはたくさんあります。今朝、Lawless大臣がNational Training Fundについて話されましたが、1億5,000万ユーロがAI向けに充てられることは、私たち全員にとって非常に良い第一歩です。企業として、小規模でも中規模でも大規模でも、その機会を本気で受け止め、非常に具体的で、それぞれに合わせたプログラムを決める必要があると思います。先ほども少し話に出ましたが、Skillnetのプログラムはその一例です。アイルランドのこうしたプログラムは非常に独特で、雇用主が何を必要としているかという点で、極めて的を絞ったものになっています。私たちの業界で言えば、それは歯科、口腔の健康、そしてリテラシーと情報へのアクセスです。私たちの業界では、Skillnetは介護施設が口腔衛生教育について学ぶための資金になっています。AIが担う仕事が増えることで、人々は本当の自分を発揮し、イノベーションを起こす力を示す機会を得られるようになると思います。
今朝議論された話題の多くに関連して言えば、欧州社会基金にも活用できる資金がありますし、それも非常に前向きなことだと思います。規制のサンドボックスも、今後すべての人にとって重要になるでしょう。そして大きな視点で言えば、今朝は誰もが規制の課題について話していましたが、単一市場の可能性もあります。企業向けの規制を25%、中小企業向けを35%減らすという目標が達成されれば、その可能性は計り知れないものになります。どれだけ深く根づかせるかという点で課題はありますが、そこには大きな可能性もあるのです。
Hilary O'Meara: 今日は、中小企業には支援が、それも追加の支援が必要だという話がありましたが、あなたもそうおっしゃっているのですね。多国籍企業のような大企業が中小企業を支援し、皆で一緒に取り組むという役割もあると思います。それも今日私が持ち帰るメッセージの一つで、協力し、力を合わせる必要があるということです。
Franさん、ここで少し視点を変えて、従業員の立場から伺いたいと思います。今日は、生産性の向上や改善、雇用主や組織にとっての利点について多くの話がありました。しかし従業員としてここに座っていると「自分にとって何の得があるのか」と思うはずです。これから進む変革で、従業員にはどんな機会や利点があるのでしょうか。
Francine Katsoudas: とても興味深い問いです。あまり口にされないことですが、企業の中では、破壊的な変化が成長と能力開発の素晴らしい機会を生み出すことがあります。それは私たちが積極的に取り組むべきことだと思います。Joanneさんも先ほど言っていましたが、多くの人にとって、自分の仕事の質や自分が生み出すインパクトこそが原動力になります。そして自分をより良くしてくれる道具があるなら、それは間違いなく積極的に取り入れるべきものだと思います。
同時に、従業員の立場からは、身につけなければならない新しい習慣もあると思います。私たちは今、学ぶことにもっと多くの時間を使わなければなりません。Ciscoで気づいたことがあります。私たちは、毎月第2水曜日の4時間を、従業員が研修を受けたり学んだりするためだけに充てる取り組みを始めました。というのも、従業員は「忙しすぎて研修を受ける時間も学ぶ時間もない」と言うものだからです。これは新たに鍛えなければならない筋肉なのだと気づき始めているところです。
そして最後に申し上げたいのは、今日も話に出ていましたし、舞台裏でも話していたことですが、信頼は非常に重要なテーマで、それは会社の中にも存在するということです。「自分の仕事がどう変わりうるかについて話したい」「身につける必要があるスキルについて話したい」と言えるには、信頼がなければなりません。ですから、そこにどう焦点を当てるかが、雇用主として私たちが取り組むべき決定的な要素になると思います。
Hilary O'Meara: ありがとうございます。つまり、この変化を経る中で、私たち全員に利点があるということですね。これも舞台裏で話していたことですが、仕事は完全に変わり、設計し直さなければならなくなります。その過程で、仕事から多くの骨の折れる作業が取り除かれ、より興味深いことに取り組めるようになるのです。
4.3 IBMの「What's Next」チャレンジ、逆メンタリングの気づき、新人育成の再設計
Hilary O'Meara: そして先ほどの点、信頼は非常に重要になりますね。Joanneさん、その点について伺います。現実には、AIに自分の仕事が奪われるという恐れを抱く従業員がいる組織もあります。世間でもそれを確かに感じ取れます。IBMで変革を進める中で、どうやって信頼を築き、保ってきたのですか。人々はどう反応し、どうやって彼らをその旅に一緒に連れてきたのでしょうか。
Joanne Wright: Hilaryさん、私たちがしたのは、「あなたを最も生産性の高い従業員にしたい」と伝えることでした。社内では、私たちの社内技術の取り組みを「What's Next」と呼んでいます。そこで「次の挑戦」として、夏の初めに2週間を確保しました。休暇に入る直前の、Franさんが言っていたような、少し学ぶための時間を自分のために取れる時期です。そして「自分の職務でAIを何に使うか教えてほしい」と呼びかけたのです。
興味深いと思ったのは、まず、Hilaryさん、会社全体にとてもよく似た種類の職務がたくさんあるという気づきを従業員が与えてくれたことです。実際に本当に優れたユースケースを考え出して、すぐに展開できるのです。アイデアを考えた時点から、2週間後にはそれが展開されているのを目にすることになります。そしてそれが、と思います。私たちには28万人の従業員がいますが、これは火をつけ、わくわくさせ、恐れを取り除かなければならない非常に多くの人々です。そこで少しコンテスト形式にして、優れた提案や推薦をグループにまとめ、それを展開しました。今年で4年目になります。
人々がわくわくするのは、互いの一日の過ごし方を見られることです。メールやカレンダーの扱いが賢くなるといったことではありません。それは私たち皆が、従業員に提供したい恩恵だと認識していると思います。そうではなく、自分が情熱を持って取り組んでいる職務の中で、どうすればより良い自分になれるのか、ということです。私たちは彼らに、自分がこの変革の一部であることに情熱を感じてほしいのです。そして彼らのスキルと好奇心こそが、次の世代をつくっていくのです。
昨夜も話していたのですが、私はIBMに20歳のときインターンとして入りました。ですから長くIBMにいますが、調達部門に入ったときのことを今でも覚えています。グラスゴー大学を出たばかりで、信じられないほどの熱意を持って「戦略的調達をするんだ、素晴らしい価格計画を立てるんだ、自分がもたらせるインパクトを示すんだ」と思っていました。ところが実際には、日々の仕事の多くが、発注書の発行、発注の督促、請求書の照会対応といったことだと気づいたのです。人々に本当は何をしたいのかを話してもらうと、彼らが望むのは、データがきちんと整理されていて本当に良い判断を下せること、そして今私たちがしているような、戦略的な価値についての対話にはるかに多くの時間を使えることだと思います。ですから私たちは、人々が消化しやすい形で研修と教育を提供し続け、絶え間ないイノベーションと創造性という好奇心の旅へと連れていけるよう、本当に力を入れています。
Hilary O'Meara: ただ、一夜にして起きたわけではないようですね。4年かかったとおっしゃっていますから。
Joanne Wright: ただ、最初の1年について言えば、Franさんとも話していたのですが、去年の今頃どこにいたかを考えてみてください。そして2027年末までにどこにいるかを考えてみてください。
Hilary O'Meara: そうですね。
Joanne Wright: その速さとペースは、本当に指数関数的だと思います。
Hilary O'Meara: なるほど。
Joanne Wright: 正直に言って、恐れは「導入するために自分に何ができるか」という問いによって、ほぼ取り除かれつつあるように思います。「自分に何ができるか」です。今朝、信頼を確保すること、アクセス制御とガバナンスを確保することについて話がありました。そうしたすべての議論を一つにまとめてインパクトを生み出すには、本当に人々に向き合い、彼らが未来にわくわくできるようにする必要があると思います。
Hilary O'Meara: ありがとうございます。もう一つ聞こえてくるのは、学ぶための時間を確保する必要があるということですね。お二人ともそうおっしゃっていました。そして多くの組織の文化の一部になっている自主的な学びがあり、さらに仕事を設計し直していく中で、実際の業務を通じて人々を一緒に連れていくということもあります。いずれにしても、リーダーシップ、コミュニケーション、研修、リスキリングのすべてが、恐れを取り除くうえで本当に重要だということですね。
Joanne Wright: それに、私がかつてそうだった新しいインターンと、私のように長く在籍している人たちを混ぜ合わせることもそうかもしれません。
Hilary O'Meara: そうですね。
Joanne Wright: そのすべての良いところをどう一つにまとめるか。それはわくわくすることだと思いますし、各国やグローバル市場に出ていくと、それが形になっていくのを見る素晴らしい機会がよくあります。
Hilary O'Meara: インターンの話が出たので、別のパネルでも聞かれた質問ですが、もう一度聞かなければなりません。誰もが尋ねる質問だからです。子どもたちがちょうど働き始める年頃になっている人にとっては、誰もが気にかけていることです。若手人材、つまり次の世代の新卒者に仕事はあるのか。それは若い人たちが抱いている不安です。Anthonyさん、実際に何が起きているのかを示すデータをお持ちなので、おそらくあなたが最適だと思います。Joanneさんの話も踏まえて、若手人材についてのあなたの見方をぜひ聞かせてください。
Anthony Moisant: 少しそれを踏まえてお話しすると、世界的に見ると、インターンシップや見習いの機会を得るのは確かに難しくなっています。
Hilary O'Meara: そうですか。
Anthony Moisant: ここアイルランドでは、実はかなり成果が出ています。私たちが目にしているのは、これが経済の健全性にとって差し迫った脅威だという認識が、産業界にも公共部門にも広がっていることだと思います。ですから、かなり大きな注目が集まっていると思います。世界的に見ても資金はかなり投じられていますし、EUでも確実に真剣に受け止められています。EUの他の地域では、インターンシップの割合がかなり落ち込んでいるのが見られます。しかしアイルランドは何かをつかんでいると思います。今朝伺ったことは本当に重要だと思いますが、私たちは実際に3年先、5年先、10年先の未来に向けて投資しているのです。3年前、4年前、5年前に、今と同じような投資をしておくべきでした。その判断は逃してしまいましたが、今後これだけの投資を活かしていこうとしているのを見るのはわくわくします。
Hilary O'Meara: Indeedでも、当然ながら新卒者を求めていて、組織にとって本当に重要な存在だとおっしゃっていましたね。そこをもう少し詳しく話していただけますか。
Anthony Moisant: 信じられないほどです。新しく入ってくる人は、過去の古い土台に縛られていません。私には23歳の娘がいるのですが、彼女はChatGPTを使って私と言い争います。
Hilary O'Meara: 本当ですか。
Anthony Moisant: ある議論をしていて、夕食の席でのことです。わが家の夕食の会話はこんな感じなのですが、私が「すごいよ、Google SheetsにAIが入ったんだ」と言いました。すると娘が「なんでそんなに興奮しているの」と言うので、私は「これでこれもできるし、あれもできる。Excelでそれをするのがどれほど大変だったか、信じられないだろう」と答えました。
Hilary O'Meara: なるほど。
Anthony Moisant: 私はとても興奮していて、何か革新的なことを見つけたと思っていました。すると娘は私を見て「でも、そもそもなんでスプレッドシートが必要なの」と言ったのです。
Hilary O'Meara: まあ。
Anthony Moisant: そして彼女は、私が何年も何年もかけてやってきたことを、ChatGPTの自動化を使って、ほとんど一瞬で再現してしまいました。
Hilary O'Meara: そうなのですね。
Anthony Moisant: 彼女に必要だったのは、何をする必要があるのか、そのワークフローが本当は何なのかを導くための、私の専門知識のほんの一部だけでした。それで私にわかったのは、自分にはメンターが必要だということです。インターンシップが必要なのです。実際には、インターンに自分のメンターになってもらう必要があるのです。
Hilary O'Meara: なるほど。
Anthony Moisant: 私が自分の判断力や経験を新入社員に伝えようとすることはもちろんできます。しかし実際には、その逆のメンタリングから、私は非常に多くの価値を得ています。それは今後私たちが築いていくべきものだと思います。
Hilary O'Meara: では、今卒業してくる人たちに、どんなスキルを求めるべきだと思いますか。今日の時点で、大学を出て誰が仕事を得ているのかを示す兆候は何か見えていますか。
Anthony Moisant: まだ形成途中だとは思いますが、Joanneさんが何度か言っていたことの一つに、好奇心の強さがあります。適応力、学びたいという意欲です。今のイノベーションの速さは本当に驚くほどです。学ぶことを愛し、その過程を愛さなければなりません。それに全身全霊で取り組む必要があります。ですから、もし今日新入社員を評価するとしたら、その人の好奇心がどれほど強いかを見ると思います。
Hilary O'Meara: ありがとうございます。ほかにどなたか。Ciscoでは新卒者の採用を続けておられますか。
Francine Katsoudas: 続けています。Anthonyさんの指摘のとおり、こういう言い方はよくないかもしれませんが、企業は常に新入社員を積極的に取り入れていくと思います。世界がこれほど速く変わっているときには、違うスキル、違う経験が必要になるからです。新入社員をめぐる議論はかなり二者択一的だったと感じています。いったん採用を控えた時期があったかもしれませんが、それは多くの企業が、どの職務に賭けて投資するのかを理解しようとしていたからだと思います。しかし、採用の観点からは、私たちは非常に強気だと申し上げたいと思います。
ただ、もう少しやるべきことがあるとも思います。昨夜、とても面白かったのですが、何人かで自分の勤続年数を話したらAnthonyさんを驚かせてしまいました。そして、それぞれがどうやって今の会社に入ったかを話していたのです。私がCiscoに入ったとき、一次の技術サポートをしていましたが、その職務は今はもう存在しません。しかし存在しているのは、その次のレベルです。ですから今では、私たちの人材はレベル2へと移っています。それが何を意味するかというと、入ってくる人材に対しては、技術を使って、ティア1がどんな仕事だったのかを教えることになるのです。そこにはたくさんの機会があると思いますし、企業として私たちは、これからも常に入ってくる人材に目を向けていきます。
Hilary O'Meara: ありがとうございます。今の話はいいですね。確かに一度採用を控えた時期はあったと思いますが、それが変わりつつあると思います。例えばAccentureでも、今年は昨年より新卒者を10%多く採用しています。人にそう話すと「うちもです」と言われます。ですから変わりつつあることを期待しています。私はいつも、Accentureに入ったときにコピー取りをしていたことを思い出します。今ではもう誰もコピーを取りません。大事なのは仕事を設計し直し、Franさんが言ったように、より価値の高いところへと上がっていくことなのです。
4.4 文化が差別化要因になること、AIの価値実感13%と職種の未来分析
Hilary O'Meara: Maureenさん、未来について考えてみてください。私たちはAIを取り入れ、仕事を変革し、どんどん前に進めています。もし本当に人と機械が肩を並べて一緒に働く形を適用し、それをうまくやれたとしたら、実際のところ、どの組織にとっても差別化要因は何になるのでしょうか。そして新しい人材を引きつけ、引き留め続けるにはどうすればよいのでしょうか。
Maureen Walsh: 文化です、Hilaryさん。そして人、人間です。今日何度も言われてきたことですが、こうしたすべての中で人間の要素は信じられないほど重要です。市場とはそもそも、規模を伴った人間関係です。そしてAIは、その進歩を加速させる素晴らしい手段です。ですから、将来本当に繁栄する企業や人々は、本当に強い文化を持っている企業だと思います。そのためには、私たち全員が職場でのあり方を本気で変え、継続的に学び続けなければなりません。
今こそ人々が自分の強みを発揮する時だと思います。今日伺い、議論してきたことすべてを考えると、AIが、人々がしていたかもしれない定型的な仕事をより多く担うようになるので、人々は組織の中で本当に自分の強みに集中できるようになります。ですから、外の起業家だけでなく、社内の起業家もずっと増えると思います。それを育てていけるようにならなければなりません。そこでは信頼が大きな役割を果たします。人々が不安を感じているのは間違いないからです。ただ私は、人々がAIを受け入れれば、定型的な仕事の一部が取り除かれることで、本当に違うものを生み出すことに集中できるようになると理解すると思っています。組織の階層的なあり方も、以前のようなものではなくなると思います。人を第一に置き、それをすべてまとめ上げて、本当にグローバルな規模で増幅していくことになるでしょう。文化は複製できません。この会場にいるすべての企業が素晴らしい文化を持っていることは疑いありません。しかし、スキルと可能性をどう受け入れるかという点で、どの文化も一つひとつまったく違います。それが今後の進み方を本当に左右すると思います。そしてスキルを第一に置くアプローチが、決定的に重要になると思います。幅広いアクセスも同様です。
それから、Hilaryさん、少しよろしいでしょうか。Anthonyさんがたくさんの論点を挙げてくれましたが、私たちはもう一歩さかのぼって、より若い生徒たち、例えばトランジション・イヤーの生徒たちについても考える必要があると思います。こう思い出したのは、今日ここに、Clonmel出身のStripe Young Scientistの受賞者が来ているからです。この例を挙げるのは、彼女が本当に才能に溢れているからです。彼女は現実の生活の中で共感を生み出すプログラムを開発しました。共感は常に最初に来なければならないものなので、それはとても重要です。そしてStripeが彼女にそれを可能にしていることは信じられないほど素晴らしいことです。実は彼女は私の娘と同じクラスで、昨年、彼女がミュージカル版『シュレック』でフィオナを演じるのを舞台で見ました。なぜこれを話すかというと、スキルの話をするとき、これから必要になるスキルは、そうした人間的なスキルだと思うからです。ですから、あの若い人がこれほど信じられないような技術革新を生み出し、同時にミュージカルのようなことができるよう学校でも目をかけてもらっていると知って、私は未来に大きな自信を持っています。それを雇用の話にも戻すと、雇用主として私たちは、そうした種類のスキルを自分たちの文化に加えることに本気で焦点を当てる必要があると思います。
Hilary O'Meara: 文化を選び、「起業家」という言葉を使ってくださったのがとても良いと思います。それはきっと、会社の使命と目的、つまり最終的には文化によって動かされるものに、人々が本当に取り組めるよう解放しているからですね。とても重要なことだと思います。ほかに同意される方や、別の考えをお持ちの方はいますか。Joanneさん、どうお考えですか。
Joanne Wright: Maureenさんが文化を挙げてくださったのは素晴らしいと思います。公平に言えば、私たちは技術について多くを語りますが、その多くは実は行動の問題で、リーダーシップの問題であり、人々が成長でき、能力を伸ばせると感じられる文化の問題なのです。それは今日一日を通して私たちが交わしてきた議論の多くに関わっていると思います。
Hilary O'Meara: ありがとうございます。つまり、リードし、人々に関わってもらい、取り入れてもらい、そして文化を推し進めることが、おそらく将来の差別化要因になるということですね。そろそろ終わりに近づいています。Franさん、要点をまとめる意味で、会場の皆さんに向けた重要な持ち帰りのメッセージ、あるいはアドバイスを一つお願いします。ほかのパネリストの方もどうぞ加わってください。まずFranさんから。
Francine Katsoudas: 今の最後の点を受けて申し上げると、技術に焦点を当てすぎないよう注意しなければならないと思います。技術はとても重要です。しかしCiscoで私たちが得た気づきがあります。私たちは準備状況についての調査を行い、世界中を見渡して、企業がAIからどれだけの価値を得ているかを調べました。そして昨年の時点で、AIから本当に価値を得ていると感じている企業は13%にすぎないことがわかりました。ですから持ち帰っていただきたいのは、インパクトに焦点を当て、使命のために大きなことをどう成し遂げるかに焦点を当てれば、本当の進歩が見えてくるということです。そうすれば議論は技術から少し離れ、人と、私たちが実現しようとしていることに焦点が移ると思います。私たちは実験の段階という素晴らしい時期を抜け出したと思いますが、成果のための実験こそが、これからも私たちの取り組みを後押ししていくのだと思います。
Hilary O'Meara: その取り組みを進めるうえで、先ほど話していたとき、Ciscoで将来どんな職務が必要になるかを本格的に見極め始め、それに備えているという話をされていましたね。それは会場の皆さんにもぜひ聞いていただきたいと思いました。将来の職務が何なのかを本当に明確にするために、どんなことをしているのか少し教えていただけますか。
Francine Katsoudas: わかりました。私たちはパートナーと一緒に約80の技術職について調べてきました。これは本当に素晴らしい取り組みです。今私たちがしようとしているのは、例えばサイバーセキュリティ・アナリストのような職務を取り上げて、「2023年のアナリストはこういう仕事をしていた。そして2026年にはこういう仕事をしている」と示すことです。そこでわかるのは、非常に力強いことですが、アナリストが傾向や問題を見つけるためにしていた仕事の多くが、今では彼らに提示されるようになっていて、より戦略的なレベルで活動できるようになっているということです。こうした例を共有すると、他の人たちも自分の職務を見直し、それがどうなりうるのかという未来に向けて舵を切れるようになることがわかってきました。
私たちが気づいたことの一つは、スキルについて、あるいは仕事そのものについて話すのは、私たちにとってそれほど自然な会話ではないということです。そしてそれこそが、組織が未来への道筋を描けるよう本当に手助けするために、私たちが社内で築いていかなければならない能力の一つだと思います。
Hilary O'Meara: そうですね、私も同感です。私たちは皆、自分の組織で必要な職務がどこへ向かうと考えているのかについて本当に意図的であるべきで、そこへ到達するための計画を持つべきだと思います。それがおそらく、このパネルとしての行動の呼びかけだと思います。ただ、時間切れです。時計が赤になってしまいました。皆さん、ご清聴ありがとうございました。そしてこの素晴らしいパネルの皆さんに拍手をお願いします。
5. 対談:AIスタックとインフラ(Keith Strier、Owen Vaughan)
5.1 導入映像、デジタルインフラの意味の変化と、地域の信頼・人材というボトルネック
司会: 目の前にある機会は大きなものですが、それに伴う責任も大きなものです。アイルランドと欧州がAIの未来を形づくっていくうえで、成功はイノベーション、競争力、信頼をいかに組み合わせるかにかかっています。その未来と、それを築くために私たち全員が果たせる役割を振り返るために、こちらの映像をご覧ください。
映像: あらゆる技術革命は新たな可能性を生み出します。そしてアイルランドは、適応し、革新し、先導する力を繰り返し示してきました。何十年にもわたり、アイルランドは欧州のテクノロジーの物語の中心にありました。産業の変革、デジタルの接続性、クラウドコンピューティングという相次ぐ波を通じて、人材、開かれた姿勢、イノベーションに支えられた経済を築いてきました。どの波も新たな機会をもたらし、新たなスキル、新たな考え方、新たな大志を求め、今日私たちが知るアイルランドを形づくってきました。そして今、次の大きな変革がやって来ています。AIは、組織の運営のあり方、意思決定のあり方、価値の生み出され方を変えつつあります。新しい技術が生まれ、人と機械の協働が進化し、産業全体が再構想されています。アイルランドは、この未来を形づくるのに比類のない立場にあります。研究者は応用AIを前進させ、企業はあらゆる分野でAIを展開し、成長を続ける新しい世代のアイルランドのAI企業が世界の舞台で競争し、労働力はAIが支える経済で成功するためのスキルを身につけています。しかしAIにおける長続きするリーダーシップは、イノベーションだけで決まるものではありません。成功する国とは、画期的な技術と国民の信頼を、グローバルな競争力と責任あるガバナンスを、経済成長と人間の利益を、組み合わせることのできる国です。それがAIに対する欧州のアプローチであり、アイルランドはそれを形づくる一翼を担っています。人々がその背後にある仕組みを信頼しているからこそイノベーションがより速く進む、そんな未来です。
司会: AIのブレークスルーはすべて、ほとんどの人の目に触れない何層もの基盤の上に成り立っています。計算処理を担うチップから、モデルを訓練し提供するプラットフォーム、そして技術を私たちの手に届ける製品に至るまでです。これからこのスタックがどう組み上がり、生のインフラを知能に変えるには何が必要なのかを、AMDのSenior Vice President of Global AI MarketsであるKeith Strierさんと、Mercury EngineeringのCEOであるOwen Vaughanさんと一緒に探ります。
モデレーター: こんにちは、Keithさん、Owenさん。この対談をとても楽しみにしていました。AIを世の中で実現するために本当に必要なものについて、二つの重要な角度から話を伺えると思うからです。Owenさんから始めます。すべては物理的なインフラから始まらなければならないからです。あなたはダブリンに本社を置くエンジニアリング会社Mercuryの CEOで、多くの国でこうした重要インフラを手がけておられます。ただ最初に伺いたいのですが、私はインフラという言葉を何気なく使っているものの、それが何なのか本当に理解しているとは思えません。実際にデータセンターを建てている会社の立場から、定義していただけますか。
Owen Vaughan: データセンターの分野では、「デジタルインフラ」という言葉自体が新しいものだと思います。私たちの会社が最初のデータセンターを建てたのは1999年です。その道のりの間ずっと、それはおそらくデジタル資産と呼ばれていて、企業はデジタル資産を持っていました。それはクラウドの導入を支えるため、そして私たちが皆歩んできたデジタルトランスフォーメーションのさまざまな側面を支えるためのものでした。変わったのは、規模があまりにも大きくなって、それがまさにインフラになったことです。私たちが進んでいる道のりの成長、発展、進化を支えるのに必要なデータセンターの規模を考えると、私たちは今、重要インフラを扱っているのです。データセンターは重要インフラのスタックの一部になりました。つまり、それを支えるインフラへの依存度がより高まり、私たちがそのインフラにより依存するようになっているということです。電力、エネルギー、水です。だからこそ、それが道のりの中でより注目される点になっているのです。ですから、インフラであると言うとき、つまりデジタルインフラとデータセンターがスタックの一部であると言うとき、それは新しい用語なのです。
モデレーター: 今、土地、水、電力を挙げられました。ほかにも送電網への接続、変圧器、開閉装置など、さまざまなものがあります。データセンターを増やしたいという目標にとって、その中で最も制約になっているのは何だと思いますか。
Owen Vaughan: 二つの領域があると思います。その一つは、おそらくそれら以前に来るものです。データセンターを建てようとする地域社会の信頼を得なければならないということです。自分たちが入っていく地域社会を理解し、人々がどう感じているのか、データセンターに何を求めているのかを理解しなければなりません。その次に、私自身の経験では、それは人です。人材を育て、訓練することです。適応力があり、地域で育てることができ、その後も他の多くのインフラに貢献できる人材です。電力のことは誰もが耳にしますし、水のことも誰もが耳にします。どれも予算があります。しかし時には一歩引いて、それ以外にどんな影響があるのかを考えるのも良いことだと思います。ですから私たちにとってのボトルネックは、建設する地域社会の信頼を確実に得ること、そして訓練し育てられる人材がいることです。結局のところ、どのブームにもそれぞれに必要なものがあります。かつての私たちは、いわばつるはしとシャベルを売る側でした。今は試運転エンジニアであり、システムインテグレーターです。こうした機械に命を吹き込み、支えるのが私たちの仕事です。そしてそれを、協調的で、地域社会を巻き込んだ環境で行わなければならないのです。
モデレーター: 信頼は今日一日を通じて何度も出てきました。素晴らしいことだと思います。今朝、欧州委員が話していたEUの価値観と響き合うからです。Keithさん、政策や信頼の構築については後ほど伺いますが、Owenさん、もう少しあなたに伺います。今では、データセンターが建設されると聞いたとき、地域社会がそれをどう見て、どう考え、どう受け入れるかについての見方や視点に変化が起きています。ということは、現場での利害関係者との関わりが、ほとんどあなた方の事業の新しい部門のように、中核的な仕事の一部になりつつあるということでしょうか。
Owen Vaughan: それは本当に、本当に重要なことです。どんな地域社会にとっても重要ですし、私たちが建設を請け負う顧客にとっても重要ですし、私たちにとっても重要です。地域社会と十分に早い段階から関わり、それを推進していくことが大切です。それが最初の一歩です。そしてその最初の一歩は、入っていく地域社会の声に耳を傾け、彼らの懸念が何なのかを理解すること、その懸念を理解しようと努めることです。最終的には、私たちは多くの人を連れていきますが、このインフラを建設するために、地域社会の多くの人々や、その地域の多くの企業を活用します。私たちにとって大きな成功の一つは、その地域社会の中で人を育てているときです。技術系の専門学校や大学と協力し、さまざまな人々が入り混じる中で仕事をしているときです。
今日のパネルの中で、私はおそらく少し違う立場から来ていると思います。私たちにはブルーカラーとホワイトカラーの労働者がかなり混在していて、ブルーカラーの労働者は新しいスキルを身につけ、技術と建設の現代的な手法を学んでいます。それはデータセンターが完成した後も、その地域で、社会全体に応用が利くものです。そして彼らはそのスキルを使って、データセンターだけでなく、社会がインフラ全般で直面することになる課題に向けて、経済に貢献し返すことができるのです。
モデレーター: ブルーカラーと言うとき、それは見習い、例えば配管工の見習いのような人たちのことですか。
Owen Vaughan: そうです。配管工、水道工事の作業員、電気技師、技術者です。今年は100人を超える見習いを受け入れたと思いますし、新卒者向けのプログラムでも90人を超える新卒者を受け入れたと思います。そして私たちがしようとしているのは、彼らを一緒の環境に置き、互いから学べるようにすることです。最高の学びのいくつかは、自分たちのいる環境をこちらよりよく理解している地元のブルーカラーの労働者から得られると思います。だからこそ、建設する地域社会の声に耳を傾けることがとても大切なのです。
5.2 「十分な計算資源」は定義できない:OECDでの検討から
モデレーター: ありがとうございます、Owenさん。Keithさん、今のは物理的なインフラのごく一部を、非常に地域に根ざした形で見たものでした。あなたはそれとは違う規模で仕事をしておられます。政策について発言し、政府と協力しています。OECDのAI計算資源に関する専門家グループの共同議長を務め、国家のAI計算能力に関する青写真の作成にも関わりました。そこで伺いたいのですが、EUやアイルランドにとって「十分な計算資源」とは何でしょうか。十分な計算資源について考えるとき、政府はよく何を誤解するのでしょうか。
Keith Strier: これは見た目より複雑な問いです。計算資源のことはいったん脇に置きましょう。例えばあなたが保健大臣で、国のレジリエンスと健康のためにきちんと計画を立てようとしているとします。病院がいくつあるかを数えるでしょうし、人工呼吸器がいくつあるかも確認するでしょう。医療従事者がどれだけいるかもおおよそ把握しているはずです。パンデミックのような事態に対処する能力がどれだけあるかを棚卸しするのは、比較的簡単です。それがいつ起きるかは予測できないかもしれませんが、自分たちの対応能力についてはかなりよく理解しています。人の部分も、物理的な部分も、ベッドの数なども測れます。ですから首相が大臣に「備えはできているか」と尋ねれば、大臣は「この部分はかなり整っています。これについてはもっと必要です」と答えられるわけです。その問いに対する答えがあるのです。
計算資源については、そのレベルの明確さと理解が存在しません。驚くほど難しい問いの一つなのです。これは何年も前から出てきている話です。私がOECDとこの問題に取り組み始めたのは2021年か2022年ごろで、それがこのタスクフォースを立ち上げた目的のすべてでした。そして5年たった今も、私たちはその問いに対する良い答えを持っていません。より良いデータはありますが、優れた答えはないのです。その理由はこうです。計算資源は一つのものではないからです。単純化されすぎているのです。GPUを積んだ巨大なデータセンターだけが計算資源ではありません。それは計算のあり方の一つにすぎません。単一の測定指標、KPIについて合意することは、ほぼ不可能です。1台のコンピューターの性能をどう測るかはわかっています。世界にはそのための方法があります。このコンピューターがあのコンピューターより速い、こちらのほうがエネルギー効率が高い、といったことはわかります。しかし、国レベルの計算能力という考え方は定義できないのです。
それにはさまざまな理由がありますが、その一つは、コンピューターがどこにあるのかさえわかっていないということです。そもそもどう定義するのでしょうか。外国企業があなたの国に巨大なコンピューターを置いたら、それはあなたの国の計算能力の一部なのか、それとも単にその外国企業の計算能力なのか。計算能力の一部と見なすには、政府が所有していなければならないのか。実際に掘り下げ始めると、こうした問いがいくつも出てきて、誰もが「誰にもわからない」となるのです。
ですから、ご質問への答えはこうです。産業界も政府も、何年もこの問いに取り組んできましたが、ほぼ不可能だということです。では、それで私たちはどこに置かれるのか。それは、計算資源をどれだけ持つべきかという問いへの正しい答えは「買えるだけ買え」だという、なんとも物足りない答えです。単純化しすぎに聞こえるかもしれませんが、それが実際の議論なのです。小さな国で予算が500万で、使えるのがそれだけなら、500万を使って、そこから進めればいい。もっと大きな経済で10億ドルあるなら、10億ドルを使えばいい。簡単な科学的な答えはありません。答えをでっち上げることはできますが、要するに、各経済のニーズを満たせるだけの計算資源は地球上に存在しないのです。需要は供給を何桁も上回っています。ですからこの段階では、投資したいと考える国や企業のニーズを満たすために、戦略的に配分していくしかありません。誰もがそうしたいわけではありませんが、先回りできるという話ではないのです。それは実際には不可能です。
モデレーター: そして、ただ「とにかく早く、できるだけやろう」と言えばいいという話でもないわけですね。戦略的でなければならないと。
Keith Strier: 早くできることなど何もありません。Owenさんが知っているとおり、データセンターの建設は、何か月から何年にもわたる多くの計画、投資、実行を必要とする複雑なプロセスだからです。例外もあります。許可さえあれば、電力の通った草地にモジュール型のデータセンターを置いて、30日から45日以内に稼働させることもできます。そうした小規模な形もあります。しかし大規模なデータセンターは、巨大な、本当に巨大なインフラプロジェクトです。計算資源は消費者向けのものではありません。ノートパソコンとは違います。データセンターを埋め尽くすこうしたスーパーコンピューターは、人類がこれまでに発明した中で最も複雑な機械です。それを設置し、構成し、稼働させ、動かし続けるのは途方もない労力が必要で、機械そのものと同じくらい、それに必要な人材が重要です。ですから全体として、これをうまくやるには長い助走が必要なのです。今先頭に立ち始めている国々が、3年、4年、5年前から本腰を入れ、こうした取り組みの土台を築き始めていたのはそのためです。これを素早くやるのは難しいのです。
5.3 自然・気候への配慮、人間の知能という天然資源、主権と相互依存、人材育成
モデレーター: この後、戦略的なアプローチを持てば国の中にそうしたレジリエンスを築くことは可能なのか、という話に戻りたいと思います。ただ、今私たちはインフラについて話していて、AIを重要インフラとして、そしてデータセンターをAIに必要なインフラの一部として扱っています。私はさらに、自然もまた重要インフラだと言いたいのです。データセンターが機能し、どこに置かれるかなどを決めるうえで、私たちは自然に依存しています。そこでOwenさんに伺いたいのですが、これは先ほどの地域社会との関わりの話にもつながると思います。AIのためのインフラについて話すとき、気候危機と自然の危機への配慮はどこに入ってくるのでしょうか。
Owen Vaughan: 欧州について言えば、許認可や計画のプロセスはかなりしっかりしていると思います。それらは、そしてこれを心に留めておかなければなりませんが、データセンターが地域社会に建設されることがもたらす影響と、それに対する受け止め方に焦点を当てています。自然の観点では、私たちが協力している顧客も私たちの会社も、建設工程で材料をリサイクルすることや、気候への影響を減らすために最も無駄のない建設手法を使うことに力を入れています。それでも影響はあります。私たちはその影響を強く意識し、その影響に対処する手立てを講じなければなりません。
一例を挙げると、私たちのある施設では、地域社会との関わりを通じて、その周辺環境の中に生息地をつくりました。また、水の使用についての理解も深めました。データセンターでの水の使用はよく議論されます。しかし現代のデータセンターのほとんど、そして新しく設計されたデータセンターのすべては、水を再利用し循環させていて、その水を補充するのはおそらく2、3年に1回程度です。つまり閉鎖循環のシステムなのです。地元のゴルフ場で使われる水のほうが、地元のデータセンターで使われる水より多いでしょう。ただ、それはおそらく、私たちがもっとうまく伝え、地元の環境が何なのかについての理解を深めなければならないという視点に立ち返らせてくれます。そして、自分たちの地域社会を一番よく知っている地元の人々の声に耳を傾け、この施設が地域社会にどんな影響を与えると感じているのかを聞き、その環境の中で自然を支えるためにどんな取り組みができるのかを考えることです。データセンターに限らず、農業であれ、今社会で起きている他のどんなことであれ、私たちは今、自然に与えている影響にこれまで以上に注目し、意識するようになっています。ですから社会全体として、その一部がデータセンターですが、自然に影響を与えないよう、私たちが自然と地域社会を育み続けられるよう、もっと多くのことをしなければなりません。
モデレーター: つまり、自然の面で純増を実現できる可能性もあるということですね。Keithさん、より国家的な、あるいはより世界的な観点で考えたとき、AIのエネルギー需要を、さらに状況を悪化させることなく満たせる可能性はあると思いますか。
Keith Strier: あなたが「天然資源」という言葉を出してくださったのが良いと思います。そこはもう少し掘り下げるべきだと思うからです。それは大きな言葉で、いくつかの異なる形で分けて考えられると思います。土地、電力、水という側面があります。そしてもう一つ、国にとって最も大きな天然資源、最も活用されていない資源は、その国の人間の知能だという事実があります。そしてどの国にとっても問題は、自らの資源を守る方法だけでなく、その資源の価値を引き出す方法でもあります。単に搾取的なものにするのではなく、その国にとって有益な形でそれをどう行うかです。
ですから、水と電力の消費に最適な設計を使ってデータセンターを建てたいと考えるのは当然です。それと同時に、その能力の一部が国内で使われ、すべてが海外に輸出されてしまわないようにしたいはずです。それが常に悪いことだというわけではありませんが、どれだけの電力を持っているかによります。電力が豊富な小国の中には、実際に他のものと同じように計算資源を輸出できる国もあります。それは新しい形の貿易であり、彼らにとっては良いことです。電力が限られている他の国は、その一部を手元に残しておくよう努めるべきです。自国の中で主権的な目的のために計算資源を使えるようにするのです。そうでなければ、時間とともに、石油を輸入するのと同じように計算資源を輸入することになります。まったく同じことです。実際、将来的には、国がAIの独立性を持っているかどうかで考えるようになると思います。
モデレーター: そうなのですね。
Keith Strier: あるいは持っていないかどうかです。AIの純輸入国なのか、純輸出国なのか。これはまだ起きていませんが、おそらくそういう方向に向かっていると思います。そして世界は広く、さまざまな卓越した拠点や能力があります。ですから天然資源の問いは、その一部は保全と、それを最大限に活用することに関わっています。同時に、このバリューチェーンを通じて人間の知能を引き出すことにも関わっていて、それは私たちがまだ本当には手をつけていない経済的な可能性を生み出すのです。
モデレーター: その点についてもう少し伺いたいと思います。先ほど、あれは個人的に話していたときでしたが、国や地域が、私たちが見ているスタックについて、依存する先を多様化させることについて話しましたね。そこで伺いたいのですが、誰にも依存する必要がないというAI主権の端から、相互依存というもう一方の端までのスペクトラムの上で、欧州はどこに位置すべきだと思いますか。
Keith Strier: 世界は、AIを主権の問題として捉えることに、ここ10年近く取り組んできました。最初から「主権」という言葉が使われていたわけではありません。当初はむしろ、国家としてのAIの能力や国家AI戦略を中心に始まりました。それが議論の始まりでした。そして次第にAI主権の問題へと発展し、今の問いは「それは何なのか」ということになっています。当初は経済的な要請の側面が強かったのですが、今では国家安全保障上の要請の側面が強くなっています。あるいは実際には両方です。
ご質問への答えは、完全な主権などというものは存在しないということです。それはほとんどの場合、非現実的です。私たちには大きなグローバル経済があります。高度なコンピューティングには、何十万もの部品が関わっています。たとえここに製造工場があってチップを作れたとしても、それは一つの部品にすぎません。もちろん重要な部品ですが、ほかにもたくさんの部品があります。ですからグローバルなサプライチェーンは重要なのです。そして部品の上にはソフトウェアがあり、ソフトウェアには何層も何層もあります。その周りには人間のスキルと能力があります。そのスタックの何層もの層を考えれば、欧州は自らの利益と安全のために、そのスタックのできるだけ多くの部分で、ますますレジリエントで独立した存在になりたいと考えています。完全な主権は、米国も含めて、おそらく誰にとっても目標ではありません。しかし戦略的に相互依存することは重要です。そして本当に素晴らしい点もあると思います。皆が同じ旅の途中にいます。それぞれ少しずつ違う位置にいますが、私たちはいわば皆一緒にこの中にいるのです。ですから外交の橋を築き、AIを互いの関係を強める手段として使うことは、長い目で見れば、その逆よりもずっと良いことです。私はそちらの方向に向かうと思いますし、そう願っています。
モデレーター: ただ、それは市場に任せておけば解決するというものではありませんね。計画しなければならないものだと。
Keith Strier: 私たちは皆、開かれた市場を望んでいます。競争を望んでいます。競争は素晴らしいものです。しかし政府には果たすべき役割があります。市民を守り、市場を守り、競争が確実に起きるようにすることなど、政府には役割があるのです。それらは必ずしもひとりでに実現するとは限りません。この点について、米国と欧州ではアプローチが違うかもしれません。しかし実際には、この点については強い一致もあると思います。
モデレーター: 最後の質問に移ります。もう時間を過ぎていますが、ここまでボトルネックについて話し、戦略的に計画することについて話してきました。そしてあなたが話していたことの中に、必要な人材の話がありました。現場にいる生産技術者のような、必要な人材を育てることについて、欧州とアイルランドの戦略的な計画としてどんなものを望みますか。
Owen Vaughan: アイルランドは特に、ある時期に海外直接投資から大きな恩恵を受け、それによってその発展の過程でスキルを育てることができたと思います。それがおそらく、この業界に輸出している多くの優れたアイルランド企業の本質になっています。本当に素晴らしい企業がいくつもありますが、その恩恵が見えるのは、海外に出たときだけだったりします。欧州の人間としての私たちの務めは、それを欧州全体に行き渡らせ、より良い集団をまとめ上げることです。
欧州の異なる国々の間で、もっと連携した考え方が必要だと思います。スキルや専門知識がある場所では、必要に応じて人材の移動を確保できるようにする方法もあります。最終的には、一つひとつの組織、一つひとつの国が、それぞれ自分たちの人材を育て続ける必要があります。しかしAIの進化のためのあらゆる種類のスキルをどう育てていくかについては、全体として連携したアプローチが必要です。そして最終的に、私たちが構築しているそのAIは、私たち自身の会社でも、独自のエージェント型AIの開発を通じて事業に成果をもたらし、日々目にしている生産性の向上をもたらしています。ですから、その連携したアプローチを持つことは確かに違いを生むのです。
モデレーター: つまり、大きな可能性があるけれども、それには。
Owen Vaughan: 本当に大きな可能性があります。
モデレーター: ありがとうございます。対談を本当に楽しませていただきました。OwenさんとKeithさんでした。ありがとうございました。
6. パネル:計算・半導体・ロボティクス・量子(John Thornhill、Robin Colwell、Charlotte(Mistral AI)、Jason Lynch、Deepu Talla)
6.1 欧州の計算資源不足と、NVIDIAが示す5層ケーキとフィジカルAI
司会: 本日最後のパネルでは、AIのインフラ要件のもう一つの層に目を向けます。計算、アーキテクチャ、ロボティクス、半導体のイノベーションにおける新たな動きと、欧州の技術力です。Financial TimesのInnovation Editor兼テックコラムニストであるJohn Thornhillさんに再びご登場いただき、IntelでSenior Vice President, Global Government Affairsを務めるRobin Colwellさん、Mistral AIで計算資源分野のHead of Public Affairsを務めるCharlotteさん、Equal1 CEOのJason Lynchさん、NVIDIAでVP兼GM, Robotics and Edge AIを務めるDeepu Tallaさんとの議論を進めていただきます。
John Thornhill: こんにちは。この最後のパネルでは、電力、クラウド、重要インフラについて話します。これまでの議論の流れからすると、活発な議論になりそうなので、最後まで残る価値はあると思います。この議論は、米国と欧州で大きく異なると思います。米国では、データセンターを作りすぎているのではないかという議論があります。欧州はその逆で、明らかに十分に作れていません。世界のAI計算資源のうちEUにあるのは5%未満で、米国は75%です。データセンターを建てるのに、米国では約24か月かかりますが、ドイツでは42か月かかります。許認可や送電網への接続にはより長い時間がかかり、エネルギーコストも高く、欧州は戦略的に不利な立場にあります。しかしAIは、ロボットという形で物理的な身体を持つようになり、ネットワークのエッジへも移りつつあります。特定の領域に特化した、信頼性の高い小型の言語モデルの開発は、欧州にも勝負できる機会を与えるのでしょうか。
Deepuさんから伺います。NVIDIAでは、AIをエネルギー、チップ、インフラ、モデル、アプリケーションの「5層のケーキ」とよく表現していますね。欧州はそのいくつかの層で競争するのに苦労していますが、どこでなら欧州は勝負できると思いますか。特にあなたの上司のJensen Huangさんは、私たちはフィジカルAIの時代に入りつつあると言っています。それは本当に欧州が競争できる領域なのでしょうか。
Deepu Talla: もちろんです。AIをめぐるこの道のり全体が根本的に何なのかを考えると、そこには工場があり、エネルギーを投入して知能を生み出しています。そしてそれは、人類が持ちうる最も価値ある商品だと言えます。では、その知能を手に入れたとして、どれだけ必要なのか。答えは、手に入るだけ多く、であるべきです。そしてその知能で何をするのか。優れた知能を得たうえで、国の中や会社の中にいる人々、エンジニア、マーケティング担当者、クリエイターなどがそれに価値を加えて、さらに大きな価値を生み出せるのです。
5層のケーキに触れられましたが、まさにそのとおりです。エネルギーが最も重要です。それが投入物だからです。エネルギーがあれば、次にチップが必要です。チップの上にはインフラ全体があり、これが本質的には工場です。その上にモデルがあります。今日の登壇者の中にも、オープンモデルとクローズドモデルの両方を手がける方がいますが、どちらも重要です。そして最終的に、それらすべての上にある最も重要なものが、その上に構築されるアプリケーションです。
この1年ほどのAIを見ると、AIはデジタルの領域で本当に役立つものになりました。特にコーディングのようなもので、それがよくわかります。エージェント型AIが本格的に形になり、途方もない生産性をもたらしています。そして最終的にそれをどこまで持っていけるかを考えると、世界のGDPの70%は物理的な世界にあります。原子を動かす必要がある世界です。ですから端的に言えば、それこそが人類の前にある最大の機会だと思います。ですからフィジカルAIは間違いなく次の大きな足がかりで、フィジカルAIに求められる精度、信頼性、安全性の要件は、デジタルのAIと比べて極めて高いのです。ループの中に人間がほとんどいないからです。
John Thornhill: なるほど。
Deepu Talla: そして欧州にとって、これは端的に言って途方もない機会だと思います。労働力不足であれ、製造能力の不足であれ、この自律型のフィジカルAIが可能にするのは、中小企業がこの知能を活用できるようになることです。もはや大企業だけに限られたものではなくなるのです。それが過去の不利な点の一つでした。その観点で、例えばドイツを見てください。私たちは来週、GTC Berlinでドイツに行きますが、ミッテルシュタントと呼ばれる中堅中小の製造企業が1,500社から2,000社あり、この20年間、苦境に立たされてきました。今、彼らには大きな機会があります。アイルランドを見ても、医療の分野があります。こうした知能をすべて取り込み、ここにあるあらゆる人的資本を本当に加えれば、きっとより優れた知能を生み出せるはずです。
John Thornhill: NVIDIA自体も、欧州に非常に強くコミットしていますね。Jensen Huangさんは今週初めにパリにいて、欧州のテック・エコシステムに100億ドル近くを投じると約束しました。資金の規模で言えば、EUのスケールアップ・ファンドのおよそ2倍です。そして多くの欧州の企業に投資しておられます。なぜNVIDIAは、欧州の多くの企業や機関投資家自身よりも、欧州のスタートアップを支援することに熱心なのでしょうか。
Deepu Talla: AIは非常に強力な技術なので、地球上の誰もがうまく使えるようになるべきだと考えています。そしてもちろん、この知能のすべてを非常に効果的に活用するには、5つの層のどこであれ、できるだけ多くの層で地域のエコシステムが必要です。モデルとアプリケーションの層には間違いなくそれが必要です。地域ならではの感覚を持ち、地域の市場の知識などを持つ必要があるからです。ですから、まず大学を含む研究コミュニティから始めます。例えば英国では、大学の研究に5年間で5,000万ドルを拠出することを発表しました。そしてお話に出た100億ドルですが、そのうち80億ドルはすでに投資済みで、残りの20億ドルは今年、ほかの欧州のスタートアップにさらに投資します。まさにその理由から、スタートアップや大学による地域のエコシステムを育てられるようにするためです。そしてもちろん、それらは最終的に大企業へと成長していくのです。
6.2 Mistralの公開重みモデルと産業連携、Intelが見る規制とテック主権
John Thornhill: ありがとうございます。Charlotteさん、欧州はフロンティアモデルを作れないとよく言われます。あなたの会社Mistralは、それを覆そうとしていますね。そして今週、いや先週、新しいモデルを公開されました。それについて教えていただけますか。そして、この大きなAIの競争エコシステムの中に、どう位置を占めていくのでしょうか。
Charlotte(Mistral AI): ぜひお話しさせてください。新しいモデルの名前はLuchonで、これは今日お伝えしに来た明らかに良い知らせです。Mistralでは、AIスタックにおいて重要なのは重要インフラだと強く確信しています。そしてLuchonは1兆パラメータのモデルで、4,000基未満のGPUだけで学習させました。最初の施設があるフランスでのことです。もう一つの良い知らせは、Luchonがオープンだということです。好きなインフラのどこにでも展開できます。オープンウェイトだからです。監査可能で透明性があり、それが欧州のやり方です。4,000基未満のGPUというのは、私たちがここで創造的になれるやり方であり、Mistralがこの取り組みで示したかったことの一つです。
John Thornhill: なるほど。フランスは原子力に巨額の投資をしてきたおかげで、欧州の中でも本当に独自の立場にあり、大統領のおかげで、フランス国内のデータインフラにも多くの投資を呼び込んでいます。しかし欧州全体で見ると、こうしたデータインフラの面で欧州は米国よりはるかに遅れています。それは今、欧州で事業をする欧州企業にとって、どれほど戦略的な不利になっているのでしょうか。
Charlotte(Mistral AI): 私にとっては、それも良い知らせの一部です。欧州には、インフラを建設できる地域があります。フランスがその一つで、おそらく北欧諸国もそうです。Mistralとしても、フランスに施設を開設していて、まもなくスウェーデンでも開設します。それは間違いなく私たちの強みの一つです。また、欧州全域でデータセンターの能力を開発し、整備するのを手伝いたいと熱心に考えている素晴らしい産業界もあります。そして私たちが目にしていることで、おそらく世界の他の地域とはかなり違う点は、私たち自身の顧客が、能力をもっと増やすよう私たちに求めていることです。そのおかげで、ここでのデータセンターの能力の開発規模をより適切に見積もり、計画できるのだと思います。さらに、非常に明確な規制の枠組みが整備されつつあることも良い知らせです。
John Thornhill: わかりました。欧州のもう一つの要素は、米国にあるような規模の企業がはっきり言って存在しないということです。調べてみたのですが、前回確認したとき、NVIDIAの時価総額は約5.5兆ドルでした。同じものを比べているわけではありませんが、アイルランドのGDPは7,200億ドルです。ですから大西洋の両側で、規模には途方もない隔たりがあります。しかしMistralは、ASMLやAirbus、多くの銀行など、他の多くの産業企業と提携しておられますね。欧州でAIを発展させる方法は、もっと複合企業的な構造のような、違うものになっていくと思いますか。
Charlotte(Mistral AI): 欧州の中で資本がもっと自由に流れればいいと願うべきなのは確かです。しかし実際、私たちには同じような資源がないので、別のやり方でやっています。その別のやり方とは、欧州にある大手の産業プレーヤーと、より緊密なつながりを築くことです。Airbusと一緒に未来の飛行機を作るのは本当にわくわくしますし、ASMLがリソグラフィーで頂点に立ち続けるのを手助けするのも、本当にわくわくする挑戦です。それがおそらく欧州の道の一部なのだと思います。
John Thornhill: そうですね。Robinさん、あなたは長い間、技術と政策の接点で仕事をしてこられました。連邦議会でも、ホワイトハウスでも、そして今はIntelでもです。技術を形づくるうえで、規制はどんな役割を果たすと思いますか。そしてそれは大西洋の両側でどう違うのでしょうか。
Robin Colwell: はい。規制には常に、非常に重要な役割があります。政府は常に、均衡を取る役割を担っています。イノベーションを奨励し、それを後押しするためにできる限りのことをすると同時に、目の前にある特定のリスクとのバランスを取るのです。今のEUの具体的な状況を見ると、すべてにとって本当に興味深い時期、いわば支点となる時期にあると思います。私たちは、AIの進歩全体におけるEUのリーダーシップについて話しています。ですから、実際の物理的な製造について、そしてそれをどう後押しできるかについて考えることが、本当に、決定的に重要です。ここでの環境には、それに対するさまざまな課題が数多くあります。ですから政府が今後それをすべて後押ししていくために考えられる、さまざまな創造的な手立てがたくさんあります。
しかし本当に重要なのは、シリコンの物理的な製造です。シリコンは、AIで起きていることすべての、文字どおり屋台骨です。ですからチップの物理的な製造こそが、まさに現実と向き合う場所なのです。Intelは、アイルランドとの長期にわたるパートナーシップと関わりを本当に誇りに思っています。私たちはここで35年以上にわたって現地で事業をしてきました。いくつもの製造工場を建設してきましたが、その中には最新の工場もあり、それはEUで唯一の最先端の製造工場です。ですから、その歴史の上にさらに積み上げていきたいと考えています。私たちはすでに約300億ユーロを投資していて、今年の夏にもさらに50億ドルの投資を発表したばかりです。
ですから、アイルランドとその実績を見ることは本当に重要だと思います。Intelだけでなく、アイルランドは、テック・エコシステム全体を意図的に育てるという点で、本当に素晴らしい仕事をしてきました。そのおかげで、15年前、当時テック業界で大きな議論の的だったデータ主権という要請に応えることができたのです。データセンターの話があり、世界のデータセンター市場におけるシェアの割合はもっと高められるかもしれないとのことでしたが、アイルランドの成し遂げてきたことを見ることは本当に重要だと思います。どれだけのものをすでに築き上げてきたか、そして実際にEUのためにその必要を満たし、顧客を守り、データを域内に置き、データ主権の必要に応えることができてきたか、ということです。そして2026年を迎えた今、議論はもっとずっと、ずっと広い要請へと移っています。それがAI主権、あるいは私がよく耳にするもっと大きな流行語で言えば、テック主権です。ですから、そのすべての屋台骨を物理的に製造し続けることが、本当に、本当に重要なのです。
John Thornhill: 誰かがテック主権を持っていると思いますか。とても流行りの言葉になっていますが、米国でさえ明らかに多くのチップを他に依存していますよね。
Robin Colwell: 米国だけではありません。EUだけでもなく、世界全体、地球規模でそうです。どこへ行っても、こうした話をよく耳にします。これが技術であることを認識することが本当に重要だと思います。それは真に相互につながったグローバルな市場であり、グローバルなエコシステムなのです。そうは言っても、さまざまな地域のリーダーシップを維持し、後押しするためにできることはたくさんあります。主権について語らせるような不安を生んでいるあらゆる状況に対処するためです。その多くはサプライチェーンのリスクに関するものです。私たちはそれについて本当に、本当に率直であるべきです。この業界全体の土台を、世界のごく特定の地域にどれほど依存しているかに人々が気づいているのです。ですから、それはサプライチェーンのリスクとその軽減の話です。しかし前向きな方向性としては、自分の運命を自分でコントロールしているという全体的な感覚もあります。それは米国でもEUでも世界中でも、確かに表明されている望みです。ですから、それを実現するために何ができるのかを考えることが大切です。そして同時に、それを実現するには協力という大きな要素があり、私たち全員が一緒に取り組む必要があることも認識しなければなりません。
John Thornhill: このテック主権の議論が行き過ぎて、業界の効率を損なう危険はあると思いますか。業界がグローバル化しているのには理由がありますから。
Robin Colwell: その危険は常にあります。しかし、政府の側でも、今の業界の側でも、業界と関わってきた全体的な経験から言えば、こうしたテーマのすべてに、両方の側から非常に賢い人々が取り組んでいると思います。そして状況の現実を理解する力も十分にあります。それこそが業界側の私たちの仕事でもあります。人々が検討しているさまざまな政策が、現実の世界でどんな二次的、三次的な影響をもたらすのかを適切に伝えることです。
6.3 Equal1のシリコン量子コンピュータ、欧州量子産業の資本、オープンとクローズドのモデル
John Thornhill: わかりました。Jasonさん、あなたはこの議論にまったく違う視点をもたらしてくださいます。AIの話にも大いに関心をお持ちだと思いますが、本当の主戦場はそこではない、ということですよね。明らかに量子で、それがあなたの作っているものです。あなたの会社と、量子で何を成し遂げたいのかを教えてください。
Jason Lynch: そうですね、Johnさん。今日は一日を通して、AIについての多くの洞察を聞いてきました。やるべきことはたくさんあり、前途には素晴らしい機会がたくさんあります。この日の最後のパネルとして、私はAIの後にも何かがあるということをお話ししたいと思います。そして欧州について言えば、良いことに、その競争はまだまったく決着していません。欧州は素晴らしい位置にいるのです。
AIは素晴らしいものですが、計算を行うためにますます多くのエネルギーを必要とする軌道にあります。私たちは8年前から量子コンピューターを作ってきました。シリコンの上に作っていて、私たちは量子がその軌道を変えると信じています。量子とは何かを少し説明すると、今日のコンピューターは、0か1かという古典的なビットの上に作られています。量子では、その全体を、キュービットと呼ばれるものの上に作り直します。キュービットの特徴は、制御するのが非常に難しい一方で、計算能力を指数関数的に高められることです。ですから、ここ数年より先を見たときの機会は、AIが進歩を続ける一方で、量子も入ってきて、率直に言って、今日の最も強力なコンピューターでさえできないことをするようになる、ということです。
私たちの本社はここダブリンにあります。今日は量子コンピューターを会場に持ってきました。私たちのアプローチはシリコンの上に作ることで、それによって非常にコンパクトにできます。実際、外に量子コンピューターのラックがあって、所定の温度で動いています。そして重要インフラの話で言えば、量子の課題の一つは、他の方式の中には大規模な新しいインフラを必要とするものがあることだと考えています。私たちは、今日の計算インフラの中に収まることができれば、実際に量子を加速できると信じています。そして繰り返しになりますが、量子はこの重要なクラウドとAIのインフラの一部になると信じています。そして欧州には、リーダーとなり、願わくば欧州から5兆ドル規模の企業を築き、今後数年で量子をリードする素晴らしい機会があると考えています。
John Thornhill: なるほど。おっしゃるように、欧州の各国政府は何十年にもわたって量子に非常に多くの投資をしてきて、ここに素晴らしい学術的な専門性と産業の知見を築くのを助けてきました。米国と中国は技術を拡大するのがはるかにうまいので、本当に面白い段階に差しかかった今、彼らだけが一気に先へ行ってしまう危険があると思いますか。
Jason Lynch: 危険はあると思います。しかしそれは、各国政府がすでに認識している危険だと思いますし、欧州はそのために多くのことをしてきました。スケールアップ・ファンドについても触れられましたね。50億ユーロは大きな資本ですが、十分ではありません。欧州でもそれは認識されていると思います。ですから、業界のリーダーとなる企業を築くのであれば、資本を投じる必要があるという認識があると思います。そしてそれを実現するための認識と、重視の姿勢と、勢いがあると思います。欧州は、研究を取り上げて企業へと育てることで素晴らしい仕事をしてきたと本当に思います。欧州イノベーション会議(EIC)のアクセラレーターは、Equal1を含む30社の量子コンピューティング企業に資金を提供してきました。私たちは約8,000万ユーロを調達してきました。それによって、今では欧州宇宙機関に製品を導入できる段階にまで来ています。そしてSTEPやスケールアップのような新しい資金の仕組みもあり、それが私たちを次の段階へと連れていってくれることを願っています。私はとても楽観的です。欧州で作る必要がある、この勝負に加わる必要がある、そして量子コンピューティングのようなものに本格的な資本が入ってくる必要があるという、揺るぎない認識があると思います。
John Thornhill: なるほど。Deepuさん、もう一度あなたに伺います。この業界がどれだけ分散化し、民主化していくのかについて伺いたいのです。Jensenさんはオープンウェイトのモデルを非常に重視し、このエコシステムを支えようとしていると語っています。あなた方は最近Hugging Faceを買収されましたが、それは欧州にどう役立つのでしょうか。欧州はオープンウェイトのモデルを取り入れて、特定の領域に応用し、アプリケーションの勝負に加われると思いますか。それとも依然として、クローズドなプロプライエタリのモデルが支配するのでしょうか。
Deepu Talla: どちらか一方を選ぶ問題ではなく、両方の問題だと思います。私はクローズドモデルをこう考えています。ちなみに次々と素晴らしいモデルが出てきていますが、それは優秀な学生、あるいは極めて豊富な知識を持つ優秀な博士課程の学生のようなものです。しかし自分の会社や政府、自分の企業の中には、おそらく自分たちならではの強み、自分たちの知能があり、その上に築きたいプロプライエタリな情報、世界の他の人々とは共有したくない情報があるはずです。そこでオープンモデルの出番になるのです。
NVIDIAは、大規模言語モデルから始めて、自動運転、人型ロボット、ワールド・ファウンデーション・モデル、さらには生物学のモデルを含むフィジカルAIのモデルに至るまで、ずっとオープンモデルを先導してきました。そしてMistralがお話ししたのと同じように、これらを完全にオープンにしています。モデルの重みを公開するだけでなく、学習用のスクリプトやすべてのデータも提供しています。そうすることで良い出発点が得られますし、誰もが民主的にそれを採用し、その上に自分たちの価値を加えられます。それをどうするかは自分たちで決められ、完全に制御できます。望むならプロプライエタリのままにしておくこともできます。どんな新しい情報でそのモデルを学習させても、それが他の企業や他の組織に漏れることはありません。ですからその観点からすると、最終的には、一般的なタスクにはできるだけオープンモデルもクローズドモデルも使い、自分たちの知能を本当に育てたいプロプライエタリなタスクにはオープンモデルを使う、ということになるでしょう。ですから、その両方の組み合わせになるのです。
John Thornhill: Charlotteさん、これをどう見ていますか。
Charlotte(Mistral AI): まったく同感ですし、幸運なことに、私たちはこうしたモデルについてNVIDIAと非常に緊密に協力しています。ただ同時に、Jasonさんが言っていたことに戻って強調したいこともあります。より分散化したデジタルスタックを実現したいのであれば、それに投資しなければなりません。オープンウェイトのモデルはその一部を担うでしょう。しかし、投資しなければ何も得られないということも、強く意識しなければなりません。
John Thornhill: なるほど。
Charlotte(Mistral AI): それが。
6.4 ワークロードの進化とエッジAI、Q-Dayと耐量子暗号
John Thornhill: わかりました。Robinさん、この会場にいる欧州の政策立案者に、どんな助言がありますか。おっしゃるように、あなたはアイルランドに長く関わってこられましたし、欧州をとてもよくご存じで、この地域に非常に深くコミットしておられます。あなたの視点から、欧州はどうすれば自らの実力を高められるのでしょうか。
Robin Colwell: Deepuさんが今話していたことと、量子について少し触れられたことに立ち返ると、本当に重要な考え方は、こうしたすべてを、きっぱりとした切り替えとしてではなく、進化として捉えることだと思います。私は量子にもそれを見ますし、オープンモデルにもそれを見ます。非常に多くのカスタマイズが行われることになるのは確かです。それは興味深い考え方ですし、すべての卵を一つのかごに盛ろうとしないことです。私たちはまさにAIの最前線にいます。これは本当に、この技術とその応用の、ほんの初期の始まりにすぎません。そして量子について考えると、それは単に置き換わるものではありません。量子の能力を必要とするものには量子の能力を使い、同時に、同じ統合されたプラットフォームの中で、より従来型のコンピューターも使うという、統合されたプラットフォームを組み上げていく形での進化になるのです。オープンモデルも同じで、さまざまな種類のアプリケーションに対して、さまざまな種類のモデルを使うということです。
私たちは、シリコン全体でもそれが起きているのを見ています。ですから、それを考えたうえで、市場が非常に速く動いているからといって、すべての投資を特定のカテゴリーに振り向けようとしないよう注意しなければなりません。今年だけでもそれを見てきました。誰もが向かっていると私たちが思っていたものとの乖離です。データセンターとAIのワークロードは、本当に主に学習に焦点を当てていました。それが今では、そうしたワークロードが推論へと大きく移っています。そうなると、関係してくるシリコン、求められる技術的な能力、量子やモデルなど、あらゆるものが少しずつ変わり、調整されていきます。新しい異なるアプリケーションや、異なるワークロードが稼働するにつれてです。
今年私たちが見てきたことは、人々が思っていたよりもはるかに多くのCPUを使うことにつながっています。昨年の一般的な通念は、もしかするとCPUはもう終わった、というものでした。そして今日のこの会議で、そして業界全体で今大きな流行語になっているのが、フィジカルAIとロボティクスへの移行です。そのために必要になるシリコンのエンジンを見ると、巨大な産業規模のAIメガファクトリーのデータセンターに必要なものとは本当に、本当に違います。
John Thornhill: そうですね。
Robin Colwell: そうです。それはワイヤレスのロボットになります。今日も会場でいくつか見かけました。それを巨大なGPUで動かすことはとてもできません。実際、チップの周りの筐体が溶けてしまうほどです。ですから、より低い消費電力が必要で、発熱も少なくなければなりません。それでいて、エッジの末端に至るまで、AIの機能を実行できる能力が必要です。ですから、業界全体がもっと大きく進化していくのを目にすることになると思います。私たちはそのまさに出発点にいると思いますし、何が起きるのかを見るのは本当に興味深いことになるでしょう。しかし、目的に特化したシリコンや、人々がまだ本当には考えていないまったく新しいカテゴリー、例えばNPUのようなものがもっと増えていくと思います。異なるワークロード、異なるアプリケーション、やろうとしていることに合わせて、具体的に設計され、はるかにうまく最適化されたシリコンです。ですから、何が必要なのかについて、私たち全員がずっと微妙な違いを踏まえた理解を持つようになると思います。
John Thornhill: そうですね。
Robin Colwell: ですから規制当局には、皆がこの全体のうちの特定の一部だけに向かっている、と考えるのではなく、そういうふうに考えてほしいと勧めたいのです。
John Thornhill: わかりました。ここ数日、数週間、セキュリティとAI、特にエージェント型AIと、それがもたらしうる脅威について多くの議論がありました。量子は、それとはまったく違うレベルの問題をもたらしますよね。十分に堅牢な量子コンピューターを開発できれば、政府や銀行など誰もが頼りにしている現在のRSA暗号の方式全体を破ってしまう恐れがあることは明らかです。いわゆるQ-Dayまで、どれくらい近づいていると思いますか。それは量子コンピューターだけで達成されるのか、それともあなたが話していた、古典と量子のハイブリッドのようなシステムによってなのでしょうか。
Jason Lynch: わかりました。Robinさんがワークロードについて話していましたが、私たちの見方、そしておそらく一般的な見方でも、量子は今日私たちが行っているワークロードの一部を置き換えるものではありません。追加されるものです。ですから、ある種のタスクに適したCPU、別のタスクに適したGPU、そして特定のタスクに適したQPUがある、ということになります。
最も早く影響が出てくる領域を少しお伝えすると、一般的には、化学のシミュレーションが最初の応用になると考えられています。そこでは当然、新しい医薬品のことが考えられます。製薬会社が一つの医薬品を開発するのには13年と15億ドルかかりますし、その多くは市場にたどり着けません。その医薬品を量子コンピューターでシミュレーションできれば、それを加速できます。新素材もそうですし、環境のシミュレーションもそうです。ですから私たちは、量子の可能性を、より持続可能な世界をつくるための道具箱の中の大きな道具だと考えています。その次に最適化があり、量子は最適化をはるかに速く行えます。そしてその二つの後に、暗号の議論が来るのです。
いくつか申し上げたい点があります。一つ目に、耐量子暗号については多くの取り組みが進められていて、非常に賢い多くの人々が、量子に耐えられるアルゴリズムを考え出そうと取り組んでいます。二つ目に申し上げたいのは、確かに短期的な課題はあるということです。しかし長期的には、量子は実際に、セキュリティと暗号に非常に大きく役立つと私は考えています。量子ネットワークの特徴の一つは、実際に結果を観測すると、その状態が崩れてしまうことです。つまり本質的に、ネットワークがあれば、それが完全に守られていて、改ざんされていないとわかるということです。ですから確かに、私たちが標準を変えなければならない期間があり、いくらかのリスクも生じるでしょう。しかし最終的には、量子ネットワークの世界に入ったとき、量子は実際にセキュリティの面で大きな助けになると思います。
John Thornhill: これが将来大きな問題になるとわかっている一方で、時間内に導入できる解決策も今すでにわかっているという、とても興味深い状況ですね。時間切れになってしまいましたが、素晴らしい議論をありがとうございました。
7. 閉会:Michael McGrath欧州委員とDublin Declaration
7.1 欧州はAIを望む:投資とアイルランドの採用状況、AI法とAI omnibus
司会: 本日のInternational AI Summitを締めくくる最後の登壇者をご紹介します。民主主義・司法・法の支配・消費者保護担当の欧州委員、Michael McGrath委員です。
Michael McGrath: ありがとうございます。皆さん、こんばんは。素晴らしいサミットになったことと思います。まず、これほど見事なInternational AI Summitを開催し、欧州内外からこれほど多くの方々を集めてくださったEU理事会のアイルランド議長国に、心から感謝を申し上げます。ここにいるのは、AI革命をただ眺めているのではなく、自らそれを形づくっている人々です。今朝サミットを開会されたMicheál Martin首相、Peter Burke大臣とJames Lawless大臣にも感謝します。そして特に、アイルランドのAI担当大臣Niamh Smyth大臣にお礼を申し上げます。このサミットは、彼女が長年強い思いを込めて取り組んできたプロジェクトだと承知しています。
アイルランドの議長国は、決定的な局面に重なっています。AIはもはや将来の可能性ではありません。すでに私たちの経済、公共サービス、安全保障、日々の暮らしを作り変えていて、その勢いは日ごとに増しています。今や毎日のようにAIの見出しがメディアにあふれています。期待に満ちたものもあれば、不安に満ちたものもあります。科学、医療、生産性の面でAIがもたらしたブレークスルーについて読みますし、今日も皆さんはそうした話を数多く聞かれたことでしょう。しかし同時に、制御の喪失、安全でないシステム、ディープフェイク、子どもへのリスク、そしてそれを統治するためのルールよりも速く強力なモデルが開発されていくことへの懸念についても読むことになります。
ですから私は、このサミットはまさに適切なタイミングで開かれたと考えています。問われているのは、AIが私たちの経済と社会を変えるかどうかではありません。変えますし、実際に変えつつあります。本当の問いは、欧州が、野心と自信を持ち、人々が信頼できるガードレールを備えて、その変革を先導していけるかどうかです。
私の結びのメッセージはシンプルです。欧州はAIについて野心的でなければなりません。しかし同時に、責任、安全、そしてこの技術を導くべき価値観についても明確でなければなりません。明確さは市民にとって重要ですが、開発者、投資家、企業にとっても重要です。人々がAIを信頼しなければ、使ってもらえません。企業がルールを理解していなければ、投資をためらうことはわかっています。欧州がリーダーシップを望むなら、信頼とイノベーションの両方が必要です。ですから、AIの未来について語るとき、モデルやチップ、計算能力について話すだけでは足りません。ガバナンスについても話し合う必要があります。安全、データ保護、消費者保護、そして司法制度を含む公共サービスや、民主的な選挙プロセスにおけるAIの利用についてです。
まず、はっきり申し上げます。欧州はAIを望んでいます。医師が病気をより早く見つけ、製造業者が生産性を高め、農業者が資源をより効率的に使い、小さな企業が国境を越えて成長し、行政機関が市民のためにより速く、より良く働けるよう助けるAIを望んでいます。私たちはこの技術から距離を置いているのではありません。まったく逆です。AI法、AI Continent Action Plan、Apply AI戦略を通じて、EUは信頼できるイノベーションを支え、私たちの能力を強化し、経済全体での導入を加速させるための幅広い枠組みを整えました。そしてインフラにも大規模に投資していますし、今後も続けなければなりません。私たちはAIファクトリーを建設しており、AIギガファクトリーにも前進しています。人材、データへのアクセス、分野ごとの導入を支援しています。欧州は、他の場所で開発されたAIをただ消費するのではなく、ここ欧州でAIを開発し、展開したいと考えているのです。
ここアイルランドで本当の勢いがあることは、今日皆さんも耳にされたとおりです。最近の数字では、アイルランドのAI導入率はEU平均を上回り、民間組織の43%、公的機関の36%がAIツールを使っています。これは重要なことです。アイルランドが単にこの議論の場を提供しているだけでなく、実際にAIを生き、推し進めていることを示しているからです。
ただ、AIにおけるリーダーシップは投資だけでは成り立ちません。イノベーションが安全に、自信を持って規模を拡大できる条件を整えられるかどうかにもかかっています。だからこそAI法が重要なのです。AI法は、単一市場全体で欧州に一つの共通の枠組みを与えます。27通りのやり方ではなく、一つのルール、法的確実性の一つの基盤、企業が一度作れば4億5,000万人の市場全体に展開できる一つの枠組みです。そしてこれはリスクベースの枠組みです。ほとんどのAIシステムはリスクが最小限か、まったくなく、重い義務の対象にはなりません。それが適切だと考えています。AI法が焦点を当てるのは、安全、基本的権利、民主主義への信頼が損なわれかねない、リスクが最も大きいところです。
開発者へのメッセージは単純です。自分のシステムがどのリスク区分に当たるのかを理解し、どんな義務があるのかを早い段階で把握し、コンプライアンスを後回しにするのではなく、設計の段階から組み込んでください。透明性、テスト、文書化、人間による監督、安全について真剣に考えるということです。それはまた、信頼はイノベーションの敵ではないと認識することでもあります。むしろ私は、信頼こそが成功するイノベーションの土台だと考えています。
同時に、ルールは実際に運用できるものでなければなりません。だからこそ私たちは、いわゆる「AI omnibus」でAI法を改善するための的を絞った改正を進めてきました。高リスクシステムのタイムラインを明確にし、イノベーターへの支援を広げ、サンドボックスを利用しやすくし、他の規則との重複を減らしました。同時に市民の保護も強化しました。ご存じのとおり、他人の画像を裸に加工するヌーディファイ・ツールや、AIを使った児童性的虐待コンテンツの作成を禁止したことなどです。これは規制緩和ではありません。より良い規制です。可能なところではよりシンプルに、必要なところでは揺るぎなく、ということです。
7.2 GDPRの見直し、Digital Fairness Act、エージェンティックAIと子どもの保護
Michael McGrath: 同じ原則は、欧州委員会で私が担当しているデータ保護の分野にも当てはまります。AIはデータの上に築かれています。そして欧州市民の個人データが関わる場合には、GDPRが適用されます。しかし今日、組織が、AIの開発においてこれらのルールがどう適用されるのかについて、より明確さを必要としていることもわかっています。だからこそ欧州委員会は、デジタル・オムニバスの立法提案を通じて、GDPRへの的を絞った改正を提案しました。
私たちはGDPRの中核的な原則を見直そうとしているのではありません。GDPRは全体として私たちに大いに役立ってきたと考えていますし、欧州の基準を引き下げるつもりもありません。私たちが焦点を当てているのは、枠組みを簡素化し、明確にすることです。そうすることで、開発者にとっての法的確実性に支えられた形で、責任あるイノベーションが起きるようにするのです。これは非常に重要なことです。データガバナンスについては、最初の段階から考えなければなりません。どんなデータを使うのか、どんな法的根拠に基づくのか、どんな安全措置を講じるのか、そしてAIシステムのライフサイクル全体を通じて権利をどう守るのか、ということです。優れたAIガバナンスは、製品が市場に出るずっと前から始まっているのです。
一般の市民は、すでに毎日のようにAI製品と関わっています。彼らが安心してそうできるのは、欧州が世界最高水準の消費者保護基準を持っているからです。しかし、私たちの消費者法がAIの時代に合わせて設計されたものではないことも明らかです。車輪を一から作り直す必要はありませんが、いわばソフトウェアのアップデートを行い、ルールを現代化する必要があります。まさにそれが、近く提案するDigital Fairness Actの目的です。
現実には、消費者は時間とお金を奪う不公正な商慣行にますます直面するようになっています。AIによって、オンライン詐欺はより安く、より説得力のあるものになり、時に見破りにくくなります。AIは、人の弱みにつけ込むような、極端に個人に的を絞ったパーソナライズ広告を可能にします。そしてカスタマーサービスでAIが使われると、消費者が終わりのないループに閉じ込められてしまうことがあります。私たちは皆、そうした経験をしたことがあると思います。
エージェンティックAIの台頭についても考える必要があります。AIアシスタントがより一般的になるにつれ、オンラインでの買い物は、人間が直接関わることがほとんど、あるいはまったくない形で行われるようになるかもしれません。それはもちろん利便性と効率をもたらしえます。しかし、何かがうまくいかなかったらどうなるのか、といった明白な疑問も生じます。
もう一つの優先事項で、非常に重要なのが、オンラインでの未成年者の保護です。子どもや若い人々がオンラインで特有のリスクに直面していることは誰もが知っていますし、AIはそうしたリスクを強めかねません。新たなEU Kids Actは、子どものソーシャルメディア利用をめぐる深刻な懸念への私たちの対応であると同時に、子どもとAIコンパニオンやチャットボットとの関わりにも取り組むものでした。ですから欧州のメッセージは明確です。子どもが利用できるデジタルサービスやAI製品は、子どもの健康、安全、幸福を最優先にしなければなりません。
7.3 司法・選挙でのAIの限界、EU Inc.への決意、閉会映像とDublin Declaration
Michael McGrath: 今日AIが、公共サービスの提供の効率化に非常に大きく貢献していることもわかっています。その中には、司法制度のように私が直接担当している分野も含まれます。AIが変えているのは民間の市場だけではありません。適切に使えば、AIは公的機関が不正を見つけ、安全でない製品を見つけ、事務負担を減らし、公共サービスを改善し、時に非常に大量の事件を抱える裁判官がそれを管理するのを助けられます。しかし同時に、限界をどこに置くべきかについても明確でなければなりません。AIは意思決定を補助することはできても、裁判所に持ち込まれる法律上の特定の事項について、人間の判断、説明責任、司法の独立に取って代わることは決してあってはなりません。司法のような機微な分野では、問われるのは単にAIが役に立つかどうかではありません。それが合法で、公正で、国民の信頼に値する形で役に立てるかどうかです。
AIは私たちの民主的な営みの一部にもなりつつあります。人々が何を目にし、どう関わり、どう政治的な判断を形成するかに影響を与えうるのです。European Democracy Shieldという戦略的イニシアチブの一環として、私たちは選挙プロセスにおける公正で透明、かつ人間中心のAIの利用に関する指針を準備しており、年内に打ち出します。これはEU加盟国や、政党などの関係者と緊密に協力しながら進めています。
最後に、今日この会場にいる、あるいはライブ配信を見ている欧州のスタートアップと革新的な企業の皆さんに一言申し上げます。欧州が競争したいのであれば、皆さんが欧州で起業し、規模を拡大し、そして最終的に欧州にとどまるのを、もっと容易にしなければなりません。それがEU Inc.の目的です。摩擦を減らし、複雑さを取り除き、革新的な企業が国境を越えて成長できるよう助ける、デジタル・バイ・デフォルトの枠組みです。AIのスタートアップやスケールアップにとって、これは技術的な細部の話ではありません。イノベーションが花開く欧州の環境をつくることの一部なのです。
EUにはすべての要素がそろっていることはわかっています。人材があり、資本があり、アイデアがあり、研究コミュニティがあります。しかし、それを商業化することにもっと上達する必要があります。革新的な企業を設立し、規模を拡大し、欧州を拠点としてグローバルに競争できるようにすることに、もっと上達しなければなりません。断片化に取り組まなければならないこともわかっています。だからこそ「One Europe, One Market」ロードマップがあり、だからこそEU Inc.の提案は、EUの競争環境を変革するための、根本的で野心的な案件の一つなのです。
このEU Inc.の提案をまとめるまでの数か月間、私たちを鼓舞し、突き動かし、やる気を与えてくれた、EU Inc.を求める運動の推進者の皆さんに感謝します。そしてEU全域で、この重要な改革を提唱してくれたすべての組織に感謝します。ここアイルランドでは、EU法のこの大きな改革の必要性を一貫して訴えてきたScale Irelandもその一つです。今こそ実現すべき時です。政治的な交渉が激しさを増していくこれからの数週間、私たちは野心を保ち続けなければなりません。最終的な目標が何なのかを、常に中心に据え続けなければなりません。それはデジタル・バイ・デフォルトの仕組みであり、「ワンス・オンリー」の原則に基づく調和された会社法の枠組みです。それによって企業は、EU全体で単一のルールブックの恩恵を受け、EU内にある素晴らしい人材と巨大な資本の蓄積にアクセスできる現実的な見通しを得られるのです。この案件が決定的な局面を迎える中で、これからの数週間、その野心が保たれるよう、私も私のチームも、できることはすべて行います。
結びに、一つの考えを皆さんにお伝えします。欧州におけるAIの未来は、一つの法律や、一つの企業、あるいは一つのサミットによって決まるものではありません。いくつかのことを同時に結びつけられるかどうかによって決まります。イノベーションと安全、競争力と信頼、そして技術的な野心と人間の主体性です。私は、欧州の価値観に忠実であり続けながら、AIがすでに示しつつあり、今後さらに多くを示すであろう並外れた変革の力を活かすことができると信じています。それこそが欧州のやり方です。そして欧州のデジタル経済の中心にある国、ここアイルランドには、そのビジョンを現実のものにするのを助ける特別な責任と素晴らしい機会があります。欧州は、AIの時代にただ適応するのではありません。欧州こそが、AIの時代を定義する存在であるべきです。今日ここにお集まりいただき、閉会の場を任せていただき、本当にありがとうございました。
司会: McGrath委員、ありがとうございました。International AI Summitを締めくくるにあたり、多くの皆さんが、AIに伴う機会と責任について、より明確な感覚を持ってお帰りいただけることを願っています。今日の議論は、信頼できる人間中心のAIが、経済成長、イノベーション、社会の進歩にとって強力な力になりうるという考えを改めて確かなものにしました。しかし、この対話はここで終わるものではありません。本日、EU加盟国の支持を得て発表されたDublin Declarationは、今後も続く国際協力のための強固な土台となります。今日の対話を形づくり、これからの対話も形づくっていく登壇者と参加者の皆さんに感謝します。どうぞ素敵な夜をお過ごしください。