※本記事は、India AI Impact Summit 2026 における Ananya Birla 氏の基調講演「Keynote Speaker, Ananya Birla India AI Impact Summit 2026」の内容を基に作成されています。Ananya Birla 氏は、AIイノベーション、責任あるテクノロジー、そして世界のAIランドスケープを形作る上でのインドの役割の拡大について、同サミットで自身のビジョンを語りました。動画の詳細情報は https://www.youtube.com/watch?v=X8SuPoaSkqk でご覧いただけます。本記事では、講演の内容を要約しております。なお、本記事の内容は原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。
1. 導入 ― 謙遜の挨拶とインドのAI主導という時代認識
1.1 オバマ元大統領の引用と錚々たる登壇者を前にした謙遜
Ananya Birla: まずは、ご紹介いただき本当にありがとうございます。皆様、こんばんは。本日この場に立たせていただくことを、心から光栄に思っております。少し昔の話から始めさせてください。2011年5月、Barack Obama 元大統領が英国議会で演説をなさったとき、こうおっしゃいました。「ここで直近に演説した三人は、ローマ教皇、女王陛下、そして Nelson Mandela だったと聞いている。これは非常に高いハードルか、さもなければ非常に面白い冗談の始まりかのどちらかだ」と。
司会: ええ、よく知られた一節ですね。それを、ご自身の今のお立場に重ねられたわけですか。
Ananya Birla: その通りです。私は Obama 元大統領ではありませんが、今夜この場に立って、まさに同じような心境を抱いております。私たちの尊敬する Modi 首相をはじめ、Sundar Pichai 氏、Rishi Sunak 氏、Sam Altman 氏、Mukesh Ambani 氏、Narayana Murthy 氏、そして私の父といった指導者の方々と同席させていただいている。これは間違いなく、私が到底届かないであろう非常に高いハードルです。正直に申し上げて、私はとても緊張しております。そして、これは決して冗談ではございません。
1.2 モディ首相のリーダーシップとインドのAI議論における主導的役割
司会: しかし、その緊張の一方で、インドがいま世界のAIをめぐる議論の中で果たしている役割については、大きな手応えを感じておられるのではないですか。
Ananya Birla: おっしゃる通りです。私たちの尊敬する首相のリーダーシップの下で、インドが世界のAI議論において主導的な役割へと踏み出していく様子を見守ることは、本当に並外れた経験でした。かつては議論を傍らで見守る側だったインドが、いまやその中心で方向性を示す側へと立ち位置を変えつつある。この変化は、首相の指導があってこそ実現したものだと感じております。
1.3 若きリーダーとしての責任感と登壇機会への謝意
司会: その流れの中で、若い世代のリーダーとして登壇される意義をどう受け止めておられますか。
Ananya Birla: 若いリーダーの一人として、このような壇上に立つ機会をいただけたことに、私はこの上なく感謝しております。そして、ただ感謝するだけでは足りないとも考えております。私たちには、この機会を確かな成果へと結びつける責任がある。インドがAIの章を書き進めていくこの局面で、次の世代がその一翼を担うのだという自覚を持って、本日はその責任を果たすための具体的な取り組みについてお話しさせていただきます。
2. 歴史的転換点としてのAI ― 産業革命を超える認知の増幅
2.1 4兆ドルから40兆ドルへ、2047年「Viksit Bharat」と技術の決定的役割
司会: インドはいま大きな経済的飛躍の只中にあります。その中で、技術はどのような位置を占めるとお考えですか。
Ananya Birla: インドの歩みは、4兆ドルの経済から40兆ドルの経済へと向かう旅です。今日の私たちが立っている地点から、2047年までに実現を目指す「Viksit Bharat(発展したインド)」へと伸びていくその弧の中で、技術は決定的な役割を果たすことになります。この飛躍は単なる数字の拡大ではなく、私たちが何を、どのような手段で生み出すのかという根本の変化を伴うものだと考えております。
2.2 産業革命との対比 ― 身体能力の増幅から認知能力の増幅へ
司会: その変化を、歴史上のどの局面になぞらえておられるのでしょうか。
Ananya Birla: この瞬間は、産業革命と似た味わいを持っております。産業革命とは、人間の労働と経済的産出との関係が根本から書き換えられた時代でした。しかし、それでもなお私は、今日私たちが目撃しているものは、さらに深遠なものだと申し上げたいのです。
司会: より深遠、とおっしゃいますと。
Ananya Birla: 産業革命が増幅したのは、私たちの身体的な能力でした。これに対してAIが増幅しているのは、私たちの認知的な能力なのです。腕や機械の力を拡張した時代から、思考そのものを拡張する時代へ。この違いこそが、今回の変化を産業革命以上に本質的なものにしていると、私は考えております。
2.3 「可能性のカンブリア爆発」と非線形的変化への気づき
司会: その認知の増幅が、社会にどのような広がりをもたらすと見ておられますか。
Ananya Birla: 私たちがいま生きているのは、まさに「可能性のカンブリア爆発」とでも呼ぶべき事態にほかなりません。まったく新しい形の価値、そして人間の潜在能力の新しい在り方が、私たちの線形的な思考では捉えきれない速度で次々と立ち現れている。ここで私が痛感しているのは、私たちの直感が前提とする「徐々に積み上がっていく」という見立てが、もはや通用しないということです。私たちは人類の進歩の歴史における画期的な瞬間、並外れた可能性に満ちた瞬間に立っているのです。そして、こうした可能性を現実へと翻訳しようとする私たちのささやかな試みについて、ここからお話しさせてください。
3. Birla AI Labs の発表とデュアル・マンデート
3.1 父(Aditya グループ)が静かに地道に進めてきたAIへの取り組み
Ananya Birla: こうした可能性を現実へと翻訳しようとする私たちの試みとして、本日この場で Birla AI Labs をご紹介させていただきます。ただ、Aditya グループとAIの関わりについては、一つはっきりと申し上げておきたいことがございます。私の父は、かなり以前からこの取り組みを進めてまいりました。
司会: それはあまり表には出てこなかったように思いますが。
Ananya Birla: ええ、それは意図的なものでした。父は見世物のためではなく、私たちのステークホルダーに具体的な価値を届けるために、慎重に、静かに、そして着実にこれを進めてきたのです。今日の発表は、突然始まったものではなく、その積み重ねの上に立つものだとご理解いただければと思います。
3.2 第一の使命 ― グループの apex AI 機関として価値を解放する
司会: その Birla AI Labs は、どのような役割を担う組織なのでしょうか。
Ananya Birla: Birla AI Labs は、二つの使命を持っております。第一の使命は、父の方向づけに従い、Aditya グループの頂点に立つAI機関(apex AI body)として機能することです。具体的には、私たちの事業のテックチームと並走しながらソリューションを構築し、グループの各事業にまたがって新たな価値を解き放っていく。これがグループ内部に向けた役割です。
3.3 第二の使命 ― 独自AI製品を世界市場へ届けるフロンティア研究所
司会: では、もう一つの使命とは。
Ananya Birla: 第二の使命は、フロンティア研究所として機能することです。最先端で継続的に独自の研究を行い、その科学を独自のAI製品へと翻訳して、オープンな市場、すなわち世界の市場へ届けていく。グループの中に閉じるのではなく、外へ向けてカテゴリーを定義するような製品を生み出していく役割です。
3.4 両立がもたらす希少な優位性
司会: その二つを一つの組織で担うことには、どのような意味があるのでしょうか。
Ananya Birla: この二重の立ち位置こそが、Birla AI Labs に稀有な優位性を与えてくれるのです。一方には、グループを通じて得られる実世界のデータ、ドメインの知見、そして企業規模での展開力がある。他方には、世界市場に向けてカテゴリーを定義する製品を自由に構築できるという立場がある。通常、この二つは別々の組織が分け持つものですが、私たちはそれを一つの場で結び合わせている。だからこそ、研究の最前線と現実の事業とが互いを高め合う関係が成立するのです。
4. 第一の使命の実践 ― Aditya グループ各事業へのAI展開
4.1 グループの規模と160年超の運用データという「堀」
司会: では、その第一の使命、グループ内へのAI展開について、実際にどのような形で進んでいるのか具体的にお聞かせいただけますか。
Ananya Birla: 喜んで。父が主導するこの第一の使命の下で、私たちはいま Aditya グループ全体にわたるAI展開を実行に移しております。このグループは160年以上にわたって事業を営んでまいりました。製造、金融サービス、コモディティ、消費者向け事業にまたがって、数十年分の運用データを蓄積しております。
司会: その蓄積が、AIにおける強みになるということですね。
Ananya Birla: まさにその通りです。データだけでなく、科学とビジネスの双方を理解する人材の層も厚みを増している。これが私たちにとって、誰にも崩せない「堀(moat)」になっているのです。規模についても申し上げておきますと、私たちは時価総額1,200億ドル、42か国にまたがって25万人を超える従業員と共に事業を営んでおります。この多様なポートフォリオの全域で、高度な分析とAIがサプライチェーンから人員管理に至るまであらゆるものを作り変えており、私たちはすでに具体的な初期の成果を目の当たりにしております。
4.2 Birla Estates と Aditya Birla Capital への展開と成果
司会: では、個別の事業ではどのような成果が出ているのでしょうか。まず不動産事業から。
Ananya Birla: Birla Estates から始めましょう。私たちはAIを用いて、プロジェクトの構想段階のタイムラインを90%圧縮しようとしております。これにより、年間で2,000人日以上が解放されます。直接的な効果は効率化ですが、より本質的なのは、建築家や開発者がアイデアを試すのに要する時間にもはや縛られなくなるということです。さらに、契約インテリジェンスのツールによって、私たちのチームはすべての契約について統一された正確な全体像を手にし、クレームに発展しかねない潜在的な問題を、それが深刻化する前に検知できるようになります。
司会: 金融サービスでは、また様相が異なるのではないですか。
Ananya Birla: ええ、金融サービスでは変革の形がまったく違ってまいります。Aditya Birla Capital は、インドの金融セクターでも最も野心的な生成AIプログラムの一つを築き上げました。単一のユースケースを選ぶのではなく、バリューチェーン全体を一度に攻める、という発想です。成果を申し上げますと、引受(アンダーライティング)のターンアラウンドタイムは50%短縮され、与信評価の準備は90%削減されました。完全にAIで動く営業プログラムはすでに1億ドルを超える総売上を目標に据えており、カスタマーサービスのプラットフォームは初回コール解決率を90%超へと押し上げつつあります。ここで注目すべきは、個々の数字そのものではなく、それらが同時並行で起きているという、その同時性なのです。
4.3 Hindalco の工場インテリジェンスとデジタルツイン構想
司会: 製造、とりわけエネルギー集約型の事業ではいかがでしょうか。
Ananya Birla: 次は Hindalco です。ここでは話の調子がまったく変わります。これは、世界でも最も物理的に過酷でエネルギー集約的な産業の一つに、知能を適用するという話だからです。製造現場では、私たちの独自の工場インテリジェンスが24の運用KPIをリアルタイムで統合し、かつては静的なスプレッドシートでしかなかったものを、異常が深刻化する前にそれを浮かび上がらせる「生きた知能の層」へと変えています。
司会: さらにその先を見据えておられるとか。
Ananya Birla: ええ、私たちが構築しているものはさらに野心的です。スメルター(製錬炉)や溶鉱炉のデジタルツインを作り、その上に石炭の調達から電力までのエコシステム全体を統御するAIの層を載せていく。現場の最適化にとどまらず、エネルギーの流れそのものを丸ごと指揮する構想です。
4.4 Tantra マイクロファイナンスの人間的意義と消費者事業
司会: ポートフォリオの中で、AIが最も「人間的」に感じられる領域はどこでしょうか。
Ananya Birla: もし一つ挙げるとすれば、それはマイクロファイナンス事業の Tantra です。ここでは私たちは営業、監査、品質管理の全般にAIを組み込んでおり、少なくとも30%の生産性向上を見込んでおります。ただ、この数字が意味するところをぜひ汲んでいただきたいのです。それは、一人の融資担当者がより多くの人々のもとへ届けられるということ。そして、村に暮らす一人の女性が、本来であれば手にできなかった資本へのアクセスを得られるということです。この種の効率化は、単に利益率を改善するだけではありません。人々の暮らしそのものを良くしうる力を秘めているのです。
司会: 消費者向け事業については、どのように位置づけておられますか。
Ananya Birla: 消費者事業は、この全体の円環を完結させてくれます。私が自らの経験を通じて確信するに至ったのは、今日において優れたブランドを築くには、製品がコンテンツ主導の流通によって支えられていなければならない、ということです。私たちのファッション、リテール、ジュエリーの各事業は、ハイパーパーソナライズされたマーケティングとリアルタイムの在庫インテリジェンスにAIを展開しております。化粧品事業 Birla Cosmetics の中では、ブランドの Love etc. と Contraband が、AIの創造ツールを使って、キャンペーンの着想から最終的なアセットの納品までを、従来のごく一部のコストで実現しています。
4.5 結論的気づき ― 問いは「速くどれだけ深く進むべきか」
司会: こうした一連の展開から、どのような結論を引き出しておられますか。
Ananya Birla: これらが私に教えてくれるのは、もはや問いが変わったということです。AIが複雑で資本集約的な現実世界の産業で機能しうるかどうか——それはもう問いではありません。私たちはそれを実際に見てきましたし、機能すると分かっているのです。本当の問いは、AIをめぐる曖昧さがなお残る中で、私たちはどれほど速く、そしてどれほど深く踏み込んでいくべきなのか、ということなのです。
5. 第二の使命の実践 ― フロンティア研究所としての Birla AI Labs
5.1 北極星 ― 研究・応用・市場創造の交差点に立つ次なる機関
司会: ここまで第一の使命、グループ内への展開を伺ってきました。では、もう一方の柱であるフロンティア研究所としての顔について、どのような信念が支えているのかお聞かせください。
Ananya Birla: ここからが、Birla AI Labs が真にフロンティア研究所として動く領域のお話です。ここでの確信は、いたってシンプルです。インドの次なる偉大な機関は、深い研究、応用エンジニアリング、そして市場創造という三つが交わる地点から立ち現れる、ということです。これこそが私たちの北極星なのです。
司会: その三つの交差点という発想が、御社の研究所を他と分けるものだと。
Ananya Birla: ええ。研究だけでも、エンジニアリングだけでも、市場づくりだけでも足りない。この三つが一つの場で噛み合って初めて、長く続く機関が生まれると考えております。私たちは、その交差点に意図的に身を置こうとしているのです。
5.2 グローバルな研究者・エンジニア陣の布陣
司会: その北極星を実現するために、どのような陣容を整えてこられたのでしょうか。
Ananya Birla: これを実現するために、私たちは世界中から研究者とエンジニアのチームを結集してまいりました。Oxford や IIT Madras から、BITS Pilani、ISRO、Google、そして Goldman Sachs に至るまで、出自も専門も異なる人材が集まっております。
司会: まさに国境も分野も越えた布陣ですね。
Ananya Birla: はい。学術の最前線にいた者、宇宙開発に携わってきた者、世界有数のテクノロジー企業や金融機関で実務を積んできた者。彼らはいずれも、世界中のどこででも働くことができる人材です。その彼らが、ほかでもないインドのために築くことを選んでくれた。この布陣そのものが、これからお話しする研究の中身を支える土台になっているのです。
6. 研究第一の柱 ― 構造化基盤モデルと「Time to Time」論文の発見
6.1 6,000億ドルの市場機会と見過ごされてきた時系列・表形式データ
司会: その陣容が取り組む最初の研究領域とは、どのようなものなのでしょうか。
Ananya Birla: 私たちの最初の主要な研究の柱は、構造化基盤モデル(structured foundational models)です。これは、最近の Forbes の記事が6,000億ドルの市場機会と見積もっている分野です。
司会: 構造化、というのは具体的にどのようなデータを指すのですか。
Ananya Birla: しばしば見過ごされてきたことなのですが、世界のデータの圧倒的大部分は、時系列やテーブル(表形式)の形で存在しております。株価、センサーの読み取り値、サプライチェーンのシグナル、気象パターン、エネルギー消費量、患者のバイタルサイン——いずれもそうです。こうしたデータは本来、産業において、金融において、インフラにおいて、そして医療において、予測的な知能を動かす力を持っているはずなのです。にもかかわらず、テキストや画像に比べて研究の光が当たってこなかった。ここに大きな機会があると私たちは見ております。
6.2 論文「Time to Time」と暴落シグネチャ注入実験の発見
司会: その領域で、御社の研究チームはすでに具体的な成果を出しておられるとか。
Ananya Birla: ええ。12月に、私たちのチームは San Diego におりました。そこで、私たちの論文「Time to Time」が採択されたのです。この論文は、非常に挑発的な問いを投げかけています。すなわち、これらの時系列基盤モデルは、本当に「市場の暴落とは何か」を理解しているのか、それとも単に曲線を当てはめているだけなのか、という問いです。
司会: その問いに、どのように答えを出したのでしょうか。
Ananya Birla: ある研究者が、モデルの隠れ状態(hidden states)の内部に手を伸ばし、歴史上の暴落のシグネチャ(signature)を注入してみせたのです。すると、それに応じて予測が変化していく様子が観察されました。これは単なる曲線の当てはめではありません。これは、世界の構造について何かを学習したモデルなのだ、ということです。私たちの研究者は、まさにその最前線で取り組んでいるのです。
6.3 Oxford AI Summit・World Summit AI でのグローバルな研究プレゼンス
司会: そうした研究の方向性は、すでに国際的な場でも示されているのでしょうか。
Ananya Birla: はい。この Birla AI Labs のテーゼは、2025年に Oxford AI Summit と、オランダで開催された World Summit AI で発表されました。この研究所は、信頼に足る世界的な研究プレゼンスを築きつつあると私は申し上げたいのです。トップクラスの場で発表を行い、主導的な研究機関と連携し、そして世界中のどこででも働ける才能を惹きつけている。その才能が、インドのために築くことを選んでくれている。この事実こそが、私たちの研究の確かさを物語っていると考えております。
7. 研究第二の柱 ― AIの人間への影響研究という道徳的義務
7.1 17億人の日常を媒介するAIと、その影響研究の遅れ
司会: 二つ目の研究の柱についても伺わせてください。こちらは、これまでとは少し性格の異なるテーマだとお聞きしています。
Ananya Birla: ええ。第二の研究の柱は、私が、業界として追求する道徳的な義務があると信じているものです。いまやAIは、世界中で17億人を超える人々の、日々の意思決定、人間関係、そして情報環境を媒介しております。
司会: それほどの広がりを持ちながら、研究はまだ追いついていないと。
Ananya Birla: その通りなのです。これほどまでにAIが人々の生活に入り込んでいるにもかかわらず、それが人間の認知、主体性(agency)、そして日々の暮らしに何をもたらすのかという研究は、いまだ萌芽的な段階にとどまっております。これほど大きな影響力に対して、その帰結を問う営みがあまりに乏しい。私はここに、強い問題意識を抱いております。
7.2 デリー大学の研究と King's College での発表予定
司会: その問題意識を、具体的な研究の形にされたのでしょうか。
Ananya Birla: はい。私たち Birla AI Labs は、この状況に対して何かを為したいと考えております。そこで私たちは、Delhi 大学の学生を対象に一つの研究を実施しました。言語モデルの利用が、学生たちの好奇心と認知的な主体性にどのような影響を与えるのかを測定する、というものです。
司会: その成果は、どこで発表される予定ですか。
Ananya Birla: この研究の結果は、この6月に King's College で発表される予定です。AIが人間の好奇心や主体性をどう変えうるのか——その問いに、データをもって向き合おうとする試みです。
7.3 人間的帰結を事業の中核として理解する責任
司会: そうした研究を、なぜ企業である御社自身が担うのでしょうか。通常は他者に委ねられがちな領域ではないですか。
Ananya Birla: まさにそこが要点なのです。これは、業界があまりにもしばしば他者任せにしてきた種類の研究です。しかし私は、AIを構築している私たちこそが、その人間的な帰結を理解する責任を負っていると信じております。しかもそれは、後付けの付け足しとしてではなく、事業そのものの中核をなす一部として理解しなければならない。作る側がその影響に向き合うことを、私たちは責務として引き受けたいのです。
8. ツールの構築 ― 研究と応用のループを閉じる
8.1 IIT Bombay で発表したAIネイティブ研究・生産性プラットフォーム
司会: 研究のお話を伺ってきましたが、それと並行して、実際のツールづくりも進めておられるとか。
Ananya Birla: ええ、研究と並んで、私たちはツールも構築しております。2024年12月に、私たちは IIT Bombay で、AIネイティブな研究・生産性プラットフォームのベータ版を発表いたしました。
司会: そのプラットフォームは、どのような機能を備えているのでしょうか。
Ananya Birla: エージェント型の検索(agentic search)、リアルタイムのデータ処理、そしてマルチモーダルな知能を組み合わせたものです。これによって、インターネット、各種の文書、そして金融データを横断しながら、文脈に即した洞察を届けることができます。単なる検索ではなく、状況を踏まえた示唆を返してくれる、という点が肝になっております。
8.2 自身のオフィスでの活用と研究・応用ループの実例
司会: そのプラットフォームは、すでに実際に使われているのですか。
Ananya Birla: はい。そのプラットフォームは、いま私自身のオフィス全体で使われており、日々の業務の効率化を実際に支えてくれております。
司会: ご自身で使っておられるというのは、説得力がありますね。
Ananya Birla: これは、フロンティアの研究と応用的な展開とが出会ったときに何が起きるのかを示す、具体的な一例だと考えております。そしてこれこそが、私たち Birla AI Labs が閉じようと設計している、まさにそのループなのです。研究が製品を生み、その製品が現場で使われ、そこから得られた知見がふたたび研究を前へ進める——この円環を回し続けることが、私たちの狙いなのです。
9. Aditya グループの歴史と未来へのエコシステムの呼びかけ
9.1 国家の歩みと交差してきた一世紀超の建設史と「筋肉の記憶」
司会: こうした「フロンティアで築きながら現実の応用に根ざす」という姿勢は、御社にとって新しいものなのでしょうか。
Ananya Birla: いいえ、これは私たちにとって決して新しいものではありません。Aditya グループの歴史は、私たちの国家の物語と深く絡み合ってまいりました。私の先祖たちは、独立を通じて、自由化を通じて、グローバル化を通じて、インドの歩みのあらゆる章の中で築き続けてきたのです。私たちの歴史とは、その時々の局面を読み解き、確信を持って適応し、そして自らを生んだ混乱よりも長く生き残る機関を築いてきた歴史にほかなりません。
司会: その一世紀を超える積み重ねが、いまの局面でも生きていると。
Ananya Birla: ええ。この一世紀にわたる建設の歴史は、私たちにきわめて貴重なものを与えてくれました。それは、地殻変動のような大きな転換を乗り切るための「筋肉の記憶(muscle memory)」です。私より前の世代——私の兄や姉も含めて——は、早い段階の小さな揺れを読み取ること、コンセンサスが形成される前に投資すること、そして四半期単位ではなく数十年単位で築くことを学んできました。私たちの世代のいずれもが、古い手引き書を書き換えなければならない瞬間に直面してきたのです。
9.2 高い曖昧性と不確実性が生む機会という確信
司会: では、今日の局面が過去と決定的に違う点はどこにあるとお考えですか。
Ananya Birla: 今日において異なるのは、高い曖昧性と不確実性という要素です。しかし、これを近くでよく見つめてみれば、その曖昧さと不確実さこそが、計り知れない機会を生み出しうるのだと分かります。まさにこの点こそが、今この瞬間をこれほどまでに胸を躍らせるもの、そしてこれほどまでに重大なものにしているのです。
9.3 学術・産業・政策の協働とプレイブックを共に書くという結語
司会: その機会を捉えるために、何が最も必要だとお考えですか。
Ananya Birla: ここで私が強く、本当に強く信じるに至ったことがございます。それは、どれほど大きく、どれほど潤沢な資源を持つ単一の機関であっても、この時代をただ独力で乗り切ることはできない、ということです。4兆ドルから40兆ドルへの旅は、産業界が孤立して動くことでは決して成し遂げられません。それには、もっと根本的なものが必要です。すなわち、学術、産業、そして政策を、本物の、そして持続的な協働へと引き入れるエコシステムを築くことです。
司会: その中で、御社はどのような立ち位置を取るのでしょうか。
Ananya Birla: インドが自らのAIの章を書き進めていく中で、私たちは最前線に立つつもりです。傍観者としてではなく、追随する者としてでもなく、技術の、機関の、そしてエコシステムの、誠実で真実なる、責任ある建設者として立つのです。この国は世界を導く必要があり、私たちは最大限の責任をもってそれを担います。次に来るもののための手引き書は、まだ書かれておりません。Aditya グループにおいて、そして Birla AI Labs において、私たちはその手引き書を、皆様とともに書き上げることを心から楽しみにしております。本日は、誠にありがとうございました。光栄でございました。
司会: ありがとうございました、Ananya さん。あなたの言葉に込められた確信は、本当に心を打つものでしたし、その大胆なビジョンもまた見事に示されたと思います。Birla AI Labs の立ち上げ、誠におめでとうございます。皆様、盛大な拍手を。それでは、次の登壇者をお迎えしたいと思います。