※本記事は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)の第55回年次総会(2025年)で開催されたセッション「Spotlight on Workers」の内容を基に作成されています。登壇者は、AFL-CIO会長のElizabeth Shuler氏、Rockwell Automation会長兼CEOのBlake Moret氏、ドイツのジャーナリストMelanie Amann氏、ポーランドの家族・労働・社会保障大臣のAgnieszka Dziemianowicz-Bąk氏です。
本記事では、パネルディスカッションの内容を要約しております。なお、本記事の内容は登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、世界経済フォーラムの公式記録をご参照ください。
世界経済フォーラムは、グローバルシチズンシップの精神に基づき、官民協力を通じて世界の状態を改善することに取り組む国際機関です。1971年に非営利財団として設立され、スイスのジュネーブに本部を置く独立・中立的な組織として、すべての主要な国際機関と緊密に協力しています。
本セッションの詳細情報は世界経済フォーラムの公式ウェブサイト(www.weforum.org )でご覧いただけます。
1. はじめに
1.1. パネリストの紹介
本セッション「Spotlight on Workers」は、2025年の世界経済フォーラム年次総会において、労働者と使用者の関係性、特にグリーントランスフォーメーションと技術革新に関する課題と機会について議論することを目的として開催されました。
パネルディスカッションには、以下の4名の有識者が登壇しています。
●Agnieszka Dziemianowicz-Bąk: ポーランドの家族・労働・社会保障大臣 哲学博士号を持ち、政界に入る前は社会研究者として活動し、特に女性、教師、労働者の権利擁護に取り組んできました。労働者のストライキや労働運動を支持し、労使間の新しい調停形式の構築に尽力してきた経験を持っています。
●Blake Moret: Rockwell Automationの会長兼CEO 機械工学の学位を持ち、セールストレーニーとしてRockwellでのキャリアをスタートさせ、2016年からCEOを務めています。同社で一貫したキャリアを積み、現在の地位に至っています。
●Liz Shuler: AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)の会長 61の全国・国際労働組合を代表する組織の代表として、1,500万人の労働者の利益を代表しています。ジャーナリズムの学士号を持ち、労働運動の分野で長年のキャリアを積み、AFL-CIOの会長として初の女性リーダーとなりました。組織者、ロビイスト、教育者として、労働組合の政治キャンペーンでも重要な役割を果たしてきました。
●Melanie Amann: ドイツのジャーナリスト モデレーターを務めています。
このパネルでは、企業戦略、労働者の利益、政治的構想が時に調和し、時に衝突する分野について、包括的な議論が展開されることが期待されています。各パネリストは、それぞれの立場から、労働市場の現状分析と将来への展望について、具体的な経験と知見を共有する準備を整えています。
1.2. 2024年の労働市場の現状と課題
Melanie Amann:2024年の労働市場を振り返ると、特に欧州と米国において、ストライキの多発、人材不足、そして主要産業における混乱が顕著でした。特に注目すべきは、グリーントランスフォーメーションの進展です。欧州と米国では環境配慮型産業への移行が進む一方で、従来型の化石燃料産業や製造業部門への投資シフトも同時に観察されています。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:私たち政策立案者の観点からは、世界全体、特に欧州が直面している三つの重要な課題に注目しています。一つ目は労働市場に影響を与える技術変革、二つ目は環境に配慮したグリーントランスフォーメーション、そして三つ目は人口動態の変化です。これらすべての課題に対応するためには、形式的な対話ではなく、実質的な社会対話が必要です。
Liz Shuler:労働組合の立場から見ると、米国では経済システムが労働者にとって十分に機能していないことが明らかになっています。そのため、ここ数年は記録的なストライキの発生を経験しました。教職員組合、通信労働者組合、そして俳優組合などが大規模なストライキを実施しました。特に俳優組合の事例では、AIが労働者の尊厳ある仕事や自身の画像の所有権を脅かすという新しい課題も浮き彫りになっています。
Blake Moret:企業の視点からは、技術革新と人材育成の両立が重要な課題となっています。私たちRockwellでは、技術は労働力を置き換えるものではなく、人間の能力を強化し、食品包装や医薬品の製造、エネルギー処理など、人間だけでは実現できない作業を可能にするツールとして捉えています。
この状況に対応するため、世界経済フォーラムの第55回年次総会では、透明性、一貫性、説明責任という信頼を築く基本原則に焦点を当てています。100以上の政府、主要な国際機関、1000のフォーラムパートナー、市民社会のリーダー、専門家、若者の代表、社会起業家、メディアが参加し、これらの課題に対する包括的な解決策を模索しています。
2. 政策立案者の役割
2.1. 社会対話の場の創出
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:政策立案者として、社会対話は形式的なものではなく、実質的な議論の場であるべきだと考えています。私たちの役割は、時には困難な対話であっても、安全な場を創出し、将来の課題に向けた最善の解決策を共に創造していくための構造を整備することです。
Liz Shuler:米国の視点から申し上げると、私たちは社会対話のモデルを必要としています。現在の米国には、政府、労働者、労働組合、企業が一堂に会して国の進むべき方向を議論する仕組みが存在しません。そのため、お互いを理解する機会が少なく、対話が始まる前に対立点が表面化してしまうことが多いのです。
Blake Moret:企業の立場からすると、社会対話の場は重要ですが、それは企業の成功にも直結します。私たちの経験では、従業員が支援を感じられ、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることが、企業の成功につながります。そうでなければ、従業員は離職するか、最善を尽くそうとしなくなってしまいます。
Melanie Amann:欧州、特にドイツでは、経済相のRobert Habeckも哲学のバックグラウンドを持っていますが、これは政策立案において重要な視点を提供していると考えられます。社会対話の場を創出する際に、異なる立場の意見を理解し、調整していく上で、哲学的思考は重要な役割を果たすのではないでしょうか。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:はい、その通りです。社会対話の場は、時にコンセンサスを得ることが難しい場合もありますが、異なる立場の意見を透明性を持って議論できるプラットフォームとしての役割を果たしています。政府として、私たちは労使双方の立場を考慮しながら、建設的な対話を促進する責任があります。
2.2. グローバルとローカルの視点の必要性
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:私は、グローバルとローカル双方の視点が必要だと考えています。現代の労働市場では、企業活動や労働市場の実態が国を越えて類似している場合が多々あります。そのため、社会対話や制度設計においても国際的な視点が不可欠です。しかし同時に、各国、各地域、各産業の特性も考慮に入れる必要があります。
Liz Shuler:米国の労働組合の立場から見ると、私たちは国境を越えた課題に直面しています。例えば、テクノロジーの変化や気候危機、民主主義の問題など、これらはすべてグローバルな視点で捉える必要があります。労働組合は世界中で安定性の柱としての役割を果たしており、これらの課題に取り組む際には労働者の声を反映させることが重要です。
Blake Moret:グローバル企業として、私たちは多様な市場で事業を展開しています。各地域の顧客ニーズに近い場所で製造とエンジニアリングを行うことが重要です。同時に、製造拠点の決定は長期的な視点で行う必要があります。例えば、米国の顧客基盤を地域の製品でしっかりとサポートしながら、世界中の顧客にもサービスを提供していく必要があります。
Melanie Amann:この点について、具体的に各国や地域の経済発展レベルや既存の社会基準によって、課題や責任は大きく異なるのでしょうか?
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:その通りです。ただし、国家は二者間の対話だけに任せるのではなく、関係者の自主性を尊重しながらも、対話の場を創出し、社会的な協議や対話を可能にする責任があります。これは一国レベルだけでなく、国際的なレベルでも同様です。現代では、多くの産業や企業が国境を越えて活動しており、労働者の権利や基準も国際的な視点で検討し、交渉する必要があります。
2.3. ポーランドの社会対話評議会の事例
Melanie Amann:ポーランドには、社会対話の特別な仕組みがあると聞いています。社会対話評議会は単なる議論の場ではなく、政府が評価し議論しなければならない法案を提案できる準立法的な権限を持っているそうですが、実際の影響力はどの程度あるのでしょうか?
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:はい、社会対話評議会は社会対話を制度化した仕組みの一つです。この制度は、経済的な視点から見ても、従業員の視点から見ても、競争力を維持しながらパートナーシップを進めていく上で重要な役割を果たしています。国家や法制度がこのような形で社会対話を促進することは、非常に有効です。
しかし、実際には合意形成に至ることは稀です。それでも、少なくとも異なる立場の意見を議論する透明性のあるプラットフォームとしての機能を果たしています。政府として私たちは、従業員と使用者の立場を考慮に入れる義務があり、最も重要な法案についてはこの場で議論を行います。
ただし、この制度化された社会対話には課題もあります。例えば、対話が形式的なものになりがちで、実質的な議論が行われにくいという問題があります。実際、ポーランドは欧州の中でも団体交渉の水準が最も低い国の一つです。私たちは現在、従業員と労働組合の双方に対して、より積極的な関与を促すよう取り組んでいます。
Liz Shuler:米国の立場から見ると、そのような社会対話のモデルは非常に魅力的です。現在の米国には、政府、労働者、企業が一堂に会して国の課題に対して事前に対処する仕組みがありません。その結果、相互理解が進まず、対立が深刻化してから初めて対話が始まるという状況に陥っています。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:その通りですね。また、今日のグローバル化した環境では、一国レベルでの対応だけでは不十分です。多くの産業や企業が国境を越えて活動している中で、労働基準や労働者の権利も国際的なレベルで検討し、交渉していく必要があります。
3. 労働組合と企業の関係性
3.1. AFLCIOの経験と視点
Liz Shuler:まず、このような場で労働組合の声を取り上げていただいたことに感謝します。世界経済フォーラムで市民社会グループとしての労働組合の声が反映されることは非常に重要です。技術変革や気候危機、民主主義など、あらゆる場面で労働者の声を反映させる必要があり、労働組合は世界的な安定性の柱として機能しています。
米国の状況について説明させていただきますと、私たちは労使間の団体交渉において特殊な緊張関係に直面しています。これまで労使は交渉テーブルを挟んで向き合ってきましたが、米国の組合組織率が低いため、この制度が産業全体に浸透していません。そのため、私たちは組合に加入していない労働者も含めた、すべての労働者の基準を引き上げるための闘いを続けています。
米国の経済システムは労働者にとって十分に機能していないのが現状です。そのため、ここ数年は記録的なストライキが発生しています。この場にも教職員組合のランディ・ワインガート氏や通信労働者のクロード・カミングス氏がいらっしゃいますが、彼らの組合も大規模なストライキを実施しました。
Melanie Amann:組合の規模が大きくなり、業種も多様化する中で、集団的な交渉や社会的なパートナーシップを維持することは難しくなっているのではないでしょうか?
Liz Shuler:確かにその通りです。各産業には固有の利害関係があります。米国では主に企業レベルで交渉を行っていますが、特定の企業とその労働組合の間で行われています。しかし、現在は産業全体や部門全体でのアプローチにシフトしようという動きがあります。なぜなら、現在の規模では十分な影響力を持てないからです。私たちは、どのような仕事であっても、労働組合を結成し、集団行動を起こす権利を持つべきだと考えています。
3.2. マイクロソフトとアマゾンの対照的な事例
Liz Shuler:労使関係において、私たちは対照的な二つの事例を経験しています。まず、マイクロソフトとの協力関係について説明させていただきます。私たちは、AIの開発において労働者の声を上流工程から反映させる必要があると考え、マイクロソフトに提案を行いました。さらに、マイクロソフトとそのサプライチェーン全体の労働者が、会社からの干渉なく労働組合を結成できるべきだと提案しました。これは米国では画期的なことですが、マイクロソフトはパートナーシップの価値を認め、この提案を受け入れてくれました。
一方、アマゾンの事例は全く異なります。アマゾンは米国において、労働者が組合を結成しようとするあらゆる試みを妨害しています。米国の労働法は破綻しており、企業寄りになっているため、アマゾンの倉庫で働く労働者は様々な監視を受けています。例えば、ウェアラブルデバイスで手首の動きを監視され、7秒間動きが通常と異なると懲戒処分の対象となります。さらに、トイレまで追跡され、アルゴリズムによって解雇されることもあり、人間の上司と話すこともできません。
Melanie Amann:そのような監視や管理は、生産性にも悪影響を及ぼすのではないでしょうか?
Liz Shuler:その通りです。労働者の尊厳と権利を尊重しないビジネスモデルは、結果的に企業にとっても悪影響を及ぼします。人材の定着率が低下し、人材管理や生産性に問題が生じます。私たちは、マイクロソフトのような協力的なアプローチこそが、技術革新や環境変化への対応において持続可能な道だと考えています。このようなパートナーシップの事例を、他の産業にも広げていく必要があります。
Blake Moret:企業の立場からも、従業員との良好な関係は非常に重要です。従業員が支援されていると感じ、最高のパフォーマンスを発揮したいと思える環境を作ることが、企業の成功につながります。そうでなければ、従業員は離職するか、最善を尽くそうとしなくなってしまいます。
3.3. 労使関係におけるパートナーシップの重要性
Liz Shuler:私たちAFL-CIOは、労働組合と使用者の間の協力関係を常に重視してきました。ストライキは私たちが使用できる一つのツールですが、できるだけ稀に使用したいと考えています。使用者が関係性を尊重とコミュニケーションに基づいて構築し、労働者の参画を重視してくれる場合、私たちは非常に強力なパートナーとなることができます。
Blake Moret:その通りです。私たちRockwellの経験からも、パートナーシップの価値は明らかです。企業の成功は、従業員が単に支援されていると感じるだけでなく、最高のパフォーマンスを発揮したいと思える環境を作ることにかかっています。そうでなければ、従業員は離職するか、最善を尽くそうとしなくなってしまいます。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:政策立案者の立場からも、このようなパートナーシップを支援する制度的な枠組みが重要です。経済の競争力を維持しながら、労使のパートナーシップを促進することが、持続可能な発展につながると考えています。
Liz Shuler:実際、私たちはマイクロソフトとのパートナーシップを通じて、AIの開発における労働者の声の重要性を示すことができました。このような建設的な関係は、技術革新や環境変化への対応において非常に重要です。対立的なアプローチを取るアマゾンのような企業では、高い離職率や生産性の低下などの問題が生じています。
Blake Moret:企業文化として、これらの価値観を組織に根付かせることが重要です。個々の人事施策を超えて、組織全体で良好な労使関係を維持することで、良い時も悪い時も乗り越えていけるフライホイールとなります。
4. テクノロジーと労働者の共生
4.1. Rockwell Automationのアプローチ
Blake Moret:私たちはかなり多様なパネルメンバーの中で、米国を拠点とする製造業企業として、そして自動化ビジネスを展開する企業として、どのように共通の基盤を見出せるかを考えてきました。私たちの技術に対するアプローチは、人間中心のものです。技術は労働力を置き換えるのではなく、労働者に超人的な力を与え、技術なしでは実行できないタスクを可能にするものとして捉えています。
例えば、食品包装や医薬品の製造において、何十億回分もの投薬量を正確に測定し処方する作業、そしてあらゆる形態のエネルギーを処理し、人々の生活水準を維持するために利用可能にする作業、これらはすべてある程度の技術を必要とします。しかし、技術導入の際には、安全性、効率性という基本的な要素に焦点を当てることが重要です。
また、生産効率だけでなく、事業運営における投入資源の効率的な管理により持続可能性を高めることも重要です。これらは絶対に不可欠であり、一方だけを追求しても競争力は得られません。なぜなら、最も価値のある資産は労働者だからです。
Liz Shuler:その点について、技術革新によって置き換えられる労働者の不安にはどのように対応されているのでしょうか?
Blake Moret:新しい技術を導入する際には、それが思慮深く行われ、現在の作業から新しい作業への移行に必要な対応を認識することが、当初期待していた投資収益を得るための唯一の方法だと考えています。私たちのポーランドのカトヴィツェ工場では、複数のタスクをこなせるようにクロストレーニングを提供するだけでなく、個人生活でも役立つサイバーセキュリティの基礎知識など、幅広い研修を提供しています。
4.2. 人間中心の技術導入
Blake Moret:新しい技術を導入する際の私たちの基本的な考え方は、技術を人間中心に捉えることです。基本的な要素として安全性と効率性に焦点を当てていますが、これは単なる生産効率だけではありません。投入資源の効率的な管理を通じて、事業運営の持続可能性を高めることも重視しています。
技術導入において、現在の作業から新しい作業への移行を慎重に計画し、必要な支援を行うことが、当初期待していた投資収益を得るための唯一の方法だと考えています。特に、各従業員が自分の仕事で最高のパフォーマンスを発揮できるスキルを身につけられるよう支援することを重視しています。
Liz Shuler:技術革新の過程で労働者の声を反映させることは非常に重要ですね。マイクロソフトとの協力でも、AIの開発における労働者の声の反映が重要なテーマとなりました。
Blake Moret:その通りです。私たちは従業員に対して、単に仕事上のスキルだけでなく、個人としての成長も支援しています。例えば、サイバーセキュリティの基礎知識は、仕事だけでなく個人生活でも重要になってきています。
Melanie Amann:つまり、技術導入は単なる効率化ではなく、人材育成の機会としても捉えているということですね。
Blake Moret:はい。私たちの経験では、従業員が新しい技術を使いこなせるようになることで、より創造的な仕事に時間を使えるようになります。また、従業員が自身の成長を実感できることで、仕事への満足度も高まり、それが企業の持続的な成長にもつながっています。
4.3. 退役軍人の再教育プログラムの成功事例
Blake Moret:私のCEOとしての任期中で最も誇りに思っているプログラムの一つが、退役軍人向けの製造業技術者育成プログラムです。毎年、多くの退役軍人が市民生活に戻ってきますが、その多くは高校卒業程度の学歴しか持っていません。しかし、彼らの多くは軍隊で技術的な専門職(MOS:Military Occupational Specialty)を経験しています。
私たちは12週間の無料プログラムを通じて、製造業の様々な役割で競争力のある仕事を得るために必要な実践的なスキルを提供しています。このプログラムを修了した退役軍人は、平均年収74,000ドルの仕事に就くことができています。現在までに400人以上が卒業していますが、これはまだ始まりに過ぎません。このプログラムは拡大可能で、より多くの退役軍人に機会を提供できると考えています。
Melanie Amann:その後のキャリア開発についても支援されているのでしょうか?
Blake Moret:はい、そこから更に発展させて、中堅人材向けのプログラムも展開しています。世界経済フォーラムと協力して、次世代の産業リーダーを育成するプログラムを実施しています。このプログラムでは、様々なベストプラクティスを学ぶ機会を提供しており、世界経済フォーラムならではの幅広いネットワークを活用しています。
Liz Shuler:このような具体的な成功事例は、技術革新と人材育成の両立が可能であることを示す良い例ですね。特に、具体的な賃金水準を示されたことは重要です。労働組合としても、このような形で労働者のスキルアップと待遇改善が結びつくプログラムを支持しています。
Blake Moret:ええ、技術革新は必ずしも雇用の減少を意味するわけではありません。むしろ、適切な教育訓練プログラムと組み合わせることで、より良い雇用機会を創出することができるのです。
5. 多様性と包摂性の課題
5.1. DEIプログラムの現状
Melanie Amann:最近、多くの米国企業や国際企業がDEI(多様性・公平性・包摂性)プログラムを廃止していると聞いていますが、Rockwellではどのような対応を取られているのでしょうか?
Blake Moret:私たちは、時流に関係なく、多様性を受け入れる姿勢を堅持しています。その理由は倫理的な側面と事業的な側面の両方にあります。可能な限り広い人材プールから人材を採用し、その多様性がどのような形であれ、すべての人が歓迎され、自分らしくいられる環境を作ることが重要です。これは単なる倫理的な理由だけでなく、ビジネス上も理にかなっています。人々が自分らしくいられ、最高のパフォーマンスを発揮したいと思える環境を作ることが、企業の成功につながるからです。
Liz Shuler:米国の現状を見ると、DEIプログラムへの圧力は、私たちが直面している脆弱性を示していると思います。しかし、私の希望は、投資を行ってきた企業が、その価値を認識し続けることです。これは単なる包摂性の問題ではなく、生産性の問題でもあります。すべての人が安心して仕事に来て、尊重され、尊厳を持って扱われ、職場で不安を感じることなく、より貢献できるようになるのです。
Blake Moret:その通りです。呼び方は何であれ、その進化を通じて、これは企業の成功に不可欠な要素であり続けています。私たちは以前にも増して、この取り組みにコミットしています。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:政策立案者の立場からも、職場における多様性と包摂性は、社会の安定性と経済の持続可能性の両方に貢献する重要な要素だと考えています。これは単なる社会正義の問題ではなく、経済的な競争力の問題でもあります。
5.2. 人材プールの最大化の重要性
Blake Moret:エンジニアが多い企業として、人材プールの最大化は私たちにとって重要な課題です。技術職を選択する女性が増えている中で、私たちはそのような人材の受け皿となり、活躍の場を提供する必要があります。組織全体で女性の割合は着実に増加しており、これは大きな進展だと考えています。
また、市場のリーダーとして、私たちの行動や発言は、北米市場を中心に大きな影響力を持っています。これは私たち自身の企業だけでなく、パートナーエコシステム全体にも及びます。このような取り組みは、単に企業や事業を成功させるだけでなく、個人を超えて、好況期も不況期も乗り越えていける企業文化を強化するフライホイールとなるのです。
Liz Shuler:そうですね。労働組合としても、より多くの女性がこれらの職種に就けるようパイプラインを構築し、必要なスキルを習得できるよう支援することが重要だと考えています。しかし、単に大学とのパートナーシップや採用組織との連携だけでは十分ではありません。入社後のリソースグループの設立など、すべての人が最高の仕事ができる環境づくりを示していく必要があります。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:政策立案者の立場からも、多様な人材プールを活用することは、労働市場の持続可能性という観点で重要です。特に、高齢化が進む中で、これまで十分に活用されてこなかった人材の能力を最大限に引き出すことは、社会全体にとって重要な課題となっています。
Melanie Amann:つまり、多様性の推進は単なる社会的な要請ではなく、企業の持続可能性にとっても不可欠だということですね。
5.3. 製造業における女性の参画
Liz Shuler:製造業における女性の参画について、米国では長年停滞が続いていました。しかし最近、チップス法や科学法、さらにはIRA(インフレ削減法)などを通じて、製造業への積極的な投資が行われています。これらの政策は、製造業における女性の参画を促進するインセンティブを企業に提供する重要な機会となっています。
Blake Moret:エンジニアが大多数を占める企業として、これは私たちにとって重要な課題でした。より多くの女性がエンジニアリング分野を選択するようになる中で、私たちはどのようにしてその人材の受け皿となり、目的地として選ばれる企業になれるかを考えてきました。組織全体で見ると、女性の割合は劇的に増加しています。
Melanie Amann:具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
Blake Moret:単に大学とのパートナーシップだけでなく、私たちのパートナーエコシステム全体で、この取り組みの重要性を発信しています。また、入社後の支援も重要です。リソースグループの設立や、メンタリングプログラムの提供など、女性が長期的にキャリアを築けるような環境づくりに注力しています。
Liz Shuler:その通りです。また、製造業における女性の参画を促進するためには、賃金の平等性や働きやすい職場環境の整備も重要です。労働組合として、これらの課題に対する具体的な改善を求めて、企業と協力していきたいと考えています。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:ポーランドでも同様の課題に直面していますが、EUレベルでの取り組みと連携しながら、製造業における女性の参画を促進するための政策を進めています。これは単なる公平性の問題ではなく、産業の競争力強化にとっても重要な課題です。
6. ギグエコノミーと労働者の権利
6.1. 柔軟性と搾取の境界線
Melanie Amann:世界経済フォーラムの2025年雇用レポートによると、労働者が最も求めているのはスケジュールの柔軟性だそうです。これがギグエコノミーに多くの人々が参入している理由の一つと考えられますが、労働組合の立場からはどのようにお考えですか?
Liz Shuler:柔軟性を搾取と混同してはいけません。現在、私たちが目にしているのは、人々がフルタイムの雇用を得るために複数のギグワークを組み合わせている状況です。これは問題です。私たちは労働者のために、高賃金で質の高い雇用の未来を望んでいます。例えば、3つの異なるギグ企業で、それぞれ最低限の時間だけ働いている場合、医療保険などの福利厚生も受けられず、家族を養うこともできません。
特に、配車シェアのようなモデルについて言えば、私たちは権利と高い基準の執行という観点から検討する必要があります。米国では、これまで労働者補償や差別からの保護、医療給付などが、フルタイム雇用というモデルと結びついていました。
Blake Moret:企業の立場からも、単なる柔軟性の提供だけでは不十分だと考えています。労働者が安定した生活を送れる環境を整備することが、長期的な企業の成功にもつながります。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:政策立案者の視点からは、柔軟性は必要ですが、それは安全性や保障の欠如を意味するものであってはなりません。規制と保護を通じて、適切なバランスを取ることが重要です。
6.2. プラットフォームワーカー指令(EU)の意義
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:私たちは現在、テクノロジーの発展による新しい雇用モデルへの対応について、2つの異なるアプローチを観察しています。その中で、欧州のアプローチは、パートナーシップの創出と労働者の権利保障という観点で非常に興味深いものです。
特に、EUのプラットフォームワーカー指令の実装は重要な取り組みです。現在、多くのEU加盟国がこの指令の国内法制化を進めています。この指令の目的は、配車サービスのドライバーや宅配員、通訳者など、従来はB2Bモデルの小規模事業者として見なされてきた人々に対して、従来の労働者と同等の権利保障を提供することです。
Liz Shuler:米国の視点からすると、そのような包括的な労働者保護の枠組みは非常に魅力的です。現在の米国では、独立請負業者は労働法の枠外に置かれており、基本的な労働者保護から除外されています。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:私の考えでは、これは未来への投資の方法として重要です。現代のテクノロジーと発展を活用しながら、同時にパートナーシップの未来を確保することができます。確かにリスクや予想される課題もありますが、それへの対応として、EU内での経済政策の統合を強化することで、労働者と企業の双方にとって機能するモデルを作り上げることができると考えています。
Blake Moret:企業の立場からも、明確な規制の枠組みがあることは、長期的な事業計画を立てる上で重要です。ただし、イノベーションを阻害しない形での規制が必要だと考えています。
6.3. 労働者保護の新しいモデルの必要性
Liz Shuler:米国では、ギグワーカーを含むすべての労働者に労働組合を結成する権利と集団行動の権利を保障する必要があると考えています。DoorDashやUberのドライバーであっても、同僚と団結し、賃金や労働条件、職場での待遇、安全衛生について発言する権利を持つべきです。しかし、米国には現在、そのためのモデルが存在していません。
特に注目すべきは、マサチューセッツ州での取り組みです。私たちの加盟組合の一つが、配車サービスのドライバーに組合結成権を与える州民投票を実施し、可決されました。これは州レベルでの実験的な取り組みとして重要です。なぜなら、米国の労働法では独立請負業者は保護の対象外とされているからです。
Melanie Amann:そのような新しいモデルは、既存の労働者保護を脆弱化させる危険性はないのでしょうか?
Liz Shuler:その懸念は正当です。新興分野の労働者のために別個の制度を作ることで、既存の労働者の権利や力が侵食されることを危惧しています。さらに、経済の新しい分野が持続可能な方向に発展するかどうかも不確実です。しかし、労働組合運動として、仕事の形態が変化し、異なる様相を見せている中で、労働者に発言権と主体性を与える方法を模索する必要があります。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:EUのアプローチでは、柔軟性のニーズに応えながらも、必要な保護と規制を確保することを目指しています。新しい労働形態に適した規制を見出しながら、労働者の基本的な権利は維持する必要があります。
7. 米国とEUの労働政策の比較
7.1. IRAの影響
Melanie Amann:米国における変化が、ポーランドでの実践にどのような影響を与えているのか、特に米国でIRA(インフレ削減法)により製造業への投資が増加している状況について、お考えをお聞かせください。
Blake Moret:私たちの視点からすると、ポーランドを含む世界各地での事業展開に大きな変更は予定していません。私たちは世界的な製造業者であり、グローバルな顧客にサービスを提供する企業として、北米が事業の大部分を占めているものの、世界中で製造を行っています。場合によっては、顧客に近い場所で製造とエンジニアリングを組み合わせる必要があります。
製造拠点に関する決定は長期的な視点で行う必要があります。米国の顧客基盤に対しては現地の製品で十分なサポートを提供しつつ、世界中の顧客にもサービスを提供していく必要があります。ポーランドの事業に関して言えば、私たちのカトヴィツェ工場は効率的で優れた運営を行っており、欧州市場にとって重要な拠点となっています。
Liz Shuler:労働組合の立場からすると、米国での製造業への投資は近年まで停滞していましたが、チップス法や科学法、そしてIRAによって状況が変化してきています。特に、製造業における女性の参画を促進する機会として、これらの政策的なインセンティブを活用することが重要だと考えています。
7.2. 規制アプローチの違い
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:新しい雇用モデルへの対応について、私たちは米国とEUで異なる2つのアプローチを観察しています。EUのアプローチの特徴は、パートナーシップの創出と労働者の権利保障の文脈で非常に興味深いものです。例えば、プラットフォームワーカー指令の実装を通じて、EU加盟国は新しい形態の労働者に対しても、従来の労働者と同等の保護を提供しようとしています。
Liz Shuler:米国では、労働法が企業寄りに偏っており、労働者保護が十分ではありません。私たちの経験では、特にギグエコノミーにおいて、この問題が顕著です。米国の労働者は、基本的な権利や保護を得るために、州レベルでの取り組みを進めざるを得ない状況です。
Blake Moret:企業の立場からすると、規制は必要ですが、それがイノベーションを阻害しないバランスの取れたものである必要があります。ただし、労働者の基本的な権利は確保されるべきです。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:EUのアプローチの強みは、経済統合と労働者保護を同時に追求できる点です。これにより、競争力を維持しながら、労働者の権利も保護することができます。この経験は、他の地域にとっても参考になる可能性があります。
7.3. 競争力と労働者保護のバランス
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:EUのアプローチについて、具体的な例を挙げて説明させていただきます。私たちは、競争力を維持しながら、パートナーシップと労働者保護のバランスを取ることが可能だと考えています。例えば、プラットフォームワーカー指令は、新しい技術やビジネスモデルの発展を阻害することなく、労働者の基本的な権利を保護することを目指しています。
Blake Moret:グローバル企業の立場から見ると、確かにバランスは重要です。私たちRockwellの経験では、従業員への投資と企業の競争力は必ずしも相反するものではありません。むしろ、従業員が支援されていると感じ、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることが、長期的な企業の成功につながっています。
Liz Shuler:米国では、このバランスの取り方が大きな課題となっています。現在、企業の競争力が過度に重視され、労働者保護が犠牲になっている状況があります。しかし、マイクロソフトの例が示すように、労働者の権利を尊重しながら、イノベーションと競争力を維持することは可能です。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:そうですね。私たちが目指すべきは、経済統合と労働者保護を同時に追求することです。そのために、EU内での政策統合を強化し、企業と労働者の双方にとって機能するモデルを構築する必要があります。
8. 将来展望
8.1. 労使関係の発展可能性
Melanie Amann:この議論を締めくくるにあたり、皆さんは労使関係の将来についてどのような展望をお持ちでしょうか?
Liz Shuler:私は常に楽観的な見方をしています。私の所属する電気労働者組合では、労使の協力関係の伝統があり、企業が労働者や労働組合と協力的に働くことが、自社の利益にもなると理解してくれることを期待しています。
Blake Moret:私も楽観的です。ここ数年で、以前は当たり前だと思われていたことが変化しています。例えば、オフィスでの柔軟性のないワークスタイルなど、従来のパラダイムが変化しました。また、生活水準を向上させる技術の活用についても、新しい視点が生まれています。この役職で、何が機能し、何が機能しないのか、リスクを取って成功した事例や、これから数年間で他者を支援できる経験を積んできました。
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:私も非常に楽観的です。ただし、労使関係が良好に発展するためには、いくつかの条件が必要だと考えています。特に、柔軟性が安全性や保障の欠如を意味してはならず、適切な規制と保護が必要です。
Melanie Amann:つまり、将来の労使関係は、柔軟性と安定性のバランスが鍵になるということですね。
8.2. 柔軟性と安全性の両立
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:将来の労働関係において、柔軟性と安全性を両立させることが重要です。柔軟性は必要ですが、それは労働者の安全性や保障の犠牲の上に成り立つものであってはなりません。むしろ、適切なルールと規制を設けることで、両者のバランスを取ることが可能です。
Liz Shuler:同感です。米国の経験から言えば、柔軟性という名の下に労働者の基本的権利が侵害されるケースを数多く見てきました。しかし、柔軟性と安全性は二者択一ではありません。むしろ、適切な労働者保護の枠組みがあることで、労働者は安心して柔軟な働き方を選択できるようになります。
Blake Moret:企業の視点からも、この両立は重要です。従業員が安心して働ける環境を整備することは、生産性の向上にもつながります。例えば、私たちの経験では、従業員に適切な柔軟性を提供しながら、キャリア開発や技能向上の機会を保障することで、より強い組織を作ることができています。
Melanie Amann:つまり、柔軟性と安全性は、適切な制度設計によって両立可能であり、それが今後の労働市場の発展にとって重要だということですね。
8.3. カスタマイズされたソリューションの必要性
Agnieszka Dziemianowicz-Bąk:私たちは、異なるグループに対して、それぞれの状況に適したソリューションを見出す必要があります。従来の方法を完全に放棄することなく、新しい課題に対応した解決策を探るべきです。いくつかの緊張関係や課題に直面することは避けられませんが、オープンマインドで新しいソリューションを探ることで、現代の課題に適切に対応することができます。
Blake Moret:企業の立場からも、一律の解決策ではなく、各産業や地域の特性に応じたアプローチが必要です。例えば、私たちの場合、製造拠点ごとに異なるニーズがあり、それぞれの状況に合わせた対応を行っています。ただし、その根底にある価値観や基本的な方針は一貫したものでなければなりません。
Liz Shuler:労働組合としても、産業や職種によって異なるアプローチが必要だと認識しています。特に、ギグエコノミーなど新しい働き方が登場する中で、従来の労働者保護の枠組みを維持しながら、新しい状況に対応した解決策を見出す必要があります。
Melanie Amann:今日のパネルディスカッションは、ダボスで見られる独特の視点と意見の組み合わせを示す良い例となりました。さまざまな立場からの意見を共有し、将来に向けた建設的な対話を行うことができました。これらの議論が、今後数日間の会議でも活かされることを願っています。