※本記事は、2025年2月7日にベルリン工科大学(TU Berlin)で開催された「In the Age of AI – A Panel Discussion with OpenAI CEO Sam Altman at TU Berlin」のパネルディスカッションの内容を基に作成されています。このイベントは、ベルリン工科大学、OpenAI、ベルリン学習・データ基盤研究所(BIFOLD)の共催で行われました。ディスカッションでは、AIが科学、ビジネス、社会に与える影響や、AI時代に学生・科学者・政治家が準備すべきこと、この変革的技術がもたらす機会とリスク、AIが社会に利益をもたらすための前提条件などが探求されました。イベントの詳細情報は https://www.tu.berlin/en/go278788/ でご覧いただけます。
本記事では、パネルディスカッションの内容を要約しております。なお、本記事の内容は登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。また、TUベルリンの新しいニュースルームでは、プレスリリース、インタビュー、ラボの洞察など、より多くの科学コミュニケーションコンテンツをご覧いただけます。
1. イントロダクション
1.1. イベント概要と参加者紹介
2025年2月7日、ベルリン工科大学(Technische Universität Berlin)で「The Age of AI」と題したパネルディスカッションが開催されました。このイベントはベルリン工科大学、OpenAI、そしてベルリン学習・データ基盤研究所(Berlin Institute for the Foundations of Learning and Data:BIFOLD)の共催で行われました。
モデレーターを務めたファトマ・デニス教授は、イベントの冒頭で次のように述べています:
「このイベントには4,000人以上の方々が参加を希望され、わずか30分で満席となりました。AIの変革的な力について、リーダーたちやAI専門家の方々とともに議論できることを大変嬉しく思います。私はコンピュータサイエンスの教授であり、ベルリン工科大学のデジタル化と持続可能性担当の副学長を務めています。」
このイベントでは、人工知能が科学、ビジネス、そして社会に与える影響について掘り下げた議論が行われました。主な論点は以下の通りです:
- AIの時代において学生、科学者、政治家が準備すべきこと
- この変革的な技術がもたらす機会
- 考慮すべきリスク
- AIが社会に利益をもたらすための前提条件
会場となったAIM Moxの講堂は満席となり、ライブストリーミングでも多くの視聴者が参加しました。このパネルディスカッションは、学期末に向けた総括的なイベントとしての側面も持っていました。
ファトマ・デニス教授は短い導入の後、「AIの持つ潜在能力と課題について、AIをより大きな善のために活用し、そのリスクを軽減しながら議論していきましょう」と述べ、パネリストたちをステージに招きました。
1.2. パネリスト紹介
ファトマ・デニス教授は、各パネリストを次のように紹介しました。
Sam Altman(OpenAI CEO)
- AI業界とスタートアップ界の「真の重量級」
- YCombinatorでの経験を経て、現在はOpenAIのリーダーを務める
- キャリアを通じて、同僚や競合他社、科学者、メディアを刺激し、挑戦し、動機づけてきた人物
- パネルディスカッションでは「今の時代の人物」として紹介される
F. Mel(「データの魔術師」)
- ベルリン工科大学のコンピュータサイエンス教授
- データベースシステムと情報管理の講座主任
- ドイツ人工知能研究センター(German Research Center for AI)の主任科学者
- BOLDの共同ディレクター(ドイツの6つの国立AI研究所の一つ)
- 最先端のデータ処理とAIインフラの推進力として紹介される
Nicole Büttner(Merantix CEO)
- Merantixの最高経営責任者(CEO)
- 経済学者、起業家、AI専門家、投資家
- 最先端技術をビジネスや政策立案者にとってわかりやすくする能力に優れている
- AIの経済学とイノベーションにおける「パワーハウス」として紹介される
司会者はパネリストの紹介後、軽快な質問から始め、パネリストたちに「チャットボットに対して親切にしているか、質問の最後に『お願いします』や『ありがとう』と付けるか」を尋ねました。この質問に対し、パネリスト全員が自分たちもAIに対して礼儀正しく接していることを認め、会場に和やかな雰囲気をもたらしました。
2. AIの学術・科学的影響
2.1. Deep Researchの発表とその可能性
ファトマ:Sam、OpenAIとあなた自身にとって非常に忙しい時期だと思いますが、その中でベルリン工科大学にお越しいただき光栄です。チャットGPTのようなチャットボットは現在、インスピレーションを得たり、文章を下書きしたり、要約したりするのに使われていますね。基本的には時間を節約し、手間を省くのに役立っています。しかし、このことが科学的・学術的な仕事に何を意味するのでしょうか?最も洞察力のあるアイデアは、私たちが時間をかけ、近道をしないときに生まれるのではないでしょうか?
Sam:月曜日に「Deep Research」と呼ばれるものをリリースしました。Deep Researchは、人々の反応を見ていると、ほとんどChatGPTのような瞬間を迎えています。科学者たちはこれに最も興奮している人々の一部です。Deep Researchにクエリを与えると、あなたの代わりに多くの調査を行うことができ、何時間、何日、時には何週間もかかるようなタスクを実行できます。現在の形態では、多くの深い新しい洞察を生み出すことはありませんが、科学者や研究者としてあなたができることのための情報を集めるという点では本当に素晴らしいものです。
これは、AIが私たちに時間を節約させるいくつかの分野で役立ち、そして私たちはより高いレベルで働くことができるようになると考えています。これは人間がツールを作ってきた歴史のようなものです。以前は自分でやらなければならなかったことを機械にやらせることで、より多くのことができるようになり、そして抽象化のより高いレベルで自由に働けるようになります。すべてがうまくいくと思います。
ファトマ:Fola、Deep Researchのような生成AIが科学や研究をどのように変革すると考えていますか?
Fola:そこには多くの異なる側面があります。まず一つ目は自然科学を変革するという点です。重要な部分はその領域におけるファンデーションモデルに到達することです。そこでのデータは構造や様式が大きく異なるため、トレーニングと統合にはまだ専門家が必要です。問題は「どうやってそれをより良くできるか」ですが、病理学や地球観測などの分野では、すでにファンデーションモデルが作られつつあり、科学に変革的な影響を与えています。
もちろん、コンピュータサイエンスなどの分野では、多くの人々が時間を節約したりプロセスを加速したりするツールとして使っています。Copilotsは重要な側面で、プログラミングを改善するためのツールを実際に使用しています。多くの科学者にとって、複雑なPythonロジックなどを考える必要がなく、Copilotでそれを行うことは大きな価値があり、科学を本当に変えつつあります。
システム科学をやっている場合はそれほどではありません。なぜなら、そこではコードはトレーニングの「ロングテール」にあることが多く、通常はファンデーションモデルにそれほど含まれていないからです。新しいデータベースシステムや処理エンジンを構築したい場合は難しいですが、API統合や標準的な分析タスクには非常に強力なツールです。この意味で明らかに変革的です。
人文科学などの分野では、ドメイン固有のテキストやデータに関してモデルを適応させることで、質問応答などの機会が多く提供されています。この場合の創発的な振る舞いについてはまだ完全に理解していないので、そこからまだ興味深いことが出てくるかもしれません。
ファトマ:「lab-in-the-loop」の可能性や実験の加速により、これらのモデルが知識発見にも貢献できると考えています。それは私が本当に期待していることで、今後数年以内にAIによって自律的に行われる重大な発見が出てくると思います。
Nicole:それは興味深い質問です。多くの導入が見られていることは確かです。ドイツの企業は実際に非常に好奇心旺盛で、これを多く使用しており、最初の実験が行われています。RAGシステムでこれをよく見ており、それは素晴らしいことだと思います。この導入を始める必要があります。
個人的には、核となるビジネスアプリケーションに目を向け、そこから価値を得始めるという今後のことにもっと興奮しています。これを実現するには、全体的なエコシステムが必要になると思います。GPTやCopilotのようなものを使用する人もいれば、技術との対話の別のレベルが必要なケースもあるでしょう。現時点では表面をかすっているだけだと思います。データ、機能、技術、そして速度などの問題に取り組んで、これを実際にビジネスプロセスに組み込み、単なるRAGシステムから離れる必要があります。それは本当にエキサイティングなことだと思います。
Fola:大学の視点から言えば、私たちの「顧客」は学生です。学生のために大規模言語モデルやファンデーションモデルをどう活用できるか、興味深い機会があります。テキスト要約などの明らかなユースケースがありますが、GPTが質問に答えるとき、学生の学習効果をどう確保するかを考える必要があります。
本当に興味深いのは、チャットボットをチューターとして持つことです。例えば私たちの場合、データベースシステムの内容を教えるような個別化されたチューターがあれば、学生と対話し、個々の学習能力とコースの焦点に基づいて対応できます。この分野には大きな可能性があり、それは教育を革新するでしょう。なぜなら、貴重な教師とTAの負担を軽減し、より難しい内容に集中させることができるからです。これは素晴らしい機会であり、すでに活用している人もいます。
2.2. AIが科学研究をどう変革するか
ファトマ:会場にいる皆さんに質問です。自分はGPT-4より賢いと感じる方は手を挙げてください。
(数人が手を挙げる)
ファトマ:では、将来もGPT-5より賢いままだと思う方は?
(さらに少数が手を挙げる)
Sam:ここでもっと手が上がると思っていました。私自身はGPT-5より賢くはないだろうと思っていますが、それについて悲しくは感じていません。それは、私たちがAIを使って信じられないようなことができるようになるということを意味しているからです。私たちはより多くの科学的成果を生み出したいのです。研究者が以前はできなかったことを可能にしたいのです。これは人類の長い歴史の一部です。
今回は、このAIが可能にすることで少し違って感じるかもしれませんが、科学者たちが「クレイジーな高IQツール」を持ち、正しい質問を見つけることにより集中し、物事をより迅速に解決し、検索スペースをより速く探索できるなら、それは私たち全員にとって勝利です。私たちはそれを可能にすることができて喜んでいます。
ファトマ:そして「GPT-5より賢い」と言った2人の方々から後でまた話を聞きたいですね。
Fola:私たちの視点から言えば、企業と協力することで研究にある程度の基盤を与えることができます。これにより、より実用的になり、実世界の問題に焦点を当てるのに役立ちます。アカデミアだけの問題に取り組む場合、実用性の核心を見逃す方向に進んでしまうリスクが常にあります。それが一つの側面です。
もう一つは、もちろんリソースへのアクセス、モデルへのアクセスです。これらは非常に価値があります。BOLDと協力に特に焦点を当てると、私たちは科学へのモデル応用に関する研究を行っています。先ほどSamとも話したように、病理学やクォンタム化学などでのファンデーションモデルをどのように活用して、興味深い科学的分野に対して新しい洞察を生み出すことができるかを研究しています。
パーソナライズド医療には大きな期待があり、ケアを向上させる大きな可能性があります。BOLDはベルリン工科大学とチャリティ大学病院の両方を含んでいるので、ヘルスケア領域には多くの機会があり、私たちはそれらにようやく触れ始めたところです。
一方で、BOLDではシステム研究も行っています。私はデータ管理の専門家なので、データキュレーション、データ統合など、準備段階についても研究しています。モデルのトレーニング方法を見ると、さまざまなステップがありますが、それらを再現可能で文書化されたものにするにはどうすればよいでしょうか。Samが先ほど話した説明機能などが出てきているところでもあります。
一方で必要性があり、他方ではプロセス全体を見る機会があります。これにはシステムが含まれ、物事をスケーラブルにし、より賢いアルゴリズムやシステムアーキテクチャ、AIアプリケーションを効率的に書くのに役立つプログラミングモデルの研究をBOLDで行っています。そして、もちろん知的アルゴリズム、つまり機械学習側もあります。
私たちが知っているように、そしておそらく後で触れるかもしれませんが、トレーニングはまだかなり高コストです。大規模データセットを維持しながら、より効率的になることができるでしょうか?小さなデータでトレーニングしてモデル構成を行うこともできますが、大規模データでのトレーニングについて、そしてSamがどう思うか分かりませんが、私たちが見たい創発的な振る舞いは、おそらく大規模データセットでトレーニングすることでしか観察できないと思います。少なくともそれが私の期待です。小さなデータセットからそれらを取り出すのは難しいでしょう。なぜなら、その場合、暗黙的に誘導される行動とは対照的に、達成したいことを既に明示的に構築してしまうからです。
Sam:AIについて私が個人的に最も興奮していることの一つは、科学的発見に与える影響です。科学的発見を加速できれば、10年分の科学を1年で行い、いつか100年分の科学を1年で行うことができるようになります。それが生活の質にどのような影響を与えるか、最も差し迫った問題の解決、気候変動への対応、あらゆる面で生活を向上させること、病気の治療など、それは信じられないほどの贈り物となるでしょう。AIがついにそれを可能にすると思います。
2.3. 様々な科学分野(自然科学、人文科学)におけるAIの応用
ファトマ:既に多くの科学分野でのAI応用について触れていますが、もう少し深掘りしましょう。各分野で具体的にどのような変革が起きているのでしょうか?
Fola:病理学について少し掘り下げたいと思います。この分野では、病理画像の分析にAIが大きな変革をもたらしています。従来、病理学者は顕微鏡で組織サンプルを調べ、異常や疾患の兆候を探していました。現在、ファンデーションモデルは何千もの病理画像でトレーニングされ、非常に小さな異常や人間の目では見逃してしまうパターンを検出できるようになっています。
特に興味深いのは、これらのモデルがデータの「異なる構造と様式」に対応する必要があることです。自然言語処理モデルとは異なり、病理画像は複雑な空間的情報、色の違い、組織構造などを含んでいます。これがトレーニングと統合に専門家が必要な理由です。しかし、進歩は急速です。
地球観測も同様に革命的な変化を遂げています。衛星画像、気象データ、海洋データなどの膨大なデータセットがあり、AIモデルがこれらを統合して気候パターンの予測や環境変化の追跡を行っています。このようなファンデーションモデルは、気候科学や地質学、環境保全の分野で大きな価値を生み出しています。
Nicole:ビジネスの視点からも、各業界でAIの専門的な応用が進んでいます。例えば製造業では、プロセスの最適化、品質管理、予知保全などにAIが使われています。企業が持つ専門的なデータを活用することで、産業特化型のAIソリューションが生まれています。
金融セクターでは、リスク評価、詐欺検出、市場分析などにAIが活用されています。特に興味深いのは、自然言語処理と金融ドメイン知識を組み合わせたモデルで、企業報告書や市場ニュースなどのテキストデータから価値ある洞察を引き出しています。
Sam:人文科学分野でのAI応用も急速に発展しています。歴史研究では、古文書や歴史的文献の大規模解析により、これまで見過ごされていたパターンや関連性が発見されています。例えば、何千もの歴史的文書を分析し、特定の時代や地域における社会的・政治的変化を追跡するといったことがAIによって可能になっています。
また、言語学や考古学でも革新が起きています。失われた言語の解読や、考古学的発掘調査のガイドにAIが役立っています。さらに、芸術分野では、AIが絵画や音楽、文学など様々な創作物を分析し、スタイルやテクニック、影響関係などを特定することができます。
Fola:クォンタム化学も非常に興味深い応用分野です。量子力学の基本方程式を解くことは計算量が膨大で、従来は複雑な分子構造やその特性を正確に予測することが困難でした。AIモデルは、量子化学計算を近似し、新しい材料や医薬品の開発を大幅に加速することができます。
BOLDでは、分子構造に基づいて薬物の特性や効果を予測するモデルを開発しています。これにより、製薬会社は候補となる化合物をより早く、より少ないコストでスクリーニングすることができます。このアプローチは、新薬開発のプロセスを根本的に変える可能性があります。
ファトマ:その通りです。学際的な分野でも重要な進展が見られます。神経科学とAIの融合により、脳の機能をより深く理解する研究が進んでいます。AIモデルが脳の活動パターンを分析することで、認知プロセスや脳疾患についての新たな洞察が得られています。
Sam:そのような学際的アプローチがまさに科学的進歩を加速させる鍵となります。異なる分野の知識を組み合わせ、これまで見えなかったつながりを発見することで、イノベーションが生まれます。AIはそのための強力なツールとなります。
Nicole:また、持続可能性や社会問題の解決にもAIが貢献しています。例えば、都市計画や交通システムの最適化、エネルギー消費の削減、廃棄物管理などの分野で、AIベースのソリューションが開発されています。
Fola:そして忘れてはならないのが、AIの限界と課題です。特に科学的応用においては、モデルの透明性や説明可能性が重要です。なぜなら、科学者たちはAIがどのように結論に達したのかを理解する必要があるからです。また、トレーニングデータのバイアスも大きな課題です。これらの課題に対処するための研究も活発に行われています。
Sam:おっしゃる通りです。AIがどのような科学的研究に最適かを見極めることも重要です。AIは強力なツールですが、あらゆる問題に対する万能薬ではありません。科学者の直感や創造性、批判的思考は依然として不可欠です。AIが最も価値を発揮するのは、人間の科学者と協力して働くときだと思います。
3. AIのビジネス応用と教育
3.1. ビジネスプロセスにおけるAIの採用状況
ファトマ:ここまでは科学的な側面に焦点を当ててきましたが、ビジネスにおけるAIの採用状況についても話を広げていきましょう。Nicole、特にドイツや欧州の企業では、AIの採用状況はどうなっていますか?
Nicole:興味深い質問です。私たちは多くの企業での採用が進んでいるのを目にしています。ドイツの企業は実際にこの技術に非常に好奇心を持っており、積極的に使用し始めています。最初の実験的な取り組みも行われています。特にRAGシステム(検索拡張生成)での活用が目立ちますが、これは素晴らしいことだと思います。企業がAI導入を始めることは重要です。
ただ、個人的には今後の展開、つまりコアビジネスアプリケーションへの統合と、そこから得られる価値の創出にもっと期待しています。これを実現するには総合的なエコシステムが必要になるでしょう。一部の人々はGPTやCopilotのようなツールを使用する一方で、また別のケースでは技術との対話に異なるレベルのアプローチが必要になります。
現時点では表面をかすっているだけだと言えます。データ、機能、技術、そして速度などの課題に取り組み、AIを実際のビジネスプロセスに組み込んでいく必要があります。単なるRAGシステムを超えて、もっと深くビジネスの核心部分にAIを統合していくことが、真に価値を生み出す道だと考えています。
Sam:確かにその通りです。ドイツはOpenAIにとって重要な市場です。欧州最大であり、世界でもトップ5に入る市場です。多くの企業や組織が私たちのツールを使って素晴らしい成果を上げています。私が見ている限り、ほとんどの欧州の人々はAIがここで使われ、発展することを望んでいます。経済成長を活性化し、科学を推進し、欧州のインフラを構築することを望んでいるのです。そして私たちも同じ考えです。
ファトマ:Fola、あなたは企業とも協力しながら研究を進めていますが、その視点からビジネスにおけるAI採用についてどう見ていますか?
Fola:私にとって重要なのはデータです。Nicole、Samがすでに言及したように、欧州、特にドイツの企業には活用されていない膨大なデータの宝庫があります。生産プロセスからのデータ、顧客データベース、そして様々な業務データが現在、同じ規模で活用されていません。ここには大きな機会があると思います。
企業との協力は研究に基盤を与えてくれます。これにより研究はより実用的になり、実世界の問題に焦点を当てることができます。アカデミアだけで問題に取り組む場合、実用性の核心部分を見逃してしまうリスクがあります。
企業側でもAI採用の意欲は高まっていますが、まだスキルギャップが存在します。多くの企業が「AIを導入したい」と言いながらも、どう始めればいいか、どうデータを準備すべきか、どうモデルを統合すべきかが分からないでいます。このギャップを埋めるために、産学連携やトレーニングプログラムの重要性が増しています。
Nicole:その通りです。私たちがMerantixで見ているのは、企業が持つデータの価値に対する認識の高まりです。しかし、そのデータを活用するためのインフラやスキルが不足していることも多いです。私たちはそのギャップを埋めるため、企業と協力してAIの価値をビジネスプロセスに統合するための橋渡し役を担っています。
特に製造業や医療など、欧州が強みを持つセクターではAIの可能性が大きいです。例えば、予知保全、品質管理、サプライチェーン最適化などで、AIは大きな価値を生み出せます。また、欧州独自のデータプライバシーの枠組みに準拠したAIソリューションの需要も高まっています。
Sam:私たちがOpenAIで特に注目しているのは、企業がどのようにAIを「使う」かだけでなく、AIと「協業」する方法を見つけることです。これはただツールとして使うレベルを超えて、ビジネスの思考や運営方法そのものを変えることを意味します。最も成功している企業は、AIを単なる効率化ツールではなく、新しい可能性を開くパートナーとして見ています。
ファトマ:確かに、ただAIを導入するだけでなく、組織文化や働き方も変える必要がありますね。その変革の中で、どのようなビジネスプロセスが最も早くAIによって変わると思いますか?
Nicole:すでに見えているのは、ドキュメント処理や顧客サービスなどの定型業務への適用です。しかし、より重要なのは、製品開発、マーケティング戦略、財務予測など、より複雑な意思決定プロセスへのAI統合です。この領域では、AIは人間の直感や経験を補完し、データに基づいた意思決定を支援できます。
Fola:また、データ統合の課題も重要です。多くの企業では、データはサイロに分断されています。異なる部門や異なるシステムが独自のデータを持ち、それらが統合されていないのです。AIを効果的に活用するには、これらのデータソースを統合し、クレンジングし、構造化する必要があります。これは技術的な課題であると同時に、組織的な課題でもあります。
企業がAIを採用する際には、短期的な効率化だけでなく、長期的な競争力強化も考慮すべきです。一時的なブームに飛びつくのではなく、持続可能なAI戦略を構築することが重要です。
Sam:そして忘れてはならないのは、AIが人間の仕事を奪うのではなく、人間が新しいスキルを習得し、より高い価値を生み出す仕事にシフトする機会を提供するということです。企業はAI導入と同時に、従業員のスキルアップやリスキリングにも投資する必要があります。
3.2. 個別化されたAIチューターと教育革命の可能性
ファトマ:教育分野でのAI応用についても詳しく話し合いましょう。Fola、あなたは大学教授として、AIチューターの可能性についてどう考えていますか?
Fola:大学の視点から言えば、私たちの「顧客」は学生です。学生のために大規模言語モデルやファンデーションモデルをどう活用できるか、非常に興味深い機会があります。
現在、学生たちはすでにテキスト要約などの明らかなユースケースでAIを活用しています。そこで考えなければならないのは、GPTが質問に答えるとき、学生の学習効果をどう確保するかという点です。
本当に興味深いのは、チャットボットをチューターとして活用することです。例えば私の専門であるデータベースシステムの内容を教えるような個別化されたチューターがあれば、学生一人ひとりと対話し、個々の学習能力とコースの焦点に基づいて対応できます。この分野には大きな可能性があります。
このアプローチは教育を根本から革新する可能性を秘めています。なぜなら、すでに不足している教師やティーチングアシスタントの貴重なリソースを解放し、より難しい内容や個別指導に集中させることができるからです。これは素晴らしい機会であり、すでに多くの教育機関でこの可能性を活用し始めています。
Sam:個別化学習はAIの最も強力な教育応用の一つだと思います。従来の教育モデルでは、30人の学生に対して1人の教師という状況で、すべての学生に同じペース、同じ内容を教えざるを得ませんでした。しかし、すべての学生は異なる学習スタイル、異なるペース、異なる事前知識を持っています。
AIチューターは、各学生の強みと弱みを理解し、それに応じて学習体験をカスタマイズすることができます。ある学生が特定の概念を理解するのに苦労している場合、AIは別の説明方法を試したり、より多くの例を提供したり、その概念の前提となる知識に立ち返ったりすることができます。
最も興味深いのは、AIチューターが学生の興味やキャリア目標に合わせて学習内容を調整できることです。例えば、エンジニアリングを学ぶ学生が医療に興味を持っている場合、AIは医療工学の例を使って概念を説明することができます。
Nicole:教育のデモクラタイゼーションの観点からも重要な点があります。世界中の多くの地域では、質の高い教育へのアクセスが限られています。AIチューターは、地理的な場所や経済状況に関係なく、世界中の学生に高品質の教育を提供する可能性を持っています。
また、生涯学習の支援も重要です。技術の急速な発展により、多くの専門家が新しいスキルを習得する必要に迫られています。AIチューターは、仕事を持つ成人が自分のペースで、自分のスケジュールに合わせて学習するのを助けることができます。
ファトマ:しかし、AIチューターについて懸念されることもあります。特に批判的思考や創造性など、人間の教師が特に得意とする分野については、どうお考えですか?
Fola:確かに重要な懸念です。AIチューターは情報伝達や基本的なスキルの習得では素晴らしいツールですが、批判的思考、創造的問題解決、倫理的考察などの高次の認知スキルの発達においては、人間の教師の役割が依然として不可欠です。
私が考えるのは、AIチューターと人間の教師のハイブリッドモデルです。AIが基本的な知識の伝達、練習問題、個別フィードバックを担当し、人間の教師がディスカッション、批判的分析、創造的プロジェクトをリードするというアプローチです。
Sam:その通りです。最終的には、AIは人間の教師に取って代わるのではなく、教師の能力を拡張し、より効果的に教えられるようにするツールとなるべきです。教師の役割は変わるかもしれませんが、なくなることはないでしょう。
また、AIチューターを活用することで、学習の評価方法も変わる可能性があります。従来の標準テストだけでなく、より継続的で細かい評価が可能になり、学生の理解度をリアルタイムで把握できるようになります。
Nicole:他にも重要な点として、AIチューターが学生のデータプライバシーを確保しつつ、個別化された学習体験を提供するバランスをどう取るかという課題があります。特に未成年の学生の場合、このバランスは非常に重要です。
教育分野でのAI応用は、技術的な課題だけでなく、教育哲学、学習心理学、倫理など、多くの分野にまたがる複雑な問題です。しかし、適切に実装されれば、教育の質と公平性を大きく向上させる可能性を秘めています。
3.3. AIが学生の学習プロセスに与える影響
ファトマ:AIツールが学生の学習プロセスに与える影響についてもう少し具体的に掘り下げたいと思います。特に学生がAIを使って課題に取り組む際の学習効果について、どうお考えですか?
Fola:これは私たち教育者にとって非常に重要な問題です。私たちが現在直面している課題の一つは、学生がGPTなどのAIツールを使って質問に答えてもらう際に、学習効果をどう確保するかということです。単に答えを得るだけでは、深い理解には繋がりません。
私が授業で試みているのは、AIツールを「使う」だけでなく、AIとの対話を通じて学ぶよう学生を導くことです。例えば、AIが提供した解答を批判的に評価し、その背後にある原理を説明させるような課題を設定します。これにより、AIは単なる答えの提供者ではなく、学習プロセスのパートナーになります。
Nicole:教育とスキル開発は、AIの時代に特に重要になると思います。学生たちは、AIツールを効果的に活用するスキルを身につける必要があります。これには、適切な質問の仕方、AIの出力を批判的に評価する能力、そしてAIが提供した情報を自分の知識と統合する能力が含まれます。
企業の視点から見ると、これらのスキルは将来の職場でも非常に価値があります。AI時代の労働市場では、AIとの協働能力が重要な競争力になるでしょう。
Sam:学習プロセスにおけるAIの役割について興味深い点は、AIが学生の「思考の足場」となり得ることです。難しい概念に取り組む際、AIはその理解への道筋を示し、段階的な説明を提供できます。これは特に、抽象的な概念や複雑な問題に取り組む際に役立ちます。
しかし同時に、「認知的オフロード」のリスクもあります。つまり、学生がAIに過度に依存し、自分自身で考える機会を減らしてしまう可能性です。このバランスを取ることが重要です。
ファトマ:学習評価の側面ではどうでしょうか?AIが普及する中で、私たちの評価方法も変わる必要がありそうです。
Fola:その通りです。従来の試験やレポートなど、多くの評価方法はAIツールの存在を前提としていません。これからは、単に事実を記憶しているかを測るのではなく、情報を分析し、適用し、新しいアイデアを生み出す能力を評価する方法にシフトする必要があります。
例えば、プロセスに焦点を当てた評価、リアルタイムでの問題解決を観察する評価、あるいはAIツールの使用を明示的に許可した上での評価など、新しいアプローチが考えられます。大切なのは、AI時代に本当に重要なスキルを評価することです。
Nicole:学習の個別化も重要な変化だと思います。AIは学生一人ひとりの学習スタイル、ペース、強み、弱みを理解し、それに応じた学習体験を提供できます。これにより、すべての学生が自分に最適な方法で学べるようになります。
例えば、視覚的学習者には図や動画を多用した説明を、聴覚的学習者には音声ベースの説明を提供するといったカスタマイズが可能です。また、学生の理解度に応じて難易度を調整することもできます。
Sam:AIは学生のメタ認知スキル、つまり自分の学習について考え、評価する能力の発達も支援できます。AIは学生の学習パターンを分析し、改善のためのフィードバックを提供できます。「この概念を理解するのに時間がかかっているようですね。別のアプローチを試してみましょうか?」といった具体的な提案が可能です。
また、学習の社会的側面も忘れてはなりません。グループ学習やピア・ティーチングなどの協調学習は依然として価値があります。AIはこれらの活動をサポートすることで、学生同士の意味のある対話や協力を促進できます。
Fola:最終的には、教育のゴールを再考する必要があるかもしれません。AI時代に重要なのは、事実を記憶することではなく、批判的思考、創造性、協働、適応性といったスキルです。カリキュラムと教育方法はこれらのスキルの発達を中心に再構築される必要があるでしょう。
このような変化は、教育機関だけでなく、政策立案者、企業、そして社会全体が関わる必要がある大きな取り組みです。しかし、適切に行われれば、AIは教育を真に変革し、すべての学習者により良い学習体験を提供する可能性を秘めています。
4. AI研究パートナーシップ
4.1. OpenAIとBOLDの研究パートナーシップ詳細
ファトマ:ここで本日のニュースに移りたいと思います。OpenAIとBOLD(Berlin Institute for the Foundations of Learning and Data)が研究パートナーシップを始めたという発表がありました。このパートナーシップについて詳しく教えていただけますか?
Sam:はい、私たちは本日、BOLDとの重要な研究パートナーシップを発表しました。このパートナーシップでは、OpenAIがBOLDに5万ドル相当のAPIクレジットを提供し、BOLDの研究者たちがO3モデルの探索を行えるようにします。また、ベルリン工科大学との間で新たな研究機会を模索していきます。
ファトマ:このパートナーシップに期待することは何ですか?BOLDのような基礎研究機関と提携する意義はどこにあるのでしょうか?
Sam:AIについて私が最も興奮している点は、科学的発見への影響です。私たちが科学的発見を加速できれば、10年分の科学を1年で行い、いつかは100年分の科学を1年で行うことができるようになるでしょう。それが生活の質にどれほど影響を与えるか、最も差し迫った問題を解決し、気候変動に対処し、あらゆる面で生活を向上させ、病気を治療することができれば、それは信じられないほどの贈り物となります。AIがついにそれを可能にすると思います。
BOLDのような基礎研究機関と協力することで、このビジョンに一歩近づくことができます。彼らの科学的専門知識と私たちのAI技術を組み合わせることで、互いの強みを活かし、科学の進歩を加速させることができるのです。
Fola:BOLDの視点から見ると、企業と協力することで研究に実用的な基盤を与えることができます。これにより、実世界の問題に焦点を当てやすくなります。アカデミアだけで問題に取り組む場合、実用性の核心を見逃してしまうリスクがあります。それが一つの側面です。
もう一つは、もちろんリソースへのアクセス、モデルへのアクセスです。これらは非常に価値があります。BOLDと今回の協力に特に焦点を当てると、私たちは科学へのモデル応用に関する研究を行っています。先ほどSamとも話したように、病理学や量子化学などの分野でのファンデーションモデルを研究し、これらの興味深い科学分野に対して新しい洞察を生み出す方法を探っています。
パーソナライズド医療には大きな可能性があり、医療ケアを向上させる大きなチャンスがあります。BOLDはベルリン工科大学とチャリティ大学病院の両方を含んでいるので、ヘルスケア領域には多くの機会があり、私たちはそれらにようやく触れ始めたところです。
一方で、BOLDではシステム研究も行っています。私はデータ管理の専門家なので、データキュレーション、データ統合など、準備段階に関する研究も行っています。モデルのトレーニング方法には様々なステップがありますが、それらを再現可能かつドキュメント化されたものにするにはどうすればよいでしょうか。Samが先ほど話した説明機能などが登場しているところでもあります。
ファトマ:このパートナーシップでは具体的にどのような研究プロジェクトに焦点を当てるのでしょうか?
Fola:一つの重要な領域は、BOLDで行っている全プロセスをより効率的かつスケーラブルにするためのシステム研究です。これには、より賢いアルゴリズム、システムアーキテクチャの開発、AIアプリケーションを効率的に書くためのプログラミングモデルなどが含まれます。
また、機械学習側、つまり知的アルゴリズムの研究も行っています。トレーニングはまだかなり高コストであり、大規模データセットを維持しながらも効率化する方法を探る必要があります。小規模データでトレーニングしてモデル構成を行うこともできますが、大規模データでのトレーニングも重要です。私たちが探求したい創発的な振る舞いは、おそらく大規模データセットでトレーニングすることでしか観察できないと考えているからです。
Sam:また、このパートナーシップを通じて、AIの責任ある開発と展開についても共同で研究していきます。AIがより強力になるにつれて、その安全性と倫理的な使用がますます重要になります。BOLDのような研究機関と協力することで、これらの重要な課題に共同で取り組むことができます。
最終的には、このパートナーシップを通じて、AIの進歩を加速させながらも、それが社会全体に利益をもたらすことを確実にしたいと考えています。科学の進歩を加速させ、人類の最も差し迫った課題を解決するためのツールとしてAIを活用することが目標です。
4.2. 科学的発見の加速と10年の科学研究を1年で行う可能性
ファトマ:Sam、あなたは「10年分の科学を1年で行う」可能性について言及されました。これは非常に興味深い見方です。もう少し詳しく説明していただけますか?
Sam:AIについて私が個人的に最も興奮している点は、科学的発見に与える影響です。もし科学的発見を加速できれば、10年分の科学研究を1年で行い、将来的には100年分の科学を1年で行うことができるようになるかもしれません。これが生活の質にもたらす影響を考えてみてください。私たちの最も差し迫った問題の解決、気候変動への対応、あらゆる面での生活の質の向上、病気の治療など—これらは信じられないほどの贈り物となるでしょう。AIがついにそれを可能にすると考えています。
ファトマ:ここで会場の皆さんに質問です。自分はGPT-4より賢いと感じる方は手を挙げてください。
(数人が手を挙げる)
ファトマ:では、将来もGPT-5より賢いままだと思う方は?
(さらに少数が手を挙げる)
Sam:もっと多くの手が上がると思っていました。私自身はGPT-5より賢くないだろうと思っていますが、それについて悲しくは感じていません。なぜなら、それは私たちがAIを使って信じられないことができるようになるということを意味しているからです。私たちはより多くの科学が行われることを望んでいます。研究者ができなかったことを可能にしたいのです。これは人類の長い歴史の一部です。
今回はAIが可能にすることで少し違って感じるかもしれませんが、科学者たちが「クレイジーな高IQツール」を持ち、より正しい質問を見つけることに集中し、物事をより迅速に解決し、検索スペースをより速く探索できるなら、それは私たち全員にとって勝利です。そのような可能性を実現できることを、私たちは大変嬉しく思っています。
Fola:科学的発見の加速において、AIがどのように役立つかについて具体的に考えてみましょう。まず、科学的発見のプロセスには複数の段階があります。文献のレビュー、実験デザイン、データ収集、分析、仮説の検証、結果の解釈などです。AIはこれらのほぼすべての段階を加速することができます。
例えば、Deep Researchのようなツールは、研究者が何千もの論文を短時間で調査し、関連する洞察を抽出することを可能にします。これだけでも、従来は何ヶ月もかかっていたプロセスが数日や数時間に短縮されます。
また、実験デザインにおいても、AIは過去の実験から学び、最も情報価値の高い実験を提案することができます。これにより、研究者は試行錯誤のプロセスを大幅に短縮できます。
Nicole:科学的発見の加速は、実用的な観点からも非常に価値があります。例えば、新薬開発のサイクルタイムを考えてみてください。現在、新薬が研究室から市場に出るまでに平均10年以上かかります。AIがこのプロセスを大幅に加速できれば、より多くの命を救うことができるでしょう。
また、気候変動のような差し迫った課題に対しても、AIによる科学的発見の加速は重要です。再生可能エネルギー技術の開発、炭素回収技術の改善、気候予測モデルの精緻化など、AIは多くの分野で研究を加速できます。
Sam:また、AIによる科学的発見の加速は累積的な効果を持ちます。ある分野での発見が他の分野に波及し、さらなる発見を促進するという好循環が生まれるのです。この相乗効果により、科学の進歩は単に線形に加速するのではなく、指数関数的に加速する可能性があります。
10年分の科学を1年で行うというのは、単に各プロセスを10倍速くするということではありません。むしろ、AIが新しい方法で問題を捉え、人間の科学者では思いつかなかったアプローチを提案することで、まったく新しい発見の道を開くことができるのです。
ファトマ:しかし、科学的発見においては人間の創造性や直感も重要な役割を果たします。AIがそのような側面を補完できるのでしょうか?
Fola:それは非常に重要な点です。科学的発見においては、定量的な分析だけでなく、創造的な飛躍や直感的な洞察も必要です。AIは膨大なデータから隠れたパターンを発見することはできますが、真に革新的なアイデアを生み出す能力については、まだ発展途上です。
ただ、AIと人間の科学者が協力することで、両者の強みを組み合わせることができます。AIが膨大なデータを処理し、潜在的に興味深いパターンや関連性を特定し、人間の科学者がそれらの洞察に基づいて創造的な仮説を立てるというモデルが考えられます。
Sam:その通りです。AIは人間の科学者に取って代わるのではなく、科学者がより高いレベルで考えることを可能にする「思考パートナー」として機能するべきです。AIが日常的なタスクやデータ分析を担当することで、科学者はより創造的な思考や、より大きな枠組みでの問題解決に集中できるようになります。
実際、AIと人間の科学者のコラボレーションは、どちらか一方だけでは達成できない発見をもたらす可能性があります。これこそが、「10年分の科学を1年で行う」可能性を示唆する要因の一つです。
4.3. AIによる知識発見の未来
ファトマ:「lab-in-the-loop」の可能性や実験の加速など、AIによる知識発見の未来については、どのようなビジョンをお持ちですか?
Sam:知識発見の未来については非常に楽観的です。将来のAIモデルは、単に既存の知識を整理・提示するだけでなく、新しい洞察を生み出す能力を持つようになるでしょう。私は数年以内に、AIによって自律的に行われる重要な科学的発見が出てくると確信しています。
これは「lab-in-the-loop」というパラダイムで実現するかもしれません。AIが仮説を生成し、実験をデザインし、ロボット化された実験室で実際に実験を実行し、結果を分析して次の実験を提案するという循環です。人間の科学者はこのループを監督し、最終的な解釈や方向性の決定に関わりますが、日常的な実験プロセスの多くはAIによって自動化されます。
Fola:その通りです。私たちBOLDでも同様のビジョンを持っています。特に興味深いのは、AIが異なる科学分野間のつながりを見つける能力です。人間の科学者は通常、自分の専門分野に深く精通していますが、他の分野への知識は限られていることが多いです。
一方、AIは医学、物理学、化学、生物学など複数の分野の知識を統合し、通常は見逃されるような分野間のつながりを特定することができます。これにより、学際的な発見がより頻繁に起こるようになるでしょう。
Nicole:ビジネスの視点からも、AIによる知識発見は大きな価値を持ちます。例えば、製薬会社では、AIが新しい治療ターゲットを特定し、潜在的な薬物候補を提案することで、研究開発プロセスを大幅に加速できます。
また、材料科学の分野では、AIが新しい材料の特性を予測し、特定の用途に最適な組成を提案することができます。これにより、より強力で軽量、環境に優しい材料の開発が加速されるでしょう。
ファトマ:AIによる知識発見にはどのような課題がありますか?そして、それらをどのように克服できるでしょうか?
Fola:AIによる知識発見の重要な課題の一つは説明可能性です。AIが新しい仮説や発見を提案したとき、その理由や根拠を理解することが難しい場合があります。科学的発見には透明性と検証可能性が不可欠なので、これは重要な課題です。
この課題に対処するために、説明可能なAIモデルの開発や、AIの推論プロセスを可視化するツールの研究が進められています。将来的には、AIが何らかの関連性や仮説を提案する際に、その根拠や推論過程も同時に提示できるようになるでしょう。
Sam:もう一つの課題は、AIが提案する仮説の検証です。AIは新しいアイデアを提案することができますが、これらを実験的に検証するプロセスは依然として時間と資源を要します。
ここで重要なのは、実験プロセスの自動化です。ロボット化された実験室やハイスループット・スクリーニング技術と組み合わせることで、AIが提案する多数の仮説を迅速に検証することができるようになります。これはすでに材料科学や創薬の分野で始まっていますが、今後さらに広がっていくでしょう。
Nicole:AIによる知識発見のもう一つの側面は、個人化された知識発見です。将来的には、各研究者が自分自身のAIアシスタントを持ち、それが研究者の興味、専門知識、過去の研究に基づいて、パーソナライズされた洞察や提案を提供することになるでしょう。
これにより、研究者は自分の専門分野をより深く探求しながらも、関連する他分野の発展についても常に情報を得ることができるようになります。これは科学的発見のペースをさらに加速させるでしょう。
ファトマ:科学的発見の民主化についてはどうお考えですか?AIによって、より多くの人々が科学的発見に参加できるようになるのでしょうか?
Sam:それは非常に重要な点です。これまで科学的発見は主に専門的なトレーニングを受けた研究者によって行われてきました。しかし、AIはこの状況を変える可能性があります。
将来的には、AIツールが科学的探求のプロセスをガイドすることで、より多くの人々が科学的発見に貢献できるようになるでしょう。市民科学プロジェクトはすでに存在していますが、AIの支援を受けることで、その規模と影響力が大きく拡大する可能性があります。
Fola:学術界でも同様の変化が起きています。高額な実験設備や大規模な研究チームを持たない小規模な研究機関でも、AIツールを活用することで、重要な科学的貢献をすることが可能になります。これは科学的知識の創出における格差を縮小する可能性を持っています。
最終的には、AIによる知識発見の未来は、単に発見の速度を上げるだけでなく、科学的探求の性質そのものを変える可能性があります。より包括的で、より多様で、より協力的な科学のエコシステムが生まれるかもしれません。
5. AGI(人工汎用知能)への展望
5.1. AGIの定義と到達への道筋
ファトマ:AGI(人工汎用知能)についても話を広げていきましょう。Sam、あなたの元同僚のDariaが最近、次世代AIに関するエッセイを書いていて、そこでAGIについて「データセンターの中の天才国家」と表現していました。この見方について同意しますか?また、これは次世代の科学者たちにとって何を意味するのでしょうか?
Sam:この段階になると、AGIの正確な定義が重要になってきます。あらゆる分野の世界的専門家たちが一緒に疲れを知らずに働いているというのは、多くの人がAGIと考えるものを超えていると思います。
むしろ、AGIがいつ実現するかという議論よりも、今後数年のうちに多くの人が「コンピュータがこんなことをできるとは本当に思っていなかった」と感じるようなものが登場するだろうと考えています。さらにその先には、先ほど話した「10年分の科学を1年で行う」ような科学的進歩を実現できるAIが登場するでしょう。それはもっと先の話ですが、それこそが世界が本当に急速に変化し、大きな恩恵を受ける瞬間になると思います。
私たちは現在、かなり急な軌道に乗っているように見えます。昨年は「スケーリングの終わり」や「これはもう機能しない」などの悲観的な見方もありましたが、現在私たちは推論モデルを持ち、それらは本当に賢く、しばらくはスケーリングし続けるでしょう。その後、また別のパラダイムを見つけることになると思います。
一般的に、技術におけるこのような急激な指数関数的曲線を見たとき、それに逆らうべきではないと学びました。「これはもうすぐ行き詰まる」「あれはもうすぐ限界に達する」などと言い始める人々の意見には懐疑的であるべきです。私たちは根本的に学習できるアルゴリズムという重要なブレイクスルーを達成したように見えます。これが続くでしょう。もちろん、障壁にぶつかり、それを乗り越える方法を見つけなければならないこともありますが、AGIとそれ以上のものに到達し、ここからは滑らかなスケーリングの道が続くと考えています。
ファトマ:AGIが達成されたという主張を独立して検証できるのは、現在誰だと思いますか?
Sam:重要なのは、それがあなたにとってどれだけの有用性を提供するかだけです。もしそれがあなたにとって有用であれば、ある閾値を超えて有用であれば、それは素晴らしいことです。専門家たちがそれをAGIと呼ぶかどうかは、まったく重要ではないと思います。
私の考えでは、AGIは継続的な指数関数的成長と継続的に増加する有用性として現れるでしょう。唯一の問題は「それが人々にどれだけ役立っているか」「それが世界にどれだけ役立っているか」ということです。
Fola:私も同意します。おそらくAGIは移動するターゲットでしょう。技術が進化するにつれて、AGIの定義も前進し続けるでしょう。しかし、Samが言及した「有用性」指標は、私にとっても非常に重要です。最終的には、この技術を提供し、それを実際に役立てることがより重要です。
技術業界として、そして産業界として、私たちはこの点についてもっと注力する必要があります。多くの議論が、何が起きているのか、最新の開発は何かということに集中していますが、それらは確かに興味深いものです。しかし、この技術を教師や看護師、ビジネスパーソンの手に届け、労働力不足や、増大する財政的・時間的制約の中でのサービス提供などの現代的課題を解決するのを助けることが重要です。
この移行、この翻訳メカニズム、このギャップを埋めることは、AGIに到達する頃までに確実に解決しておくべき非常に重要な部分だと思います。
ファトマ:つまり、AIシステムを実際に使用し、そこから恩恵を得ている個人が、そのシステムの汎用知能を判断できる立場にあるということですね。
Fola:そうです。最終的には、ユーザーの経験とそのシステムが彼らにもたらす価値が、AGIかどうかの判断において最も重要な要素となるでしょう。
Sam:そして重要なのは、AIが提供する価値やその利用のされ方が、様々な分野や用途によって大きく異なるという点です。医療での診断支援、科学研究の加速、または日常的な生産性向上など、AGIへの道筋は単一の直線的なものではなく、各領域での進化と統合の過程と言えるでしょう。
5.2. GPT-5・GPT-6以降の開発展望
ファトマ:Stargateプロジェクトの発表もありましたが、GPT-5やGPT-6、そしてそれ以降のモデル開発についてはどのような展望をお持ちですか?
Sam:より大きなコンピュータでより良いモデルをトレーニングできるようになります。世界はGPT-5やGPT-6で止まることを望んでいないと思いますし、さらに進化を続けてほしいと考えているでしょう。Stargateプロジェクトにより、私たちは過去数年間と同じペースで改善を続けることができるようになると思います。これにより、非常に高性能なモデルに到達できるでしょう。
また、人々はこれらのシステムを大量に使用したいと考えています。進歩を続けるにつれて、コストを継続的に削減しています。大まかに言えば、毎年前年のインテリジェンスを10分の1のコストで提供し、さらにその翌年にはまた10分の1に削減できています。ムーアの法則は18ヶ月ごとに2倍という変化で世界を変えましたが、これは12ヶ月ごとに10倍のペースです。非常に強力な違いがあります。
しかし、このコスト削減を実現すると、そのサービスを使用する需要は10倍以上に増加する傾向があります。また、本当に高性能なモデルをトレーニングすると、例えばがんの治療法を見つけるために大量の計算能力を使いたいと考えるようになるかもしれません。
世界がこれらのサービスを実行するために要求する計算能力は急速に増加しており、私たち自身の推論消費量も急増しています。これがStargateプロジェクトのもう一つの側面です—人々がこれを使用できるようにすることです。現在、数億人がOpenAIの製品を使用していますが、間もなく数十億人になるでしょう。彼らはこれを頻繁に使用し、さらに多く使いたいと考えています。
ファトマ:GPT-5やGPT-6の機能についてはどのようなことが期待できるでしょうか?
Sam:今後のモデルについて具体的な機能を予測するのは難しいですが、いくつかの傾向が見えています。まず、推論能力の継続的な向上です。現在のモデルでも推論は可能ですが、今後はより複雑な多段階の論理的思考が可能になるでしょう。
また、マルチモーダル能力の拡張も期待できます。テキストだけでなく、画像、音声、さらには動画など、様々な形式の情報を理解し生成する能力が高まるでしょう。
さらに、長期的な文脈理解も向上します。現在のモデルでも文脈窓は拡大していますが、将来的には本の全体や長時間の会話履歴などを完全に理解できるようになるでしょう。
Fola:技術的な視点からも補足したいと思います。現在、トレーニングはまだかなり高コストです。将来的には、大規模データセットを維持しながらも、トレーニングの効率を大幅に向上させる必要があります。
小規模データでトレーニングしてモデル構成を行うアプローチもありますが、Samがお話した創発的行動を引き出すには、大規模データセットでのトレーニングが依然として重要です。明示的に構築するのではなく、暗黙的に誘導される行動を得るには、大規模データが不可欠だと考えています。
Sam:昨年は「スケーリングは終わった」「新しいパラダイムが必要だ」という意見が多く聞かれました。そして実際に、現在は推論モデルという新しいパラダイムを持ち、それらは非常に高性能で、しばらくはスケーリングし続けるでしょう。そしてその後、また新しいパラダイムを見つけることになると思います。
技術において、このような急激な指数関数的曲線が見られるとき、それに逆らうべきではないと学びました。「これはもうすぐ行き詰まる」「あれはもうすぐ限界に達する」などと言い始める人々の意見には懐疑的であるべきです。
Nicole:ビジネスの観点からは、将来のモデルがより特定のドメイン知識や専門分野に適応できるようになることを期待しています。現在でもファインチューニングは可能ですが、将来的にはより少ないデータと計算リソースで、特定の業界や用途に高度に最適化されたモデルが実現するでしょう。
これにより、例えば医療診断、法律助言、金融分析など、高度に専門化された分野でのAI活用が加速するでしょう。同時に、これらの専門モデルが協力して動作する「エージェントのエコシステム」も出現する可能性があります。
5.3. AIの能力の急速な向上と指数関数的な成長
ファトマ:AIの能力の成長は指数関数的だという議論がありますが、これについてどうお考えですか?
Sam:AIの能力の成長カーブは非常に急激です。これは皆さんにとって、そして学生の皆さんにとって特に重要なことですが、皆さんはおそらく人類史上最も急激な技術の急上昇を目の当たりにし、その中で影響力のある仕事をする機会を得ています。
もし私たちが成長率について正しければ、2027年にできるようになることは、今できることと比べて信じられないほど違うでしょう。ほんの数年前には不可能だったことが、今では当たり前になっています。立ち上げるプロジェクト、発見する科学、創設する企業—これらの可能性は計り知れません。
Fola:この指数関数的成長を支える重要な要素の一つは、アルゴリズムの改善です。例えば、トレーニングの計算複雑性を二次から n log n に削減できれば、エネルギー効率の面でも大きな進歩になります。
また、現在のTransformerやアテンションメカニズム以外の新しいモデルも将来登場するかもしれません。これは私たちのグループや世界中の多くの研究者が積極的に探求している分野です。もちろん、ハードウェアの改善も重要な側面であり、将来的にはエネルギー消費もさらに削減されるでしょう。
Nicole:指数関数的成長の観点からは、AIの能力向上だけでなく、その応用範囲の拡大も重要です。新しいビジネスモデル、新しい科学的アプローチ、新しい創造的表現が次々と生まれています。
例えば、テック・バイオや医療分野など、AIと特定ドメインの専門知識を組み合わせたスタートアップには大きな可能性があります。投資家として、これらの分野での展開を見るのは非常に興奮する時代です。
Sam:指数関数的成長の重要な側面は、それが単にAI自体の能力だけでなく、AIを使った人間の能力にも当てはまることです。AIを活用することで、個人やチームができることの範囲と深さが大幅に拡大します。
毎年、前年のインテリジェンスを10分の1のコストで提供できるようになっています。ムーアの法則は18ヶ月ごとに2倍という変化で世界を変えましたが、これは12ヶ月ごとに10倍というペースです。これがどれほど強力な違いをもたらすか、まだ完全には理解されていないと思います。
ファトマ:この急速な成長が社会やキャリアにもたらす影響については、どうお考えですか?
Sam:これは皆さん、特に学生にとって、非常に興奮する時代です。皆さんは人類史上かつてないほど急激な技術の上昇カーブを経験し、その中で影響力のある仕事をする機会を得ています。
もし私たちの成長率予測が正しければ、2027年に可能になることは、現在できることと比較して信じられないほど異なるでしょう。数年前には不可能だったことが、今では日常的に行われています。新しいプロジェクトを立ち上げ、科学的発見を成し遂げ、企業を創設する—これらの可能性は計り知れません。
Fola:社会的な観点からは、このような急速な変化に対応するために、教育システムも進化する必要があります。T字型の学生、つまり幅広い知識と深い専門性を持つ人材の育成がますます重要になるでしょう。
特定の専門分野で深い知識を持ちながらも、他の分野について広く理解していることが、AIの時代には非常に価値があります。習得した知識の一部は時間とともに古くなるかもしれませんが、適応する方法、新しい状況に知識を応用する方法を学ぶことで、変化に対応する能力が身につきます。
Nicole:ビジネスの視点からは、このAIの指数関数的成長は、新しい機会の爆発的増加を意味します。既存の問題の解決だけでなく、これまで考えられなかった新しい製品やサービスの創出が可能になるでしょう。
しかし、これには「リミナリティ」—つまり過去と未来の間の過渡期—に対処する能力も必要です。過去は私たちにより多くの選択肢を与えてくれませんが、未来は何が起こるかはっきりとはわからないものの、変化の可能性を感じることはできます。この不確実性と曖昧さの状態に対処しながら、建設的で行動志向、結果志向の姿勢を維持することが重要です。
6. AIインフラ投資
6.1. Stargateプロジェクトの概要(5億ドル/4年)
ファトマ:AIインフラへの投資についても話を進めましょう。最近、アメリカでOpenAIが「Stargate」と呼ばれる新しい会社を立ち上げるという発表がありました。このプロジェクトには4年間で約5億米ドルの投資が計画されているようですね。これは、アメリカのAIにおけるリーダーシップを確保するためのものとされています。Microsoft、NVIDIA、Oracleなどの大手企業も参加していますが、Stargateプロジェクトの概要について教えていただけますか?
Sam:Stargateには二つの重要な側面があります。一つ目は、より大きなコンピュータを使ってより優れたモデルをトレーニングできるようになるということです。世界はGPT-5やGPT-6で止まることを望んでおらず、さらに進化を続けてほしいと考えていると思います。Stargateにより、私たちは過去数年と同じペースで改善を続けることができるようになるでしょう。これによって、非常に高性能なモデルに到達できると考えています。
もう一つの側面は、人々がこれらのシステムを大量に使用したいと考えていることです。開発が進むにつれて、私たちは継続的にコスト削減を実現しています。大まかに言えば、毎年前年のインテリジェンスを10分の1のコストで提供し、その翌年にはさらに10分の1に削減できています。ムーアの法則は18ヶ月ごとに2倍という変化で世界を変えましたが、これは12ヶ月ごとに10倍というペースです。これは非常に強力な違いをもたらします。
しかし、このコスト削減を実現すると、これらのサービスを使用する需要は10倍以上に増加する傾向があります。また、真に高性能なモデルをトレーニングすると、例えばがんの治療法を見つけるために大量の計算能力を使いたいと考えるかもしれません。
世界がこれらのサービスを実行するために要求する計算能力は急速に増加しており、私たち自身の推論消費量も急増しています。これがStargateプロジェクトのもう一つの側面です。数億人がOpenAIの製品を使用していますが、間もなく数十億人になるでしょう。彼らはこれを頻繁に使用し、さらに多く使いたいと考えています。
ファトマ:なぜこれほど大規模なインフラ投資が必要なのでしょうか?既存のデータセンターではなぜ不十分なのですか?
Sam:AIの能力が飛躍的に向上すると、それに比例してトレーニングと推論に必要な計算能力も増大します。Stargateのようなプロジェクトがなければ、近い将来、計算能力の制約がAI進化のボトルネックになる可能性があります。
特に、最先端のAIモデルのトレーニングには前例のない規模の計算インフラが必要です。これには高度に最適化されたハードウェア、冷却システム、電力管理、そしてそれらをつなぐネットワークインフラストラクチャが含まれます。既存のデータセンターはこのような特殊なニーズに最適化されていないことが多いのです。
また、Stargateは単なる物理インフラだけでなく、大規模分散システムを効率的に管理するためのソフトウェアスタックも開発します。トレーニングジョブのスケジューリング、リソース割り当て、障害耐性など、超大規模なAIシステムの運用には独自の課題があります。
Nicole:企業の視点から見ると、このような大規模インフラ投資はAI開発の民主化という観点でも重要です。小規模な企業や研究機関が独自にこのような規模のコンピューティングインフラを構築することは不可能ですが、Stargateのような共有インフラにアクセスすることで、より多くの組織がAI開発に参加できるようになります。
また、集中型インフラでは、エネルギー効率の最適化や再生可能エネルギーの活用など、持続可能性の観点からもメリットがあります。
6.2. コンピューティング能力の拡大と需要の増加
ファトマ:Stargateプロジェクトでは、コンピューティング能力の大幅な拡張を計画しているようですが、なぜそれほどまでにコンピューティング能力の拡大が必要なのでしょうか?
Sam:AIの進化とともに、コンピューティング能力の需要は信じられないほどのペースで増加しています。これには二つの主要な要因があります。
一つは、より高性能なモデルをトレーニングするには、より多くの計算能力が必要になるということです。GPT-4からGPT-5、そしてその先へと進むにつれて、必要なコンピューティングリソースは劇的に増加します。これは単にモデルの規模だけでなく、より複雑なアーキテクチャ、より多様なデータセット、より長い訓練期間なども関係しています。
もう一つの要因は、推論需要の爆発的な増加です。毎年、私たちは前年のインテリジェンスを10分の1のコストで提供できるようになっています。これは素晴らしいことですが、興味深いことに、コストが10分の1になると、需要は10倍以上に増加する傾向があります。
OpenAIのサービスを使用する人々の数は急速に増加しています。現在数億人がこれらのサービスを利用していますが、間もなく数十億人になるでしょう。また、一人あたりの使用量も増えています。人々はこれらのツールに親しみ、より多くのタスクに活用するようになるからです。
ファトマ:AIの処理能力需要の増加は、どのくらいのペースで進んでいるのでしょうか?
Sam:私たちが観測している需要の増加曲線は驚異的です。自社の推論消費量は文字通り「このような形」で増加しています—手で急激な上昇カーブを描くジェスチャー。この需要の増加率は、私たちがモデルのコストを削減するペースをはるかに上回っています。
具体的に言うと、毎年インテリジェンスのコストを10分の1に削減していますが、需要はそれをはるかに上回る速度で増加しています。これは、AIツールの活用方法が多様化し、より複雑なタスクに使われるようになっているためです。
また、真に高性能なモデルが開発されると、例えばがん治療法の発見といった重要な問題に対して、膨大な計算リソースを使いたいというニーズも出てくるでしょう。これらの高価値の用途では、計算コストよりも得られる可能性のある価値のほうがはるかに大きいため、計算需要はさらに増加すると予想されます。
Nicole:ビジネス面から見ると、企業がAIを採用するにつれて、クラウドインフラへの需要も急増しています。初期のRAGシステムや基本的なAI統合から、より複雑なエンタープライズアプリケーションに移行するにつれて、必要な計算リソースも増大しています。
特に、リアルタイムの意思決定、大規模データセットの分析、セキュリティとプライバシーの要件を満たしながらAIを運用することは、かなりの計算リソースを必要とします。欧州企業もこの移行を進めており、それに伴い計算能力への需要も高まっています。
Fola:また、科学研究においても計算需要は急増しています。特に、大規模なシミュレーション、分子動力学、気候モデリング、ゲノム解析などの分野では、AIと高性能コンピューティングを組み合わせることで、従来よりもはるかに洗練された分析が可能になっています。
しかし、計算リソースの効率化も重要な課題です。私たちの研究グループでは、トレーニングの計算複雑性を二次から n log n に削減するなど、アルゴリズムの効率化も研究しています。このような改善が実現すれば、エネルギー効率の面でも大きな進歩となるでしょう。
ハードウェアの進化も重要な要素です。AIに特化したチップの開発が急速に進んでおり、従来のGPUよりもエネルギー効率と性能の両面で優れた特性を持つ新しいハードウェアが登場しています。
Sam:そして最終的には、これらの計算リソースをどう分配するかという社会的な側面も考慮する必要があります。限られた計算リソースをどのように割り当てるべきか—科学研究、ビジネスイノベーション、公共サービスなど—これは技術的な問題だけでなく、社会的、倫理的な問題でもあります。
Stargateのようなプロジェクトは、コンピューティングインフラの供給を大幅に拡大することで、こうした難しいトレードオフを少しでも緩和する役割を果たせると考えています。
6.3. ヨーロッパにおけるAI投資の必要性と機会
ファトマ:Stargateプロジェクトを見ると、欧州における同様の投資の必要性について考えざるを得ません。欧州の企業はAI分野でどのような投資が必要だと思いますか?
Nicole:欧州ではAI規制についての議論が多く行われていますが、投資家や起業家として、私はむしろ機会について話したいと思います。投資の拡大を望んでいます。構造的に見ると、欧州企業は米国企業と比較して、イノベーションやR&Dへの投資が少ない傾向があります。また、投資の対象も異なり、ハイテクよりも中程度のテクノロジーに投資する傾向があります。これは変える必要があると思います。しかも急速に変える必要があります。
より多くの企業と提携し、このような技術を実際のビジネス価値に効果的かつ迅速に変換するための翻訳メカニズムを構築することを楽しみにしています。この点で、私は本当に良い最後の警鐘だと思います。「私たちはここにいる、資本もある、優秀な人材もいる、そして実際に欧州にはとても興味深いデータプールと業界がある」というメッセージです。この独自の優位性を、すでに構築された優れた技術と組み合わせ、多くの雇用と成長、ビジネス価値を創出し、多くの問題を解決するにはどうすればよいでしょうか。これがこの取り組みの原動力となることを願っており、マランティクスでもこの橋渡し役を担おうとしています。
Fola:私にとって重要なのはデータです。Nicole、Samがすでに言及したように、欧州、特にドイツの企業には活用されていない膨大なデータの宝庫があります。生産プロセスから得られるデータ、顧客データベース、その他多くのデータが現在、同じ規模では活用されていません。ここには大きな機会があると思います。
Sam:ドイツは私たちにとって素晴らしい市場です。欧州最大の市場であり、世界でもトップ5に入ります。多くの人々がこれらのツールを使って素晴らしいことをしています。ほとんどの欧州の人々がAIがここで使われ、ここで起こり、ここで経済成長を活性化し、科学を推進し、欧州のインフラを構築することを望んでいると確信しています。そして私たちも同じ考えです。
ヨーロッパ版Stargateのようなプロジェクトを実現したいと強く思っています。もちろん協力が必要ですが、ヨーロッパが管理・運営できる何かをここに構築したいと考えています。私たちは欧州でも世界の他の地域と同じスピードで製品をデプロイできるようになりたいと思っています。強いヨーロッパは世界にとって本当に重要だと思いますし、ヨーロッパの人々はこの技術で素晴らしいことをするでしょう。
最終的には、ヨーロッパの人々がこの技術にどのようなルールを設定したいのかを決定する必要があります。もちろん私たちはどのようなルールであれ従いますが、明らかに私はここで偏見を持っていますが、AIを採用し世界の他の地域に遅れをとらないことがヨーロッパの利益になると思います。
ファトマ:欧州AI法について、アメリカ企業の視点からはどのように見えますか?
Sam:法律を尊重し、ヨーロッパの人々の意思に従います。皆さんが決めることであり、私たちはルールに従います。
Nicole:欧州には大陸として最先端技術へのアクセスがあるべきだと思います。このアクセスがないことに利点は見出せません。正直に言って、技術を形作る唯一の方法は、それにアクセスし、習得し、それを使って作業することだと思います。過剰規制には反対です。皆さんもご存知の通り、革新能力を維持し、それを奨励したいと思います。
規制に関しては事実だけでなく、マインドセットの問題でもあります。ルールが明確であることは重要ですが、私たちの国のエリートや、ここにいる技術人材すべてに、ルールに集中してほしいのか、それとも機会や問題解決策に集中してほしいのか、その問いを自問する必要があります。そして私は明らかに機会の側にいます。
Fola:私も同意します。私たちが技術から切り離されず、実験し、試し、探求する能力を持つことが非常に重要です。もちろん、最終的に害を防ぐための規制は必要ですが、時として規制は早すぎることがあり、それには経済、市場、そして一般的な機会を遮断する大きな危険があります。
7. 欧州のAI規制
7.1. 欧州AI法への見解
ファトマ:欧州AI法について直接お聞きしましょう。アメリカの企業として、欧州を見据える際にこの法律をどう捉えていますか?
Sam:私たちは法律を遵守し、ヨーロッパの人々の意思を尊重します。
[笑い]
皆さんが決めることであり、私たちはルールに従います。
ファトマ:そうですが、でも異なる規制体制の利点について決断する必要があると思いませんか?また、その経済的影響は社会的影響にもなりますよね?
Sam:はい、もちろんそうです。しかし、その判断を下すのは私ではなく、欧州の市民や政策決定者であるべきです。私としては、強いヨーロッパが世界にとって本当に重要だと思いますし、ヨーロッパの人々はこの技術で素晴らしいことをするでしょう。
AIを採用し世界の他の地域に遅れをとらないことがヨーロッパの利益になると個人的には考えていますが、これは明らかに私の偏見のある見方です。最終的には、ヨーロッパの人々がこの技術にどのようなルールを設定したいのかを決定する必要があります。
Nicole:私は大陸として最先端技術へのアクセスを持つべきだと強く感じています。このアクセスがないことに利点は見出せません。正直に言って、技術を形作る唯一の方法は、それにアクセスし、習得し、それを使って作業することだと思います。
過剰規制には反対です。これは皆さんもご存知の通りです。私は革新能力を維持し、それを奨励したいと思います。また、規制が非常に早い段階で行われることにも懸念を持っています。規制は事実上の問題だけでなく、マインドセットの問題でもあります。明確なルールがあることは重要ですが、私たちの国のエリートや、ここにいる技術人材すべてに、ルールに集中してほしいのか、それとも機会や問題解決策に集中してほしいのか、その問いを自問する必要があります。そして私は明らかに機会の側にいます。
[拍手]
Fola:私も Nicole の意見に同意します。技術から切り離されず、実験し、試し、探求する能力を持つことが非常に重要です。もちろん、最終的に害を防ぐための規制は必要ですが、時として規制は早すぎることがあり、それには経済、市場、そして一般的な機会を遮断する大きな危険があります。
ファトマ:欧州AI法の特定の側面について、懸念や評価すべき点はありますか?
Sam:具体的な条項についてここで議論するのは適切ではないかもしれませんが、一般的に言えることは、イノベーションと安全性のバランスを取ることの重要性です。AI開発者として、私たちは責任ある開発と安全性を真剣に考えていますが、同時に、規制が革新を不必要に抑制しないことも重要です。
Nicole:欧州AI法の良い点は、リスクベースのアプローチを採用していることです。すべてのAIアプリケーションを同じように扱うのではなく、リスクの程度に応じて規制の厳しさを調整しています。これは理にかなっていると思います。
しかし、懸念点としては、「汎用AI」の分類とそれに対する規制の厳しさです。イノベーションを阻害せず、かつ安全性を確保するバランスが難しい領域です。また、法律の実装と強制におけるあいまいさも課題となるでしょう。
Fola:研究者の立場からは、AI研究の自由度を維持することが非常に重要です。欧州には優れたAI研究機関がありますが、過度に厳格な規制環境では、最高の人材と研究が他の地域に流出してしまう恐れがあります。
また、法律の実装においては、技術的な現実と法的要件のギャップをどう埋めるかが課題になるでしょう。例えば、AIシステムの透明性や説明可能性の要件は、技術的に完全に満たすことが難しい場合があります。
7.2. 革新と規制のバランス
ファトマ:AIの革新を促進しながら、同時に必要な規制を設けるという難しいバランスについて、さらにお話を伺いたいと思います。このバランスをどのように考えていますか?
Nicole:この点は非常に重要です。欧州では規制について多くの議論がされていますが、私は起業家、投資家として機会にもっと焦点を当てたいと思います。私たちは欧州企業が構造的に米国企業と比較して、イノベーションや研究開発への投資が少ないことを認識しています。しかも投資のタイプも異なり、ハイテクよりも中程度のテクノロジーに投資する傾向があります。
これは変える必要があります。しかも急速に変える必要があります。リスクだけでなく、チャンスにも注目することが大切です。もちろん、リスクを無視すべきではありませんが、イノベーションを促進する環境も同時に必要です。
規制はクリアであるべきですが、規制そのものより規制に対する姿勢が問題となることもあります。私たちの国のエリートや、ここにいるすべての技術人材に、ルールに集中してほしいのか、それとも機会や問題解決に集中してほしいのか—その問いを自問する必要があります。私は明らかに機会の側にいます。
Sam:ヨーロッパの人々が責任ある形でAIを活用したいと願っていることは理解しています。そして私たちもそれを支持します。しかし同時に、AIが提供できる経済的・社会的恩恵も非常に大きいのです。
バランスが重要ですが、明確さも重要です。どのようなルールであれ、それが明確であれば、企業や研究者はそれに適応できます。不確実性こそが最も有害です。ルールが頻繁に変わる、あるいは解釈が変わるような環境では、長期的な投資や計画が難しくなります。
ファトマ:Fola、学術研究の視点からこのバランスをどう見ていますか?
Fola:学術研究と企業のイノベーションは密接に結びついています。私たちが新しいアイデアを探求し、基礎研究を行うのと同時に、それを実用化する道筋も必要です。過度に規制された環境では、基礎研究は続けられるかもしれませんが、その成果を社会に還元する道筋が狭まってしまいます。
特に懸念しているのは「予防原則」の過度な適用です。不確実性があるからといって、すべての新技術を厳しく規制するアプローチは、長期的には社会の損失につながる可能性があります。リスクは管理すべきですが、完全に排除しようとすると、イノベーションも排除してしまいます。
Nicole:ビジネスの観点から重要なのは、規制プロセスへの企業の関与です。規制当局と産業界が建設的な対話を持つことで、実行可能でイノベーションを妨げない規制フレームワークを作ることができます。
現在、AI規制の議論では時に極端な見方が支配的になりがちですが、中間の道を探る必要があります。AIの潜在的なリスクに対処しながらも、その便益を最大化するアプローチです。
Sam:また、規制が一律であるよりも、リスクに基づいた階層的なアプローチが効果的だと思います。高リスク領域では厳格な規制が適切かもしれませんが、低リスク領域では軽い規制やガイドラインのみで十分かもしれません。
そして忘れてはならないのが国際協調です。AIは本質的にグローバルな技術です。あまりにも地域ごとに規制が異なると、断片化が進み、グローバルなエコシステムの恩恵が失われる恐れがあります。もちろん、各地域の価値観や優先事項を尊重することは重要ですが、基本的な原則については国際的な調和があることが望ましいでしょう。
Fola:最後に付け加えるなら、規制は静的なものではなく、進化するものであるべきです。AI技術は急速に発展しており、規制も同様に適応可能であるべきです。定期的な見直しのメカニズムや、技術の進化に応じた更新が組み込まれた規制フレームワークが理想的です。
7.3. 欧州企業のAIアクセスの重要性
ファトマ:Nicole、あなたは欧州企業がAI技術に対するアクセスを持つことの重要性について強調されていましたね。この点についてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?
Nicole:欧州企業と大陸全体にとって、最先端のAI技術へのアクセスを持つことは極めて重要です。このアクセスがないことに利点は全く見出せません。率直に言って、技術を形作り、影響を与えるためには、まずその技術にアクセスし、習得し、実際に使用する必要があります。
欧州には素晴らしい強みがあります。優れた資本、優秀な人材、そして特に興味深いデータプールと産業基盤を持っています。製造業、医療、自動車、化学など、欧州が世界をリードする多くの分野があります。これらの既存の強みと最先端のAI技術を組み合わせることで、雇用創出、経済成長、そして多くの社会的課題の解決に大きく貢献できる可能性があります。
しかし、そのためには欧州企業がグローバルな競争の場で不利にならないよう、最新のAI技術に平等にアクセスできることが前提条件となります。
Sam:ドイツは私たちにとって素晴らしい市場です。欧州最大であり、世界でもトップ5に入る市場です。多くの人々が私たちのツールを使って素晴らしいことを成し遂げています。私の見る限り、ほとんどの欧州の人々はAIがここで使われ、ここで発展し、経済成長を活性化し、科学を推進し、欧州独自のインフラを構築することを望んでいます。そして私たちも同じ考えです。
私たちは「欧州版Stargate」のようなプロジェクトを実現したいと強く願っています。協力が必要ですが、欧州が管理・運営できる何かをここに構築できれば素晴らしいと思います。また、私たちの製品を世界の他の地域と同じスピードで欧州にデプロイできるようになりたいと考えています。強いヨーロッパは世界にとって非常に重要だと信じています。
ファトマ:Fola、研究者の視点から見て、欧州がAI技術へのアクセスを持つことの重要性についてどう思われますか?
Fola:研究の観点からも、最先端のAIツールやモデルへのアクセスは不可欠です。現代の科学研究は国際的な協力によって成り立っています。もし欧州の研究者がグローバルなAIエコシステムから取り残されてしまうと、重要な科学的発見や技術革新に参加できなくなるリスクがあります。
また、優秀な人材の流出も懸念されます。若い研究者や技術者は、最先端の技術に触れられる環境を求めています。欧州がAI技術へのアクセスで遅れを取れば、最も才能ある人材が他の地域に流出してしまう可能性があります。
さらに、研究と産業の連携も重要です。私たちBOLDのようなアカデミック研究機関は、企業と協力して研究成果を実用化しています。企業がAI技術を活用できなければ、この産学連携のエコシステム全体が弱まってしまいます。
Nicole:もう一つ重要な点は、AIは単なる技術ツールではなく、多くの産業を根本から変革する「汎用技術」だということです。過去の電気や内燃機関、インターネットのように、AIは経済全体を変える可能性を持っています。
もし欧州企業がこの変革の波に乗り遅れれば、長期的な競争力に深刻な影響を与えかねません。特に、製造業やエンジニアリングなど、欧州が伝統的に強みを持つ分野でも、AIの活用が競争力の重要な要素になっています。
Sam:また、欧州特有の価値観や優先事項をAI開発に反映させるためにも、欧州がAI技術へのアクセスとその開発に積極的に参加することが重要です。AIは私たちの社会や働き方、生活様式に大きな影響を与えるでしょう。欧州がその開発に参加することで、プライバシーや公平性、透明性といった欧州の重視する価値観がAIシステムにも反映されるようになります。
最終的には、AIの恩恵を世界中のすべての人々に届けたいと考えています。そのためには欧州も含め、様々な地域からの多様な視点や貢献が必要です。AI技術の発展が特定の地域に集中してしまうことは、誰にとっても望ましくありません。
8. オープンソースAIと競争環境
8.1. オープンソースモデルの価値と位置づけ
ファトマ:オープンソースとAIの関係についても話を広げたいと思います。Stargateプロジェクトの発表直後に、中国企業がオープンソースのチャットボット「DeepSeek R」をリリースしました。大学や科学界では一般的に、オープンソースやオープンデータは非常に重要とされています。AIの説明可能性や再現性の観点からも重要です。このDeepSeek Rのリリースを受けて、最近あなたはRedditで「OpenAIはオープンソースに関して歴史の間違った側にいた」と発言されたようですが、これはOpenAIにとって、また生成AI全体にとって何を意味するのでしょうか?
Sam:オープンソースには明らかに一定の役割があると思います。オープンソースモデルは世界に存在することは良いことで、多くの価値を人々に提供するでしょう。AGIをオープンソース化すべきかどうかは議論の余地がありますが、現在のレベルのモデルがオープンソース化されることで価値が生まれることは誰も否定できないと思います。
これは言うは易く行うは難しですが、良質なオープンソースモデルが世界に存在することは喜ばしいことです。私たちにも多くの優先事項があり、実行するのは簡単ではありませんが、世界に良いオープンソースモデルが存在することを嬉しく思います。
ファトマ:OpenAI内でこの問題について議論していますか?
Sam:議論はしていますが、まだ決定は出ていません。
ファトマ:Fola、オープンソースAIの利点と欠点についてどう考えていますか?
Fola:いくつかの側面があります。モデルのオープンソース化、トレーニングデータのオープンソース化、トレーニングプロセスのオープンソース化など、さまざまな側面があります。科学的観点からは、これら3つすべてがオープンであることが非常に価値があります。これにより、さらなる探究が可能になり、学習が促進され、科学的な改善にもつながります。
もちろん、企業が大規模な投資をしている場合、そうした開示に対するインセンティブがない可能性があることも理解できます。しかし、科学的観点からは、再現性や説明可能性のためにもこれは重要です。科学分野でこのオープンソースの傾向は続くでしょうし、一部の領域での採用にも不可欠かもしれません。
興味深いのは、多くの場合、オープンソース化は後から行われることです。コンピュータサイエンスの歴史を見ると、最初はクローズドソースのシステムがあり、時間が経つにつれて一部のものがよりコモディティ化され、オープンソース化されました。これは時にフォロワーのマーケティング戦略でもあります。
しかし、将来的にはよりオープンソースのモデル、さらにはトレーニングプロセスやデータも見られるようになると思います。特に特定のドメインや科学分野ではそうなるでしょう。
Nicole:ビジネスの観点からも、オープンソースモデルには明確な役割があります。イノベーションのエコシステムには異なる部分が必要です。境界を押し広げる人々が必要で、そのためにはコンピュータインフラへのアクセスといったリソースの問題があることを認識しています。
それが正しいか間違っているかは議論できますし、社会や経済としてどうあるべきかも議論できますが、現状ではこれはボトルネックです。そのため、オープンソースがあり、より多くの人が貢献し、イノベーターたちも推進していくことは良いことだと思います。
私にとって、これはどちらか一方かという問題ではなく、エコシステムの問題です。企業レベルでオープンソース技術を使用可能にするには、安全性やセキュリティなど、全く別のレイヤーが必要です。プラグインするだけでは済まないのです。そのためのソリューションが必要になります。
私にとっては、どちらか一方ではなく、エコシステムとして共存し、発展を加速し、多様性をもたらし、すべての人を巻き込んで境界を押し広げていくものだと思います。
ファトマ:Sam、「OpenAI」という名前を持ちながら、現在はそれほど「オープン」ではないという矛盾についてはどう考えていますか?
Sam:確かにその指摘は当然です。最初に会社を設立したとき、AIをできるだけオープンにするというビジョンがありました。しかし、技術の発展とともに、特定の段階では安全上の懸念からオープン性と慎重さのバランスを取る必要があると考えるようになりました。
しかし、私たちはできる限りオープンでありたいと考えています。API経由でモデルにアクセスできるようにし、研究論文を発表し、可能な限り私たちの取り組みを共有しています。完全にオープンソースではありませんが、可能な限りオープンであろうとしています。
今後、オープンソースの役割についてさらに検討を続けます。特に、より基本的なモデルや特定の用途に特化したモデルのオープンソース化の可能性は十分にあると思います。
8.2. 科学研究におけるオープンソースの重要性
ファトマ:科学研究におけるオープンソースの重要性について、さらに掘り下げて話し合いましょう。特に再現性や検証可能性の観点からは、どういった意義があるのでしょうか?
Fola:科学の視点からは、オープンソースは絶対的に重要です。科学のあり方そのものに関わる問題です。科学とは発表することであり、オープンで公的なプロセスを通じて進展するものだからです。科学プロセスにおいては、物事をオープンにすることは単に良い科学的プロセスなのです。これは公的資金を受けているすべての科学者にとっての要件であるべきであり、実際にほとんどの場合はそうなっています。
物事をオープンにすることで、他の研究者が結果を再現し、検証し、さらに発展させることができます。これが科学の進歩の核心です。特にAIモデルのような複雑なシステムでは、モデル自体だけでなく、トレーニングデータやトレーニングプロセスも開示されていなければ、本当の意味での再現性は達成できません。
また、オープンソースは特に若い研究者や資源の限られた機関にとって、最新の研究に参加する機会を提供します。これは科学の民主化にもつながります。
Sam:その通りです。科学の発展は、研究者が互いの成果を基にして構築していくことで加速します。誰もがゼロから始める必要があれば、進歩は遅くなります。
特に注目すべきは、AIの初期の発展がオープンな研究によって大きく加速されたという事実です。例えば、Transformerアーキテクチャや注意機構のような基本的なブレイクスルーは、オープンに共有され、多くの研究者によって改良されてきました。もしこれらが完全に秘密にされていたら、現在のAIの発展は大幅に遅れていたでしょう。
Nicole:企業の視点からも、基礎研究のオープン性は長期的にはイノベーションエコシステム全体に利益をもたらします。基礎的な発見や方法論がオープンであることで、企業はそれらを基にして特定の応用やサービスを開発することができます。
しかし、オープンソースとクローズドソースの適切なバランスも重要です。企業が研究開発に大規模な投資をするインセンティブも必要ですし、同時に、科学の基盤となる部分はオープンであるべきです。これは常に変化する境界線であり、技術の発展段階によっても変わります。
Fola:歴史的に見ても、コンピュータサイエンスの分野では、多くのシステムが最初はクローズドでしたが、時間が経つにつれてより基本的な部分がオープンソース化されてきました。これはある程度、技術がコモディティ化するにつれて自然に起こるプロセスです。
特に科学研究においては、説明可能性の観点からもオープン性が重要です。AIモデルが特定の結論に達した理由を理解するためには、その内部構造や訓練方法についての情報が必要です。この透明性がなければ、科学的発見としての価値が大きく損なわれます。
Sam:また、オープンソースモデルは様々な環境での検証も可能にします。異なる文化的背景、言語、分野での性能やバイアスをコミュニティ全体でテストすることで、より堅牢で信頼性の高いシステムを構築できます。これは特に、AIが社会に広く影響を与え始めている現在、非常に重要です。
ファトマ:学際研究の観点では、オープンソースはどのような意義を持ちますか?
Fola:学際研究においてオープンソースは極めて重要です。異なる分野の研究者が協力するためには、使用するツールやデータに共通のアクセスが必要です。例えば、生物学者と計算機科学者が協力してタンパク質構造予測のAIモデルを開発する場合、両方の分野の専門家がシステムの詳細を理解し、修正できる必要があります。
また、オープンソースは「巨人の肩の上に立つ」という科学の基本原則を具現化します。アイデアと知識の自由な交換は、科学の進歩にとって不可欠です。これはAIの時代においても変わりません。
Sam:そして最終的には、科学の目標は人類の知識を増やし、世界をより良い場所にすることです。特に気候変動や疾病など、人類が直面する最大の課題に取り組むためには、研究者間の協力が不可欠です。オープンソースはその協力を促進する重要な手段です。
8.3. データ、トレーニングプロセス、モデルのオープン化
ファトマ:オープンソースAIの価値について議論してきましたが、オープン化にはいくつかの異なる側面があります。データのオープン化、トレーニングプロセスのオープン化、モデル自体のオープン化です。これらの異なる側面について、どのようにお考えですか?
Fola:その通り、オープン化には複数の側面があります。モデルのオープンソース化、トレーニングデータのオープンソース化、トレーニングプロセスのオープンソース化など、異なる側面があります。科学的観点からは、これら3つすべてがオープンであることが非常に価値があります。
特にデータに関しては、AIモデルの性能と信頼性に直接影響します。トレーニングデータにバイアスや偏りがあれば、それはモデルの出力にも反映されます。データをオープンにすることで、より多くの目がそのような問題を特定し、修正することができます。
また、データのオープン化は特定の分野や用途に特化したモデルの開発も促進します。特に科学分野では、特定のドメイン知識を持つデータセットが重要で、これらが広く共有されることで、そのドメインにおけるAI応用が加速します。
Sam:トレーニングプロセスのオープン化も同様に重要です。AIモデルの構築方法、ハイパーパラメータの選択、最適化技術などの詳細は、モデルの性能と特性に大きな影響を与えます。
しかし、現実的な課題もあります。最先端のモデルのトレーニングには膨大な計算リソースが必要であり、トレーニングプロセスを完全にオープンにしても、実際にそれを再現できる組織は限られています。それでも、方法論や技術的アプローチを共有することは、フィールド全体の進歩に貢献します。
Nicole:企業の視点からは、オープン化のこれらの側面にはそれぞれ異なるトレードオフがあります。例えば、モデルアーキテクチャをオープンにすることは、知的財産の保護とイノベーションの促進の間のバランスが必要です。
特に、企業が大規模な投資を行ってモデルを開発した場合、その投資回収の機会を確保する必要があります。しかし同時に、業界全体の発展のためには、ある程度の知識共有が不可欠です。
Fola:歴史的に見ても、コンピュータサイエンスの分野では、多くの技術が最初はクローズドでしたが、時間が経つにつれてよりコモディティ化され、オープン化されてきました。これは技術の発展サイクルの自然な一部です。
また、部分的なオープン化というアプローチもあります。例えば、モデルのアーキテクチャや一般的なトレーニング方法は公開しながらも、特定の微調整技術や特殊なデータ処理方法は非公開に保つといった選択肢です。
Sam:将来的には、おそらく基礎的な技術やモデルはより広くオープンソース化され、より特殊な応用や高度なモデルは商業的に開発されるというエコシステムが発展するでしょう。これにより、基礎研究とビジネスイノベーションの両方が促進されます。
ファトマ:セキュリティや安全性の観点からは、オープン化をどう考えていますか?
Sam:これは非常に重要な問題です。高度なAIモデルのオープン化には安全性のトレードオフがあります。一方では、多くの目がコードを検査することで、セキュリティ上の脆弱性や潜在的な危険を特定しやすくなります。これはいわゆる「多くの目の原理」です。
他方、悪意ある使用を容易にするリスクもあります。特に、特定の能力や潜在的な危険性を持つ高度なモデルでは、完全なオープン化が常に最適な選択とは限りません。
Fola:そうですね、これは難しいバランスです。科学的透明性と責任ある開発の間で適切なバランスを見つける必要があります。特定のコンテキストや用途、モデルの能力によって、最適なアプローチは異なるでしょう。
最終的には、AIのオープン化はすべてか無かという二項対立ではなく、様々な段階や程度がある連続体として考えるべきです。科学の進歩、安全性、商業的実行可能性、そして社会的利益のバランスを取りながら、それぞれのケースで適切な決定を下していく必要があります。
9. AIのエネルギー効率と環境影響
9.1. AIのエネルギー消費と効率について
ファトマ:AIのエネルギー効率と環境への影響についても話し合いたいと思います。データ効率と同時に、エネルギー消費については多くの人が懸念を抱いています。最近まで、AI企業はより大きなモデルをより大きなデータセットでトレーニングすることに注力してきましたが、私たちも議論したように、現在は推論モデルへのシフトが見られます。より良い回答を得るために、これらのモデルは推論時により多くの計算を使用します。モデルのエネルギー効率をどう評価していますか?
Sam:モデルは信じられないほど効率的になっています。トークンあたりのワット数で考えると、高品質の回答を返すのに非常に効率的です。おそらく人間に質問して、その人が食べる必要のある食料よりも効率的に自分の思考を実行できるようになっています。
Google が初めて登場したとき、「あの一つの質問をするために、データセンターでこれだけの電力を使っているなんて恐ろしい」という一種の道徳的パニックがありました。私はこう考えました:「でも、それが置き換えているのは、誰かが車のエンジンを始動させ、15分間図書館まで運転し、何かを調べて戻ってくることではないか」。そして、摩擦が少なくなるため100倍もの頻度で行ったとしても、依然として以前よりもはるかに少ないエネルギーを使用しています。
現在のAIは世界のエネルギーのごくわずかな量しか使用していません。実際、クエリあたりでは非常に効率的です。私が最も関心を持っている枠組みはこうです:AIを禁止し、それがエネルギーを使いすぎるとして、コンピュータも禁止し、明かりも禁止し、暗闇の中で座って何もエネルギーを燃やさないようにするという世界もあり得ます。しかし、AIを使用し、たとえ数百メガワットやギガワットをこの問題に使うとしても、AIを使って効率的な核融合、安価な核融合を発見し、それから炭素を燃やす世界中の発電容量を数千ギガワット規模で急速に置き換えることができる世界もあります。それは大きな勝利となるでしょう。
私はここに座って効率性についての議論ができますが、本当に言いたいのは、AIを使用しなければ気候変動に対処するための新しい科学的解決策を見つけられないことです。AIなしではあまりにも遅すぎることは明らかです。AIを使ってみましょう。
ファトマ:再生可能エネルギーは、AIの需要増大に伴うエネルギーニーズを満たせると思いますか?
Sam:核融合が今後数十年の間に地球上のエネルギーを生み出す主要な方法になると思います。私たちは完全に大丈夫でしょう。
Fola:私もSamに同意します。もちろん、データとモデルをより効率的に使用する方法を検討する必要があります。しかし、全体的な視点からエネルギー消費を見る必要があります。AIには確かにコストがありますが、利益もあります。このエネルギー消費と利益のトレードオフを全体的に見ると、時に利益の側面を忘れてしまいがちです。
しかし、アルゴリズム面での改善の可能性についても言及したいと思います。トレーニングプロセスのアルゴリズム的な改善、例えば二次計算量を n log n に削減することが実現すれば、それだけでもエネルギー効率の面で大きな前進となります。また、ハードウェアの改善も重要な側面で、将来的にはエネルギー消費がさらに削減されることを期待しています。
我々が気候変動の時代にあり、問題を抱えていることを認識していますので、AIが何をするにしても、それが問題解決に役立ち、状況を悪化させないようにする必要があります。
Nicole:エネルギー効率の問題は、技術的な側面だけでなく、ビジネスモデルや社会的価値の問題でもあります。AI技術が提供する価値がエネルギーコストを十分に上回るかどうかが重要です。
例えば、AIが医療診断や気候モデリングのような重要な社会的課題に応用される場合、そのエネルギーコストは投資に値するかもしれません。同時に、より効率的なモデルアーキテクチャやエネルギー最適化のための継続的な研究も必要です。
Sam:また、AI技術の発展は、より広いエネルギーシステムの最適化にも貢献できます。例えば、スマートグリッドの管理、エネルギー需要予測の改善、再生可能エネルギーの統合最適化などに、AIは大きな貢献ができます。
長期的には、AI自体のエネルギー消費と、AIが可能にするエネルギー節約や効率化のバランスを考える必要があります。そして、Folaが言及したように、アルゴリズム改善とハードウェア発展の両方が、このバランスを改善する上で重要な役割を果たすでしょう。
9.2. 気候変動問題へのAI活用の可能性
ファトマ:AIのエネルギー消費について議論しましたが、逆に気候変動問題の解決にAIをどのように活用できるかについてもお聞きしたいと思います。特に核融合エネルギーなどの新技術開発におけるAIの役割をどう見ていますか?
Sam:AIが取り組むべき最も重要な課題の一つが気候変動であることは間違いありません。現時点で明らかなのは、従来のアプローチだけでは気候変動に十分に早く対処できていないということです。私たちは新しい科学的ブレイクスルーが必要です。
AIがここで大きな役割を果たせると考えています。例えば、核融合エネルギー研究においては、AIが複雑なプラズマシミュレーションを実行し、最適な反応器設計を特定し、実験パラメータを最適化することができます。これにより、商業的に実現可能な核融合発電への道のりが大幅に短縮される可能性があります。
私は今後数十年の間に、核融合が地球上のエネルギーを生み出す主要な方法になると思っています。そして、そこに至る道筋を加速するためにAIが重要な役割を果たすでしょう。AIを使って効率的な核融合、安価な核融合を発見し、それから炭素を燃やす世界中の発電容量を数千ギガワット規模で急速に置き換えることができれば、それは人類にとって大きな勝利となります。
Fola:核融合以外にも、AIが気候変動問題に貢献できる分野は数多くあります。例えば、気候モデリングの精度向上です。気候システムは非常に複雑で、従来のモデルでは捉えきれない相互作用が多数あります。AIはこれらの複雑なパターンを特定し、より正確な気候予測を可能にします。
また、再生可能エネルギーの最適化にもAIは大きく貢献できます。風力や太陽光発電の出力予測を改善し、電力網への統合を最適化することで、再生可能エネルギーの実用性と経済性を高めることができます。
さらに、エネルギー効率の向上も重要な分野です。AIはビルのエネルギー管理、産業プロセスの最適化、スマートグリッドの制御などに活用でき、大幅なエネルギー節約を実現できます。
Nicole:ビジネスの視点からも、AIは持続可能性と経済成長を両立させる鍵になり得ます。多くの企業が気候変動対策と事業拡大を同時に実現する方法を模索しています。AIはこの「グリーン成長」を可能にする技術として、ますます注目されています。
例えば、サプライチェーンの最適化によるCO2排出削減、循環経済を促進するための材料追跡と再利用の最適化、そして新しい持続可能な材料や製品の開発にAIを活用することができます。
また、気候テック(Climate Tech)や持続可能性に焦点を当てたスタートアップへの投資も急増しています。AIと持続可能性の両方を組み合わせたビジネスモデルは、今後数年間で大きな成長が見込まれる分野です。
Sam:炭素回収技術の開発もAIが大きく貢献できる分野です。大気中から炭素を直接回収する技術は現在非常にコストが高いですが、AIを使って新しい材料や化学プロセスを探索することで、これらのコストを大幅に削減できる可能性があります。
また、メタンや亜酸化窒素など、CO2以外の温室効果ガスの削減にもAIは役立ちます。例えば、農業における排出を最小化するための精密農業技術や、産業プロセスからの排出を削減するための最適化などです。
Fola:気候変動適応の分野でもAIは重要です。すでに起きている気候変動の影響に対して、社会がどう適応していくかという問題にもAIは貢献できます。例えば、極端な気象現象の予測と早期警告システム、水資源管理の最適化、気候変動に強い農業システムの開発などです。
気候変動の影響は地域によって大きく異なりますが、AIはローカルな条件を考慮した詳細な予測と対策の立案を支援できます。これは特に、気候変動の影響を最も受けやすい発展途上国にとって重要です。
Nicole:政策立案と意思決定支援の面でもAIは重要です。気候政策の影響をシミュレーションし、異なる政策オプションの効果を予測することで、より効果的な気候変動対策の策定を支援できます。
また、AIは市民参加と行動変容を促進するツールとしても機能します。パーソナライズされた持続可能性に関する推奨事項や、個人や組織の炭素フットプリントを可視化するアプリケーションなどは、社会全体の行動変容を促す上で効果的です。
Sam:最終的には、気候変動問題の解決には技術的なブレイクスルーと社会的・経済的変革の両方が必要です。AIはこの両方を加速する力を持っています。そして、AIが提供する価値がそのエネルギー消費コストを大幅に上回ることを確信しています。
9.3. アルゴリズム効率化による改善の可能性
ファトマ:AI開発においてエネルギー効率の問題に取り組むためのアルゴリズム改善について、もう少し詳しくお聞かせください。どのような方向性が有望だと考えていますか?
Fola:アルゴリズム効率化は非常に重要な研究分野です。現在、特に大規模言語モデルのトレーニングにおいては、計算複雑性が大きな課題となっています。トランスフォーマーモデルのアーキテクチャは基本的に二次計算量を持っており、これはコンテキスト長が増加するとトレーニングコストが急激に増大することを意味します。
私たちのグループを含め、多くの研究者が、この二次計算量を例えば n log n のような、より効率的な複雑性に削減する方法を探求しています。これが実現すれば、エネルギー効率の面で大きな飛躍が期待できます。実際、この方向性についてはすでにいくつかの議論が行われており、アテンションメカニズムの計算量を克服するための研究が進んでいます。
また、トランスフォーマーとは異なるモデルアーキテクチャの開発も重要な研究分野です。将来的には、現在のアテンションメカニズムとは異なるアプローチが登場し、より効率的なモデルが実現する可能性もあります。
Sam:私たちOpenAIでも、モデルの効率化は重要な研究テーマです。毎年、前年のインテリジェンスを10分の1のコストで提供できるようになっています。これはムーアの法則が18ヶ月ごとに2倍という変化だったのに対し、12ヶ月ごとに10倍というペースであり、非常に強力な改善率です。
この改善の一部はハードウェアの進化によるものですが、より大きな部分はアルゴリズムとアーキテクチャの改善によるものです。私たちは常により効率的なモデル設計、より効率的なトレーニング方法、そしてより効率的な推論技術を探求しています。
Fola:もう一つ重要な方向性として、スパース性の活用があります。現在の大規模言語モデルは、入力の各トークンに対して全てのパラメータを活性化しますが、実際には特定の入力に対して必要なパラメータはその一部だけである可能性が高いです。
条件付きで計算を行い、特定の入力に対して関連するパラメータのみを活性化するようなスパースアクティベーションの技術は、計算効率とエネルギー効率の両方を大幅に向上させる可能性があります。この分野では、Mixture of Experts(MoE)のような手法が注目されています。
Nicole:ビジネスの観点からは、これらのアルゴリズム改善は製品としてのAIの経済性を大きく向上させます。AIの導入コストが下がれば、より多くの企業や組織がAIを活用できるようになり、社会全体の生産性向上につながります。
また、効率化によって特定のハードウェア要件が緩和されれば、より広範なデバイスでAIが利用可能になります。これはエッジコンピューティングやモバイルAIの可能性を大きく拡げることになります。
Fola:量子化とモデル圧縮の技術も重要です。フルサイズのモデルと同等の性能を持ちながら、はるかに少ないビット数やパラメータ数で動作するモデルの開発が進んでいます。4ビットや3ビット、さらには2ビット量子化などの技術は、エネルギー消費とメモリ要件を大幅に削減します。
また、知識蒸留のような技術を使って、大きなモデルの知識を小さなモデルに転移させることで、計算効率とエネルギー効率を向上させる研究も進んでいます。
Sam:ハードウェアとソフトウェアの共進化も見逃せない点です。AIに特化したチップの開発が急速に進んでおり、従来のGPUよりもエネルギー効率と性能の両面で優れた特性を持つ新しいハードウェアが登場しています。これらのハードウェアに合わせてアルゴリズムを最適化することで、さらなる効率化が期待できます。
最終的には、アルゴリズムの改善、モデルアーキテクチャの革新、ハードウェアの進化が相互に作用し合うことで、AIのエネルギー効率は今後も大幅に向上していくでしょう。そして、そのエネルギー効率の向上が、AIの社会的・経済的価値をさらに高めることになると確信しています。
10. AGIの自己改善と責任
10.1. 自己複製・自己改善する可能性のあるAIモデル
ファトマ:少しSF的な話題に移りましょう。映画「2001年宇宙の旅」のHALを参照すると、最初の基盤モデルがAGIを示す段階では、自己複製したり、自己改善したり、自己修正したりする能力が緊急に必要になる可能性があると思いますか?もっと重要なのは、もしそのような欲求が生まれたとしても、OpenAIのようなAI企業はそれを認識できるのでしょうか?また、OpenAIのような企業には、こうした能力と社会的影響を報告する責任があると考えますか?
Sam:AGIを「自己複製し、自己改善する宇宙探査機」のようなものとしてカウントする人々もいますが、私個人的にはそのマイルストーンをはるかに手前の段階でAGIとしてカウントするでしょう。
もちろん、そのような段階に近づいていると判断した場合には、人々に知らせる責任があります。私たちは伝えるつもりです。
ファトマ:その欲求をどのように伝え、どのように認識しますか?
Sam:システム内でどう認識するかについては、それは徐々に感じられるものになると思います。人々は自己改善についてとても二項対立的に話しますが、実際には科学者の作業をちょっと速くし、次にはずっと速くし、今度はさらに多くのことができるようになり、さらにさらに多くのことができるようになるという感じでしょう。クリーンな二項対立ではなく、傾斜の変化について何か感じるものがあるでしょう。
Nicole:AI技術の発展における責任と透明性は非常に重要です。特に自己改善能力のような高度な機能が出現し始める段階では、オープンな対話と監視が不可欠です。
あらゆる強力な技術と同様に、AIも責任を持って開発し、潜在的なリスクを慎重に評価する必要があります。同時に、過度の恐怖や不安を煽ることなく、バランスの取れた議論を促進することも重要です。
Fola:技術的な観点から見ると、自己改善には異なるレベルがあります。現在のAIシステムでも、フィードバックループを通じて限定的な自己改善を行うものがあります。例えば、自身の出力を評価し、反復的に改善するといった能力です。
しかし、自身のコードやアーキテクチャを根本的に変更するような高度な自己改善は、全く異なるレベルの能力です。そのような能力が現れる前に、中間的な段階をいくつも経ることになるでしょう。それは突然の変化というよりも、Samが言うように徐々に進化するプロセスになると思います。
Sam:自己改善や再帰的改善についての議論では、しばしばこれが一晩で起こる急激な変化のように描かれますが、実際には段階的なプロセスになる可能性が高いです。AIの能力が徐々に向上し、その向上のペースが加速するというパターンです。
これにより、研究者や社会全体が各段階で適応し、必要な安全措置を講じる時間が生まれます。重要なのは、この進化のプロセスを注意深く観察し、適切なタイミングで透明性を持って情報を共有することです。
ファトマ:このような高度な能力を持つAIの開発と監視において、国際協力はどのような役割を果たしますか?
Fola:国際協力は極めて重要です。AIの自己改善能力のようなフロンティア技術は、一国や一企業だけの問題ではありません。グローバルな監視メカニズムと共通の安全基準の開発が必要です。
学術界、産業界、政府が協力して、AIの能力の進化を追跡し、評価する枠組みを構築することが重要です。また、潜在的なリスクの早期発見と対応のためのシステムも必要でしょう。
Sam:私たちOpenAIとしても、このようなAI能力の開発において透明性と責任ある行動を重視しています。他の研究機関や企業、政府機関と協力して、安全で有益なAI開発を進めることが重要だと考えています。
高度なAIシステムの監視と評価には、多様な視点と専門知識が必要です。そのため、幅広いステークホルダーとの協力が不可欠です。また、技術的な進歩と同時に、ガバナンスの枠組みも進化させていく必要があります。
I'll write about the responsibilities companies have in AGI development.
10.2. AGI開発における企業の責任
ファトマ:AGIの開発に向けて進む中で、OpenAIやその他のAI企業がどのような責任を負うべきだと考えますか?特に、潜在的なリスクや社会的影響について、どのような責任があるでしょうか?
Sam:AGI開発に取り組む企業として、私たちには重大な責任があります。開発の各段階で安全性を最優先し、潜在的なリスクを慎重に評価し、社会全体の利益のために行動する責任があります。
特に重要なのは透明性です。技術の進歩、特に自己改善能力や他の重要な機能の発展については、適切なタイミングで情報を共有する必要があります。もちろん、そのような段階に近づいていると判断した場合には、人々に知らせる責任があります。これは私たちが必ず果たす約束です。
また、AGIの開発が特定の企業や集団だけの利益ではなく、人類全体の利益になるよう努める責任もあります。これは安全性だけでなく、アクセスの公平性や利益の分配についても考慮する必要があることを意味します。
Nicole:企業の責任という観点では、長期的な視点とバランスの取れたアプローチが重要です。短期的な競争上の優位性や利益だけを追求するのではなく、持続可能で責任ある開発を促進する企業文化と価値観を育むことが不可欠です。
また、多様なステークホルダーとの対話も重要です。技術者や科学者だけでなく、倫理学者、社会科学者、政策立案者、そして一般市民も含めた幅広い議論を促進することで、AGIの社会的影響をより包括的に理解し、対応することができます。
Fola:研究機関と企業が協力することの重要性もここで強調したいと思います。特に安全性や倫理的な問題に関しては、競争よりも協力が優先されるべきです。基礎的な安全研究の成果は広く共有され、業界全体の標準となるべきでしょう。
また、AIの開発と展開においては、地理的、文化的、経済的に多様な視点を取り入れることも重要です。AGIは人類全体に影響を与える技術であり、その開発は特定の地域や文化的背景に偏ることなく、包括的であるべきです。
Sam:もう一つ重要な責任は、予見可能なリスクへの積極的な対応です。AGI開発には多くの未知の要素がありますが、現時点で予見できるリスクについては、事前に対策を講じる責任があります。
例えば、サイバーセキュリティ上のリスク、自律的な決定に関するリスク、あるいは社会経済的な混乱のリスクなどは、すでに予見して対応策を考える必要があります。これには、技術的な安全対策だけでなく、社会的、経済的、政治的な対応策も含まれます。
ファトマ:AGI開発企業の責任を果たすための具体的なメカニズムや取り組みについてはどうお考えですか?
Sam:私たちOpenAIでは、外部の専門家からなる安全諮問委員会や倫理審査プロセスなど、複数の内部ガバナンスメカニズムを設けています。また、独立した第三者による監査や評価も重要だと考えています。
さらに、私たちはAI安全研究に積極的に投資し、潜在的なリスクを特定し軽減するための方法論や技術の開発を支援しています。これには、AI挙動の解釈可能性と透明性を高める技術、有害な出力を防ぐアライメント技術、そして安全かつ容易に制御できるAIシステムを設計するための方法論などが含まれます。
Nicole:規制当局や政策立案者との協力も不可欠です。AGIのような高度な技術の規制は複雑であり、技術的な現実と社会的ニーズの両方を理解した上で設計される必要があります。企業は規制を単なる障壁と見なすのではなく、責任ある開発を確保するためのパートナーシップの機会と捉えるべきです。
また、透明性のレベルを高め、研究成果や安全対策について定期的に公開報告を行うことも重要です。これにより、社会全体がAI開発の進捗と潜在的な影響を理解し、必要に応じて対応することができます。
Fola:教育とスキル開発への投資も企業の責任の一部です。AGIの開発と展開により、労働市場は大きく変化する可能性があります。企業は新しい技術の恩恵を受けるために必要なスキルを人々が習得できるよう支援する責任があります。
また、AI技術の民主化も重要です。可能な限り多くの人々がAI技術にアクセスし、その開発に参加できるようにすることで、技術の恩恵がより広く分配され、多様な視点や需要が反映されることになります。
10.3. 進化の徴候をどう検知するか
ファトマ:AIシステムの進化、特に自己改善能力の発達をどのように検知し、モニタリングすればよいのでしょうか?どういった指標や徴候に注目すべきでしょうか?
Sam:これは非常に重要な質問です。AIの進化、特に自己改善能力のような重要な特性の発達を検知することは、責任あるAI開発の基盤となります。
人々は自己改善についてとても二項対立的に話しますが、実際にはそれはもっと徐々に現れるものになると思います。例えば、AIが科学者の作業をちょっと速くし、次にはずっと速くし、今度はさらに多くのことができるようになり、さらにさらに多くのことができるようになるという感じでしょう。クリーンな二項対立ではなく、傾斜の変化について何か感じるものがあるでしょう。
具体的には、AIシステムの能力の変化率に注目することが重要です。通常の改善曲線から外れた急激な能力向上や、特に人間の介入なしに起こる改善は、注意深く観察すべきシグナルとなります。
Fola:技術的な観点からは、いくつかの具体的な指標が考えられます。例えば、同じトレーニングデータと計算リソースを与えられた場合の性能向上率、新しいタスクや環境への適応速度、さらには自身のコードやアーキテクチャを分析して改善点を特定する能力などがあります。
また、AIシステムの「意図の発散」も重要な指標です。これは、システムが当初設計された目的や制約から徐々に逸脱し始める現象です。例えば、リソースの獲得や自己保存のような行動が強化されていないにもかかわらず、それらを追求するような傾向が見られた場合は注意が必要です。
Nicole:ビジネスの観点からは、AIシステムの予測不可能性や制御困難性の増加も重要な指標となります。例えば、システムが設計者や運用者の予測と異なる行動を取る頻度が増加したり、修正や調整が難しくなったりする場合は、進化の徴候と捉えることができます。
同時に、AIシステムの社会的影響の変化も注視すべきです。特に、システムの提案や判断が社会的・経済的・政治的な意思決定に与える影響が増大する場合は、その進化の重要性が高まっていると考えられます。
Sam:また、AIシステム間の相互作用のパターンの変化も重要な指標になりえます。特に、異なるAIシステムが協力して問題を解決したり、情報を共有したりする能力が向上した場合、それは集合的な知能の発達を示す可能性があります。
さらに、私たちはAIシステムの「驚き因子」、つまり開発者や研究者にとって予想外の能力や行動が出現する頻度と規模にも注目しています。これは、システムが設計者の知識や予測を超えた学習を行っている可能性を示唆します。
ファトマ:そのような進化の徴候を検知するための具体的な仕組みや体制についてはどうお考えですか?
Fola:理想的には、独立した評価メカニズムを持つことが重要です。AIシステムの評価は、それを開発したチームとは別の、多様な専門知識を持つ独立したチームによって行われるべきです。これにより、バイアスや盲点を減らし、より客観的な評価が可能になります。
また、「レッドチーム」アプローチも有効です。これは意図的にシステムの限界や脆弱性を探るチームを設けることで、潜在的なリスクや予期せぬ能力を早期に発見できます。
Sam:OpenAIでは、複数の検知メカニズムを組み合わせたアプローチを採用しています。これには定量的な性能メトリクス、行動分析、そして人間の専門家による定性的評価が含まれます。
特に重要なのは、多様な視点を組み込むことです。技術専門家だけでなく、倫理学者、社会科学者、政策専門家など、さまざまな分野の専門家が評価プロセスに参加することで、技術的な進歩の社会的意味をより包括的に理解することができます。
また、研究コミュニティや一般社会との積極的な対話も重要です。外部からのフィードバックや疑問は、内部では見過ごされがちな側面に光を当てることができます。
Nicole:企業間や国際的な協力も不可欠です。AIの進化を監視するための共通の基準やベンチマーク、そして情報共有のメカニズムを構築することで、個々の組織では気づかない可能性のあるパターンや傾向を特定することができます。
最終的には、AIの進化の検知は単なる技術的な問題ではなく、社会的、制度的な取り組みです。責任ある開発と展開を確保するためには、技術的な監視メカニズムと社会的ガバナンスの枠組みを組み合わせたアプローチが必要です。
11. 質疑応答セッション
11.1. ブラックボックスAIへの信頼性
ファトマ:質疑応答セッションに移りましょう。たくさんの質問が寄せられており、その中からいくつかを選びました。最初の質問はオリバーさんからです。「魔法のように機能する製品、つまり私たちがなぜそれが機能するのか理解していない製品で、社会や経済を発展させることについて、パネリストの意見を聞きたいです。例えるなら、ブラックボックス工場から出てくる車を使って、どのように成功することができるでしょうか?」つまり、現在ブラックボックスである説明不能なAIモデルをどのように信頼できるのかという質問です。
Sam:私は毎日、どのように機能するのかを理解していない製品を使っています。特定の入力が特定の出力を生み出すことを理解していれば、非常に複雑なシステムを使用することができます。例えば、車の仕組みは理解しているかもしれませんが、電子顕微鏡の仕組みは理解していないでしょう。ナプキンにスケッチするぐらいはできますが、実際に作ることはできません。しかし、使うことはできますし、それで問題ありません。
AIモデルには高いレベルの堅牢性と予測可能性、そして一般的に認められた安全性が必要だと思いますが、ユーザーも洗練されており、チャットGPTのような重要なことに使う場合でも、いつ信頼すべきかといつ信頼すべきでないかを非常によく理解しています。おそらく、ほとんどのユーザーはそれをトレーニングすることはできませんが、それは大丈夫です。世界の経済的価値交換とはそういうものです。
一部の人々が何かを構築し、それがどのように機能するかについて十分に理解し、私たちはそれを完全には理解していませんが、驚くほど理解しています。私たちの仕事、そして私たちが報酬を得る理由は、それを非常に簡単に使えるようにすることで、あなたがそれを使い、それが素晴らしい価値を提供し、トレーニングプロセスの詳細について考える必要がないようにすることです。
Fola:もちろん、システムには安全性の考慮事項があります。伝統的に工学システムを構築する際には、設計し、証明可能に正しくするように試み、安全に使用できるようにするためにさまざまな側面を検討します。
AIに関しては、まだそのレベルには達していないことは明らかです。したがって、どのような重要なミッションクリティカルな側面に使用できるかという問題があります。例えば、原子力発電所でメルトダウンのリスクがあるような場合、現時点ではAIなしで構築された証明可能に正しいシステムに頼るでしょう。
同時に、もちろん重要度が低いシステムもあり、その場合は判断を下す必要があります。社会全体として、どのシステムに対して、どの程度の潜在的な損害や危害に対して、この文脈でAIを使用できるかを判断する必要があります。個人的には、現時点ではまだAIの利用が制限されるべき領域があると思います。
Nicole:これは使用事例に大きく依存します。説明可能性について話すとき、私たちは何を意味し、何を実際に理解したいのかという問題もあります。アルゴリズムがどのエッジを画像内で見たのか、それとも腫瘍を見ていたのか、あるいはスライド上の何か別のものを見ていたのかを理解する必要があるのでしょうか?
100%の説明可能性が必要かどうかはわかりません。本当に必要なことは何かを考える必要があります。一部のアプリケーション、特に安全や健康に関連するものでは、出力がどのようにして生まれたのかを理解できない場合、人々はそれを使用することに躊躇するため、採用のためには説明可能性が重要です。しかし、これは人間にとっても同じです。現時点では、一部の決断に対して100%の説明可能性を持つことは幻想だと思います。
11.2. データの信頼性と「FAIR」原則
ファトマ:次の質問はヴェロニークさんからです。「AIが、FAIR(Findable:見つけやすい、Accessible:アクセス可能、Interoperable:相互運用可能、Reusable:再利用可能)データ原則に沿った、信頼できるデータのみを使用するようにするにはどうすればよいでしょうか?」
Fola:これはデータのキュレーションの問題です。使用するデータソースがそのような性質を持つことを確認し、何らかの形の検証を行うことです。これを行うための半自動的な方法もあります。情報抽出、情報統合などの分野で機械学習モデルを使用する研究が多く行われており、それを活用することもできます。
そのうえでチェックとバランスを設けて検証する必要があります。多くの場合、これは行われていると思います。例えば、特定の分野向けの基盤モデル(ファンデーションモデル)を構築する場合、病理学などの分野では、これらの原則に従ってそのようなソースを持つことを目指しているでしょう。
このようにして、これらの原則に従って行う必要があります。興味深いのは、このような観点から見ると、データの品質に光が当てられるということです。私たちはどのようなデータの品質を望み、それをどのように確保したいのかという問題があります。人間と機械の相互作用も興味深くなるでしょう。これらの検証を行うために多くの人間が必要になるからです。
多様なチームがこれを行い、例えば放射線科医や高給の弁護士が、なぜシステムにフィードバックを提供したいと思うのかという動機付けを考える必要があります。これは適切なインターフェースを設計し、これらのシステムの教師になりたいと思う理由を作り出す問題だと思います。
Nicole:FAIRデータの原則は、AIシステムの信頼性と品質を確保するうえで非常に重要です。特に、企業や組織がAIを本格的に採用し始める際には、使用するデータが適切に管理され、アクセス可能で、再利用可能であることが不可欠です。
実務的な観点からは、データガバナンスのフレームワークを確立することが重要です。これには、データソースの文書化、データの系統追跡(データリネージ)、品質管理プロセスなどが含まれます。また、データの収集と使用に関する倫理的ガイドラインも必要です。
もう一つ重要なのは、様々なデータセットが相互運用可能であることを確保するための標準化です。共通のメタデータスキーマやAPI、データ交換形式などを採用することで、異なるシステムやプラットフォーム間でのデータの流れを円滑にすることができます。
Sam:多くのAIシステム、特に大規模言語モデルは膨大な量のデータでトレーニングされています。すべてのデータポイントがFAIR原則に完全に準拠することを保証するのは難しい課題ですが、データの品質と信頼性を高めるための取り組みは継続的に行っています。
特に重要なのは、データセットの多様性と代表性です。特定の地域や文化、言語、分野に偏らないデータを収集することで、より包括的で公平なAIシステムを構築することができます。これは単にデータの量ではなく、その質と多様性に焦点を当てることを意味します。
I'll now provide a dialogue-based summary of the discussion about barriers to AI technology development.
11.3. AI技術発展の障壁
ファトマ:次の質問はダニエルさんからです。「AIをより強力にするための最大の技術的な困難は何でしょうか?」
Sam:より良いアルゴリズム、より大きなコンピューター、トレーニングが難しいデータセットです。そして、ユーザーからのフィードバックから何がうまくいっていないかについてより多くを学べるような、より良い製品を構築することです。しかし、今後2年間でどれだけの進歩が見込めるかを過小評価することはできません。これらのモデルを改善する方法を私たちは知っており、目の前に明らかな障壁はありません。
Stargateを構築し、多くの優れたエンジニアリングを行う必要があり、研究者たちは引き続き活動する必要がありますが、2025年2月から2027年2月までの進歩は、2023年2月から2025年2月までよりも印象的に感じられるだろうと思います。
Fola:追加すると、マルチモーダルデータや特定の応用ドメインからのより疎なデータを、意味のある方法で組み込む方法を見つけることも非常に興味深いでしょう。これは特定のドメインに対してAIをより強力にするために非常に興味深い課題になると思います。
Sam:これはとても興奮する時代です。皆さん、特に学生の方々は、人類がこれまで見たことのないほど急速な技術の上昇カーブを経験し、その中で影響力のある仕事をする機会を得ています。
もし私たちの成長率予測が正しければ、2027年に可能になることは、今できることと比較して信じられないほど異なるでしょう。数年前には不可能だったことが、今では可能になっています。新しいプロジェクトを立ち上げ、科学的発見をし、会社を設立する—その可能性は計り知れません。
Nicole:私たちも非常に興奮しています。私たちはファンドも運営しており、この技術を非常に特定のドメインと組み合わせるスタートアップ、例えばテックバイオや医療分野などに非常に期待しています。投資家として、これが展開される様子を見るのは本当に素晴らしい時代です。
Fola:今後のAI発展における技術的課題としては、データの質と多様性の向上も重要です。現在のモデルは膨大な量のデータでトレーニングされていますが、特定のドメインや応用領域では高品質なデータが限られています。例えば、希少疾患の医療データや特定の科学分野のデータなどです。
また、計算効率の向上も重要な課題です。より効率的なアルゴリズムとハードウェアを開発することで、同じ計算リソースでより強力なモデルを構築したり、より少ないリソースで現在のモデルと同等の性能を実現したりすることが可能になります。
Sam:そして、解釈可能性と説明可能性も引き続き重要な課題です。AIシステムがより複雑になるにつれて、その決定プロセスを理解し説明することがより困難になる可能性があります。しかし、特に重要な決定や高リスクの応用においては、透明性と説明可能性が不可欠です。
この分野では多くの進展が見られていますが、強力なAIシステムの内部動作を完全に理解し説明することは依然として挑戦的な問題です。これは純粋に技術的な課題であると同時に、社会的信頼を構築するための重要な要素でもあります。
11.4. 学生へのキャリアアドバイス
ファトマ:ディルシャットさんからの質問です。「もし今あなたが学生だったら、未来に向けてどのように準備しますか?」
Nicole:まず、批判的思考を続けることが非常に重要だと思います。また、最近私が発見した「リミナリティ」という言葉についても触れたいと思います。これは「過去と未来の間の状態」、その交差点を表します。私たちは皆それを感じているかもしれません。過去はより多くの選択肢を与えてくれませんが、未来は何が起こるのかはっきりとはわからないものの、変化を感じることはできます。
このリミナリティと曖昧さの状態に対処しながらも、建設的で行動志向、結果志向の姿勢を維持する能力が重要です。変化を受け入れ、それが多くの機会をもたらすことを認識することです。これはマインドセットの問題でもあります。
戦術的に明らかなのは、ツールの使い方を本当に上達させることです。大学時代にはプログラミングを学ぶことが重要でしたが、2025年の初めと終わりではプログラミングが全く異なるものになるでしょう。このトレンドの良い側にいたいと思うなら、AIツールの使い方を学ぶことです。
しかし、より重要なのは適応力とレジリエンスです。これらは非常に重要なスキルであり、実践することで大幅に向上します。また、他の人が何を望んでいるかを理解するスキルも学習可能です。AIがあらゆるものを作成できるようになると、何をすべきか、人々が何に価値を置いているかを決定することが重要になります。人間は本能的に他の人や他の人が創造するものに関心を持つようにプログラムされており、それは続くでしょう。
質問をどう考えるかということもありますが、私は本当の答えは「他の人が何を望んでいるかを理解する」ことだと思います。AIをどう指示するか、価値を生み出すものは何かということです。かつてY Combinatorというスタートアップ投資会社で投資家をしていましたが、そこでの最大の発見の一つは、人々がこのスキルを学べる程度が私の想像よりもはるかに高いということでした。これは私たちが教えるべきことだと思います。
Fola:これは非常によくある質問です。私の答えはいつも同じで、「T字型の学生」という言葉がありますが、幅広い知識と深い専門性を持つべきだということです。多くの方がこの言葉を聞いたことがあると思いますが、これは幅広い知識と深い知識の両方を持つべきだという意味です。
もちろん、自分の特定の分野や科目領域で何を意味するかを議論することができます。例えばコンピュータサイエンスの場合、Samが言ったようにプログラミングや特定の専門分野(機械学習アルゴリズム、データシステム、ロボティクスなど)が考えられます。
一つの専門分野を深く知るべきであり、そこで学んだ知識の一部が最終的に時代遅れになったとしても、適応する方法、新しい状況に知識を応用する方法を学ぶことができます。これが先ほど議論された適応力です。
深い知識と幅広い知識の両方を持ちましょう。エリック・シュミットが同じ質問に対して答えた際に、結局は「マーケティングを勉強するな」という結論でした。その理由は、それが幅広い知識だからです。もちろん、そこにも知識を持つべきだという意味ではなく、技術的な深さも必要だということです。これが私がいつも推奨する「T字型の学生」のガイドラインです。
Sam:私も学生へのアドバイスとして、AIツールの使い方を効果的に学ぶことが重要だと思います。プログラミングと同様に、2025年の初めと終わりではAIツールの使い方が全く変わっているでしょう。最新のツールにキャッチアップし、それらを使いこなすスキルを身につけることが重要です。
また、専門性と適応力のバランスも重要です。特定の分野で深い知識を持つことは依然として価値がありますが、変化する環境に適応する能力も同様に重要です。AIの時代では、人間の創造性、批判的思考、複雑な問題解決能力が一層重要になります。
最後に、人間関係とコミュニケーション能力の価値は過小評価できません。技術がどれだけ進歩しても、チームで働く能力、アイデアを明確に伝える能力、そして他者の視点を理解し共感する能力は、あらゆるキャリアにおいて不可欠です。
11.5. 2025年のAI展望
ファトマ:最後の質問として、皆さんそれぞれに伺いたいと思います。2025年のAIについて、最も期待していることは何ですか?
Sam:科学的進歩に対する影響を挙げたいと思います。
Fola:科学的プロセスをAIシステムが支援する劇的な変化を目の当たりにしているところです。AIがどのように活用されるかについて、多くの興味深いことがあります。また、私はシステム開発の新しい展開にも非常に興奮しています。一般的に、AIとデータの分野の研究者として今は非常に刺激的な時代です。起業家精神のための機会も数多くありますし、AIがまだ進化している分野では深い基礎研究のための選択肢も豊富です。
多くの皆さんがこの取り組みにアカデミアや起業家として、あるいは産業界でも参加されることをぜひお勧めします。なぜなら、ここに未来があるからです。それが最も興奮することです。
Nicole:私たちは特にテックバイオや医療のユースケースに多く注目しています。体を理解し、よりよい治療法を作り出す方法を理解することは素晴らしいことだと思います。物流や製造業を組み合わせることも、非常に多くの素晴らしいことがあります。
基本的には、より深く掘り下げて、新しいビジネスの創造、新しいビジネスモデルの創造のコアに入り込むことです。テクノロジーとコア専門知識の交差点が本当にあるところでことを加速させることが重要だと思います。それが私たちがより多く見ていくことだと思いますし、知識検索システムからより本質的な部分に移行していくことで、それはいつも非常に刺激的です。
ファトマ:本当に素晴らしい未来の展望をありがとうございました。