※本記事は、本田技研工業株式会社が2025年1月8日にCES 2025にて発表した「Honda 0 シリーズ」および「ASIMO OS」に関する公式発表内容を基に作成されています。詳細な情報は公式サイト(日本語版:https://0.honda/jp/ 、英語版:https://0.honda/en/ )でご確認いただけます。なお、本記事の内容は公式発表を要約したものであり、詳細や正確な情報については必ず公式サイトをご確認ください。
1. Honda 0シリーズの概要
1.1. Honda 0 SALOONのプロトタイプ紹介
井上 勝史(Honda代表): 皆さん、ようこそ。本日ご紹介するHonda 0 SALOONは、0シリーズのフラッグシップとして位置づけられるプロトタイプモデルです。私たちは、昨年このCESの場で皆様にお約束した通り、コンセプトモデルの姿そのままの形でデザインを実現することができました。
特に注目すべきは、私たちが昨年発表した開発アプローチ"Thin, Light, and Wise"を忠実に具現化している点です。このアプローチを通じて、SALOONはHonda 0シリーズの先進性と革新性を体現する存在となっています。
私たちは、来年にはこのモデルを皆様にお届けできることに大変な期待を寄せています。市場投入に向けた準備は着実に進んでおり、このSALOONを通じて、Hondaが描く次世代モビリティの新しい価値を皆様に体験していただけることを大変楽しみにしています。
この車両は、単なる移動手段を超えた、新しいモビリティ体験を提供することを目指しています。SALOONという名前が示す通り、これは単なる自動車ではなく、移動するリビングルームとしての価値を持つ空間として設計されています。来年の市場投入に向けて、私たちはユーザーの皆様に新しいモビリティライフスタイルを提案できると確信しています。
1.2. "Thin, Light, and Wise"開発アプローチ
昨年、私たちはこのCESのステージで"Honda 0シリーズ"とその開発アプローチである"Thin, Light, and Wise"を発表しました。現在、自動車メーカー各社がいわゆる"SDV"(Software Defined Vehicle)としての価値を競う中で、私たちが0シリーズの価値を"Smart"ではなく、"Wise"と謳う意図について説明させていただきます。
それは「知能化」にあります。私たちが目指すのは、単なるスマート化ではなく、真の意味での知能化です。この違いは非常に重要です。現在の自動車業界では、多くのメーカーがSDVという概念のもと、車両のスマート化を進めていますが、私たちはそれとは異なるアプローチを選択しました。
「人間中心」というHondaのものづくりの基本思想に基づき、0シリーズではダイナミクスの微細な制御に至るまで、クルマがユーザーのことを考え尽くし、「超個人最適化」を実現します。これは単なる「スマート」な機能の集積ではなく、ユーザー一人一人に寄り添い、理解し、最適な体験を提供する「Wise」な存在としての価値提案です。
この「Wise」というコンセプトは、後ほど詳しくご説明するASIMO OSを通じて具現化されており、スマートフォンのように使えば使うほどパーソナライズされ、進化していく特徴を持っています。これこそが、私たちが考える次世代のモビリティの在り方であり、他社のSDVとの本質的な違いとなっています。
1.3. 「人間中心」の基本思想と超個人最適化
私たちHondaの基本思想は「人間中心」です。この思想は0シリーズにおいても決して変わることはありません。むしろ、より一層強化されたと言えます。私たちは、ダイナミクスの微細な制御に至るまで、クルマがユーザーのことを考え尽くし、「超個人最適化」を実現することを目指しています。
この「超個人最適化」という考え方は、従来の個人設定やカスタマイズとは一線を画すものです。0シリーズでは、スマートフォンのように、購入後もさまざまな機能が進化し続けます。さらに重要なのは、使えば使うほどパーソナライズが進み、ユーザー一人一人に最適化されていく点です。
私たちはこのような体験価値のコアとなるビークルOSを新たに開発しました。これについては後ほど詳しくご説明いたしますが、このシステムによって、クルマはユーザーの好みや使い方を学習し、より深いレベルでの個人最適化を実現します。これは単なる設定の保存や記憶ではなく、ユーザーの意図を理解し、先回りして最適な環境を提供する、まさに「Wise」な存在としての進化を可能にするものです。
このように、0シリーズにおける「人間中心」の思想は、テクノロジーを通じてより深化し、具現化されています。私たちは、この革新的なアプローチによって、モビリティの新しい価値を創造していきたいと考えています。
2. ASIMO OSの導入
2.1. ASIMOからの技術継承
井上: 私たちは、0シリーズが提供するWISE EXPERIENCEの中核となるビークルOSを開発しました。このOSに、私たちは特別な名前を付けることにしました。その名も「ASIMO OS」です。
皆さんはASIMOを覚えているでしょうか。ASIMOは、約20年前にここCESで皆様とお会いして以来、世界中の皆様から愛され、ロボティクスの象徴的存在となりました。私たちは、このASIMOの開発で培った技術、特に外界を認識したり、人の意図をくみ取って行動するという、ASIMOの「頭脳」とも言える技術を進化させ、0シリーズに確実に受け継いでいます。
ASIMOは単なるロボットではありませんでした。人との自然なコミュニケーションを実現し、人の意図を理解して適切に行動する、まさに「Wise」な存在でした。この技術的資産と哲学は、0シリーズにも深く組み込まれています。
私たちは、0シリーズもASIMOと同様に、世界中の皆様に驚きと感動を与え、次世代EVの象徴となることを目指しています。ASIMOが築いたレガシーは、新しい形で0シリーズに生まれ変わり、モビリティの未来を切り開いていくことになります。
2.2. 次世代EVの象徴としてのビジョン
ASIMOは世界中の皆様から愛され、ロボティクスの象徴的存在となりました。この世界的な認知度と信頼は、私たちにとって非常に重要な資産です。私たちは、ASIMOが築き上げたこの価値を0シリーズに引き継ぎ、さらに発展させていきたいと考えています。
ASIMOは外界を認識し、人の意図をくみ取って行動するという革新的な技術を持っていました。この技術は着実に進化を続け、現在の0シリーズに受け継がれています。私たちが目指すのは、ASIMOが実現した人との自然な対話や協調を、モビリティの領域で実現することです。0シリーズは、このASIMOの技術的遺産を受け継ぎながら、次世代EVの新しい象徴となることを目指しています。
私たちは、0シリーズもASIMOと同様に、世界中の皆様に驚きと感動を与えることができると確信しています。それは単なる移動手段としてのEVを超えた、知的で親しみやすい存在としての0シリーズの姿です。このビジョンを実現するため、私たちは次のセクションでご紹介するStephen Freyと共に、AIやOSの進化がもたらす新しい世界を創造していきます。
2.3. ビークルOSとしての進化
0シリーズに搭載されるASIMO OSは、スマートフォンと同様に、購入後もさまざまな機能が継続的に進化していく特徴を持っています。使えば使うほど、ユーザー一人一人の使い方や好みに合わせてパーソナライズされていく、これが私たちの目指すビークルOSの姿です。この体験価値のコアとなるOSをASIMO OSと名付けることで、ASIMOが持っていた人との自然なコミュニケーション能力や、状況を理解して適切に対応する知能を、車両システムとして進化させていきます。
私たちは特に、この体験価値に重点を置いています。これはただの機能追加ではなく、あなたの車が、あなたのことを理解し、あなたに寄り添うパートナーとして進化していくということです。
Stephen Frey: この先、私からASIMO OSやAIの進化がもたらす世界について、具体的にご説明させていただきます。特に、個人認証、感情・意図推定、シーン理解などの技術が、どのようにしてクロスドメインでパーソナライズされた価値を提供するのか、その詳細についてお話しさせていただきます。
このOSの革新性は、単なる機能の集積ではなく、それらを有機的に結合し、ユーザーにとって意味のある形で提供できる点にあります。私たちはこの技術を通じて、モビリティ体験の新しい形を提案していきたいと考えています。
3. 自動運転技術の進化
3.1. レベル3自動運転の実用化実績
Stephen Frey(Honda): 私からは、ASIMOのAIがもたらす自動運転技術の進化についてお話しさせていただきます。2021年に、Hondaは一定条件下でのアイズオフを可能とする運転自動化レベル3を世界で初めて実用化しました。これは皆様の記憶にも新しいことと思います。
このアイズオフの実用化は、私たちにとって大きな挑戦でした。なぜなら、これは私たちのAD(自動運転)システムが人の運転よりも安全であることを証明しなければならないという、非常に高いハードルを持つプロジェクトだったからです。
井上: そうですね。私たちが特に注力したのは、単に事故数を減らすということだけではありません。「人の運転であれば回避できた」というような事故は絶対に起こしてはならない、これが私たちの信念でした。
Stephen Frey: その通りです。実はこれこそが、レベル3からが真のADと定義される理由なのです。私たちは、このアイズオフ技術の信頼性こそが、交通事故死者ゼロという目標に繋がる道であると確信しています。
技術的な確立はできました。次の段階として、これをグローバルにスピーディに広げていく必要があります。そのためには、各地域の交通事情が異なる中で、自ら周囲の状況を認識・理解できるAIの開発が不可欠です。これについては、次にご説明するHelm.aiとの協業による深層学習技術が重要な役割を果たすことになります。
井上: 確かに、地域による交通環境の違いは大きな課題ですね。しかし、私たちのレベル3技術は、そういった多様な環境にも対応できるように設計されています。これこそが、私たちが世界初の実用化を達成できた理由の一つだと考えています。
3.2. Helm.aiとの協業による深層学習技術
Stephen Frey: ここで、私たちのパートナーであるHelm.aiのディープラーニング技術について紹介させていただきます。人は道路上の白線やロードマークだけを見て運転しているわけではありません。実は、周囲の建物や街路樹、さらには空のひらけ方なども見ながら、総合的に道の形を認識しているのです。
井上: その視点は非常に重要ですね。従来の自動運転システムは、主に白線や標識といった明確な指標に依存していましたが、人間の運転はもっと複雑で高度な認識を行っているということですね。
Stephen Frey: その通りです。しかし、これを実現する上で大きな技術的課題がありました。道路以外の周りのものは無数のパターンがあるため、すべてを個別に学習することは不可能なのです。そこで私たちは、Helm.aiと共に革新的なアプローチを開発しました。例えば、無数に種類があり、季節により姿が変わるような木も、一律に「街路樹」として抽象的に認識することで、効率的な学習を実現しています。
井上: つまり、人間の認知プロセスを模倣しつつ、より効率的なアルゴリズムを実現したということですね。これにより、初めて走る道路でも、たとえ白線が見えにくい状況でも、自動運転が可能になるわけです。
Stephen Frey: はい。0シリーズでは、このHelm.aiの叡智と私たちの技術を融合させることで、より人間に近い、しかし人間以上に安全な運転認識システムを実現しています。これは、私たちが目指す「Wise」な自動運転の重要な要素となっています。
3.3. 協調AIによる交通参加者との連携
Stephen Frey: このアイズオフ技術に加えて、0シリーズのADには、私たちが長年培ってきたヒトやモビリティの研究から得られた知見を活かした協調AIを投入しています。特に注目すべきは、人の運転でも難しいとされる周囲の交通参加者との「譲り合い」といった協調行動の精度を大幅に向上させている点です。
井上: そうですね。協調行動の実現は、自動運転における最も困難な課題の一つでした。特に、人間の運転者でさえ判断に迷うような複雑な交通状況での対応が重要です。
Stephen Frey: その通りです。例えば、都市部での並走車の無理な割り込みなど、「何が起きるかわからない」交通環境において、私たちは徹底的な開発を行いました。0シリーズのADは、このような熟練ドライバーでさえも気を遣うシチュエーションにおいても、確実な安全性を提供します。
井上: 具体的には、車線変更時の譲り合いや合流時の協調行動など、人間同士でも難しい判断が必要な場面での対応能力を向上させていますね。これは私たちの「Wise」という考え方の具現化とも言えます。
Stephen Frey: はい。特筆すべきは、この協調AIが単なるルールベースの判断ではなく、状況に応じて柔軟に対応できる点です。例えば、交通量や天候、時間帯などの様々な要因を考慮しながら、最適な協調行動を選択することができます。これにより、より自然で円滑な交通流を実現し、すべての交通参加者にとって安全で快適な移動環境を提供することが可能となりました。
4. 実際の走行シナリオ
4.1. 都市部での複雑な交通状況への対応
Stephen Frey: 実際の走行シナリオを通じて、0シリーズのADがどのように複雑な交通状況に対応するのか、具体的にご説明させていただきます。都市部での走行には、様々な予期せぬ状況が発生します。例えば、並走車の無理な割り込みは日常的に発生する事象の一つです。
井上: 確かにそうですね。「何が起きるかわからない」という不確実性が、都市部での自動運転の最大の課題でした。
Stephen Frey: その通りです。私たちは、この課題に対してあらゆる事象を想定した開発を行いました。具体的な例をお見せしましょう。車線も多く、クルマの他にもバイクや自転車、歩行者などが混在する複雑な道路状況での自動運転の様子をご覧ください。
私たちのシステムは、様々なセンサーを駆使して周囲の状況を正確に捉え、バイクや自転車の飛び出しをかわしながら左折し、さらに歩行者も検知してスムーズに走行することができます。このような複雑な交差点でも、車内では乗員の皆様は安心して会話を楽しむことができます。
井上: 工事現場への対応も重要なポイントですね。
Stephen Frey: はい。例えば、前方の車線を塞ぐ工事現場も、システムが事前に検知し、自動でハンドルを左に切るなど、適切な回避行動を取ることができます。これは単なる障害物回避ではなく、周囲の交通状況を総合的に判断した上での対応です。
このように、イレギュラーなシーンに対しても適切に対応できることが、私たちの技術の強みです。それは単なる反応的な回避行動ではなく、状況を予測し、最適な行動を選択する「Wise」な判断が可能となっているからです。
4.2. ハイウェイでの高度な自動運転機能
Stephen Frey: もちろん、ADは安心なだけでなく、快適なものでなければなりません。ハイウェイ走行時の質の高いADについてお話しさせていただきます。私たちのAD走行は、Hondaが長年培ってきたダイナミクス技術が基盤となっています。
井上: 特に渋滞時の対応は重要なポイントですね。多くのドライバーが苦手とする場面です。
Stephen Frey: その通りです。ハイウェイでの合流による渋滞発生時でも、私たちのシステムは滑らかな挙動制御で車線変更を実現します。さらに、路上に落ちているバーストしたタイヤのような障害物も確実に検知して回避することができます。これらの緊急回避が発生する状況でも、車内の快適性は損なわれることがありません。
井上: 複雑な分岐での対応も印象的ですね。従来のシステムでは難しいとされてきた場面です。
Stephen Frey: はい。前方の車を追い越すようにレーンチェンジをして加速し、さらに連続的なレーンチェンジを行うことで、度重なる複雑な分岐にも対応できます。ASIMO OSとAIにより、車内や外部環境を複合的に理解しながら走行するため、先ほど申し上げたタイヤのような落下物や動物の飛び出しなどで急な停止やレーンチェンジを行わなければならない時も、適切に対処することが可能です。
このように、私たちのシステムは予期せぬ状況でも常に最適な判断と制御を行い、乗員の安全と快適性を最優先に考えた走行を実現しています。
4.3. セカンドタスクを可能にする車内空間
Stephen Frey: これまでの自動車の歴史において、運転の主体は常に人でした。しかし、今私たちが実現しようとしているのは、その常識を覆す大きな変革です。運転主体が人からクルマに変わることで、全く新しい可能性が広がります。
井上: その通りですね。特に注目すべきは、移動中の時間の使い方が劇的に変わる点です。これまでは運転に集中しなければならなかった時間が、自由に使える時間に変わるわけです。
Stephen Frey: はい。例えば映画鑑賞やリモート会議など、これまでは考えられなかった「移動中のセカンドタスク」が可能となります。これこそが、レベル2とレベル3の間にある大きな価値の違いです。レベル2では常に運転への注意が必要でしたが、レベル3では真の意味で運転から解放されるのです。
井上: つまり、車内空間が単なる移動のための場所から、新たな活動の場へと進化するということですね。
Stephen Frey: その通りです。私たちHondaは、このアイズオフの適用範囲を全域に拡大することで、移動の新たな可能性を切り開いていきます。ユーザーは運転から解放され、移動時間を自分の望むように活用できる。これこそが、私たちが目指す次世代モビリティの姿です。移動時間が、より創造的で生産的な時間として活用できるようになるのです。
5. AI・センサー技術
5.1. セントラル型AIシステムの特徴
Stephen Frey: 0シリーズの空間価値は、従来の自動車とは全く異なる次元で進化します。20年代後半に投入する0シリーズでは、AIやECUの設計思想を大きく変革します。これまでの分散型から、個人認証、感情・意図推定、シーン理解など、様々な領域を束ねるセントラル型へと進化させます。
井上: つまり、これまでの個別最適化された各システムの統合ではなく、全く新しいアプローチを採用するということですね。
Stephen Frey: その通りです。クロスドメインでパーソナライズされた価値を提案できるようになります。例えば、車内外のカメラ・センサーを含む様々な車両データを活用し、クルマがリアルタイムで移動シーンを理解するのです。
井上: そうすることで、単なる機能の統合以上の価値が生まれるということですね。
Stephen Frey: はい。例えば、クルマが能動的に車内をコーディネートしたり、快適な乗り心地になるようダイナミクス制御を調整するようになります。このように、いつもあなたのドライブを楽しく快適にする価値を生み出すことができます。乗れば乗るほど愛着や信頼が増し、0シリーズをパートナーのように感じていただけるはずです。これこそが、私たちが目指すセントラル型AIシステムの真価です。
5.2. 個人認証・感情推定技術
Stephen Frey: 0シリーズのAIとセンサー技術の中でも、特に重要な機能が個人認証と感情・意図推定です。これらの技術により、クルマが乗員の状態を常に理解し、最適な対応を取ることが可能になります。
井上: これは私たちの「Wise」というコンセプトの重要な要素の一つですね。単なる認識だけでなく、乗員の感情や意図を理解することで、より深いレベルでの個人最適化が実現できます。
Stephen Frey: その通りです。車内外のカメラ・センサーを含む様々な車両データを活用して、個人認証だけでなく、乗員の感情状態や意図も推定します。例えば、疲労や集中力の低下といった状態も検知可能です。
井上: プライバシーの観点からも慎重な配慮が必要になりますね。
Stephen Frey: はい。感情・意図推定のためのデータ収集と活用については、最大限のプライバシー保護措置を講じています。収集したデータは車両内で処理され、必要最小限の情報のみが保存される仕組みとなっています。
これらの技術により、例えば運転中の疲労度に応じて座席ポジションやエアコンの設定を自動調整したり、乗員の気分に合わせて車内の雰囲気を変えたりすることが可能になります。つまり、クルマが乗員の状態を理解し、先回りして最適な環境を提供する、まさに「Wise」な存在として機能するのです。
5.3. リアルタイムシーン理解システム
Stephen Frey: 私たちのリアルタイムシーン理解システムは、車内外のカメラ・センサーを含む様々な車両データを総合的に活用し、クルマがリアルタイムで移動シーンを理解することを可能にします。これは単なるセンサーデータの収集ではなく、状況の包括的な理解と、それに基づく能動的な対応を実現するシステムです。
井上: 具体的に、どのような価値をユーザーに提供できるのでしょうか?
Stephen Frey: 例えば、クルマが周囲の状況を理解することで、能動的に車内環境をコーディネートすることが可能になります。さらに、乗り心地を最適化するためのダイナミクス制御の調整も、状況に応じてリアルタイムで行われます。これにより、常にドライブを楽しく快適なものにすることができます。
井上: つまり、外部環境と車内環境、そしてダイナミクス制御が一体となって、総合的な快適性を実現するということですね。
Stephen Frey: その通りです。このシステムにより、車両は単なる移動手段から、乗員の状態や周囲の環境を理解し、それに応じて最適な体験を提供するパートナーへと進化します。乗れば乗るほど愛着や信頼が増していくような、そんな存在を目指しています。これこそが、私たちが提案する「Wise」な車両の本質です。
6. ハードウェア開発
6.1. ルネサスとの半導体共同開発
Stephen Frey: 高度なWise価値を実現するためには、最先端のSoCが不可欠です。私たちが求めているのは単なる高性能なチップではありません。0シリーズのために100%の性能を引き出せるSoCが必要なのです。この実現に向けて、私たちは車載半導体の領域において、最高のパートナーであるルネサス社と共同開発契約を締結しました。
井上: ルネサスとは、私たちが運転自動化レベル3を実用化した際にも協業していましたね。今回、さらにパートナーシップを強化できることを嬉しく思います。
Vivek(ルネサス): 本日の0シリーズの発表、おめでとうございます。ルネサスがここにパートナーとして参加できることを大変嬉しく思います。
Stephen Frey: Vivekさん、ありがとうございます。私たちは0シリーズでモビリティの概念を変えようとしています。しかし、今日ご紹介したADや空間価値を実現するには、莫大な演算処理を低消費電力で実行できるSoCが必要となります。
Vivek(ルネサス): その通りですね。SDVのAI要求性能は、2030年に現在の500倍になると予測されています。同時に、SoCの消費電力を最小化するチャレンジにも挑まなければなりません。汎用SoCに0シリーズのAIソフトを搭載しようとしても、性能を十分に引き出せない現実があります。しかし、0シリーズのために専用設計すれば、演算能力と省電力性能を最大限引き出すことが可能になります。
6.2. 次世代SoCの性能目標
Vivek(ルネサス): ルネサスは最近発表した車載用のR-Car SoCにチップレット技術を適用しました。これにより、ルネサスのSoCをベースに、AIアクセラレータを追加することで、AI性能を最大限に拡張するカスタマイズが可能になります。
Stephen Frey: その技術は私たちのニーズにぴったりですね。具体的な性能目標について議論を重ねた結果、20年代後半に投入する次世代0シリーズのSoCには、世界最高クラスとなる2000TOPSレベルのAI処理性能と、20TOPS/Wという極めて高い電力効率を目標とすることで合意に達しました。
Vivek(ルネサス): はい。この超高性能なSoCの能力を最大限引き出すことで、ワンチップでAD、ダイナミクス、エネルギーマネジメントなどを実行し、0シリーズの魅力をさらに向上させることができます。
井上: このような高い目標値を掲げることができるのは、これまでの協業で培った信頼関係があってこそですね。
Vivek(ルネサス): その通りです。私たちとしても、SDVにおける真の要求を理解し、それに応える高性能なSoCを世に送り出していきたいと考えています。Hondaと共に、移動の未来を変える挑戦ができることに大変ワクワクしています。
Stephen Frey: このように、次世代SoCの開発を通じて、私たちの描く未来のモビリティの実現に向けた重要な一歩を踏み出すことができました。
6.3. TSMCの3nmプロセス技術活用
Vivek(ルネサス): この最新のSoCでは、TSMCの自動車向け最先端プロセスである3nmテクノロジを使用することで、消費電力を大幅に削減することが可能になります。3nmプロセスは、より小さなトランジスタでより高い性能を実現できる革新的な製造技術です。
Stephen Frey: 消費電力の削減は、EVの航続距離に直結する重要な要素ですね。特に高度な演算処理を行うAIシステムでは、消費電力の最適化が不可欠です。
Vivek(ルネサス): その通りです。さらに、私たちはチップレット技術を駆使することで、より柔軟なSoC設計が可能になりました。例えば、AIアクセラレータを必要に応じて追加することで、処理性能を大幅に向上させることができます。
井上: つまり、必要な機能を必要なだけ搭載できる、というわけですね。これは私たちの「Thin, Light, and Wise」というコンセプトにも合致します。
Vivek(ルネサス): はい。この技術の組み合わせにより、高い演算性能と低消費電力を両立しながら、0シリーズの要求に応じて最適化されたSoCを提供することが可能になります。これは従来の車載半導体では実現できなかった革新的なアプローチです。
7. 充電インフラストラクチャー
7.1. IONNAを通じた充電網構築計画
井上: Hondaが電動化に取り組む目的は、環境に負荷をかける事なく、自由な移動の喜びを提供することです。しかし現実には、「EVでの外出時、近くに充電施設がない、または充電器が壊れていたり、混雑していて充電できなかった」ということが、残念ながらまだよくある状況です。
私たちは「0シリーズユーザーが充電で困ることはない」、そんな世界の実現を目指しています。その実現に向けて、北米においては自動車メーカー8社で設立したジョイントベンチャー「IONNA」を通じ、2030年までに3万口の高品質な充電網を構築します。
このインフラ整備は、単なる数の問題ではありません。私たちは充電設備の品質管理を徹底し、常に利用可能な状態を維持することで、ユーザーの皆様に確実な充電機会を提供していきます。これは私たちが掲げる「人間中心」の思想を、充電インフラの面からも実現するものです。
7.2. Teslaスーパーチャージャーネットワークとの連携
私たちは、IONNAを通じた充電網の構築に加えて、Tesla社のスーパーチャージャーネットワークも利用可能とすることを決定しました。これにより、0シリーズユーザーは合計10万口以上の充電網を利用できるようになります。この規模の充電インフラは、ユーザーの皆様に大きな安心感を提供できるものと確信しています。
私たちの目標は、単に充電スポットの数を増やすことではありません。この広範な充電網を最大限に活用し、ユーザー一人一人にとって最適な充電体験を提供することです。Teslaのネットワークとの相互運用性を確保することで、ユーザーの皆様は場所や時間を問わず、必要な時に必要な充電を行うことができます。
これは0シリーズユーザーにとって、充電に関する不安を解消し、より自由な移動を実現する重要な一歩となります。私たちは今後も、充電インフラの拡充とサービス品質の向上を通じて、EVならではの新しい価値を提供し続けていきます。
7.3. AWSとの生成AI活用による充電体験最適化
この広い充電網を活用し、一人ひとりに最適な充電体験を提供する新たな充電ルートサービスの開発を進めています。私たちはHondaの知能化技術にAWSの生成AIなどの技術を組み込み、Honda 0シリーズや広い充電網から得られるデータを分析することで、充電設備の検索や支払いのシンプル化などの面で、一人ひとりにパーソナライズされた充電体験を提供していきます。
具体的には、0シリーズから得られる走行データ、充電履歴、ユーザーの利用パターンなどを総合的に分析し、それぞれのユーザーに最適な充電タイミングや場所を提案します。例えば、日常的な移動ルートや好みの施設との連携、利用頻度の高い時間帯など、ユーザー固有の行動パターンを考慮した充電プランを提供することが可能になります。
このサービスにより、従来のEVでしばしば課題となっていた充電に関する不安や煩わしさを解消し、より快適なEVライフを実現できると確信しています。私たちは今後も、このサービスの開発と進化に注力していきますので、ぜひご期待ください。
8. エネルギーマネジメント
8.1. 家庭充電ソリューション
井上: 全充電シーンの約8割を占めると言われる家庭充電において、私たちはEmporia社との技術開発を進めています。この協業を通じて、家庭での充電をより効率的かつ経済的なものにすることを目指しています。
具体的には、電気料金が安い夜間や、再生可能エネルギーを活用できる昼間の時間帯を賢く選んで充電を行い、電気代が高い時間帯には家庭向けに放電することで、電気代を削減することが可能になります。これは単なる充電の最適化だけでなく、家庭全体のエネルギーマネジメントの一部として機能するソリューションです。
また、私たちがHEVで長年培ってきたバッテリーマネジメント技術により、このような双方向の電力のやり取りによるバッテリーの劣化を最小限に抑制することができます。このように、家庭充電ソリューションは、ユーザーの利便性向上とコスト削減、そしてバッテリーの長寿命化を同時に実現する重要な技術となっています。
8.2. ChargeScapeを通じた新エネルギーサービス
私たちはBMW社、Ford社とのジョイントベンチャー「ChargeScape」を通じ、新たなエネルギーサービスを提供していきます。このサービスの特徴は、0シリーズを仮想発電所(VPP)として機能させ、ユーザー毎にパーソナライズされた充電計画を実行できる点にあります。
具体的なサービス内容として、電気代が安い夜間や、再生可能エネルギーを活用できる昼間の時間帯を賢く選んで充電し、電気代が高い時間帯には家庭向けに放電することで、電気代を削減することが可能になります。このように、ChargeScapeを通じて提供される新エネルギーサービスは、単なる充電サービスを超えて、家庭のエネルギーマネジメントまでを包括的にサポートします。
私たちは0シリーズの投入に合わせて、このエネルギーサービスの展開を加速していきます。BMWやFordといった強力なパートナーとの協業により、より多くのユーザーに価値あるサービスを提供できると確信しています。
8.3. VPP機能とバッテリーマネジメント技術
0シリーズは仮想発電所(VPP)として機能し、ユーザー毎にパーソナライズされた充電計画を実行します。具体的には、電気代が安い夜間や、再生可能エネルギーを活用できる昼間の時間帯を賢く選んで充電し、電気代が高い時間帯には家庭向けに放電することで、電気料金を削減することが可能です。
こうした双方向の電力のやり取りに関して、多くの方がバッテリーへの影響を懸念されるかもしれません。しかし、私たちがHEVで長年培ってきたバッテリーマネジメント技術により、劣化は最小限に抑制できます。このバッテリーマネジメント技術は、充放電のタイミングや電力量を最適に制御し、バッテリーの寿命を最大限に延ばすことを可能にします。
このように、私たちのVPP機能とバッテリーマネジメント技術の組み合わせにより、ユーザーの電気料金削減とバッテリーの長寿命化を両立させることができます。これは、0シリーズ投入に合わせて展開を加速していくエネルギーサービスの重要な要素となります。
9. 製品展開
9.1. Honda 0 SUVの発表
井上: さて、皆さんの多くは、このスペースにもう1台の0シリーズが来ることを待っていることでしょう。ここまで0シリーズのWiseを商品、生活の側面からお話してきましたが、最後に0シリーズの第1弾を紹介させていただきます。
こちらがHonda 0シリーズの第1弾、Honda 0 SUVです。来年前半より、ここ北米からグローバル市場に投入していきます。このモデルでは、Thin, Light, and WiseのアプローチをSUVに適用することで、空間の広さを一層拡張し、驚きの開放視界と、自由度の高い居住姿勢を実現しました。
このSUVは、0シリーズの価値をより多くの方々に体験していただくための重要な第一歩となります。SALOONと共に、来年にはこの2台をあなたの元へお届けできるようになります。0シリーズでは、本日ご紹介した"Wise"の力で、皆さんがワクワクするような、もっともっと移動したくなるようなエキサイティングな新価値を創出していきたいと考えています。
9.2. グローバル市場展開計画
Honda 0シリーズは、来年前半より、ここ北米市場からグローバル展開を開始します。私たちは、北米市場を0シリーズの重要な戦略拠点として位置づけており、この地域からの展開を通じて、私たちの新しいEVブランドとしての価値を確立していきたいと考えています。
北米市場では、IONNAを通じた充電インフラの整備やTeslaスーパーチャージャーネットワークとの連携など、充実したインフラストラクチャーを活かし、ユーザーの皆様に最高の電動化体験を提供していきます。また、ここでの成功を基盤として、順次他の地域への展開を進めていく予定です。
私たちは、この0シリーズを通じて、従来のEVの概念を超えた新しい価値を世界中のお客様にお届けしていきます。SALOONとSUVの2つのモデルを通じて、より多くの方々に私たちの考える次世代モビリティの価値を体験していただきたいと考えています。
9.3. 空間設計の特徴と居住性
私たちは、Thin, Light, and WiseのアプローチをSUVに適用することで、空間の広さを一層拡張することに成功しました。この設計アプローチにより、驚きの開放視界と自由度の高い居住姿勢を実現しています。特に視界の開放感は、従来のSUVの概念を覆すものとなっています。
これは単なるスペースの拡大ではありません。私たちは、空間そのものを移動体験の質を高めるための重要な要素として捉え直しました。特に、自由度の高い居住姿勢の実現は、セカンドタスクを可能にする車内空間という私たちのビジョンを具現化する上で重要な要素となっています。
この空間設計により、移動はより快適で創造的な時間となり、乗員一人一人がより自由に、より快適に過ごすことができます。これこそが、私たちが目指す次世代モビリティの姿なのです。ぜひCES2025でHonda 0シリーズをお楽しみください。