※本記事は、AWS re:Invent 2024で発表された「Integrating generative AI effectively into sustainability strategies (SUS205)」セッションの内容を基に作成されています。
セッションの録画は、YouTubeの公式AWSチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=8vAMOPLnN-w )でご覧いただけます。本記事では、セッションの内容を要約・再構成しております。
なお、本記事の内容は、発表内容を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの録画をご視聴いただくことをお勧めいたします。
最新のAWSイベント情報については、公式サイト(https://go.aws/3kss9CP )をご参照ください。また、より詳しい技術情報やアップデートについては、AWS公式YouTubeチャンネル(http://bit.ly/2O3zS75 )やAWSイベント関連動画(http://bit.ly/316g9t4 )もご活用ください。
1. イントロダクション
1.1 セッションの概要と登壇者紹介
本セッションは、生成AIの持続可能性戦略への統合に焦点を当てた講演です。このセッションでは、生成AIが環境データの分析から新しい設計のシミュレーション、製品ライフサイクルの評価まで、持続可能性プログラムをどのように支援できるかを具体的に解説します。
登壇者は以下の3名です:
Rahul Sareenは、AWSのグローバルクロス業界・サステナビリティソリューションのリーダーとして、クラウドと新興技術を活用したソリューション構築を支援しています。データ、AI、機械学習を通じて、さまざまな業界の顧客が直面する課題の解決に取り組んでいます。
Paolo Moncoresは、Mercado Diferenteの共同創設者兼CTOとして、ブラジル初のこのセッションでの登壇を果たしました。同社は食品廃棄物削減に取り組むスタートアップとして、生成AIを活用した革新的なソリューションを展開しています。
Biancaは、AWSのスタートアップ担当ソリューションアーキテクトとして、特にMercado Diferenteの技術的な課題解決を支援しています。アーキテクチャの設計から具体的な実装まで、包括的な技術支援を提供しています。
本セッションの目的は、Amazon Bedrockを活用した実際の成功事例を通じて、生成AIの持続可能性戦略への効果的な統合方法を共有することです。特に注目すべき事例として、AWS顧客であるMercado Diferenteが月間35トンの有機食品廃棄物を削減した具体的な取り組みを紹介します。このセッションでは、生成AIの基礎から組織の目標との整合性確保まで、実践的な知見を提供します。
1.2 生成AIと持続可能性の統合に関する現状
Rahul Sareen:私たちは多くの業界の顧客と協働する中で、共通の課題に直面しています。多くの企業が「持続可能性への取り組みの必要性は理解しているが、どのように始めればよいのかわからない」と話します。特に、テクノロジーを持続可能性戦略にどのように統合すべきかという点で悩んでいます。そこで私たちは、顧客が新興テクノロジーを効果的に活用できるようにするためのベストプラクティスとブループリントの作成に取り組んでいます。
Paolo Moncores:その通りですね。私たちMercado Diferenteの経験からも、持続可能性の分野は現在大きなデジタルトランスフォーメーションの波の中にあると感じています。これまで多くの組織が持続可能性報告やその実践を手作業で行ってきました。Excelファイルを使用する程度の非常にマニュアルな方法でした。しかし今、この分野は本格的なデジタル化の段階に入っています。
Rahul Sareen:その通りです。そして今、生成AIがこの変革を加速させる可能性を秘めています。特に注目すべきは、生成AIが業界を問わず革新的な変化をもたらしている点です。例えば昨日のセッションでは、NASDAQが生成AIを活用して、炭素排出量やバリューチェーンなどのサステナビリティパラメータに基づくリスクプロファイルスコアを構築した事例が紹介されました。また、農業や海上輸送の分野でも、生成AIを活用して複雑な課題に取り組む革新的な事例が出てきています。
Paolo Moncores:私も同感です。特にデータの課題は重要ですね。生成AIアプリケーションを構築する際には、適切なデータ入力が不可欠です。「garbage in, garbage out」という言葉があるように、質の高いデータなしには、効果的な生成AIアプリケーションは構築できません。これは持続可能性の分野で特に重要な課題となっています。
Rahul Sareen:そうですね。ただし、課題はありますが、生成AIは確実に変革をもたらしています。例えば、製造業では製品設計の時間を大幅に短縮し、レジリエンスや持続可能性を考慮した設計が可能になっています。また、PDFドキュメントの処理やウェブスクレイピングなどの業務効率化でも、生成AIは大きな成果を上げています。持続可能性への取り組みが本格的なデジタルトランスフォーメーションを迎える中で、生成AIはその重要な推進力となっているのです。
2. 生成AIの持続可能性への応用
2.1 業界横断的なイノベーション機会
Rahul Sareen:生成AIは、業界を問わず広範なイノベーションの機会を生み出しています。特に私たちが注目しているのは、コード生成と最適化における活用です。多くの顧客が生成AIを活用して、より良いコードをより速く書き、製品リリースのサイクルを加速させています。
Paolo Moncores:その通りですね。Mercado Diferenteでも、生成AIによってユーザー体験が劇的に改善されました。以前は顧客が問題を抱えた際、カスタマーサービスに電話をかけ、何度も同じ情報をやり取りする必要がありました。これは非常に時間がかかるプロセスでした。
Rahul Sareen:その問題は多くの企業が抱えていましたね。生成AIの導入によって、カスタマーサービスの応答時間が大幅に短縮され、よりパーソナライズされた対応が可能になりました。また、製造業における製品開発でも革新的な変化が起きています。従来、製品設計には膨大な時間とシミュレーションが必要でした。
Paolo Moncores:私たちの経験からも、生成AIによって製品開発のプロセスが大きく変わりました。特にレジリエンスや持続可能性を考慮した設計において、生成AIは大きな価値を提供しています。以前は何度も試行錯誤が必要でしたが、今ではより迅速に最適な設計に到達できます。
Rahul Sareen:さらに、生産性向上の面でも顕著な成果が出ています。例えば、多くのPDFドキュメントの処理や文脈理解、ウェブスクレイピングなどの作業で、生成AIは大きな効率化をもたらしています。特に注目すべきは、これらの改善が単なる効率化だけでなく、より深い洞察や新しい可能性の発見にもつながっている点です。
Bianca:技術的な観点からも、生成AIの活用は従来のワークフローを根本的に変革しています。特に、複雑なデータ分析や予測モデリングにおいて、生成AIは人間の意思決定を支援し、より正確で迅速な判断を可能にしています。
Rahul Sareen:そうですね。これらの変革は、持続可能性への取り組みを加速させる重要な要素となっています。特に、データ駆動の意思決定とプロセスの最適化により、企業は環境負荷を削減しながら、ビジネスパフォーマンスを向上させることができるようになっています。
2.2 ESGワークフローにおける生成AIの活用事例
Rahul Sareen:ESGワークフローにおける生成AIの活用は、従来の課題に対する革新的な解決策を提供しています。私たちが観察している典型的なESGワークフローには、市場トレンド分析、リスク評価、データ収集・検証、データ分析、そしてレポーティングという一連のプロセスがあります。生成AIは、これら全ての段階で重要な改善をもたらしています。
Bianca:その通りですね。特に市場トレンド分析において、生成AIは膨大なデータから意味のあるパターンを抽出し、分析を要約する能力を発揮しています。これにより、アナリストの作業効率が大幅に向上していると聞いています。
Rahul Sareen:そうですね。さらに重要なのはESGコンプライアンスへの対応です。現在、規制環境は月単位で変化しており、各業界が独自の規制や基準を設定しています。例えば、TCFDに準拠したレポーティングを行っている企業が、EUのCSRD(企業持続可能性報告指令)に対応しなければならない場合、その違いを理解し適応することが大きな課題となっています。
Paolo Moncores:私たちの顧客でも同様の課題を抱えていますね。各規制フレームワークは、同じデータでも異なる形式での報告を要求することが多く、その対応に苦慮しています。
Rahul Sareen:そこで注目すべきなのが、生成AIを活用したチャットボットの活用です。企業は現在のレポートをアップロードし、新しい規制要件(例えばCSRD)との比較を行い、データギャップを特定できるようになっています。これにより、従来であれば数ヶ月かかっていた規制要件の分析が、大幅に効率化されています。
Bianca:技術的な観点から見ると、このようなチャットボットの実装には高度な自然言語処理と文書理解能力が必要です。私たちはAmazon Bedrockを通じて、これらの機能を効率的に提供できるようになっています。
Rahul Sareen:その通りです。例えば、ある顧客は生成AIを活用して、複数の規制フレームワーク間の要件マッピングを自動化しました。これにより、コンプライアンス対応の時間を約70%削減できたと報告しています。このような効率化は、企業がより本質的なESG活動に注力できる環境を作り出しています。
2.3 実装における運用上の課題と解決策
Rahul Sareen:生成AIの実装において、最も重要な課題の一つはデータ品質です。技術者なら誰もが知っている「garbage in, garbage out」の原則は、生成AIにおいて特に重要です。堅牢な生成AIアプリケーションを構築するためには、適切な入力データが不可欠なのです。
Paolo Moncores:その通りですね。私たちMercado Diferenteでは、特に持続可能性に関するデータ収集で苦労しました。例えば、サプライヤーからのデータは手書きのメモ、PDFドキュメント、燃料の領収書など、さまざまな形式で入ってきます。このような非構造化データをどのように処理するかが大きな課題でした。
Bianca:テクノロジー統合の観点からも重要な指摘ですね。データは多くの場合、ERPシステムやサプライヤーのシステムなど、世界中に分散したさまざまなソースから収集する必要があります。私たちはゼロETLの考え方に基づいたデータパイプラインの構築を推奨しています。
Rahul Sareen:そうですね。スケーラビリティの確保も重要な課題です。POC(実証実験)から本番環境への移行時に、どのようにしてビジネス全体にスケールさせるかという問題に多くの企業が直面しています。特に持続可能性の分野では、データ量が急速に増加する傾向にあります。
Paolo Moncores:私たちの経験では、データガバナンスの重要性も見逃せません。例えば、財務データを含む持続可能性レポートを作成する際、適切なアクセス制御が不可欠です。すべてのビジネスステークホルダーがデータにアクセスする必要がありますが、機密性の高い財務データへのアクセスは制限する必要があります。
Rahul Sareen:その通りです。多くの顧客が残念ながらデータガバナンスに十分な注意を払っていません。包括的なプラットフォームを構築する際には、データの保存や照会だけでなく、ガバナンス、系統、アクセス制御などの要素も考慮する必要があります。
Bianca:技術的な観点から見ると、これらの課題に対する解決策として、強力なデータ基盤の構築が不可欠です。構造化データ、非構造化データ、ベクターデータを効率的に処理できる包括的なプラットフォームを構築することで、これらの課題に対応できます。私たちは、顧客の持続可能性戦略に生成AIを統合する際に、これらの要素を常に考慮に入れています。
3. Mercado Diferenteのケーススタディ
3.1 会社概要と市場課題
Paolo Moncores:まず、Mercado Diferenteが存在する理由についてお話しさせてください。私たちは一見、単なるオンラインの食料品店に見えるかもしれません。しかし、私たちのミッションは他の食料品店とは全く異なります。私たちの目的は、健康的な食品をより多くの人々が入手しやすくすること、そして食品廃棄物と戦うことです。
Rahul Sareen:ブラジルの食品市場の規模について教えていただけますか?
Paolo Moncores:ブラジルの食料品市場は2000億規模の巨大な市場です。特筆すべき点として、ブラジルの家庭の82%が毎日調理をする習慣があります。この数字は、なぜMercado Diferenteが存在する必要があるのかを示す重要な指標です。人々は毎日の調理のために、新鮮で健康的な食材を必要としているのです。
しかし、ここで深刻な問題が存在します。ブラジルでは生産される食品の30%が直接廃棄されているのです。その主な理由は、従来の食料品店が形や大きさを理由に商品を購入しないことにあります。彼らは「売るのが難しい」と言いますが、これらの商品は十分に食用可能なのです。
さらに、ブラジルでは「オーガニック食品は富裕層のためのもの」という考え方が根強く残っています。サプライチェーンの非効率性や、形状・サイズの問題により食品が廃棄され、人々が良質な食品にアクセスできないという現状は、信じがたい矛盾です。これが、Mercado Diferenteが従来とは異なるオンラインショップとして存在する理由なのです。
Bianca:御社のアプローチは、市場の重要な課題に効果的に対応していますね。特に、毎日調理をする家庭が多いという特徴を活かしたビジネスモデルは興味深いです。
Paolo Moncores:はい。私たちは新鮮な食材のみを扱っています。果物、野菜、スパイス、穀物が中心で、卵や牛乳などの補完的な商品も提供していますが、すべて地元の生産者から高品質なものを、より手頃な価格で提供することにこだわっています。これによって、ラテンアメリカにおける食品アクセスの課題に取り組んでいます。
3.2 食品廃棄物削減への取り組み
Paolo Moncores:Mercado Diferenteの最も革新的な点は、お客様が購入する生鮮食品を自分で選ばないということです。私たちは機械学習アルゴリズムを開発し、これによって各顧客に最適な商品の組み合わせを提案しています。具体的には、ウェブサイトでの会員登録時に、顧客の好み、制限事項、週間での調理目標などを理解するためのクイズ形式の体験を提供しています。この情報に基づいて、完璧な商品の組み合わせを構築しています。
Bianca:その戦略は非常に興味深いですね。従来の食料品店との大きな違いは何でしょうか?
Paolo Moncores:私たちは単に商品を販売することを目的としているのではなく、継続的な関係を構築することを重視しています。そのため、サブスクリプションモデルを採用しています。このアプローチにより、より良い価格設定が可能になり、顧客の行動をより深く理解することができます。
Rahul Sareen:具体的な成果について教えていただけますか?
Paolo Moncores:この3年間で、私たちは53の都市で50万箱以上の配送を達成し、テクノロジーを活用して36トン以上の食品廃棄物を削減することに成功しました。特に、形状や大きさが理由で従来の流通経路では販売できなかった食品を、効果的に消費者に届けることができています。
Bianca:機械学習アルゴリズムの精度向上により、廃棄物削減の効果は着実に上がっていますね。このシステムは、個々の消費者の購買パターンを学習し、より正確な予測を可能にしています。
Paolo Moncores:その通りです。さらに重要なのは、このシステムによって私たちは需要と供給のバランスをより正確に予測できるようになったことです。生産者との関係も強化され、収穫から配送までのサプライチェーン全体の最適化が実現しています。これは単なる廃棄物削減だけでなく、より持続可能なフードシステムの構築につながっています。
3.3 Tediプロジェクトの開発背景と成果
Paolo Moncores:Tediプロジェクトの開発は、お客様からの具体的なフィードバックがきっかけでした。多くのお客様から「週一回の配送を隔週に変更したい」という声が寄せられ始めました。その理由は、商品の使い方がわからない、保存方法がわからない、料理の仕方がわからないというものでした。
Rahul Sareen:具体的にどのような顧客の声があったのでしょうか?
Paolo Moncores:例えば、お客様からは「これは何ですか?」「どうやって調理すればいいですか?」「どうやって保存すればいいですか?」「これは食べても大丈夫ですか?」「レシピを提案してもらえますか?」といった問い合わせが顧客サポートに殺到していました。ここに大きな機会があることに気づき、当社はスピンオフとしてTediを立ち上げることを決定しました。
Bianca:その結果、具体的にどのような改善が見られましたか?
Paolo Moncores:最も顕著な成果は、チャーン率の15%削減です。この改善は、お客様の行動パターンに大きな変化が見られたことを示しています。特に注目すべきは、隔週配送から週次配送に戻るお客様が増加したことです。これは、Tediを通じて商品についての理解が深まり、より効果的に使用できるようになったことを示しています。
Rahul Sareen:購買行動の変化について、もう少し詳しく教えていただけますか?
Paolo Moncores:はい。Tediの導入により、お客様はより情報に基づいた購買決定ができるようになり、よりエンゲージメントが高まりました。例えば、食材の写真を送って「これはまだ食べられますか?」と質問したり、「これを使った料理のアイデアはありますか?」と相談したりする行動が増えました。このような双方向のコミュニケーションにより、お客様は商品をより効果的に活用できるようになり、結果として購買頻度の増加につながっています。さらに、このような変化は食品廃棄物の削減にも貢献しており、サステナビリティの観点からも重要な成果となっています。
4. AIキッチンアシスタント「Tedi」の技術実装
4.1 WhatsAppを活用したユーザーインターフェース設計
Paolo Moncores:私たちがTediを開発する際、ユーザーインターフェースとしてWhatsAppを選択した理由は明確でした。ラテンアメリカにおいて、WhatsAppは単なるメッセージアプリ以上の存在です。ブラジルでは、公式・非公式を問わず、ほぼすべての用事をWhatsAppで済ませることができる「スーパーアプリ」となっています。
Bianca:新しいアプリを開発する選択肢もあったと思いますが、なぜWhatsAppだったのでしょうか?
Paolo Moncores:私たちは摩擦を減らしたかったのです。ユーザーはすでに十分な数のアプリを持っています。そこで、「WhatsApp上で、LLMの会話機能を活用して、人々のポケットの中で食品の節約方法や、より良い調理計画の立て方をサポートしよう」と考えました。
Rahul Sareen:具体的な対話設計について、もう少し詳しく説明していただけますか?
Paolo Moncores:はい。例えば、ユーザーは「トマト、レタス、チキンがあるのですが、何か作れるアイデアはありますか?」と質問できます。また、「今夜4人の友人が来るので、パスタと肉を使って何か作りたい」といった相談もできます。さらに革新的な機能として、冷蔵庫の写真を撮って「何か作れるアイデアを提案してください」と尋ねることもできます。
Bianca:画像認識機能の実装は技術的に興味深い挑戦だったのではないですか?
Paolo Moncores:その通りです。特に形や大きさが不揃いな商品について、「これはまだ食べられますか?」「この食材の適切な保存方法は?」「これを使ったレシピのアイデアはありますか?」「この食材のカロリーはどのくらいですか?」といった質問に対応できるようにしました。これにより、ユーザーは自分が消費している食材についてより深く理解できるようになりました。
この機能の実装には課題もありましたが、AWSのサポートとテクノロジーを活用することで、ユーザーフレンドリーかつ信頼性の高いシステムを構築することができました。
4.2 地域特性を考慮したパーソナライゼーション戦略
Paolo Moncores:「では、単にLLMを使っているだけではないのか?」とよく質問されますが、Tediの真の強みはパーソナライゼーションと地域性への対応にあります。ブラジルは広大な国で、南部に住む人々と北東部に住む人々では、全く異なる食習慣を持っています。私たちのモデルは、地域ごとの特性を考慮してレシピや提案を調整しています。
Bianca:その地域特性の違いをどのように技術的に実現しているのでしょうか?
Paolo Moncores:私たちは膨大なデータベースを構築し、地域ごとの食材の使い方や調理法のパターンを学習させています。例えば、同じ食材でも地域によって調理法や組み合わせが大きく異なります。これらの違いを理解し、適切なレシピを提案することが重要です。
Rahul Sareen:個人の好みや制限事項についてはどのように対応していますか?
Paolo Moncores:各ユーザーの食事制限、アレルギー、好み、そして食事の目的(例:低炭水化物食)などを詳細に把握しています。例えば「低炭水化物食を実践していて、これらの制限がある」というリクエストに対して、パーソナライズされたレシピを提供できます。これは単なる一般的なレシピ提案ではなく、ユーザーの具体的なニーズに応じたカスタマイズされた提案となっています。
Bianca:そのパーソナライゼーションは、Mercado Diferenteのサービスとどのように連携しているのでしょうか?
Paolo Moncores:例えば、ユーザーは音声で「次回の注文に卵を追加して」「次回はイチゴは不要」「ブドウをもっと入れて」などと簡単に注文を調整できます。さらに、冷蔵庫を開けて「次の注文にチキン、これとこれを含めて」と言うだけで注文が完了します。このように、ユーザーはTediを通じて食事プランを作成し、そこから買い物リストを生成し、Mercado Diferenteで直接注文することができます。これらすべてが生成AIの力を活用して実現されています。
4.3 導入後4週間の実績データ
Paolo Moncores:2023年8月にTediを立ち上げてから最初の4週間のデータをお共有したいと思います。私たちは非常に興味深い結果を得ることができました。4週間で70万件以上のメッセージのやり取りがあり、レシピのリクエストや食事プランの作成、食材の代替に関する質問など、多岐にわたる相談が寄せられました。
Rahul Sareen:そのメッセージ数は予想していた範囲内でしたか?
Paolo Moncores:実は私たちの予想をはるかに超えていました。特筆すべきは、6万人以上のユーザーが短期間でTediを利用し始めたことです。さらに重要なのは、エンゲージメントの質です。71%のユーザーが週に5回以上Tediと対話しているのです。これは私たちが、ブラジルの家庭が抱える「何を料理するか」という日々の課題に対して、実際に価値のあるソリューションを提供できていることを示しています。
Bianca:特に印象的なユーザー行動のパターンはありましたか?
Paolo Moncores:はい。特に積極的に利用しているユーザーは週に20回以上Tediとやり取りしています。これは、Tediが単なるレシピ提案ツールではなく、より良い食事計画を立てるためのバックボーンとして機能していることを示しています。4週間という短期間で、ブラジルの家庭における食事の計画と食品廃棄物の削減という課題に対して、具体的な解決策を提供できていることが確認できました。
Rahul Sareen:これらの数字は、サステナビリティの観点からも意義深いものですね。
Paolo Moncores:その通りです。また、Mercado Diferenteの顧客行動にも良い変化が見られ、隔週配送から週次配送への回帰が増加しています。これは、ユーザーがより情報に基づいた意思決定ができるようになり、より効果的に食材を活用できるようになった証拠だと考えています。
5. アーキテクチャ設計と技術的考察
5.1 Amazon Bedrockを活用したモデル選択と統合
Bianca:Mercado Diferenteの技術アーキテクチャについて、特にAmazon Bedrockの活用方法を説明させていただきます。まず強調したいのは、Bedrockが単一のAPIを通じて市場をリードする複数のファンデーションモデルへのアクセスを提供している点です。これにより、ユースケースに応じて最適なモデルを柔軟に選択することが可能になっています。
Paolo Moncores:具体的にBedrockをどのように活用していますか?
Bianca:例えば昨日のキーノートでも発表がありましたが、Bedrockは継続的に新機能を追加しています。現在、AI21 Labs、Amazon Titan、Anthropic、Meta、Cohereなど、さまざまなモデルを選択できます。テキストのみのモデルから画像生成まで、用途に応じて最適なものを選べる柔軟性が大きな利点です。
Rahul Sareen:セキュリティとプライバシーの観点はどのように考慮されているのでしょうか?
Bianca:Bedrockには、モデルのカスタマイズ機能が組み込まれています。例えば、ファインチューニングやRAG(Retrieval-Augmented Generation)の実装が可能で、ナレッジベース機能を通じてRAGを簡単に実現できます。さらに、セキュリティとプライバシー、データガバナンスに関する機能も標準で提供されています。
Paolo Moncores:私たちの場合、特にWhatsApp経由のメッセージ処理において、Bedrockは重要な役割を果たしています。メッセージの意図を理解し、適切な処理パスを決定する部分で、Anthropicのモデルを活用しています。また、レシピ生成においてはAmazon Titanモデルを使用して、視覚的な要素も含めた総合的な応答を生成しています。
Bianca:その通りです。Bedrockの特長は、APIを通じてこれらの機能を統合的に提供できる点にあります。また、エージェント機能を使用することで、特定のプロンプトに基づいてAPIを呼び出したり、AWS上の特定のプロセスを実行したりすることも可能です。これらの機能を組み合わせることで、セキュアで効率的なシステムを構築できています。
5.2 データの差別化戦略
Bianca:生成AIアプリケーションにおいて、データは真の差別化要因となります。私たちが推奨する差別化戦略には、主に4つのアプローチがあります。一つ目はプロンプトエンジニアリングです。これは基盤モデルから最も効果的な回答を得るためのプロンプトを設計する手法です。一見シンプルに見えるかもしれませんが、実際の影響は非常に大きいものです。
Paolo Moncores:確かに、Mercado Diferenteでも、プロンプトの設計には特に注力しています。モデルへの問いかけ方によって、得られる結果が大きく変わってきますからね。
Bianca:二つ目のアプローチが、RAG(Retrieval Augmented Generation)です。これは基盤モデルを再学習させるのではなく、コンテキストを追加することでプロンプトを強化する方法です。この方法により、モデルはビジネスの文脈をより深く理解し、より適切な回答を提供できるようになります。Mercado Diferenteも、頻出の質問に対する回答でこの手法を活用していますね。
Paolo Moncores:はい、その通りです。特に食品に関する専門的な知識や、地域特性に関する情報を提供する際に、RAGは非常に効果的です。
Bianca:そして三つ目と四つ目のアプローチが、ファインチューニングと継続的な事前学習です。これらは基盤モデルを新しいデータセットで再学習させ、より専門的なモデルへと進化させる方法です。汎用的なモデルが、あなたのビジネスについて実際に知識を持つ、特殊化された基盤モデルへと変わるのです。
Rahul Sareen:これらの手法の使い分けについて、何か指針はありますか?
Bianca:はい。私たちの経験では、まずプロンプトエンジニアリングとRAGから始めることをお勧めします。これらは比較的実装が容易で、早期に効果を確認できます。その後、必要に応じてファインチューニングや継続的な事前学習を検討するというアプローチが効果的です。ただし、どの手法を選択する場合でも、質の高いデータの存在が前提となります。
Paolo Moncores:その通りですね。私たちの場合、レシピや食材に関する独自のデータベースがあったことが、これらの手法を効果的に活用できた大きな要因でした。
5.3 マイクロサービスアーキテクチャの実装詳細
Bianca:Mercado DifferenteのTediシステムの全体的なアーキテクチャについて説明させていただきます。基本的なフローとして、ユーザーがWhatsAppを通じてメッセージを送信すると、それはまずAmazon EKS上で動作するTediのバックエンドエンドポイントに到達します。EKSは管理されたKubernetesクラスターを提供するサービスで、私たちはこれを使ってバックエンドシステムを運用しています。
Paolo Moncores:メッセージの処理フローについて、もう少し詳しく説明していただけますか?
Bianca:はい。まず、メッセージを受け取ると、システムはそれがテキスト、音声、画像のいずれであるかを分析します。その後、Amazon Bedrockを使用して、具体的にはAnthropicのClaude Sonnetモデルを利用して、メッセージの意図を理解します。例えば、新しいレシピの要求なのか、プロフィール設定の更新なのか、食事の好み設定の変更なのかを判断します。
Rahul Sareen:ベクトルデータベースの役割についても教えていただけますか?
Bianca:私たちはAmazon OpenSearchを使用してベクトルデータベースを実装しています。例えば、レシピ生成のケースでは、レシピの情報や生成された画像をS3のレシピバケットに保存すると同時に、OpenSearchにもベクトル化して保存します。これにより、同じレシピのリクエストが来た場合、プロセス全体を再実行する必要なく、既存のデータを効率的に再利用できます。
Paolo Moncores:また、頻出の質問に対する回答では、Amazon Bedrockのナレッジベース機能を活用していますね。これはOpenSearch上のベクトルデータベースと連携して、RAG戦略を実装しています。
Bianca:その通りです。さらに、他のアプリケーションとの連携も重要です。例えば、プロフィール更新のリクエストが来た場合、Claudeが意図を認識した後、Amazon EKS上で動作するTediコアシステムのAPIを呼び出します。この部分ではBedrockのエージェント機能を使用して、複数のAPIコールやプロセスを適切に orchestrate しています。このように、マイクロサービスアーキテクチャの利点を活かしながら、柔軟で拡張性の高いシステムを実現しています。
6. 持続可能性のための生成AI導入ガイドライン
6.1 高インパクトな機会の特定方法
Bianca:生成AIの学習について、多くの顧客が「自社のビジネスにどのように適用できるか」「どこから始めればよいのか」と悩んでいます。ここで重要なのは、インパクトの高い機会を特定することです。
Rahul Sareen:具体的にはどのような観点で機会を評価すべきでしょうか?
Bianca:機会の評価は、内部と外部の両方の視点から行う必要があります。内部的には、業務効率化や生産性向上の機会を探ります。外部的には、市場の課題解決や顧客体験の向上に注目します。重要なのは、必ずしも大きな市場の問題である必要はないということです。
Paolo Moncores:その通りですね。私たちの経験からも、まず具体的なインパクトが見込める領域に焦点を当てることが重要です。例えば、私たちは「冷蔵庫の盲目性」という具体的な問題から始めました。
Bianca:優先順位付けの基準として、特に重視すべきは、その課題が顧客や企業に与える実際の影響度です。業界特有の課題であっても、より単純な課題であっても、実際のインパクトを基準に選定することが重要です。
Rahul Sareen:スモールスタートの重要性について、もう少し詳しく説明していただけますか?
Bianca:はい。大切なのは、素早くテスト可能で実現性があり、かつインパクトのある使用事例から始めることです。必ずしも大きなソリューションや市場の問題である必要はありません。小さく始めて、そこからソリューションを拡大し、より大きなインパクトを目指していく戦略が効果的です。
Paolo Moncores:Mercado Diferenteでも同様のアプローチを取りました。最初はWhatsApp上の単純なレシピ提案から始めて、徐々に機能を拡張していきました。このアプローチにより、早期に価値を検証しながら、確実に成長させることができました。
6.2 適切なツール選択の基準
Bianca:適切なツールを選択する際の基準について、特に重要な点を共有させていただきます。まず、ツールの柔軟性を評価する必要があります。ニーズの変化に応じて、どの程度適応できるのか、カスタマーのニーズが変化したときにどう対応できるのかを考慮する必要があります。
Paolo Moncores:柔軟性の具体例として、私たちのケースを共有できますか?
Bianca:はい。例えば、特定のツールやサービスを選択する際は、将来の要件変更や顧客ニーズの変化に対応できる柔軟性を重視しました。プライバシーとガバナンスの観点も極めて重要です。データの取り扱いや、アクセス制御、セキュリティに関する機能が十分に備わっているかを慎重に評価する必要があります。
Rahul Sareen:スケーラビリティの確保について、具体的にどのような点に注意すべきでしょうか?
Bianca:スケーラビリティに関しては、単にシステムの拡張性だけでなく、ビジネス全体の成長に対応できるかという観点が重要です。たとえば、新しい地域への展開や、新機能の追加、ユーザー数の増加などに柔軟に対応できる必要があります。
Paolo Moncores:その通りです。私たちの経験からも、初期の段階で適切なツールを選択することの重要性を実感しています。例えば、Amazon Bedrockの選択は、プライバシー、ガバナンス、スケーラビリティのすべての面で私たちのニーズに合致していました。
Bianca:また、ツールの選択は、その位置付けに関しても考慮が必要です。例えば、プライバシーやガバナンスに関する機能が、後付けではなく、設計の段階から組み込まれているかどうかも重要な評価基準となります。
6.3 実装における推奨ステップと注意点
Bianca:実装を成功させるための推奨ステップをご紹介します。まず重要なのは、迅速な実行です。テスト可能で実現可能な使用事例から始めることで、早期に価値を検証することができます。必ずしも完璧なソリューションである必要はありません。小さく始めて、そこから拡大していく戦略が効果的です。
Paolo Moncores:その通りですね。私たちの経験からも、迅速な実行の重要性を強く感じています。Tediの開発では、まず基本的な機能から始めて、ユーザーの反応を見ながら段階的に機能を拡充していきました。
Bianca:次に重要なのは、カスタマイズ戦略です。データは生成AIアプリケーションにとって極めて重要な差別化要因となります。適切なデータパイプラインを構築し、質の高いデータを確保することで、より効果的なソリューションを構築できます。
Rahul Sareen:アーキテクチャ全体の最適化について、具体的な注意点はありますか?
Bianca:はい。生成AIについて議論する際、ついAIの部分に注目が集まりがちですが、アーキテクチャ全体の最適化も同様に重要です。セキュリティ機能、データのプライバシー、高可用性の確保など、インフラ全体の設計に十分な注意を払う必要があります。
Paolo Moncores:私たちの場合、アーキテクチャ全体の最適化において、AWSの様々なサービスを組み合わせることで、セキュアでスケーラブルなソリューションを構築することができました。ただし、これは一朝一夕にはいかず、継続的な改善のプロセスが必要でした。
Bianca:そうですね。結局のところ、成功の鍵は、迅速に始めること、データを効果的に活用すること、そしてアーキテクチャ全体を最適化することの、この3つのバランスを取ることにあります。これらを適切に組み合わせることで、持続可能で効果的な生成AIソリューションを構築することができます。
7. 今後の展望とリソース
7.1 AWSの持続可能性関連リソース
Bianca:ここで、皆様がすぐに活用できるAWSの持続可能性関連リソースについてご紹介させていただきます。最初のQRコードが、AWSの公式サステナビリティウェブサイトへのリンクとなっています。このサイトでは、持続可能性に特化した最新の情報やベストプラクティスを入手できます。
Rahul Sareen:具体的にどのようなリソースが利用可能なのでしょうか?
Bianca:私たちは、持続可能性に特化したさまざまなソリューションを用意しています。これらはすぐにテストができる形で提供されており、お客様は自社の課題に合わせて活用することができます。また、技術文書やガイドラインも充実しており、実装の詳細な手順から運用のベストプラクティスまで網羅しています。
Paolo Moncores:私たちMercado Diferenteも、これらのリソースを活用させていただきました。特に、技術文書は実装の際の具体的な指針として非常に役立ちました。
Bianca:はい。また、サステナビリティに関する専門チームも用意しており、お客様の具体的な課題に応じてサポートを提供しています。私たちは、お客様のイノベーションをサポートし、プロジェクトの一部となることを望んでいます。そのため、スケールとグロースのお手伝いができることを嬉しく思います。
Rahul Sareen:これらのリソースは、今後も継続的に更新・拡充されていく予定です。特に、実際のユースケースやベストプラクティスを積極的に共有していきたいと考えています。
Paolo Moncores:そうですね。私たちの経験を共有することで、他の企業の持続可能性への取り組みを加速できれば幸いです。
7.2 パートナーエコシステムの活用方法
Rahul Sareen:AWSでは、大規模なパートナーエコシステムを構築しており、持続可能性に焦点を当てた多くのソリューションを提供しています。特に、各業界に特化したパートナー企業との連携により、より実践的なソリューションの開発と展開が可能となっています。
Bianca:パートナーエコシステムの強みは、既存のソリューションをすぐに活用できる点にありますね。多くのパートナー企業が、特定の業界や用途に特化したソリューションを開発しています。
Paolo Moncores:実際、私たちMercado Diferenteも、AWS のパートナーエコシステムを活用することで、開発時間を大幅に短縮することができました。特に、既存のソリューションを基盤として活用し、そこに私たち独自の要件を追加していく approach が効果的でした。
Rahul Sareen:そうですね。さらに、パートナー企業との共同開発の可能性も重要な要素です。新しい課題に対して、複数の企業が協力してソリューションを開発することで、より革新的な解決策を生み出すことができます。
Bianca:特に持続可能性の分野では、業界を超えた協力が重要になってきています。私たちのパートナーエコシステムは、そのような協力関係を促進する場としても機能しています。お客様のニーズに合わせて、適切なパートナー企業を紹介し、共同開発のサポートを提供することができます。
7.3 利用可能なデータセットと研究機会
Bianca:持続可能性に関する研究や開発を推進するため、私たちは様々なデータセットを公開しています。これらのデータセットは、独自のソリューションを構築したり、研究を行ったりする際の基盤として活用いただけます。
Rahul Sareen:具体的に、どのようなデータセットが利用可能なのでしょうか?
Bianca:様々な業界や用途に応じたデータセットを用意しています。これらは、持続可能性に関する研究や開発をサポートするために厳選されたものです。また、研究開発支援プログラムを通じて、技術的なサポートも提供しています。
Paolo Moncores:私たちも研究開発の過程で、これらのリソースを活用させていただきました。特に、コミュニティを通じた知見の共有は非常に有益でした。
Bianca:はい、コミュニティの活用は重要な要素です。週の後半にも持続可能性に関する別のセッションが予定されていますので、ぜひご参加ください。また、私たち、Paolo、Rahulにいつでもご連絡いただければ、経験の共有や支援について相談させていただきます。
Rahul Sareen:そうですね。このセッションに参加していただいた皆様にも、ぜひコミュニティに参加していただき、知見や経験を共有していただければと思います。持続可能性の課題解決には、コミュニティ全体での協力が不可欠です。