※本記事は、AWS re:Invent 2024で開催されたセッション「Advancing sustainable AWS infrastructure to power AI solutions (SUS101)」の内容を基に作成されています。このセッションでは、AWSがデータセンターの効率化と炭素排出量削減に取り組み、より持続可能なビジネスを構築する方法や、AI workloadに効率的なAWSインフラストラクチャについて解説しています。また、Amazon BedrockとAWS Lambdaを活用したNasdaqのAI駆動型ESGプラットフォームが紹介されており、何万もの文書を自動分析して手作業の時間を大幅に削減する솔루션について説明しています。詳細情報はAWS re:Invent(https://go.aws/reinvent )でご覧いただけます。本記事では、セッションの内容を要約しておりますが、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画(https://www.youtube.com/watch?v=Fq5Gi-_G6T4 )をご視聴いただくことをお勧めいたします。
1. イントロダクション
1.1. 発表者の紹介と経歴
本セッション「Advancing sustainable AWS infrastructure to power AI solutions (SUS101)」のChris Walkerは、AWSで12年間のキャリアを持つベテランです。その間、AWS調達部門からスタートし、不動産部門へと移り、建設エンジニアリングチームと共に新しいリージョンの開発に携わりました。さらに重要な役割として、5年間にわたりAWSのネットワーク展開チームを率い、30か国以上でグローバルインフラストラクチャネットワークの拡張を指揮しました。データセンター内部での作業経験を持ち、インフラストラクチャのスケーリングに直接関わってきました。
2023年初頭からはサステナビリティ部門の役割を担当しており、AWSがいかにプログラムや運用を将来に向けて構築しているか、またデータセンターの設計・構築における持続可能性の考え方について深い知見を持っています。Walkerは自身の十代の娘から「これらの巨大なコンピュータビルは本当に地球にとって良いものなの?」と質問されたエピソードを共有し、日々の業務の中で持続可能な取り組みのプログラムやデータポイントを示すことで、その問いに答えようと努力していることを語っています。
Walkerは技術によるエネルギー消費が私たちの日常生活に深く組み込まれていることを認識しています。スマートフォンやコンピュータから電気自動車、そしてデータセンターに至るまで、あらゆる技術がエネルギーを消費しています。AWSのインフラストラクチャだけでなく、地球環境全体を私たち自身と子供たちのためにより良い場所にしていくことが重要だと考えています。世界最大のグローバルインフラストラクチャを持つクラウドプロバイダーとして、スケールを拡大する際に持続可能性を常に念頭に置くことの重要性を強調しています。
1.2. AWSインフラストラクチャの規模と持続可能性への責任
AWSクラウドは現在、世界中で108のアベイラビリティゾーンを34の地理的リージョンにわたって展開しており、245の国と地域でサービスを提供しています。この巨大なインフラストラクチャはさらに拡大を続けており、新たに18以上のアベイラビリティゾーンと6つのAWSリージョンの追加が計画されています。このように急速に拡大するAWSインフラストラクチャは、テクノロジーの民主化を推進する重要な役割を担っていますが、Walkerはこの拡大を持続可能な方法で行うことが最も重要だと強調しています。
2019年、AWSの親会社であるAmazonはGlobal Optimismと共同で「気候誓約(Climate Pledge)」を設立しました。この誓約の一環として、2040年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を設定しました。これはパリ協定の当初の目標より10年早い取り組みです。Amazonはこの野心的な目標に向けて、いくつかの中間目標を設定しながら着実に前進しています。
AWSはインフラストラクチャのスケールという課題と、それを持続可能な方法で実現する責任のバランスを常に考慮しています。世界最大のグローバルインフラストラクチャを持つクラウドプロバイダーとして、自社の成長だけでなく、地球環境全体への影響を最小化する取り組みを進めています。この巨大な規模を活かし、より効率的で持続可能なテクノロジーの実現に向けた責任を果たしていくことがAWSの使命となっています。
2. AWSの持続可能なインフラストラクチャへの取り組み
2.1. 気候変動対策(Climate Pledge)と2040年までのカーボンニュートラル目標
2019年、AmazonはGlobal Optimismと共同で「気候誓約(Climate Pledge)」を設立しました。この誓約の核心部分として、2040年までに「ネット・ゼロ・カーボン(正味の炭素排出量ゼロ)」を達成するという野心的な目標を設定しました。これはパリ協定の当初の目標より10年も早いタイムラインを示すものです。
Climate Pledgeは単なる声明ではなく、Amazonが企業として取り組む実質的な約束であり、これに基づいて2040年までのネット・ゼロ・カーボンに向けた具体的な中間目標を設定し、様々な取り組みを進めています。AWSはこの目標達成において中心的な役割を担っており、インフラストラクチャの大規模な拡張を行いながらも、持続可能性を常に念頭に置いた取り組みを行っています。
Walkerは、2040年までのネット・ゼロ・カーボン目標達成には単一の解決策(シルバーバレット)は存在せず、総合的なアプローチが必要であることを強調しています。このため、AWSは再生可能エネルギーの積極的導入、エネルギー効率の向上、循環型ビジネスモデルの構築など、複数の側面から持続可能性の取り組みを推進しています。
Climate Pledgeを通じて、AWSは自社の事業活動における環境負荷を削減するだけでなく、業界全体やサプライチェーンにおける持続可能性の向上にも貢献しています。この目標に向けた取り組みの進捗状況は定期的に評価され、透明性を持って報告されています。2040年までの目標は遠大ですが、すでに多くの中間目標で予定を上回る成果を上げており、AWSの持続可能なインフラストラクチャへの本格的なコミットメントを示しています。
2.2. 再生可能エネルギー目標の7年前倒し達成(2030年→2023年)
AWSは持続可能なインフラストラクチャ構築の一環として、2030年までに全世界のエネルギー消費を100%再生可能エネルギーで賄うという意欲的な目標を設定していました。発表では、この目標を当初の計画より7年も早く、2023年に達成したことが発表されました。これは企業の持続可能性への取り組みとしては極めて注目すべき成果です。
この達成を支えたのは、世界中で展開する500以上の再生可能エネルギープロジェクトです。AWSは4年連続で企業による再生可能エネルギーの最大の購入者となっており、年々その規模を拡大し続けています。このような大規模な再生可能エネルギーへの投資は、AWSのインフラストラクチャの拡大に伴うエネルギー需要の増加に対応するだけでなく、グリッド全体の再生可能エネルギー比率向上にも貢献しています。
再生可能エネルギー目標の前倒し達成は、AWSが設定した持続可能性目標に対する本気度と実行力を示すものです。しかし、AWSはこの成果に満足することなく、今後も再生可能エネルギーへの投資を継続し、さらに炭素フリーエネルギーの新たな源泉を探求していく意向を明らかにしています。企業規模でのこうした迅速な目標達成は、持続可能な未来に向けた産業界全体の取り組みを加速させる好例となっています。
2.3. 水資源の取り組みと2030年までの水ポジティブ目標
AWSは二酸化炭素排出削減だけでなく、水資源の持続可能な利用にも積極的に取り組んでいます。2030年までに「水ポジティブ(Water Positive)」を達成するという野心的な目標を設定しており、発表時点ですでにその目標に対して41%の進捗を達成しています。水ポジティブとは、事業で使用する以上の水を地域社会や環境に還元することを意味しています。
AWSはクラウド技術を活用して、データセンター全体の水効率を改善する革新的な取り組みを行っています。現在、世界規模で21のプロジェクトを展開しており、これらのプロジェクトによって年間約70億リットルの水が地域社会に還元されています。これは一般的な家庭の数万世帯が年間で使用する水量に相当します。
データセンターの冷却システムにおける水使用効率の向上や、水を使用しない冷却技術の採用など、様々な技術革新を通じて水使用量の削減を実現しています。さらに、施設周辺の地域社会における水資源プロジェクトへの投資を通じて、地域の水資源保全にも貢献しています。
AWSの水ポジティブに向けた取り組みは、データセンター業界全体の水資源管理における先駆的な事例となっています。2030年の目標達成に向けて、引き続き革新的な水管理技術の開発と導入を進めるとともに、地域社会との協力を強化していく方針です。これらの取り組みは、増大するクラウドサービスの需要に応えながらも、限られた水資源を持続可能な方法で管理するという、AWSの包括的な環境戦略の重要な要素となっています。
3. 循環型ビジネスの構築
3.1. 設計の改善(Design Better)
AWSは循環型ビジネスの構築を進める上で、「設計の改善(Design Better)」を基本戦略の最初の柱として位置づけています。この取り組みについて、サステナビリティチームのManju Murugesanは、製品設計の段階からより持続可能な選択をすることで、循環型経済への移行における最大の可能性を引き出せると説明しています。
設計の改善では、まず廃棄物を発生源から削減することに焦点を当てています。過剰な材料の排除、再利用やリサイクルを促進する設計の採用、そして人と環境にとってより安全な素材の選択が基本方針となっています。2024年9月時点の発表では、AWSのデータセンターに導入される製品のプラスチック部分において、30%のリサイクル素材または生物由来(バイオベース)の材料を使用していることが明らかにされました。
この設計アプローチの根本には、有限な資源の消費と成長を切り離す(デカップリング)という考え方があります。従来の「取り出し、作り、廃棄する」という直線型経済モデルから脱却し、製品やコンポーネントの寿命を最初から考慮した設計を行うことで、廃棄物を削減し、資源の効率的な利用を促進しています。
設計の改善は単なる材料選択だけではなく、製品の修理可能性、アップグレード性、再利用性を高める設計思想も含んでいます。AWSはデータセンター機器の設計段階から、将来の修理や部品の再利用がしやすい構造を考慮しており、これにより機器の寿命を延ばし、廃棄物を削減しています。このような設計思想は、次に説明する「長期運用」や「リカバリーの強化」の基盤となる重要な取り組みです。
3.2. 長期運用(Operate Longer)
AWSの循環型ビジネス構築における二つ目の柱は「長期運用(Operate Longer)」です。この戦略は、データセンターのハードウェアを可能な限り長期間使用することで、早期廃棄を避け、資源効率を最大化することを目指しています。
その具体的な取り組みとして、AWSでは老朽化したラックから機能している個々のハードドライブを集め、より少数の完全に機能するラックに統合しています。この方法により、Amazon S3に使用されるハードドライブの寿命を最大2年間延長することに成功しています。2024年には、この取り組みによって28万7,000台以上の新しいハードドライブの購入を回避できたことが報告されています。
この長期運用戦略は、単に機器の使用期間を延ばすだけでなく、複数の重要な持続可能性目標にも貢献しています。同じラック内の正常に機能しているハードドライブの早期廃棄を避けることで、水やエネルギーの使用効率を向上させています。また、新しい機器の製造に必要な原材料やエネルギーの削減にもつながっています。
AWSはデータセンター機器の堅牢な保守プログラムを通じて、機器の性能を維持しながら寿命を最大化する取り組みを継続的に行っています。これによりハードウェアの信頼性を損なうことなく、環境への影響を最小限に抑えながら、コスト効率の高いクラウドサービスを提供しています。長期運用の実践は、機器の寿命を延ばすだけでなく、次の柱である「リカバリーの強化」への橋渡しとなる重要な取り組みです。
3.3. リカバリーの強化(Recover More)
AWSの循環型ビジネス構築における三つ目の柱は「リカバリーの強化(Recover More)」です。この戦略は、使用済み機器の修理と再利用を通じて、新しいコンポーネントや材料の購入・製造に伴うカーボン排出とコストを削減することを目的としています。
具体的な取り組みとして、AWSは安全に廃止された機器を地域のリバースロジスティクスハブに送り、そこで機能評価、修理、再利用可能な機器の選別を行っています。機能するコンポーネントは在庫に戻され、あるいはサードパーティによる再利用のために販売されます。壊れたハードドライブのみをリサイクルに回し、同じラック内の正常に機能しているハードドライブの早期廃棄を避けることで、水やエネルギー使用の最適化も実現しています。
これらの取り組みの成果として、2023年以降、2,350万個のコンポーネントがリサイクルまたは二次市場で販売されました。さらに2024年には、AWSからリバースロジスティクスハブに送られた安全に廃止された機器の99%以上が再利用、リサイクル、または再販されています。これは、廃棄物を最小限に抑え、コンポーネントの価値を最大化するAWSの取り組みが実を結んでいることを示しています。
リカバリーの強化は、単に廃棄物を削減するだけでなく、新しい機器の製造に伴う環境負荷も大幅に軽減しています。使用済み機器から回収された材料は、新たな製品の製造に活用され、「今日の機器で明日を構築する」というAWSの循環型経済への移行を加速させています。これにより、AWSだけでなく、顧客やグローバルサプライチェーン全体が資源効率の新たなレベルに到達し、地球にとってより弾力性のある未来の構築に貢献しています。
3.4. 具体的な成果(2024年の287,000台のハードドライブ購入回避など)
AWSが推進する循環型ビジネスの戦略は、具体的かつ測定可能な成果を上げています。最も顕著な成果の一つとして、2024年には「長期運用」の取り組みにより、28万7,000台以上の新しいハードドライブの購入を回避することに成功しました。これは老朽化したラックから機能するハードドライブを集約し、完全に機能するラックとして再構成することで実現しました。
また、「リカバリーの強化」の取り組みとしては、2023年以降に2,350万個のコンポーネントがリサイクルまたは二次市場で販売されました。さらに2024年には、AWSからリバースロジスティクスハブに送られた安全に廃止された機器の99%以上が再利用、リサイクル、または再販されています。これは廃棄物の削減と資源の有効活用において極めて高い達成率を示しています。
プラスチック素材においても進展があり、2024年9月の時点で、AWSデータセンターの製品に使用されるプラスチックの30%がリサイクル素材または生物由来材料で構成されるようになりました。これらの成果は、設計段階から廃棄物を削減するというAWSの方針が実際の製品に反映されていることを示しています。
これらの具体的な成果は、AWSが循環型ビジネスモデルへの移行を単なる理念としてではなく、実践的な取り組みとして真剣に推進していることを証明しています。コンポーネントの寿命延長、再利用、リサイクルを通じて、新たな資源の消費を削減するとともに、廃棄物の発生を最小限に抑えることに成功しています。この取り組みは、AWSのデータセンター運営の効率化だけでなく、環境負荷の低減と持続可能なクラウドインフラの構築に大きく貢献しています。
4. カーボンフリーエネルギーへの移行
4.1. 再生可能エネルギープロジェクトの拡大
AWSは2023年に全世界のエネルギー消費を100%再生可能エネルギーで賄うという目標を達成しましたが、ここで立ち止まることなく再生可能エネルギープロジェクトのさらなる拡大を続けています。発表時点で、AWSはグローバルレベルで500以上の再生可能エネルギープロジェクトを展開しており、その規模は企業としては世界最大級となっています。
特筆すべきは、AWSが4年連続で企業による再生可能エネルギーの最大の購入者となっていることです。年々その規模を拡大し続け、一貫して業界をリードする存在となっています。こうした継続的な投資は、AWSの急速に拡大するインフラストラクチャのエネルギー需要を賄うだけでなく、各地域の電力グリッドにおける再生可能エネルギーの比率向上にも重要な役割を果たしています。
AWSは今後も再生可能エネルギーへの投資と取り組みを継続する意向を明確にしています。ソーラーパネルや風力発電といった従来型の再生可能エネルギー源に加え、より安定的で高効率なエネルギー源の開発にも注力しています。これらの取り組みは、2040年までのネット・ゼロ・カーボン目標達成に向けた長期戦略の一環として位置づけられています。
AWSの再生可能エネルギープロジェクトへの大規模かつ継続的な投資は、クラウドサービスの急速な成長を環境負荷の増大と切り離す(デカップリング)という挑戦に対する具体的な解決策として機能しています。企業による再生可能エネルギー調達の最前線に立ち続けることで、AWSは業界全体の持続可能性基準を引き上げる牽引役となっています。
4.2. 原子力発電の活用(小型モジュール炉への投資)
AWSは再生可能エネルギーへの投資を継続する一方で、カーボンフリーエネルギーの新たな源泉を開拓するための取り組みも進めています。その一環として注目されているのが原子力発電の活用です。Walkerは、原子力発電が大規模に導入可能であり、高い可用性を持ち、社会において実績のある技術であることを強調しています。
2024年10月、Amazonは小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)プロジェクトに関する3つの異なる契約を締結しました。これはAmazonのカーボンフリーエネルギーへの移行計画の一部として、まず米国から始めることが発表されています。
これらのプロジェクトと契約の特徴は、単一のプロジェクトではなく複数の取り組みを同時に進めていることです。AWSはこれらのプロジェクトの初期段階から参画し、公益事業会社と技術提供者の両方と協力して進めています。こうしたプロジェクトへの直接投資によって、カーボンフリーエネルギーのさらに迅速な拡大を実現することを目指しています。
小型モジュール炉は従来の大型原子炉と比較して、建設期間が短く、安全性が高く、柔軟な展開が可能という利点があります。AWSはこの技術を活用することで、再生可能エネルギーと組み合わせたより安定したカーボンフリーエネルギーミックスの実現を目指しています。
AWSによる原子力発電、特に小型モジュール炉への投資は、2040年までのネット・ゼロ・カーボン目標達成に向けた多角的なアプローチの一部です。単一のソリューションに依存するのではなく、様々なカーボンフリーエネルギー源を組み合わせることで、より持続可能で信頼性の高いエネルギー供給体制の構築を進めています。
5. データセンターの効率向上
5.1. 電力使用効率(PUE)の改善(グローバルPUE 1.15→1.08)
AWSはデータセンターの効率向上において電力使用効率(PUE: Power Usage Effectiveness)の改善を重要な指標として活用しています。PUEはデータセンターの効率性を測定する国際的に認知された指標であり、値が低いほど効率が高いことを示します。理想的なPUE値は1.00です。
AWSは18年以上にわたり大規模データセンターを構築してきた経験があり、GPUベースのサーバーについても13年以上の経験を持っています。このような長年の経験と継続的な改善努力により、AWSは高い効率性を実現しています。2023年時点でのAWSデータセンターのグローバルPUEは1.15であり、欧州にある最高性能のサイトでは1.04という極めて優れたPUE値を達成しています。これらの値は、IDC(International Data Corporation)が2023年に公共クラウドデータセンター向けに推定したPUE値1.22を大幅に下回っています。
発表では、AWSがPUEの計算にISO標準の国際的に認められた原則を用いていることも説明されました。この厳格な測定方法により、AWSは自社のデータセンター効率を正確に評価し、継続的な改善を図っています。
さらに注目すべきは、AWSが2024年に発表した新しいデータセンターコンポーネント(DC Components)です。AIワークロードをサポートするために最適化されたこれらの新コンポーネントは、現在のグローバルPUE 1.15から更に改善された1.08というPUE値の達成を目指しています。これはわずか0.07ポイントの改善に見えるかもしれませんが、この規模のインフラストラクチャでは大きなエネルギー節約につながります。
このPUE改善の取り組みは、AWSが顧客のイノベーションをサポートしながらも、エネルギー効率を継続的に向上させるという二つの目標を同時に達成しようとする姿勢を示しています。効率性の向上は、コスト削減だけでなく、環境負荷の低減にも直接的に貢献する重要な取り組みです。
5.2. オンプレミスと比較した場合の効率(4.1倍の効率性)
AWS のデータセンターの効率性を示す重要な指標として、オンプレミス環境との比較があります。2024年に Accenture が実施した調査によると、AWS のインフラストラクチャはオンプレミスのデータセンターと比較して 4.1 倍もの効率性を実現していることが明らかになりました。この数値は単なる理論上の比較ではなく、実際のデータセンター運用の分析に基づいたものです。
さらに注目すべき点として、AWS で最適化された AI ワークロードを実行することで、オンプレミス環境と比較して関連する炭素フットプリントを最大 99% 削減できることが示されています。これは特に計算負荷の高い AI ワークロードについて、AWS のインフラストラクチャがいかに効率的であるかを示す驚異的な数字です。
この効率性の大幅な差は、複数の要因によって生み出されています。まず、AWS が長年にわたって最適化してきた大規模データセンターの設計と運用ノウハウがあります。次に、カスタム設計された高効率のハードウェアと冷却システムの活用です。さらに、仮想化技術やリソース共有の高度な最適化、そして継続的な効率改善のためのイノベーションが挙げられます。
オンプレミス環境からクラウドへの移行によるこの劇的な効率向上は、単に企業の運用コスト削減だけでなく、グローバルなITインフラストラクチャ全体の環境負荷を大幅に低減する可能性を示しています。特に AI ワークロードのような高負荷の処理が増加する中で、AWS のような効率的なクラウドインフラストラクチャの活用は、持続可能な技術発展において重要な役割を果たしています。
5.3. 新世代データセンターコンポーネントによる炭素強度14%削減
AWSは持続可能なインフラストラクチャ構築の一環として、新世代のデータセンターコンポーネントを開発・導入しています。発表では、これらの最新世代のデータセンターコンポーネントによって、AWSの炭素強度(単位計算処理あたりの炭素排出量)が14%削減される見込みであることが明らかにされました。
この炭素強度の削減は、データセンター設計における様々な革新の組み合わせによって実現されています。電力効率の向上、冷却システムの最適化、材料選択の改善など、データセンターのライフサイクル全体にわたる改善が含まれています。これらの改善は個々の技術革新の積み重ねであり、全体として大きな削減効果を生み出しています。
特に注目すべきは、これらの新しいデータセンターコンポーネントが、AIワークロードをサポートするために最適化されている点です。急速に成長するAIアプリケーションの計算需要に対応しながらも、環境負荷を削減するという二つの課題を同時に解決しようとする取り組みです。
また、新しいデータセンターコンポーネントは、炭素強度の削減だけでなく、前世代の設計と比較して顧客に対して10%以上の容量増加も提供しています。つまり、環境への影響を減らしながら、同時により多くの計算能力を提供できるようになっています。
この14%の炭素強度削減は、AWSの持続可能性に対する継続的な取り組みの一部であり、2040年までのネット・ゼロ・カーボン目標達成に向けた重要なステップとなっています。効率の向上と炭素排出の削減を同時に実現することで、クラウドコンピューティングの環境負荷を最小限に抑えながら、顧客のイノベーションを支援する道を切り開いています。
5.4. 冷却システムの効率化(最大46%のエネルギー消費削減)
AWSは新世代データセンターにおいて、電気システムと機械システムの両面から冷却技術の大幅な改善を実現しています。発表では、新しく開発された効率的な冷却システムによって、ピーク冷却条件下での機械エネルギー消費を最大46%削減できることが明らかにされました。特筆すべきは、この大幅なエネルギー消費削減が水使用量の増加を伴わずに達成されている点です。
データセンターの冷却は従来、大量の電力を消費する工程であり、多くの場合、効率向上のために水冷却システムの導入によって電力消費を水資源消費に置き換える傾向がありました。しかしAWSの新しいアプローチでは、冷却効率の向上と水資源の保全を同時に実現しています。
この46%という削減率は、データセンター業界における冷却技術の大きな進歩を示しています。冷却システムの効率化は、データセンター全体のエネルギー消費量削減に直接的に寄与し、結果としてPUE(電力使用効率)の向上にも貢献しています。
冷却システムの改善には、より効率的な熱交換器の採用、気流最適化のための精密なシミュレーションに基づく設計、インテリジェントな冷却制御システムの導入など、複数の技術革新が組み合わされています。これらの技術革新は、AWSが長年にわたり蓄積してきたデータセンター運用の知見と、持続的な研究開発投資の成果です。
最大46%のエネルギー消費削減は、単に運用コストの削減だけでなく、環境負荷の大幅な軽減にもつながっています。この冷却システムの効率化は、AWSの包括的な持続可能性戦略の重要な要素であり、2040年までのネット・ゼロ・カーボン目標達成に向けた具体的な取り組みの一つとなっています。
5.5. コンクリートの炭素排出量削減(米国デザインで35%削減)
AWSはデータセンターの建設における環境負荷削減にも注力しており、その重要な取り組みとしてコンクリートの炭素排出量(体積当たりの炭素排出量、すなわち「体化炭素」)の削減があります。発表によれば、AWSの設計基準は現在、米国のデータセンター設計において、標準的なコンクリートと比較して体化炭素を最大35%削減したコンクリートの使用を義務付けています。
この取り組みは特に重要です。なぜなら、コンクリートは世界で最も広く使用されている建築材料の一つであり、その製造過程は多量の炭素排出を伴うからです。データセンターのような大規模施設の建設では大量のコンクリートが使用されるため、この削減率は全体の炭素フットプリントに大きな影響を与えます。
低炭素コンクリートの使用は現在、米国のデータセンター設計に適用されていますが、AWSはこの要件をグローバルに拡大する計画を進めていることも明らかにされました。これにより、世界中のAWSデータセンター建設における環境負荷の一貫した削減が期待されます。
低炭素コンクリートの採用は、建築材料の選択における持続可能性の考慮がAWSの設計基準に深く組み込まれていることを示しています。この取り組みは、データセンターのライフサイクル全体における炭素フットプリント削減戦略の一部であり、建設段階から運用、そして最終的な廃棄に至るまでの環境影響を最小化することを目指しています。
6. AIワークロードのための持続可能なインフラ
6.1. AWS独自シリコンチップの効率性
AWSは長年にわたり、クラウド向けに最適化されたカスタムシリコンチップの設計に投資してきました。この取り組みは、持続可能なAIインフラストラクチャ構築における重要な戦略となっています。Walkerは、AIがここ2年間で私たちの生活に急速に浸透し、家族との夕食の会話にも登場するほど一般的になったことを指摘しています。
AWSにとってAIは新しい取り組みではなく、長年にわたって技術開発と実装を進めてきました。AIが私たちの生活をより便利にし、世界の気候変動をはじめとする喫緊の課題解決に役立つ可能性を持つ一方で、増大する計算需要に対応するためのインフラストラクチャの効率化が重要な課題となっています。
この課題に対して、AWSは独自のシリコンチップ設計に注力し、クラウド向けに最適化された高効率なプロセッサを開発しています。顧客はこれらのAWS独自シリコンチップを活用することで、クラウドワークロードをより持続可能な方法で実行し、自社の持続可能性目標達成を加速することができます。
この取り組みにおけるAWSのアプローチの核心は、特定のワークロードに合わせて最適化された「目的別(purpose-built)」チップの設計です。汎用的なプロセッサではなく、特定の計算タスクに特化したチップを設計することで、電力当たりのパフォーマンスを劇的に向上させています。
AWS独自のシリコンチップは、AIワークロードをサポートするだけでなく、あらゆるクラウドワークロードの電力効率を向上させることで、AWSインフラストラクチャ全体の持続可能性に貢献しています。これらのチップは、新世代のデータセンターコンポーネントと組み合わせることで、AIの急速な成長と持続可能性のバランスを取るための重要な技術的基盤となっています。
AWSがこのような具体的な設計基準を設けることで、建設サプライチェーン全体に波及効果をもたらし、低炭素建材の開発と採用を業界全体で促進する効果も期待されています。このようなリーダーシップは、データセンター業界全体の持続可能性基準を高める上で重要な役割を果たしています。
6.2. AWS Inferentia、Graviton、Traniumの性能と電力効率
AWSの独自シリコンチップ戦略の中核を成すのは、AWS Inferentia、Graviton、Traniumという3つの主要プロセッサファミリーです。これらは特定のワークロードタイプに最適化された「目的別」設計により、優れた性能と電力効率を実現しています。
まず、AWS Inferentiaは推論ワークロード向けに特化した高性能機械学習チップです。大規模データモデルをスケールして実行するために設計されており、同等のAmazon EC2インスタンスと比較して、ワット当たり50%以上優れたパフォーマンスを提供しています。この効率性は、AIモデルの推論フェーズにおいて特に重要であり、生成AIの普及に伴い増大するインフラ需要に対して持続可能な解決策となっています。
次に、AWS Gravitonベースのインスタンスは、同等のパフォーマンスを提供する他のEC2インスタンスと比較して最大60%少ないエネルギーを使用します。また、Amazon EC2上で実行されるクラウドワークロードに対して最高のコストパフォーマンスを提供しています。Gravitonは汎用的なワークロードに最適化されており、ウェブサーバー、コンテナ化されたマイクロサービス、データベースなど幅広いアプリケーションの効率化に貢献しています。
最後に、発表内で言及されたTranium2は、前世代のTranium1と比較して3倍のエネルギー効率を実現しています。この大幅な効率改善は、AIトレーニングや高性能コンピューティングなどの計算負荷の高いワークロードにおいて特に重要です。
これらのチップの共通点は、特定の計算負荷に対して最適化された設計と、それによる顕著な電力効率の向上です。顧客はこれらのチップを活用することで、AWSのインフラ上で持続可能性目標を達成しながら、高度なワークロードを展開できます。また、これらのチップによる効率向上は、AWSの2040年までのネット・ゼロ・カーボン目標達成に向けた重要な技術的基盤となっています。
6.3. Amazon.comでの実装事例(Prime Dayでの80,000以上のチップ活用)
AWSが開発した独自シリコンチップの効果を実証する最も説得力のある事例の一つが、Amazon.comでの大規模な実装です。Amazon.comは自社のサービスでAIチップを広範囲に活用しており、特に注目すべきは2024年のPrime Dayでの活用事例です。
2024年のPrime Dayにおいて、Amazonは80,000台以上のInferentiaおよびTraniumチップのクラスターを展開しました。これらのチップは多くのAmazonサービスでAI処理の基盤として機能し、大規模なeコマースイベントを支えました。このような大規模なAIチップの展開は、実際の高負荷環境での独自シリコンチップの能力と信頼性を示しています。
さらに、同じPrime Dayイベント中に、AmazonはAmazon.comの5,800以上の個別サービスを支えるために250,000台以上のAWS Gravitonチップを使用しました。これは前年の2023年と比較して2倍の規模であり、Amazonが独自シリコンチップへの依存度を急速に高めていることを示しています。
この事例は、AWSの独自シリコンチップが単なる実験的な技術ではなく、世界最大級のeコマースプラットフォームの中核インフラストラクチャとして実運用されていることを証明しています。Amazonは自社のミッションクリティカルなワークロードをこれらのチップに信頼を寄せており、その結果として得られる効率性、パフォーマンス、持続可能性の向上を享受しています。
Prime Dayのような極めて負荷の高いイベントでのこうした大規模な実装は、AWS独自シリコンチップの能力と信頼性を実証するだけでなく、同様の持続可能性と効率性の向上をAWSの顧客にも提供できることを示しています。Amazon.com自身が「お客様」として得た経験は、他の顧客に対する説得力のある事例となっています。
7. 顧客事例:Climate Pledge Arena
7.1. 世界初のカーボンニュートラルアリーナの取り組み
持続可能なAWSインフラストラクチャの活用事例として、発表では「Climate Pledge Arena」が紹介されました。このアリーナはAmazonの本拠地であるワシントン州シアトルに2021年にオープンし、NHLのシアトル・クラーケンとWNBAのシアトル・ストームのホームアリーナとして機能しています。
Climate Pledge Arenaは、その名前が示す通り、Amazonが立ち上げた「Climate Pledge(気候誓約)」の理念を体現する施設として計画されました。世界初のネット・ゼロ・カーボンアリーナとなることを目指し、施設のあらゆる側面で持続可能性が考慮されています。
アリーナ運営チームは、真に持続可能な方法で施設を運営するための様々な課題に直面していました。大規模なスポーツイベントやコンサートを開催する施設では、エネルギー消費、廃棄物管理、来場者の交通手段など、多岐にわたる側面での環境負荷が発生します。これらの課題に対して、Climate Pledge Arenaは革新的な解決策を模索し、その運営をより持続可能なものにするための取り組みを進めてきました。
持続可能性をアリーナの運営に組み込む上での課題の一つは、適切なデータ管理と分析でした。運営チームは、エネルギー使用、廃棄物発生量、水使用量、来場者の交通手段といった多様なデータを収集し、分析する必要がありました。これらのデータに基づいて、改善が必要な領域を特定し、効果的な対策を講じることが求められていました。
このような背景から、Climate Pledge Arenaは持続可能性のデータ管理と意思決定を改善するための技術的パートナーを必要としていました。そこで2023年、アリーナはAWSを基盤とするサステナビリティ・アズ・ア・サービス(SaaS)プラットフォームであるFlex Zeroを導入しました。この事例は、AWSの持続可能なインフラストラクチャがいかに実際の環境課題解決に貢献できるかを示す好例となっています。
7.2. Flex Zeroプラットフォームの活用
2023年、Climate Pledge Arenaはサステナビリティデータ管理をFlex Zeroに移行しました。Flex ZeroはAWS上に構築されたサステナビリティ専門のSaaSプラットフォームであり、サステナビリティコンサルティングと高度にカスタマイズされたサステナビリティSaaSプラットフォームを提供しています。
この移行によって、Climate Pledge Arenaは先進的な自動化機能、合理化されたデータ管理、そして生成AIの統合を活用することで、持続可能性に関する取り組みを加速させることができました。Flex Zeroプラットフォームは、AWS上に構築されているため、AWSの持続可能なインフラストラクチャの利点を直接享受することができます。
Flex Zeroの導入により、アリーナ運営チームは多岐にわたるサステナビリティデータを一元管理し、分析することが可能になりました。これまで別々のシステムで管理されていたエネルギー使用量、廃棄物管理、水使用量などのデータが統合され、包括的な視点からサステナビリティパフォーマンスを評価できるようになりました。
さらに、このプラットフォームは生成AIを活用して、データから有意義なインサイトを抽出し、改善が必要な領域を特定することができます。AIによる分析は、ヒューマンエラーを減らし、データ処理の速度と精度を向上させることに貢献しています。
Flex Zeroプラットフォームは、Climate Pledge Arenaの具体的なニーズに合わせてカスタマイズされ、運営チームが日々の意思決定において持続可能性を中心に据えることを可能にしています。このプラットフォームを通じて、アリーナは自らの持続可能性目標に対する進捗を追跡し、必要に応じて戦略を調整することができるようになりました。
Flex ZeroとAWSの組み合わせは、複雑なサステナビリティデータを管理・分析するための効率的なソリューションを提供し、Climate Pledge Arenaが世界初のネット・ゼロ・カーボンアリーナとしての目標達成を支援しています。
7.3. 交通データ分析による来場者の炭素排出量削減
Flex ZeroプラットフォームがClimate Pledge Arenaにもたらした具体的な成果の一つが、来場者の交通手段に関する包括的なデータ分析です。この分析により、アリーナは各イベント開催時に公共交通機関の利用を効果的に促進し、来場者全体の炭素フットプリントを削減することに成功しています。
交通は大規模イベント施設における間接的な炭素排出(スコープ3排出量)の主要な要因の一つです。何千人もの観客がそれぞれ個人の交通手段でアリーナに来場するため、この要素はアリーナ全体の環境影響において無視できない比重を占めています。Flex Zeroは、AWS上に構築されたプラットフォームの分析能力を活用して、交通パターン、来場者の居住地域、利用可能な公共交通機関のオプションなど、様々なデータポイントを総合的に分析しています。
この分析に基づいて、Climate Pledge Arenaはイベント別にカスタマイズされた交通戦略を展開することができます。例えば、特定の地域からの来場者が多いイベントでは、その地域からのシャトルバスの増便や公共交通機関との連携強化など、ターゲットを絞った対策を実施することができます。また、チケット購入時やイベント前の通知で、公共交通機関の利用をインセンティブ付きで推奨することも可能になりました。
これらの取り組みの効果は、データによって継続的に測定・評価されています。Flex Zeroのダッシュボードを通じて、イベントごとの交通手段の内訳や、それに伴う炭素排出量の変化を追跡することができ、戦略の効果を即座に把握することができます。
このように、AIと高度なデータ分析を活用したFlex Zeroプラットフォームは、Climate Pledge Arenaが単に施設自体の直接的な環境影響だけでなく、来場者の行動に関連する間接的な環境影響にも積極的に取り組むことを可能にしています。これは、施設運営における持続可能性の概念をより広い範囲に拡大し、ホリスティックなアプローチでカーボンニュートラル目標の達成を目指す先進的な事例となっています。
8. Nasdaqの持続可能性への取り組み
8.1. Nasdaq Sustainable Lensの開発背景
Nasdaqの新成長イニシアチブを率いるMichael Stillerは、Nasdaq Sustainable Lensの開発背景について詳しく説明しました。このAIを活用したサステナビリティ研究ソリューションは、企業が直面する持続可能性関連の課題に対応するために開発されました。
Stillerによれば、開発の原点は「企業のサステナビリティプログラムを10倍効率化できないか」という問いかけにありました。各企業は日々、ネットゼロ目標や水使用量の削減、エネルギー効率の向上など、様々な持続可能性に関する意思決定を行っています。このような長期的なコミットメントを伴う重要な決断は、確かなデータ、厳密な分析、専門的な研究に基づいて行われるべきですが、そのためのリソースは限られています。
Stillerは約6年前、Nasdaqのサステナビリティコンサルティング事業を率いていた際に、企業のサステナビリティ担当者や自社のコンサルタントが直面する課題を間近で見てきました。サステナビリティレポートの作成、同業他社の情報開示の調査、ステークホルダーからの質問への対応など、多くの作業が手作業で行われていました。CEOや取締役会からの質問に対応するために、何百ページもの年次報告書や財務書類を分析する作業は非常に労力を要するものでした。
同時に、サステナビリティ分野は急速に変化しており、特に欧州を中心に規制が強化されていました。報告や調査作業に大量の時間を費やしている企業の状況を改善し、持続可能性プログラムの効率を10倍に高めるという野心の下、Nasdaq Sustainable Lensの開発構想が生まれました。
特に言語モデルが得意とする作業、つまりレポート作成や調査タスクに費やす時間と労力を削減し、規制要件が高まる環境の中で企業が効率的に対応できるようにすることがこのソリューションの目標でした。Nasdaqは、企業が持続可能性に関する意思決定を情報に基づいて行えるよう支援するため、AIと専門知識を組み合わせたアプローチでこの課題に取り組むことを決定しました。
8.2. AWSとのパートナーシップ
Nasdaq Sustainable Lensの開発にあたり、Nasdaqはパートナー選びを慎重に行いました。Michael Stillerによれば、AWSはその選択において自然な候補だったといいます。両社のパートナーシップは2015年に遡り、NasdaqはAWS上に「Nasdaq IR Insight」という投資家向けプラットフォームを構築した実績がありました。これはNasdaq内で最初のクラウドネイティブプラットフォームの一つでした。
約3年前には、NasdaqのCEOであるAdena Friedmanが、AWS re:Inventのメインステージで資本市場のクラウド移行について講演しました。当時Nasdaqは複数の取引所、主にオプション取引所をクラウドに移行する取り組みを進めていました。こうした歴史的な協力関係を踏まえ、Nasdaqは昨年、AWS上でNasdaq Sustainable Lensを立ち上げる決断をしました。
Stillerは、AWSを選んだ理由として三つの重要な要素を挙げています。第一に、AWSのスケール、セキュリティ、そして信頼できるリソースとインフラストラクチャです。Nasdaqが顧客データと自社データをソリューションに取り込む上で、信頼性とセキュリティは最優先事項でした。
第二の理由は、Chrisの発表で強調されていた持続可能性に対するAWSの取り組みです。AWSの持続可能性を重視するインフラストラクチャと理念は、Nasdaqの価値観と一致していました。両社とも持続可能性を深く重視しており、この共通の価値観がパートナーシップの基盤となりました。
第三の理由は市場投入までのスピードでした。Nasdaqは独自の差別化要因とアイデアを持っていましたが、それを迅速に市場に投入する必要がありました。この点で、Amazon Bedrockの活用は自然な選択でした。Bedrockは迅速な市場展開を可能にするだけでなく、様々なAIモデルから選択できる柔軟性も提供しました。
Nasdaqは2023年夏からAmazon Bedrockのプレビューユーザーとなり、一般提供開始後も継続して活用しています。このパートナーシップにより、Nasdaqは先進的なAI技術とクラウドインフラストラクチャを活用しながら、安全で持続可能なアプローチでNasdaq Sustainable Lensを開発・展開することができました。
8.3. 責任あるAI開発とガバナンス
Nasdaq Sustainable Lensの開発において、Nasdaqは責任あるAI開発とガバナンスを最優先事項としました。Michael Stillerは、Nasdaqがイノベーションの代名詞であり、電子取引所の先駆者として、クラウド技術の早期採用者として、そして革新的な企業の上場先として、世界に対するユニークな視点を持っていると強調しています。
Nasdaqは2016年に中央AIチームを設立し、現在は20名の専門家を擁しています。このチームは中央集権的なグループとして機能しつつ、各事業部門にもAI専門家を配置しています。生成AIが実用的でスケーラブルな技術として登場した際、Nasdaqは二つの観点からの迅速な対応を決定しました。一つは製品への組み込み(Nasdaq Sustainable Lensのように)、もう一つはビジネスプロセスでの活用(従業員の生産性向上のため)です。
AIの責任ある利用を確保するため、Nasdaqは技術、リスク、法務、情報セキュリティ部門の上級リーダーから成るAIガバナンス委員会を設立しました。この委員会は、倫理、AI関連法規制、情報セキュリティ、データプライバシー、知的財産など幅広いトピックを検討し、NasdaqによるすべてのAI活用がその価値観やビジネス戦略、技術方針と一致することを確保しています。
委員会の具体的な取り組みには、コントロールフレームワークの開発やベストプラクティスとの整合があり、AIケイパビリティの安全で責任ある導入を促進しています。Nasdaqは2024年末までにすべての従業員にAIツールを提供することを目標としており、その目標達成に向けて順調に進んでいます。
重要なのは、社内で使用されるAI製品も、外部に提供される製品と同様の厳格なプロセスとガバナンスで検証されている点です。Nasdaq Sustainable Lensも、精度やバイアスのテストなど、企業グレードのAIソリューションとして期待されるすべての検証を経ています。
このように、Nasdaqは革新性と責任あるAI利用のバランスを取りながら、持続可能性の課題に対応する先進的なソリューションを開発しています。AIガバナンスへの徹底したアプローチにより、Nasdaq Sustainable Lensは技術的な効率性だけでなく、倫理的で信頼性の高いソリューションとして提供されています。
9. Nasdaq Sustainable Lensのデモンストレーション
9.1. 9,000社以上のグローバル企業の持続可能性データ収集
Nasdaq Sustainable Lensは、持続可能性に関する膨大なデータを活用して企業の意思決定を支援するAIソリューションです。Michael Stillerのプレゼンテーションでは、このプラットフォームが世界中の9,000社以上の企業から持続可能性関連のコンテンツと財務情報を収集・分析していることが紹介されました。
Sustainable Lensが収集しているデータは非常に多岐にわたります。サステナビリティレポート、年次報告書、委任状、気候・社会関連文書、企業のウェブサイトに掲載されているポリシーなど、企業が公開している様々な文書が対象となっています。また、SEC(米国証券取引委員会)や欧州規制当局、その他の国際機関が発表するサステナビリティ基準や規制に関する情報も収集しています。
この膨大なデータ収集の規模は、16万件以上の文書に及んでおり、それらの文書から重要な情報が抽出されています。こうして収集されたデータは、サステナビリティ、法務、財務の専門家がより良い意思決定を迅速に行えるようにするためのAIおよびソフトウェアワークフローの基盤となっています。
Stillerは、このシステムが1,100万件のサステナビリティ指標を処理し、企業が特定のサステナビリティ規制への準備状況を評価するのを支援していると説明しました。さらに、文書から130億語を抽出・処理し、従来の調査では見落とされていた情報を発見することができます。
このような大規模なデータ処理を実現するため、Nasdaqは高度なプロンプトエンジニアリングや堅牢なデータパイプラインの開発、ベクトル検索システムなどの技術を採用しています。アーキテクチャには、自動ルーティング、計画、実行のためのLM(言語モデル)エージェントのようなワークフローも組み込まれています。
Stillerは、このようなスケール、データアクセス、洗練されたAIは、世界クラスのソリューションと技術によってのみ実現可能であると強調し、そこでAWSサービスの役割が重要となると述べました。Sustainable Lensはセキュアでスケーラブル、かつ責任あるAIを実現するためにAmazon Bedrockを基盤とし、Amazon Titanエンベディングモデルやアンスロピックのモデルを活用しています。また、AWS SageMaker、AWS Batch、S3、EC2、Lambdaなど、その他のAWSサービスも利用しています。
この9,000社以上の企業データの収集・分析は、Nasdaq Sustainable Lensの機能の基盤となり、次に説明する主要ワークフローの効果を最大化しています。
9.2. 主要機能:ピアリサーチと規制対応準備
Michael Stillerによるデモンストレーションでは、Nasdaq Sustainable Lensの主要な機能として、特に価値を提供している二つの重要なワークフローに焦点が当てられました。それは「ピアリサーチ」と「規制対応準備」です。
Nasdaq Sustainable Lensは、discover(発見)、benchmark(ベンチマーク)、monitor(監視)、documents(文書)という四つのモジュールで構成されています。デモでは最初に「discover」モジュールが紹介され、ここにはESGアシスタントと検索機能が含まれています。ESGアシスタントには、ピアリサーチ、自主的・規制的基準のナビゲーション、自社文書の要約など、ユーザーからよく寄せられる質問に対応するタスクセットが用意されています。
まず「ピアリサーチ」機能のデモンストレーションとして、競合他社のネットゼロコミットメントに関する質問がシステムに投げかけられました。システムはこの質問を分類し、どの知識ベースに照会するかを判断します。この場合は9,000社以上の企業文書の知識ベースに照会されますが、質問内容によっては規制・自主的基準に関する知識ベースや一般的なサステナビリティ知識ベースに照会されることもあります。
システムは回答を生成し、上部に情報を要約して表示するとともに、表形式で簡単に参照できるようにします。すべての情報は出典が明記され、ユーザーは必要に応じて元の文書にアクセスすることができます。情報の出所となる文書のページが表示され、側面同士の比較が容易になっています。また、この調査結果をレポートとしてエクスポートし、同僚と簡単に共有することもできます。質問から調査報告書までのプロセスが数秒で完了します。
次に「規制対応準備」機能のデモンストレーションとして、欧州のCSRD(企業持続可能性報告指令)への対応が紹介されました。世界中の企業は持続可能性開示規制への対応を準備しており、特に欧州で事業や従業員を持つ企業、あるいは欧州から収益を得ている企業は、2025年からこの基準に対応する必要があります。
Nasdaq Sustainable Lensは、CSRDをはじめとする各種規制に対する企業の準備状況を非常に詳細なレベルで迅速に評価する機能を提供しています。デモではNasdaqの準備状況についてダッシュボードが表示され、全体的な完了レベルや改善が必要な領域を直接確認することができました。例として「従業員開発」の領域が詳しく調査され、AIを活用した評価によってコンプライアンスのギャップの理由が説明されています。
ユーザーは元の文書にアクセスして、評価の基となる情報のソースコンテンツを確認できるだけでなく、競合他社の状況も把握することができます。競合他社の評価を見て、彼らの文書を直接調査することで、企業は現在のギャップ、規制遵守のために必要な対応、そして競合他社の状況を理解することができます。
これらの機能により、Nasdaq Sustainable Lensはサステナビリティドメイン向けにカスタマイズされた、一般的なAIツールでは対応できない重要なサステナビリティと規制ワークフローを提供しています。
9.3. AIを活用した持続可能性研究と評価
Nasdaq Sustainable Lensは、最新の生成AI技術と独自のコンテンツを組み合わせることで、企業の持続可能性に関する高度な研究と評価を可能にしています。Michael Stillerのデモンストレーションでは、このプラットフォームが一般的なAIツールでは処理できない、サステナビリティドメイン固有の課題に対応できるよう特別に設計されていることが強調されました。
このシステムは、膨大なデータに基づく分析を行っています。1,100万件を超えるサステナビリティ指標を処理し、企業が特定の持続可能性規制に対する準備状況を評価します。また、文書から抽出・処理された130億語のデータを分析することで、従来の手作業による調査では見落とされがちな重要な情報を発見します。これらの分析は単なる表面的なデータスキャンではなく、企業のサステナビリティ戦略と実践に関する深い洞察を提供します。
技術的には、Sustainable Lensは高度なプロンプトエンジニアリングと堅牢なデータパイプライン処理、そしてベクトル検索システムを活用しています。アーキテクチャには、自動ルーティング、計画、実行のためのカスタムLM(言語モデル)エージェントのようなワークフローが組み込まれています。これにより、ユーザーからの質問が適切な知識ベースに振り分けられ、最も関連性の高い情報が抽出されます。
プラットフォームの中核にあるAI機能には、ピアベンチマーキング活動の自動化、企業の開示情報や規制の要約、そしてAIを活用したESGアシスタントによる開示の初期ドラフト作成などがあります。これらの機能により、サステナビリティの専門家は膨大なデータを正確で明確な洞察に変換し、わずか数クリックで的確なサステナビリティの意思決定を行うことができます。
特に注目すべきは、このシステムが単なる情報収集ツールではなく、企業固有のコンテキストを理解し、規制要件とのギャップ分析を行い、業界内でのポジショニングを評価する総合的なソリューションになっていることです。AIが持続可能性の専門家の「パートナー」として機能し、データ処理の負担を軽減することで、より戦略的な取り組みに集中できるようになります。
Stillerは発表の中で、「AIを活用して、より良いレンズを通してデータを見ることで、数千の洞察を正確でスマートなサステナビリティの意思決定にワンクリックで変換できる」と述べ、このテクノロジーが持続可能性の専門家の業務を根本的に変革する可能性を強調しました。
10. Nasdaq Sustainable Lensの効果
10.1. 持続可能性研究の効率化(97%の時間短縮)
Nasdaq Sustainable Lensの最も顕著な効果の一つは、持続可能性研究プロセスの劇的な効率化です。Michael Stillerは、このソリューションが企業の持続可能性関連業務にもたらした具体的な時間短縮効果について説明しました。
持続可能性研究は年間を通じて行われる活動であり、企業のサステナビリティプロフェッショナルや法務・会計担当者は一年を通じて様々なタイミングでSustainable Lensのようなソリューションを必要とします。年間を通して、サステナビリティの開示情報を作成するための調査や、社内のステークホルダーからの「競合他社と比較してどうか」「この分野で他社は何をしているのか」といった質問への対応が求められます。
Stillerによれば、Sustainable Lensのような解決策を手元に用意しておくことで、こうした調査を実行し、高品質な研究結果を得るために必要な時間を大幅に削減できます。具体的な数字として、分析の結果、持続可能性の専門家はこのツールを使用することで、手作業で調査を行う場合と比較して97%速いレスポンスタイムを実現していることが報告されました。
この97%という数字は非常に印象的です。例えば、従来なら数日かかっていた競合他社分析や規制対応準備が数分で完了することを意味します。この時間短縮は単に便利さを超えた意味を持ちます。短納期のプロジェクトでも徹底した調査が可能になり、より多くのデータに基づいた意思決定が可能になります。また、情報へのアクセスが民主化され、専門家でなくても高品質なサステナビリティ情報を入手・理解できるようになります。
さらに、時間短縮に伴って大幅なコスト削減も実現しています。従来、外部コンサルタントに依頼していた分析作業を内製化できるようになり、コンサルティング費用を削減しながらも、同等以上の洞察を得ることが可能になりました。
この持続可能性研究の効率化は、Sustainable Lensの目標であった「持続可能性プログラムを10倍化する」という野心的なビジョンを実現する上での重要な一歩となっています。97%の時間短縮という数字は、AIを活用したソリューションが持続可能性分野においても具体的で測定可能な価値を提供できることを明確に示しています。
10.2. 顧客の声と実際の利用事例
Nasdaq Sustainable Lensの価値を最も明確に示すのは、実際に利用している顧客からのフィードバックです。Michael Stillerのプレゼンテーションでは、Dolby社とMarvell Technologies社の利用事例が紹介されました。
Dolby社のサステナビリティ担当者であるNatasha Tuckの事例は、規制コンプライアンス業務におけるSustainable Lensの活用を示す好例です。デモンストレーションで紹介されたCSRD(企業持続可能性報告指令)に関するワークフローを、Natasha Tuckは実際の業務で活用しています。従来は数時間かかり、多額のコンサルティング費用が発生していた調査作業が、Sustainable Lensによって数分で完了するようになりました。
このツールを使用することで、彼女は欧州の規制要件に対する自社の準備状況を迅速に評価し、ギャップを特定することができるようになりました。また、競合他社の開示情報を効率的に分析することで、業界標準や先進的な取り組みについてのインサイトを得ることも可能になりました。
もう一つの重要な利用事例として、Marvell Technologies社のAluaからの声が紹介されました。彼女は、Sustainable Lensを利用することで、マネージャーが時間とリソースの優先順位を付けられるようになり、より労力を要するデータ分析作業をAIにアウトソースできるようになったと評価しています。
特に注目すべき点は、彼女が「日常的な業務」ではなく「より実質的な持続可能性プロジェクト」にリソースをシフトできるようになったことです。AIによって単調なデータ分析作業が自動化されることで、サステナビリティの専門家はより戦略的で影響力のある業務に集中できるようになりました。彼らは本来解決すべき重要な持続可能性の課題に取り組むことができるようになり、データ分析や報告書作成といった時間のかかる作業に埋もれることがなくなりました。
これらの顧客の声は、Sustainable Lensが単なる時間短縮ツールではなく、持続可能性プログラム全体の質と影響力を高めるための戦略的なソリューションであることを示しています。顧客は技術的な効率性だけでなく、持続可能性の専門家の役割そのものを再定義し、より価値の高い活動に集中できるようになる変革的な効果を評価しています。
10.3. 持続可能性プログラムの10倍化を目指した取り組み
Michael Stillerのプレゼンテーションの締めくくりとして、Nasdaq Sustainable Lensの開発の原点に立ち返り、「持続可能性プログラムを10倍化する」という野心的な目標について説明がありました。この「10倍化」とは単に作業速度を10倍にするという意味ではなく、持続可能性プログラムの効率、範囲、影響力を総合的に拡大することを意味しています。
持続可能性研究は年間を通じて行われる活動であり、企業は一年中様々なタイミングでSustainable Lensのようなソリューションを必要とします。サステナビリティ開示のための調査・執筆、内部ステークホルダーからの質問への対応など、年間を通じて多くの作業が発生します。Sustainable Lensはこれらの作業全般に対応し、研究実行にかかる時間を劇的に短縮します。
97%の時間短縮という具体的な数値で示されるように、このツールは持続可能性の専門家が従来数日かかっていた作業を数分で完了することを可能にしました。しかし、Stillerが強調したかったのは単なる時間短縮ではなく、その先にある可能性です。
Marvell Technologiesの担当者Aluaが指摘したように、このツールの最大の価値は、マネージャーが「時間とリソースの優先順位を付け、より労力を要するデータ分析作業をAIにアウトソースする」ことができるようになった点にあります。これにより、持続可能性の専門家は「日常的な業務ではなく、より実質的な持続可能性プロジェクトに取り組む」ことが可能になります。
つまり、Sustainable Lensの目指す「10倍化」とは、単に同じ作業をより速く行うことではなく、持続可能性チームがより戦略的で影響力のある活動に注力できるようになることを意味しています。面倒なデータ分析作業から解放されることで、実際に企業や社会の持続可能性を前進させる具体的なプロジェクトに取り組む時間が生まれます。
これこそがNasdaq Sustainable Lensが目指す真の価値提案であり、持続可能性プログラムの質と範囲を「10倍化」することで、企業がより効果的に環境・社会課題に対応できるようになることを目指しています。Stillerの発表は、このビジョンの実現に向けた具体的な一歩としてSustainable Lensを位置づけ、今後もこの方向性で開発を続けていく意向を示して締めくくられました。