※本記事は、2024年11月のMicrosoft Igniteにて配信されたキーノートプレゼンテーションの内容を基に作成されています。オリジナルの動画はMicrosoft EventsのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。 本記事では、シカゴで開催されたMicrosoft Ignite Day 1のライブストリーミングから、AI時代におけるMicrosoftのプラットフォーム戦略に関する内容を要約しております。なお、本記事の内容は原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご覧いただくことをお勧めいたします。
【登壇者】
- Satya Nadella氏(Microsoft CEO):2014年よりMicrosoftのCEOを務め、クラウド、AI、そしてインテリジェントエッジの時代におけるMicrosoftの変革を主導。
- Scott Guthrie氏(Microsoft EVP Cloud and AI):Azureクラウドプラットフォームの開発を指揮し、MicrosoftのクラウドおよびAI戦略を統括。
- Rajesh Jha氏(Microsoft EVP Experiences and Devices):Microsoft 365やCopilotなど、次世代の生産性ツールとデバイス戦略を担当。
1. AI時代の基本原則と戦略(Microsoft CEO: Satya Nadella)
1.1. スケーリング法則の進化
1.1.1. 6ヶ月ごとの性能倍増の観察
AIの性能向上に関する新しいスケーリング法則について説明したいと思います。従来のムーアの法則では18ヶ月ごとの性能倍増が観察されていましたが、AI分野では約6ヶ月ごとに性能が倍増するという新しい傾向が見られています。
ここ数週間、このスケーリング法則に関して多くの議論が交わされており、特に「スケーリングの限界に達したのではないか」という議論が活発になっています。しかし、重要な点は、これらのスケーリング法則は物理法則ではなく、あくまでも経験的な観察結果だということです。これはムーアの法則と同様で、特定の期間において成り立つ経験則として捉えるべきものです。
このような懐疑的な議論が存在することは、むしろポジティブに捉えています。なぜなら、これがモデルアーキテクチャ、データレジーム、システムアーキテクチャなどの分野でより多くのイノベーションを促進するからです。スケーリング法則に対する健全な懐疑は、技術の進化を加速させる原動力となるのです。
32年前、この同じシカゴのカンファレンスセンターでWindows 3.1を発表した時のように、私たちは今また大きなプラットフォームの転換点に立っています。2015年にシカゴでIgniteが始まった時はクラウドコンピューティングの真っ只中でした。そして今、AIの真っ只中で再びここに集まっているのです。このような歴史的な転換点に立ち会えることは、非常に刺激的な経験です。
1.1.2. テストタイム/推論時の新しいスケーリング法則
私たちは、テストタイム(推論時)の計算に関する新しいスケーリング法則の出現を観察しています。この新しいスケーリング法則は、OpenAI GPT-4を好例として説明できます。
私たちが開発したCopilotの「Think Harder(より深く考える)」機能は、このGPT-4の能力を活用して構築されています。この機能は、テストタイム、つまり推論時の計算能力を活用して、より複雑な問題を解決することを可能にしています。
従来のスケーリング法則が事前学習時の計算リソースに焦点を当てていたのに対し、この新しいスケーリング法則は推論時の計算能力に着目しています。これにより、モデルは実行時により多くの計算リソースを活用して、より高度な問題解決が可能になります。
この進化は、AIシステムの能力が単にモデルサイズや学習データ量だけでなく、推論時の計算能力によっても大きく向上できることを示しています。これは、より効率的で柔軟なAIシステムの開発につながる重要な発見です。
このような新しいスケーリング法則の発見は、AIの進化が複数の方向性で同時に進んでいることを示しており、今後のAI開発における新たな可能性を示唆しています。
1.2. AIの3つの基本能力
1.2.1. マルチモーダルインターフェース
私たちが観察しているAIの進化において、3つの基本能力が指数関数的に向上しています。その最初の能力が、マルチモーダルインターフェースです。
このインターフェースは、音声、画像、動画を入力としても出力としても扱える新しい普遍的なインターフェースとして進化しています。従来のAIシステムがテキストのみを扱うことが多かったのに対し、現在のAIは様々なメディアタイプを同時に理解し、処理することができます。
特筆すべきは、このインターフェースが単なる入出力の機能を超えて、異なるモダリティ間の相互変換や統合的な理解を可能にしていることです。例えば、画像を見て自然言語で説明したり、テキストの説明から画像を生成したりすることができます。
これは、人間とAIのインタラクションに革命的な変化をもたらしています。ユーザーは自然な形で、様々な形式の情報をAIシステムとやり取りすることができ、より直感的でシームレスなコミュニケーションが可能になっています。
このマルチモーダル能力は、ビジネスアプリケーションから教育、エンターテインメントまで、幅広い分野での応用を可能にし、AIの利用シーンを大きく拡大しています。
1.2.2. 推論・計画能力
AIの第二の基本能力として、新しい「ニューラル代数」を活用した推論・計画能力の飛躍的な向上について説明します。
この能力は、複雑な問題を解決するための新しい数学的手法を提供しています。特に革新的なのは、人、場所、物事の間のパターンを検出し、それらの関係性を見出す能力です。従来の単純なパターンマッチングを超えて、より深い文脈理解と関係性の把握が可能になっています。
例えば、ビジネスプロセスの中で、異なるデータソースからの情報を組み合わせて意思決定を行ったり、複数のステップにわたる計画を立案したりすることができます。このニューラル代数は、人間の思考プロセスに近い形で、複雑な問題を分解し、解決策を見出すことを可能にしています。
さらに重要なのは、この推論能力が静的なものではなく、新しい情報や状況に応じて動的に適応できることです。これにより、リアルタイムでの問題解決や、予期せぬ状況への対応が可能になっています。
この能力は、特にビジネス環境における意思決定支援や、複雑なワークフローの最適化において、大きな価値を提供しています。人間の意思決定を支援し、より効率的で効果的な問題解決を実現することが可能になっているのです。
1.2.3. 長期記憶と文脈理解
AIの第三の基本能力として、長期記憶を活用した豊富な文脈理解と、ツールの使用を学習する能力について説明します。
この能力は、従来のAIシステムが持っていた短期的な文脈理解の限界を超えるものです。現在のAIは、長期にわたる情報を保持し、それを適切なタイミングで活用することができます。これにより、過去の対話や作業の文脈を維持しながら、より一貫性のある応答や判断が可能になっています。
特に革新的なのは、AIがツールの使用方法を学習し、それを適切に活用できるようになった点です。これにより、AIは単なる情報処理だけでなく、実際のタスクの実行や、複数のツールを組み合わせた複雑な作業の遂行が可能になっています。
これら3つの能力を組み合わせることで、私たちは仕事や生活の中で、チーム、ビジネスプロセス、組織全体にわたって活動できるAIエージェントの豊かなエコシステムを構築することができます。これらのエージェントは、私たちの代わりに行動し、より効率的で効果的な業務遂行を支援します。
シカゴ大学の哲学者ジョン・ホーガン教授が50年前に述べた「人工知能の問題は、コンピュータが気にかけないことだ」という言葉を引用しましたが、この言葉は今でも重要な意味を持っています。私たちはこの急速な変化の中でも、人々と組織の可能性を最大限に引き出すという私たちのミッションに忠実であり続けます。テクノロジーのための技術ではなく、実際の成果に結びつけることが重要なのです。この観点から、私たちは3つのプラットフォーム、すなわちCopilot、Copilotデバイス、CopilotとAIスタックを構築しています。
2. 3つの主要プラットフォーム戦略
2.1. Copilot(Microsoft EVP, Experiences and Devices: Rajesh Jha)
2.1.1. Microsoft 365との統合
Copilotは発表から1年が経過し、多くの組織で急速に採用が進んでいます。これは、ITプロフェッショナル、サポートスタッフ、エンジニア、パートナー、CIO、そして技術コミュニティ全体の皆様のご支援なしには実現できませんでした。
私たちは、何億人もの人々が日々使用するMicrosoft 365アプリケーション - Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams - にCopilotを深く統合しました。さらに統合は、OneNote、Stream、Forms、OneDriveなど、より多くのアプリケーションに拡大しています。
特筆すべき重要な発表として、今後数ヶ月の間にMicrosoft 365アプリケーションのアイコンを新しいMicrosoft 365 Copilotアイコンに変更することを決定しました。これは、CopilotがMicrosoft 365の中核的な機能となったことを示すものです。
Copilotの特徴的な点は、3つのレベルでのデータ基盤(グラウンディング)にあります:
- ウェブ全体の理解
- 個人の作業コンテキスト(協働者、作業内容、会議、メール、会話、文書など)を含むMicrosoftグラフの活用
- 組織のビジネスアプリケーションデータとの接続。既に数百のコネクタが利用可能で、さらに追加予定です。
データの取り扱いについて、重要な点を強調させていただきます。Microsoftは、メール、文書、会議と同様に、Copilotのプロンプトやレスポンス、データフローを扱います。Microsoftはデータプロセッサとしての役割を果たし、お客様のデータをモデルのトレーニングには使用しません。
GPT-4の導入と強化されたオーケストレーションにより、Copilotのパフォーマンスは劇的に向上しています。レスポンス速度は平均で2倍以上速くなり、レスポンスの満足度は約3倍向上しました。
これらの進化により、Copilotは単なるAIアシスタントを超え、AIケイパビリティへのユーザーインターフェースとして、また仕事の進め方を組織する新しい層として急速に発展しています。
2.1.2. Copilotアクション機能
本日、私たちはCopilot Actionsを発表できることを大変嬉しく思います。このアクションは、日々の反復的なタスクに費やす時間を削減するための革新的な機能です。
Copilot Actionsは、Outlookルールのように考えていただくとわかりやすいのですが、AIの時代に合わせて進化させ、Microsoft 365システム全体で機能するように設計されています。チームからのステータス更新の要求、週次レポートの作成、ドキュメントへのフィードバック依頼、メールのスケジューリングなど、あらゆる作業を自動化することができます。
具体的な例をお示ししましょう。週次のステータスメールの作成を考えてみます。通常、これには様々な関係者から更新情報を収集する必要があり、時間のかかるプロセスでした。Copilot Actionsを使用すると、以下のような自動化が可能です:
- アクションのパラメータと実行頻度を設定
- Copilotが自動的にチームメンバーに連絡を取り、ステータス更新を要求
- 未回答者への自動フォローアップ
- 収集した情報を統合し、編集可能なメールの形で提供
これらのアクションは、Microsoft 365アプリから直接アクセスでき、テンプレートから作成するか、完全にカスタマイズして作成することができます。また、すべてのAI自動化を単一のダッシュボードで管理でき、アクションの実行、スケジュール設定、オン/オフの切り替えが可能です。
このように、Copilot Actionsは単なるパーソナルAIアシスタントを超え、AIケイパビリティへのポータルとしても機能します。ユーザーは日常的なタスクを自動化し、より価値の高い業務に集中することができるようになります。
2.1.3. エージェント機能の拡張
私たちは、Copilotが個人のAIアシスタントとして機能する一方で、エージェントがチーム全体のビジネスプロセスを変革する重要な役割を果たすと考えています。本日、複数の新しいエージェント機能の導入を発表させていただきます。
まず、SharePointエージェントの導入について説明させていただきます。SharePointは毎日200万以上のサイトが作成され、20億以上のファイルがアップロードされる重要なプラットフォームとなっています。この膨大な組織の知識を活用するため、すべてのSharePointサイトに専用のエージェントを実装します。
SharePointエージェントの特徴は以下の通りです:
- サイト内のすべてのコンテンツに対する専門家として機能
- 既存の権限設定を継承した安全なアクセス制御
- ワンクリックでの特定コンテンツに特化したカスタムエージェントの作成
- Teamsチャット内での@メンション機能による簡単なアクセス
また、新たに以下の専門エージェントも導入します:
- ファシリテーターエージェント:会議の進行、チャットの管理、フォローアップ項目の追跡を支援
- プロジェクトマネージャーエージェント:Plannerと連携し、プロジェクト管理ワークフローを自動化
- セルフサービスエージェント:HR・IT関連の質問対応や業務支援を提供
これらのエージェントは、単なるチームメイトとしてだけでなく、組織の知識とプロセスを活用して、より効率的な業務遂行を支援します。特に重要なのは、これらのエージェントがCopilotと連携して動作し、必要に応じてユーザーとのインタラクションを行える点です。
このエージェント機能の拡張により、私たちは組織全体のワークフローを最適化し、従業員の生産性を向上させることができます。各エージェントは特定の役割に特化しながらも、Copilotのエコシステムの中で有機的に連携し、包括的なビジネスプロセスの自動化を実現します。
2.2. Copilotデバイス(Microsoft CEO: Satya Nadella)
2.2.1. Windows 365 Link
AIとクラウドの時代において、デバイスも根本的な変革を遂げています。私たちは、クラウドで起きていることをエッジにも展開し、これらを1つの連続的な分散コンピューティングファブリックとして機能させることを目指しています。
3年前、私たちはWindows 365でクラウドPC カテゴリーを導入しました。このサービスは、個人のWindowsデスクトップをクラウドから任意のデバイス(iOS、Android、さらにはメタクエストなどの複合現実ヘッドセット)にセキュアにストリーミングすることを可能にしました。
Windows 365の採用は急速に進み、前年比で3桁の成長を遂げています。Wells Fargo、Johnson & Johnson、Siemensなど、世界有数の企業で活用されています。特に、リモートワーカー、一時的な従業員、IT開発者向けのシナリオ、さらには災害復旧のユースケースでも大きな価値を提供しています。私自身、開発者デスクトップとしてWindows 365を活用しており、GitHub Codespaces、VS Code、Azure SDK、すべてのCLIが1か所で設定され、どこからでもアクセスできる環境を実現しています。
本日、私たちは次の大きな一歩として、Windows 365 Linkを発表できることを大変嬉しく思います。これは、Windows 365のためにデザインされた、シンプルで安全な専用デバイスです。その特徴は以下の通りです:
- 管理者レベルでパスワードレス認証を実現
- セキュリティ設定がデフォルトで有効化され、無効化できない設計
- クラウドの生産性環境に直接接続
- デバイス上にデータや情報を残さない完全なセキュリティ
このデバイスは、クラウドPCカテゴリーを拡張し、新しい選択肢を提供します。2024年4月より利用可能となる予定で、これにより組織はより柔軟で安全なエンドポイント戦略を実現できるようになります。
2.2.2. NPU搭載PCの展開
過去1年間で、私たちはAIの力を解き放つために設計された全く新しいクラスのWindows PCを導入してきました。これらの「Copilot Plus PC」と呼ばれるデバイスは、クラウドとエッジの間で分散コンピューティングファブリックを形成する重要な要素となっています。
このイニシアチブにおいて、私たちはシリコンイノベーションを加速させています。クラウドでの革新と同様に、クライアント側でも大きな技術革新が起きています。Qualcomm、AMD、Intelといった主要なシリコンパートナーと協力し、PCのための画期的なシステムを構築しています。
これらの新しいPCの最も重要な特徴は、40+ TFLOPSの性能を持つNPU(Neural Processing Unit)を搭載していることです。このAI処理能力は、クライアント側で高度なAI処理を実現し、クラウドのAI機能を補完します。
また、これらのPCは性能だけでなく、バッテリー寿命や基本的な動作性能においても最高水準を達成しています。NPUの追加は単なる機能追加ではなく、Windows PCとしての基本性能も大幅に向上させています。
開発者エコシステムの観点では、32年前のWindows 3.1でアプリケーションが重要だったように、現在もアプリケーション開発が重要な役割を果たしています。AdobeやWhatsAppなどの主要開発者が、これらの新しいPCのNPU機能を活用して、画期的なAIエクスペリエンスを提供する最高のアプリケーションを開発しています。
このように、Copilot Plus PCは、ハードウェア、ソフトウェア、開発者エコシステムが一体となって、新しいAI時代のコンピューティングプラットフォームを形成しています。これは、クラウドのAI機能をエッジで補完し、より豊かなユーザーエクスペリエンスを実現する重要な一歩となっています。
2.2.3. デバイスセキュリティ強化
Windowsのミッションクリティカルな重要性を認識し、私たちはセキュリティとレジリエンスを最優先事項として位置付けています。最新のWindows 11リリースでは、12以上の新しいセキュリティ機能を導入し、その全てをデフォルトで有効化しています。特に、すべてのデバイスでデバイス暗号化をデフォルトで有効にしたことは、大きな前進です。
本日、私たちは新しいWindows Resiliency Initiativeを発表します。これは、お客様のミッションクリティカルなワークロードに対して、Windowsをより安全で信頼性の高いプラットフォームにするという私たちのコミットメントを示すものです。このイニシアチブの一環として、以下の変更を実施します:
- オペレーティングシステムの低レベルアクセスに関する変更
- エコシステム全体と協力した新機能の導入
- 安全な展開プラクティスのための新しいガイドラインの確立
特筆すべき革新の一つが、Windows Hot Patchです。これは、再起動を必要とせずにセキュリティ更新プログラムを適用できる機能です。Windows全体のシステム状態で動作し、Patch Tuesdayの更新プログラムを即座に適用することで、Day One保護を実現します。実際の運用では、更新プログラムの展開を65%以上高速化し、再起動の必要性を大幅に削減することができます。
さらに、クラウドとクライアントの両方でWindowsのセキュリティとレジリエンスを強化しています。Windows 365を使用するお客様は、ポイントインタイムリストア機能により、数分で復旧が可能になり、クラウドPCを正確に以前の状態に戻すことができます。
これらの機能強化により、Windowsで実行される重要なワークロードに対して、包括的なセキュリティとレジリエンスのソリューションを提供します。これは、現代のサイバーセキュリティの課題に対する私たちの継続的な取り組みの表れです。
2.3. CopilotとAIスタック(Microsoft EVP Cloud + AI: Scott Guthrie)
2.3.1. Azure AI Foundry
本日、私たちはAzure AI Foundryの提供開始を発表できることを大変嬉しく思います。Azure AI Foundryは、AIアプリケーションの次世代を設計、カスタマイズ、管理するための包括的なプラットフォームです。これは、まさにAI時代のための本格的なアプリケーションサーバーと言えます。
Azure AI Foundryは、Microsoftが提供するすべてのCopilotの基盤となっているプラットフォームです。既に世界中の数千万のユーザーと組織にサービスを提供している実績があり、そこで得られた知見と技術が組み込まれています。現在、60,000以上の企業がAzure AIを活用してビジネスインパクトを創出しています。
AIの開発環境は非常に複雑化しており、93%のユースケースで3つ以上のAIモデルプロバイダーが使用されています。また、初期のAIプロジェクトの80%が期待を満たせていないという現状があります。この複雑さに対処するため、Azure AI Foundryは以下の機能を統合しています:
- モデル:Azure Open AI Serviceを含む1,800以上のモデルカタログ
- ツール:GitHub、Visual Studio、Copilot Studioとの統合
- 安全性:包括的な安全性評価とモニタリングソリューション
- 開発環境:最も一般的な開発者ツールとの統合
特筆すべき点として、Azure Open AI Serviceは28以上のリージョンで利用可能で、各リージョンでデータレジデンシーを提供しています。また、最新のOpenAIモデルに対して無制限のスループットを提供し、オフピーク時には50%の価格割引を実現するバッチ処理機能も提供しています。
Azure AI Foundryは、エンタープライズグレードのセキュリティ制御とコンプライアンス保証を備え、業界をリードするSLAによってサービスを保証します。これにより、組織はAIワークロードを効率的にスケールさせることが可能になります。
2.3.2. 開発者ツールの統合
私たちは、AIを活用した統合開発プラットフォームとしてGitHubを進化させてきました。特にGitHub Copilotは、開発者の生産性を劇的に向上させるAIペアプログラミングツールとして、大きな成果を上げています。開発者のコード作成速度は55%以上向上し、85%の開発者がコード品質への自信を高め、75%が仕事の充実度が向上したと報告しています。
現在の導入状況を見ると、Airbnbでは週次で約70%の開発者が活用し、Shopifyでは1日あたり最大25,000行のCopilot生成コードが実装に至っています。Microsoftの開発者も今年だけで7,900万行以上のCopilot生成コードを採用するなど、70,000以上の組織で活発な利用が進んでいます。
本日発表する新機能では、VS CodeでのOpenAI GPT-4やAnthropicのClaude 3.5 Sonnetなど、複数のモデル選択が可能になります。また、自然言語チャットを使用した複数ファイルにまたがるコード変更や、プルリクエストの人間レビュー待機中にCopilotが初期コードレビューを実施する機能も追加されます。
セキュリティ面では、GitHub Advanced Securityを通じて、AIを活用した脆弱性の自動分析とリスクコードの特定、修正提案を実現しています。さらに、GitHub Copilot for Azureにより、AzureでのAIアプリケーション開発プロセスを簡素化し、GitHubとAzureの統合によるシームレスな開発体験を提供しています。
2.3.3. データプラットフォームの進化
データはAIの燃料であり、AIアプリケーションを構築するためには、データを効果的にAIコンピューティングと結び付ける必要があります。Microsoft Intelligent Data Platformは、組織がデータを効率的に管理・活用できるよう設計された統合スイートです。
本日、私たちはFabric databasesを発表します。これは、従来別々に必要だった運用ストアと分析ストアを統合する画期的な取り組みです。その第一弾として、SQL Databaseを公開プレビューとして提供開始します。このデータベースは、SQL Serverエンジンをベースに構築され、数秒でプロビジョニング可能で、デフォルトでセキュアな環境を提供します。
SQL Database in Fabricの特徴的な点は、OLTPアプリケーション用のデータベースを自動的にプロビジョニングしながら、同時にFabricの分析ワークロードへの接続も確立することです。これにより、運用データと分析データを一元的に管理できます。開発者ツールとしてVS CodeやGitHubとの統合も実現し、AIソリューションの構築をよりスムーズにしています。
また、Vector検索のスケーラビリティも強化しています。Microsoftリサーチが開発したDISN技術は、Bingで4,000億以上のベクトルインデックスを処理し、1万回以上のリアルタイム更新と10ミリ秒未満のクエリレイテンシを実現しています。この高性能なVector検索技術を、PostgreSQLとCosmos DBを含むAzureデータベースに提供開始します。
このように、Fabricは運用データと分析データを統合し、AIワークロードに最適化された統一的なデータプラットフォームとして進化を遂げています。これにより、組織はより効率的にAIソリューションを構築・展開できるようになります。
3. セキュリティとガバナンス
3.1. Secure Future Initiative
3.1.1. 34,000エンジニアの投資(Microsoft EVP Security: Charlie Bell)
AIの新時代において、セキュリティはその基盤となる最も重要な要素です。2023年11月にSecure Future Initiative(SFI)を立ち上げて以降、私たちは大規模な投資を継続しています。具体的には、34,000人のエンジニアに相当するリソースをこのイニシアチブに投入し、Microsoftの全従業員にとっての最優先事項として位置付けています。
この投資規模は、セキュリティに対する私たちのコミットメントを示すものです。SFIは、レジリエンスと透明性に重点を置き、グローバルなセキュリティエコシステムにおける私たちの役割を強化することを目的としています。
昨年9月に発行した最初のレポートでは、あらゆる領域における洞察と、実装戦略、そしてセキュリティインシデントから得られた重要な教訓を共有しました。このレポートは現在もウェブサイトで公開されており、私たちの取り組みの透明性を示すものとなっています。
今回のIgniteでは、これらの領域における最新の知見、実装戦略、そしてセキュリティインシデントから学んだ教訓を共有します。これらの情報は、私たちのお客様が自社の環境をより安全に保つための重要な指針となります。
この大規模な投資により、セキュリティはもはや付加的な機能ではなく、製品設計、構築、テスト、運用の全段階における中核的な要素として位置付けられています。34,000人規模のエンジニアリングリソースは、AIの進化に伴う新たなセキュリティ課題に対応し、より安全なデジタル環境の構築を可能にします。
3.1.2. セキュリティインシデントからの学習(Microsoft EVP Security: Charlie Bell)
Midnight Blizzardによるサイバー攻撃から、私たちは非常に重要な教訓を学びました。この経験は決して心地よいものではありませんでしたが、高度な攻撃者がどのように環境を悪用しようとするかについて、貴重な知見を得ることができました。
この攻撃の特徴は、事前に計画され、段階的に実行され、高速な横展開を伴う点でした。攻撃者は複数のタイムゾーンから24時間体制で活動していました。私たちは既存のセキュリティツールからの情報に加えて、レッドチームの攻撃グラフ(私たちの模擬攻撃操作をサポートするために維持していたデータベース)を活用することで、より効果的な対応が可能になりました。
この攻撃者の理解とグラフを組み合わせることで、攻撃者が将来的に使用する可能性のある経路を予測し、リアルタイムで新しい防御策を実行することができました。具体的には、グラフの各エッジを閉じることで、攻撃者の潜在的な進行経路を着実に遮断していきました。
さらに、研究所のジェネレーティブAIツールを活用して、潜在的に露出した認証情報を特定することもできました。この経験は、日常的な活動とリスクの高い活動を区別し、異常を検出する能力の重要性を再認識させるものでした。
最も重要な学びは、分野間、組織間、技術スタック間のサイロを解消することの重要性です。エンドツーエンドのセキュリティを実現するために、私たちは攻撃グラフを通じてこれを実現しました。また、セキュリティにおけるイノベーションは多様な源泉から生まれることを認識し、Cisco、Rubrik、Illumio、OnTrust、Wiz等の300以上のパートナーとインテリジェントセキュリティアソシエーションを形成しています。オープンスタンダードと相互運用性は、セキュリティ分野で特に重要だと考えています。
3.1.3. グローバルセキュリティエコシステムの構築(Microsoft CVP Security, Compliance, Identity and Management: Vasu Jakkal)
SFI(Secure Future Initiative)の一環として、私たちはグローバルなセキュリティエコシステムの構築を進めています。4年前、私たちはセキュリティを統合・簡素化する取り組みを開始し、組織のデジタル資産を保護するためのポートフォリオを構築してきました。
このポートフォリオは、以下の主要コンポーネントで構成されています:
- Defenderによる脅威保護とクラウドセキュリティ
- Sentinelによるセキュリティ運用
- Purviewによるデータセキュリティとガバナンス
- Entraによるアイデンティティとアクセス
- InTuneによるデバイス管理
これらの製品は、Microsoftの自社環境でも広く活用されています。例えば、Defenderで約150万のエンドポイントを保護し、Sentinelでは週に225テラバイトのデータを取り込んでセキュリティ運用に活用しています。また、Purviewでは72,000以上のSharePointサイトのデータを保護しています。
昨年導入したSecurity Copilotは、業界初のジェネレーティブAIセキュリティ製品として、セキュリティチームがマシンスピードとスケールで防御を行うための強力なツールとなっています。
さらに、組織のセキュリティ態勢を積極的に管理することの重要性を認識し、本日、Microsoft Security Exposure Managementの一般提供を開始します。この製品は、攻撃者の視点から組織の潜在的な攻撃経路を可視化し、重要な資産へのアクセス経路を理解することを可能にします。
このように、私たちは包括的なセキュリティエコシステムを通じて、お客様が直面する複雑なセキュリティ課題に対応できるプラットフォームを提供しています。セキュリティはチームスポーツであり、このエコシステムを通じて、より強固な防御体制を構築することが可能になります。
3.2. AI時代のセキュリティ対策
3.2.1. Purviewによるデータガバナンス(Microsoft CVP Security, Compliance, Identity and Management: Vasu Jakkal)
今年5月以降、私たちはプリビルトおよびカスタムビルドAIのセキュリティとガバナンスをサポートする30以上の機能を提供してきました。特に、企業におけるデータ量とデータ活動の把握が困難になっている現状において、ジェネレーティブAIの採用によってこの課題はさらに拡大しています。実際、84%の組織がAIツールの危険な使用に対する保護を強化する必要性を認識しています。
この課題に対応するため、本日、Microsoft Purviewデータセキュリティポスチャー管理を発表します。この機能は、組織のデータセキュリティリスクを優先順位付けして可視化することを可能にします。先ほどの攻撃経路の分析で示したように、ポスチャーは潜在的な攻撃経路を理解する上で重要です。
新しいデータポスチャー管理は、ジェネレーティブAIを含む企業全体のデータ資産を包括的にカバーします。さらに、組織のデータセキュリティ管理者は、内蔵されたSecurity Copilotを活用することで、即座に明らかにならないリスクを容易に発見することができます。
Microsoft 365 Copilotに対する新しい制御機能も導入し、データの過剰な共有を防止します。例えば、Purviewがラベル付けされていない機密情報を含むファイルを検出した場合、管理者にその状況を通知し、データ保護の手順とCopilotを通じた未承認アクセスを防ぐポリシーの作成をガイドします。
また、Copilotやその他のAIアプリの危険な使用も検出可能です。例えば、退職予定の従業員が過去の使用パターンと大きく異なる方法でCopilotを使用し、過剰な権限を持つSharePointサイトから機密データにアクセスしようとした場合、同じインサイダーリスク管理とデータ保護の制御が適用されます。
これらの機能は、Copilot Studioで構築されたカスタムエージェントにも標準で統合されており、組織全体のAIセキュリティを包括的に管理することが可能になっています。
3.2.2. AIモデルの安全性評価(Microsoft EVP Security: Charlie Bell)
私たちは、AIモデルの安全性評価において包括的なアプローチを採用しています。具体的には、Azure AI Foundryにおいて、新しい安全性評価機能を導入しています。この機能は、開発者がAIソリューションの安全性、セキュリティ、責任ある使用を確保するために不可欠なものです。
特筆すべき新機能として、画像コンテンツに対するリスクと安全性の評価を導入しました。これは、マルチモーダルAIの普及に伴い、重要性を増している分野です。この評価システムは、画像コンテンツが組織のポリシーや安全基準に準拠しているかを自動的に検証します。
また、AIモデルが生成する出力の操作を検出・ブロックする機能も強化しています。これには、プロンプトインジェクション攻撃の検出や、ビジネスコンテンツの不正使用の防止が含まれます。特に、Prompt Shieldという新しい保護機能は、AIモデルの出力操作を防ぐ重要な役割を果たしています。
さらに、AIモデルの動作を継続的にモニタリングし、評価するための包括的なツールセットも提供しています。これにより、開発者は自社のAIアプリケーションが意図した通りに機能し、安全に運用されていることを確認できます。
これらの評価機能は、GitHubの開発環境に直接統合されており、開発者は普段使用しているツールの中でAIの安全性を確保することができます。これにより、セキュリティはAIアプリケーション開発ライフサイクルの不可欠な部分となっています。
3.2.3. Zero Day Questの開始(Microsoft CEO: Satya Nadella)
本日、私たちは業界最大規模のパブリックハッキングイベント「Zero Day Quest」の開始を発表します。このイベントは、クラウドとAIのセキュリティに特化し、総額400万ドルの報奨金を提供します。これは、公開ハッキングイベントとしては業界最高額の報奨金となります。
Zero Day Questは本日から開始され、来年に開催される対面イベントでクライマックスを迎えます。このイニシアチブの特徴は、従来の脆弱性報奨金プログラムとは異なり、クラウドとAIに特化した新しいセキュリティ課題に焦点を当てていることです。
このプログラムの目的は、セキュリティ研究者やホワイトハットハッカーのコミュニティと協力して、次世代のクラウドとAIプラットフォームのセキュリティを強化することです。私たちは、セキュリティはチームスポーツであるという信念のもと、グローバルなセキュリティコミュニティとの協力を重視しています。
参加者たちは、最新のAIシステムやクラウドインフラストラクチャに対する新しい攻撃手法の発見に挑戦します。発見された脆弱性は、製品やサービスの改善に直接活かされ、より安全なデジタル環境の構築に貢献します。
この取り組みは、私たちのセキュリティへの投資と、オープンな協力関係を通じてセキュリティを強化するという commitment を示すものです。セキュリティコミュニティの英知を結集し、AIとクラウドの新時代におけるセキュリティ課題に立ち向かっていきます。
4. 実装と成果事例
4.1. 企業導入事例
4.1.1. Bank of Queensland Groupのリスク分析改善(Microsoft CEO: Satya Nadella)
製造業におけるリーン生産方式のように、AIは知的労働を変革しています。その具体例として、Bank of Queensland Groupのリスク分析における革新的な取り組みを紹介したいと思います。
従来、インシデントが発生した際のリスク分析プロセスは、数千もの文書を精査し、詳細なレポートを作成する必要があり、非常に時間のかかる作業でした。しかし、Copilotの導入により、このプロセスは劇的に効率化されました。
Copilotは、インシデントに関連するすべての文書を包括的に分析し、何が起こったのかを自動的に要約することができます。その結果、これまで数週間を要していた分析作業がわずか1日で完了できるようになりました。
特筆すべきは、このシステムが単なる時間短縮だけでなく、分析の質も向上させている点です。Copilotは複数の情報源から包括的な視点を提供し、人間の分析官がより戦略的な判断に集中できるようになりました。また、リスク評価の一貫性も向上し、より正確で信頼性の高いリスク管理が可能になっています。
この事例は、AIが金融機関のリスク管理プロセスを根本的に変革し、効率性と正確性の両面で大きな改善をもたらすことができることを示しています。Bank of Queensland Groupの成功は、他の金融機関にとっても、AIを活用したリスク管理の変革の可能性を示す重要なベンチマークとなっています。
4.1.2. Voneの契約管理自動化(Microsoft CEO: Satya Nadella)
通信インフラ企業のVoneが実現した契約管理の自動化事例を紹介します。Voneの法務チームは、大規模な基地局ネットワークを管理するために、数千件もの契約書の分析、作成、再交渉を手動で行う必要がありました。この作業は膨大な時間と労力を必要としていました。
Copilotを導入後、法務チームは契約書の分析を自動化することに成功しました。システムは契約の更新が必要なものと廃止すべきものを自動的に判別し、さらに有効期限の追跡も行います。これにより、契約管理プロセス全体の効率が劇的に向上しました。
さらに、Voneはカスタマーサービスの分野でもAIを活用しています。Azure AIとCopilotを組み合わせることで、顧客問い合わせの対応を個別化することに成功しました。彼らの仮想アシスタントは現在、毎月4,500万件以上の顧客とのやり取りを処理しています。特筆すべき成果として、平均保留時間を1分以上短縮することができました。
この自動化の成功により、法務チームは戦略的な契約交渉やより複雑な法的課題に注力できるようになりました。また、カスタマーサービスチームは、より複雑な問い合わせや、より深い顧客との関係構築に時間を費やすことが可能になっています。
Voneの事例は、AIによる自動化が、単なる効率化だけでなく、業務の質的な向上にもつながることを示しています。特に、大規模な契約管理や顧客サービスのような複雑な業務プロセスにおいて、AIが重要な役割を果たすことができることを実証しています。
4.1.3. BlackRockのAladdin統合(BlackRock Head of Aladdin Engineering: Lance Braunstein)
私たちBlackRockは、5年前にデータセンタービジネスからの脱却というシンプルなビジョンを掲げてこの旅を始めました。プリエミアな投資プラットフォームであるAladdinを運営する私たちにとって、データセンター運用は本来の事業ではありませんでした。綿密な検討の結果、Azureを最適なパートナーとして選択し、以来、密接な協力関係を築いてきました。
この移行の成果は、「より良く、より強く、より速く」という言葉で表現できます。市場投入までの時間は、これまで四半期単位だったものが週単位に短縮されました。セキュリティ面では、すべてのデータを保存時と転送時に暗号化し、すべてのサービスを認証する体制を整えました。
特に重要な成果は、市場のストレステスト、特にインデックスのリバランスなどの高負荷時における対応能力の向上です。Azureへの移行により、このようなストレス状況下でもより効果的に対応できるようになり、パフォーマンスも大幅に改善されました。
Azureへの完全移行は今年完了しましたが、これは必ずしも容易な道のりではありませんでした。私はJudson、Satya、Scottからすれば、私たちは扱いの難しい顧客だったかもしれません。しかし、この協力関係を通じて、AzureとAladdinの両方が強くなったと確信しています。
生産性とアルファ(投資収益)の向上という2つの分野で、私たちは大きな成果を上げています。Microsoft 365、GitHub Copilot、そしてその他のツールを導入することで、各職種の生産性が飛躍的に向上しました。これらのツールは今後も進化し続けることを考えると、現在の成果は始まりに過ぎません。投資シグナルの面では、Azure MLと基盤モデルを活用することで、より多くのデータを投資ライフサイクルに組み込み、より強力な投資シグナルを生成できるようになっています。
4.2. 測定可能な成果(Microsoft EVP, Experiences and Devices: Rajesh Jha)
4.2.1. レスポンス速度2倍向上
Copilotの一般提供を開始してから1年が経過し、私たちは継続的な改善を重ねてきました。その中でも特に顕著な成果が、レスポンス速度の向上です。
GPT-4の導入と強化されたオーケストレーション技術により、Copilotのレスポンス速度は平均で2倍以上高速化されました。この改善は単なる技術的な進歩以上の意味を持ちます。ユーザーがCopilotとよりスムーズに対話できるようになり、思考の流れを途切れさせることなく作業を続けることが可能になったのです。
具体的な例として、Microsoft社内のセールスチームでは、この高速化により商談のクロージング率が20%向上し、営業担当者1人あたりの収益が9%増加しました。また、カスタマーサービスチームでは、ケース解決時間が12%短縮されました。
この成果は、基盤となるモデルの改善だけでなく、以下の要因によって実現されました:
- システムアーキテクチャの最適化
- キャッシング戦略の改善
- コンテキスト処理の効率化
- ネットワークレイテンシーの削減
これらの改善は、企業における実際の業務プロセスの効率化に直接的に寄与しています。例えば、以前は数時間かかっていたカスタマーアウトリーチが、現在では15分で完了できるようになりました。これは年間5,000万ドルの収益向上につながる重要な改善です。
4.2.2. レスポンス満足度3倍改善
Copilotの品質改善への継続的な取り組みの中で、最も顕著な成果の一つが、レスポンスに対するユーザー満足度の向上です。GPT-4の導入以降、私たちはレスポンスの質を徹底的に改善し、その結果、ユーザーの満足度は約3倍に向上しました。
この dramatic な改善は、単なるモデルの性能向上だけでなく、ユーザーコンテキストの理解度を深めた結果です。Microsoft Graph を通じて、ユーザーの作業環境、コラボレーション履歴、ドキュメント群を包括的に理解し、より的確な提案や回答を提供できるようになりました。
具体的な改善例として、Microsoftのマーケティングチームでは、コンバージョン率が21%向上し、HR部門では従業員からの問い合わせに対する回答の正確性が42%向上しました。これらの数値は、Copilotの回答がより実用的で、ユーザーのニーズに即したものになっていることを示しています。
このような満足度の向上は、業務効率の改善だけでなく、AIツールに対するユーザーの信頼感も高めています。結果として、より多くのユーザーがCopilotを日常的な業務ツールとして活用するようになり、組織全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させています。
4.2.3. コストと効率性の改善データ
私たちはCopilotの導入による具体的な効果を、複数の大手企業との協業を通じて測定してきました。その結果、生産性と効率性において顕著な改善が確認されています。
Finestraのマーケティングチームは、これまで7ヶ月かかっていた作業を7週間で完了できるようになりました。Standard Bankでは、ヘルプデスクエージェントが問い合わせの99%を自動的に解決できるようになり、人的リソースを他の重要業務に振り分けることが可能になりました。McKinseyでは、新規クライアントのオンボーディング時間を90%削減することに成功しました。
大規模な組織での効果も顕著です。PPGでは、日常的な業務タスクをCopilotとエージェントでサポートすることで、年間7,500万ドルのコスト削減を実現しました。Visaは技術文書の品質を向上させ、カスタマーサポートの効率を20%向上させ、顧客満足度を3ポイント向上させました。Honeywellでは、Copilotの生産性向上効果は187人分のフルタイム従業員に相当すると算出しています。
これらの成果は偶然ではありません。Fortune 500企業の約70%がすでにCopilotを活用しており、より賢明な働き方、より多くの顧客へのサービス提供、より大きな価値の創出を実現しています。Microsoft自身も顧客ゼロとしてCopilotを活用し、これらの改善を実証してきました。
このように、Copilotの導入による効果は、単なる作業時間の短縮だけでなく、業務品質の向上、顧客満足度の改善、そして最終的には大規模なコスト削減として具体化されています。これらの測定可能な成果は、AIが企業の業務変革に実質的な価値をもたらすことを明確に示しています。
5. 技術基盤の強化
5.1. インフラストラクチャ(Microsoft CEO: Satya Nadella)
5.1.1. 15カ国でのデータセンター拡張
私たちは、世界のコンピュータとしてのAzureの役割を強化するため、過去1年間で15カ国にまたがる大規模なデータセンター投資を実施してきました。この拡張により、現在60以上のデータセンターリージョンを運営しており、これは他のいかなるプロバイダーよりも多い規模となっています。
特筆すべきは、これらのデータセンターの持続可能性への取り組みです。特に、バージニア北部に建設した2つの新しいデータセンターでは、低炭素クロスラミネート木材を使用した建設を実現しました。この新しい建設モデルにより、従来の鉄骨構造と比較して、データセンターの体現炭素排出量を35%削減することに成功しました。
この拡張は単なる規模の拡大ではありません。「データセンターがコンピュータである」という考えのもと、建設段階から運用に至るまで、システム全体を最適化する取り組みを行っています。これにより、AIワークロードに必要な大規模な計算能力を、環境に配慮しながら提供することが可能になっています。
今回の拡張により、より多くの地域でデータレジデンシーを提供し、低レイテンシーでのサービス提供が可能になりました。6大陸にまたがるこの包括的なデータセンターネットワークは、グローバルなAIの展開とエッジコンピューティングの基盤となっています。
5.1.2. ホロコアファイバー技術の実装
ネットワークレベルでの革新として、ホロコアファイバー技術の実装を進めています。この技術は、速度、帯域幅、電力効率の面で画期的な進歩をもたらしています。従来の光ファイバーと比較して、光子がガラスではなく空気中を伝播するため、より高速な通信が可能になります。
今年初めには、光ファイバーにおいて史上最低レベルのファイバー損失を実証することに成功しました。この低損失特性は、データセンター間の接続において極めて重要な意味を持ちます。すでに複数の本番環境でホロコアファイバーのルートが稼働しており、今後24ヶ月の間に15,000キロメートル以上の追加展開を計画しています。
この技術の実装により、データセンター間の通信遅延を大幅に削減し、より効率的なデータ転送が可能になりました。これは特に、大規模なAIモデルの分散学習や、リアルタイムの推論処理において重要な利点となっています。
私たちの目標は、この革新的なネットワークインフラストラクチャを通じて、次世代のAIワークロードに必要な高速かつ信頼性の高い通信基盤を提供することです。ホロコアファイバーの展開は、その目標達成に向けた重要な一歩となっています。
5.1.3. Azure統合HSMの導入
シリコンイノベーションにおける私たちの取り組みには、セキュリティへの深いコミットメントが含まれています。本日、私たちの最初の自社開発セキュリティチップである「Azure Integrated HSM(Hardware Security Module)」を発表できることを嬉しく思います。
このHSMは、暗号化とキー管理、キー署名を強化する専用のハードウェアセキュリティモジュールです。最も重要な特徴は、デバイスの境界内でこれらの処理を実行できることです。これにより、パフォーマンスやセキュリティを損なうことなく、高度な暗号化処理が可能になります。
来年からは、Azureに展開される新しいサーバーすべてにこのHSMが標準搭載されることになります。これにより、機密計算と汎用仮想マシン、コンテナの両方でセキュリティが強化されます。特に、AIワークロードのセキュリティ要件が高まる中、このハードウェアレベルでの保護は極めて重要な意味を持ちます。
Azure Integrated HSMの導入は、単なるセキュリティ機能の追加ではありません。これは、クラウドインフラストラクチャ全体のセキュリティアーキテクチャを根本的に強化する取り組みの一環です。私たちは、この技術をベースに、より包括的なセキュリティソリューションの開発を進めていきます。
5.2. AIモデルとツール(Microsoft EVP Cloud + AI: Scott Guthrie)
5.2.1. 1,800以上のモデルカタログの提供
AIモデルの選択肢を最大限に提供することは、私たちの重要な責務だと考えています。Azure AI Foundryのモデルカタログには、現在1,800以上のモデルが登録されており、これはフロンティアモデル、オープンソースモデル、タスク特化型モデル、産業特化型モデルを網羅しています。
カタログには、OpenAI、Meta、Mistral、Cohere、NVIDIAなど、業界をリードする企業のモデルが含まれています。特にAzure OpenAI Serviceは28以上のリージョンで利用可能で、各リージョンでデータレジデンシーを提供しています。また、最新のOpenAIモデルに対して無制限のスループットを提供し、オフピーク時には50%の価格割引を実現するバッチ処理機能も備えています。
産業特化型モデルの分野では、Bayer、Page、Rockwell、Siemens、Sight Machinesなどのパートナーと協力し、特定の業界ユースケースに最適化された20以上の専門モデルを追加しました。これらのモデルは、それぞれの業界における特有の課題を解決するために設計されています。
モデルの選択は、コスト、レイテンシー、パフォーマンスなど、多様な要件を考慮して行う必要があります。私たちのカタログは、これらの要件に応じて最適なモデルを選択できるよう、包括的な情報と評価基準を提供しています。また、エンタープライズグレードのセキュリティ制御とコンプライアンス保証も備えており、業界をリードするSLAによってサービスを保証しています。
5.2.2. オープンソースモデルの統合
私たちは、オープンソースコミュニティとの協力を重視し、様々なオープンソースモデルをAzure AI Foundryに統合しています。現在、MetaやMistralが提供する最新のオープンソースモデルを完全にサポートしており、これらは私たちのモデルカタログの重要な部分を占めています。
特筆すべき例として、Azure Open AI Serviceの基盤インフラストラクチャで、AMDのMi 300 X GPUを活用している点が挙げられます。私たちは業界で初めてこのGPUを採用し、実際のFleetに組み込んで運用しています。また、オープンソースのタンパク質設計ツールであるRosetta Foldも、Azure AI Foundryのカタログで利用可能です。このツールは最近ノーベル化学賞を受賞したDavid Baker氏の研究成果であり、科学者が最も容易にアクセスできるツールの一つとなっています。
私たちは、これらのオープンソースモデルに対して、Azure独自の最適化とスケーリング機能を提供しています。これにより、オープンソースモデルでありながら、エンタープライズレベルのパフォーマンスと信頼性を実現しています。
また、オープンソースモデルのファインチューニングもサポートしており、53以上のモデルに対してエンドツーエンドのファインチューニング機能を提供しています。これにより、組織固有のニーズに合わせてモデルをカスタマイズすることが可能です。
5.2.3. モデル実験機能の追加
本日、Azure AI Foundryにモデル実験機能を追加することを発表します。この機能により、組織は複数のモデルを効率的に比較・評価し、特定のユースケースに最適なモデルを選択することが可能になります。
この実験機能の革新的な点は、初めて本番環境での実験を可能にしたことです。開発者は本番アプリケーションで、異なるプロンプトやモデルのバリアントをテストし、その効果を測定できます。システムは自動的にユーザーポピュレーションの一定割合に各バリアントを割り当て、実際の使用データを収集します。
評価指標は包括的で、以下の要素を測定します:
- チャットユーザー数
- 各バリアントの運用コスト
- レスポンス時間
- 安全性とエラー率
- ユーザーからの直接フィードバック
これらの指標に基づいて、開発者はデータに基づいた意思決定を行い、最適なモデルとプロンプトの組み合わせを選択することができます。また、この機能はWeights and Biasesとの新しい連携により、さらに強化されています。これにより、包括的なモデル追跡、評価、最適化のためのツールスイートが提供され、Azure OpenAI Serviceとシームレスに統合されています。
このように、モデル実験機能は、組織がAIソリューションを継続的に改善し、最適化するための強力なツールとなっています。