※本記事は、スタンフォード大学オンラインで公開されているウェビナー「Tailoring Your Product Strategy: Tips for Early-Stage Startups, Scaling Up, and Mature Organizations」の内容を基に作成されています。講演者のDonna Nitzki氏は起業家、CEO、CMOとしての経験を持ち、Sun Microsystemsのプロダクトマネージャーとしてのキャリアをスタートし、その後ベンチャーキャピタルのパートナーを務め、スタンフォード大学で20年近く教鞭を執っています。Laura Marino氏はNubankのゼネラルマネージャー兼プロダクト担当副社長として、25年以上にわたって様々な規模の企業や異なる業界で製品開発のリーダーシップを発揮してきました。
ウェビナーの詳細情報はスタンフォードオンライン(https://online.stanford.edu/)でご覧いただけます。本記事では、両講演者の合計50年以上にわたる豊富な実務経験と、様々な成長段階にある企業での製品開発の知見を含むウェビナーの内容を要約しております。なお、本記事の内容は原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルのウェビナーをご視聴いただくことをお勧めいたします。
1. イントロダクション
1.1. 講演者の紹介
本日の講演は、異なるバックグラウンドを持つ二人の経験豊富な製品リーダーによって行われます。
まず、Donna Nitzkiは、起業家、CEO、CMOとしての経験を持ち、キャリアの出発点としてSun Microsystemsのプロダクトマネージャーを務めました。その後、複数のスタートアップ企業に携わり、ベンチャーキャピタルファームのパートナーも経験しています。また、複数の企業の取締役会メンバーとしても活動しており、スタンフォード大学では約20年にわたって教鞭を執っています。
Laura Marinoは、25年以上にわたって、さまざまな規模の企業や異なる業界で製品開発のリーダーシップを発揮してきました。現在は、ラテンアメリカ最大のフィンテック企業であるNubankでゼネラルマネージャーおよびプロダクト担当副社長を務めています。これまでの経験には、音声認識技術から法律テクノロジー、フィンテックまで、幅広い分野での製品開発が含まれています。Donnaと同様に、取締役会メンバーとしても活動し、スタンフォード大学で長年指導を行っています。
二人の講演者は、合わせて50年以上にわたる豊富な経験を持ち、その知見を今日の参加者と共有できることを楽しみにしています。特に、現在プロダクトリーダーとして活躍している方々、あるいはその道を目指している方々に向けて、実践的な知識と経験を共有していきます。
1.2. 製品戦略の依存要因
製品戦略を構築する際、私たちが最初に認識すべきことは、戦略が以下の3つの重要な要因に大きく依存するということです。
第一に、製品タイプによって戦略は大きく異なります。製品がビジネス向け(B2B)なのか、消費者向け(B2C)なのか、あるいはマーケットプレイスやプラットフォームなのかによって、アプローチは根本的に変わってきます。それぞれの市場特性や顧客ニーズが異なるためです。
第二に、業界特性、特に規制の有無が重要な要因となります。例えば、フィンテックやヘルステックのような高度に規制された業界では、製品開発のアプローチや市場参入戦略が大きく制限される可能性があります。規制要件を満たしながら、いかに革新的な製品を開発できるかが鍵となります。
第三に、そして本日の講演で最も重点を置くのが、企業の成熟度です。企業は典型的に3つのステージを経ていきます。初期のスタートアップステージでは、製品と市場のフィット感を見出すことに注力し、チームメンバーが多様な役割を担いながら、価値のある製品をテストし、実証することに取り組みます。その後のスケールアップステージでは、製品市場フィットを確認できた後、その市場セグメント内での成長にフォーカスします。そして成熟企業ステージでは、IPOや大規模な合併を経て、確立されたビジネスモデルの下で運営されることになります。
これらの要因は互いに影響し合い、製品戦略の方向性を決定づけます。本日は特に企業の成熟度に焦点を当て、各ステージでの適切な製品戦略について詳しく見ていきましょう。
2. 企業の成熟度ステージ概要
2.1. アーリーステージの特徴
アーリーステージは、企業にとって最も挑戦的な時期の一つです。この段階では、製品と市場のフィットを見つけ出すことが最優先課題となります。市場に存在するニーズを満たす製品を開発し、その価値を実証することに全力を注ぐ必要があります。
私たちの経験から、アーリーステージの主な特徴として、以下のような状況が挙げられます。まず、チームメンバーは複数の役割を同時にこなすことを求められます。CEOが時にはCFOを務め、さらにはプロダクトワークの多くを担当することもあります。
また、この段階では収益モデルがまだ確立されていないため、現金を慎重に管理する必要があります。収益モデルについていくつかの仮説は立てているものの、それを実証している段階にあります。
市場が存在しているかどうかさえ不確実な中で、初期の顧客(アーリーアダプター)を獲得することが重要な課題となります。最小限の実行可能な製品(MVP)を定義し、それをいかに早く市場に投入し、支払いの意思のある顧客の手に届けるかが焦点となります。
このステージでは、ほとんどの作業を自社で行う必要があり、パートナーシップはまだ確立されていません。さらに、競合状況も完全には把握できていない状態です。
特筆すべき重要な点として、アーリーステージでは製品戦略がそのまま企業戦略となります。この段階で複数の製品ラインを同時に立ち上げようとしたり、一度に多くのことを試みようとするのは賢明ではありません。初期の製品を市場に投入し、最初の顧客を獲得することに集中的に取り組むべき時期なのです。
2.2. スケールアップステージの特徴
スケールアップステージは、製品市場フィットを達成した後の非常に重要な段階です。このステージの本質は、既に価値が証明された製品を持つセグメント内で、いかに成長を実現できるかということにあります。
しかし、この段階は非常に危険でもあります。シリコンバレーのアナリストによる分析では、アーリーステージを成功裏に終えた企業の60%がスケールアップステージで失敗するという衝撃的な統計が示されています。その理由は、スケールアップが全く異なるゲームだからです。
このステージでは、素早い移動と反復から、より体系的なプロセスへの移行が求められます。企業が数百人以上の従業員を抱え、数百から数千の顧客を持つようになると、アーリーステージで機能していた非公式なコミュニケーションや即興的な対応では、もはや適切に機能しなくなります。
最も洗練されたCEOでさえ、チームと一緒に座って知識を共有し、製品を始めたエンジニアが知識を共有するような、初期段階での知識共有の方法は、規模が大きくなるにつれて完全な混沌を招く結果となります。そのため、この段階での成功には、明確な移行プロセスと新しい運営方式の確立が不可欠となります。
この時期は、それまでの「何でもやる」アプローチから、より戦略的で体系的なアプローチへの転換が必要となります。これは単なる組織の拡大以上の意味を持ち、企業の運営方式の根本的な変革を意味します。
2.3. 成熟企業ステージの特徴
成熟企業ステージでは、企業の様相は初期段階とは大きく異なります。以前のように多くの役割を一人で担うのではなく、専門化が進み、各機能分野にエキスパートが配置されています。すべての機能分野が、もしくはほとんどの機能分野が専門家によってカバーされている状態です。
この段階では、企業は長期にわたって製品を販売してきた実績があり、明確な予算と計画を持っています。アーリーステージやスケールアップ段階で経験した資金的な制約から解放され、十分なキャッシュを保有しています。また、既存の顧客基盤を持ち、市場での確固たる評判を築いています。
多くの場合、この段階の企業はIPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)などの重要な流動性イベントを既に経験しています。新しい地理的市場への展開を検討したり、場合によっては自社が他社を買収して新しい製品ラインを取り込むことも検討します。成長を加速させるためにパートナーシップを拡大することも一般的です。
競争環境も明確に理解されており、自社がどのように差別化を図っているかも把握できています。この段階での大きな課題は、確立されたビジネスモデルの下で市場リーダーシップを維持しながら、いかにイノベーションを継続していくかということです。
成熟企業は既存のビジネスの運営において一定のリズムを持っており、より予測可能な事業運営が可能となっています。しかし、この予測可能性は時として革新を妨げる要因にもなり得るため、バランスの取れたアプローチが必要となります。この段階での大きな課題は、大規模な企業を成長させ続けながら、同時にイノベーションを維持していくことにあります。
3. アーリーステージにおける製品戦略
3.1. Field of Dreams の教訓
新しい市場を構築することの難しさを説明するために、私はよく映画「Field of Dreams」を引用します。この映画では「If we build it, they will come(作りさえすれば、人は来る)」という有名なフレーズが登場します。しかし、この考え方は映画の中でのみ通用するものです。私の経験から断言できますが、実際のビジネスの世界では、単に製品を作って市場に投入すれば人々が買いに来るというようなことは決して起こりません。
これは特に、まだ誰も私たちのことを知らない状況で、新しい製品を市場に投入しようとしている初期段階のスタートアップにとって重要な教訓となります。製品開発と市場開発は同時に進める必要があります。製品を作り上げ、それを市場に投げ出して、人々が買ってくれることを期待するだけでは不十分なのです。
新しい市場を開拓する際の現実は非常に厳しいものです。顧客はまだ存在せず、製品もまだ完成していません。予算も限られており、資金調達さえできていない可能性もあります。さらに困難なことに、私たちが解決しようとしている問題を人々が理解しているかどうかも不確かな状況です。そして何より、誰も私たちの存在を知らないのです。
このような状況で成功するためには、映画のような魔法的な展開を期待するのではなく、製品開発と市場開発を戦略的に、そして同時並行で進めていく必要があります。これは簡単な作業ではありませんが、新製品を市場に導入する際の基本的な要件となります。
3.2. 製品と市場の同時開発
製品と市場の開発プロセスは、戦略的かつ反復的に、同時に進める必要があります。これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、多くの初期段階の製品リーダーが製品開発のみに注力し、市場開発を十分に考慮していないという現実があります。
私たちはこれを「二人で踊るタンゴ」と呼んでいます。一方で「私についてきて、製品を作るから」と言い、もう一方では「私についてきて、顧客と市場を見つけるから」と言う。両者とも正しいのです。初期段階の企業では、これらを同時に進める必要があります。
この困難な課題に取り組むためには、まず自分たちが持っているものを活用して、まだ持っていないものを獲得していく必要があります。私たちが持っているものは何でしょうか。それは、スーパースターのチーム、つまり事業を立ち上げる初期段階のパートナーたちです。そして、人々の生活を変える可能性を秘めた画期的な製品が生まれつつあります。具体的には、プロトタイプ、パワーポイントのスライド、デモなどがあり、これらはすべて市場参入の助けとなります。
さらに、私たちのビジョンの力を決して過小評価してはいけません。なぜ世界が私たちの製品を必要としているのか、という強力で説得力のあるビジョンを持つことは重要です。このビジョンは、顧客にとっても、私たち自身やチームにとっても刺激的なものです。そして、この興奮を伝えることができれば、より成功する可能性が高まります。
この同時開発のプロセスを、私は製品開発サイクルと市場開発サイクルの「タンゴ」と呼んでいます。製品開発サイクルでホワイトボードでのアイデア出しをしている時は、市場開発サイクルで顧客との探索的なミーティングを行い、デバッグやベータテストの段階では、顧客からのフィードバックセッションを実施し、信頼性を構築していきます。そして最終的に、製品がグローバルに展開される段階で、市場も確立されていくのです。このダンスのステップを慎重に踏んでいくことが、成功への鍵となります。
3.3. 初期顧客との関係構築
多くのプロダクトリーダーに「顧客が本当に気にしていることは何か」と尋ねると、通常、価格、機能性、品質、そして製品が問題を解決できるかどうか、といった回答が返ってきます。しかし、実際にはもっとシンプルな答えがあります。顧客が本当に気にしているのは、自分自身のことなのです。
自分たちの頭から抜け出して、顧客の立場に立って考えてみる必要があります。見込み顧客は、「この製品で上司からの評価が上がるだろうか」「友人からどう思われるだろうか」「この製品は自分の生活にどんな影響を与えるだろうか」といったことを考えています。彼らは製品の機能や仕様について考えているわけではありません。
このことは、初期段階の企業にとって大きな示唆を持ちます。初期の顧客パートナーとの関係構築において最も重要なのは、早期に信頼関係を確立することです。新しい企業を市場に導入する際、すべては関係構築にかかっているのです。
信頼関係を築くために、以下の3つの要素を実証する必要があります:
- 問題や機会を完全に理解していることを示す
- その問題を解決する能力と技術を持っていることを証明する
- 顧客の成功に対して真摯な関心を持っていることを表現する
これら3つの要素を確立できれば、顧客は全く新しい製品を購入するというリスクを取る決断をしやすくなります。それこそが、市場に新製品を投入する際に必要な信頼関係の基礎となるのです。
このアプローチを実践するためには、常に顧客の立場に立って考え、彼らが本当に求めているものは何かを理解する必要があります。製品の機能や性能以上に、顧客との信頼関係の構築が、初期段階での成功を左右する重要な要素となるのです。
3.4. よくある失敗とその回避方法
私の経験から、数え方にもよりますが、現在の会社は3番目か19番目のスタートアップになります。これだけ多くのスタートアップに関わってきた中で、最も頻繁に見られる失敗パターンについて共有したいと思います。
最も一般的な失敗の一つは、販売を始めるのが遅すぎることです。多くのプロダクトマネージャーは「資金調達ができた」あるいは「自己資金で開発を始めよう」と考え、素晴らしいビジョンを形にすることに没頭します。しかし、この姿勢には大きな問題があります。必要以上のものを作り過ぎ、間違ったものを作り、結果として市場投入が遅れてしまうのです。
この問題を避けるためには、最小実行可能製品(MVP)の特定が必要です。しかし、それだけでは十分ではありません。初期の顧客パートナーを見つけ出し、販売方法を学ぶことも同様に重要です。私の推奨する方法は、3ヶ月の期間で少なくとも30の見込み顧客と会うことです。
これらのミーティングでは、以下の二つの重要な領域についての質問を行う必要があります:
まず、製品の機能性に関する質問:
- どこに問題を感じているか
- 現在どのように対処しているか
- 競合他社は何を提供し、約束しているか
次に、意思決定プロセスに関する質問:
- 組織構造はどうなっているか
- 誰が予算を持っているか
- どのように意思決定が行われるか
- 優先順位は何か
特に重要な質問は、「この製品を購入しない理由をすべて教えてください」です。これが最終的に知りたい本質的な情報となります。
もう一つの一般的な失敗は、大企業での経験をそのまま適用しようとすることです。私はSun Microsystemsで3年間に19の異なるデータ通信製品を立ち上げた経験がありますが、そこでの戦術的なプロセスをそのまま適用することはできません。大企業では、製品テストに協力してくれる顧客を見つけ、機能や品質の問題を特定し、それらを修正するかどうかをエンジニアリングと決定します。しかし、スタートアップでは、この初期のテストは戦略的なものでなければなりません。なぜなら、大企業とは異なり、既存の市場、評判、顧客関係を持っていないからです。
最初のテスト顧客の80%は実際に製品に対して支払いを行う必要があります。金額は全額でなくても構いませんが、少なくとも何らかの支払いが必要です。なぜなら、無料でテストに協力してくれた顧客は、優れたリファレンス顧客とはならないからです。
3.5. 大企業的思考の回避
初期段階のスタートアップで大企業的な考え方を適用することは、成長を妨げる大きな要因となります。私がSun Microsystemsで経験した製品マネージャーとしてのアプローチは、戦術的なプロセスに重点を置いていました。新製品をテストする際、顧客は製品テストに協力してくれる「好意」として参加し、機能や品質の問題を特定するだけでした。エンジニアリングチームと共に、これらの変更を行うか、現状のまま市場に出すかを決定し、並行して企業は製品の提供方法、販売方法、サポート方法、マーケティング方法などを学んでいきました。
しかし、この大企業的アプローチには重大な問題があります。それは、初期段階での戦略的な顧客とマーケットの資格審査が不十分であり、製品の参照可能性(リファレンス性)に焦点が当てられていないことです。スタートアップでは、正しい市場の最初の顧客を選び、その80%が実際に製品に対して支払いを行うようにすることが極めて重要です。
なぜなら、初期の製品テストは戦略的なものでなければならないからです。大企業は既に市場、評判、既存の顧客関係を持っていますが、スタートアップにはそれらがありません。そのため、最初のパートナーとなる顧客が、製品を購入し、使用し、他者に推奨してくれるかどうかが、真の判断基準となります。さらに、それらの顧客が適切な市場セグメントに属しているかどうかも重要です。
間違った顧客を選んでしまうと、市場開発においてゼロに戻ってしまう可能性があります。具体的に、「間違った顧客」とは以下のような特徴を持ちます:
- 反復的な販売が見込めない小規模な市場に属している
- 主流から外れた優先順位を持っている
- スケールしない独自の開発に貴重なエンジニアリングリソースを割く必要がある
- テスト完了後に購入する意図がない
結論として、初期段階での製品テストの3つの目標を常に意識する必要があります:
- 製品開発へのフィードバック
- 戦略的な顧客の選定
- 忠実な顧客基盤の確立
これらの目標を達成することで、大企業的思考に陥ることなく、スタートアップとして適切な成長の道筋を築くことができます。
4. スケールアップステージにおける製品戦略
4.1. 5つの重要な移行
高成長段階に入った企業が成功するためには、いくつかの重要な移行を実行する必要があります。アーリーステージでうまくいっていた運営方法は、企業が数百人以上の従業員を抱え、数百から数千の顧客を持つようになると、もはや機能しなくなります。そのため、成功を継続するためには、5つの重要な移行を実施しなければなりません。
第一の移行は、「すべてを知っている人々のグループ」から「プロセスに組み込まれた知識」への移行です。初期段階では、CEOがチームと直接知識を共有し、製品を開始したエンジニアが知識を共有するという非形式的なコミュニケーションが機能していました。しかし、規模が大きくなると、この方法では効果的な知識共有が困難になります。
第二の移行は、「関係性」から「ブランド」への移行です。初期段階ではCEOが顧客一人一人と直接関係を築いていたかもしれませんが、成長段階では市場で認知されるブランドの構築が必要となります。
第三の移行は、「初期製品」から「スケーラブルな製品」への移行です。製品市場フィットを達成した初期製品から、より多くの顧客に対応できる拡張性のある製品への進化が求められます。
第四の移行は、「すべてを所有する」から「パートナーシップの活用」への移行です。成長段階では、すべての機能を社内で持つのではなく、効果的なパートナーシップを構築することが重要になります。
第五の移行は、「機会主義的」から「戦略的」思考への移行です。規模を拡大するにあたって、より計画的で戦略的なアプローチが必要となります。
これらの5つの移行は、どれも製品リーダーが直接関与する必要があります。特に本日は、製品に関連する移行、具体的には初期製品からスケーラブルな製品への移行に焦点を当てて説明していきます。この移行は、高成長段階における最も重要な課題の一つとなります。
4.2. 初期製品からスケーラブルな製品への移行
初期段階での製品開発アプローチを理解することから始めましょう。この段階では、速やかな移動と反復が不可欠です。何が市場で受け入れられるかまだ確信が持てないため、ターゲット顧客にとって重要な機能を素早く構築し、テストすることに注力します。
エンジニアリングチームは、顧客に見える機能や機能性の構築に集中し、スケーラブルなアーキテクチャや実装ツールの構築に時間を費やす余裕はありません。実際、エンジニアは機能を可能な限り早く提供するためのショートカットを見つけることが奨励され、評価されます。さらに、初期のアダプターを確保するためには、顧客固有の要望に応える必要があります。
この結果、製品を建物に例えると、初期段階の終わりには次のような状態になっています:特定の顧客のために建てられた部分が多数存在し、たとえ他の顧客でも使えるように作られていたとしても、実際には1、2の顧客しか使用しないことが分かっています。また、エンジニアリングチームが推奨されたショートカットや応急処置的な解決策を使って建設した部分が多数存在します。そして、基礎部分は不安定で、大量の顧客に対応できるようには作られていません。
これらの問題は、技術的負債として知られています。初期段階で発生するこれらの課題は自然なものですが、スケールアップ段階でこれらに対処しないと、深刻な問題が発生します。顧客固有の機能は主にB2B製品で問題となりますが、B2C製品でも初期の顧客の要望に振り回されていると同様の問題が発生する可能性があります。
顧客固有の機能の影響として、初期段階では、それらの初期顧客は絶対に必要不可欠でした。彼らを確保するために特別な対応をすることは問題ありませんでした。しかし、成長段階に入ってその行動を変更しないと、これらの初期顧客があなたのロードマップを支配し始め、彼らの要望リストが膨大になり、市場全体のニーズに応える機能の構築を妨げるリスクが生じます。
したがって、このステージでは、これらの影響力の強い初期顧客を適切にコントロールし、より広い市場ニーズに基づいた製品開発へと移行していく必要があります。これは簡単な作業ではありませんが、製品のスケーラビリティを確保するために必要不可欠なプロセスです。
4.3. 法律事務所の事例
私が製品リーダーを務めていた法律技術ソフトウェア企業での経験を共有したいと思います。私たちの主要な顧客は、米国、英国、カナダ、オーストラリアの上位1000社の法律事務所でした。大規模な法律事務所は、それぞれが自分たちを最も重要な顧客だと考え、製品の方向性を決定する権利があると主張していました。
この状況に対処するために、私たちは顧客評議会という非常に効果的な手法を導入しました。法律事務所には明確な階層構造があることを活用し、自分たちを同格と考える事務所グループを特定し、それらをグループとして招集しました。これらの評議会で、私たちは業界のトレンドについて彼らの見解を聞き、私たちが進めている方向性について共有しました。
最も興味深かったのは、これらの会議での相互作用でした。例えば、ある顧客が「この機能を実装しなければならない、これは極めて重要だ」と主張し続けていた場合でも、同じ評議会に参加している同業他社の誰もがその機能に関心を示さないという状況が発生しました。このような状況を目の当たりにすることで、その顧客は自分たちの要望が必ずしも業界全体のニーズを反映していないことを理解するようになりました。
この経験を通じて、私たちは単に個々の法律事務所のための製品ではなく、法律業界のリーダーたちのための製品を構築していることを、顧客自身に理解してもらうことができました。顧客評議会は、個別の要望を市場全体のニーズとバランスを取るための効果的なツールとなり、製品の方向性を保つことができました。
しかし、これらの戦略を実施しても、時には「ノー」と言わなければならない状況も発生します。その場合には、特定の顧客の要望に応えることで発生するトレードオフを明確に理解し、CEOに対してもそれを説明できる準備が必要です。なぜなら、これらの重要な初期顧客は必ずCEOに直接連絡を取るからです。極端なケースでは、顧客との関係を終了させる必要が出てくることもありますが、それは製品の方向性を守るために必要な決断となることもあります。
4.4. 技術的負債への対処
スタートアップが初期段階を終える時点で技術的負債を抱えているのは自然なことです。もし最初から完全にスケーラブルで高品質な製品を構築しようとしていたら、おそらく最初の製品をリリースする前に資金が底をつきていたでしょう。しかし、スケールアップ段階に入ったら、この技術的負債に対処し始める必要があります。
技術的負債は、比較的軽度な形では開発速度の低下という形で現れ始めます。品質の低いコード上に新しい機能を構築することが困難になり、エンジニアリングチームの生産性が低下していきます。より深刻な形では、技術的負債は顧客の目の前で問題を引き起こし始めます。システムがクラッシュしたり、ウェブサイトのレイテンシーが著しく増加したりするなど、顧客が直接影響を受ける問題が発生します。
この問題に対処するために、私は「現実を直視する」というアプローチを推奨します。まずエンジニアリングと密接に協力して、製品やコードのどの部分が最も緊急に注意を必要としているかを理解する必要があります。特に重要な質問として、「顧客数が2倍になった場合、最初に何が破綻するか」「エンジニアが触れるのを恐れている、複雑で品質の低いコードの領域はどこか」を特定することです。
これらの優先領域を特定したら、それらの作業をロードマップの一部として優先順位付けする必要があります。私は、エンジニアリングが独自のロードマップを持ち、製品チームが別のロードマップを持つような企業を見てきましたが、これは決して良い方法ではありません。エンジニアリングは一つのグループであり、プロダクトリーダーとしてエンジニアリングの時間がどこに使われているかを完全に把握しておく必要があります。
さらに、アーキテクチャの改善や技術的負債の返済にエンジニアリングの帯域幅の一部を明示的に割り当てることを、経営陣や営業チームに説明し、売り込む必要があります。これは単なるエンジニアリングの問題ではなく、顧客がパフォーマンスやセキュリティを期待しているという事実に基づくビジネス上の判断なのです。このメッセージを伝えるのは、エンジニアリングチームではなく、プロダクトリーダーであるべきです。
もし積極的にコミュニケーションを取らなければ、リーダーシップチームや営業チーム、マーケティングチームは、以前ほど多くの機能がデリバリーされていないことに不満を持つでしょう。そのため、技術的負債への対処が重要である理由を明確に説明し、理解を得ることが不可欠です。
4.5. エンジニアリングリソースの配分
私がある人材採用関連の企業に参画した際の経験を共有させていただきます。この企業では前任のプロダクトVPが解任されており、その理由を理解しようと調査を進めると、「約束したものを届けられない」という評価を受けていたことが分かりました。より深く掘り下げていくと、プロダクトとエンジニアリングチームが依然として初期段階のマインドセットで運営されていたことが根本的な問題でした。
初期段階では、エンジニアリングの帯域幅のほとんどが新機能の開発に充てられ、保守やインプリメンテーションサポートにはごくわずかな時間しか割り当てられていません。しかし、企業が成長段階に入ると、この配分は大きく変化する必要があります。
新機能が追加されるにつれて保守に必要な帯域幅は増加します。バージョン1で完成する機能はほとんどなく、継続的な改善や進化が必要です。技術的負債も表面化し始め、レイテンシーの問題も多数の顧客が取引を行うようになれば増加します。エスカレーションも増加し、エンジニアリングチームはバグ対応により多くの時間を割く必要が出てきます。
特にB2Bソフトウェアが複雑な場合、エンジニアリングチームは専門サービスチームが実装作業を行えるようにするためのツール開発にも時間を割く必要があります。私の経験した企業では、エンジニアが新規顧客のために直接データベースを設定しなければならない状況でした。
この現実に気付かず、初期段階と同じペースで新機能を提供できると約束し続けることは、深刻な問題を引き起こします。プロダクトリーダーとして、追加のエンジニアを大幅に増員しない限り、新機能の開発ペースは以前より遅くなることを、営業チームや経営陣に理解してもらう必要があります。代わりに、保守、技術的負債の返済、アーキテクチャのスケーラビリティ向上に、貴重なエンジニアリングリソースを割り当てる必要があるのです。
これは決して後退ではなく、持続可能な成長のために必要不可欠な投資なのです。この移行を適切に管理できなければ、製品の品質と信頼性が低下し、最終的には企業の成長自体が危険にさらされることになります。
5. 成熟企業における製品戦略
5.1. 成熟企業の特徴
私は初期のスライドで示した通り、成熟企業は初期段階の企業とは全く異なる特徴を持っています。初期段階では多くの役割を一人で担っていましたが、成熟企業では専門化が進み、各分野にエキスパートが配置されています。ほとんど、もしくはすべての機能基盤がエキスパートによってカバーされている状態です。
成熟企業はすでに長期にわたって製品を販売してきた実績があり、明確な予算と計画を持っています。スタートアップや初期段階の企業が経験するような資金的な制約から解放され、十分なキャッシュを保有している状態です。
また、既存の顧客基盤を持ち、市場での評判も確立されています。この段階では、新しい地理的市場への展開を検討したり、場合によっては他社を買収して新しい製品ラインを取り込むことも検討します。成長を加速させるためにパートナーシップを拡大することも一般的な戦略となっています。
競争環境も明確に理解されており、自社がどのように差別化を図っているかも把握できています。多くの場合、IPOや大規模な合併などの重要な流動性イベントを既に経験しています。
この段階での大きな課題は、確立されたビジネスモデルの下で市場リーダーシップを維持しながら、いかにイノベーションを継続していくかということです。成熟企業は既存のビジネスの運営において一定のリズムを持っていますが、このような予測可能性は時として革新を妨げる要因にもなり得ます。
そのため、大規模な企業としての効率的な運営を維持しながら、同時にイノベーションを推進していくという、一見相反する課題に取り組む必要があります。これは単なる組織の管理以上に、戦略的なバランスを要する重要な課題となります。
5.2. 企業戦略との整合性
初期段階の企業とは異なり、成熟企業では製品戦略が企業戦略と同じではありません。実際、製品戦略は企業戦略の一部に過ぎず、場合によっては企業戦略の上位に多角化やM&Aに関する意思決定を行う企業戦略が存在することもあります。そのため、製品戦略を企業戦略と確実に整合させることが極めて重要になります。
企業戦略を考える際には、主に3つの重要な要素を考慮する必要があります。第一に、競争領域(ドメイン)の定義です。これは、企業のターゲット市場と、その市場における既存の競合を指します。例えば、リテールバンキング領域、高級自動車市場、スマートフォン市場などが該当します。これらはすでに確立された市場であり、通常、多くの競合が存在する領域です。
第二に、競争優位性を理解する必要があります。これは企業の「スーパーパワー」と考えることができます。例えば、強力なブランドロイヤリティ、優れたサプライヤーとの関係、革新的な知的財産などが該当します。プロダクトリーダーとして、これらの競争優位性を深く理解しておくことが不可欠です。
第三に、「ビジョンは実行なくしては単なる幻想に過ぎない」という言葉があるように、企業の実行能力を理解することが重要です。例えば、Ciscoは1990年代に、既存顧客への新製品の迅速な展開という優れた実行能力を持っていたことで、ネットワーク機器市場でのリーダーシップを確立しました。サプライヤー関係の管理や顧客データの管理など、企業が特に優れている実行能力を把握し、それを製品戦略に活かすことが重要です。
これらの要素は、企業の最上位戦略を形成し、その下に様々な機能戦略(マーケティング戦略、オペレーション戦略、製品戦略、財務戦略、人事戦略など)が位置づけられます。プロダクトリーダーとして、これら全体の整合性を確保しながら、自社の強みを最大限に活用できる製品戦略を構築していく必要があります。
5.3. 競争優位性の活用
企業の競争優位性は、その企業特有の「スーパーパワー」として捉えることができます。製品戦略を立てる際には、これらの強みを最大限に活用することが重要です。競争優位性は主に3つの側面から検討する必要があります。
まず、マーケティング面での強みを理解する必要があります。例えば、プロモーション力や流通戦略において特別な強みを持っているかもしれません。製品リーダーとして、これらのマーケティング資産をどのように活用できるかを考える必要があります。
次に、オペレーション面での優位性を考慮します。企業は高品質な製造能力、迅速な製造対応力、または柔軟な製造能力など、特定の運営能力で優れているかもしれません。これらの運営上の強みを製品戦略に組み込むことで、より効果的な展開が可能になります。
さらに、製品開発における独自の強みを活用します。例えば、特定の技術領域での深い専門知識や、顧客ニーズを素早く製品に反映する能力などが該当します。これらの製品開発上の強みを、新製品や既存製品の改良にどのように活かせるかを検討します。
企業の競争優位性を効果的に活用するには、会社全体の資産と各部門の具体的な能力を理解し、それらを製品戦略に統合していく必要があります。このアプローチにより、企業の強みを最大限に活かした、持続可能な製品戦略を構築することができます。
5.4. 製品戦略の種類
成熟企業における製品戦略は、その企業の特性や市場状況に応じて、以下の5つの主要なタイプに分類することができます。
第一に、イノベーションと継続的改善に焦点を当てた製品戦略があります。テクノロジー業界の企業、例えばAppleやSamsungのような企業が採用している戦略です。これらの企業は、常に新製品を開発し、既存製品を改良することで市場での競争力を維持しています。
第二に、市場リーダーシップと防衛に重点を置いた製品戦略があります。LVMHのような企業がこの戦略を採用しており、長年にわたって築き上げてきた市場でのリーダーシップポジションを維持することに注力します。
第三に、効率性と最適化に基づく製品戦略があります。AmazonやWalmartのような企業が採用している戦略で、プロセスの効率化とコスト最適化を通じて、新製品を効率的に大規模な事業基盤に展開することを重視します。
第四に、多様化戦略があります。コカ・コーラの事例が典型的で、最初はコカ・コーラという単一製品から始まり、その後ダイエットコーク、健康飲料、エナジードリンク、ウォーターなど、様々な飲料カテゴリーに多様化を図っています。しかし、すべての多様化は元々の事業領域内で行われている点が重要です。
第五に、持続可能性と長期的計画に基づく製品戦略があります。自動車産業がその典型例で、電気自動車(EV)の開発に注力しています。これは、将来的に新しい技術やプラットフォームへの移行が必要になることを見据えた、持続可能な成長のための戦略です。
企業は、これらの戦略タイプの中から自社に適したものを選択するか、複数の戦略を組み合わせることで、より効果的な製品戦略を構築することができます。重要なのは、選択した戦略が企業の全体的な戦略や能力と整合性を保っていることです。
5.5. 事例研究
成熟企業における製品戦略の実例として、3つの異なる業界の事例を見ていきましょう。
まず、高級ファッション業界の事例です。LVMHやGucciのような高級ブランドは、企業の全体的な資産と能力に基づいた製品戦略を展開しています。これらの企業では、マーケティング戦略は高級顧客へのリーチとカスタマーロイヤリティの維持に焦点を当て、オペレーション戦略はプレミアム製品とプレミアムコンテンツの展開に重点を置いています。これは彼らの製品戦略とも完全に整合しています。しかし、もしこれらの企業のプロダクトリーダーが、Zaraのような高速ファッション戦略を導入しようとしたら、それは既存のマーケティング戦略やオペレーション戦略と整合性を失うことになります。
次に、コカ・コーラの多様化戦略を見てみましょう。コカ・コーラは単一製品から始まり、その後ダイエットコーク、健康飲料、エナジードリンク、ウォーターなど、さまざまな飲料カテゴリーに多様化を図ってきました。重要なのは、すべての多様化が元々の事業領域内で行われているという点です。彼らは自社の強みを活かせる範囲内で製品ラインを拡大し、各製品カテゴリーでの競争力を維持しています。
最後に、自動車産業のEV戦略について見てみましょう。自動車メーカーは、長期的な持続可能性を考慮した製品戦略を展開しています。彼らは将来的に新しい技術やプラットフォームへの移行が必要になることを認識し、電気自動車の開発に注力しています。これは、環境規制の強化や消費者の環境意識の高まりを見据えた、長期的な視点に基づく製品戦略の例です。
これらの事例は、成熟企業が自社の強みと市場の要求に基づいて、どのように製品戦略を構築し、実行しているかを示しています。成功している企業は、自社の能力と戦略の整合性を保ちながら、市場の変化に適応し、持続的な成長を実現しているのです。
6. 質疑応答セッション
6.1. 生成AIの影響
生成AIが製品戦略、特に成熟企業の製品戦略にどのように影響するかという質問について、私たち登壇者の見解を共有させていただきます。
生成AIは、あらゆる企業の戦略において根本的な要素になりつつあります。マーケティング、オペレーション、製品戦略など、企業活動のあらゆる側面で生成AIの影響が見られます。現在、すべての企業が生成AIの活用方法を模索している状況です。
しかし、重要なのは、何を達成したいのかという点です。企業は効率性の観点から生成AIの活用を検討する必要がありますが、それ以上に重要なのは、生成AIを活用することで顧客に対してどのような根本的な価値を提供できるのかを考えることです。
場合によっては、生成AIが顧客価値に大きな違いをもたらさないケースもあります。そのため、基本に立ち返り、顧客に提供したい価値は何か、そしてその価値の提供において生成AIがどのように根本的な違いを生み出せるのか、あるいは全く新しい方法で価値を提供できるのかを検討する必要があります。
これは単なる技術導入の問題ではなく、企業の製品戦略全体に関わる重要な判断となります。生成AIの活用は、それ自体が目的ではなく、より優れた顧客価値の創造につながる場合に意味を持つのです。
6.2. コンサルティング会社での製品管理
コンサルティング会社や社内製品のプロダクトマネージャーとしての経験について、私の視点から共有させていただきます。スタートアップ企業へのコンサルティングにおける私の経験は、主にベンチャーキャピタルの世界でのものでした。例えば、「ここに300万ドルがあります。そして、私がスタートアップの立ち上げを支援します」というような形で関わってきました。
このような状況での最も重要な課題は、どこにフォーカスを当てるかを明確にすることです。初期段階の企業やコンサルティングプロジェクトが成功するためには、誰に販売するのか、そして顧客が「やむにやまれぬ購買理由(compelling reason to buy)」として何を求めているのかを正確に把握する必要があります。
コンサルタントとしては、これらの判断に関わる全ての人々を巻き込んでいくことが重要です。そして、私が次の案件に移る際には、通常は自分の後任者となる人物に対して、これまでの判断プロセスとその根拠を確実に引き継ぐようにしています。
一方、内部製品の管理においては、社内の他の従業員が顧客となります。この場合も同様のプロセスを踏む必要があります。顧客ニーズの理解、解決すべき課題の特定、そして社内の様々なステークホルダーとの協力が重要です。ただし、外部顧客向けの製品開発と同じように扱われない可能性があることには注意が必要です。
この役割を成功させるためには、通常の製品開発プロセスと同様に、内部顧客との密接な関係構築、ニーズの徹底的な理解、そして明確な価値提供の実証が不可欠となります。
6.3. 外部資金調達のタイミング
外部資金調達のベストなタイミングについて、私たちの経験から重要な洞察を共有させていただきます。まず、可能な限り自己資金でブートストラップし、できるだけ遠くまで進むことを推奨します。これには重要な理由があります。より多くのモメンタムを得られれば、資金調達時により大きな交渉力を持つことができるからです。
キャッシュは商品です。一方で、成功する起業家は商品ではありません。この認識は極めて重要です。あなたがすでに事業を軌道に乗せているという事実は、資金調達の際に大きな優位性をもたらします。
さらに重要な点として、資金調達時には、その資金で何を達成するのかを明確に定義する必要があります。例えば、シリーズAを調達する際には、「この資金でX数の顧客を獲得し、Y額の収益を生み出す」といった具体的な目標を設定します。次のラウンドでは、より大きな市場への展開や、追加の国への進出などの目標を設定することになります。
ベンチャーキャピタルからの資金調達は素晴らしいものですが、期待値も非常に高くなります。スケールアップ段階で60%の企業が失敗する理由の一つは、次のラウンドの資金調達に必要な成長速度を達成できないことにあります。投資家がいる場合、企業は急速な成長と大規模なビジネスの構築を求められます。
そのため、資金調達の結果を出せない場合、次のラウンドの資金調達は困難になります。これは、一定のトラクションを得てから資金調達を行うことの重要性を示しています。早期に資金調達を行うよりも、ある程度の成長を示してから資金調達を行う方が、より良い条件で調達できる可能性が高くなります。
投資家に対する約束は必ず守る必要があります。その目標を達成することで、次のラウンドの資金調達プロセスをよりスムーズにすることができます。これこそが、資金調達を最も成功させる方法なのです。