※本記事は、2024年11月6日に開催された「Tokyo区市町村DXaward 2024」の記録動画を基に作成されています。このイベントは、都内自治体におけるDXの取組や提案を共有・横展開し、DXに取り組む機運醸成を図ることを目的として開催されました。 本記事では、イベントの内容を要約しており、プレゼンテーションの詳細や各自治体の取り組みについて記載しております。なお、本記事の内容は各発表者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性がありますので、より正確な情報や文脈については、オリジナルの記録動画をご覧いただくことをお勧めいたします。 また、本記事で紹介されている各自治体のプロジェクトや取り組みについて、詳細な情報が必要な場合は、それぞれの自治体の公式ウェブサイトや関連資料をご参照ください。 本アワードに関する公式情報は、東京都デジタルサービス局のウェブサイトでご確認いただけます。
1. アワード概要
1.1 実施目的と審査方法
東京区市町村DXアワード2024は、行政の課題解決を目指した各自治体のDXの取り組みや、自治体職員等による新たなDXに関する提案を都内自治体で共有・横展開し、DXに取り組む機運醸成を図ることを目的として開催しています。
今年度は前年度の34件から大幅に増加し、34自治体から79件の取り組みのエントリーがありました。これらの中から一次審査を通過した21の取り組みが本選へと進みました。
本アワードは3つの部門で構成されています:
- 行政サービス部門:住民向けサービスにおいてデジタルを活用し、その直接的効果が主に住民に向けて発揮・提供される取り組み
- 業務改善部門:庁内の内部事務においてデジタルを活用し、その直接的効果が主に職員に向けて発揮・提供される取り組み
- DXアイデア部門:今年度新設された部門で、まだ実現はしていないものの、デジタル技術を使って市民の利便性向上や職員の業務効率化が期待できる新しい提案を対象とします
特に今年度は、DXアイデア部門を新設したことで、実装前の革新的なアイデアも評価対象となり、より幅広い視点でのDX推進の可能性を探る機会となっています。各部門の選考では、実現可能性や効果測定の具体性に加え、他自治体への横展開の可能性も重要な評価基準として設定されています。
なお、本アワードの審査には、東京都CIO兼ガブテック東京理事長をはじめ、自治体CIOや自治体職員等が参加し、多角的な視点での評価が行われました。これにより、現場の実務者視点と政策立案者視点の両面から、提案の実効性や波及効果が検討されています。
1.2 投票方式と審査基準
本アワードの投票は、会場参加者とライブ配信視聴者の双方が参加できる形で実施されています。ライブ配信視聴者は東京都デジタルサービス局から各区市町村にメール配信されたURLもしくは画面表示されるQRコードからアクセスし、会場参加者は配布されたQRコードから投票システムにアクセスする仕組みとなっています。
投票フォームは、行政サービス部門、業務改善部門、DXアイデア部門の3部門それぞれについて、取り組み提案が一覧表示される形式となっています。投票者は評価基準を参考に、各部門で最も優れていると判断した取り組み提案を1つ選択します。さらに、選択した取り組み提案とは別に、横展開に優れていると判断した取り組み提案を選択する仕組みとなっています。
横展開の可能性は特に重視されており、これは本アワードの重要な評価軸となっています。これは、都内の自治体で共有・活用できる取り組みを積極的に評価することで、東京都全体のDX推進を加速させることを意図しています。
投票の公平性を担保するため、1人1票の制限が設けられており、複数回の投票は制限されています。また、投票結果の集計は、自治体CIOや自治体職員等の審査員の評価と合わせて最終的な審査に反映される仕組みとなっています。この投票システムにより、現場の実務者視点も含めた多角的な評価が可能となっています。
2. 行政サービス部門プレゼンテーション
2.1 町田市「バーチャル市役所ポータル待ドア」
生成AIであるChatGPTと3Dアバターを組み合わせて市のデジタルサービスをウェブサイト上で案内する全国初の市民向けサービスである、バーチャル市役所ポータル待ドアについてご紹介します。
本システムの主要なコンセプトは4つあります。第一に、バーチャル市役所の玄関口として様々なデジタルサービスへのアクセスを可能にすること。第二に、お役所言葉をなるべく使わず、伝わりやすい言葉を使用すること。この点については、2018年に作成した「伝わる日本語見直し10か条」に基づいて情報を発信しています。デジタル時代だからこそ、言葉を大切にしています。
技術面では、AIナビゲーターにハルシネーションを抑制するためにタグを使用し、手続き案内の項目を共通化して手続きディレクトリーを作成しました。これによって検索精度が大幅に向上しています。システムプロンプトでは生成AIの基本設定を制御し、AIの性格決定や検索精度の向上を実現しています。
セキュリティ面では3つの対策を実施しています:
- 会話内容のフィルタリング
- チャット内容の非学習化
- 町田市専用のAIの使用
現在のアクセス数は順調に推移しており、AIナビゲーターの満足度は89%を達成しています。利用者からは「ゲームのようで面白い」という評価も得ています。
今後は「町田ベーシックデータダッシュボード」「AIエージェントサービス」の構築を進めていく予定です。具体的には、以下の3つの機能を実装予定です:
- 市民・民間企業向けの情報検索機能
- ダッシュボードによる可視化機能
- AIによる検索・分析機能
このように、生成AIを積極的に活用しながら、市民サービスの向上を目指していきます。
2.2 東村山市「子ども子育てデジタルワンストップ」
東村山市情報政策課より、未来を見据えた東村山版DXのデザインについて説明させていただきます。これまで当市は業務システムの導入や庁内インフラの整備などデジタル化を進めてきましたが、コロナ禍による急激な社会情勢の変化を背景に、今までのやり方ではなく地域全体に変革を起こすようなDXの推進が必要だと感じました。
市のキャッチフレーズである『子育てするなら東村山』を是非デジタルで強化してほしいとの後押しを受け、子ども子育て分野からスタートすることとしました。現場の課題について聞き取りを行い、より子育てしやすい環境作りのためデジタル技術を活用して解決することにしました。
具体的には、個々の興味に応じた情報を提供する『楽し村山ポータル』やオンラインで相談や手続きができるサービスなどを一体的に実装しました。統合的なIDの管理やデータ連携など、各サービスにまたがる機能については共通基盤として構築し、他のシステムやサービスとの連携がしやすい仕組みとしています。今年度は公共施設の予約などのサービスを拡充する予定です。
プロジェクトを進めるにあたっては、一体的なシステムを構築するため組織体制を整備しました。その中で東京都様やガブテック東京様にもワークショップにご参加いただき、広域利用を見据えたID体系を検討してきました。また、デザインの統一性を保ちつつシステムを集約していくために、デザインやシステム連携に関する6つのガイドラインを策定しました。
関係者全員に将来ビジョンを共有し理解を得ることは本当に大変でした。関係者との意見調整に板挟みになりながら120回を超えるワークショップ、本当に終わるのかと途方に暮れながら参加していました。しかし最後には庁内でのDX化に向けた気運が高まるなど、全員で一枚岩となりサービスインにこぎつけました。
共通基盤の構築とガイドラインを整備し、住民ID1つで操作感・デザインが統一されたサービス利用やシステム間のデータ連携など、全体最適に向けた一歩を踏み出しました。また、東京都様の協力のもと、データ連携基盤とTDPFを連携したことで、イベント情報を自動連携する仕組みも実装しました。
昨年度2月にリリースしてまだまだ登録者数も使えるサービスも少ないですが、今後コンテンツの拡充や既存システム・アプリを基盤と連携していくことで、ID1つで様々なデジタル市民サービスを利用できるよう進めていきたいと考えています。
2.3 調布市「AI搭載ゴミ分別支援」
調布市ゴミ対策課からゴミ分別支援AI『調布ゴミナビ』についてご説明します。調布市におけるゴミの発生抑制やリサイクル状況は全国的にも高水準である一方で、年間約7000t以上のコードやプラスチックの資源が焼却されています。また、不適切な分別によるゴミ収集処理上の火災等の事案が年間100件以上発生しており、これらを行政課題として捉えています。
これらの課題は、ゴミとなる品目が過度に増加したこと、外国人居住者の増加、分別方法の検索が手間であることに起因していると分析しました。その解決策として、最先端のAI技術を活用した調布ゴミナビの開発・導入により、資源循環の推進、環境負荷の低減、安定したゴミ処理の継続を目指すこととしました。
本機能の開発にあたっては、外部リソースの活用を図り、市と連携協定を締結する電気通信大学石垣特任教授及び同大学の客員準教授が代表を務めるスタートアップ企業ボルゾイAI社との産学官連携体制を構築しました。
ゴミナビの開発では、国内で9700万人以上のユーザーを有するLINEアプリを活用し、シンプルな操作性を重視しました。また、地域住民との協働や他自治体への波及効果を視野に入れ、東京都デジタル10原則の指針に基づき、地域課題の解決と行政事務のDX化を図ることをコンセプトとしています。
具体的なソリューションとして、AIを活用した2つの分別検索機能を搭載しています:
- 画像マッチング機能:LINEから写真を送ることでAIがゴミとなる対象物を識別し、市の分別基準に紐付けて捨て方を案内
- テキストによるAI検索機能:大規模言語モデルによって入力を自動で訂正検索し、名称が不明であっても対象物を検索可能
また、AIを活用した13言語での多言語案内を実装し、言語や文化など多様な背景を持つ外国人の分別意識の普及啓発に効果を上げています。加えて、24時間対応の不法投棄通報機能や、過去30日間における問い合わせ数や日別の検索頻度、選択言語、検索方法の分析が可能なレポート機能も実装しました。
現在、AIの活用によるゴミに関する行政課題や地域課題の解決に向け市内で試験運用を実施しています。引き続き、さらなる資源循環の推進に向け、産学官連携に基づくゴミナビを活用したDX化の推進を目指し、他の自治体への波及及び自治体間でのデータ連携、市民ニーズの把握により、さらなる機能充実と利便性の向上を図ってまいります。
3. 業務改善部門プレゼンテーション
3.1 品川区「お米支援プロジェクト」
品川区企画部デジタル推進課より、お米支援プロジェクト『デジタル技術をフル活用したシステムの内製開発への挑戦』についてご報告いたします。
このプロジェクトは、昨年度実施した区民アンケートを分析した結果、給食のない夏休み中の食の支援の必要性が浮き彫りとなり、今年度の6月補正で急遽実施が決定しました。システムの構築期間が短いため外注はせずに、申請からお米の配布までを管理するシステムの内製開発が必要となりました。
過去実施した内製開発では、プロジェクトの停滞や部分最適なシステム開発、追加要件に対応しにくいシステムが課題となっていたため、対策を検討してシステム開発を行いました。本プロジェクトでは単なるシステムの内製開発にとどまらず、過去の課題を克服し、今後のDXの道筋をつけるモデルケース構築への挑戦ともなっています。
準備期間が短いためアジャイル開発手法を採用し、デジタルツールをフル活用したシステムを構築しました。実績では12,000名の申請にスムーズに対応し、区民の利便性と職員の業務効率化の両立を実現しました。
システムの概要として、区民からの申請を電子申請で受け、エクスポートしたデータを正規化・重複の突合を経てデータベースにインポートし、お米を受け取りに来た児童の情報を照会しお米を配布していく仕組みを構築しました。
特に工夫した点として、RPAによる正規化処理では、区民の利便性を優先し1回で子供全員が申請できるフォームにしました。しかし、そのままでは後続処理のためエクスポートデータを手作業で加工する必要があったため、RPAを活用して正規化の処理を自動化し、10分で完了することができました。
また、区民からの問い合わせにはチャットボットを活用し、2,000回以上のチャットに自動で回答することができました。FAQの作成には生成AIも活用しています。
プロジェクトの成果としては、時間を大幅に削減することができ、所管課からは区民の利便性と業務の効率化を両立できたとの評価もいただきました。今回のプロジェクトの報告会を実施しノウハウを共有し、今後はPDCAを回して成功事例を増やしていき、庁内に共有していくことで区としてDXの推進を図っていきます。
3.2 目黒区「生活保護業務効率化」
目黒区生活福祉課の布川です。私たちはAIツールを用いた生活保護業務の効率化に取り組みました。まず典型的な例をお話しします。『眼鏡の最高額は認めてくれますか』と受給者の方に聞かれた場合、私たちは『年数は4年なんです。眼鏡は、ただし見えにくいとかそういうことがあったら医師に相談してください。その結果をケースワーカーに伝えてください。フレームは4年なので多分使えると思います。使えるんだったらまたそれを使ってください』と答えます。
このように生活保護業務は様々な場面で対応があり、知識や専門性、ノウハウが求められる業務です。それが不足していたり、社会情勢の変化に伴い国や都からの受給に関する通知が多く出てきます。日々その情報を更新する必要があります。
目黒区の生活福祉課では毎年若手がたくさん入ってきます。ケースワーカーの20代が6割以上を占めているのですが、すぐに専門性が求められる生活保護業務において、この状況が大きな課題となっていました。
そこでこの状況を打開しようと、AIツールを用いた業務効率化に取り組みました。従来は『事務提要』『運用事例集』『生活保護手帳』という3種の神器を使って知識を探してきましたが、AIツールを用いることで業務の知恵袋として活用できるようになりました。時間が短縮でき、欲しい情報が簡単に見つかりやすくなりました。また業務に対する理解が深まり、先輩職員の知識に近づくこともできました。これは業務の効率化だけでなく、業務の高度化にもつながりました。
もちろん最初からうまくいったわけではありません。年配の職員はAIというものになかなか興味関心を示さなかったため、職員全体を対象に説明会を何回も行い、ヒアリングを実施しました。その結果、若手職員からは『気軽さで調べられることができてよかった』、ベテラン職員も『自分の知識を確認することができてよかった』という声をいただきました。
効果としては、業務時間の削減率と業務精度への影響で高いパーセンテージを得ることができました。さらに嬉しい効果として、AIを使って時間が短縮できた分、相談者の気持ちに寄り添う区民対応の時間を確保することができました。
今後の横展開として、Q&A機能の活用など、当区の取り組みを載せることで他の自治体とも繋がれる可能性があると考えています。
3.3 武蔵村山市「保育所AI入所選考」
武蔵村山市子ども育成課の山岡です。保育所AI入所選考システムについて説明いたします。当市の就学前児童数は約2,700人、市内には認可保育所13施設、認定こども園1施設、認可外保育所1施設がございます。
業務改善に着手した経緯と背景は3点あります。1点目は事務量が多い、2点目は入所選考が複雑、3点目は問い合わせが多いことです。このため、早急に業務改善と市民サービス向上を図る必要がありました。
具体的な業務改善の課題として、保育所入所選考事務が複雑かつ事務が繁雑となりミスも起こりやすいこと、システム導入前の4月の選考事務に要した時間は107.5時間で時間短縮が求められたこと、保護者への結果通知を早める必要があることでした。
これらの課題に対する取り組みとして、従来の手作業からAIを活用したシステム化をするためプロポーザルを実施しシステムを導入しました。システム導入に伴い選考システムに合った本市独自の選考条件の見直しを行い、基幹システムに入力したデータをCSV形式で出力しAI入所選考システムに取り込む必要があるため、互換性のあるデータ形式を構築しました。
特に苦労した点として、従来の入所選考とAI入所選考システムでは考え方が異なることがありました。従来は『保護者がどこの保育園でもよい』とした場合、AIシステムでは判定ができないため、『どこの保育園でもよい』をなくし、希望園を第15希望まで増やしAIシステムに対応しました。これにより手作業で入所する園を選択する手間がなくなりました。
同点世帯の処理も課題でしたが、入所選考指数を変更し同点世帯をなくすことで、選考指数が高い順に判定が可能となりました。システムの選考結果は正しいのか、業務の効率化ができるのかを検証する必要がありましたが、検証の結果、従来のものとAIの結果が100%一致したことから、令和4年10月からシステムを本格稼働しました。
取り組みによって得られた成果と期待される効果は3点です。まず、システム化することにより選考根拠や理由をシステムで明確化し、選考順位を確定し、公平公正に入所選考事務を実施することができました。次に、選考事務の迅速化を実現し、4月入所選考事務は107.5時間から1時間へ大幅に縮減し、毎月の選考事務も37.5時間から30分へ縮減できました。そして、選考結果を2週間以上早めることができ、市民サービスの向上が図れたものと考えています。
3.4 板橋区「情報共有アプリ」
板橋区健康推進課です。これから情報共有アプリの構築・運用について、コンセプトは『実感実用DXの力~IT素人でも未来を変えられる仕組み』として、プレゼンテーションをさせていただきます。
これまで当区は業務システムの導入や庁内インフラの整備などデジタル化を進めてまいりましたが、コロナ禍による急激な社会情勢の変化を背景に、今までのやり方ではなく、地域全体に変革を起こすようなDXの推進の必要性を感じることとなりました。
我々は母子保健分野と児童福祉分野という部署をまたいだ連携の充実を電子化で行うため、kintoneを使った内製アプリを構築しました。これにより円滑な情報共有や連携を実現できています。
開発における工夫は大きく2点あります。1つ目は柔軟な開発体制の構築です。限られた時間でアプリを円滑に開発する必要があったため、保健師さんや現場の職員、調整担当からなる作業班を設置しました。この作業班でベータ版のアプリ作成や課題抽出・対応を繰り返し行い、迅速にアプリの導入ができました。特にIT人材がいない中での対応となったことがポイントです。
2つ目は現場への普及です。アプリを開発して終わりではダメだと考え、私がマニュアルを作成して皆さんに共有しました。それに加えて5か所の健康福祉センターで説明会を12時間程度開催し、現場への浸透を達成できました。これにより『私でも使える』という納得感を持っていただくことができました。
得られた効果として、通常ベンダーさんに開発を依頼すると運用まで1年以上かかるところ、kintoneの内製では検討開始から4か月で実装まで、IT人材なしで達成できました。これにより多くの職員が自分の手で迅速に導入できるという実感を得られました。
説明会を通しての『使える実感』、作業班を通しての『作れる実感』、こういった実感を通して、今、保健所を中心としてDXが非常に進展しています。kintoneのアプリもこの6か月で16倍の数に増えており、迅速な横展開が実現できています。
今後の展望として、保健分野を起点として、さらに横展開・庁内DXの推進を図っていきたいと考えています。究極的には東京都、ひいては国への横展開を通じて共通課題への対応ができると素晴らしいと考えています。
3.5 板橋区「AI-OCR×RPA」
板橋区IT推進課の佐々木です。板橋区の取り組み『AI-OCRとRPAで作る板橋式業務改善』について説明させていただきます。
私たちは紙申請書の業務改善のため令和5年度にAI-OCRを導入しました。AI-OCRの導入により職員の業務効率化と区民サービス向上を期待しておりましたが、導入において様々な課題がありました。これにより導入を諦めてしまう、時間がかかるなどのケースが見られました。これらの原因はAI-OCRとRPAそれぞれにあり、所管課だけでは解決が難しいものも多い状況でした。問題が起きたことで導入を見送り、業務改善が進まないなど、これらは自治体共通の課題と考えております。
これらの課題を解決するため、私たちは大きく2つの取り組みを行いました。まず1つ目の取り組みとしてシステムの標準化です。多くの業務に適用できるモデルが必要と考え、Excelの変換マクロとRPAの標準シナリオの2つのモデルを作成しました。これによりよくある課題に対し同じ方法で素早く対応することができ、所管課の不安を取り除き、導入スピードの向上につながりました。
しかし、このモデルを所管課に渡すだけでは問題解決につながらないこともありました。そこで2つ目の取り組みとしてサポートの標準化です。IT推進課職員が必ず相談に同席し、業務フローの作成や申請書の変更などを行います。また、ゴールから逆算して考え、システム入力を意識した業務改善をしています。どの業務にも同じサポートを行うことで、より効率的な業務改善を実現しました。
導入事例として保育サービス課の例を紹介します。保育施設の入所申請の入力業務において、大きく3つの改善を中心にIT推進課と所管課で協力して行いました。その結果、年間約5,000件の申請に対し、令和5年度には約585時間の業務時間削減を達成しました。
さらに私たちは横展開を意識した広報活動にも力を入れています。庁内向けの広報誌の発行、自治体パンフレットでの導入事例の掲載、庁内での研修セミナーの実施、またガブテック東京様の情報交換会での講演など、成功事例の紹介を中心に積極的な情報発信を行っています。
これらの取り組みの結果、導入開始1年間で10~11業務に導入し、令和5年度には約774時間の業務時間削減を実現しました。さらにこの取り組みで横展開が簡単になり、導入がスムーズになったことや、成功事例を中心に発信したことで、今年度も大きく導入数を増やしています。このような結果につながったのは、所管課が導入し業務改善ができるというイメージを持てたからであると考えています。
今後の展望としては、さらなる導入を増やすため、この流れを庁内だけでなく、他自治体や東京都など庁内以外も含めて協力し、より大きな横展開に取り組みたいと考えています。また、今回の取り組みを元に紙申請書の業務改善としてオンライン申請への移行などさらなる業務改善を目指しています。業務改善を展開し、さらなる業務改善につなげる、これが板橋の考える『板橋式業務改善』です。
3.6 練馬区「滞納整理支援システム」
練馬区収納課の本です。今、公務員も民間も人材不足で、特にベテラン職員の退職が課題となっています。そこで私たちは、税金や保険料の滞納整理におけるノウハウ継承や業務の効率化を目指して、AIの学習機能に着眼して開発に取り組みました。
滞納整理の仕事は、ざっくり言うと『交渉』『差し押さえ』『猶予』、このようなイメージです。これらを適正に行うために財産調査を行っています。財産を隠していないか、生活が困窮していないかなどを把握する重要な業務となりますが、案件ごとに状況が違うので的確な調査は難しく、30分ぐらいかかる重たい業務となっています。
このような課題は他にもあって、ベテランになる頃には職員が異動してしまったり、こういうのは多かれ少なかれどこの自治体でもあるんじゃないかと。そうすると、これを解決できれば面白いなと思ってAIの開発にチャレンジをしました。
開発から丸2年、最終的にAIを2つ作ることになりました。1つ目が調査先を瞬時にレコメンドするもので、2つ目が担当案件をマッチングするものです。マッチングといえば東京都さんも婚活アプリを始めましたよね、東京縁結び。私たちは職員と滞納者を縁結びしています。
まずレコメンドAIのポイントは、AIにベテランのノウハウを学習させたことです。例えば『この人は○○銀行に預金がありそうだな』というベテランならではの経験則を加えています。こういったノウハウを隠し味としてAIに導入したので、どこの自治体でもこのシステムをすぐに使うことができます。30分かかっていた選定作業が、わずか3分と大幅にタイムとコストを改善しました。
続いてマッチングAIですが、ここにも重要なポイントがあります。よく見ると新人にも難しい案件を少し持たせ、ベテランにも優しい案件を少し持たせています。これは職員の成長と息抜きのための隠し味となっています。
現場目線で開発をしたこと、『事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ』ということですね。また文書の電子化をやってペーパーレス化なども取り組んでいます。
最もお伝えしたいポイントは『ATM』です。『明るく楽しく前向きに』です。どんなに優れたAIでもシステムを動かすのは人間です。これこそ最高の隠し味です。AIの特性は学習すればするほど進化していきます。多くの自治体で活用するほどノウハウは蓄積されます。さあ皆さん、AIを活用しないてはないですよ。ATMで一緒にAIの進化を体験しましょう。
3.7 小金井市「生活保護AIヘルプ」
小金井市の小野です。日本の北の方にあるシステム会社に相談したところ、共同開発に至り、約1年の試行錯誤の末、生活保護に関する法令・通知のデータベース化と効率的な検索システムを開発しました。
このシステムは、例えば『財布を落とした』『拾った』『宝くじが当たった』、その時に保護費はどうなるのか、という相談に対して、従来は法令を調べて通知を調べて上司に相談して、時間がかかっていました。この時間を短縮したいと思い、開発に着手しました。
シンプルな仕組みですが、従来の単語検索よりもAIの力で関連度の高い資料が提示されます。また、すでにあったマニュアルも検索対象として登録でき、よくある質問を資料と関連付けて登録することも可能です。
具体的な画面では、書籍が入っていてAI検索ボックスに調べたいことを入力すると、資料が関連度の高い順に表示されます。さらに関連文書に飛ぶことも可能です。回答結果を評価するボタンがあり、これが次の検索精度向上につながっていきます。
時間の短縮は成果の1つですが、まず新人には安心を、ベテランには発見をもたらすシステムとなっています。職員の検索行動と「いいね」評価がAIを育成します。これは利用する自治体が増えることによっても加速します。さらに、よくある質問は体験的に共有できる仕組みも追加しました。
開発者としてのインセンティブを残す形で、利用者の増加に伴い利用料が軽減される契約としています。目黒区さん、ありがとうございます。ご利用いただいて。
最も重要な点は、これは『みんなで賢くなる、みんなで得をする仕組み』だということです。利用者が増えるとAIの精度が上がり、よりベストな回答が得られ、利用者負担も軽減されます。よくある質問も含め、自治体全体で共有財産化されます。
生活保護分野に限定されず汎用性があります。どの分野にも法令、通知、ルールがあって事業が成り立っているはずです。その材料をこのシステムに投入すればどの分野でも使うことが可能です。
今でこそ国から総務省のシステムで通知が送信されるようになりましたが、そこにこのようなAIヘルプデスクサービス機能を持てば利用価値は格段に向上すると思います。制度の運用の統一化を図り、自治体の声が制度改正の力にもなります。まさにデジタルの力で変革をもたらすことができると考えています。
3.8 墨田区「DX展」
墨田区では自治体フェアのようなイベントを庁内で開催しようと考え、昨年度まずに『墨田DX展』を開催いたしました。最初にアピールポイントをお話しすると、ボトムアップで事業を企画したこと、403か所での準備期間わずか2ヶ月半で実施したこと、そして全庁を巻き込む形で開催したことが挙げられます。
このイベントを開催しようと思ったのは、職員がシステムに対して苦手意識を持っていたり、IT事業者との接点が希薄で業務改善の手段を思いつかないといった背景があったためです。これらをクリアすべく、DXを進めていくための土台作りを目的として開催いたしました。
イベント概要として、庁舎併設のホールを大きく3つに区切り、ITベンダーの製品を紹介する展示ブース、職員によるセミナーを行うブース、そしてシステムを操作するハンズオンブースを設けました。展示ブースでは墨田区と関わりのある事業者さんに、なんと20社以上出展いただきました。来場者へ製品のアピールができることもあり、全ての出展事業者の方から非常に満足という評価をいただいております。
セミナーブースでは、BPRやデジタルデバイド対策などをテーマに各所管課職員などが登壇しました。約400名の職員が参加するなど大盛況で、参加職員からは「身近な事例が聞けるし自分もチャレンジしてみようと思った」といった声が聞けました。
イベントを実施する上で大事なのは、まずイベントに興味を持ってもらうことです。環境政策課の協力を得て会場電力の一部に燃料電池自動車を活用したり、セミナーの講師を依頼するなど、デジタル部門だけでなく様々な部署にご協力いただく形で全庁参加型の展示会を実現しております。
その結果、本庁舎約1,000人の職員がいる中、その半数の490名の職員が来場し、さらに23区のみのお声がけだったにもかかわらず、14区90名の方の視察にご来場いただき、他自治体との情報共有も図ることができました。
来場者アンケートでは、「今後の業務に役立てるか」という問いに対して約80%の職員が「役立つ」と回答し、さらにDXに関する意識の変化では90%の職員が「とてもあった」「あった」と回答しています。参加した職員からは「DXって聞いてもイメージが掴めなかったけれど、この展示会に参加することで自分の業務にも活かしてみたい」という嬉しい声をいただいております。
終了後、他自治体の方からも「自分たちもやってみたい」というご相談を多数いただいており、実際に板橋区では令和6年2月に展示会を実施しております。最後に、12月24日に更にバージョンアップして再度イベントを実施する予定です。墨田区にとどまらない情報共有や横展開のイベントを予定しています。
4. DXアイデア部門プレゼンテーション
4.1 東村山市「図書館システム構築」
東村山市の堀口と申します。私からはマイナンバーカード連携型図書館システムの導入について提案させていただきます。
東村山市では公立図書館システムのリプレースの時期を迎えようとしているのですが、単純に今まで通りシステムを入れ替えるということではなく、図書館DXにつながる取り組みにしたいと考え、今回の提案を考えました。
現状の図書館システムには、いくつかの課題があります。当市では電子図書館サービスも導入しているのですが、図書館システムとの連携はしていないため、利用するには専用のIDでログインをしなければならない、いわゆるIDバラバラ問題があります。また、学校図書館にはシステムが未導入のため、蔵書管理は現場でアナログ作業となっており、職員が大変な思いをしています。当然、公立図書館と学校図書館の一元的な蔵書管理もできていません。また、東村山市では近隣市と協力して図書館の広域利用も行っているのですが、これもシステムリプレース後も円滑に継続しなければならず、その方法を考える必要があります。
そこで今回は、公立図書館システムと学校図書館システムの一体的な構築、そして各システムと住民ポータルとのID連携、マイナンバーカードの活用、この辺りをチャレンジすることで一気に課題を解決したいと考えました。
具体的な実現イメージとして、図書館システムと電子図書館サービス、住民ポータル、予約申請のサービス、統合ID基盤などを全て連携させ、マイナンバーカードを図書館利用カードとしても利用できる仕組みを構築します。この際、システムをつなぐAPIなどはなるべくスタンダードな仕組みを使うことが重要なポイントです。
こうすることで、利用者の方にとっては、マイナンバーカードや住民ポータルのIDがあれば、蔵書の検索や予約、電子図書館サービスなど、全ての図書館サービスを利用できるようになります。また、他の自治体にも横展開しやすい仕組みになると考えています。
ただし、非常に良い取り組みになりそうなものですが、実現に向けていくつかハードルがあります。今後、国もマイナンバーカードの利用を示していますので、将来的には図書館利用カードもマイナンバーカードになっていくのかもしれませんが、今すぐとはいかないと思います。当面の間は既存の仕組みとの共存や並存、円滑な移行について考えていく必要があります。
また、マイナンバーカード連携やID連携については、ベンダー事業者さんに聞いてもまだあまり対応が進んでいないという状況もあります。さらに広域利用となると事例が少なく、自治体で同じようなことを検討するたびに個別にカスタマイズコストがかかることが懸念されます。これについては、基礎調査等をしっかり行って論点を解決していくしかないのですが、技術的にもマンパワー的にも単独自治体ではハードルが高いというのが実情です。
例えば、システムを統一しようとするとなかなか難しいのですが、やり方やつなぎ方の部分を東京都全体で揃えていくなど、やり方はあると思います。是非皆さん共感していただければ、一緒に進められればと思っています。
4.2 東村山市「施設管理デジタル化」
続きまして、法定点検等施設管理情報の広域収集自動化・見える化について説明させていただきます。当市は公共施設マネジメントの分野でも非常に力を入れて取り組んでいます。包括施設管理委託という施設の管理を包括的に委託する取り組みもやっておりまして、施設の点検にモバイル端末を使ったり、屋根の点検をドローンで行ったりと、だいぶ効率化は進んでいる状況もあるんですが、デジタルを使えばまだまだできることがあると考えています。
皆さんの自治体でもやられていると思うのですが、12条点検ですとか消防設備点検、建築基準法、省エネ法など、色々な各種報告業務があって、これらはかなり紙中心のアナログな対応になっています。これらの業務は書類作成、承認、紙の郵送といったプロセスが多岐に渡っていまして、多数の関係者がバケツリレー方式でアナログとデジタルを行ったり来たりしながらやっているという状況です。データ形式もバラバラだったりするので、苦労して集めたデータも十分に活用できていません。
そこで今回は、データ連携基盤等を活用してデータの収集・報告を自動化して、集めたデータをオープン化したり見える化するという取り組みを提案します。実現のイメージとして、IoTセンサーやモバイル端末で現場の点検データを自動的に収集・報告し、収集されたデータはデータ連携基盤やAPIを通じてシステム間で連携します。その後、報告データも自動的に生成されて関係者に送信される仕組みです。最後はデータを蓄積したものをダッシュボード化したりオープンデータ化して、官民で有効活用する流れを想定しています。
できれば東京都全体の共通の仕組みとしてできるといいなと思っております。期待する効果として、バケツリレーがなくなるので関係者それぞれの負担軽減ができると考えています。また、オープンデータなどを民間事業者に活用していただくことで、新たな効率的な維持管理手法が生み出されるといった効果も期待できます。
もう1点、公共施設でのデジタル活用というと、例えばIoTセンサーで避難所データを収集して情報提供しようといった提案はありがちですが、災害時のためにいくらかけますか、という話になりがちです。今回のように災害時だけでなく、ネットワークやデータ連携基盤について公共施設マネジメントにも有効活用できれば、費用対効果がアップするのではないでしょうか。
こちらも課題はいくつかございます。現状では報告書やデータ形式、システム連携方式などが関係者ごとに異なっているため、それらを整理・棚卸しして差異を吸収する必要があります。ただし、報告業務の仕組み上、国や東京都であったり大手民間企業との調整が前提となる部分が大きいので、単独自治体では非常にハードルが高いというところがあります。
これについても東京都や他の自治体の皆さんと連携して乗り越えられないかと考えています。せめて東京都内で完結する部分だけでも、様式を統一するといったことはできないでしょうか。このような提案は、公共施設マネジメントや災害対策の強化という全国共通の待ったなしの課題に対する解決策となり得ます。さらには、データ連携基盤の広域共有モデルの検討にもつながると考えていますので、共感いただけましたら是非ご支援ご協力をお願いしたいと思います。
4.3 小金井市「国保レセプト点検」
小金井市の北浦と申します。私の方からは国民健康保険診療報酬明細書の資格点検について提案したいと思います。
あらかじめ断っておきたいのですが、欲しいものはこの場にいらっしゃっている方にとっては、アイデア賞受賞でもキャリアでも名誉でもありません。個人応募したということで少し浮いている気もするのですが、今どうして自分が応募したのかと言うと、今目の前で困っていることがたくさんあって、それを解決するそのものが欲しいのです。
別にそのアイデア賞を受賞したからって解決してくれるのかというところは今ここで投げかける問いではないのですが、ひょっとしてYouTube見ている人が作ってくれるということであれば、今からプレゼン内容を変えたいところであるのですが、こんなことで困っています、これを解決したいのですということを提案したくて個人で応募しました。
実際の業務についてご説明すると、皆さんが病院に行った時に医療費、大体3割負担を払って、その7割はどこに行ったかというと、医療機関の方が国民健康保険団体連合会を通じて保険者に請求が来ます。その請求の7割について、本当にその人が国保資格があるのか、負担割合が3割で合っているのか、保険証はあるのか、原額は合っているのか、食事負担は合っているのかといったことを、一件一件目視で確認して手で処理しているのが今の現状です。
これは毎月のルーティンでやっていますが、実際、それが大変な理由は、国保の資格は会社に務めたら社会保険に切り替わるなど、日常的に変更が発生するためです。では何が欲しいのかというと、医療機関から来たレセプトのデータと、今月からもう保険証が廃止されてマイナンバーカードで医療機関に行くことになる保険のデータ、資格のデータ、これらはもうすでにデータとして存在しているはずなのです。
どちらもデータとして存在していて、それを突合して実際に手でアウトプットを作っていたのですが、それを全てオートメーション化して欲しい。もうそれも人間の手を介する必要がない、データがあってルーティンを決めればその通りにもうアウトプットまでやっちゃってくれよ、というのが現場の1職員の声です。これが本当に欲しいです、今すぐ欲しいです。
今後の未来として、職員数が今後減っていく中で、今そういったことを人の手で目視でやっているところを、実際にオートメーション化して人の手を介さなければ、その人員を他の業務に回せます。実際にその資格がない人に対して医療機関に突き返すのか、本人に請求するのか、新たな保険者に請求するのかということも一律のサービス提供が可能となります。
実際にその東京都の国保連合会の管轄であれば展開だって可能だろうし、よくば全国国保連合会も行けば全国展開だってできるはずです。このアイデアは大して派手な話でもなく、全然目立った話ではないのですが、実際そういった困ったことはもう道端のように転がっていて、それを拾い上げることで結局DXにつながるということなので、今後このDXアイデア賞があるのであれば、皆さんいろんなアイデアを持っていると思うので拾い上げて提案していただければと思います。
4.4 板橋区「黙々の会」
板橋区の安藤と申します。これよりガブテック東京と自治体の若手チームで開催する『黙々の会』の提案について発表させていただきます。この黙々の会は、ガブテック東京が行っている共同調達と人材支援、この効果をさらに拡大していく第3の取り組みという位置付けです。
現状と課題として、ガブテック東京は共同調達でツールの安価な提供を、また人材マッチングやサポートなどの人的支援で自治体の支援を行っています。これにより自治体のDXは確実に推進していますが、実際の実装は各自治体ごとに異なっており、横展開は限定的な状況があります。
このため、人材支援ではノウハウが蓄積されず、自治体数が思ったほど伸びない、自治体にとっては実装個数が多いのでなかなか進まない、その結果として共同調達では利用数が伸びなかったり思ったほどの費用対効果が出てこないといった課題があります。
これを解決するのが黙々の会です。この黙々の会は、ガブテック東京と自治体が横展開可能な事例を共同となって構築するチームです。構築した実装例はライブラリーとして公開することで、ツールと業務が結びついた実装例を様々な自治体が利用することが可能になります。
この結果として、人材支援のエリアでは相談事例が増加していく、自治体側では横展開で業務効率化が上がっていく、また共同調達のエリアでは費用対効果が望めるといったことが考えられます。加えて、職員のチャレンジ精神の向上であったり自治体間の交流の活性化といった副次的効果も望めます。
しかし、「本当に参加者ちゃんと来るのか」「実際の品質はどうなのか」「業務の継続性はあるのか」といった疑問があろうかと思います。この問題について、黙々の会のサイクルをベースに説明していきます。
まず参加ですが、参加自治体とテーマを募集し、その後ツール・テーマごとでチームを編成していきます。設計・実装はガブテック東京の支援のもと行い、実装については発表会でレビューを行います。出来上がった実装はライブラリ化し、モジュールの横展開・保守を行っていきます。
参加団体については、皆様の熱意で解決すると思っています。品質については、設計・実装・発表のサイクルを複数回回してブラッシュアップを行うことで担保できます。業務継続性については、ガブテック東京の中でモジュールの保守を行うことで担保できると考えています。
M365は、これから多くの自治体が利用するオフィスツールとなりますが、ワークフローや設備予約に関する実装をパワープラットフォームで実装できないかと考えています。これは3,000万ほどの経費がかかると言われていますが、これを黙々の会で実装し横展開した場合、37団体が使えば削減効果11億円、時間にして1万時間の工数が削減できる見込みです。
最後にまとめですが、自治体の課題は非常に膨大です。しかし、私は確信しているのですが、皆様には強い情熱があると思っております。ワン東京となりアイデアを広げていきたいと考えています。ガブテック東京と自治体が1つとなって、東京都のより良い未来を創造していきたいと考えています。
4.5 調布市「デジタル自分ノート」
調布市高齢者支援室の伊勢です。本日はデジタル自分ノート、略して『DJノート』を提案します。最近、自治体職員が身寄りのない方の対応をすることが増えています。また、認知症などにより、その本人がどんな生活をしているか分からないことが増えています。そこで調布市では、調布市版エンディングノート『自分ノート』を発行し配布しております。これは家族などに伝えたいことを記し、我が身に何かあった時にその方の意向や財産などを把握できるものとなっています。
社会への変化の対応と自分ノートの課題をデジタルの力で解決したいと思ったことが本提案のきっかけとなりました。日々の皆さんの思いや状況は変わっていくかと思います。そういったことを記録しておくことは世代を問わず大切です。そこで、現在紙やPDFで配布しているものを自分史的なアプリにすれば良いのではと考えました。
現状の課題として、更新が不便である、共有を前提としている一方で困難な現状がある、この項目は共有したい・したくないという選択ができない、若者向けのイメージがない、記載内容に応じた提案ができない、また、せっかく作っても共有する相手がいない場合があるなどが挙げられます。
提案内容として、写真も動画も今日の一言も更新できるアプリを考えています。シェアボタンを押すと選んだ相手と選んだ情報だけを共有でき、自分史アプリとして内容を保存すると、自分年表として残せます。例えば起業したいと書いた人には、調布市事業の創業塾をAIから提案されることもできます。
また、身寄りがない方や家族と疎遠な方も、緊急連絡先などについて公的機関などに情報提供を希望するかの選択も可能とします。自動配信による見守りも希望すれば、通知に答えるだけで見守りも可能となります。
以上のような機能を備えたサービスを提供することで、先にあげた現状の課題がそれぞれ解決に導かれることが期待できます。最後にこのDJノートにかける思いをラップの歌詞に載せて皆さんに1曲お届けいたします。
『超から広げる新たなビート 過去も未来もその名は通称DJ デジタル自分のだよ 私は夢を叶えたい若者 目標悩みDJノートで見えない設計をAIがサポート 調布サービスとマッチング 主は1人暮らしのお年寄り 緊急時の情報DJノートに登録 大切な思いで未来への伝言 写真動画で残せる自分史 デジタルの力で上を変える DJノートで新しい未来を作る 若者も年寄りもDJノートで人生のビート スクラッチ DJノートであなたの人生のビートを スクラッチ』
4.6 調布市「施設予約ポータル」
調布の山田と申します。真に利用者目線で考えた都内共通施設予約ポータルサイトの運営について提案をさせていただきます。
まず皆さんにイメージをしていただきたいのですが、皆さんが何かのサービスを受けたいと思った時、例えばスポーツ施設を予約する際に、皆さんが検討したり重要視する要素はどんなものがあるでしょうか。目的、日時、場所、費用などは重要な要素となると思います。一方で、施設の運営者は多くの皆さんにとって重要ではないと思います。
しかし、現在の公共施設予約の方法は、この施設の運営者を軸に予約をすることが必要となっています。例えば、ある都民の方が野球場を予約したいと考えた時、現状では調布市、近隣のA市、近隣のB市といったように、運営主体ごとに空き状況の確認や施設の予約の手続きが必要です。これって非常に不便じゃないですか。正直、野球をやりたい人は野球ができればどこでもいいんだけどな、という風に思っているのではないでしょうか。
そこで調布市としては、都内共通施設予約ポータルサイトの運営について提案させていただきます。このシステムでは、都内の各自治体の情報を連携し、施設情報を一覧化して表示、また共通IDを設けて各自治体の施設を一括で予約できるような未来を実現したいと思います。
利用者側のイメージとして、共通予約アプリを開くと都内の各自治体の施設が一括で検索できます。利用日、目的、場所といった検索項目があり、例えば「本日野球がしたい、京王線沿い」ということを入れると、複数の自治体の所管する施設が一覧で表示されます。地図で表示されるようなこともイメージしています。ここから希望する施設について詳細や予約する画面に直接飛べるようなUIを想定しています。
しかし、本提案は調布市単独で達成できるものではございません。ガブテック東京さんに共通ポータルサイトを構築していただき、我々調布市などの自治体と情報連携で、都民の皆様からはポータルサイトから予約をしていただき、各自治体の施設を利用していただくイメージです。
一方で多くの自治体を巻き込む提案であるため、課題が想定されます。費用の問題、技術の問題、規則や制度の問題などです。私たちの自治体に住民税を支払っていただいている住民の方にとって不利益になるような制度になってはいけないと思いますので、その辺りの制度設計も重要です。
私たちの提案は、東京都のデジタル改革目標やガブテック東京さんが先日発表した中期経営計画との方向性とも合致していると考えています。私たちの提案は調布市単独では正直できるものではございませんが、皆さんと協業して、利用者目線で真に利用者の方が『いいな』と思っていただけるシステム、サービスが提供できるように皆様と連携してまいりたいと考えております。
4.7 目黒区・江戸川区「データ人材育成」
真のデジタルトランスフォーメーションの必須条件といっても過言ではないデータ活用。その自治体のデータ活用に旋風を巻き起こしたい『TIDE(Tokyo Innovative Data Education)プロジェクト』について、目黒区と江戸川区でご提案させていただきます。
まず共同提案に至った理由ですが、目黒区と江戸川区ではそれぞれが手探りでデータ活用人材育成を行っていますが、内部完結することの限界を感じています。各自治体が独自で研修・育成を行うには厳しい現状があります。自治体が共同で活用できる研修スキームが必要だという共通認識に至りました。そこで私たちは、区市町村や東京都、ガブテック東京の皆さんと共に作り上げる人材育成スキーム『東京イノベイティブデータエデュケーション(TIDE)』を提案いたします。
私たちが考えるデータ活用人材とは、エビデンスから現状を認識・理解し、施策に活かすことができる現場の事務事業を担う職員です。現場でデータ活用できる人材を育成することが、自治体DXには重要だと考えています。
研修内容について説明します。研修プログラムはビジネス書では補完できない自治体に特化した内容を用意しています。まず課題把握能力を鍛えます。施策を進めるにあたって重要な仮説構築の基礎を学び、ワークショップ形式で定着させていきます。例えば、ふるさと納税というテーマ1つとっても、自治体によってポジションは様々です。課題に対応するためにどういったデータ分析やアクションが必要なのか、それを研修生同士で考えていきます。
そしてデータ活用スキルとして、仮説を元に抽出した課題をデータで表現するためのBI(Business Intelligence)データ分析ツールの操作研修を行います。データをグラフやマップで表現し、分析結果を伝えていく手法を学んでいきます。これらの研修により、体系的にデータを活用できる人材を育成していきます。
研修の参加者同士でSNSを通じて事例や悩みを共有していきます。これによりデータ活用の情報交換は元より、職員同士の関係性やモチベーションを継続できると考えています。目黒区が既に運営している既存のデータ活用コミュニティを活用させていただきます。このコミュニティはすでに参加者が全国規模となっています。TIDE研修生もこちらに参加いただき、研修そのものと合わせ最大限に活用していただきます。
プログラムの開発にあたっては試行錯誤を繰り返しながら、毎年改善を重ねながら段階的に規模を拡大していきます。研修を共同開催するメリットは、コスト削減だけでなく東京都全体のデータリテラシーを向上させることによって、住民サービスの向上に資する施策立案が期待できます。
研修の講師陣については、それぞれの経験やスキルを活かし、官民問わず公共政策データ活用に様々な形で携わっている方々と共に研修を作り上げていきます。
最後に『TIDE』というネーミングに込めた思いをお話しさせていただきます。全体でデータ活用の渦を巻き起こしたい、データ活用に対する自治体の態度を変えたい、これを絶好のチャンスと捉え、ムーブメントを加速させたい、東京都全体のデータドリブンの流れを止めずに、その波に乗れるよう力を尽くしたいと考えています。是非一緒に皆さんの地域そして東京のより良い未来をデータで作っていきませんか。
5. 表彰結果
5.1 DXスプリント賞:小金井市「生活保護AIヘルプデスク」
DXスプリント賞は、横展開のしやすさという観点で最も多くの票を獲得した取り組み提案に送られる賞として位置づけられており、全部門の全ての取り組み提案の中から1組が表彰されます。今回、この栄誉ある賞を受賞したのは小金井市の「生活保護AIヘルプデスクサービスの導入」です。
選定理由としては、法令や通知をデータベース化し、AIによる検索システムを構築することで、生活保護業務における知識の共有と業務効率化を実現した点が高く評価されています。特に、生活保護業務という全国の自治体が共通して抱える課題に対して、AIを活用した具体的な解決策を提示したことが、横展開の可能性を大きく高めている点が注目されました。
受賞した小金井市の担当者からは、「まさか受賞できるとは思っていませんでした。でも一番嬉しい賞です。プレゼンの中でもご説明をさせていただきました通り、生活保護の分野だけじゃなくて、あらゆる分野で活用いただけるシステムになっていくと思いますので、是非皆様にご検討いただきたい」とのコメントがありました。さらに「小金井市のDXオフィスも是非見に来てください。お待ちしています」と、他自治体との積極的な情報共有への意欲も示されています。
本システムは、単なる検索システムではなく、職員の経験やノウハウを蓄積・共有できる仕組みとなっており、自治体業務のデジタル変革における新しいモデルケースとしても期待されています。今後は、生活保護分野での成功事例を基に、他の行政分野への展開も視野に入れた発展が期待されています。また、利用する自治体が増えることでAIの精度が向上し、より良い行政サービスの提供につながる好循環を生み出す可能性も高く評価されています。
5.2 部門別優秀賞・大賞受賞プロジェクト
各部門で優秀な成果を収めた取り組みに対して、優秀賞と大賞が授与されました。受賞プロジェクトは以下の通りです。
【行政サービス部門】 優秀賞:町田市「バーチャル市役所ポータル待ドア」 本プロジェクトは、3年連続での受賞となり、ChatGPTと3Dアバターを組み合わせた革新的なサービス提供が評価されました。町田市からは「今後も市民サービスの向上とDXの推進に向けて取り組んでいきたい」とのコメントがありました。
大賞:調布市「AI搭載ゴミ分別支援」 電気通信大学との産学官連携による開発体制と、13言語対応の多言語サービスの実現が高く評価されました。受賞した調布市からは「今後も産学官連携に基づくゴミナビの機能開発を前進させ、市内の資源循環、環境負荷の低減を図っていきたい」との抱負が語られました。
【業務改善部門】 優秀賞:武蔵村山市「保育所AI入所選考」 107.5時間から1時間への劇的な業務時間短縮を実現した点が評価され、受賞者からは「短い時間のプレゼン資料作成は大変でしたが、成果を評価いただき嬉しく思います」とのコメントがありました。
大賞:練馬区「滞納整理支援システム」 AIによるベテラン職員のノウハウ継承と、「ATM(明るく楽しく前向きに)」という独自の取り組み姿勢が評価されました。練馬区からは「職場に戻れば100人以上の一緒に働く仲間がいます。その知恵を詰め込んだこのAIを、区民のため、そしていろんな自治体のために普及したい」との力強いコメントがありました。
【DXアイデア部門】 優秀賞:目黒区・江戸川区「データ利活用人材育成スキーム」 データの利活用につきましては皆さん手探りの中進めている状況ですが、両区からは「是非1本筋を通してデータ利活用を皆さんで頑張っていきましょう」「同じような取り組みを他の自治体さんでもされていると思います。是非一緒に新たな東京都の未来を作り上げていきたい」との抱負が語られました。
大賞:板橋区「黙々の会」 ガブテック東京との協働による開発体制構築と、37団体での活用による11億円のコスト削減試算が高く評価されました。受賞した板橋区からは「このアイデアの着想は昨年度DXアワードでの受賞がきっかけとなり、様々な自治体との交流が広がっていることに喜びを感じています。今度は還元する側に回っていきたい」とのコメントがありました。
これらの受賞プロジェクトは、いずれも他自治体への横展開の可能性が高く評価され、東京都全体のDX推進に大きく貢献することが期待されています。