※本記事は、Future Investment Initiative Institute (FII Institute) が2024年10月29-30日にサウジアラビア・リヤドのKing Abdulaziz International Conference Centerで開催した第8回Future Investment Initiative(FII8)での下記のインタビューとパネルディスカッションの内容を基に作成されています。 「The Economist's Zanny Minton Interviews Dr. Eric Schmidt on Technology's Geopolitics After #AI」 「CNN's Richard Quest Speaks with Masayoshi Son about Artificial General Intelligence at #fII8 #AI」 「H.E. Mohammad Al-Tuwaijri, André Esteves, Jean Hynes & More on the Stability of the Global #Economy」 「Crandall, Erdoes, Ford, Hoggett, Moelis & Tong on the Future of Global #Investment at #FII8」
FII Instituteは、人類への影響(Impact on Humanity)を重点課題とするグローバルな非営利組織で、人工知能(AI)とロボティクス、教育、医療、持続可能性の4つの重要分野において、世界中の優れた知見をアイデアから実践的なソリューションへと転換することを目指しています。 本記事では、Eric Schmidt氏、孫正義氏をはじめとする登壇者の発言内容を要約しております。なお、本記事の内容は登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの講演映像をご覧いただくことをお勧めいたします。 Future Investment Initiativeの詳細情報は https://www.fii-institute.org でご覧いただけます。また、各登壇者の発言は、講演時点での見解であり、その後の状況変化により、異なる見解が示される可能性があることをご了承ください。
1. AI時代の技術地政学 - Eric Schmidt氏へのインタビュー
SPEAKER: Eric Schmidt
- Schmidt Sciences:妻のWendyとの共同創設者
- Google、KBE:元CEO & 会長
MODERATOR: Zanny Minton Beddoes
- The Economistの編集長、
1.1. AIが引き起こす技術競争の新時代
AIは、PCやインターネット革命を超える規模の革新を引き起こしています。これは単なる技術革新ではなく、知能に関する革命です。Goldman Sachs Researchの試算によると、AIの広範な採用により、10年間で世界のGDPが約7兆ドル増加する可能性があります。
私の共著者であるHenry Kissingerは昨年10月半ばに亡くなりましたが、彼との最後の著書「Genesis」が11月に彼の命日に出版される予定です。この本でも触れていますが、アメリカのモデルは、この特定のシナリオで勝者を生み出すことに関して独自の能力を持っています。
その理由は、アメリカには深い資金調達の仕組みがあり、必ずしも収益化の見通しがなくても、文字通り100億ドル規模のハードウェアを構築できるということです。これは私から見れば神からの贈り物のようなものです。
現在我々は、米国とその同盟国、そして中国とその同盟国との間で、基本的にグローバルな競争が展開されているのを目の当たりにしています。両国がこの革命における明確な勝者になると言って差し支えないでしょう。
しかし、私にとって重要な問題は、米国と中国で何が起こるかということではありません。それは明らかですから。問題は、他の195カ国にどのような影響があるかということです。一般的にソフトウェアは安価で使いやすく、制御が難しく、広く分散しています。しかしAIの場合、非常に大規模な資本とエネルギー、そしてデータセンターを構築する能力が重要なポイントとなります。
この点で、サウジアラビアは適切な方策を取れば、大きな勝者の一つになる可能性があります。豊富なエネルギー資源と明確なリーダーシップ、そして正しい接続性と天候条件を持つサウジアラビアは、AIインフラストラクチャの構築において独自のポジションを確立できる可能性があります。
1.2. 米中のAI開発競争の展望
1.2.1. 両国が明確な勝者となる可能性
現在、私たちは米国とその同盟国、そして中国とその同盟国との間の根本的なグローバルな競争を目の当たりにしています。アメリカのモデルは、この特定のシナリオにおいて勝者を生み出すことに関して独自の能力を持っています。その理由は、深い資金調達の仕組みを持っているからです。必ずしも収益化の見通しがなくても、文字通り100億ドル規模のハードウェアを構築できるという状況は、私から見れば神からの贈り物のようなものです。
中国についても、AIにおける明確な勝者となることは間違いありません。両国ともに、この革命において勝者となるでしょう。この革命は、PCやインターネット革命よりも大きな規模のものとなります。なぜなら、これは知能に関する革命だからです。
特に、AI開発において重要なのは、非常に大規模な資本とエネルギー、そしてデータセンターを構築する能力です。この点で、米中両国は他国に比べて圧倒的な優位性を持っています。両国は、必要な規模の投資と技術開発を継続的に行うことができる能力を有しているのです。
しかし、この競争は単純な勝ち負けの問題ではありません。両国が優位性を持ちつつも、それぞれの方向性で発展していく可能性が高いと考えています。この状況は、新たな形の技術的な二極化をもたらす可能性があります。
1.2.2. 他の195カ国への影響
私にとって重要な問題は、米国と中国で何が起こるかということではありません。むしろ、他の195カ国にどのような影響があるかということが、より重要な課題だと考えています。
一般的にソフトウェアは安価で使いやすく、制御が難しく、広く分散する特徴を持っています。しかし、AIの場合は状況が異なります。非常に大規模な資本とエネルギー、そしてデータセンターを構築する能力が重要なポイントとなります。これらの要素は、多くの国々にとって大きな課題となるでしょう。
特に、AIインフラストラクチャの構築には、巨額の投資と高度な技術力が必要です。この点で、多くの国々は米中両国との格差に直面することになります。しかし、一方で、サウジアラビアのように豊富な電力資源と資本を持つ国々にとっては、これは大きな機会となる可能性があります。
結果として、AIの発展は国家間の新たな格差を生み出す可能性があります。それは単なる技術力の差ではなく、AIインフラストラクチャを構築・維持する能力の差として顕在化するでしょう。これは、グローバルな力学を根本的に変える可能性を持っています。
しかし、同時にこれは、特定の資源や能力を持つ国々にとっては、新たな機会の窓を開くことにもなります。AIの発展において、エネルギーと資本が重要な要素となることで、従来とは異なる形での国際競争力が生まれる可能性があるのです。
1.3. 軍事面でのAIの影響
1.3.1. ウクライナ戦争での実例:3-6週間でのイノベーションサイクル
私は軍事組織と多くの時間を過ごしてきましたが、軍事組織に対してやや懐疑的な見方を持っています。それは人々が悪いからではなく、システムがこのような状況に対して正確に対応できていないからです。組織構造、優先順位、政治的構造が変化していない中で、戦場の状況は完全に変化しているのです。
ウクライナでの実例を見ると、両陣営が信じられないスピードでイノベーションを行っています。西側の戦争計画において、私が知る限り、彼らは比較的静的なモデルを持っています。相手がこれを持ち、こちらがそれを持つという想定で計画を立てているのです。しかし、実際にはそうではありません。
両陣営は驚くべきスピードでイノベーションを行っており、ウクライナでの一般的な法則として、一方の側のあらゆるアイデアは3〜6週間以内に他方の側に採用されます。なぜなら、両者がお互いを観察しているからです。ロシアの戦術は最近ウクライナの戦術をコピーするように変化し、ウクライナもいくつかのロシアの戦術を採用しています。
特に興味深いのは、歴史的に非革新的であったロシアが、彼らが始めた戦争の巨大な圧力の下で、自身の戦争の定義を変更していることです。彼らはドローン用の巨大な工場を建設し、イランやその他の国々から技術を取り入れ、それを改良してより強力なものにしています。司令官たちと話すと、戦争があまりにも急速に変化しているため、実際に現場にいる必要があると言います。
1.3.2. ドローン戦争の台頭と戦車の実効性低下
この戦争は陸上戦争であり、第一次世界大戦のような陸上戦争です。一方の側と他方の側があり、どちらも空の支配権を持っていません。しかし、ウクライナは海上ドローンによって海上支配権を持っています。前線は約10km幅で、時には半キロメートルにまで狭まることもあります。これらの地域は死の領域となっており、世界で最も地雷が埋められた施設となっています。両陣営は車両の往来を防ぐために地雷を敷設しています。
ご存知の通り、世界には膨大な数の戦車があります。しかし、これらの戦車は現在、ほとんど無用の長物となっています。$5,000のドローンで$5百万の戦車を破壊できるのです。私は米国がどこかに数千台の戦車を保管しているという記事を読みましたが、それらは譲渡してしまえばいいと思います。代わりにドローンを購入すべきです。実際、10台、20台、50台、100台と購入すべきです。
自律性のコストが急速に低下したため、将来の紛争におけるドローン戦争は、最終的に戦車、砲兵、迫撃砲を排除することになるでしょう。私は紛争がなくなるとは示唆していませんが、その性質が変化するということです。ドローンの世界、つまりロボットの世界を考えてみてください。ロボットという言葉を使うと恐れを感じるかもしれませんが、ドローンはさらに致命的なものです。
1.3.3. $5,000のドローンvs $5百万の戦車という非対称性
最も単純なステップとして、まずターゲットを人間が特定し、そのターゲットに対してドローンを使用します。次のステップは、技術的には「群れ」あるいは「スウォーム」と呼ばれる、同一のターゲットに対して複数のドローンを同時に発射することです。その次のステップは、ドローンが待機状態にあり、コンピュータが脅威を察知してドローンを発射し、それらが防空システムとして機能するという準備システムです。
これらの戦術は、実は米国空軍が第二次世界大戦で70年前に開発したものと同じです。今、ウクライナではこれらの戦術をドローンで実践しています。現在、ウクライナはロシアよりもやや先行していますが、その差はそれほど大きくはありません。
このような状況下では、従来の装備の費用対効果が根本的に変化します。$5,000のドローンで$5百万の戦車を破壊できるという非対称性は、軍事戦略に革命的な変化をもたらしています。この価格差は、今後の軍事投資の方向性を大きく変える可能性があります。
将来の紛争では、両陣営がこのような自動ドローンネットワークを持つことになるでしょう。しかし、私には、両陣営が髪の毛ほどの反応時間でドローンネットワークを持つという抑止体制下で何が起こるのかわかりません。文献や思考を見ても、人々はこのようなシステムがヘアトリガー(非常に敏感な引き金)状態にある場合の意味について十分に考えてはいません。これは新しい抑止の問題です。Dr. Kissingerは1950年代に相互確証破壊に関するあらゆる思考を開拓しましたが、私たちはまだ、このような状況に対応する同等のドクトリンを持っていません。
1.4. サウジアラビアの機会
1.4.1. 豊富な電力資源を活用したAIインフラ構築の可能性
サウジアラビアは、AIインフラストラクチャの構築において独自の優位性を持っています。まず、豊富な電力資源を有しており、これはAI開発に不可欠な要素です。さらに、この国には明確なリーダーシップ体制があり、AIの構築に本気で取り組もうとしています。また、正しい接続性、適切な気候条件、そして豊富な日照量を活かした再生可能エネルギーなど、必要な要素が揃っています。
この国は、資金力も十分にあります。現在、政府内でどのようにAIを組織化し、実行していくかについての議論が進められています。私から見ると、その方向性は概ね正しいものに見えます。サウジアラビアが正しい方策を取れば、AIにおける大きな勝者の一つになる可能性があります。
AIインフラ構築の最も単純な方法は、豊富な資源を活用して、他の国が構築できないような施設を作ることです。先進国の多くは深刻な電力不足に直面していますが、サウジアラビアはその心配がありません。ここで正しいネットワークとデータセンターを構築することができれば、私たち全てが望むような成果を得ることができるでしょう。
電力供給の安定性とコストの面で、サウジアラビアは他国に比べて明確な優位性を持っています。これは、大規模なAIインフラストラクチャの構築と運用において決定的に重要な要素となります。
1.4.2. 2028年までに米国の電力不足が予測される中での優位性
開発途上国における深刻な電力不足の問題は、AIインフラストラクチャの構築において重要な障壁となっています。特に注目すべきは、私のような仕事をしている者が使用するような種類の電力について、米国は2028年までに不足する見通しだということです。
また、ご存知の通り、欧州や英国では電力コストが非常に高騰しています。この状況下で、AIのトレーニングやインファレンスをサウジアラビアで行うことには十分な合理性があります。適切なネットワーク、適切なデータセンター、そしてその他の必要なインフラが整備されれば、サウジアラビアは他国が直面している電力の制約を受けることなく、AIインフラストラクチャを展開できる立場にあります。
特に、再生可能エネルギーの豊富な日照量を活用できる点は、サウジアラビアの大きな強みとなります。米国や欧州が電力供給の制約に直面する中、サウジアラビアは豊富なエネルギー資源と再生可能エネルギーの可能性を組み合わせることで、AIインフラストラクチャの開発において独自の優位性を確立できる位置にいます。これは、2028年以降により顕著になると予測される世界的な電力不足の中で、特に重要な意味を持つことになるでしょう。
2. 孫正義氏が語るAGI(人工一般知能)の未来
SPEAKER: 孫 正義
- SoftBank Group Corp.の代表取締役、法人役員、会長 & CEO
MODERATOR: Richard Quest
- CNNのジャーナリスト & アンカー
2.1. AGIとASI(人工超知能)の定義
2.1.1. AGI:人間レベルの知能
AGI(Artificial General Intelligence:人工一般知能)の定義について説明させていただきます。AGIとは、人間の脳と同じレベルの知能を持つAIのことです。人々はAGIについて様々な視点や定義を持っていますが、私の定義では、人間の脳と同等の能力を持つことがAGIの基準となります。
これは、人間の脳が持つ柔軟性、創造性、そして「今日は何か新しいことを学びたい」というような思考能力を含みます。現在のコンピュータにはまだこのような能力はありませんが、非常に急速にその方向へ進んでいます。
私はこの分野に強い関心を持っており、ASI(人工超知能)の実現に向けて完全に集中しています。なぜなら、これは人類の未来を永遠に変えるものだと確信しているからです。私の目標は、人類の未来をより良く、より幸せに、より素晴らしいものにすることです。それが私の興味の対象であり、AGIはその重要な一歩となります。
2.1.2. ASI:人間の10,000倍の知能(2035年実現予測)
人々はASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)について、様々な定義や見方を持っています。どのくらい「スーパー」なのか、10倍なのか、100倍なのかという議論があります。私の定義では、ASIとは人間の脳の10,000倍賢い知能のことを指します。
この10,000倍という数字は、私の明確な予測に基づいています。そして、このASIは今から10年後の2035年に実現すると予測しています。これは非常に大胆な予測かもしれませんが、技術の進歩速度を考慮すると、十分に実現可能な目標だと考えています。
このような超知能の出現は、人類の未来を永遠に変えるでしょう。しかし、もちろん私たちは慎重に進める必要があります。このような超パワーが出現し、何の規制もないとすれば、それは非常に危険なものとなる可能性があります。自動車産業が人類に非常に大きな恩恵をもたらしたように、ASIも適切な規制の下で開発されれば、人類に大きな恩恵をもたらすことができるはずです。
私は、この技術を人類の未来をより良く、より幸せに、より素晴らしいものにするために活用したいと考えています。そのためには、適切な規制と共に、開発を進めていく必要があります。
2.2. ASI実現に向けた必要投資
2.2.1. 400GWのAIデータセンター電力(米国全体の電力使用量を超える)
AIデータセンターに必要な電力について、私の予測では400ギガワット(GW)のAIデータセンター電力が必要となります。この規模は米国全体の電力使用量を上回るものです。
私の計算によると、AIデータセンターの運用には膨大な電力が必要です。200億個のチップを効率的に動作させるためには、400GWという莫大な電力供給が不可欠です。これは単なる数字ではなく、現実的な必要量として算出しています。
もし批評家の中で最も否定的な見方をする人でも、10年後には少なくとも5%の変化が起こり、95%は変化がないと予測しています。しかし、この5%の変化だけでも、人類の知能の10,000倍のASIを実現するために、400GWという巨大な電力投資が必要となります。
この電力需要は、現在の米国の総電力供給能力をも超えるものです。実際、米国では2028年までに、私のような仕事に必要な種類の電力が不足すると予測されています。これは、ASI開発において電力供給が重要な制約要因となることを示しています。
2.2.2. 2億個のチップ
ASIの実現には、200百万個、つまり2億個のチップが必要になると予測しています。これは単なる推測ではなく、人類の知能の10,000倍の処理能力を実現するために必要な計算能力から導き出した具体的な数字です。
現在の半導体産業の生産能力を考慮すると、これは非常に大きな挑戦となります。しかし、私は、これは実現可能な目標だと考えています。特に、ARMは私たちのコア企業として、モバイルフォンチップの99%、あるいは正直に言えばほぼ100%の市場シェアを持っています。さらに、ハイエンドのAI、IoTチップなど、あらゆる種類のチップの90%のシェアを持っています。
実際、ARMは非常に近い将来、AI中心のチップカンパニーになろうとしています。これは私たちの計画の重要な部分の一つです。2億個という数字は確かに巨大ですが、適切な投資と技術開発により、達成可能な目標だと確信しています。
2.2.3. 累積設備投資9兆ドル
ASIを実現するために必要な累積設備投資は9兆ドルと予測しています。多くの人々にとって、この投資額は非常に大きく見えるかもしれません。しかし、私はこの9兆ドルという累積投資額は、むしろ合理的な金額だと考えています。場合によっては、小さすぎる可能性すらあります。
この投資額の妥当性を説明させていただきます。10年後にASIが世界のGDPの5%を置き換えた場合、それは年間9兆ドルの収益に相当します。つまり、累積投資額と同額の収益を1年で回収できる計算になります。この9兆ドルの投資に対して、年間約4兆ドルの純利益が見込まれます。これは50%の利益率を意味します。
現在のGDPが5%しか変化しないという最も悲観的な批評家の見方を受け入れたとしても、ASIへの9兆ドルの累積投資は、非常に魅力的な投資機会となります。なぜなら、この投資は1年で償却可能であり、その後は継続的に高い利益を生み出すことができるからです。
2.3. 投資回収の見通し
2.3.1. GDP5%のASI置換で年間9兆ドルの収益
ASIの経済効果について、最も否定的な批評家でさえ、10年後には約5%の変化が生じ、95%は変化がないと予測しています。この5%という数字を基に、投資回収の見通しを説明させていただきます。
10年後に全世界のGDPの5%がASIによって置き換えられた場合、それは年間9兆ドルの収益に相当します。これは、累積設備投資額の9兆ドルと同額です。つまり、ASIへの投資は1年で投資額を回収できる可能性があるということです。
多くの人々は、9兆ドルというような巨額の投資は大きすぎると考えるかもしれません。しかし、年間の収益が同額であることを考えると、この投資額はむしろ小さすぎるかもしれません。なぜなら、この収益は一度きりではなく、継続的に得られるものだからです。
最も保守的な見方をしても、ASIが世界のGDPの5%を置き換えるという予測は十分に現実的です。これは、ASIが人間の知能の10,000倍の能力を持つことを考えれば、むしろ控えめな予測かもしれません。
2.3.2. 年間4兆ドルの純利益
ASI事業からの純利益について、具体的な数字をお示しします。年間9兆ドルの収益に対して、約50%の利益率を見込んでおり、これは年間4兆ドルの純利益に相当します。
この50%という利益率は、ASIの特性を考慮すると十分に実現可能な数字です。なぜなら、ASIは人間の知能の10,000倍の能力を持ち、極めて効率的な運営が可能だからです。また、初期投資である9兆ドルが1年で償却できることを考えると、2年目以降の利益率は更に高くなる可能性があります。
このような高い利益率は、従来のビジネスモデルでは考えられないかもしれません。しかし、ASIが提供する価値と、その運営効率を考慮すると、これは現実的な予測です。年間4兆ドルの純利益という数字は、一見途方もない金額に見えるかもしれませんが、世界のGDPの5%という控えめな置換率を前提としていることを考えると、むしろ保守的な見積もりと言えるかもしれません。
なお、この純利益は新しいGAI4社によって分配されることになり、各社が約1兆ドルの純利益を得ることになります。これは、ASI市場が寡占的な市場構造になることを示唆しています。
2.3.3. 4大企業で各1兆ドルの利益シェア
年間4兆ドルの純利益は、新しいAGI企業4社で分配されることになります。つまり、各社が年間約1兆ドルの純利益を得ることになります。これは、悪意のある者が1%、2%存在したとしても、99%の人々は善良であり、そのような善良な企業によって運営される体制を想定しています。
悪意のある人々は、ASIを悪意ある目的に使おうとするかもしれません。しかし、そのような悪意のある人々には、ASIの開発に必要な数百億ドルもの投資を賄うだけの資金力はありません。ASIの開発には巨額の資本が必要であり、これは自然と悪意のある者を排除する仕組みとして機能します。
この4社による市場の分割は、安定的な市場構造を生み出すと考えています。各社が1兆ドルという巨額の利益を得ることで、継続的な技術開発と安全性への投資が可能となり、ASIの健全な発展が期待できます。なお、この利益予測は、世界のGDPの5%という控えめな置換率を前提としており、実際にはさらなる成長の可能性があります。
3. グローバル経済の安定性に関するパネルディスカッション
SPEAKERS: H.E. Mohammad Maziad Al-Tuwaijri
- The National Development Fund (NDF)の副会長 André Esteves
- BTG Pactualの会長 & シニアパートナー Jean Hynes, CFA
- Wellington Managementの最高経営責任者、マネージングパートナー & ポートフォリオマネージャー Bernard Mensah
- Bank of Americaのインターナショナル部門プレジデント C.S. Venkatakrishnan
- Barclays PLCのグループCEO
MODERATOR: Joumanna Bercetche
- Bloombergのアンカー
3.1. IMFの世界経済見通し
3.1.1. 2024-25年の世界成長率3.2%予測
Joumanna Bercetche(モデレーター):IMFが先週発表した世界経済見通しレポートでは、2024年と2025年の世界経済成長率を3.2%と予測しています。いくつかの低所得開発国については大幅な下方修正がありましたが、IMFはこの成長率を「安定的だが物足りない」と表現しています。パネリストの皆様、この見通しをどのように評価されますか?
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri(NDFの副会長):私は航空時代の経験から、計器を見ながらの着陸のように経済指標を注視しています。現在、景気後退の確率は約20%と予測されていますが、地政学的な状況が最大のレーダーとなっています。
Bernard Mensah(バンク・オブ・アメリカ):特に米国に注目すると、2024年は2.2%の成長が予測されています。これに対してヨーロッパ、特にドイツは今年実質的にゼロ成長、ユーロ圏全体でも来年の成長率は1%程度です。この文脈で見ると、米国は先進国の中で比較的明るい見通しとなっています。
Jean Hynes(ウェリントン・マネジメント):米国の中小企業に注目すると、過去数年の高金利により収益は20%減少しています。しかし、金利が低下し始めれば、より広範な経済分野で成長が見られるようになるでしょう。
André Esteves(BTGパクチュアル):私の見立てでは、世界経済は予想以上の強靭性を示しており、インフレ抑制と成長維持の両立に成功しつつあります。これは各国中央銀行による適切な政策運営の結果だと評価しています。
3.1.2. インフレ率の低下(8%超から3%へ)
Joumanna Bercetche(モデレーター):数年前、世界のインフレ率は8%を超えていましたが、IMFは来年末までに約3%まで低下すると予測しています。この大幅な低下をどのように評価されますか?
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:サウジアラビアでは、インフレ率はすでに目標水準である2%近くまで低下しています。しかし、世界的なインフレの状況はまだ不確実性が残っています。私たちは金利の動向を注視しており、FRBが今後数ヶ月でどのような対応をとるかを慎重に見守っています。
Bernard Mensah:私の見立てでは、米国は他の先進国と比較して特筆すべき成果を上げています。インフレ抑制、安定的な成長、雇用の確保という3つの目標をバランスよく達成しつつあります。
André Esteves:この1年の市場の変動は激しいものでした。3月にはFRBの緊急利下げを予想する声もありましたが、9月には50ベーシスポイントの利下げ観測が出て、その後多くのFRB関係者が利下げペースの減速や一時停止の可能性を示唆しました。私は、市場がこれらの変化に対して過剰に反応している面があると考えています。
Jean Hynes:インフレ率の低下は、特に中小企業にとって重要な意味を持ちます。なぜなら、金利が低下すれば、より多くの企業が投資を活発化させ、それが経済全体の成長につながることが期待できるからです。過去を振り返ると、中小企業は景気回復の重要な牽引役となってきました。
3.2. 主要な課題
3.2.1. 地政学的リスク
Joumanna Bercetche(モデレーター):バンク・オブ・アメリカのグローバルファンド調査によると、上位3つのテールリスクは地政学、インフレ、米国の景気後退とされています。この地政学的リスクについて、皆様の見解をお聞かせください。
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:私が最も注視している経済の計器は地政学的状況です。中国・台湾関係、ロシア・ウクライナ問題、中東情勢、スーダンなど、世界中で起きている全ての出来事が、リスクの価格付けやボラティリティ、そして対外直接投資(FDI)に直接的な影響を及ぼしています。
Bernard Mensah:私の観点からすると、地政学的リスクは二つの側面で影響を与えています。一つは大きな衝撃が起こった場合のテールリスクですが、現状ではその影響は局地的に留まっています。もう一つは、これらの緊張が貿易関係、関税、非関税障壁などの形で経済政策に及ぼす影響です。
André Esteves:私が特に懸念しているのは、地政学的な緊張がグローバルFDIの景観を大きく変えている点です。例えば、中国のインフラ企業が米国やヨーロッパに投資することは容易ではありませんが、ブラジルやラテンアメリカには投資できます。中立的で平和な地域は、世界の分断された地域よりもはるかに多くのFDIを獲得しています。
C.S. Venkatakrishnan:私の見方では、最も懸念されるのは、これらの地政学的リスクが予測不可能であり、かつ急速にエスカレートする可能性があることです。金融機関として、このような不確実性にどう対応するかが重要な課題となっています。
3.2.2. 人口減少問題(特に欧州、韓国、中国)
Joumanna Bercetche(モデレーター):世界的な人口動態の変化について、特に欧州、韓国、中国の状況をどのように評価されていますか?
Elon Musk:私の分析では、人口減少は近い将来においてAIに次ぐ重大な実存的脅威です。世界中で出生率が低下しており、現在の出生率に基づくと、韓国は現在の人口の約3分の1に、欧州は約半分に減少すると予測されています。
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:世界的な人口動態を見ると、特に欧州で顕著な人口減少が見られ、中国でも同様の傾向が表れています。これは経済成長に大きな影響を及ぼす重要な指標の一つだと考えています。
Bernard Mensah:私が特に懸念しているのは、これらの数字が出生率2.1人/女性という人口安定化水準に回復した場合の予測だという点です。現在の減少傾向が続けば、3世代後には多くの国の人口が現在の5%以下になる可能性もあります。
Jean Hynes:この問題の本質は極めてシンプルです。新しい人間を作らなければ人類は存続できません。どれだけ素晴らしい政策を実施しても、人口問題を解決できなければ意味がありません。私は、これがほとんどの国が直面している最大の課題の一つだと考えています。
André Esteves:私の見方では、この人口動態の変化は、労働市場や年金システム、そして経済成長に大きな影響を与えます。これは単なる数の問題ではなく、社会システム全体の持続可能性に関わる課題です。
3.2.3. 環境問題
Joumanna Bercetche(モデレーター):環境問題が経済に与える影響について、それぞれのお立場からご意見をお聞かせください。
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:サウジアラビアでは、環境問題に関する議論を経済の転換期における重要な指標の一つと位置付けています。特に、私たちは再生可能エネルギーの活用を積極的に推進しており、豊富な日照量を活かした太陽光発電は、将来の経済発展における重要な要素となっています。
Bernard Mensah:私の見立てでは、環境課題は経済システムの根本的な変革を必要としています。特に、エネルギー集約型の産業において、環境負荷の低減と経済成長の両立は大きな課題です。金融機関として、私たちは持続可能な開発を支援する重要な役割を担っています。
Jean Hynes:投資家の視点から見ると、環境問題は単なるリスク要因ではありません。むしろ、クリーンテクノロジーや再生可能エネルギー分野における新たな投資機会を生み出しています。私たちの分析では、これらの分野で長期的な成長が期待できます。
André Esteves:環境に関する議論は、特に発展途上国の経済成長にとって制約とならないよう、バランスの取れたアプローチが必要です。私は、環境保護と経済発展の両立は、グローバルな課題として認識されるべきだと考えています。
C.S. Venkatakrishnan:環境問題への対応は、企業の長期的な競争力を左右する要因となっています。バークレイズの立場からすると、カーボンニュートラルへの移行は企業にとって大きな投資機会であると同時に、重要なリスク管理の課題でもあります。
3.3. 中国経済
3.3.1. 財政刺激策の効果
Joumanna Bercetche(モデレーター):中国は最近、財政刺激策を発表しましたが、その効果についてどのように評価されていますか?
Bernard Mensah:私の分析では、中国の回復は多くの人が予想していたよりも遅いペースとなっています。これまでのところ、供給サイドの支援策とローカル政府、銀行、不動産セクターの一部への支援構造の整備に重点を置いています。純粋に経済的な観点から見ると、これらの施策は方向性としては正しいものの、十分な効果を発揮するまでには時間がかかるでしょう。
Jean Hynes:私は中国の政策運営能力を高く評価しています。歴史的に見ても、中国は経済運営を非常に上手く行ってきました。現在の財政刺激策においても、不動産セクターへの支援や地方政府債務への対応など、様々な面でバランスの取れた対応を試みています。
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:私が注目しているのは、中国の財政刺激策が、これまでの投資主導型の成長モデルからの転換を図ろうとしている点です。しかし、その効果については市場がまだ判断を保留している状態です。次の四半期の経済指標を注視する必要があります。
André Esteves:私からすると、市場の評価が分かれている主な理由は、消費者向けインセンティブがあまり見られない点です。市場は消費主導の回復も期待していましたが、現在の政策パッケージは主に投資と輸出に焦点を当てています。これは中国経済の構造的な課題に対する十分な対応とは言えないかもしれません。
3.3.2. 消費者インセンティブの必要性
Joumanna Bercetche(モデレーター):中国の経済回復にとって、消費者インセンティブの重要性についてご意見をお聞かせください。
Bernard Mensah:市場参加者の立場から見ると、中国の消費者向けインセンティブ政策の欠如は大きな懸念材料です。確かに、不動産セクターや銀行への支援は整備されていますが、消費者の購買力を直接的に刺激する政策が不足しています。私は、これが回復の持続可能性に対する重要な課題だと考えています。
Jean Hynes:私の観察では、中国の家計部門は依然として高い貯蓄率を維持しています。この貯蓄を消費に向けるような政策的インセンティブが必要です。ウェリントン・マネジメントとしては、消費者の信頼回復なしには、本格的な経済回復は難しいと見ています。
André Esteves:私が注目しているのは、消費者主導の回復への移行がいかに実現できるかという点です。現在の政策パッケージは投資と輸出に重点が置かれていますが、持続的な成長のためには消費の活性化が不可欠です。これは市場が最も注視している点の一つです。
C.S. Venkatakrishnan:バークレイズの分析では、輸出主導型の投資中心の経済から、消費主導型の経済への移行は簡単ではありません。特に、消費者の貯蓄性向が高い中国において、この転換には明確な政策的支援が必要だと考えています。
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:私の見方では、中国の消費者支援策の欠如は、市場の期待とのギャップを生み出しています。投資や輸出だけでなく、消費も含めた三位一体の回復が望ましい形だと考えています。
3.3.3. 輸出主導型回復の持続可能性
Joumanna Bercetche(モデレーター):中国の輸出主導型回復の持続可能性について、ご意見をお聞かせください。
Bernard Mensah:私の観察では、中国経済の回復の大きな焦点は、これが輸出主導型に依存するのか、それとも消費主導型になるのかという点です。現時点では、輸出と投資に重点を置いた政策が中心となっていますが、この戦略の持続可能性については疑問が残ります。
André Esteves:私が認識している最大の課題は、輸出主導型から消費主導型への移行をどのように実現するかです。現状では貿易バランスは良好ですが、これはグローバル経済の状況に大きく依存しています。世界的な需要の変動に過度に依存する経済構造には、長期的なリスクが伴うと考えています。
Jean Hynes:私どもウェリントン・マネジメントの分析では、輸出主導型の成長モデルから国内消費主導型への転換は、中国経済の次の発展段階として不可欠です。しかし、この移行には時間がかかり、その間の経済の安定性をどう維持するかが重要な課題となります。
H.E. Mohammad Al-Tuwaijri:私の懸念は、中国の輸出主導型の回復が、世界経済の不確実性が高まる中で、リスクを伴う戦略だという点です。特に、地政学的な緊張や保護主義的な政策の台頭は、この戦略の有効性に影響を与える可能性があります。
C.S. Venkatakrishnan:バークレイズの立場からすると、輸出依存型の経済モデルは、グローバルな貿易環境の変化に対して脆弱性を持っています。持続可能な成長のためには、国内消費と輸出のバランスの取れた発展が必要だと考えています。
4. グローバル投資の未来:公開市場vs私募市場 - パネルディスカッション
SPEAKERS: Roger Crandall
- MassMutualの会長 & CEO Mary Callahan Erdoes
- JPモルガン アセット&ウェルス マネジメントのCEO William E. Ford
- General Atlanticの会長 & CEO The Hon. Dame Julia Hoggett
- ロンドン証券取引所の CEO Ken Moelis
- Moelis & Companyの会長 & CEO Carlson Tong
- 香港取引所の会長
MODERATOR: Richard Quest
- CNNのジャーナリスト & アンカー
4.1. 公開市場の変化
4.1.1. 米国上場企業数の推移(7,300社から4,300社へ)
Richard Quest(モデレーター):公開市場の変化、特に米国における上場企業数の大幅な減少について、皆様のご意見をお聞かせください。
Mary Callahan Erdoes:公開市場における投資機会は依然として最も大きく、最も深い流動性を持つ企業への最も広範なアクセスを提供しています。しかし、重要な変化が起きています。1996年のピーク時には7,300社あった米国の上場企業数が、今日では4,300社にまで減少しています。つまり、30年間で40%もの減少が起きているのです。
Ken Moelis:私は10年前に上場を経験しましたが、それは私の人生で最高の日の一つでした。家族を連れて行き、子供たちにとっても最高の日となりました。ニューヨーク証券取引所で株式が初めて取引される様子を見ることは、資本主義を実証する素晴らしい瞬間でした。しかし、今日の企業家たちは、上場することの難しさに直面しています。
William E. Ford:私がCEOと話をすると、特に中小規模の企業では、上場のコストが得られる利益に見合わないと言います。私たちは何年もの間、上場企業数の7,000社から4,000社への減少を目の当たりにしてきました。これは過剰規制によるものであり、企業はより長く非公開のままでいることを選択し、より高い評価額になるまで上場を待つようになっています。
Julia Hoggett:ロンドン証券取引所として、この上場企業数の減少を重く受け止めています。私たちは、なぜこれほど多くの企業が上場を避けるようになったのかを問う必要があります。これは取引所にとって重要な課題であり、改革が必要な時期に来ていると認識しています。
4.1.2. 規制強化の影響
Richard Quest(モデレーター):規制強化が公開市場に与える影響について、それぞれのお立場からご意見をお聞かせください。
Ken Moelis:今、私たちには様々な機関がどのように会社を運営すべきかを指示しています。ISSは取締役会のメンバーについて指示を出し、報酬についても指示を出します。コンサルタントに相談しなければならず、開示要件も厳しくなっています。私たちは投資銀行なのに、鉱山の安全手順について開示しなければならないのです。これらの規制の多くは、私たちの事業とは関係のないものです。
Julia Hoggett:英国では、投資家を下振れリスクから守ることに重点を置きすぎた結果、上振れの機会へのエクスポージャーが制限されてしまっています。私の見解では、すべての投資シナリオに対して同じ規制を適用しようとすると、結果的に全ての人が同じ制約の下に置かれることになってしまいます。
Mary Callahan Erdoes:企業が長く非公開にとどまる理由の一つは、このような規制環境です。私どもの分析では、公開市場の規制は企業にとって大きな負担となっており、より大きな価値評価を得られるまで上場を待つ傾向が強まっています。
William E. Ford:私たちプライベート市場の立場からすると、この過剰規制は皮肉にも新たな機会を生み出しています。企業はより長く非公開のままでいることを選択し、より高い評価額になるまで上場を待つようになっています。これは私たち私募市場にとってより多くの投資機会を生み出していますが、一方で公開市場の活力は失われつつあります。
4.2. プライベート市場の成長
4.2.1. プライベートエクイティの6倍成長(20年間)
Richard Quest(モデレーター):プライベート市場、特にプライベートエクイティの急成長について、ご意見をお聞かせください。
Mary Callahan Erdoes:プライベートマーケットは、過去20年間で驚異的な成長を遂げています。具体的な数字を申し上げますと、プライベートエクイティは20年間で6倍の成長を達成しています。この急成長の背景には、公開市場の規制強化や、より長期的な投資視点を持つ投資家のニーズがあります。
William E. Ford:私たちGeneral Atlanticでは、プライベートマーケットにおいて、市場価値に加えて、超過リターンまたはアルファを提供する必要があると考えています。常に、非流動性に対して400-600ベーシスポイントのプレミアムパフォーマンスが必要だと考えてきました。アセットクラスとしてのプライベートエクイティがこれほどの成長を遂げられたのは、この期待に応えてきたからです。
Roger Crandall:MassMutualの経験からお話しすると、債券ポートフォリオにおいて、非流動性のプライベート債券に0.5%の追加利回りをつけることは、保険契約者の生涯にわたる累積価値を40%増加させることにつながります。これは長期的な資金を運用する機関投資家にとって、非常に魅力的な特性です。
Ken Moelis:私の見立てでは、このような成長は、プライベートマーケットが提供する柔軟性と、より長期的な投資視点によってもたらされています。規制の少ないプライベート市場で、企業はより自由に事業を展開できることを高く評価しています。
4.2.2. プライベートクレジットの5倍成長(10年間)
Richard Quest(モデレーター):プライベートクレジット市場の急成長について、それぞれのお立場からご意見をお聞かせください。
Mary Callahan Erdoes:JPモルガンの立場からお話しすると、プライベートクレジット市場は過去10年間で5倍の成長を遂げています。これは、伝統的な銀行融資からの移行を反映したものです。私たちは、この成長がより健全な金融システムの構築につながっていると考えています。
Ken Moelis:私から見ると、プライベートクレジットの急成長は、金融システムの重要な変化を示しています。すでに22兆ドルのプライベートクレジットが存在していましたが、それは銀行債務という形で存在していました。しかし、その資金調達方法は、5年の貸付に対して5秒で資金を引き出せるという最も不合理な方法で行われ、銀行は10倍のレバレッジをかけ、納税者がFDIC保証という形で関与していました。
Roger Crandall:債券投資の専門家として申し上げますと、プライベートポートフォリオについて、公開ポートフォリオよりも多くの情報を得ることができます。月次の財務情報にアクセスでき、経営陣と対話し、事業を監視するためのコベナンツも備えています。これらの利点は、ニューヨークのJPモルガン支店で5万ドルの年金を購入する個人投資家にまで還元されるのです。
William E. Ford:私たちの分析では、プライベートクレジット市場の成長は、より回復力のある金融システムの構築に貢献しています。銀行のバランスシートからリスク性の高い資本を移転し、納税者による悪い意思決定の保証を排除することは、市場全体にとってプラスだと考えています。
4.3. 一般投資家のアクセス改善
4.3.1. ミューチュアルファンドでの私募投資枠(10%まで)
Richard Quest(モデレーター):一般投資家のプライベート市場へのアクセス改善について、具体的な取り組みをお聞かせください。
Mary Callahan Erdoes:JPモルガンでは、より多くの投資家がプライベート市場にアクセスできるよう、様々な改善を行っています。特筆すべきは、ミューチュアルファンドで現在、プライベート投資を10%まで組み入れることが可能になったことです。これにより、小規模な投資家でもプライベート市場への投資機会を得ることができるようになりました。
William E. Ford:私たちの経験では、毎日ポートフォリオを見る必要がなく、流動性の即時性を必要としない投資家にとって、プライベートエクイティ投資やプライベートクレジット投資の方が、より良い長期的な判断を下すことができます。このような投資機会を広げることは、投資家の利益に適うと考えています。
Roger Crandall:適格投資家(AIQ)ルールについて補足させていただきますと、1980年代に制定された基準では、年収20万ドルまたは純資産100万ドルを要件としていました。この基準は80年代以降変更されていませんが、インフレ調整すれば現在は300万ドルから50万ドルに相当します。しかし、この基準のままでも、年収20万ドルと純資産100万ドルがあれば、これらの市場にアクセスできるのです。
Julia Hoggett:英国の状況を申し上げますと、機関投資家がプライベート投資よりも公開市場投資を選好するようなインセンティブ構造になっています。この状況を改善し、プライベート市場への投資も促進していく必要があると考えています。
4.3.2. ETFを通じた私募投資へのアクセス
Richard Quest(モデレーター):ETFを通じたプライベート市場へのアクセス提供について、新しい取り組みをお聞かせください。
Mary Callahan Erdoes:私たちJPモルガンは、ETFを通じてプライベート投資へのアクセスを提供し始めています。これは、日々取引されるETFを通じて、より幅広い投資家層にプライベート市場への投資機会を提供するという画期的な取り組みです。これにより、プライベート市場への参入障壁を大きく下げることができると考えています。
Julia Hoggett:ロンドン証券取引所では、PISCES(Private Intermittent Securities and Capital Exchange System)という新しい規制の導入を進めています。これにより、プライベートカンパニーは自社の二次株式を、自分たちが選択した周期で売買できるようになります。この取り組みは、エンジェル投資家やシード投資家に透明性のある価格形成プロセスを提供し、IPO前の機関投資家の参入を促進することを目的としています。
William E. Ford:私の見立てでは、このような新しいアクセス手段は、アドバイザーや銀行を通じて仲介され、既存のシステムやインフラを活用することができます。これにより、従業員への流動性の提供や、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドに新たな出口戦略を提供することが可能になると考えています。
Roger Crandall:保険会社の立場から申し上げますと、このようなアクセス改善は、より多くの投資家がプライベート市場の恩恵を受けることを可能にします。ただし、投資家保護の観点から、適切なリスク管理と投資家教育が重要だと考えています。
4.4. サウジアラビアの事例
4.4.1. アラムコIPOの成功
Richard Quest(モデレーター):サウジアラビアの資本市場、特にアラムコIPOの成功について、ご意見をお聞かせください。
Ken Moelis:私が見ているところ、アラムコがIPOを行ってから5年が経過しましたが、このIPOは資本市場に大きな影響を与えました。現在、サウジアラビアは世界第2位のIPO市場となっており、米国の現状を考えると、実質的に世界第1位になっている可能性すらあります。これはサウジアラビアの資本市場の急速な発展を示す顕著な例です。
William E. Ford:アラムコのIPOの成功は、サウジアラビアの資本市場に3つの重要な変化をもたらしました。成長のための資本を創出し、地域内での事業拡大を可能にし、さらに家族経営企業の世代交代を促進する契機となりました。市場の流動性が増加し、地域内の成長資金が生み出されたことは特筆すべき成果だと考えています。
Mary Callahan Erdoes:IPOの数字を見ると、その変化は劇的です。2021年には年間100件ありましたが、2022年はわずか8件に減少しました。2023年は若干回復し、11月時点で33件となっています。このような世界的な状況下で、サウジアラビアの資本市場の活況は際立っています。
Julia Hoggett:私が特に注目しているのは、地域の投資家が地域の企業に投資する意欲が高まっていることです。これが好循環を生み出しており、このような前向きな流れは、資本市場の発展において非常に重要な要素となっています。
4.4.2. 地域の資本市場活性化
Richard Quest(モデレーター):アラムコIPOを契機としたサウジアラビアの資本市場の活性化について、詳しくお聞かせください。
Ken Moelis:サウジアラビアでは、アラムコのIPOを契機に地域の資本市場が大きく活性化しています。私が現場で感じているのは、地域の投資家が地域の企業に投資する意欲が高まり、素晴らしい好循環が生まれているということです。この動きは、資本の流動性を生み出し、家族経営の事業がこの市場でトランジションを実現し、さらなる成長のための資本を創出するという連鎖を生んでいます。
Mary Callahan Erdoes:JPモルガンとして、この地域の特筆すべき点は、投資家の熱意と企業の成長意欲が見事に合致していることです。グローバルな視点から見ても、サウジアラビアの資本市場の発展は注目に値します。特に他の市場でIPOが減少している中、この地域の活況は際立っています。
William E. Ford:私たちGeneral Atlanticは、地域の資本市場の発展において、特に成長を目指す企業にとっての機会の増加を目の当たりにしています。資本市場の活性化は、単なる取引の場の提供を超えて、企業の持続的な成長と発展を支える基盤となっています。
Julia Hoggett:ロンドン証券取引所の経験から申し上げますと、サウジアラビアの事例は、適切な市場インフラと規制環境の整備が、いかに地域の経済発展に貢献できるかを示す好例です。特に、地域内の投資家と企業の関係構築において、資本市場が重要な役割を果たしていることは注目に値します。