※本稿は、経済産業省が取りまとめた「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」 ~変革のための生成AIへの向き合い方~ をAI要約したものです。
1. はじめに
2022年11月30日にOpenAIが公開したChatGPTは、その高性能さから世界中で話題となりました。2023年には更に高性能なGPT-4が発表され、Microsoft、Google、Anthropicからも次々と高性能な会話型生成AI(Copilot for Microsoft 365、Gemini、Claude)が発表されるようになり、産業界や教育分野での利活用が本格化しつつあります。
2024年2月15日には、OpenAIがテキストから動画生成を行うツールSora(ソラ)を発表するなど、現在では会話型のほかにも動画生成型、画像生成型、音楽生成型などさまざまな生成AIがあり、技術は急速に進展しています。国内においても、日本電信電話株式会社(NTT)「tsuzumi」、株式会社サイバーエージェント「CyberAgentLM」、東京大学松尾研究室「Weblab-10B」など、独自のLLMを開発する企業が増えています。
一方で、著作権やセキュリティ、倫理面での課題も浮き彫りになってきています。生成AIは急速に進化を遂げており、今後もさらなる発展と社会実装が期待されています。
2. 生成AIの利活用の現状・課題・今後
2-1. 日本における生成AI利活用の現在地
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した生成AI市場の世界需要額見通しによると、日本における生成AI市場は、2030年までに年平均47.2%増で成長し、需要額は約1.8兆円の規模に拡大する見込みです。
McKinsey & Companyの「生成AIがもたらす潜在的な経済効果」によると、分析対象とした63件の生成AIユースケース全体で「年間2.6~4.4兆ドル相当もの価値をもたらす可能性」があり、更に「上記のユースケース以外のタスクに使用されている既存のソフトウェアに生成AIを組み込んだ場合のインパクトも加味すれば、この試算はおよそ2倍」のインパクトがあると予想されており、生成AIのインパクトは非常に大きいと言えます。
PwCコンサルティング合同会社の「生成AIに関する実態調査2024春」によると、社内で生成AIを活用・推進中と回答した企業は67%であり、1年前の22%から大きく増加し、半年前の調査からも高く推移している状況です。一方で、生成AIへの期待度合いに関しては、業界構造を根本から変革するチャンスと捉えている割合は25%に留まっており、むしろ、他社より相対的に劣勢に晒される脅威に対応するためと回答した企業が43%となっています。
GitHub Japanによれば、「GitHub」を使用する国内開発者数が300万人を超え、対2023年成長率は31%増で、2023年に70万ユーザーを獲得したことになるといいます。AI プロジェクトへの貢献度は世界第3位であり、日本の開発者が生成AIプロジェクトに積極的に貢献をしています。
一方で、Microsoft・LinkedInの「2024 Work Trend Index Annual Report」によれば、知的労働者の生成AIの業務利用割合は、世界平均75%に対し、日本は32%となっており、日本における実際の生成AIの業務利用が低調であることが示されています。また、同調査では、「競争力を保つにはAIが必要」と考えている経営者の割合は、世界平均79%に対し、日本は60%となっており、AI活用を比較的重視しない傾向が見られます。
2-2. 生成AI利活用の段階
日本マイクロソフト株式会社は生成AI導入段階を以下の通り3つのフェーズに整理しています:
フェーズ1:生成AI利用基盤の導入と業務上の活用 個人レベルでの単一の業務・タスクが生成AIによって代替・補完・高度化される 具体例:議事録作成、メールドラフト作成、会議中のアジェンダ作り、意見やアイデア創出の壁打ち、文書の要約、翻訳、情報の検索、プログラミング、画像・動画・音楽の作成
フェーズ2:生成AIを活用した業務の高度化・効率化 社内業務プロセスについて生成AIを前提として再定義し、時に複数の業務を横断する形で対象業務の品質、コスト、スピードを向上させる。
企業における具体例:
- 保守オペレーションの改善の企画の自動化 旭鉄工株式会社では、従来より改善ノウハウを共有することによる素早い改善と迅速な人材育成を目指してきました。近年は、蓄積された膨大なカイゼン事例データからChatGPT活用によって必要なノウハウを抽出する取組を実施しています。将来的には「カイゼンGAI(Generative AI)」としてi Smart Technologiesで外部提供していく構想を練っています。
- 設備の稼働状況の自動監視 旭鉄工株式会社では、稼働状況を巡視し問題点を出力してくれる「AI工場長」も開発するなど積極的に生成AIを活用しています。
- 保守オペレーションにおける知見の集約・実施すべき対応の初期判断 株式会社日立製作所では、インフラ保守等で蓄積したOT(Operational Technology)データを活用し、生成AIを使って保守オペレーションをナビゲートしています。例えば、保守オペレーション担当者が質問をすると、生成AIがOT知識の抽出と3Dデータを活用した対象特定を行い、作業のレコメンドを出力するようになっています。また、OTナレッジ検索では仮想空間に蓄積された現場データを位置/時刻で検索・表示が可能です。
- 広告業におけるクリエイティブ企画業務 株式会社パルコでは、人物や背景などのグラフィックをはじめ、ムービーやナレーション、音楽まで、全てを生成AI技術を用いてプロンプトから制作しています。
フェーズ3:生成AIを活用したビジネスモデル変革・価値創造 生成AIを活用した既存製品・サービスの価値向上や新規製品・サービスを提供し、顧客体験を変革する。
企業における具体例:
- CtoC売買サービスにおける商品説明文の作成アシスタント 株式会社メルカリでは、メルカリで出品した商品の改善提案機能を導入しています。改善できる商品があるとAIアシストから提案が届く仕組みになっており、チャットを開くとAIアシストからの提案を選ぶことができます(商品名を変更する、商品の説明文に「サイズ」を追加するなど)。そのままAIアシストの指示に従って選択を進め、内容を更新して完了すると出品商品の情報を更新することができます。
また、商品検索時に欲しい物のイメージをもとにチャット検索することも可能となっています。出品の改善提案と同じように、検索窓からAIアシストを開いて質問に答えていくことで検索結果を出力することができます。
- 教育サービスにおいて、研究等をAIに相談ができるサービス 株式会社ベネッセホールディングスは、子供の興味をもとに自由研究のアイデアやテーマを見つけることができる、小学生親子向け「自由研究お助けAI」のサービスを2023年7月25日に開始しました(提供期間は2023年9月11日まで)。
本サービスは答えを教えるのではなく考える力を養うことを目的としており、子供の集中力を高めるUI/UXが意識されています。例えば、子供の興味を聞き出す定型質問からチャットを始めることで、自由研究についてのやりとりに集中できるよう促しています。その他、AIの回答は長文にならないよう文字数制限を設け、小学生が理解を深めながら自分で考えられるように設計されています。
また、子供の安全性に配慮した設計も重視されています。目的外の利用と1日の質問回数の制限を設けているほか、小学生の利用に配慮して保護者による利用承認を必要とするなどの仕組みを導入。そして、利用開始前には生成AIの使い方やルールなど情報リテラシーを学ぶための有識者監修動画が提供されています。
- リノベーションを検討中のユーザー向けの、リノベーションプランを策定・企画するサービス 株式会社mignは、指定のデザインのテイストに合わせた、不動産のリノベーションのイメージ画像を生成AIを用いて作成するサービスを提供しています。
- 生成AIと人間のハイブリッド型でのコールセンターサービス 株式会社ベルシステム24がハブとなり、生成AI開発会社、SIer、データマーケティング会社と共に、ユーザー企業に対し生成AIと人のハイブリット型コールセンター導入を支援しています。
- 転職支援サービスにおける職務履歴書の自動作成機能 株式会社ビズリーチは、質問文に対するユーザーからの回答を元に職務履歴書を自動作成する機能を提供しています。
- AIによる創薬の実施 中外製薬株式会社は、創薬において生成AI(一部従来AI)を活用し、医薬品候補分子探索、薬物動態予測、病理画像解析による薬効・安全性の評価、自然言語処理を用いた論文検索を実施し、創薬の成功確率の向上や、プロセス全体の効率化を目指しています。
- AIアバターによる商業施設での接客 株式会社日立製作所は、接客用サイネージに映るAIアバター(生成AI活用)がオススメの商品をレコメンドするサービスを開発しています。
2-3. 生成AIの利活用を妨げる課題と解決に向けた示唆
2-3-1. 生成AIへの理解不足と向き合い方
【課題】 ・それぞれの生成AIツールでどのようなことが可能か理解し、どのように使うのかを計画する段階でつまずく企業が多い。 ・生成AI利活用への意欲だけが先行し、付加価値の創出や業務改善といった価値ではなく、生成AI導入が自己目的化してしまうケースも存在している。 ・生成AIの特性上、誤った・不正確な内容を出力してしまうこと、情報の入力に際して漏洩の配慮が必要なことなど、既存組織から見ると一定のリスクを内包する技術であるために、業務上の利用や新たなサービス創出における活用に躊躇しているケースが多く見られる。
【解決に向けた示唆】 ・DXと同様に目的志向型のアプローチの重要性を改めて認識する必要があります。 ・生成AIの良い部分に関して、ハルシネーションのリスクに対応する上でも、そもそも「誤りがあるから使えない」ではなく、「間違っても良い仕事」に適用することを考えることが大切です。 ・生成AIに答えを求めるよりも、問いを深めるために利用することも大切です。 ・利活用シーンの検討にあたっては、社内の従業員から生成AIの利活用アイデアを吸い上げ、社内での積極的な利活用を推進する事例が見られます。
例えば、ソフトバンクグループでは全グループ社員のリテラシー底上げ施策として、生成AIを幅広い従業員が使える環境を整えた上で、メンバーが体験、ビジネス、技術それぞれの観点から、「こんなことができるのでは」、「これをやれば新しい価値が生まれるのでは」と考え、「実験」することを後押ししています。
・生成AI利活用の取組を前に進める上では、「誰を中核に置くか」が重要です。市場や価値に対するイメージを持ちながら、勝手に実行できるような「業務に習熟し、適用領域を見出しつつ、主体的に推進する人材」が中核にいることが重要です。
・生成AI利活用において、「ルール・ガイドライン決め・生成AI利用環境の整備」「社内業務への活用」「顧客向けサービス」を順番に進めてしまうと、市場の変化スピードについて行けないため、全てを同時並行で検討していくことが望ましいです。
・生成AIに付随するリスクを抑えるためには、組織単位で利活用に当たっての機密情報や個人情報の取扱等のガイドラインを定める必要があります。利用者の利活用を阻害しない範囲におけるシステム側での工夫によりデータ流出などの問題が発生しにくい状態にすることも重要となります。
2-3-2. 経営層の姿勢・関与
【課題】 ・生成AIの利活用にあたり、経営層の役割は極めて重要です。経営層が変化に対して及び腰になり、生成AI導入のメリットよりも、リスクやコストなどのデメリットばかりに目を向けてしまい、導入が進まないことがあります。 ・経営側の関与が不十分な場合、現場主導で生成AI利活用が進む際にも、踏み込んだユースケースとならず、前述の生成AI利活用のフェーズ1(単一の業務・タスクでの生成AI活用)にとどまってしまいます。
【解決に向けた示唆】 ・生成AIを組織として利活用するためには、経営層自身が生成AI利活用において、積極利活用に向けたビジョン・方針を定め、全体最適の取組が行われるよう、意思決定・生成AI利活用戦略策定を行うことが重要になります。 ・経営層は生成AIの実力を過小評価せず、単なるコスト削減や効率化だけでなく、生成AIを使って新しいことに取り組むことを考えるべきです。 ・生成AIによるDXの推進にあたって、部分最適を防ぎ、End to Endでの業務見直しを行うためには、経営から示された戦略を実行に移すつなぎ役としての変革推進人材が求められます。 ・変革推進人材は自社のビジネスを理解した上で、部門間の利害を超えた客観的な視点を持つ立場である必要があります。その人材にはビジネスプロセス全体を俯瞰し、部門間やプロセス間等の境目の非効率を解消する形でプロセス全体の変革を推進するビジネスプロセスマネジメントのスキルが極めて有益となります。
ビジネスアナリストの例: ビジネスアナリストは経営から示された戦略を専門家の力を借りつつ具体的な手順に落とし込むような特別な専門性を持った人材であり、海外では変革を推進する人材として一般的です。経営層はこのビジネスアナリストのような変革のために必要な専門性を認識し、変革のためにはこうした専門人材・組織を設置・確保する必要性があることを理解することが望まれます。
また、このビジネスアナリストは社内調整の役割を担うことが不可欠であり、組織内の意思決定構造や組織文化の理解、社内ネットワークが欠かせません。そのため企業はビジネスアナリストを外部に頼るのではなく、自社内で確保することが必要となります。
2-3-3. 推進人材とスキル
【課題】 ・生成AIによって労働生産性が大幅に向上するとともに、これまで代替不可能と考えられていた不定型な業務領域(その多くはホワイトカラーの仕事)をも代替することが想定されます。 ・これに伴い、従業員に求められる人材・スキルがどのように変化するか、またこうした変化が継続的に起きる中で人材育成やリスキリングにどのように取り組むべきか。
【解決に向けた示唆】 ・生成AIの影響によりビジネスプロセスは大きく影響を受けます。ここ数年でテクノロジーの進展もあり必要とされるジョブ・スキルは変化していますが、生成AIは様々な業界・業種に大きな影響を及ぼすと見られ、人材の流動性が高まることを含めこの変化はより加速することが見込まれます。 ・特にスキルはジョブに基づいて定義される以前にテクノロジーの進展に応じた速いスピードで変化が進むため、市場のスキルトレンドを踏まえて、人材戦略を考えることが企業の持続的な成長において不可欠となります。 ・推進人材に求められるスキルを明確に定義した上で、人材を評価するといったスキルベースの取組は一層重要となります。 ・スキルベースで社員とコミュニケーションを図ることにより、社員の保有スキルと企業の求めるスキルのギャップが明確になり、社員の自律的なキャリア形成や効果的な人材育成施策を実行することが可能となります。
2-3-4. データの整備
【課題】 ・生成AIでは、企業データの90%を占める非構造化データが技術的には利活用できるようになると言われており、データ利活用を通じた企業価値の向上が強く期待されます。一方で、実態として企業においてデータが適切に管理されているとはいえない状況にあります。
【解決に向けた示唆】 ・生成AIにおいて外部情報の検索を組み合わせるRAG(Retrieval-Augmented Generation)は正確で有益な回答を得る肝となる技術であり、生成AIの利活用において更なる進化が期待される領域です。 ・こうした課題を乗り越えるためには、全社的なデータマネジメントを行う必要があります。このデータマネジメントは、①活用に足る状態のデータに整備・運用するための戦略・目的の策定、②実行体制の整備・人材育成・定着化 、③ルール・プロセスなどの整備・実行・統制の3つで構成されます。 ・企業はビジネスの現場で意思決定に役立つデータを確保するため、データの「目利き」人材として、データマネジメントを推進する人材の必要性を認識し、これを「プロフェッショナル人材」と定義し、当該専門人材の育成・確保、適正な評価・処遇をしていくことが求められます。
2-4. 経験機会の喪失と実践的な教育・人材育成
生成AIによって定型業務から一部の非定型業務までが代替されれば、従来OJT等を通じて行われてきた経験を蓄積する機会が省略されることになるため、組織における人材育成のあり方を見直す必要があるのではないかとの指摘があります。
例えば、シニアエンジニアの指導下でジュニアエンジニアがコードを書きながら経験を積んでいくこと、企業・業界分析を行うジュニアコンサルタントが上司の指導を受けながら一人前のコンサルタントとして成長していくプロセスは、既に生成AIによる部分的な代替が始まっています。
こうした変化については、「経験蓄積の機会が無くなるのは組織の人材育成において大きな問題である」という懸念や不安の意見がある一方で、「生成AIを利活用した新しい仕事の進め方が生まれる」という前向きな意見もあり、双方の視点で議論があります。
人材育成へのポジティブな影響と受け止める立場からは、生成AIを用いることで個々のタスクが効率化され、業務をより高速で回すことができ、これが業務の早期の習熟につながるという意見もあります。
特に後者については、既に生成AIを教師として学習したり、人材育成を行う取組が生まれています。例えば、日立製作所では、新卒社員など経験が浅いデジタル人材に対し、生成AIをうまく利活用することでポジティブな影響が出ています。
また、生成AIの登場によって、課題解決型から課題発見型のアプローチが重要になる中、探求学習の意義が高まっていますが、自分で問いを立て、その問いを磨く研鑽の過程において、生成AIを積極的に利活用することで探究学習の質を更に高めることができる、といった指摘もあります。
2-5. IT産業へのインパクト
生成AIによる技術革新は、AI技術を活用したソフトウェア開発生産性においても革新をもたらしています。要件定義工程、設計工程、製造工程、テスト工程のそれぞれで生成AIの活用が模索されています。
例えば、株式会社NTTデータグループでは、航空券予約システムにおけるJavaバージョンアップに生成AIを活用しています。また、株式会社日立製作所は、生成AIを活用し、システム開発のトランスフォーメーションを加速させています。日立製作所が培ってきた企業の基幹システムや社会インフラシステムなどミッションクリティカルなシステム開発のナレッジと、生成AIを組み合わせた生成AI共通基盤を整備し、システム開発のプロセス全体に生成AIを活用して開発を効率化しています。
このように、生成AIはソフトウェア開発工程全般にかなり大きな効率化効果をもたらす可能性が高く、あらゆるITベンダー企業は規模の大小を問わず、生成AIを活用した開発ができる人材育成が早期に必要となります。
現時点では、システム開発が全て生成AIで自動化され、即座に人間が行っている工程を代替してしまう段階ではありませんが、「決められた仕様をプログラミングする」という行為そのものの価値は大きく低下する可能性が高いです。ITベンダー企業はこのことを十分理解し、今後どのようにして新しい価値を創り出すかを熟慮していく必要があります。
また、今後のITベンダー企業はユーザー企業と直接フラットなコミュニケーションを取れる立ち位置でビジネスを行い、より上流工程において大きな価値を発揮できるようになる必要があります。特に地域のITベンダー企業は、地域経済の基盤であり地域の雇用を支えながらもDXの遅れが顕著である中堅・中小企業等に対してDX支援を行い、デジタルの力によって地域を活性化させていくことが期待されます。
3. 生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル
3-1. 生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方
DX推進人材であるビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティはそれぞれ生成AIにより業務の在り方や担うべき役割が変わる中で、リテラシーレベルのスキルに加えて追加で高度なスキルが求められます。
3-2. 専門人材における共通的な示唆その他
・専門人材の業務において生成AIを活用できる範囲は大きく、専門領域における知識や技術を補填するようになります。その中で専門人材はより創造性の高い役割が求められ、リーダーシップや批判的思考などのパーソナルスキルやビジネス・デザインスキルが重要となります。
・DXを推進する専門人材においては生成AIの特徴を理解し適切に導入するために、非構造化データ処理や大規模言語モデル、画像生成モデル、オーディオ生成モデル等の基本的なスキルを持つことが求められます。
・DX推進人材は今後より他の類型とのつながりを積極的に構築する必要があります。他類型の巻き込みや他類型への手助けを行うことが一層重要になります。
・今後も生成AIにとどまらない新技術の登場が想定されます。DXを推進する人材は、新技術がもたらす変化を自身で捉え、適切に用いながら変革につなげることが重要です。
3-3. ビジネスアーキテクト
・生成AIを活用してビジネスのアイデア出しや仮説立案を効率的に行うことが見込まれますが、複数の選択肢の中から、フィードバックを踏まえて適切なものを判断するためには経験を通じた選択・評価をする力が本質的に重要です。
・今後は経営層も含めDXを推進する人材になり、事業に精通したデジタル人材が競争力の源泉となっていきます。
・事業会社のDX推進人材は、自社の事業ドメインの専門家になるべきです。加えて、DX推進人材は全社にデジタルリテラシーを浸透させる施策を強化すべきです。
3-4. デザイナー
・生成AI時代のデザイナーは、生成AIによって生まれうる新しい可能性をウォッチしていくことが求められます。テクノロジーが発展する状況においてその原理までの理解はハードルが高いですが、その中で「どこまで勘所をつかむか」がデザイナーの差別化要素になっていきます。
・デザイナーの本質としては、何を課題とするか、何を選択するかという意思決定に重点化していくことが想定されます。
・生成AIによって様々な打ち手や表面的なUIは標準化が進み差別化が難しくなっていくことが考えられ、「合理的なだけの問題解決」では競争優位性にならず、「独自性のある、ユニークな問題解決」がより求められるため、デザイナーにはより独自の視点を持った問題解決能力が求められます。
・顧客・ユーザーの困りごとや状況理解、技術の組み合わせ、「どこまで行けば使い続けてもらえる価値を感じられるか」を把握し、顧客体験を追求する姿勢が必要となります。
3-5. データサイエンティスト
・生成AIを活用することで、データサイエンティストは業務の一部を効率化しうます。例えば、分析の企画・設計段階では、分析対象となる課題解決アイデアの壁打ちや、その対象となる課題に関する資料の要約・要点抽出に用いることができます。
・「データから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出す」というデータサイエンティストの本質的な価値は変わらず、この専門性は引き続きデータサイエンティストが中心となって担います。
・一般財団法人データサイエンティスト協会は、データサイエンティストに必要とされるスキルをまとめたスキルチェックリストとタスクリストを公開しています。その中で、AIの利活用に関するスキルは大きく「利活用スキル」と「背景理解・対応スキル」の2つに分類されます。
・AI利活用スキルはビジネス力、データサイエンス、データエンジニアリングそれぞれの分野スキルの融合度が高いです。近年のデータサイエンス関連プロジェクトはそれぞれに高度な専門性が必要で、大きなプロジェクトはチームで対応していました。一方、AI利活用プロジェクトのプロジェクト推進では激しく交差したスキルが必要であり、新たなテクノロジー・デバイスやAIサービスなどが登場した際に、速やかにそれらを活用・応用した新たなサービスの企画・設計や、データ活用戦略が立案できることが重要です。
3-6. ソフトウェアエンジニア
・生成AIツールにて業務効率を向上することができ、仮説検証サイクルをより早く回すことができます。
・生成AIがエンジニアリング業務の効率化にもたらすインパクトを示す実証も存在します。今後、AIコードアシスタントを用いるソフトウェアエンジニアの割合は増加していくと考えられています。
・効率化が可能な業務の例としては、要件定義工程での機能要件の洗い出しや抽象的な要件の言語化、設計工程での仕様書等のドキュメントが残っていないシステムのリバースエンジニアリング、コーディングでの自然言語での指示によるソースコードの生成、テスト工程でのテスト項目の策定などがあります。
・生成AIの登場によりタスクが効率化されるため、今後ソフトウェアエンジニアにはより本質的なエンジニアリング力が求められます。例えば、生成AIを業務で活用することが有効な一方、生成AIではマクロな設計などはできないため、複雑なアーキテクチャの設計を担うことができる専門性はなお引き続き重要です。
・今後エンジニアには、AIスキル、上流スキル、対人スキルの3つが必要になります。また、狭い範囲で単体スキルを競うのではなく、これらのスキルをどう組み合わせるのかが重要です。
3-7. サイバーセキュリティ
・サイバーセキュリティの業務プロセスにおいて生成AIは、プログラム作成・書き換え、情報の集約・パターンマッチ、社内ヘルプデスクなどに活用することで、業務効率化が見込まれます。
・一方で、生成AIを駆使したサイバー攻撃や生成AI利用での入力情報の機密性と出力情報の安全性を管理する必要など、サイバーセキュリティとしてカバーする範囲が広まっています。
・生成AI導入に対してサイバーセキュリティ担当は新たに以下のスキルを求められます:
- 生成サービス利用の利益とリスクを評価し、経営層に許可又は禁止を提言すること
- 生成AIサービスの利用ポリシーを定め、自組織に周知・研修することなどの管理スキル
- 生成AIサービスを導入する場合の、システムの設計・構築・運用・保守スキル
・サイバーセキュリティ人材は自組織やユーザーが生成AIを安全に利用できるよう専門家として知見を提供し、ガイドをする役割も求められます。
4. 生成AIを利活用するための人材・スキルのあり方に関する対応
4-1. 経済産業省における政策対応
(1) 「デジタルスキル標準(DSS)」の見直し 経済産業省は、生成AIの登場とその進化を踏まえ、DX推進スキル標準(DSS-P)の見直しを行っています。具体的には、DX推進人材に求められる役割等の変化を反映し、行動や共通スキル項目の改訂を実施しています。
例えば、「プロダクトマネージャー」の定義を正式に追加しました。これは、デジタルサービスを提供する企業における職種として浸透してきている動きを反映したものです。プロダクトマネージャーは、ビジネスの変革を通じて実現したい目的・世界観を設定し、それを実現するための事業、製品・サービスを一つのプロダクトと捉え、社内外の関係者の巻き込み等をリードしながらプロダクトの価値を継続的に向上させる役割を担います。
(2) 「デジタルガバナンス・コード」の見直し デジタル人材の不足や生成AIの登場等のDXの新たな課題を踏まえ、人的資本とDXの関係の整理、デジタル人材に求めるスキルや育成方法、人材育成方針策定やキャリアパス開発等を通して可視化し開示する重要性等について、「デジタルガバナンス・コード」の改訂論点として検討しています。
(3) AI学習機会の裾野の拡大 「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)認定制度」のIT分野について、2023年10月申請より、デジタルスキル標準に紐づく講座について新たに募集を開始し、E資格等のAI関連資格の講座を認定しました。
また、2024年4月申請よりITSSレベル3の講座についても認定制度の対象とすることとしました。これにより、より幅広いレベルのAI関連スキルの習得が可能となります。
(4) 生成AI時代に求められる継続的な学びの実現に向けた環境整備 個人のデジタルスキル情報の蓄積・可視化を可能とする情報基盤の構築を検討するとともに、スキル情報を広く労働市場で活用するための仕組みを検討しています。
具体的には、個人が自身のスキルを可視化し、継続的に更新できるプラットフォームの構築を目指しています。このプラットフォームでは、個人のスキル情報だけでなく、受講した講座や取得した資格などの情報も統合的に管理できるようになる予定です。
4-2. 生成AIの利活用を促進する各種団体における取組例
・デジタルリテラシー協議会:「DX推進パスポート」の開始 ビジネスパーソンが持つべきデジタル時代の共通リテラシーを「Di-Lite」として定義し、これに対応した3つの試験(ITパスポート試験、DS検定リテラシーレベル、G検定)の合格数に応じてデジタルバッジを発行する「DX推進パスポート」を開始しました。これらの試験はいずれも、生成AIに関する内容を含む形に改訂されています。
・独立行政法人 情報処理推進機構 (IPA):「ITパスポート試験」の改訂 2024年4月より、生成AIの仕組み、活用例、留意事項等に関する項目・用語例を追加しました。これにより、ITパスポート試験が生成AI時代に対応したものとなり、より実践的なIT知識の習得が可能になりました。
・一般社団法人 データサイエンティスト協会:スキルチェックリストとタスクリストの改訂 2023年10月に、生成AIの普及状況を踏まえスキルチェックリストとタスクリストを改訂し、AI関する項目を追加しました。また、2024年6月にはこの改訂を踏まえ、「DS検定」のシラバスを改訂し、AIに関する設問を追加しています。
・一般社団法人 日本ディープラーニング協会(JDLA):「Generative AI Test」の実施 2023年12月に第二回「Generative AI Test」を開催し、受験者数は第一回の1,122人から1,822人に増加しました。また、「生成AIの利用ガイドライン(画像編)」を2024年2月に公開し、企業への生成AI導入を後押しするイベント「JDLA Connect」を開催しています。
・一般社団法人 生成AI活用普及協会:「生成AIパスポート」の開始 2023年9月に第1回試験を実施し、受験者数は1,031名となり、2024年2月の第二回開催では受験者数は1,613名に増加しました。また、認定対策講座の提供や企業向けのカスタマイズ研修の提供を開始し、生成AIの学習機会を拡大しています。
・デジタル人材育成学会:「民間企業におけるAIリスクマネジメントに関する提言」の公開 2023年10月に、AIの活用が自社に与えるリスクを抑え・対応する為の社内体制・マネジメント・規定の方針について記述した提言を公開しました。
・一般社団法人 Generative AI Japan:生成AI活用における教育やキャリア、協業、共創、ルール作り、提言の実施 2024年1月に設立され、生成AIにおける先端技術・ビジネスユースケースの共有、ルール作り・提言、人材教育に加え、Labを起点とする産学連携での共創・協業事例創出を目指しています。
これらの取り組みにより、生成AIの利活用に必要なスキルの習得機会が拡大し、企業や個人が生成AIを効果的に活用するための環境が整備されつつあります。
5. 終わりに
生成AIの普及に伴い、国内では業界によらず様々な類型の利活用事例が創出されており、今後も更なる進展が見込まれます。企業・組織のトランスフォーメーションへの活用、すなわち、製品やサービス、ビジネスモデルの変革、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土の変革を通じた競争上の優位性の確立に生成AIを活用することが期待されます。
経営層が自ら新しい技術を取り入れる姿勢を示し、生成AIの特性を理解した上で、目的指向型で利活用戦略を立てることが必要となります。また、ビジネスの現場で意思決定に役立つデータを有効に活用するために、全社的なデータマネジメントの推進が重要であり、企業はそうした人材の必要性を認識し、育成・確保することが求められます。
DX推進人材は、生成AIの活用に伴い、業務の在り方や求められる役割が大きく変わる中で、仕事の進め方を見直し、AI関連スキルをアップデートし続けることで、より大きなインパクト・付加価値を創出し続けることが期待されます。
本報告書が、生成AIの登場や進展を踏まえて、生成AIの利活用を通じてDXを推進し、更に加速するために必要となる人材の育成・確保に取り組もうとしている企業の一助となることを期待しています。