※2024年5月7日、Milken Institute Global Conferenceにおいて「Technology Powering Urban Innovation」と題されたセッションが開催されました。本稿はそのAI要約記事になります。
1. はじめに:テクノロジーが推進する都市イノベーション
急速な技術革新と喫緊の環境問題に直面する中、世界中の都市がその未来を再構想しています。このセッションでは、都市開発、建築、テクノロジー、都市計画の分野で活躍する5名の専門家が一堂に会し、テクノロジーがいかに都市イノベーションを推進しているかについて議論を交わしました。
このパネルディスカッションには、以下の専門家が参加しました:
- Jeff Blau氏:Related Companiesのオーナー企業であるキューシーディー(QCD)のCEO
- Diane Hoskins氏:建築設計事務所Genslerのグローバル共同会長
- Alex Israel氏:駐車場運営・テクノロジー企業Metropolisの共同創業者兼CEO
- Carlos Moreno教授:フランスのIAEパリ・ソルボンヌ経営大学の研究ディレクター、「15分都市」の提唱者
- Ross Perot Jr.氏:不動産開発会社Hillwood及びPerot Groupの会長
持続可能な開発から包括的なコミュニティ計画まで、このセッションは明日の都市についての貴重な洞察を提供しました。以下、議論の主要なテーマと、具体的な事例や展望について詳しく見ていきましょう。
2. 持続可能な都市開発
持続可能性は、議論全体を通じて重要なテーマとして浮かび上がりました。Genslerのグローバル共同会長であるDiane Hoskins氏は、建築物が地球規模の炭素排出に与える重大な影響を強調し、低炭素建築材料とエネルギー効率の高い設計の必要性を訴えました。
Hoskins氏は、具体的な数字を挙げて説明しました。「世界の二酸化炭素排出量の40%は建築物に由来しています。多くの人は、工場や車などが主な排出源だと考えていますが、実際には建築物が最大の排出源なのです。」
この問題に対処するため、Genslerでは独自の「GG(Gensler Green)」プロダクトスペックを策定しています。Hoskins氏は、この取り組みについて次のように説明しました。「私たちは、一定の低炭素基準を満たさない建材は、Genslerのプロジェクトで使用しないというルールを設けました。これにより、建材メーカーからも、Genslerの基準を満たす製品の開発に関する問い合わせが増えています。」
この取り組みは、建設業界全体の持続可能性向上にも波及効果をもたらしています。例えば、コンクリート業界との協働について、Hoskins氏は次のように述べています。「コンクリート産業は、脱炭素化が特に難しい分野の一つです。しかし、私たちはコンクリートメーカーのCEOたちと会談し、Genslerのプロジェクトで使用するコンクリートの基準を引き上げていくことを伝えました。彼らは耳を傾けてくれていますし、私たちが置かれた立場から可能な影響力を行使することで、業界全体に変化を促すことができると信じています。」
一方、Related Companiesのオーナー企業であるキューシーディー(QCD)のCEOであるJeff Blau氏は、同社のプロジェクト、特にニューヨーク市のハドソンヤードにおいて、いかに持続可能性の基準を根本から取り入れているかを共有しました。
Blau氏は、次のように述べています。「私たちは、LEEDの基準が作られ始めた頃から、いち早く採用してきました。最初のLEED認証を取得した住宅開発や、LEED認証を取得した初の近隣地区開発を手掛けてきました。これは、サステナビリティへのコミットメントの表れです。」
ハドソンヤードプロジェクトでは、最先端の持続可能性技術が導入されています。例えば、地域全体のマイクログリッドシステム、雨水回収・再利用システム、高効率なコージェネレーションプラントなどが挙げられます。これらの取り組みにより、ハドソンヤードは、ニューヨーク市で最も持続可能な近隣地区の一つとなっています。
Hillwood及びPerot GroupのRoss Perot Jr.氏も、自社のプロジェクトにおける持続可能性への取り組みを紹介しました。「私たちは、30年前からサステナビリティ基準を建物に取り入れてきました。テキサス州で最初期のLEED認証建物を手掛けたのも当社です。経済性と実現可能性を考慮しながら、可能な限り環境配慮型の建物を提供することを目指しています。」
Perot Jr.氏は、テキサス州ダラスでの具体的なプロジェクトについて言及しました。例えば、AllianceTexasという大規模な複合開発プロジェクトでは、再生可能エネルギーの導入、水資源の効率的利用、生物多様性の保全など、包括的な持続可能性戦略が実施されています。
これらの事例は、リーディング企業が、それぞれの立場からサステナブル都市開発を推進していることを示しています。建築設計から不動産開発まで、業界全体が持続可能性を重要な価値として位置づけ、具体的な取り組みを進めていることが明らかになりました。
3. 都市のリバランスと再開発
パンデミックは、都市のリバランスの必要性を加速させました。パネリストたちは、多くの都市で住宅不足に対応するため、利用率の低下したオフィススペースを住居用ユニットに転換する可能性について議論しました。
Diane Hoskins氏は、この課題について次のように述べています。「私たちは、都市の建物や道路の使われ方に大きな変化が起きていると捉えています。Eコマースの普及によって、ショッピングモールや商業スペースの使い方が変わりつつあります。また、パンデミックを経験した今、オフィスビルや都心の商業施設のあり方も問い直されています。これは、都市にとって大きな危機であると同時に、未来に向けて都市を再考するチャンスでもあります。」
Jeff Blau氏は、ニューヨーク市の事例を挙げ、老朽化した建物の取り扱いについて言及しました。「ニューヨーク市を含む多くの都市で、老朽化したオフィスビルを住宅に転換する取り組みが検討されています。しかし、転換には多額のコストがかかるため、建物の取得価格が非常に安くならないと採算が取れません。む しろ、古い建物を解体して、持続可能性基準を満たす新しい建物を建設することを認めるべきでしょう。インセンティブを用意するのであれば、転用だけでなく、新築にもインセンティブを与えるべきです。」
Blau氏は、具体的な事例として、ニューヨーク市の金融街にあるリーマン・ブラザーズの旧本社ビルの再開発プロジェクトを挙げました。このプロジェクトでは、オフィスビルの一部を高級住宅に転換し、残りのスペースは最新のオフィス仕様にアップグレードしています。これにより、建物の価値を高めつつ、都心部の住宅供給にも貢献しています。
ブラウンフィールド再開発の重要性も強調されました。Ross Perot Jr.氏は、古い工業用地を活気ある複合用途の開発に変換した成功事例を共有しました。
Perot Jr.氏は、具体的な数字を挙げて説明しました。「Victory Parkの再開発前の資産価値は1,600万ドルでした。今では27億ドル以上になっています。私たちは、この地域全体を都市のために蘇らせたのです。」
Victory Parkプロジェクトは、ダラスの都心部にある75エーカーの土地を再開発したものです。かつては鉄道ヤード、食肉加工場、穀物サイロがあった場所を、オフィス、住宅、商業施設、エンターテイメント施設が融合した複合開発地区に生まれ変わらせました。このプロジェクトは、ブラウンフィールド再開発が都市の経済的・社会的再生にいかに貢献できるかを示す好例となっています。
また、Perot Jr.氏は、ブラウンフィールド再開発がサステナビリティストーリーの重要な一部であると指摘しました。「ブラウンフィールドの再開発は、サステナビリティの観点からも非常に重要です。全米各地で、私たちは古い駐車場をAmazonの配送センターに転換するプロジェクトを進めています。これは、土地の有効活用とサステナビリティの両方に寄与する取り組みです。」
これらの事例は、都市のリバランスと再開発が、単なる不動産開発の問題ではなく、都市の持続可能性と活力を高める重要な戦略であることを示しています。オフィスビルの用途転換やブラウンフィールドの再開発は、都市の土地利用を最適化し、多様な人々のニーズに応える都市空間を創出する上で重要な役割を果たしています。
4. 15分都市コンセプト
Carlos Moreno教授が提唱する「15分都市」のコンセプトは、都市生活を再構築する可能性を秘めています。このモデルは、居住者が徒歩または自転車で15分以内にすべての必須サービスにアクセスできるように都市を設計することを提案しています。
Moreno教授は、15分都市の原則について次のように説明しました。「15分都市とは、住民が日常生活に必要なすべてのサービスに、徒歩または自転車で15分以内にアクセスできるようにデザインされた都市のことです。これは、都市計画や都市政策の分野で活躍する人々に向けたメッセージでもあります。私たちは、生活様式と働き方を根本的に変える必要があるのです。」
Moreno教授は、15分都市の実現には、都市計画や交通政策、経済政策など、多様な分野の取り組みが必要だと指摘しました。「15分都市は、単なる都市設計の問題ではありません。私たちは、経済モデルを根本的に変える必要があるのです。地域経済を活性化し、地元の雇用を創出することが重要です。」
具体的な事例として、Moreno教授はパリの取り組みを紹介しました。パリでは、アン・イダルゴ市長のリーダーシップのもと、15分都市の概念を都市政策に取り入れています。例えば、以下のような施策が実施されています:
- 自転車レーンの拡充:2020年から2026年までに、180kmの自転車専用レーンを新設する計画です。
- 歩行者空間の拡大:セーヌ川沿いの道路を歩行者専用化するなど、歩行者空間を大幅に拡大しています。
- 学校の機能拡充:放課後や週末に学校施設を地域に開放し、コミュニティの拠点として活用しています。
- 近隣商店の支援:地域の小規模店舗を支援し、徒歩圏内での買い物を促進しています。
これらの取り組みにより、パリは車依存型の都市から、歩行者と自転車利用者にやさしい都市へと変貌を遂げつつあります。
Jeff Blau氏は、ニューヨーク市のハドソンヤードプロジェクトが、15分都市のコンセプトをどのように取り入れているかを説明しました。「ハドソンヤードは、まさに15分都市のコンセプトを体現したプロジェクトだと言えます。オフィス、住宅、商業施設、文化施設、学校、公園などが一体的に開発されており、住民は徒歩圏内で多様なサービスを享受できます。また、地下鉄の駅に直結しているため、都心部へのアクセスも非常に便利です。」
具体的には、ハドソンヤードでは以下のような機能が徒歩圏内に集約されています:
- オフィス:Fortune 500企業のオフィスが複数入居
- 住宅:高級コンドミニアムから手頃な価格の賃貸住宅まで、多様な住宅オプション
- 商業施設:100以上の店舗やレストランが集まる大規模ショッピングセンター
- 文化施設:The Shedと呼ばれる複合文化施設
- 公共空間:5エーカーの広場と公園
- 教育施設:公立学校や職業訓練センター
- 医療施設:クリニックや健康増進施設
これらの機能が一体的に開発されることで、住民や就業者は日常生活のほとんどのニーズを徒歩圏内で満たすことができます。
Ross Perot Jr.氏も、テキサス州ダラスでの取り組みについて説明しました。「私たちが開発する住宅コミュニティでは、職住近接を重視しています。具体的には、住宅から徒歩圏内または自転車圏内に、オフィスや工場、倉庫などの雇用の場を配置するようにしています。これにより、住民は通勤時間を短縮でき、仕事と生活のバランスを取りやすくなります。」
Perot Jr.氏は、AllianceTexasプロジェクトを例に挙げ、次のように説明しました。「AllianceTexasは、27,000エーカーの土地に住宅、オフィス、商業施設、物流施設、製造業施設などを一体的に開発したプロジェクトです。ここでは、63,000人以上の雇用が創出されており、多くの住民が職場まで15分以内で通勤できます。また、コミュニティ内には学校、医療施設、公園なども整備されており、日常生活に必要なサービスのほとんどが徒歩圏内にあります。」
これらの事例は、15分都市のコンセプトが、大規模な都市開発プロジェクトにおいても実現可能であることを示しています。職住近接や多様な都市機能の混在は、都市の持続可能性を高め、住民のQOLを向上させる上で重要な要素となっています。
5. 都市モビリティの未来
都市モビリティの未来に関して、パネリストたちは自動運転車両の可能性と、それに伴う課題について活発な議論を展開しました。
Metropolisの共同創業者兼CEOであるAlex Israel氏は、AI駆動の駐車ソリューションがいかに都市の交通渋滞を緩和し、都市モビリティを改善できるかについて説明しました。
Israel氏は、具体的な事例を挙げて説明しました。「私たちMetropolisは、AIを活用した駐車場運営システムを提供しています。具体的には、駐車場に設置したカメラで車両を認識し、自動的に料金を計算・請求するシステムです。これにより、利用者は駐車券を取る必要がなくなり、スムーズな出入庫が可能になります。また、駐車場オーナーは人件費を削減でき、収益性の向上につながります。」
Israel氏によれば、このシステムをロサンゼルスの大規模駐車場に導入した結果、入出庫にかかる時間が平均で40%短縮され、周辺道路の渋滞緩和にも寄与したとのことです。
一方で、Israel氏は自動運転車の普及が都市交通に与える影響について、次のような懸念も示しました。「自動運転車の普及初期には、かえって交通混雑が悪化する可能性があります。なぜなら、自動運転車は人間のドライバーと異なり、24時間稼働できるからです。つまり、自動運転車の台数が増えれば、道路上の車両数も増加するのです。これは、交通容量の拡大と並行して、自動運転車の運用方法を適切にコントロールすることの重要性を示唆しています。」
Ross Perot Jr.氏は、自動運転トラックの可能性について言及しました。「当社Hillwoodでは、物流施設の開発を手がける中で、自動運転トラックに注目しています。自動運転トラックを活用することで、深夜の配送が可能になり、都市内の交通混雑の緩和につながります。また、自動運転トラックは、ドライバー不足の解消にも寄与するでしょう。」
Perot Jr.氏は、テキサス州ダラスでの具体的な取り組みについて説明しました。「テキサス州では、ダラスとフォートワースを結ぶ高速道路に、自動運転トラック専用レーンの整備を計画しています。このレーンは、夜間に自動運転トラックが安全に走行できるよう設計されています。将来的には、この専用レーンを24時間稼働させ、都市間物流の効率化を図る予定です。」
一方で、Carlos Moreno教授は、自動運転車に過度に依存することへの警鐘を鳴らしました。「確かに、自動運転技術は都市交通の効率化に寄与する可能性があります。しかし、私たちは車中心の都市設計から脱却し、歩行者や自転車利用者にやさしい都市づくりを目指すべきです。自動運転車の導入は、公共交通機関や自転車インフラの整備と並行して進めるべきでしょう。」
Moreno教授は、パリの事例を挙げ、次のように説明しました。「パリでは、自動運転シャトルバスの実証実験を行う一方で、自転車レーンの大幅拡充や、歩行者空間の拡大も進めています。また、カーシェアリングやバイクシェアリングなど、多様なモビリティオプションを提供することで、市民の移動手段の選択肢を増やしています。」
これらの議論は、都市モビリティの未来が単に自動運転技術の導入だけでなく、多様な交通手段のバランスの取れた統合にあることを示唆しています。自動運転車、公共交通機関、自転車、歩行など、様々な移動手段を適切に組み合わせることで、効率的で持続可能な都市交通システムを実現できる可能性があります。
6. 都市におけるエクスペリエンスデザイン
新型コロナウイルスのパンデミックを経て、都市空間のデザインに対する考え方が大きく変化しています。パネリストたちは、ポストコロナ時代の都市体験をいかに再定義すべきかについて議論を交わしました。
Genslerのグローバル共同会長であるDiane Hoskins氏は、オフィスデザインの変化について次のように述べました。「パンデミック前は、オフィスといえば、個人の作業スペースが中心でした。しかし、リモートワークの普及により、オフィスは単なる作業場所ではなく、人々が集い、交流するための場所へと変化しつつあります。オフィスビルには、こうした交流を促進するためのデザインや機能が求められるようになるでしょう。」
Hoskins氏は、Genslerが手がけた具体的なプロジェクトを例に挙げ、説明を続けました。「サンフランシスコにある大手テック企業のオフィスリノベーションプロジェクトでは、個人の固定席を減らし、代わりに多様な共用スペースを設けました。例えば、小規模なミーティングルーム、オープンなコラボレーションエリア、カフェのようなリラックススペースなどです。また、屋外テラスを拡充し、自然とつながる作業環境を創出しました。これにより、従業員同士の偶発的な出会いや交流を促進し、イノベーションを生み出しやすい環境を実現しています。」
Jeff Blau氏は、ハドソンヤードでのアプローチについて説明しました。「ハドソンヤードのオフィスビルでは、テナント企業の要望を踏まえ、従業員の交流を促進するためのスペースを多く設けています。カフェやラウンジ、共用のワークスペースなどです。こうした空間は、従業員のエンゲージメントを高め、イノベーションを促進する上で重要な役割を果たすと考えています。」
Blau氏は、具体的な事例として、ハドソンヤードのヤード化栄タワーを挙げました。「この建物では、各フロアに共用のラウンジスペースを設けています。また、最上階には全テナントが利用できる共用会議室やイベントスペースを配置しています。さらに、建物内には最新のフィットネスセンターやウェルネス施設も併設し、従業員の健康増進にも配慮しています。」
公共空間のデザインについても、活発な議論が交わされました。Carlos Moreno教授は、パリの事例を紹介しました。「パリでは、歩行者空間の拡大と合わせて、街路の活性化に取り組んでています。例えば、道路空間の一部を広場化し、カフェやマーケットなどの活動を誘致することで、人々が滞在し、交流する空間を創出しているのです。」
具体的な事例として、Moreno教授はパリのシャンゼリゼ通りの再開発計画を挙げました。「この計画では、車線数を半減させ、代わりに歩行者空間と自転車レーンを大幅に拡大します。また、沿道には多くの樹木を植栽し、緑豊かな都市空間を創出します。さらに、定期的にイベントやマーケットを開催することで、単なる通過点ではなく、人々が滞在し、楽しむための場所へと変貌させることを目指しています。」
Ross Perot Jr.氏も、テキサス州ダラスでの取り組みについて説明しました。「私たちが開発する住宅コミュニティでは、住宅だけでなく、学校や公園、レクリエーション施設なども併せて整備しています。例えば、学校は住宅から徒歩圏内に配置し、子育て世帯の利便性を高めています。また、公園には、スポーツ施設やバーベキューエリア、遊具などを設け、住民の交流と健康増進を促しています。」
Perot Jr.氏は、AllianceTexasプロジェクトの中心部にあるAllianceタウンセンターを例に挙げました。「このタウンセンターは、単なる商業施設ではなく、コミュニティの中心として機能するよう設計されています。広場やウォーターフロント、遊歩道などの公共空間を充実させ、定期的にイベントやマーケットを開催しています。また、周辺には様々な飲食店や小売店が立地し、歩いて楽しめる街並みを形成しています。」
これらの事例は、都市空間のデザインが、単に機能性や効率性を追求するだけでなく、人々の交流や活動を促し、豊かな都市体験を創出することを目指していることを示しています。オフィス、公共空間、商業施設など、都市を構成する様々な要素が、人々のニーズや行動の変化に合わせて再定義されつつあると言えるでしょう。
7. 手頃な価格の住宅供給と包括的なコミュニティ開発
持続可能で包摂的な都市の実現には、多様な人々が暮らせる住宅の供給が不可欠です。特に、ブルーカラー層向けの手頃な価格の住宅(affordable housing)の供給は、重要な課題の一つです。
Ross Perot Jr.氏は、テキサス州ダラスにおける自社の取り組みについて詳しく説明しました。「私たちは、ダラスを中心に、ブルーカラー層向けの大規模な住宅コミュニティを開発しています。一つのコミュニティに4,000〜5,000戸の住宅を供給し、価格帯は38万ドル程度に設定しています。これは、工場や倉庫で働く人々でも手が届く価格です。」
Perot Jr.氏は、具体的な事例としてFort Worth Alliance開発プロジェクトを挙げました。「このプロジェクトでは、様々な価格帯の住宅を提供しています。例えば、入門レベルの住宅は25万ドルから、中間レベルの住宅は35万〜45万ドル、高級住宅は50万ドル以上といった具合です。この価格帯の幅により、様々な所得層の人々がコミュニティ内で暮らすことができます。」
また、Perot Jr.氏は住宅だけでなく、コミュニティ全体の開発について次のように説明しました。「住宅だけでなく、学校や公園、商業施設なども併せて整備することで、職住近接の環境を実現しています。例えば、Fort Worth Allianceプロジェクトでは、コミュニティ内に公立学校を設置し、子育て世帯の利便性を高めています。また、160エーカーの公園や緑地を整備し、住民の健康増進と交流促進を図っています。さらに、近隣にはAmazonの物流センターやFedExの航空ハブがあり、多くの雇用機会を提供しています。」
Jeff Blau氏は、ニューヨーク市におけるハドソンヤードプロジェクトでの取り組みについて詳しく説明しました。「ハドソンヤードでは、高級住宅だけでなく、一定割合のaffordable housingも提供しています。具体的には、全住宅ユニットの25%をaffordable housingとして供給しています。これは、多様な人々が暮らすインクルーシブなコミュニティを実現するための重要な要素です。」
Blau氏は、affordable housingの具体的な事例として、ハドソンヤード内の55 Hudson Yardsビルを挙げました。「このビルには、139戸のaffordable housingユニットが含まれています。これらのユニットは、市の中間所得層向け住宅プログラム(Middle Income Housing Program)に基づいて提供されており、世帯年収が地域中間所得(AMI)の130%以下の世帯が入居対象となっています。具体的な家賃は、スタジオタイプで月額約2,500ドル、1ベッドルームで約3,200ドル、2ベッドルームで約3,900ドルといった水準です。」
Blau氏は、affordable housingの供給における官民連携の重要性についても言及しました。「ニューヨーク市では、容積率ボーナスなどの規制緩和措置を通じて、民間開発者によるaffordable housing供給を促進しています。例えば、ハドソンヤードでは、affordable housingの供給と引き換えに、商業床や高級住宅の開発が可能になりました。こうした官民連携の取り組みを通じて、包括的なコミュニティ開発を進めることが重要だと考えます。」
Carlos Moreno教授は、パリにおけるaffordable housingの取り組みについて紹介しました。「パリ市では、2030年までに全住宅ストックの30%をsocial housing(公営住宅)にするという目標を掲げています。これを実現するため、新規開発プロジェクトでは少なくとも30%のsocial housingの供給を義務付けています。」
Moreno教授は、具体的な事例として、パリ北東部のChapalais地区の再開発プロジェクトを挙げました。「このプロジェクトでは、約1,000戸の住宅が供給される予定ですが、そのうち40%がsocial housing、20%が中間所得層向けの住宅、残りの40%が市場価格の住宅となっています。また、住宅だけでなく、保育所、学校、文化施設、商業施設なども併せて整備されます。これにより、多様な所得層が共存し、必要なサービスを徒歩圏内で享受できるコミュニティの形成を目指しています。」
Diane Hoskins氏は、affordable housingの設計面での工夫について言及しました。「affordable housingの設計においては、コスト削減と品質確保の両立が課題となります。Genslerでは、モジュラー工法や地域の気候に適した省エネ設計の採用など、様々な工夫を行っています。例えば、ロサンゼルスのSkid Row地区で手がけたaffordable housingプロジェクトでは、コンテナを活用した建築手法を採用し、建設コストと工期の大幅な削減を実現しました。」
Hoskins氏は、affordable housingの設計においても、コミュニティ形成を促進する空間づくりが重要だと指摘しました。「共用スペースやコミュニティガーデンの設置、多目的に利用できるフレキシブルな空間の確保など、住民同士の交流を促す工夫を取り入れています。例えば、サンフランシスコのMission Bay地区のaffordable housingプロジェクトでは、屋上に共用のガーデンスペースを設け、住民が野菜を育てたり、イベントを開催したりできるようにしています。」
これらの事例は、affordable housingの供給が単なる住宅提供にとどまらず、包括的なコミュニティ開発と社会的包摂性の向上に不可欠であることを示しています。住宅開発だけでなく、教育・医療・商業などの関連施設の整備や、職住近接の環境づくり、そしてコミュニティ形成を促進する空間デザインなど、多面的なアプローチが求められています。また、官民連携や、多様な所得層の混住を促進する政策的支援も、affordable housingの実現に向けて重要な役割を果たしています。
8. 結論:持続可能で包摂的な都市の未来像
パネリストたちの議論を通じて、テクノロジーを活用した都市イノベーションの可能性と、持続可能で包摂的な都市の未来像が浮かび上がってきました。
Carlos Moreno教授は、15分都市のコンセプトを基盤とした未来の都市像を次のように描きました。「15分都市は、誰もが徒歩圏内で必要なサービスを享受できる、人間中心の都市モデルです。このモデルでは、自動車への依存が減り、歩行者や自転車利用者にとって快適な都市空間が生まれます。また、地域コミュニティの活性化や、社会的包摂性の向上にもつながります。」
Moreno教授は、パリでの具体的な取り組みを例に挙げ、次のように続けました。「パリでは、2024年までに全ての学校を『オアシス』に変える計画を進めています。これは、学校の校庭を緑化し、放課後や週末に地域に開放することで、近隣住民の憩いの場として活用するプロジェクトです。また、老朽化した駐車場を地域のコミュニティスペースや都市農園に転換する取り組みも進めています。これらの施策により、歩いて楽しい街、コミュニティの繋がりが強い街を実現することを目指しています。」
Diane Hoskins氏は、サステナブルでレジリエントな都市の未来像について次のように述べました。「持続可能な都市の実現には、脱炭素化とレジリエンスの向上が不可欠です。建物のゼロエミッション化や、再生可能エネルギーの導入、グリーンインフラの整備などを通じて、都市の環境負荷を大幅に削減することが求められます。」
Hoskins氏は、具体的な事例として、Genslerが設計したサンフランシスコの超高層ビル、Salesforce Towerを挙げました。「このビルは、LEED Platinumの認証を取得しており、高度なエネルギー効率と水資源管理システムを備えています。例えば、雨水や排水を再利用するブラックウォーターリサイクルシステムにより、年間750万ガロンの水を節約しています。また、自然換気システムや高性能の外皮により、エネルギー消費を従来の超高層ビルと比べて大幅に削減しています。こうした先進的な取り組みが、今後の都市開発のモデルになると考えています。」
Ross Perot Jr.氏は、包摂的な都市づくりの重要性を強調しました。「都市の持続可能性を高めるには、社会的な包摂性の向上も欠かせません。誰もが安心して暮らせる住宅の供給や、教育・医療などの公共サービスへのアクセス改善、雇用機会の創出などを通じて、全ての市民が都市の恩恵を享受できるようにすることが大切です。」
Perot Jr.氏は、AllianceTexasプロジェクトの将来計画について言及しました。「今後、AIやロボティクスの発展により、多くの仕事が自動化されると予想されます。そのため、私たちは職業訓練センターの設立や、地元の教育機関との連携強化を計画しています。これにより、地域住民が新しい技術に適応し、将来的にも雇用を確保できるよう支援していきます。また、高齢者向けの住宅や医療施設の整備も進め、多世代が共生できるコミュニティの形成を目指しています。」
Jeff Blau氏は、都市開発におけるイノベーションの重要性について次のように述べました。「持続可能で魅力的な都市を実現するには、不動産開発における継続的なイノベーションが欠かせません。ハドソンヤードでは、最先端のテクノロジーを駆使した環境配慮型の建物や、多様な用途が融合した複合開発など、様々な革新的な取り組みを進めてきました。」
Blau氏は、ハドソンヤードの次のフェーズについて説明しました。「現在、ウェストサイドヤードの開発を計画しています。ここでは、フレキシブルなオフィススペース、最先端のライフサイエンス研究施設、そして多様な価格帯の住宅を一体的に開発する予定です。また、水辺の公園や文化施設も整備し、24時間365日活気のある都市空間の創出を目指しています。さらに、再生可能エネルギーの活用やスマートビルディング技術の導入など、環境面でもさらなる革新を図っていきます。」
Alex Israel氏は、都市のモビリティの未来について次のように述べました。「自動運転技術やAIの発展により、都市の交通システムは大きく変わる可能性があります。例えば、駐車場の需要が減少し、その空間を他の用途に転換できるかもしれません。また、カーシェアリングやライドシェアリングの普及により、個人の車所有の必要性が低下する可能性もあります。」
Israel氏は、Metropolisの今後の展開について説明しました。「私たちは、単なる駐車場管理だけでなく、都市のモビリティハブとしての機能を強化していく予定です。例えば、電気自動車の充電設備、自転車やスクーターのシェアリングステーション、小型の物流拠点など、多様なモビリティサービスを一箇所で提供することを目指しています。これにより、人々の移動をよりスムーズかつ環境にやさしいものにできると考えています。」
これらの発言は、持続可能で包摂的な都市の実現には、環境、社会、経済の三側面からのアプローチが不可欠であることを示唆しています。脱炭素化や環境負荷の低減、レジリエンスの向上といった環境面での取り組みに加え、affordable housingの供給や公共サービスの充実など、社会的包摂性の向上に向けた施策も求められます。さらに、テクノロジーを活用したイノベーションを通じて、都市の経済的な持続可能性を高めていくことも重要です。
都市開発に携わる多様なステークホルダーが、それぞれの専門性を活かしながら協働することで、より良い都市の未来を築いていくことができるでしょう。15分都市のコンセプト、サステナブルな建築技術、包摂的なコミュニティ開発、先進的なモビリティソリューションなど、様々なアプローチを統合的に推進することが、持続可能で魅力的な都市の実現につながると考えられます。
今後の都市開発においては、テクノロジーの活用と人間中心の設計のバランスを取ることが重要になるでしょう。AIやIoTなどの先端技術を活用しつつ、人々の暮らしや健康、コミュニティの絆を大切にする都市づくりが求められています。また、気候変動や感染症などのグローバルな課題に対応できる、レジリエントな都市構造の構築も不可欠です。
こうした多面的なアプローチを通じて、誰もが豊かで安全・安心に暮らせる持続可能な都市の実現を目指すことが、私たちに課された使命だと言えるでしょう。都市開発に携わる全ての人々が、この共通のビジョンに向かって協力し、革新的なアイデアを出し合い、実践していくことが、より良い都市の未来を築く鍵となるのです。