※本稿は、2024年に開催されたAI for Good Global Summit 2024での「Harmonizing High-Tech: The role of AI standards as an implementation tool」というセッションを要約したものです。
1. はじめに
1.1 国際標準化機関の概要
国際電気標準会議(IEC)、国際標準化機構(ISO)、国際電気通信連合(ITU)は、ジュネーブを拠点とする三大国際標準化機関です。これらの組織は、グローバルな技術標準の策定と普及に重要な役割を果たしています。
IEC、ISO、ITUはそれぞれ長い歴史を持つ組織です。ITUは1865年に設立され、世界最古の国際機関の一つとして知られています。ISOは1947年に、IECは1906年に設立されました。これらの組織は、時代とともに変化する技術的課題に対応しながら、グローバルな標準化活動を主導してきました。
1.2 標準化プロセスの特徴
これらの組織の標準化プロセスは、透明性、多様性、包摂性、そして機会の平等という原則に基づいて運営されています。これらの原則は、標準化プロセスの信頼性と公平性を確保するうえで不可欠です。
標準化プロセスは合意形成を重視しており、世界中のコミュニティの参加と意見を反映した標準の策定を目指しています。特に発展途上国を含む、様々な国や組織の参加が促進されています。
1.3 標準化の目的と影響
IEC、ISO、ITUの標準化活動は、安全性とセキュリティの確保、相互運用性の実現、信頼の構築に貢献しています。特にAI技術の文脈では、これらの要素が責任ある採用を促進する上で重要な役割を果たしています。
これらの組織は、世界貿易機関(WTO)によって技術的貿易障壁の排除に不可欠な存在として認識されています。標準は規制や法制化にも大きな影響を与えており、地域や国の特性にも適応可能であることが示されています。
また、これらの組織は他の団体との協力にも開かれています。例えば、IECではリエゾンと呼ばれるツールを通じて、既存のメンバー以外の新しいプレイヤーとも協力関係を築いています。
このように、IEC、ISO、ITUは長年の経験と実績を基に、グローバルな標準化活動をリードし、技術の発展と社会の進歩に重要な役割を果たしています。特にAIのような新興技術の分野では、これらの組織の経験と適応能力が、責任ある技術開発と採用を促進する上で不可欠となっています。
2. 国際標準化機関の役割と特徴
2.1 IEC, ISO, ITUの歴史と使命
国際電気標準会議(IEC)、国際標準化機構(ISO)、国際電気通信連合(ITU)は、世界的に認められた主要な標準化機関です。ITUは1865年に設立され、世界最古の国際機関の一つです。IECは1906年に設立され、当初は電気安全に関する標準化を中心に活動していました。ISOは1947年に設立されました。
これらの組織は、時代とともに変化する技術的課題に対応しながら、その役割を拡大してきました。IECは設立当初、電気安全に焦点を当てていましたが、その後、エネルギー生産の効率性など、より広範な分野へと活動を拡大しました。現在では、AIを含む最先端技術の標準化にも取り組んでいます。
2.2 標準化プロセスの原則と特徴
IEC、ISO、ITUの標準化プロセスは、透明性、多様性、包摂性、機会の平等という重要な原則に基づいています。これらの原則は、標準化プロセスの信頼性と公平性を確保する上で不可欠です。
標準化プロセスの主な特徴は以下の通りです:
- コンセンサスベース:標準は、関係者間の合意に基づいて開発されます。
- グローバルな参加:世界中のコミュニティが標準化プロセスに参加し、その意見が反映されます。
- 安定的なプロセス:長年の経験に基づいた安定的で信頼性の高いプロセスが用いられています。ただし、新しい方法も適宜取り入れられ、プロセスの改善が図られています。
- 包摂性:特に発展途上国を含む、様々な国や組織の参加が促進されています。
2.3 グローバルな影響力
IEC、ISO、ITUの標準は、グローバルな貿易と繁栄の重要な推進力となっています。これらの組織は世界貿易機関(WTO)によって、技術的貿易障壁の排除に不可欠な存在として認識されています。
標準は規制や法制化にも大きな影響を与えています。これらの国際標準が地域や国の特性にも適応可能であることが示されています。
また、これらの組織は他の団体との協力にも開かれています。例えば、IECではリエゾンと呼ばれるツールを通じて、既存のメンバー以外の新しいプレイヤーとも協力関係を築いています。
IEC、ISO、ITUの標準は、安全性とセキュリティの確保、相互運用性の実現、信頼の構築に貢献しています。特にAI技術の文脈では、これらの要素が責任ある採用を促進する上で重要な役割を果たしています。
以上のように、IEC、ISO、ITUは長年の経験と実績を基に、グローバルな標準化活動をリードし、技術の発展と社会の進歩に重要な役割を果たしています。特にAIのような新興技術の分野では、これらの組織の経験と適応能力が、責任ある技術開発と採用を促進する上で不可欠となっています。
3. 標準化機関間の連携
3.1 協力の必要性
国際標準化機関間の協力は、グローバルな課題に対処し、技術の進歩がもたらす機会を最大限に活用するために不可欠です。特にAI技術のような急速に発展する分野では、標準化機関の協調的なアプローチが重要となります。この協力の必要性は、標準化の分野が複雑化し、多くの組織や政府、企業が関与する中で、より顕著になっています。
人々は、標準が IEC、ISO、または ITU のものであるかどうかをそれほど気にしません。彼らが知りたいのは、AI に関連する課題と機会に対応するために必要な標準が何かということです。そのため、主要な標準化機関として、人々にとって意味のあるものを提供する責任があります。
3.2 技術的協力と標準化促進活動
標準化機関の協力は、主に二つの領域に焦点を当てています:技術的協力と標準化促進活動です。
技術的協力の面では、三機関の技術管理委員会が協力して作業プログラムを調整しています。この協力の程度は、扱う課題の性質によって異なります。場合によっては情報交換にとどまることもありますが、より野心的な協力も行われています。例えば、標準の相互運用性や相互認識の機会を模索したり、最終的には三機関のロゴを冠した単一の国際標準を共同で作成したりすることもあります。
標準化促進活動の面では、標準化の重要性に関する前向きなメッセージを発信することに注力しています。この活動は、標準化プロセスの価値と重要性を広く理解してもらうために不可欠です。
標準化機関は、標準化プロセスにおける重要な価値観を強調しています。これには、包摂性、透明性、合意に基づく意思決定、そして発展途上国の声を確実に反映させることが含まれます。特にAIのような先進技術の分野では、これらの価値観を維持することが極めて重要です。標準化が一部の富裕層や高度に洗練された組織だけの対話にならないよう、真に包括的なプロセスを確保することが重要な使命となっています。
標準化機関の活動は、標準化プロセスの信頼性と正当性を高めるのに役立っています。例えば、専門家を雇って短期間で標準を作成することは技術的には可能かもしれませんが、適切なガバナンスと核心的な価値観を尊重することの重要性を強調しています。これにより、作成された標準がより広く受け入れられ、効果的に実装されることが期待されます。
このように、IEC、ISO、ITUの協力は、AI技術のような複雑で急速に進化する分野において、包括的で効果的な標準化アプローチを実現するための重要な基盤となっています。技術的な専門知識の共有から、標準化の価値の普及まで、これらの機関の活動は国際的な標準化コミュニティに大きな貢献をしています。
4. 標準化による公民連携と政策目標の達成
4.1 標準化プロセスにおける多様なステークホルダーの参加
標準化プロセスは、本質的に公民連携の一形態です。このプロセスには、政府機関、規制当局、企業など、様々な利害関係者が参加しています。この多様な参加は、標準化プロセスの重要な特徴となっています。
具体的な例として、サービス品質の向上を目指す規制当局は、サービス品質のKPI(主要業績評価指標)や監視ツールを専門とする企業と協力しています。この協力により、業界を監督する規制当局と企業の間で共通の理解を形成する標準を開発しています。
4.2 標準の自主的性質と政策目標への貢献
国際標準化機関によって開発される標準は、本質的に自主的なものです。しかし、この自主的な性質にもかかわらず、これらの標準は政策目標の達成を支援する強力なツールとなっています。標準は、政策立案者に持続可能な開発を加速するための手段を提供しています。
政策と規制は規則を確立しますが、技術標準はそれらの規則を支持する実践的なツールを提供します。例えば、安全性とプライバシーの分野では、技術だけでなく、より広範な問題に対処する必要があります。しかし、標準によって設定されるセキュリティ管理は、安全性とプライバシーを確保するための実践的なツールとなります。
このように、標準は政策目標を支援する重要な役割を果たしています。特にAI技術のような新興分野では、この協力的なアプローチが、技術の責任ある開発と採用を確保する上で不可欠となっています。
5. AI関連の標準化の主要領域
5.1 AI信頼性と持続可能性
AI信頼性は、AI技術の社会的受容と効果的な実装において極めて重要な要素です。この分野での標準化活動は、以下の重要な側面に焦点を当てています:
- AIシステムの開発時に社会的懸念や倫理的考慮事項に対処するためのガイダンスの提供。これは、技術的な側面だけでなく、非技術的な側面も考慮に入れることの重要性を強調しています。具体的には、エンジニアや技術者が社会的・倫理的懸念をどのように技術的な作業に組み込むべきかについて、グローバルな理解を促進するためのガイダンスが提供されています。
- 機械学習モデルとAIシステムの説明可能性と解釈可能性に関するガイダンスの開発。これは、AIの意思決定プロセスの透明性を高めるための重要な要素です。
- AIにおける望ましくないバイアスの取り扱いに関する作業。
- AIシステムの人間による監視に関するガイダンスの開発。これは、AIの将来的な人類への影響に関する究極的な問題に対処する上で重要な要素となっています。
持続可能性の観点からは、AIシステムの持続可能な方法での設計、作成、運用に関する標準化活動が行われています。これには、AIシステムの環境への影響など、様々な側面が考慮されています。
5.2 機能安全性とデータ品質
機能安全性は、AI技術を実世界のシステムに適用する際の重要な考慮事項です。例えば、自動ドアのような日常的な製品でも、機能安全性が重要な役割を果たしています。電子制御された製品やデバイスが危険な状況にどのように反応するか、例えば、ドアが開いたままになるべき時に確実に開いたままになるかどうかは、機能安全性の典型的な例です。
AI技術の文脈では、機能安全性の焦点は、AIを使用するシステムの安全性確保に移っています。新しいAI時代においても、機能安全性が依然として信頼できるものであることを確保することが重要です。
データ品質は、AIシステムの「生命線」とも言えるものです。AIプロセスで使用されるデータの特性、属性、品質に関する標準化活動が行われています。これは、AIプロセスから意味のある分析結果を得るために不可欠です。
これらの主要領域における標準化活動は、AI技術の健全な発展と社会への責任ある導入を支援する重要な役割を果たしています。
6. 適合性評価の課題と展望
6.1 AI搭載製品の適合性評価の新たな手法
国際電気標準会議(IEC)は、適合性評価システムを運営している標準化機関としての特殊性を活かし、AI搭載製品の適合性評価に関する新たな課題に取り組んでいます。この取り組みは、将来を見据えたものであり、現時点では具体的な解決策やサービスの提供には至っていません。
IECの専門家たちは、AIを使用する製品の適合性をどのように評価するかについて、真剣に検討を重ねています。彼らの目標は、現在のAIを使用しない製品に対して行っているようなテスト結果を、AI搭載製品に対しても得られるようにすることです。
この分野での取り組みは、AI技術の急速な発展に伴う新たな課題に対応するものであり、適合性評価の未来を形作る重要な要素となる可能性があります。
6.2 適合性評価プロセスへのAI技術の活用
IECは、適合性評価プロセス自体にAI技術を活用する可能性も探っています。これは、適合性評価の効率性と精度を向上させる潜在的な方法として注目されています。
適合性評価プロセスへのAI技術の活用は、主に以下の二つの側面で検討されています:
- テストプロセスの改善:AI技術を用いることで、テストの実施や結果の分析などを効率化できる可能性があります。
- 証明書発行プロセスの効率化:AI技術は、適合性評価の結果に基づいて証明書を発行する過程でも活用できる可能性があります。
IECの専門家たちは、これらの可能性を認識しており、AI技術を適合性評価プロセスに統合するための方法を慎重に検討しています。
これらの新たな展開は、AI技術の責任ある開発と採用を促進する上で重要な役割を果たすと期待されています。AI搭載製品の適合性を適切に評価し、同時に適合性評価プロセス自体の効率性と有効性を向上させることで、AI技術に対する社会の信頼を高め、その潜在的な利益を最大限に引き出すことができるでしょう。
7. ISOのAI管理標準
国際標準化機構(ISO)は、AI管理に関する新しい管理標準を最近発表しました。この標準は、AI技術の実装に関する実践的なガイダンスを提供することを目的としています。
7.1 組織におけるAI実装のガイダンス
この管理標準は、あらゆる種類の組織 - 中小企業、大企業、さらには政府機関に至るまで - がAIを自社の活動に導入する際の指針を提供しています。主な内容には以下のような点が含まれています:
- AIの実装方法:組織がAIシステムを効果的に導入し、運用するための考慮事項を提示しています。
- AIに関連するリスクへの対処:AIの使用に伴う潜在的なリスクを特定し、それらを管理するための方策を提案しています。
- 組織内の各層の役割:AIの導入と運用において、組織の各レベルが果たすべき役割を明確にしています。
- 経営陣の責任:特に、AIの導入と運用に関する経営陣の責任を強調しています。
7.2 AIに関連するリスク管理
AI管理標準は、AIに関連するリスクの管理についても指針を提供しています。これには以下のような点が含まれます:
- リスク評価:AIシステムの導入と使用に関連する潜在的なリスクを特定し、評価するためのフレームワークを提供しています。
- リスク緩和策:特定されたリスクに対処するための戦略と措置を提案しています。
- 責任の明確化:AIシステムの開発、導入、運用に関わる各ステークホルダーの責任を定義しています。
この管理標準は、AIの実装に関する包括的なガイダンスを提供することで、組織がAIを責任を持って効果的に活用できるようサポートしています。これにより、AIの潜在的な利益を最大化しつつ、関連するリスクを最小限に抑えることが可能となります。
8. ITUのAI関連標準化活動
国際電気通信連合(ITU)は、AI関連の標準化活動において重要な役割を果たしています。ITUの活動は、技術的応用分野での標準化と、他の組織との協力による分野横断的な取り組みの両面にわたっています。
8.1 技術的応用分野での標準化
ITUは、AI技術の様々な応用分野で標準化活動を展開しています。これらの標準は、AI技術の幅広い応用を対象としており、主に以下の分野に焦点を当てています:
- ネットワーク高速化:AI技術を活用して通信ネットワークの性能を向上させる標準化活動が行われています。
- マルチメディアコーディング:AI技術を用いて画像や音声の処理を改善するための標準化が進められています。
- エネルギー効率:ネットワークやデータセンターのエネルギー効率を向上させるためのAI技術の応用に関する標準化活動が行われています。
8.2 分野横断的な取り組みと協力
ITUは、他の組織との協力を通じて分野横断的な取り組みを展開しています。主な取り組みには以下のようなものがあります:
- AI for Health(健康のためのAI):世界保健機関(WHO)との協力のもと、AI技術を活用して健康課題に取り組むための標準化活動を行っています。
- AI for Agriculture(農業のためのAI):国連食糧農業機関(FAO)と協力し、農業分野でのAI技術の応用に関する標準化を進めています。
- AI for Natural Disaster Management(自然災害管理のためのAI):世界気象機関(WMO)や国連環境計画(UNEP)と協力し、自然災害管理にAI技術を活用するための標準化活動を行っています。
さらに、ITUは新たな課題にも取り組んでいます。例えば、AI生成コンテンツによるディープフェイクや誤情報の問題に対処するため、マルチメディアコンテンツの真正性と出所を検証するための新しい作業項目を開始しています。
これらの活動を通じて、ITUはAI技術の標準化において重要な役割を果たし、技術の発展と社会の進歩の両立に貢献しています。
9. 結論
9.1 国際標準化機関のAI標準化におけるリーダーシップ
国際電気標準会議(IEC)、国際標準化機構(ISO)、国際電気通信連合(ITU)は、AI技術の標準化において重要なリーダーシップを発揮しています。これらの組織は、長年の経験と実績を基に、AIの急速な発展に対応する標準化活動を展開しています。
これらの組織は、それぞれの専門分野でAI関連の標準化を進めるとともに、協力して包括的なアプローチを取っています。これにより、AI技術の様々な側面 - 技術的、倫理的、社会的、経済的側面 - を考慮した標準化が可能となっています。
9.2 包括的かつ協調的なアプローチの重要性
AI技術の標準化において、包括的かつ協調的なアプローチの重要性が強調されています。このアプローチは以下の点で重要です:
- 多様な視点の統合:AI技術は社会の様々な側面に影響を与えるため、技術的側面だけでなく、倫理的、社会的、経済的側面も考慮する必要があります。
- グローバルな協力:AI技術の発展と影響は国境を越えるため、グローバルな協力が不可欠です。
- 相互運用性の確保:異なる組織や国による標準化活動の協調は、AI技術の相互運用性を確保する上で重要です。
- 効率的なリソース利用:協調的アプローチにより、重複した作業を避け、各組織の強みを活かした効率的な標準化活動が可能となっています。
結論として、IEC、ISO、ITUのリーダーシップと包括的かつ協調的なアプローチは、AI技術の責任ある発展と採用を促進する上で不可欠です。これにより、AI技術の潜在的な利益を最大化しつつ、関連するリスクを最小化することが可能となります。また、このアプローチは、AI技術が社会に与える影響を適切に管理し、持続可能な発展に貢献することを可能にします。
今後、AI技術がさらに発展し、その影響が拡大していく中で、これらの国際標準化機関のリーダーシップと包括的・協調的アプローチの重要性はさらに高まると考えられます。継続的な対話、協力、そして柔軟な対応を通じて、これらの機関はAI技術の標準化における重要な役割を果たし続けることが期待されます。