※本稿は、2024年の東京都知事選に出馬表明したAIエンジニア・安野貴博氏の会見の内容を要約したものです。
1. 自己紹介と出馬の理由
1.1 多彩な職業経験
私、安野貴博は、7月7日に行われる次期東京都知事選挙に立候補いたします。これまでの経歴を簡単に紹介させていただきますと、私は3つの異なる職業を経験してきました。
1つ目はソフトウェアエンジニアで、特にAIに関する技術を専門としています。2つ目は企業家として、AIスタートアップの経営者としてプロダクトの開発やサービスの提供に携わってきました。そして3つ目が作家で、主にSF(サイエンスフィクション)を執筆しています。
1.2 テクノロジーを通じた一貫した未来描写
一見すると、これらの職業は互いに関連性がないように見えるかもしれません。しかし実際には、テクノロジーを通じて未来を描くという、ただ1つのことを一貫して行ってきました。エンジニアとしてはプログラムを書くことを通じて、企業家としてはプロダクトやサービスの提供を通じて、作家としては物語を書く言葉を通じて、未来を描いてきたのです。
1.3 テクノロジーがもたらす社会変革
今回、政治の世界から遠かった私が都知事選に立候補しようと思った理由は、まさに今こそ東京の未来のビジョンを描くことが求められていると考えたからです。皆様もご存知の通り、テクノロジーの進化によって世界は大きく変わろうとしています。
インターネットやスマートフォンは、もはや子供から高齢者まで当たり前に使われるようになりました。生成AIによって画像や映像が自由に作れるようになり、翻訳AIによってランゲージバリア、つまり外国語を読み書きする障壁のようなものは取り払われつつあります。ChatGPTのようなツールは私たちの生産性を押し上げています。
1.4 テクノロジーの両義性と未来への影響
産業構造が変わり、人間を超えるような知性が生まれようとしている今、これらの技術は民主主義社会に対してプラスにもマイナスにも働く可能性があります。ネガティブな側面を見れば、テクノロジーの発達によって権力が集中・固定化し、人々への監視が強化され、フェイクニュースが蔓延して人々の分断を引き起こす可能性があります。
しかし一方で、技術の発達は社会的弱者を救済し、誰もが自分らしい生き方をできるような助けにもなります。人と人がコラボレーションする可能性を広げるものでもあるのです。私たちが良い方向に技術を使えるかどうか、そのキロに今まさに立っているのだと認識しています。
1.5 東京都の未来ビジョン構築の必要性
にもかかわらず、オリンピックが終わった今、東京都の未来のビジョンは空白になっていると感じています。今回の都知事選でも、有力な候補者は政策の話よりも政局の話に終始し、未来のビジョンの話は一切なされていません。今出馬している候補者は、様々なしがらみの中で短期の目線で政治のゲームをプレイしているように感じられます。
だからこそ、AIエンジニアとして、企業家として、作家として未来を描く仕事をしてきた自分が出馬することには意味があると考えています。まだ33歳の自分にとって、50年後の未来は全く他人事ではありません。政局ではなく政策を、そしてその先の未来のビジョンを話し、議論し、その選択肢を都民の皆さんに提示したい。それが私の出馬した理由です。
2. 注力したい政策: テクノロジーで誰も取り残さない東京へのアップデート
私が訴えたい東京都のビジョンは、一言で言えば「テクノロジーで誰も取り残さない」東京へのアップデートです。私はテクノロジーを通じて、人と人とが互いを尊重し合え、誰もが自分らしく生きていける社会、そういう東京を作りたいと考えています。そのためには、暮らし、経済、政治をそれぞれアップデートする必要があります。
2.1 暮らしのアップデート
テクノロジーを活用すると聞くと、自分は取り残されてしまうのではないかと不安を覚える方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ChatGPTや翻訳AI、自動運転などの技術は、むしろ高齢者やハンディキャップを抱えた人、今までIT技術に疎かった人にこそ助けになるものだと感じています。
歴史的に見ても、技術はハンディキャップのある人たちを助けてきました。眼鏡は視力が悪い人を助け、車椅子は足の不自由な人を助け、電卓を使えば計算が苦手な人でも遜色なく仕事ができるようになります。テクノロジーが発達することで、多くの人の選択肢が増え、暮らしは豊かになります。
私はテクノロジーで生活を良くするために、様々な政策を打ち出していきたいと考えています。具体的にいくつか申し上げます。
- 自動運転を積極的に解禁・活用することで、誰もが移動の不自由を感じなくしたいと思います。
- 高度医療技術や未病対策によって、健康寿命世界一を目指します。
- 誰もが安心してテクノロジーに触れられるように、サイバー犯罪対策やネット上の暴言対策をしたいと思います。
- デジタルを活用した防災対策も重要です。
- 未来世代を担う子供たちのためにも、不妊治療のような技術を含む出産・子育てのインフラを整えることが重要だと考えています。
- 世界一の教育環境を作っていくことも重要だと考えています。
これらの政策を通じて、テクノロジーの恩恵を誰もが享受できる、誰も取り残さない東京を実現していきたいと考えています。技術の進歩は、私たちの生活をより豊かに、より便利に、そしてより安全にする可能性を秘めています。その可能性を最大限に引き出し、都民の皆様の暮らしを向上させることが、私の目指す東京都政の核心なのです。
2.2 経済のアップデート
現代における経済成長の主要なドライバーはテクノロジーです。世界の時価総額ランキングを見ても、上位はGAFAM、いわゆるGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftのようなテクノロジー企業がずらりと並んでいます。
経済学の世界では、経済成長のドライバーは3つしかないと言われています。1つが人口の増加、2つ目が天然資源の活用、そして3つ目がテクノロジーの活用です。残念ながら、1つ目と2つ目、人口の増加と天然資源の活用は日本ではなかなか望むことができません。そのため、テクノロジーをどれだけ活用できるかが日本の成長にかかっているというところだと思います。
私はAIスタートアップの経営経験を生かし、規制緩和や支援策を通じてテクノロジーで新産業を作ることを推進したいと考えています。
2.3 政治のアップデート
行政、政治、民主主義もテクノロジーによってアップデートできます。テクノロジーを活用することで、集団でコラボレーションをできるようにしたり、民主的な意思決定をサポートできるようになると考えています。
民主主義システムの原型は数百年前にデザインされたものです。その当時、今のような情報技術はありませんでした。テクノロジーを活用することで、より良いものに民主主義をアップデートすることができると考えています。
具体的には、ネット選挙を解禁することでより幅広い方の意見をお聞きすることができます。また、さらに新しい投票システムを活用することで、選挙を待たずとも継続的に頻度高く民意を確認しながら行政運営をできるようにすることだって可能です。私はこのような民主主義システムのアップデートに挑戦したいと考えています。
また、足元で行政サービスのデジタルトランスフォーメーションを進めていくことも非常に重要だと感じています。受付対応のIT化やオンライン化など、AI以前にITの活用が遅れているのは明らかです。
政治について考えるにあたって、テクノロジーをどう扱うかという問題は過小評価されていると思います。テクノロジーは独立した課題ではなく、それぞれの政策の基盤に位置付けられるものです。テクノロジーの専門家としての視点から、私は東京のテクノロジー政策を強くし、誰も取り残さない東京を実現したいと考えています。
3. 選挙期間中の3つの日本初キャンペーン
これまでの選挙期間は、候補者の意見をブロードキャストする、つまり一方的に候補者の考えていることを有権者に伝える期間として使われてきました。しかし今回、テクノロジーを使うことで逆に人々の意見を聞く、そういった期間にできると考えています。これをデジタル民主主義の世界ではブロードリスニングと呼びます。このブロードリスニングを通じて、選挙期間をみんなで理想の政策を作る、そういった期間にしていきたいと考えています。
令和4年の都民生活に関する世論調査という調査の中では、「東京をより良くするために自分が関わっていきたいか」という質問に関して、54%の人が、実に半数以上の人が、「関わっていきたい」「東京をよくするために自分も何かしたい」という回答をしています。問題は、こうした都民の思いに答えるためのテクノロジーがなかったことです。私ならテクノロジーを使って皆様の東京を良くしたいという思い、気持ちに向き合うことができると考えています。
そこで今回は、テクノロジーを活用した3つの日本初のキャンペーンを行いたいと思います。
3.1 直接投票による高解像度の民意把握
今回の選挙では、ある事業者がマイナンバーカードとスマートフォンを使って、政治の論点に関して1人1票を保証する形で選挙期間中に直接投票を行うと発表しています。この電子投票自体は私自身が行うものではありませんが、この取り組みによって得られた民意のデータを解析して可視化し、柔軟に自分のマニフェストに反映させる、取り込んでいく、そういったことを考えています。
3.2 オープンソースでのマニフェスト改善
オープンソースとは、複数のエンジニアがインターネット上でコラボレーションをしながらソフトウェアを作ることです。オープンソースのソフトウェア開発と同じようなやり方で、誰もが参加できる形で政策の議論ができると良いと考えています。
具体的には、GitHubというオープンソースのツールを用いて政策を管理し、どなたでも政策の変更提案ができるようにしたいと考えています。
3.3 AIタウンミーティング
AIタウンミーティングをYouTubeライブ上で行います。これは選挙期間中の17日間、24時間連続でいつでも誰でも参加できるものです。私のマニフェスト、政策をAIに学習させることで、都民の皆様からの質問や政策の要望をいつでも受け付けます。
こちらは本日デモをお持ちいたしましたので、ご覧ください。
(AIエージェントのデモンストレーション)
「こんにちは、私は東京都知事候補の安野貴博のAIエージェントです。安野貴博のマニフェストを学習し、皆さんの疑問にお答えしたり、ご要望をお聞きします。」
このAIエージェントは、YouTubeライブ上で動いており、コメントを打ち込むとそれに回答します。例えば、経済政策について質問すると、以下のように回答します:
「私たちは新産業の創出で所得倍増を目指します。スタートアップのチャレンジを支援し、自動運転、AI活用などでDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進します。副業支援を通じて自分らしい働き方を実現します。都内の一部地域にスタートアップを集積し、新産業やユニコーン企業の創出を目指します。」
また、デジタル民主主義についての質問にも答えることができます:
「デジタル民主主義では、市民がオンラインで意見を共有し議論します。例えば台湾では、POLISというプラットフォームを使い、AIが議論を整理します。これにより効率的に市民の意見を反映することが可能です。私たちも東京都で取り入れたいと思っています。」
さらに、YouTubeライブ上で私のAIエージェントと握手することもできます。今までの政治家というのは1人ずつとしかしっかり対話をしてこれなかったわけですが、こういった技術を使うことで多くの方と同時により深いコミュニケーションができるようになると考えています。
また、これら3つのキャンペーンに使ったプログラム、ソースコードは全て選挙後にオープンソースで公開する予定です。今後のあらゆる選挙で、誰でも私と同じようなやり方でキャンペーンをすることができるようになります。こうした試みを通じて、選挙のやり方それ自体もより良いものになるようアップデートされるはずです。
4. オードリー・タン氏からのアドバイスと支持
最後に、今回の立候補にあたり、デジタル民主主義の第一人者である元台湾のデジタル発展担当大臣、オードリー・タン氏に相談をいたしました。彼女からは温かい言葉や具体的なアドバイスをいただきました。ここでその一部を紹介したいと思います。
オードリー・タン氏は私の取り組みについて、次のようなコメントをくださいました。
「安野さんのブロードリスニング、マイナンバーシステム、オープンソース精神を組み合わせたやり方を私は気に入っています。安野さんは抗議活動をしているのではない。私はそこがすごく好きです。あなたは『私たちは良い方向に変われる』と言っているんだと思います。」
このコメントは、私の政治姿勢や取り組みの本質を的確に捉えていただいたものだと感じています。私は単に現状に反対するのではなく、テクノロジーを活用して社会をより良い方向に変えていくことを目指しています。オードリー・タン氏がそこに共感してくださったことを大変嬉しく思います。
オードリー・タン氏が行政の世界に挑戦されたのは、今の私と同じ33歳の時でした。そんなタイミングで自分がこのような挑戦ができて、彼女からこのような言葉を寄せていただけたことを大変嬉しく思っています。
東京は世界をリードする都市になれる素晴らしいポテンシャルを持っていると感じています。私たちはもっと良い方向に変われると思っています。選挙期間中は有権者の皆様の声を聞きながら、東京の未来を一緒に描いていきたいと考えています。
安野貴弘は、選挙のやり方、政治システム、そして東京の未来をアップデートしていきます。オードリー・タン氏からいただいた励ましの言葉を胸に、これからの選挙戦に臨んでいきたいと思います。
5. 質疑応答
5.1 プロフィールの詳細確認
私の戸籍上の名前は安野貴弘です。「安」は安いの「安」、「野」は野原の「野」、「貴」は貴重品の「貴」、「弘」は博士の「博」です。生年月日は1990年、つまり平成2年の12月1日生まれの33歳の男性です。
最終学歴は東京大学工学部卒業です。その後、英国の王立美術院(ロイヤルカレッジオブアート)で準修士課程を修了しました。準修士課程なので、どちらを最終学歴とするかは媒体によって異なる可能性がありますが、今回は東京大学工学部卒業としています。出身地は大阪府堺市です。
職業については、AIエンジニアを主な肩書きとしています。また、SF作家としての活動も行っています。企業経営の経験もあり、株式会社BEDORE(ベドア)というAIチャットボットのサービスを提供するAIスタートアップ企業の代表取締役を務めていました。さらに、合同会社機械経営の代表社員も務めています。「機械」は「マシーン」の「機械」で、「経営」は「マネジメント」の「経営」です。
なお、今回の選挙には無所属で出馬します。特定の政治団体からの出馬ではありません。
5.2 選挙活動の具体的な計画(ポスター掲示、選挙カーなど)
ポスターに関しては、全てではありませんが貼る予定です。具体的な箇所数については現在検討中です。選挙カーについても、現在検討中の段階です。
5.3 オープンソースマニフェストの最終決定プロセス
変更提案はどなたでもできます。それらの変更提案を受けて、最終的にそれを取り込むか取り込まないかという決定は私が行います。最終的な意思決定は私が全て行い、マニフェストに関しては私が責任を持って伝えられる状態になります。
5.4 当選確率の見込み
選挙に勝つ負けるというところもすごく大事なポイントだとは思っていますが、一番大事にしたいのは、最も良い提案ができるかどうかということです。私が最も良い提案を都民の皆様にできるという自信はあります。その上で、有権者の方が判断するということだと思います。
当選確率を具体的な数字で表すのは難しいですが、全然ゼロではないと思っています。
5.5 オードリー・タン氏との関係性
オードリー・タン氏は元々、デジタル民主主義と呼ばれる分野で世界の第一人者の方でした。私は昔からすごく尊敬していました。今回、候補するにあたって、自分もデジタル民主主義ということを訴えていきたいと思い、誰に助言をいただくのが一番良いかと考えた時に、オードリー・タン氏だと思いご相談させていただきました。
具体的には、Zoomでのオンライン会議の形で話をさせていただきました。私から「こういった話をしたい」とお伝えしたところ、彼女も興味を持ってくださり、お話しする機会を得ることができました。
5.6 小池都政のスタートアップ支援策に対する評価と課題
小池都知事もスタートアップに最近力を入れると言及しており、国際金融都市を開くなどしています。評価する点としては、スタートアップに注力しようとおっしゃっている点は、私としては共感できますし、重要なことだと感じています。
一方で、問題だと感じているのは、実際の成果が出ていない点です。これは私だけが言っているわけではなく、スタートアップエコシステムに関する年ごとの競争力ランキングを見ても明らかです。4年前と比較して東京は横ばいです。この4年間で、アジアの都市は軒並みランキングを上昇させてきている中で、東京だけが横ばいです。
具体的には、上海やシンガポール、ニューデリーといった都市がどんどんランキングを上げてきているのに対し、東京は確か16位から15位、14位くらいというところを横ばいで推移しています。力を入れているにも関わらず、実際の成果が出ていないのは非常に大きな問題だと考えています。
5.7 当事者目線でのスタートアップ支援の重要性
なぜ成果が出ていないかという仮説としては、当事者の目線が欠けているのではないかと感じています。私は小池都知事のスタートアップを重視する姿勢は引き継いでいくつもりですが、当事者目線を持って実際に成果が出るような施策を打っていきたいと考えています。
スタートアップ支援は、ただお金をかければいいというものではありません。どういったスタートアップがどう成長するのか、そういった観点を知った上で支援をしていくことが大事です。0から1のスタートアップをやるという意味では、何にもならないようなスタートアップにたくさん支援をしても仕方がありません。
私は少なくとも2社のスタートアップを0から立ち上げ、どちらも今成功していると言える状態だと思っています。そういったスタートアップがどこで困っていて、どういうところを支援して欲しいのかといったところは、より当事者目線を持って取り組むことができると考えています。
6. 結びの言葉
東京は世界をリードする都市になれる素晴らしいポテンシャルを持っていると感じています。私たちはもっと良い方向に変われると思っています。選挙期間中は有権者の皆様の声を聞きながら、東京の未来を一緒に描いていきたいと考えています。
安野貴弘は、選挙のやり方、政治システム、そして東京の未来をアップデートしていきます。私からの話は以上です。ありがとうございました。