※本稿は、Milken Institute 2024 Global Conferenceにおける「Navigating the Polycrisis and Advancing Inclusive Development: How Can AI Help (And Not Harm)?」セッションの議論をAI要約したものです。
人工知能(AI)は、新興国・発展途上国に大きな影響を与える可能性を秘めており、膨大な機会と同時に困難な課題をもたらします。これらの国々がAIの可能性を活用して発展を加速させようとする中、技術的、倫理的、地政学的な考慮事項が複雑に絡み合う状況を慎重に進んでいく必要があります。
発展のための機会
a) 医療分野でのブレークスルー ガーナの遠隔医療システムは、AIの潜在力を示す好例です。ガーナ政府は、IBM Watsonを活用した診断支援システムを導入し、遠隔地の医療従事者をサポートしています。このシステムにより、専門医の少ない地域でも、高度な診断が可能になりました。例えば、ガーナ北部の農村地域では、皮膚病の診断精度が80%向上し、適切な治療へのアクセスが大幅に改善されました。
b) 教育の革新 インドのBYJU'sは、AIを活用した教育プラットフォームの成功例です。このアプリは、生徒の学習パターンを分析し、個別化された学習プランを提供します。コロナ禍では、1億人以上の学生がこのプラットフォームを利用し、特に遠隔地の生徒たちに質の高い教育を提供しました。AIによる適応型学習により、数学の成績が平均30%向上したという報告もあります。
c) 農業生産性の向上 ケニアでは、IBM ResearchとTwiga Foodsが協力し、AIを活用した小規模農家向けのマイクロ融資システムを開発しました。このシステムは、農家の過去の取引データを分析し、信用スコアを算出します。その結果、従来は融資を受けられなかった農家の95%が融資を受けられるようになり、平均収入が50%増加しました。
主要な課題
a) インフラ格差とデジタル・ディバイド ナイジェリアの事例は、インフラ格差の深刻さを示しています。首都ラゴスでは5G通信が利用可能である一方、北部の農村地域では基本的な携帯電話サービスすら届いていない場所があります。このような格差は、AIの恩恵を全国民が享受する上で大きな障壁となっています。
b) データ品質と収集の問題 インドネシアでの自然災害予測モデルの開発過程で、データの質と量の問題が浮き彫りになりました。過去の災害データが不完全で、地域によってはほとんど記録が存在しないケースもありました。これにより、AIモデルの精度が大きく低下し、実用化に至らなかった事例があります。
c) 倫理的・法的懸念 中国企業が開発した顔認識システムがジンバブエで導入された際、プライバシーや人権侵害の懸念が国際的に高まりました。このシステムは犯罪防止を目的としていましたが、政府による市民監視に利用される可能性も指摘されました。適切な規制枠組みがない中でのAI導入の危険性を示す事例となりました。
d) 文化的バイアスの問題 ある多国籍企業が開発した採用支援AIシステムを南アフリカで導入した際、システムが地元の文化的文脈を理解できず、優秀な地元候補者を不当に低く評価するという問題が発生しました。これは、主に西洋のデータセットで訓練されたAIモデルを、異なる文化的背景を持つ地域にそのまま適用することの危険性を示しています。
包摂的なAI開発のための戦略
a) 包摂的なAIガバナンス ルワンダは、AIガバナンスにおける先進的な取り組みを行っています。政府は「AI倫理委員会」を設立し、技術専門家だけでなく、人権活動家、宗教指導者、地域コミュニティの代表者なども参加しています。この多様なステークホルダーによる議論を通じて、AIの開発と導入に関する包括的な国家戦略を策定しています。
b) AI倫理の実装 シンガポールでは、AI倫理原則を具体的なガイドラインに落とし込む取り組みが進んでいます。例えば、金融セクターでAIを活用する際の「FEAT原則(公平性、倫理、説明責任、透明性)」を策定し、企業に遵守を求めています。この取り組みは、新興国がAI倫理を実践的に実装する上でのモデルケースとなっています。
c) AI人材育成 エジプトでは、「AI for Egypt」イニシアチブを通じて、大規模なAI人材育成プログラムを展開しています。このプログラムでは、オンラインコースと実践的なプロジェクトを組み合わせ、毎年1万人以上のAIエンジニアを育成しています。さらに、AIスタートアップへの支援も行い、国内のAIエコシステムの構築を促進しています。
d) 国際協力の新たな枠組み アフリカ連合は、「AI for Africa」イニシアチブを立ち上げ、大陸全体でのAI開発と活用を推進しています。このイニシアチブでは、各国のAI戦略の調整、データ共有プラットフォームの構築、AIの社会的影響評価の共同研究などを行っています。これは、新興国・発展途上国が協力してAIの課題に取り組む新たなモデルとなっています。
結論
AIは新興国・発展途上国に大きな機会をもたらす一方で、複雑な課題も提示しています。ガーナの遠隔医療システムやインドの教育プラットフォームの成功例は、AIが発展を加速させる可能性を示しています。一方で、ナイジェリアのデジタル・ディバイドや南アフリカでの文化的バイアスの問題は、AIの恩恵を公平に分配することの難しさを浮き彫りにしています。
これらの課題に対処するためには、ルワンダのような包摂的なガバナンス、シンガポールのようなAI倫理の実践的実装、エジプトのような大規模な人材育成プログラム、そしてアフリカ連合のような地域協力の枠組みが重要です。
新興国・発展途上国がAIの可能性を最大限に活用するためには、技術的な側面だけでなく、社会的、文化的、倫理的な側面も考慮に入れた包括的なアプローチが不可欠です。国際社会の支援を得ながら、各国の文脈に即したAI戦略を策定し、実施していくことが求められます。
AIは、新興国・発展途上国に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、その恩恵を真に包摂的なものとするためには、技術開発と並行して、社会システムの変革も必要です。AI時代における発展の道筋は、技術と人間社会の調和の中に見出されるのです。