※2024年5月、Milken Institute Global Conferenceにおいて「AIは次の科学革命への道を開くか」と題したパネルディスカッションが開催されました。本稿はその内容のAI要約記事です。
1. AIがもたらす医療アクセスの向上
パネリストたちは、AIが医療アクセスの格差を解消する可能性について言及しました。Sanjit Biswas氏は、次のような具体例を挙げました。
「発展途上国の小さな村でも、スマートフォンに向かって咳をすれば、AIモデルが結核の可能性を判定し、検査を勧めることができるようになるでしょう。これは、コミュニティヘルスワーカーに咳の判別を教えるのが非常に難しいことを考えると、AIならではの強みです。」
この例は、AIが地理的・経済的な制約を超えて、質の高い医療サービスを提供できる可能性を示しています。特に医療インフラが十分に整備されていない地域において、AIが医療アクセスの向上に大きく貢献する可能性があります。
また、Beth Mayer氏は、March of Dimesとの協働プロジェクトを紹介しました。彼らは、社会的決定要因に関するデータを統合したツール「Health Prism」を用いて、妊婦が適切なケアを受けられない「医療砂漠」を特定しました。
「私たちは、現在のケアの提供状況が十分でないことを認識した上で、患者を適切なケアにつなげる方法を考えています。これは、患者がAIの恩恵を受けている一例であり、彼らはAIが関与していることすら気づかないかもしれません。」
このような取り組みは、AIを活用して医療資源の適切な配分や、脆弱な立場にある患者への支援を強化できることを示しています。
2. 研究開発の加速
AIは、医学研究や創薬プロセスを大きく加速させる可能性があります。Beth Mayer氏は、COVID-19パンデミックへの対応におけるAIの役割について次のように述べました。
「私たちは、COVID-19への対応において重要な役割を果たしました。わずか6週間で、世界中の研究者がワクチンや診断法の開発に取り組むためのプラットフォームを立ち上げました。パンデミックのような危機的状況下で、迅速に行動するために多くのことを学びました。このプラットフォームは現在も運用されており、今後も活用していくことができます。」
Caroline Chung氏も、創薬や病理学の分野でのAIの可能性について触れました。
「AIを活用することで、新しい創薬ターゲットを同定したり、病理学スライドから新たなパターンを発見したりすることができるかもしれません。これらは、私たちが積極的に取り組んでいる分野です。」
さらに、Chung氏は実験の効率化におけるAIの役割について具体的な例を挙げました。
「私たちは、実験の成否を判定するために、人間ではなくAIを活用する取り組みに助成金を提供しています。AIが実験結果を評価し、次の実験の方向性を決定することができれば、研究者が24時間体制で実験を監視する必要がなくなります。」
これらの事例は、AIが仮説生成から実験の実施、データ解析に至るまで、研究のあらゆる段階で効率化と高度化をもたらす可能性を示しています。
3. 臨床現場での活用
AIは臨床現場でも様々な形で活用されつつあります。Caroline Chung氏は、MD Anderson Cancer Centerにおける取り組みを紹介しました。
「私たちは、AIを使って医療の質、安全性、効率性を向上させることを目指しています。例えば、がん患者の画像診断において、放射線科医が30個の腫瘍を毎回手作業で計測するのは非現実的です。そこで、AIを活用して全ての腫瘍を定量的に評価することを検討しています。現在の臨床試験では、5つの主要な腫瘍のみを評価するのが一般的ですが、AIを使えば全ての腫瘍を測定できます。これにより、薬剤の効果をより正確に判定できるようになるでしょう。」
また、Chung氏は臨床試験の被験者選定にもAIが活用されていると述べました。
「患者の特徴を入力すると、AIが適格な臨床試験のリストを提示してくれます。これにより、患者は自分に合った治療選択肢を網羅的に知ることができます。ここでもAIは意思決定を行うのではなく、意思決定に必要な情報を提供する役割を果たしています。」
Beth Mayer氏は、Veteransaffairsとの協働において、AIがメンタルヘルスケアの改善に役立つ可能性について言及しました。
「私たちは、チャットボットを使ってメンタルヘルスの危機にある人々を支援しています。ユーザーがチャットボットに相談すると、まず危機の切迫度を評価し、必要に応じて緊急サービスにつなげます。次に、メンタルヘルスの専門家につながるための情報を提供します。メンタルヘルスの専門家が不足する中、AIを活用することで、より多くの人々に適切なケアを提供できるようになるでしょう。」
4. 日常生活での活用
パネリストたちは、AIが日常生活のあらゆる場面で活用されつつあると指摘しました。Rahman Bastani氏は、Healthvanaにおける性の健康に関する情報提供でのAI活用事例を紹介しました。
「私たちのAIは、性の健康について、ユーモアを交えながら会話をします。例えば、ユーザーが『男性が空から降ってくる(非常に魅力的な男性がたくさんいる)のでしょうか?』と尋ねると、AIは『そうだといいですね。でも比喩的な意味なら、保護措置を講じるべきですよ』などと答えます。」
このようなAIを活用した情報提供は、医療従事者に直接相談することに抵抗がある人々にとって、特に重要な意味を持ちます。AIは24時間365日利用可能であり、プライバシーを保護しながら、個々のニーズに合わせた情報を提供することができます。
5. AIがもたらす課題と懸念
パネリストたちは、AIの可能性を語る一方で、その課題や懸念についても指摘しました。主な課題として挙げられたのは、データの質と偏り、プライバシーとセキュリティ、倫理的な問題です。
Caroline Chung氏は、電子カルテデータの問題点を指摘しました。
「今日の電子カルテデータは非常に雑然としています。電子的であるからといって、構造化されているわけではありません。AIに有用な情報を入力しようにも、そもそもデータから真実を抽出することが難しいのです。そのような状況で、AIが誤った判断を下してしまった場合、患者が適切な治療を受けられなくなるリスクがあります。」
また、Beth Mayer氏は、データサイエンティストの多様性の重要性を強調しました。
「データサイエンティストが多様でなければ、AIはバイアスを助長してしまうでしょう。技術面だけでなく、規制面、そして人材育成の面からも包括的に取り組む必要があります。」
プライバシーとセキュリティについては、Caroline Chung氏が次のように述べています。
「様々なタイプのデータを連携させようとすると、個人の特定可能性が高まります。データ活用とプライバシー保護のバランスをとることが重要です。データを共有しつつ、個人情報を保護するための新たな技術やコラボレーションの方法を模索していく必要があります。」
6. 今後の展望と課題
パネリストたちは、AIの医療応用には大きな可能性があると同時に、慎重なアプローチが必要だと強調しました。Caroline Chung氏は次のように述べています。
「科学的発見への興奮と、実際に安全で質の高い、規制されたケアにつなげていく必要がある部分とのバランスを取ることが重要です。」
また、Beth Mayer氏は、AIの課題への対応における透明性と説明責任の重要性を強調しました。
「私たち一人一人が、倫理的なAIの開発と利用に向けて行動しなければなりません。AIがどのようなデータを学習し、どのような目的で使用されるのかを明らかにすることが重要です。そして、AIの意思決定が患者に害を及ぼした場合には、責任の所在を明確にする必要があります。」
結論として、医療分野におけるAIの活用はまだ黎明期にあります。技術的な課題の解決に加え、倫理的・法的・社会的な課題についても真摯に向き合うことが求められています。産学官民が英知を結集し、患者中心のAIの発展を目指すことが、より良い医療の実現につながるでしょう。AIを人間の代替物ではなく、人間の能力を拡張するツールとして捉え、適切に活用していくことが、これからのAI時代を生き抜くカギとなるでしょう。