※本記事は、MIT Sloan Management ReviewとBoston Consulting Groupによる共同制作ポッドキャスト「Me, Myself, and AI」の内容を基に作成されています。本エピソードでは、SlackのプロダクトVPであるJackie Rocca氏へのインタビューを通じて、同社における生成AI実装の取り組みについて解説しています。 ポッドキャストはSam RansbothamとShervin Khodabandehがホストを務め、エンジニアのDavid Lishansky氏、プロデューサーのAllison Ryder氏とAlanna Hooper氏によって制作されています。オリジナルのトランスクリプトは https://mitsmr.com/4anSbMk でご覧いただけます。 本記事では、ポッドキャストの内容を要約・構造化しておりますが、原著作者の見解を正確に反映するよう努めています。ただし、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルのポッドキャストをお聴きいただくことをお勧めいたします。 より詳しい情報は、MIT Sloan Management Reviewのウェブサイト、またはLinkedInグループ「AI for Leaders」(mitsmr.com/AIforLeaders )、およびポッドキャストのLinkedInページをご参照ください。
Jackie Rocka氏の紹介 Slack社 プロダクト担当副社長 経歴:
- Bainでマネジメントコンサルタントとしてキャリアをスタート
- スタンフォード大学でMBA取得
- Google社にてYouTube TVの立ち上げチームとして活動
- 現在、Slackに5年半以上在籍 現在の役割: Slack AIのプロダクト開発を担当。特にユーザーの課題解決に焦点を当て、生成AI技術の実装を主導。育休からの復帰後、Chat GPTなどの新しい技術の可能性に着目し、長年のユーザー課題に対する新しいアプローチを推進。
1. Slackの概要と現状
1.1. コラボレーションプラットフォームとしての基本機能
Jackie Rocka: Slackは、当初はチーム内でのメッセージングとコラボレーションを効率化するプラットフォームとしてスタートしました。現在では、単なるメッセージングツール以上の機能を提供しています。特筆すべき点は、ワークスペース内で必要な様々な作業ツールにアクセスできることです。私たちは、内部での協業だけでなく、外部の顧客や契約者との連携も可能にする機能を実装しています。私たちの目標は、AIツールのハブとなり、会話インターフェースを通じてこれらのツールを簡単に利用できるようにすることです。
Sam Ransbotham: ツールとしては通信手段という印象を持たれがちですが、実際にはそれ以上の機能性を持っています。私自身、Slackの多機能性に驚かされています。特に、組織内のコミュニケーションの履歴や知識が蓄積され、それらが効果的に活用できる点が印象的です。
Shervin Khodabandeh: 単なるコミュニケーションツールを超えて、組織の知識基盤としての役割を果たしていることが重要です。特に、チーム間や部門間での情報共有と協業の促進において、Slackは重要な役割を果たしています。
このように、Slackは基本的なメッセージング機能から、組織全体の知識管理と協業を支援する包括的なプラットフォームへと進化を遂げています。特に外部との連携機能は、現代のビジネス環境において重要な役割を果たしています。
1.2. 10,000以上のAIパワードツールの統合実績
Jackie Rocka: 私たちのプラットフォームには、現在10,000以上のAIパワードツールが統合されています。これらのツールは主に2つのカテゴリーに分類されます。一つは組織専用に開発された非公開のAIツールで、もう一つは誰でもダウンロード可能な公開AIツールです。コラボレーションプラットフォームとしての特性を活かし、多くのサードパーティ開発者がSlackをAIツールの展開基盤として選択しています。
Sam Ransbotham: この数の多さは印象的です。AIツールの統合数は、Slackが単なるメッセージングツールから、より包括的な協業プラットフォームへと進化していることを示しています。特に興味深いのは、これらのツールの多くが組織固有のニーズに対応できる点です。
Shervin Khodabandeh: 公開・非公開の両方のツールを提供することで、組織特有の要件と一般的なニーズの両方に対応できる柔軟性を持っています。これは、今日のビジネス環境において重要な特徴だと考えています。
このように、Slackは幅広いAIツールの統合を通じて、ユーザーのニーズに応える多様な機能を提供しています。特に、プライベートな組織固有のツールと公開ツールの両方をサポートすることで、より包括的なプラットフォームとしての価値を高めています。
1.3. 既存のAI/ML機能の活用状況
Jackie Rocka: 私たちは長年にわたり、AIと機械学習を様々な形で活用してきました。例えば、検索機能やチャンネル推奨システムには、すでに機械学習が組み込まれています。Chat GPTなどの最新のジェネレーティブAIの登場以前から、これらの基盤的な機械学習機能は私たちのプラットフォームの重要な部分でした。
特に私が育休から復帰した際、Chat GPTの急速な進化を目の当たりにし、これらの新しい技術を活用して、長年取り組んできたユーザーの課題に対して新しいアプローチができるのではないかと考えました。ただし、私たちは技術主導ではなく、常にユーザーの課題解決を出発点としています。
Sam Ransbotham: SlackのAI/ML機能の特徴的な点は、基盤技術として長年培われてきた点です。特に検索機能の進化は印象的で、単純なキーワードマッチングを超えた、より文脈を理解した検索が可能になっています。
Shervin Khodabandeh: チャンネル推奨システムの仕組みは、ユーザーの行動パターンを学習し、より関連性の高い提案を可能にしています。これは、機械学習の実用的な応用例として興味深いものです。
このように、Slackは新しいジェネレーティブAI技術の採用以前から、実用的なAI/ML機能を着実に実装し、進化させてきました。これらの既存機能は、現在の新しいAI機能の基盤となっています。
2. Slack AIの主要機能と開発背景
2.1. チャンネルリキャップと要約機能の導入
Jackie Rocka: 現在提供している機能の中で、特に重要なものの一つがチャンネルリキャップと要約機能です。これは、ユーザーが1時間でも1日でも、あるいは休暇から戻ってきた際に感じる会話の追跡の困難さを解決するために開発しました。この機能では、ユーザーが必要に応じて会話内容を要約することができ、さらに重要な点として、元の会話内容に戻って詳細を確認することも可能です。
特に印象的な使用事例として、技術的なインシデント対応があります。例えば、システムダウンや問題が発生した際、深夜に呼び出された担当者が状況を素早く把握する必要があります。この場合、それまでの会話履歴を一から読む代わりに、要約機能を使用することで、数分かかっていた状況把握が即座に可能となります。さらに、インシデント終了後には原因と解決策の要約を得ることもできます。
Sam Ransbotham: この機能は、特にインボックスゼロ派のユーザーにとって画期的だと感じています。従来のSlackでは、全ての通知をクリアしようとすると100%の注意を要しましたが、要約機能によってこの課題が大きく改善されています。
Shervin Khodabandeh: 要約機能の重要な点は、単なる会話の要約だけでなく、その文脈や重要性を理解した上で情報を提供できることです。特に、インシデント対応のような時間が重要な場面での有用性は注目に値します。
このように、チャンネルリキャップと要約機能は、日常的な業務からクリティカルな状況まで、幅広い場面で効果を発揮しています。特に、情報過多の現代のワークスペースにおいて、効率的な情報把握と意思決定をサポートする重要なツールとなっています。
2.2. 検索回答機能の実装
Jackie Rocka: 検索回答機能は、特に長期間Slackを使用している企業において重要な価値を提供しています。Slack内には、プロジェクトに関する会話、人々の知見、トピックに関する議論、さらには会社のポリシーまで、膨大な知識が蓄積されています。私たちは、この豊富な知識をより効果的に活用できるようにするため、検索回答機能を実装しました。
例えば、「Project Gizmoって何?」といった単純な質問を、同僚の作業を中断することなく、Slack AIに直接尋ねることができます。また、新入社員が会社特有の用語や略語について理解を深めたい場合も、上司に32の質問をするのではなく、Slack AIを信頼できる相談相手として活用できます。
Sam Ransbotham: 検索機能の革新的な点は、単なるキーワード検索を超えて、文脈を理解した回答を提供できることです。特に、組織固有の知識やノウハウの継承という観点で、この機能は非常に重要だと感じています。
Shervin Khodabandeh: 特に興味深いのは、この機能が組織の暗黙知を形式知化する役割を果たしている点です。会議中に出てきた用語や概念について、即座に理解を深められる仕組みは、組織の効率性向上に大きく貢献しています。
このように、検索回答機能は単なる情報検索ツールを超えて、組織の知識管理とナレッジシェアを支援する重要な機能として位置づけられています。特に、新入社員のオンボーディングや、組織全体の知識の民主化において重要な役割を果たしています。
2.3. 人間中心(Human-in-the-loop)のアプローチ
Jackie Rocka: 私たちは、AIの実装において常にヒューマンインザループの原則を重視しています。Slackは職場での重要なコミュニケーションの場であり、プライベートな会話も多く含まれるため、ユーザーが常に制御できる状態を維持することが極めて重要です。そのため、私たちのAI機能は、ユーザーの承認なしに自動的にメッセージを作成したり投稿したりすることはありません。全ての体験は、ユーザーが状況に応じて選択できる形で提供されています。
Sam Ransbotham: この人間中心のアプローチは特に印象的です。AIが自動的に介入するのではなく、ユーザーが必要とする момент に適切な支援を提供する形は、ユーザーの自律性を尊重する上で重要だと感じています。
Shervin Khodabandeh: 個人的な懸念として、将来的にAIがテキストを生成し、誰が書いたメッセージなのか分からなくなる可能性について指摘したいと思います。しかし、Slackの現在のアプローチは、そうした懸念に適切に対応していると感じます。
Jackie Rocka: 私たちの経験から、体験はとても状況依存的で誘導的である必要があります。例えば、ユーザーが完全なコントロールを持ち、メッセージの送信や投稿の判断を行えるようにすることで、職場での信頼性とプライバシーを確保しています。これは特に、企業環境において重要な要素となっています。現在提供している機能や今後開発する機能においても、この原則は変わることはありません。
このように、私たちのAI実装は、技術の可能性を追求しながらも、常にユーザーの自律性とプライバシーを最優先に考えて設計されています。これは、職場のコミュニケーションツールとしての信頼性を維持する上で不可欠な要素となっています。
3. 製品開発の原則と実践
3.1. "Don't make me think"原則の適用
Jackie Rocka: 私たちの製品開発における中核的な原則の一つが"Don't make me think"です。これは特にジェネレーティブAI機能の実装において重要な指針となっています。具体的には、ユーザーにプロンプトエンジニアリングの知識や専門的なトレーニングを要求しないことを意味します。
例えば、チャンネルが非常に活発で多くの会話が行われている場合、AIが自動的にその状況を認識し、要約機能を提案します。ユーザーは複雑なプロンプトを考える必要はなく、状況に応じて適切な機能が提供されます。この設計により、ユーザーは本来の業務に集中できる環境を維持できています。
Sam Ransbotham: この原則の適用は非常に効果的だと感じています。特に、技術的な知識を持たないユーザーでも直感的に利用できる点が印象的です。私自身、inbox zeroを目指すユーザーとして、この機能の使いやすさを実感しています。
Shervin Khodabandeh: 状況に応じた機能提供という観点は、特に重要です。ユーザーが考えることなく、必要なタイミングで適切な支援を受けられる設計は、AI実装の理想的なアプローチだと考えています。
このように、"Don't make me think"原則は、高度な技術を簡単に利用可能にすることで、ユーザー体験を大きく向上させています。特に、状況依存的な機能提供により、ユーザーは複雑な操作や設定を意識することなく、必要な支援を受けることができます。
3.2. プロトタイピングアプローチ
Jackie Rocka: 私たちのプロトタイピングアプローチは、精度、関連性、そしてレイテンシーを重視しています。ジェネレーティブAIの性質上、100%の精度を得ることは困難ですが、ユーザー体験に影響を与えない高い品質基準を設定しています。私たちは数ヶ月間にわたって、これらの要素を最適化するためのプロトタイピングを実施してきました。特に、応答の正確性と関連性を確保しながら、レイテンシーを最小限に抑えることに注力しています。
Sam Ransbotham: この段階的なアプローチは印象的です。特に興味深いのは、プロトタイピングの過程で得られたフィードバックを即座に反映し、機能の改善を図っている点です。これは、理論的な完璧さを追求するのではなく、実用的な価値を重視する姿勢の表れだと感じています。
Shervin Khodabandeh: プロトタイピングにおける実験的な機能の検証プロセスは、特に重要です。ユーザーの実際の使用環境での検証を通じて、理論的には素晴らしい機能でも、実際の使用では異なる結果が得られることがあります。
Jackie Rocka: 私たちは、高い確信を持てる機能から順次リリースしていく方針を採用しています。まだ改善の余地がある機能については、さらなる洗練が必要だと判断し、継続的な改善を行っています。このアプローチにより、ユーザーに対して信頼性の高い機能を提供しながら、同時に新しい可能性も探求できています。
このように、プロトタイピングを通じた実証的なアプローチは、理論と実践のバランスを取りながら、実用的な価値の高い機能を開発する上で重要な役割を果たしています。
3.3. 市場投入タイミングと品質のバランス
Jackie Rocka: プロダクトリーダーとして、ジェネレーティブAI分野における最大の課題の一つは、市場投入のタイミングと品質のバランスを取ることです。私たちは、100%の完璧さを追求することと、ユーザーに早期に価値を提供することの間で、常に慎重な判断を迫られています。個人的には、常に完璧を目指したい気持ちがありますが、同時にユーザーへの価値提供を遅らせることのデメリットも認識しています。
そのため、私たちは「十分な品質が確保できた機能から順次リリースする」というアプローチを採用しています。これにより、ユーザーは早期に機能の恩恵を受けることができ、私たちは実際の使用状況に基づいて継続的な改善を行うことができます。すでにリリースした機能についても、引き続き改善を重ねています。
Sam Ransbotham: このバランスの取り方は非常に重要です。特に、AIのような急速に進化する分野では、完璧を追求するあまり、市場投入が遅れることのリスクが大きいと感じています。
Shervin Khodabandeh: ユーザー価値の早期提供を重視しつつ、継続的な改善を約束するこのアプローチは、現代のソフトウェア開発において理想的な方法だと考えています。特に、ジェネレーティブAIのような新しい技術領域では、実際のユーザーフィードバックに基づく改善が不可欠です。
このように、市場投入のタイミングと品質のバランスは、慎重な判断と継続的な改善プロセスによって維持されています。特に、ユーザー価値の早期提供を重視しながら、品質の向上も並行して進めていく approach が、急速に進化するAI分野において効果的であることが実証されています。
4. ユーザー体験の優先順位付け
4.1. Tier 1とTier 2チャンネルの区分け
Jackie Rocka: 私たちは、メッセージやチャンネルを異なる優先度で扱う階層的なアプローチを採用しています。現在のSlackでは、全てのメッセージが同等の優先度で扱われています。つまり、CEOとのチャンネルでのメッセージも、同僚との社交的な会話も、同じ重要度として表示されます。
チャンネルセクション機能は、これらを整理するための優れた機能ですが、私たちはさらに踏み込んで、Tier 1とTier 2という区分けを導入しました。Tier 1チャンネルは、全てのメッセージを読む必要がある重要な会話が行われる場所です。育休などの長期不在時を除き、通常は要約機能を適用しません。一方、Tier 2チャンネルは、全体の流れを把握していれば良い会話が行われる場所で、要約機能を積極的に活用します。
Sam Ransbotham: この区分けアプローチは、特にinbox zeroを目指すユーザーにとって画期的です。優先度に基づいた情報管理により、重要な情報を見逃すことなく、効率的な情報処理が可能になっています。
Shervin Khodabandeh: 特に印象的なのは、各チャンネルの性質に応じて適切な情報提供方法を変えている点です。これにより、ユーザーは状況に応じて最適な方法で情報を消化できます。
このように、チャンネルの階層化とそれに応じた機能の提供により、ユーザーは重要度に応じた適切な情報管理が可能になっています。これは、増加する情報量に対する効果的な解決策となっています。
4.2. 情報消費パターンの変化への対応
Jackie Rocka: 私個人としても、Slack AIの機能導入後、情報の消費方法が大きく変化しました。従来のように全てのメッセージを逐一確認する必要がなくなり、より効率的な情報処理が可能になっています。特に、プロトタイプ段階の機能を使用できる立場にいる私にとって、この変化は顕著です。
私たちは、メッセージやチャンネルを異なる層で考えるようになりました。例えば、参加しているチャンネルの中には、全てのメッセージを読む必要があるTier 1のものもあれば、要約で十分なTier 2のチャンネルもあります。このような階層化により、ユーザーは必要な情報に集中でき、情報過多による疲労を軽減できています。
Sam Ransbotham: 情報消費パターンの変化は、特にinbox zeroを目指すユーザーにとって革新的です。従来は全ての通知を確認する必要がありましたが、新しいアプローチにより、効率的な情報管理が可能になりました。
Shervin Khodabandeh: 興味深いのは、AIによる情報整理が、ユーザーの行動パターンそのものを変えている点です。これは単なる効率化を超えて、働き方の質的な変化をもたらしています。
Jackie Rocka: 当初は情報を見落とすことへの懸念もありましたが、AIによる適切な情報整理と要約機能により、むしろ重要な情報への注目度が高まっています。ユーザーは必要な情報に素早くアクセスでき、より深い理解と効果的な意思決定が可能になっています。これは、現代の情報過多な環境における新しい働き方のモデルになると考えています。
このように、AIの導入は単なる機能追加ではなく、情報との関わり方そのものを変革し、より効果的なワークスタイルを実現することに貢献しています。
4.3. 組織知識の保持と活用方法
Jackie Rocka: Slackの創設当初からの重要な理念の一つが、「Searchable Log of All Communication and Knowledge」(全てのコミュニケーションと知識の検索可能なログ)でした。これは、Slackという名前の由来でもあります。私たちは、メールとは異なるアプローチを採用しています。メールでは従業員が退職すると、その人の知識も同時に失われがちですが、Slackでは公開チャンネルでの会話が組織の知識として永続的に保持されます。
たとえ投稿者が組織を去ったとしても、プロジェクトに関する知見や、人々との関わり、過去の経緯などの情報は、組織の資産として残り続けます。これにより、新入社員は過去の文脈を理解し、プロジェクトの経緯を把握することができます。
Sam Ransbotham: この永続的な知識保持の仕組みは、組織の継続的な学習において極めて重要です。特に、暗黙知を形式知化する点で、大きな価値があると考えています。
Shervin Khodabandeh: 組織の知識移転において特筆すべきは、単なる情報の保存を超えて、文脈や関係性も含めた包括的な知識の継承が可能な点です。これは、従来の文書管理システムとは一線を画する特徴です。
このように、Slackは組織の知識管理において、単なるコミュニケーションツールを超えた役割を果たしています。特に、人材の流動性が高まる現代において、組織知識の継続的な蓄積と活用を可能にする基盤として機能しています。
5. 技術的実装と課題
5.1. プロンプト最適化の取り組み
Jackie Rocka: 私たちは、ジェネレーティブAIの実装において、プロンプトの最適化に多くの時間を費やしています。ユーザーに代わって最適なプロンプトを作成することで、必要な詳細度の情報を得られるよう努めています。特に重要なのは、確実性の高い情報のみを提供することです。不確かな情報については、回答を控えめにする、もしくは提供しないという判断をしています。
また、私たちは必ず情報源への参照機能を実装しています。ユーザーは提供された情報の出典を容易に確認でき、必要に応じて詳細な情報にアクセスすることができます。これにより、AIの回答の信頼性を担保し、ユーザーが必要に応じて深堀りできる環境を整えています。
Sam Ransbotham: プロンプト最適化の取り組みは、特にユーザーエクスペリエンスの観点から重要です。適切な詳細度を維持しながら、信頼性の高い情報を提供するバランスは印象的です。
Shervin Khodabandeh: 特に興味深いのは、確実性の判断基準を明確に設定している点です。AIの回答に対する信頼性を確保することは、ビジネスツールとして極めて重要な要素です。
このように、プロンプト最適化は、技術的な課題であると同時に、ユーザー体験の質を決定づける重要な要素となっています。私たちは、確実性の高い情報提供と使いやすさのバランスを常に追求しています。
5.2. データセキュリティとプライバシーの確保
Jackie Rocka: 私たちはAIの実装において、データセキュリティとプライバシーの確保を最優先事項としています。特に重要な点として、ユーザーのSlackデータが決してSlackの環境外に出ることはありません。全てのデータは私たちのバーチャルプライベートクラウド(VPC)内で処理され、保持されています。
この設計により、企業の機密性の高い情報が外部に漏洩するリスクを排除しています。さらに、既存のSlackが持つコンプライアンスや企業グレードのセキュリティ機能を、AIの実装後も完全に維持しています。これは、セキュリティを企業の最重要課題と位置付ける私たちの姿勢を反映しています。
Sam Ransbotham: このセキュリティアプローチは、特に企業ユーザーにとって重要です。VPC内でのデータ処理という明確な境界設定は、データセキュリティの観点から非常に説得力があります。
Shervin Khodabandeh: エンタープライズセキュリティの維持は、特にAIツールの導入において重要な課題です。Slackのアプローチは、この課題に対する明確な解決策を示しています。
このように、私たちは技術革新を進めながらも、セキュリティとプライバシーを決して妥協することなく、むしろそれらを製品設計の中核に据えています。これにより、企業ユーザーは安心してAI機能を活用することができます。
5.3. Salesforceとの連携による AI研究
Jackie Rocka: 私たちは、SalesforceのAIリサーチチームとの協業を通じて、AIの実装を進めています。この分野は急速に変化しており、私たちは様々な選択肢に対してオープンな姿勢を維持しています。具体的には、事前学習済みの基盤モデルの評価、オープンソースモデルの検討、そしてSalesforceが持つ優れたAI研究チームとの連携を行っています。
特に、この技術領域の変化の速さを考慮すると、単一の技術に依存せず、柔軟な選択肢を維持することが重要だと考えています。今後1年後にどのような技術が主流になるかを予測することは困難ですが、私たちは常にユーザーにとって最適な選択ができるよう、技術選択の柔軟性を保持しています。
Sam Ransbotham: SalesforceのAI研究チームとの協業は、特にエンタープライズ領域での活用において大きな強みとなっています。技術選択の柔軟性を維持しながら、企業ユースケースに特化した開発が可能な点が印象的です。
Shervin Khodabandeh: 将来の技術進化に対する柔軟な対応姿勢は、急速に発展するAI分野において極めて重要です。特に、オープンソースモデルの評価と独自モデルの開発のバランスは、今後の展開において鍵となるでしょう。
このように、私たちは技術選択において柔軟性を保ちながら、Salesforceの強みを活かした研究開発を進めています。これにより、急速に進化するAI技術に対して、常に最適な対応が可能となっています。
6. 組織と人材
6.1. プロトタイピングチームの形成過程
Jackie Rocka: 私たちのAIチームは、非常にユニークな形で誕生しました。当初は、一部のメンバーが空き時間、主に夜間や週末を使って自発的にプロトタイプの開発を始めました。これらのメンバーは、ユーザーの長年の課題に対して、新しい技術でアプローチできるのではないかという強い思いを持っていました。
プロトタイピングの成果が社内で評価され、内部および外部からのフィードバックを得るにつれて、より持続可能なチーム体制の必要性が明確になりました。その結果、正式なチーム組織が形成され、必要な人材の採用も開始しました。初期メンバーの情熱と献身的な取り組みが、現在のチームの文化と方向性の基礎となっています。
Sam Ransbotham: このボトムアップな組織形成のアプローチは印象的です。特に、実際のユーザー問題に対する深い理解を持ったメンバーから始まったという点が、製品開発の方向性に大きな影響を与えていると感じます。
Shervin Khodabandeh: 自発的な取り組みから正式なチーム化へのプロセスは、組織としての柔軟性と革新への意欲を示しています。これは、AI開発において重要な要素です。
このように、私たちのチームは情熱的な個人の自発的な取り組みから始まり、組織的なサポートを得て、より体系的な開発体制へと進化してきました。この過程で培われた問題解決への熱意は、現在のチームの重要な特徴となっています。
6.2. クロスファンクショナルチームの構築
Jackie Rocka: AIチームの構築にあたり、私たちは多様な専門性を持つクロスファンクショナルチームを形成しました。エンジニアリングチームを中心としながらも、機械学習の専門家、デザインチーム、そしてデータサイエンティストなど、様々な専門性を持つメンバーを統合しています。
特にデータサイエンスの役割は、AIプロジェクトの成功において極めて重要です。ユーザー体験の設計においては、デザインチームが重要な役割を果たしており、技術的な可能性と使いやすさのバランスを取る上で不可欠な存在となっています。
Sam Ransbotham: このようなクロスファンクショナルな体制は、特にAIプロジェクトにおいて重要です。技術面だけでなく、ユーザー体験や実用性を総合的に考慮できる点が印象的です。
Shervin Khodabandeh: 複数の専門性を持つチームが協働することで、より包括的な視点からの製品開発が可能になっています。これは、AI実装における複雑な課題に対応する上で重要な強みとなっています。
Jackie Rocka: 私たちは、各専門分野のチームが対等な立場で協働できる環境を整えています。これにより、技術的な実現可能性、ユーザビリティ、データの価値、そしてビジネス目標の全てを考慮した製品開発が可能となっています。チーム間のシームレスな連携により、より包括的で効果的なソリューションを生み出すことができています。
6.3. 必要なスキルセットの多様性
Jackie Rocka: 私たちのチームでは、技術的な専門性に加えて、幅広いスキルセットを重視しています。AIの実装には高度な技術スキルが必要ですが、それだけでは十分ではありません。特に重要なのは、ビジネスの文脈を理解し、ユーザーの課題を深く理解する能力です。
私自身の経歴を振り返ると、Bainでのマネジメントコンサルタント、YouTubeでのプロダクトマネージャー、そしてYouTube TVの立ち上げチームでの経験など、多様な背景が現在の役割に活きています。プロダクトマネジメントという職種自体、私が大学時代や20代の頃には知らなかったものですが、様々な経験を通じて見出した道でした。
Sam Ransbotham: このような多様なバックグラウンドを持つチーム構成は、特にAIプロジェクトにおいて重要です。技術的な実装能力とビジネス価値の創出をバランスよく進められる点が印象的です。
Shervin Khodabandeh: コミュニケーション能力の重要性も見逃せません。特に、技術的な内容を非技術者に分かりやすく説明する能力や、異なる専門性を持つチーム間の橋渡しができる能力が重要です。
このように、私たちは単なる技術的なスキルセットだけでなく、ビジネス理解力やコミュニケーション能力を含む総合的なスキルセットを重視しています。これは、実用的で価値のあるAIソリューションを提供する上で不可欠な要素となっています。
7. 今後の展望と課題
7.1. AIモデル選択の柔軟性維持
Jackie Rocka: 技術領域は急速に変化しており、私たちは様々な選択肢に対してオープンな姿勢を維持しています。事前学習済みの基盤モデル、オープンソースモデル、独自のカスタムモデルなど、複数のアプローチを並行して評価しています。今後1年後にどのような技術が主流になるかを正確に予測することは難しいため、この柔軟性の維持は極めて重要です。
特に、技術の進化に合わせて、私たちのアプローチも進化させていく必要があります。現時点では確実なことを言えませんが、常に新しい可能性を探索し、ユーザーにとって最適な選択ができるよう準備を整えています。
Sam Ransbotham: このような柔軟なアプローチは賢明です。特に、AIの分野では技術の進歩が非常に速く、特定の技術に固執することはリスクが高いと感じています。
Shervin Khodabandeh: モデル選択の柔軟性を維持することは、長期的な競争力を維持する上で重要です。特に、企業向けのソリューションとして、安定性と革新性のバランスを取る必要があります。
Jackie Rocka: 私たちは、現在の技術スタックに縛られることなく、常により良い選択肢を探求し続けています。これは、ユーザーニーズの変化や新しい技術の出現に迅速に対応するための重要な戦略となっています。
7.2. ユーザーフィードバックに基づく改善
Jackie Rocka: 私たちは、ユーザーフィードバックを製品開発の中核に位置づけています。特に、ジェネレーティブAIの分野では、ユーザーの実際の使用体験から得られる洞察が非常に重要です。私たちは内部と外部の両方からフィードバックを継続的に収集し、これらの知見を製品の改善に活かしています。
特に重要なのは、ユーザーニーズの優先順位付けです。私たちは常にユーザーが直面している課題から出発し、技術ありきではなく、問題解決を起点とした開発アプローチを取っています。これにより、実際のユーザー価値に直結する機能開発が可能となっています。
Sam Ransbotham: このアプローチは特に効果的だと感じています。ユーザーフィードバックを基にした改善サイクルにより、理論的な可能性だけでなく、実践的な価値を提供できています。
Shervin Khodabandeh: 継続的な改善プロセスの確立は、特にAIプロジェクトにおいて重要です。ユーザーの実際の使用パターンとニーズを理解することで、より効果的な機能開発が可能になっています。
Jackie Rocka: 私たちの改善サイクルは、プロトタイピング、フィードバック収集、分析、改善という一連のプロセスとして確立されています。このサイクルを通じて、ユーザーニーズにより密接に応える製品開発を実現しています。
7.3. 物理的タスク自動化への期待
Jackie Rocka: 私は新しい母親として、AIの将来的な可能性について、特に物理的なタスクの自動化に大きな期待を寄せています。現在のAIは主に情報処理やデジタルタスクの効率化に焦点を当てていますが、将来的にはロボティクスとの統合により、より幅広い業務効率化が実現できると考えています。
特に、日常的な物理的タスクの自動化が実現されれば、私たち個人の時間の使い方が大きく変わる可能性があります。これにより、家族との時間や仕事により多くの時間を割り当てることができるようになるでしょう。
Sam Ransbotham: この視点は興味深いですね。現在のAIの課題の一つは、デジタル領域に限定されていることですが、物理的なタスクへの展開は、新たな可能性を開くと考えています。
Shervin Khodabandeh: AIとロボティクスの統合は、業務効率化の新しいフロンティアになる可能性があります。特に、反復的な物理タスクの自動化は、人々がより創造的な活動に集中できる環境を作り出すでしょう。
Jackie Rocka: このような展望は、単なる技術的な進歩以上の意味を持っています。それは、人々の生活の質を本質的に向上させ、より価値のある活動に時間を使えるようにすることです。私たちは、このような未来に向けて、技術開発を進めていきたいと考えています。
8. 実験から得られた知見
8.1. パターナルリーブ復帰後の新しい視点
Jackie Rocka: 私は育児休暇から復帰した際、AIの世界が大きく進化していることを実感しました。特にChat GPTの登場とその影響は、育休中に起きた大きな変化でした。この離職期間は、ironicallyにも、新しい視点で製品開発を見直す貴重な機会となりました。
日々の開発業務から一度離れることで、長年取り組んできたユーザーの課題に対して、新しい技術でアプローチできる可能性を客観的に見出すことができました。特に、これまで技術的な制約により解決が難しいと考えていた課題に対して、新しいAI技術を活用した解決策を見出すことができました。
Sam Ransbotham: このような一時的な離職が、かえって新鮮な視点をもたらすケースは興味深いですね。特にAIのような急速に進化する分野では、このような視点の転換が重要だと感じています。
Shervin Khodabandeh: 育休からの復帰という経験が、製品開発に新しい視点をもたらした点は注目に値します。特に、ユーザーニーズと新技術の接点を見出す上で、この経験が重要な役割を果たしています。
Jackie Rocka: 復帰後の製品開発では、この新しい視点を活かし、よりユーザー中心のアプローチを取ることができました。技術の進化を追うだけでなく、実際のユーザーの課題解決に焦点を当てた開発を進めることで、より価値のある製品を作れるようになったと感じています。
8.2. ユーザー問題解決におけるAIの効果
Jackie Rocka: 私たちの導入したAI機能の効果は、具体的な問題解決の場面で顕著に現れています。例えば、技術インシデント発生時の対応では、担当者が深夜に呼び出された際でも、それまでの経緯を数分で把握できるようになりました。また、新入社員の知識獲得や、大量の会話履歴からの重要情報の抽出など、従来は時間がかかっていた作業が大幅に効率化されています。
私自身、AIを活用した機能のプロトタイプ段階から利用していますが、情報の消費パターンが劇的に変化したことを実感しています。以前は全ての通知を確認する必要がありましたが、現在は重要度に応じた効率的な情報処理が可能になっています。
Sam Ransbotham: 特にinbox zeroを目指すユーザーにとって、この変化は革新的です。情報の整理と優先順位付けが自動化されることで、ユーザーの生産性が大きく向上していることが観察されています。
Shervin Khodabandeh: 興味深いのは、当初懸念されていた情報の見落としが、むしろAIによって減少している点です。適切な要約と重要度の判断により、むしろ重要な情報への注目度が高まっています。
Jackie Rocka: これらの効果は、単なる時間節約以上の価値をもたらしています。ユーザーがより創造的な作業に集中できるようになり、意思決定の質も向上しています。特に、組織の知識共有と学習の継続性という観点で、想定以上の効果が得られています。
8.3. 技術と使用価値のバランス
Jackie Rocka: 私たちの製品開発アプローチにおいて、最も重視しているのは技術主導ではなく、問題解決主導の姿勢です。確かにジェネレーティブAIなどの新しい技術は魅力的ですが、私たちはまず「ユーザーが直面している具体的な課題は何か」という視点から開発を始めています。技術はその問題を解決するための手段であり、目的ではありません。
例えば、私たちがチャンネルリキャップや要約機能を開発したのは、単にAI技術を活用したかったからではなく、情報過多による生産性低下という具体的な課題に対する解決策としてでした。
Sam Ransbotham: このアプローチは、特にエンタープライズソフトウェアにおいて重要です。技術の新規性よりも、実際の業務における価値創出を重視する姿勢は、持続可能な製品開発につながっていると感じています。
Shervin Khodabandeh: 結果的に、この問題解決主導のアプローチが、より実用的で価値のある製品開発につながっています。特に、ユーザーの実際の使用文脈を理解した上での機能開発は、高い実用性を実現しています。
Jackie Rocka: 将来的な展開においても、この基本姿勢は変わりません。技術は進化し続けますが、私たちは常にユーザーの課題解決を起点に、新技術の採用を検討していきます。これにより、真に価値のある製品開発を継続できると確信しています。