※本記事は、AAAI 2024チュートリアル「On the Role of Large Language Models in Planning」の内容を基に作成されています。このチュートリアルは YouTube で公開されており、Part 2の詳細情報は本ページ最下部にあるYoutube動画でご覧いただけます。本記事では、チュートリアルの内容を要約しており、原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。
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1. LLMを活用した計画アプローチ
LLMを計画立案に活用する方法を探究する中で、私たちはいくつかの重要なアプローチを発見しました。これらのアプローチは、LLMの限界を認識しつつ、その強みを最大限に活かすことを目的としています。
1.1 外部プランナーとの連携
LLMと外部プランナーを組み合わせることで、LLMの生成能力と従来のプランナーの論理的厳密さを両立させることができます。
LPGプランナーとの統合事例
私たちは、LLMとLPG(Local Search for Planning Graphs)プランナーを統合した実験を行いました。この実験では、LLMが生成した計画をLPGプランナーに入力し、LPGがその計画を修正して正確な計画に変換するというアプローチを採用しました。
結果は興味深いものでした。LLMが生成した計画を初期解としてLPGに与えた場合、LPGが完全にランダムな初期状態から計画を生成する場合よりも、より速く正確な計画を得ることができました。これは、LLMの出力が、完全に正確ではないにしろ、有用な情報を含んでいることを示しています。
しかし、この方法には問題もあります。LPGプランナーを呼び出すには、PDDLという特定の形式が必要です。また、LPGプランナーには様々な制約があり、扱える問題の種類が限られてしまいます。
1.2 外部検証器との連携
LLMの出力を検証するために、外部の検証器を活用することも重要です。
VAL検証システムの活用
私たちの研究では、VAL(Validator for PDDL)システムを活用しました。VALは、PDDL形式で記述された計画の正確性を検証するツールです。
実験では、LLMに計画を生成させ、その計画をVALで検証するプロセスを繰り返し行いました。この方法を用いることで、LLMの生成能力とVALの厳密な検証能力を組み合わせ、正確な計画を効率的に生成することができました。
具体的には、自動化されたバックプロンプティングを外部検証器と組み合わせることで、性能を大幅に向上させることができました。例えば、82%という高い正解率を達成しました。ただし、これは15回の推測を許容した場合の結果です。
しかし、この方法にも課題があります。VALはPDDL形式の計画しか検証できないため、LLMが生成した自然言語の計画をPDDL形式に変換する必要があります。
1.3 人間のプランナーとLLMの協働
LLMと人間のプランナーが協働することで、より効果的な計画立案が可能になります。しかし、この方法には「クレバーハンズ効果」という問題があります。これは、人間が無意識のうちにLLMに答えを与えてしまう現象です。
例えば、占い師や占い用オウムが、人から情報を引き出し、それを答えとして返すようなものです。LLMにも同様の効果があり、人間が知っている答えを無意識のうちにプロンプトに含めてしまう可能性があります。
一方で、人間が答えを知らない場合、この方法は全く効果がありません。したがって、人間とLLMの協働には慎重なアプローチが必要です。
1.4 行動と計画の区別
LLMを計画立案に活用する際に重要なのは、行動と計画を明確に区別することです。LLMは外部のアクションを呼び出すことができますが、これは必ずしも計画立案を意味するものではありません。
例えば、AutoGPTやLangChainなどのツールは、LLMに外部アクションを実行させることができます。しかし、これらのツールが実際に計画立案を行っているわけではありません。むしろ、これらはウェブサービスのオーケストレーションに近いものです。
計画立案と行動の実行は異なる概念であり、LLMが行動を実行できるからといって、必ずしも計画立案ができるわけではありません。この区別を理解することが、LLMを計画立案に活用する上で非常に重要です。
LLMを計画立案に活用する際には、外部プランナーや検証器との連携、人間との協働、そして行動と計画の明確な区別が重要です。これらの方法を適切に組み合わせることで、LLMの強みを最大限に活かしつつ、その限界を補完することができます。
2. LLMを活用した知識獲得と表現
LLMを計画立案に活用する上で、知識獲得と表現は非常に重要な側面です。私たちの研究では、LLMを用いてPDDLモデルを自動生成したり、不完全なモデルから計画を生成したり、さらにはコードとしてポリシーを表現するアプローチなど、様々な方法を探究してきました。
2.1 PDDLモデルの自動生成
PDDLモデルの自動生成は、LLMの能力を活用して計画立案の前段階を効率化する重要な取り組みです。最近のNeurIPSで発表された論文では、LLMを使ってドメインモデル自体を推測する方法を提案しています。これは、計画だけでなく、計画を行うためのドメインモデルもLLMから取得するアプローチです。
このアプローチでは、LLMに自然言語でドメインの説明を与え、それをPDDL形式に変換させます。LLMは近似的な知識源として機能し、ドメインモデルの大部分を推測することができます。人間の専門家は、LLMが生成したモデルを確認し、必要に応じて修正を加えることで、モデル作成の時間を大幅に短縮できます。
しかし、このアプローチにも課題があります。LLMが生成したモデルは必ずしも完全に正確ではありません。そのため、人間の専門家による確認と修正が不可欠です。また、複雑なドメインでは、LLMが重要な詳細を見落とす可能性もあります。
2.2 不完全モデルからの計画生成
不完全モデルからの計画生成は、現実世界の多くの問題に対応するための重要なアプローチです。2022年のICML論文で、私たちはこのアプローチを詳細に説明しました。
この研究では、不完全または誤ったシンボリックモデルを使用して、下流の深層強化学習を大幅に加速できることを示しました。具体的には、モデルから得られるランドマーク(サブゴール)を使用して、深層強化学習の探索を誘導します。
このアプローチの利点は、完全なモデルが利用できない状況下でも計画立案を開始できることです。特に、時間的制約がある場合や、ドメインの一部が不明確な場合に有用です。
しかし、このアプローチにも課題があります。不完全なモデルに基づいて生成された計画は、必ずしも最適ではない可能性があります。また、モデルの誤りが計画の失敗につながる可能性もあります。
2.3 コードとしてのポリシー(Code as Policies)アプローチ
「Code as Policies」アプローチは、計画をプログラミング言語で表現する革新的な方法です。このアプローチでは、LLMがHTNスタイルの階層的タスク分解を推測し、それをコードとして表現します。
例えば、LLMは特定のゴールを達成するためのPythonコードを生成することができます。このコードには、サブタスクを実行する関数や、タスクの実行順序を制御する構造が含まれます。
このアプローチの利点は、計画の柔軟性と実行可能性を高められることです。プログラミング言語を用いることで、より複雑な条件分岐や繰り返し処理を含む計画を表現できます。
しかし、重要な点は、LLMがHTNスタイルの階層的タスク分解を推測できるからといって、それが推論や計画立案を行っているわけではないということです。これは単に近似的な知識の検索であり、推論とは異なります。この区別を理解することが非常に重要です。
また、生成されたコードの品質と正確性を保証することも課題となります。コードが意図した通りに動作するかを確認するためには、人間による確認や、自動テストの実施が必要になります。
これらのアプローチはLLMの能力を活用して計画立案プロセスを改善する可能性を示しています。しかし、同時に、LLMの出力を無批判に受け入れることの危険性も示唆しています。LLMは強力なツールですが、その出力は常に検証が必要であり、人間の専門知識と組み合わせて使用することが重要です。今後の研究では、これらのアプローチをさらに洗練させ、より効果的で信頼性の高い計画立案システムの開発を目指していきたいと考えています。
3. LLMのスタイル評価能力
LLMの計画立案における能力を探究する中で、私たちはLLMのスタイル評価能力に注目しました。これは、生成された計画が人間にとって理解しやすいかどうか、あるいはロボットの動作が自然に見えるかどうかを評価する能力です。
3.1 人間にとって理解しやすい計画の評価
LLMは、計画の正確性を評価することは難しいですが、計画の「良さ」を評価することは得意としています。これは、LLMが大量のテキストデータから学習しているため、人間の好みや一般的な表現パターンを把握しているからだと考えられます。
例えば、STRIPSプランナーが生成した技術的には正しいが非効率的な計画を考えてみましょう。フェニックスからバンクーバーへの移動計画として、「自転車で0.5マイル、車で0.5マイル、ヒッチハイクで0.5マイル...」というような計画を立てる場合があります。これは技術的には正しいのですが、現実的ではありません。
LLMは、このような計画のスタイルを評価し、より現実的な代替案(例えば、直行便での移動)を提案することができます。これは、LLMが持つ広範な知識とパターン認識能力を活用した例です。
興味深いことに、スタイル批評家としてLLM自体を使用することも可能です。LLMは計画の正確性を評価することはできませんが、計画の「良さ」を評価することは得意としています。
3.2 ロボット動作の自然さの評価
ロボット動作の自然さの評価に関して、最近の研究では興味深い発見がありました。特に、Lindという研究者が行った研究に注目しています。
この研究では、GPT-4を使用して、ビデオ内の特定のアクションが問題があるかどうかを判断させました。例えば、ロボットが人間にナイフを手渡す場合を考えてみましょう。計画の正確性の観点からは、ナイフの刃を向ける方向は関係ありません。しかし、人間の視点からは、刃を自分に向けて手渡すのと、相手に向けて手渡すのでは大きな違いがあります。
LLMは、この種の評価を行うことができました。つまり、行動の技術的な正確さだけでなく、その行動が社会的に適切かどうかも評価できたのです。これは非常に興味深い発見です。
しかし、この能力にはまだ課題があります。例えば、LLMの評価の一貫性が問題となる場合があります。同じ動作に対して異なる評価を行うことがあり、これは評価の信頼性を低下させる可能性があります。
また、LLMがどのような基準で「自然さ」を判断しているのかを理解することは難しく、これは評価結果の解釈を困難にする可能性があります。
さらに、LLMの評価が人間の評価とどの程度一致するかについても、さらなる研究が必要です。現在のところ、多くの場合でLLMの評価は人間の評価と高い相関を示していますが、不一致が生じるケースもあります。
結論として、LLMのスタイル評価能力は、計画立案やロボット工学の分野に新たな可能性をもたらしています。しかし、この能力を実用的なシステムに統合するためには、さらなる研究と改良が必要です。特に、評価の一貫性や解釈可能性、人間の評価との一致度など、いくつかの課題に取り組む必要があります。
今後も、この分野の研究を進め、LLMの能力をより深く理解し、その応用範囲を拡大していきたいと思います。特に、LLMのスタイル評価能力を他の計画立案技術や人間の専門知識と組み合わせることで、より効果的で人間中心の計画立案システムを構築できる可能性があります。
4. LLMの形式変換能力
LLMの計画立案における能力を探究する中で、形式変換能力は非常に重要な側面の一つです。この能力は、自然言語と形式的な表現の間の変換を可能にし、計画立案プロセスを大きく支援する可能性があります。
4.1 自然言語から形式表現への変換
LLMは自然言語から形式表現への変換において驚くべき能力を示しています。この能力は、計画立案の初期段階で特に有用です。
2021年のCAPS(Conference on Automated Planning and Scheduling)で発表された我々の論文では、GPT-3を使用して自然言語のプランをPDDL形式に変換する実験について報告しました。この実験では、GPT-3が人間が書いた自然言語の計画説明をPDDL形式に変換する能力を評価しました。
結果は非常に興味深いものでした。GPT-3は、特別なトレーニングを受けていないにもかかわらず、多くの場合で正確にPDDL形式への変換を行うことができました。この能力は、これまで人間の専門家が手動で行っていた作業を大幅に効率化する可能性を示しています。
しかし、この変換能力はLLMだけの特性ではありません。実際、従来の自然言語処理技術でも同様の変換は可能でした。LLMの利点は、その柔軟性にあります。LLMは様々な入力形式に対応でき、出力も多様な形式で生成することができます。
4.2 問題仕様の改善と拡張
LLMのもう一つの興味深い能力は、問題仕様の改善と拡張です。実世界の問題は往々にして不完全または曖昧な形で提示されます。LLMは、その広範な知識ベースを活用して、このような不完全な問題仕様を改善したり、拡張したりすることができます。
例えば、ある計画問題の自然言語記述に重要な詳細が欠けている場合、LLMはその欠落を指摘し、追加すべき情報を提案することができます。また、問題の条件や制約が曖昧な場合、LLMはそれを明確化するための質問を生成したり、可能な解釈を提示したりすることができます。
この能力は、単に自然言語をPDDLに変換するだけでなく、より複雑な変換も可能にします。例えば、時間的な計画では因果リンクを示す必要があり、リソース使用を示す計画では常にリソースが利用可能であることを示す必要があります。LLMはこれらの異なる形式への変換を行うことができます。
しかし、ここで重要なのは、LLMが行う変換や拡張が常に正確であるとは限らないという点です。LLMの出力は常に人間の専門家によって確認され、必要に応じて修正される必要があります。
結論として、LLMの形式変換能力は計画立案プロセスを大きく改善する可能性を秘めています。しかし、その能力を最大限に活用するためには、人間の専門家との協働が不可欠です。今後も、LLMと人間の専門家が協力して問題を解決する新たな方法を探求していきたいと考えています。
5. 既存研究の再解釈
LLMを計画立案に活用する研究が進む中で、既存の研究アプローチを再解釈し、その本質を理解することが重要です。ここでは、ReAct、Tree of Thoughts、そしてLLMを世界モデルとして使用する手法について、私の見解を述べたいと思います。
5.1 ReAct
ReActは、LLMを用いて計画立案と実行を統合しようとするアプローチです。このアプローチの特徴は、Chain of Thought(CoT)プロンプティングを特定の種類の計画問題に適用していることです。
重要なのは、ReActが主に相互作用の少ない問題に適用されているということです。つまり、ある行動が他の行動に与える影響が比較的少ない問題に限定されています。例えば、ブロックワールドのような問題には適用されていません。ブロックワールドでは、ある行動(例えば、あるブロックを動かすこと)が他の行動に大きな影響を与える可能性があるため、ReActのようなアプローチでは効果的に解決することが難しいのです。
また、ReActは本質的に外部の健全な検証器を使用しています。つまり、LLMが提案した行動が実際に実行可能かどうかを確認するために、外部のシミュレータや検証システムを利用しているのです。これは、LLM単独では計画の正確性を保証できないことを示唆しています。
5.2 Tree of Thoughts
Tree of Thoughtsは、最近注目を集めているアプローチです。このアプローチは、問題解決エージェントの探索として提示されることがありますが、私の見解では、これは本質的に候補の多様化戦略だと考えています。
Tree of Thoughtsの基本的なアイデアは、問題解決の過程を木構造として表現し、複数の思考の道筋を並列に探索することです。しかし、これを従来の探索アルゴリズムと同一視するのは適切ではありません。
なぜなら、Tree of Thoughtsにおける「子ノード」の生成は、必ずしも論理的に正しい展開を保証するものではないからです。LLMが生成する「子ノード」は、単なる提案に過ぎず、その正確性や妥当性は保証されていません。
実際、私たちの研究では、Tree of Thoughtsと同等の性能を、単にLLMに150回の多様な推測を行わせ、それらを検証することで達成できることを示しました。具体的には、24パズル(4つの数字を使って24を作る問題)において、Tree of Thoughtsの性能にわずか4%の差で近づくことができました。
このことは、Tree of Thoughtsの本質が、実は探索アルゴリズムではなく、多様な候補を生成する戦略にあることを示唆しています。つまり、Tree of Thoughtsの主な利点は、LLMに多様な解決策を提案させることにあるのです。
5.3 LLMを世界モデルとして使用する手法
LLMを世界モデルとして使用する手法も、最近注目を集めています。この手法では、LLMを使って行動の結果をシミュレートし、計画の妥当性を評価しようとします。
しかし、この手法には重大な問題があります。LLMは常にハルシネーション(幻覚)を起こす可能性があり、その出力を完全に信頼することはできません。LLMが生成する「シミュレーション結果」は、実際の世界の挙動を正確に反映しているとは限らないのです。
さらに、LLMを世界モデルとして使用する場合、人間が介入してモデルを修正する機会がありません。これは、前述のPDDLモデル生成のアプローチとは対照的です。PDDLモデル生成では、LLMが生成したモデルを人間が確認し、必要に応じて修正することができます。
LLMを世界モデルとして使用する手法は、一見すると魅力的に見えるかもしれません。外部のシミュレータや検証システムを必要とせず、LLM単独で計画立案と検証を行えるように思えるからです。しかし、この手法は実際には多くのエラーを引き起こす可能性が高いです。
結論として、これらの既存研究アプローチは、LLMの能力を活用しようとする興味深い試みですが、それぞれに重要な制限があります。ReActは相互作用の少ない問題に限定されており、Tree of Thoughtsは本質的に多様な候補生成戦略であり、LLMを世界モデルとして使用する手法は信頼性の面で問題があります。
これらのアプローチを理解し、再解釈することで、LLMを計画立案に活用する際の真の課題と機会が明らかになります。今後の研究では、これらのアプローチの長所を活かしつつ、その限界を克服する新たな方法を探求していく必要があるでしょう。
6. 計画におけるLLMの役割の総括
これまでの議論を踏まえ、計画立案におけるLLMの役割について総括します。
6.1 LLMの強みと弱み
LLMの最大の強みは、その近似的全知性です。LLMは膨大な量のテキストデータから学習しているため、幅広い領域に関する知識を持っています。この特性は、計画立案の文脈において非常に有用です。
例えば、LLMは様々なドメインに関する一般的な知識を持っているため、ドメインモデルの初期バージョンを生成したり、問題仕様を拡張したりする際に役立ちます。また、LLMは自然言語と形式言語の間の変換を行うことができ、これは計画立案プロセスを人間にとってより理解しやすくするのに役立ちます。
さらに、LLMは計画のスタイルを評価する能力も持っています。つまり、計画が技術的に正しいかどうかだけでなく、人間にとって理解しやすいかどうか、効率的かどうかといった側面も評価できるのです。
しかし、LLMには重大な弱点もあります。最も重要な弱点は、LLMが生成する情報の正確性が保証できないことです。LLMは常にハルシネーション(幻覚)を起こす可能性があり、事実と異なる情報を生成することがあります。
また、LLMは複雑な推論や計画立案のタスクを自律的に行うことが難しいです。例えば、ブロックワールドのような単純な問題でも、LLM単独では正確な計画を立てることができません。
これらの弱点は、LLMが本質的に次のトークンを予測するモデルであり、真の意味での推論や計画立案を行っているわけではないことを示唆しています。
6.2 LLM+Moduleフレームワークの可能性
これらの強みと弱みを踏まえ、私たちはLLM+Moduleフレームワークを提案しています。このフレームワークは、LLMの強みを活かしつつ、その弱点を補完することを目的としています。
LLM+Moduleフレームワークの基本的な構造は以下の通りです:
- LLM:計画の推測を行います。
- 検証器:LLMが生成した計画が正しいかどうかをチェックします。
- 批評家:計画の問題点を指摘し、フィードバックを提供します。
- メタコントローラー:全体のプロセスを管理します。
このフレームワークでは、LLMは主に計画の推測と生成を担当します。LLMの広範な知識を活用して、多様な計画候補を生成することができます。
検証器は、LLMが生成した計画の正確性をチェックします。これは、LLMのハルシネーション問題に対処するための重要な要素です。
批評家は、計画の問題点を指摘し、改善のためのフィードバックを提供します。これには、計画の効率性や実行可能性に関するコメントが含まれます。
メタコントローラーは、全体のプロセスを管理し、LLM、検証器、批評家の間の相互作用を制御します。また、生成される計画候補の多様性を管理することも重要な役割です。
このフレームワークの利点は、LLMの強みを活かしつつ、その弱点を他のモジュールで補完できることです。また、このフレームワークは柔軟性が高く、様々な種類の計画問題に適用できる可能性があります。
6.3 今後の研究方向性
LLMを計画立案に活用する研究はまだ初期段階にあり、今後多くの課題に取り組む必要があります。以下に、いくつかの重要な研究方向性を挙げます。
- LLMの推論能力の向上: LLMの推論能力を向上させる方法を探究する必要があります。
- 検証器の改良: より効率的で正確な検証器の開発が重要です。
- LLMと従来の計画立案技術の統合: LLMの柔軟性と従来の計画立案技術の厳密さを組み合わせる新しい方法を探究する必要があります。
- 説明可能な計画立案: LLMを用いた計画立案システムが、なぜその計画を選択したのかを説明できるようにすることが重要です。
- 倫理的考慮事項の探求: LLMを計画立案に使用する際の倫理的影響について、深く考察する必要があります。
結論として、LLMは計画立案の分野に新たな可能性をもたらしていますが、同時に多くの課題も提示しています。LLM+Moduleフレームワークのようなアプローチは、これらの課題に対処するための有望な方向性を示していますが、まだ多くの研究が必要です。
今後、LLMと従来の計画立案技術を効果的に統合し、より強力で柔軟な計画立案システムを開発していくことが重要です。同時に、これらのシステムの倫理的・社会的影響についても十分に考慮しながら研究を進めていく必要があります。
7. Q&A セッション
このセッションでは、講演後に参加者から寄せられた質問に対する私の回答をまとめます。これらの質問は、LLMを計画立案に活用する際の重要な課題や懸念点を浮き彫りにしています。
7.1 Chain of Thoughtの作用メカニズムに関する議論
Chain of Thought(CoT)プロンプティングの作用メカニズムについて、興味深い質問がありました。言語コミュニティでは、CoTが機能する理由について、潜在変数の推論という仮説が提案されています。
この仮説によると、LLMは本質的に次のトークンを条件付き確率で予測するモデルですが、その条件付き確率の計算過程で潜在変数を推論している可能性があります。CoTプロンプトは、これらの潜在変数に対する証拠を提供し、それによってLLMがより適切な回答を生成できるようになるというものです。
しかし、私はこの説明に懐疑的です。CoTが機能するためには、プロンプトの書き方が非常に重要であり、同じ内容でも表現方法によって結果が大きく変わることがあります。これは、LLMが本当の意味で推論を行っているのではなく、単にプロンプトのパターンを学習しているだけである可能性を示唆しています。
結論として、CoTの効果は確かに観察されていますが、その作用メカニズムについてはまだ十分に理解されていません。LLMが真の意味で推論を行っているのか、それとも単にプロンプトのパターンを学習しているだけなのかについては、さらなる研究が必要です。
7.2 PDDLの限界と自然言語表現の課題
PDDLの限界と自然言語表現の課題についても議論がありました。PDDLは計画立案の標準的な言語ですが、それにも限界があります。例えば、PDDLは完全情報を前提としており、すべての情報が連言的である必要があります。また、不確実性や不完全情報を扱うのが難しいという課題もあります。
これらの制限は、実世界の問題を表現する際に大きな障壁となることがあります。例えば、「clear」という述語を定義する際、それが「上に何もない」ことを意味するということを明示的に記述する必要があります。これは、人間にとっては自明のことでも、形式的なシステムには明示的に定義する必要があるためです。
7.3 検証の重要性と model-based verification の意義
検証の重要性と model-based verification の意義についても議論がありました。LLMを計画立案に使用する際、生成された計画の正確性を保証することが極めて重要です。
model-based verification は、与えられたモデルに対して計画が正しいかどうかを検証する方法です。しかし、ここで重要なのは、検証はあくまでもモデルに対して行われるということです。つまり、モデル自体が正しくない場合、検証が通ったからといって、その計画が現実世界で正しく機能するとは限りません。
これは、LLMを使用する際に特に重要な点です。LLMは常にハルシネーション(幻覚)を起こす可能性があるため、LLMが生成したモデルや計画を無批判に信用することはできません。したがって、LLMを使用する際には、常に外部の検証メカニズムを組み合わせることが重要です。
7.4 LLMのグラウンディングに関する懸念
LLMのグラウンディング(現実世界との接地)に関する懸念も提起されました。LLMはテキストデータから学習されるため、その知識が現実世界とどの程度整合性があるかという問題があります。
特に、物理的な操作や動作を含む計画立案タスク(例えばロボット制御)では、このグラウンディングの問題が顕著になります。LLMは物理的な世界の制約や法則を完全に理解しているわけではないため、技術的には正しいが現実的ではない計画を生成する可能性があります。
7.5 成功率と最適性のトレードオフ
成功率と最適性のトレードオフについても議論がありました。LLMを用いた計画立案では、必ずしも最適な解を得られるわけではありませんが、広い範囲の問題に対して「それなりの」解を高速に生成できる可能性があります。
この特性は、従来の計画立案アルゴリズムとは異なるトレードオフを提示します。従来のアルゴリズムは、適用できる問題の範囲は限られていますが、それらの問題に対しては最適解や準最適解を保証することができます。一方、LLMベースのアプローチは、より広い範囲の問題に対して解を生成できますが、その最適性は保証されません。
7.6 新しいモデル構築の必要性
最後に、新しいモデル構築の必要性について議論がありました。現在のLLMは、主に次のトークンを予測するというタスクに対して最適化されています。しかし、計画立案のような複雑なタスクに対しては、異なるアーキテクチャや学習方法が必要かもしれません。
例えば、推論や計画立案に特化したニューラルネットワークアーキテクチャの開発や、計画立案タスクに特化した事前学習手法の開発などが考えられます。また、LLMと従来の記号的AIシステムを統合した新しいハイブリッドモデルの構築も興味深い方向性です。
このQ&Aセッションを通じて、LLMを計画立案に活用する際の課題と可能性が浮き彫りになりました。これらの問題に取り組むことで、より強力で柔軟な計画立案システムの開発につながることを期待しています。今後も、理論研究と実践的応用の両面から、この分野の研究を進めていく必要があります。