※本稿は、2023年10月に京都で開催されたInternet Governance Forum(IGF) 2023の開会セッションのAI要約したものです。
1. はじめに
2023年10月9日、第18回インターネットガバナンスフォーラム(IGF 2023)が日本の京都で開幕しました。この国際会議には、政府、国際機関、民間セクター、市民社会など、多様なステークホルダーが参加し、インターネットガバナンスに関する幅広いテーマについて議論が行われました。
本要約では、開会セッションで発表された各ステークホルダーの主要な発言内容を、具体的な事例やユースケースを交えながら詳細にまとめます。
2. 日本政府代表 鈴木純二総務大臣の開会挨拶
鈴木純二総務大臣は、日本政府を代表して開会の挨拶を行い、インターネットの重要性と課題について言及しました。
2.1 インターネットの重要性
鈴木大臣は、インターネットが社会経済活動に不可欠なインフラとなっていることを強調しました。具体的には、以下のような例を挙げています:
- オンラインショッピング:消費者が自宅にいながら世界中の商品を購入できる。
- テレワーク:新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に、多くの企業が在宅勤務を実施できた。
- 遠隔教育:学校が閉鎖された際も、オンライン授業によって学習を継続できた。
- 遠隔医療:医療へのアクセスが限られた地域でも、オンラインで診療を受けられるようになった。
2.2 インターネットの課題
一方で、鈴木大臣はインターネットがもたらす負の側面にも言及しました:
- 違法・有害情報の拡散:例えば、2022年に日本で起きた旧首相銃撃事件の際、SNS上で犯人を称賛する投稿が拡散した事例。
- サイバー犯罪:2022年に日本で発生した約15万件のフィッシング詐欺事案。
- サイバー攻撃:2022年に日本の大手自動車部品メーカーがランサムウェア攻撃を受け、生産に影響が出た事例。
これらの課題に対処するため、鈴木大臣は国際的な協力の重要性を訴えました。
3. 欧州委員会 Vera Jourová副委員長の発言
Vera Jourová副委員長は、インターネットの自由と民主主義の擁護、有害コンテンツ対策、AI規制の必要性について言及しました。
3.1 インターネットの自由と民主主義の擁護
Jourová氏は、「インターネットの未来に関する宣言」に言及し、現在70カ国が署名していることを明らかにしました。この宣言は、以下のような原則を掲げています:
- インターネットの開放性と自由の維持
- プライバシーと個人データの保護
- デジタル包摂の促進
- オンライン上の人権の尊重
具体的な事例として、Jourová氏は2022年のウクライナ侵攻時に、ロシア政府がインターネットを統制し、情報を管理しようとした事例を挙げ、このような独裁的なインターネットガバナンスモデルの危険性を指摘しました。
3.2 有害コンテンツ対策
Jourová氏は、EUが取り組んでいる有害コンテンツ対策について説明しました:
- デジタルサービス法:オンラインプラットフォームに対し、違法コンテンツの迅速な削除を義務付ける。例えば、テロリズムを扱うコンテンツは1時間以内に削除することが求められる。
- 偽情報対策行動規範:2022年に強化され、大手プラットフォームが偽情報対策の取り組みを報告することが義務付けられた。
3.3 AI規制の必要性
Jourová氏は、AIの急速な発展に伴うリスクにも言及しました:
- 生成AI行動規範:G7首脳が承認予定の行動規範で、AIの安全性と倫理的利用を確保することを目的としている。
- EU AI法案:AIの安全性を確保し、規制が整うまでの橋渡しとなる法案。例えば、高リスクAIシステムに対する厳格な規制や、リアルタイムの顔認識技術の使用制限などが含まれる。
4. サウジアラビア Abdullah Al-Swaha通信・IT大臣の発言
Al-Swaha大臣は、包括的で革新的なインターネットガバナンスフレームワークの必要性、デジタル・ディバイド解消、AI倫理的課題への対応について言及しました。
4.1 包括的で革新的なインターネットガバナンスフレームワーク
Al-Swaha大臣は、以下のような特徴を持つフレームワークの必要性を訴えました:
- 包括性:「誰一人取り残さない」という原則に基づき、全ての人々がインターネットの恩恵を受けられるようにする。
- 革新的な規制:技術の進歩に合わせて柔軟に対応できる規制体系を構築する。
具体例として、サウジアラビアが立ち上げた生成AI加速・サンドボックス「Gaia」を紹介しました。このプロジェクトでは、50カ国から50以上のスタートアップを招待し、AIのバイアス、倫理、幻覚などの課題に取り組むために2億ドルを投資しています。
4.2 デジタル・ディバイド解消
Al-Swaha大臣は、世界で26億人がまだインターネットに接続していないという現状を指摘し、その解消に向けた取り組みを紹介しました:
- ITUとの協力:2030年までに未接続の人々をつなげることを目標に掲げている。
- 非地上ネットワークの活用:地上からのインターネット接続には5,000億ドルのコストがかかるため、衛星通信などの非地上ネットワークを組み合わせてコストを抑える取り組みを推進している。
具体例として、サウジアラビアが推進する「NEOM」プロジェクトを挙げました。このスマートシティプロジェクトでは、5Gネットワークと衛星通信を組み合わせて、広大な砂漠地帯でも高速インターネット接続を実現する計画です。
4.3 AI倫理的課題への対応
Al-Swaha大臣は、AIがもたらす課題についても言及しました:
- デジタル貿易の二極化:現在のデジタル貿易の50%がデジタルであり、AIの発展によってこの傾向が加速する可能性がある。
- 偽情報・誤情報の拡散:現在、世界に800億ドルの影響を与えている偽情報と誤情報が、AIによって10倍に増える可能性がある。
これらの課題に対応するため、サウジアラビアは「Gaia」プロジェクトを通じて、AIの倫理的利用やバイアス軽減に取り組んでいます。
5. ITU Doreen Bogdan-Martin事務総局長の発言
Bogdan-Martin事務総局長は、SDGs達成へのデジタル技術の重要性、デジタル・ディバイド解消の重要性、グローバル・デジタル・コンパクトへの期待について言及しました。
5.1 SDGs達成へのデジタル技術の重要性
Bogdan-Martin氏は、ITUの見積もりによると、SDGsのターゲットの70%がデジタル技術から直接的な恩恵を受けると指摘しました。具体的な例として:
- 教育(SDG 4):遠隔教育プラットフォームにより、辺境地域の子どもたちも質の高い教育を受けられる。
- 健康(SDG 3):遠隔医療システムにより、専門医の少ない地域でも適切な診断と治療を受けられる。
- 気候変動対策(SDG 13):IoTセンサーとAIを活用した精密農業により、水や肥料の使用を最適化し、環境負荷を低減できる。
5.2 デジタル・ディバイド解消の重要性
Bogdan-Martin氏は、現在26億人がオフラインでデジタル的に排除されていることを指摘し、その解消の重要性を訴えました。具体的な取り組みとして:
- ITUのGiga Initiative:学校のインターネット接続を推進するプロジェクト。2022年までに150万校のマッピングを完了し、1,500万人の学生をオンラインにつなげた。
- Partner2Connect Digital Coalition:2022年に立ち上げられ、26億ドル以上の投資誓約を集め、デジタル・ディバイド解消に取り組んでいる。
5.3 グローバル・デジタル・コンパクトへの期待
Bogdan-Martin氏は、国連事務総長が提唱するグローバル・デジタル・コンパクトへの期待を表明しました。このコンパクトは、以下のような目標を掲げています:
- 2030年までにユニバーサルな接続性を達成する
- デジタル公共財の推進
- デジタル人権の保護
- AIの責任ある利用の促進
具体的な取り組みとして、ITUは2023年9月にAIリソースセンターを立ち上げ、各国のAI戦略策定を支援しています。
6. 慶應義塾大学 村井純氏の発言
村井純氏は、日本におけるインターネット発展の歴史、災害時におけるインターネットの重要性、新技術の適切な活用とサイバーセキュリティの重要性について言及しました。
6.1 日本におけるインターネット発展の歴史
村井氏は、日本のインターネット黎明期から現在までの発展を振り返りました:
- 1984年:JUNET(Japan University Network)の設立
- 1988年:WIDEプロジェクトの開始
- 1992年:JPNICの設立
- 1995年:Windows 95の発売とインターネットブームの到来
具体的なエピソードとして、1995年の阪神・淡路大震災時に、インターネットが情報共有と支援活動のツールとして活用された事例を紹介しました。
6.2 災害時におけるインターネットの重要性
村井氏は、日本の災害経験を通じて、インターネットの重要性が再認識されたことを強調しました:
- 1995年阪神・淡路大震災:ボランティア情報の共有や安否確認にインターネットが活用された。
- 2011年東日本大震災:スマートフォンのGPS機能を活用した被災者の位置情報共有や、ソーシャルメディアを通じた情報発信が行われた。
- 2020年COVID-19パンデミック:テレワークやオンライン教育の普及により、インターネットのインフラとしての重要性が再認識された。
6.3 新技術の適切な活用とサイバーセキュリティの重要性
村井氏は、AIなどの新技術の適切な活用とサイバーセキュリティの重要性を訴えました:
- AIの倫理的利用:例えば、顔認識技術の利用に関するガイドラインの策定や、AIによる意思決定の透明性確保など。
- サイバーセキュリティ対策:2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて構築された、官民連携のサイバーセキュリティ体制を例に挙げ、継続的な取り組みの重要性を強調。
7. ICANN Tripti Sinha理事会議長の発言
Tripti Sinha氏は、インターネットのもたらした変革と重要性、デジタル・インクルージョンの重要性、マルチステークホルダー・モデルの重要性、AI・量子技術等の新技術への期待と課題について言及しました。
7.1 インターネットのもたらした変革と重要性
Sinha氏は、インターネットが社会に与えた影響の大きさを強調しました:
- コミュニケーションの変革:電子メール、インスタントメッセージング、ビデオ通話の普及
- ビジネスモデルの変革:eコマース、クラウドコンピューティング、シェアリングエコノミーの台頭
- 情報アクセスの民主化:オンライン百科事典、オープンアクセスジャーナル、MOOCsの普及
具体例として、COVID-19パンデミック時にインターネットが果たした役割を挙げました。
7.2 デジタル・インクルージョンの重要性
Sinha氏は、デジタル・インクルージョンの重要性を強調し、以下のような具体例を挙げました:
- インドのデジタル・インディア・プログラム:2015年に開始され、農村部を含む全国に高速インターネットを普及させる取り組み。2023年までに1億2,000万人以上の農村住民がインターネットにアクセスできるようになった。
- アフリカのモバイルマネー:M-PESAなどのサービスにより、銀行口座を持たない人々も金融サービスにアクセスできるようになった。ケニアでは人口の96%がモバイルマネーを利用している。
Sinha氏は、これらの事例を挙げながら、インターネットへのアクセスが教育、医療、金融サービスへのアクセス改善につながることを強調しました。
7.3 マルチステークホルダー・モデルの重要性
ICANNの活動を例に、マルチステークホルダー・モデルの重要性を説明しました:
- IANA機能の監督権限移管:2016年に米国政府からグローバルマルチステークホルダーコミュニティに移管された過程で、政府、技術コミュニティ、市民社会、ビジネスセクターなど多様なステークホルダーが関与した。
- 新gTLDプログラム:2012年に開始されたプログラムでは、.tokyo、.berlin、.africaなど、1,000以上の新しいトップレベルドメインが導入された。この過程でも、多様なステークホルダーの意見が反映された。
7.4 AI・量子技術等の新技術への期待と課題
Sinha氏は、新技術がインターネットにもたらす変革について言及しました:
- AIの活用例:
- ネットワーク管理の最適化:AIを用いたトラフィック予測と動的ルーティングにより、ネットワークの効率が向上。
- サイバーセキュリティの強化:AIによる異常検知と自動対応により、セキュリティ脅威への対処が迅速化。
- 量子技術の潜在的影響:
- 量子暗号:現在の暗号技術を無力化する可能性があり、インターネットセキュリティの再構築が必要になる可能性。
- 量子インターネット:量子もつれを利用した超高速・超安全な通信ネットワークの実現可能性。
Sinha氏は、これらの技術がもたらす可能性と課題に対して、ICANNを含むインターネットコミュニティが協力して取り組む必要性を訴えました。
8. ノルウェー Sigbjørn Gjelsvik地方自治・地域開発大臣の発言
Gjelsvik大臣は、インターネットガバナンスにおける小国の役割、アフリカ・アジアにおけるインターネットの発展、ウクライナのデジタル化事例、人権保護とAI規制の必要性について言及しました。
8.1 インターネットガバナンスにおける小国の役割
Gjelsvik大臣は、小国の視点がインターネットガバナンスに重要であることを強調しました:
- ノルウェーの取り組み:2025年のIGF開催に立候補したことを明らかにし、小国の視点を反映させる場としてIGFを重視していることを示した。
- 小国の具体的貢献例:エストニアのe-Residencyプログラムを挙げ、小国が革新的なデジタル政策を実施できることを示した。このプログラムでは、非居住者にもデジタルIDを発行し、オンラインで企業設立や銀行口座開設を可能にしている。
8.2 アフリカ・アジアにおけるインターネットの発展
Gjelsvik大臣は、アフリカとアジアでのインターネット普及の重要性を指摘し、以下のような具体例を挙げました:
- アフリカの事例:ルワンダのスマートビレッジプロジェクト。農村部にブロードバンド接続、デジタルスキルトレーニング、eコマースプラットフォームを提供し、デジタル経済への参加を促進している。
- アジアの事例:インドネシアのPalapa Ring Project。光ファイバーネットワークを全国の島々に敷設し、遠隔地でもブロードバンドアクセスを可能にする国家プロジェクト。
8.3 ウクライナのデジタル化事例
Gjelsvik大臣は、ウクライナの「Diia」アプリを例に挙げ、危機時におけるデジタル化の重要性を説明しました:
- Diiaアプリの機能:80以上の政府サービスにアクセス可能。デジタルID、運転免許証、パスポート、税金申告などをスマートフォンで管理できる。
- 戦時中の活用:国内避難民の支援や、被災地域の市民へのサービス提供に活用された。例えば、避難した市民が新しい居住地で即座に行政サービスを受けられるようになった。
8.4 人権保護とAI規制の必要性
Gjelsvik大臣は、デジタル空間における人権保護とAI規制の必要性を訴えました:
- ノルウェーの立場:人権はサイバー空間でも適用されるべきであり、AI開発においても人権尊重が不可欠。
- 具体的な取り組み:ノルウェーが支援する「AI for Good Foundation」の活動を紹介。この財団は、AIの倫理的開発と利用を促進するプロジェクトを支援している。例えば、AIを用いた違法漁業の監視システムの開発などが行われている。
9. IGFリーダーシップパネル Vint Cerf議長の発言
Vint Cerf氏は、IGFの成果をグローバルな意思決定に活かす重要性、「我々が望むインターネット」の実現に向けた行動の必要性、ネット上の有害情報対策とアカウンタビリティ・エージェンシーの重要性について言及しました。
9.1 IGFの成果をグローバルな意思決定に活かす重要性
Cerf氏は、IGFでの議論を実際の政策決定に反映させることの重要性を強調しました:
- 具体例:2019年のベルリンIGFで議論された「AI倫理原則」が、その後のOECDのAI原則策定に影響を与えた。
- 提案:IGFの成果を国連のデジタル協力ロードマップに反映させるメカニズムの構築。例えば、IGFの主要な結論を年次報告書としてまとめ、国連総会に提出するなど。
9.2 「我々が望むインターネット」の実現に向けた行動の必要性
Cerf氏は、理想のインターネットの実現には具体的な行動が必要だと訴えました:
- 「我々が望むインターネット」の具体例:
- オープンで自由なアクセス
- プライバシーとセキュリティの保護
- 多言語・多文化対応
- デジタル・ディバイドの解消
- 実現に向けた行動の例:
- オープン標準の開発と採用の促進
- エンドツーエンドの暗号化技術の普及
- 多言語ドメイン名の導入促進
- 低コストのインターネットアクセス技術の開発と展開
9.3 ネット上の有害情報対策とアカウンタビリティ・エージェンシーの重要性
Cerf氏は、ネット上の有害情報対策の重要性を指摘し、アカウンタビリティ・エージェンシーの役割を強調しました:
- 有害情報対策の具体例:
- ファクトチェック機関の設立と支援:例えば、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の活動。
- メディアリテラシー教育の推進:学校カリキュラムへの導入や、高齢者向けのデジタルリテラシープログラムの実施。
- アカウンタビリティ・エージェンシーの役割:
- コンテンツモデレーションの透明性確保:Facebookの監督委員会(Oversight Board)のような第三者機関の設立。
- プラットフォーム企業の行動規範策定:EUのデジタルサービス法で義務付けられた行動規範の策定と遵守。
10. 欧州評議会 Bjørn Berge事務次長の発言
Bjørn Berge氏は、サイバー犯罪対策としてのブタペスト条約の重要性、AI規制に向けた欧州評議会の取り組み、マルチステークホルダー・アプローチの重要性について言及しました。
10.1 サイバー犯罪対策としてのブタペスト条約の重要性
Berge氏は、ブタペスト条約の重要性と影響力について説明しました:
- 条約の概要:2001年に採択され、サイバー犯罪に関する初の国際条約。コンピュータシステムに対する違法アクセス、システム妨害、コンピュータ詐欺などを犯罪として定義。
- 具体的な成果:
- 法制化の促進:100カ国以上がこの条約を参考に国内法を整備。例えば、日本は2011年にサイバー犯罪条約対応法を制定。
- 国際捜査協力の強化:条約に基づき、24時間365日対応の連絡拠点を設置。2022年には、この連絡網を通じて国境を越えた約1,000件のサイバー犯罪捜査が行われた。
- 最新の取り組み:
- 第2追加議定書の採択(2022年):クラウド上の証拠へのアクセスや、国境を越えた緊急時のデータ提供要請などに関する新たな規定を導入。
10.2 AI規制に向けた欧州評議会の取り組み
Berge氏は、欧州評議会のAI規制への取り組みについて説明しました:
- AIシステムの設計、開発、使用に関する国際条約の作成:
- 目的:AIの恩恵を活用しつつ、人権、民主主義、法の支配を保護する。
- 進捗状況:2024年5月までの交渉妥結を目指している。
- 具体的な規制対象の例:
- 高リスクAIシステム:自動運転車、医療診断AI、採用選考AIなど。
- 禁止されるAI利用:社会的スコアリング、無差別の顔認識システムなど。
- マルチステークホルダー・アプローチの採用:
- 交渉参加者:欧州評議会の46加盟国、オブザーバー国、欧州以外の国々、国際機関、民間部門の専門家など。
- 市民社会の参加:AI倫理や人権団体からの意見聴取を実施。
10.3 マルチステークホルダー・アプローチの重要性
Berge氏は、デジタルの世界を規制する際のマルチステークホルダー・アプローチの重要性を強調しました:
- ブタペスト条約の交渉過程での学び:
- 技術の急速な進歩に対応するため、官民の協力が不可欠。
- 市民社会の声を反映させることで、より包括的な規制が可能に。
- IGFへの支持:
- WSISの初期段階からIGFを支持してきた理由として、マルチステークホルダー・アプローチの採用を挙げた。
- 具体的な成果例:
- EUのGDPR(一般データ保護規則)の策定過程:産業界、消費者団体、学術界など多様なステークホルダーの意見を取り入れ、より実効性の高い規則が作成された。
- ITUのAIフォー・グッド・サミット:技術者、政策立案者、市民社会が一堂に会し、AIの倫理的利用について議論。具体的なプロジェクト(例:AIを用いた気候変動モニタリングシステム)が生まれている。
11. タンザニア高等裁判所 Alyamani Khamis Ramadhani判事の発言
Ramadhani判事は、IGFへの司法関係者の参加の重要性とインターネット上の法の支配の重要性について言及しました。
11.1 IGFへの司法関係者の参加の重要性
Ramadhani判事は、IGFに司法関係者が参加することの重要性を強調しました:
現状の課題:IGFに司法関係者の参加が少ないことを指摘。 司法の役割:法制定プロセスにおける司法の重要性。議会やシンクタンクで議論された内容が、最終的に裁判所での解釈を通じて実効性を持つことを強調。
具体例として、以下のようなケースを挙げました:
- アメリカのPackingham v. North Carolina事件(2017年):最高裁が、性犯罪者のソーシャルメディア利用を全面的に禁止する州法を違憲とした。この判決は、インターネットアクセスが表現の自由の重要な一部であることを認めた。
- インドのAadhaar判決(2018年):最高裁が、生体認証に基づくデジタルIDシステム「Aadhaar」の合憲性を判断。プライバシーの権利とデジタル化の利点のバランスを取る上で、司法が重要な役割を果たした。
Ramadhani判事は、これらの事例を挙げながら、インターネットガバナンスに関する法的問題を適切に判断するためには、裁判官がデジタル技術とその影響を理解する必要があると主張しました。
提案:IGFに司法関係者のためのトラックを設立し、以下のようなテーマで議論を行うことを提案。
- デジタル証拠の取り扱い
- 越境的なサイバー犯罪への対応
- AIによる意思決定の法的責任
- デジタルプライバシーと国家安全保障のバランス
11.2 インターネット上の法の支配の重要性
Ramadhani判事は、インターネット上でも法の支配が重要であることを強調しました:
- デジタル空間における法の支配の必要性:物理的な世界と同様に、デジタル空間でも法の支配が必要であると主張。
具体的な事例として、以下のような問題を挙げました:
- オンラインでの名誉毀損:タンザニアでは、ソーシャルメディア上での名誉毀損が増加しており、これに対処するための法的枠組みが必要。
- サイバーいじめ:学校でのいじめがオンライン空間に移行しており、既存の法律では対処が難しい事例が増加。
- オンライン詐欺:国境を越えて行われるオンライン詐欺に対し、国際的な法執行協力が必要。
Ramadhani判事は、これらの問題に対処するためには、裁判官がデジタル技術を理解し、適切な法的判断を下せるようになることが重要だと強調しました。
提案:
- 裁判官向けのデジタルリテラシー研修プログラムの実施
- サイバー法に特化した国際的な司法ネットワークの構築
- オンライン紛争解決メカニズムの開発と導入
結論として、Ramadhani判事は、IGFが司法関係者の参加を促進し、インターネット上の法の支配を確立するための議論の場となることへの期待を表明しました。
12. 最後に
この開会セッションを通じて、インターネットガバナンスに関する多様な視点と優先課題が浮き彫りとなりました。デジタル時代のグローバルな課題に取り組むためには、マルチステークホルダーによる対話と協力が不可欠であるという認識が共有されました。今後のIGFセッションでは、これらの課題についてさらに深い議論が行われることが期待されます。