※本記事は、世界経済フォーラム年次総会2026(ダボス会議2026)のセッション「Redefining Europe's Place in the World」の内容を基に作成されています。セッションの動画は https://www.youtube.com/watch?v=xT3TvECWf50 でご覧いただけます。本記事では、セッションの内容を要約しております。なお、本記事の内容は原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご覧いただくことをお勧めいたします。
登壇者は以下の通りです。モデレーターはFinancial Times主任外交問題コメンテーターのGideon Rachman氏。パネリストは、リトアニア大統領のGitanas Nausėda氏、クロアチア首相のAndrej Plenković氏、ベルギー首相のBart De Wever氏、Mistral AI共同創業者兼CEOのArthur Mensch氏、ABN AMRO CEOのMarguerite Bérard氏の5名です。
世界経済フォーラムは官民協力のための国際機関であり、政治・ビジネス・文化などの各分野のリーダーが集い、グローバル・地域・産業のアジェンダを形成することを目的としています。第56回年次総会には100以上の政府、主要国際機関、1,000のフォーラムパートナー企業、さらに市民社会のリーダー、専門家、若者代表、社会起業家、メディア関係者が参加しました。世界経済フォーラムの詳細は http://www.weforum.org/ をご覧ください。
1. セッション概要とパネリスト紹介
本セッション「Redefining Europe's Place in the World(世界における欧州の位置を再定義する)」は、ダボス会議2026の中でも特に時宜を得たテーマとして開催されました。セッション開始直前には欧州委員会のUrsula von der Leyenが階下で講演し、「新たな形の欧州の独立」の必要性を訴えたばかりであり、その緊迫した空気の中でパネルディスカッションが始まりました。
モデレーターを務めたのは、Financial Timesの主任外交問題コメンテーターGideon Rachmanです。パネリストは左から順に、ベルギー首相De Wael、ABN AMROのCEOであるMarguerite Barre、リトアニア大統領Gitanas Nausėda、Mistral AIの共同創業者兼CEOであるArthur Mensch、そしてクロアチア首相Andrej Plenkovićの5名です。
Rachman: 本日これほど適切なセッションはないでしょう。明日はDonald Trumpが注目を集めますが、まずは欧州で現在進行中の大きな戦争から話を始めたいと思います。ロシアとベラルーシを隣国に持つリトアニアの大統領として、現在議論されている和平案に現実的な希望を見出せますか。
2. ウクライナ和平交渉の現実とロシアの帝国主義的野心
2-1. 20項目和平案への懐疑:ロシアは時間を稼いでいる
Nausėda: 私はおそらく、和平案に対して懐疑的な立場をとる人間の一人です。リトアニアはロシアをよく知っています。ウクライナ側が外交的な言語で語り、20項目からなる和平案の策定プロセスを進めている一方で、ロシア側はミサイルで語っています。ロシアが今この和平案を受け入れ、交渉のテーブルに着く準備ができていると結論づけるのは時期尚早です。彼らが狙っているのは時間を稼ぐことであり、まずキエフを含むウクライナの重要インフラを攻撃して市民生活を不可能にし、その後の段階で初めて交渉に臨むという戦略だと私は見ています。
加えて、20項目の和平案のいくつかの要素はロシアにとって受け入れ不可能なものです。具体的には、ドンバス全域の領土割譲をロシアは要求しており、また80万人規模のウクライナ地上軍の維持もロシアには受け入れがたい条件です。今後どうなるかはわかりません。しかし一つだけ明確に申し上げたいのは、仮に和平合意が実現したとしても——それがいつかは別として——ロシアが帝国主義的な野心を捨てるという幻想は捨てるべきだということです。
2-2. 和平後もロシアは膨張主義を捨てない——野党も含めた構造的問題
Nausėda: クレムリンの体制が続く限り、そのような変化を示すシグナルは一切見えません。さらに言えば、クレムリンの体制が変わったとしても、ロシアの政策が根本的に変わることを意味しないでしょう。私が時折、ロシアの野党指導者たちの発言を聞いていると、彼らも同じ考えを示しています。その考えとは何か。まず第一に、ロシアの膨張主義的政策です。彼らは欧州連合と同様に「拡大」を語りますが、私たちが語る拡大は文明的な拡大であり、彼らが語るのは武力と銃による拡大です。つまり、これはクレムリンという一個人の問題ではなく、ロシアという国家の構造的な問題なのです。和平後にロシアが大量生産した兵器や弾薬を遊ばせておくとは考えられません。ロシアの本質、そしてメシアニズムの思想を知る者として、これは深刻な懸念であり、この問題に対処できるのは欧州が団結した場合に限られます。
3. トランプ政権と欧州の団結:尊厳か隷属か
3-1. グリーンランド問題と「赤い線」の越境——ベルギー首相の警告
Rachman: 欧州はロシアからの圧力だけでなく、明日到着するDonald Trumpからも圧力を受けています。彼はEU加盟国であるデンマークの領土グリーンランドの割譲を要求しています。廊下では「欧州は結局折れるだろう」「欧州は団結を維持できない」という声が多く聞かれます。Ursula von der Leyenは「欧州の対応は毅然として、団結し、均衡のとれたものになる」と述べましたが、あなたはどこまで自信を持てますか。
De Wael: 非常に良い質問です。実は私自身も自問しています。私たちは今、大きな圧力下に置かれています。27カ国が外部から圧力を受けたとき、二つのことが起こり得ます。団結するか、あらゆる方向に分裂するかです。欧州は今、まさに岐路に立っています。これまで私たちは、ホワイトハウスの新大統領をなだめようとしてきました。関税についても非常に寛大でした。ウクライナ戦争への支持を得ようと、寛大な姿勢をとり続けてきました。私たちが米国に依存していたため、そうするしかなかったのです。しかし今や、あまりにも多くの「赤い線」が越えられています。選択肢は二つです。自尊心を守るか、それとも尊厳を失うかです。幸せな臣下でいることと、惨めな奴隷でいることは全く別のことです。今ここで引き下がれば、欧州は尊厳を失います。そして民主主義において、尊厳はおそらく最も大切なものです。
私は明日Trumpと会談します。この会談はグリーンランド問題が浮上する前から設定されていたものですが、内容は大きく変わるでしょう。国王も同席します。伝えるべきメッセージは明確です。「あなたは赤い線を越えている。私たちは団結するか、分裂するかのどちらかだ」と。もし分裂すれば、80年間続いた大西洋主義の時代は本当に終わりを迎えます。Gramsciが言ったように、「古いものは死にゆき、新しいものはまだ生まれていない、その時代には怪物が現れる」のです。Trumpが怪物になるかどうかは、彼自身が決めることです。
3-2. ウクライナ支援900億ユーロの評価と欧州の自己批判
Rachman: Euroclear・賠償ローンをめぐる議論であなたは渦中にいました。あの一件は「欧州は大きなことを言って小さなことしかできない」という批判の典型例だという人もいます。どう評価しますか。
De Wael: 少し楽観的に見なければ、このセッションは非常に暗いものになってしまいます。最終的に私たちはウクライナへの900億ユーロの支援を決定しました。これは必ずやるべきことでした。米国がもはやウクライナを支援しない中で、欧州が「何としてでもウクライナを戦い続けさせる」と言えるかどうか——結果として、私たちはそれをやり遂げました。プロセスにおける議論は、理想的なガバナンスの手本とは言えないかもしれませんが、最終的には結果が出たのです。
ただし、私たちが弱い立場にあることは認めなければなりません。宿題をしてこなかったのです。「団結した西側」を信じ続け、Obamaが「私は最初の太平洋大統領だ」と言ったときにも、米国の重心が中国へとシフトしていたにもかかわらず、私たちはそれを無視して平和の配当を享受し続けました。再軍備もせず、自らを強化もしませんでした。その結果、今、私たちは弱い立場に立たされています。そしてEuroclearと賠償ローンをめぐる議論から一つ重要な教訓を得ました。「無償の資金などというものは存在しない」ということです。アリババの洞窟を開けて黄金を持ち去るようなことはできないのです。数カ月の間、欧州のテーブルにその幻想が漂っていましたが、今はそれに終止符を打てたと思います。
Plenković: 私も付け加えさせてください。ウクライナへの900億ユーロ支援の枠組みをどう達成したかという点は、確かにテクニカルな問題でした。オプションAのロシア中央銀行の凍結資産活用か、オプションBのローンかという議論がありましたが、最終的に出てきた結論はB、すなわちより法的確実性の高い手法でした。重要なのは、2026年と2027年にわたってウクライナの国家機能を維持し、防衛を支援するという政治的目標が達成されたことです。プロセスではなく、この結果こそが本質です。そしてこの瞬間、私たちが選ぶべき道は明確です。ウクライナの側に立ち続け、自由・民主主義・国際法の側に立ち続けることです。
4. 欧州の経済的・技術的自立という課題
4-1. 金融セクターの役割:「草食動物か肉食動物か」という問い
Rachman: Barre、あなたは大きな欧州の銀行を経営しています。欧州ビジネス・ラウンドテーブルが「もう十分だ、米国に対して強硬姿勢をとるべきだ」という声明を出しました。通常、ビジネス界から出るような発言ではありません。こうした地政学的な荒波をどう航行していますか。
Barre: 私はフランス人で、アムステルダムで大きな銀行を経営しており、自分をパッショネートに欧州人だと定義しています。欧州の価値観とは何かと考えると、法の支配、人間の尊厳、民主主義、そして理性と真実、こうした協調の価値観が過去数十年にわたって私たちに豊かさをもたらし、壁のない欧州を築いてきました。しかし今、私たちは欧州の外からの圧力——壁、権威主義的体制——そして欧州の内側からの圧力、すなわち内部の分極化、真実の侵食、政治的不安定と断片化に直面しています。今の欧州を見ると、時として「私たちは肉食動物の世界に生きる草食動物ではないか」と感じることがあります。
しかしその答えは明確です。自らの価値観を守りたいのであれば、強くなければなりません。そして強さとは軍事的・政治的な強さだけではありません。経済的な強さでもあります。銀行とは何かといえば、経済の配管であり、経済の中を循環する血液です。プロジェクトを可能にし、イノベーションを資金調達し、インフラを整備し、リスクを管理する——これが私たちの役割です。私は金融危機のときに公共サービスに従事していましたので、金融セクターが機能不全に陥ったときに何が起きるかを直接経験しています。しかし今の欧州の金融セクターは非常に健全です。問題は、私たちの集合的なリスク許容度が、欧州に必要なエネルギー転換、防衛、モビリティ、テクノロジー、デジタルといった分野への投資を阻害していないかということです。今日の世界において保守的であること、現状維持を選ぶことは、リスク回避ではなく、むしろ非常に危険な選択なのです。
4-2. AIテクノロジーで欧州が追いつける理由と「AIの植民地」リスク
Rachman: Mensch、米国が欧州に対してやや侮蔑的な超自信を持っている理由の一つは、特にテクノロジー、未来の産業において欧州が大幅に遅れをとっているという認識です。欧州はどこまで遅れており、何ができるのでしょうか。
Mensch: いくつか楽観的な理由があります。テクノロジーとはインフレクションポイントの連続であり、新しいテクノロジーによってソフトウェアが再プラットフォーム化されるたびに、競争が再び活発化し、新たな機会が生まれます。問題は、欧州がその機会を活かして追いつく準備ができているかどうかです。私たちはクラウドの戦いに負けました。欧州のデジタルサービスの80%が米国からの輸入であり、その価値が米国に還流され、さらなるR&Dと支配力の構築に再投資されています。これが現実です。
しかしAIは異なる種類のソフトウェアを構築する方法です。必要なインフラの種類が違います。大量のエネルギー、高密度のエネルギーサイトが必要ですが、欧州にはそれが豊富にあります。AIテクノロジーを基盤にパブリッククラウドサービス全体を再構築することができ、人工知能のおかげで再構築のコストは以前よりもはるかに低くなっています。欧州には才能ある人材がいて、ソフトウェアを素早く構築できます。製造業、金融サービスといった世界クラスの競争力を持つ企業があり、それらの企業がR&Dに投資し、AIを中心に自己変革しようとしています。そして過去一年で——正直に言えばTrump大統領の就任も一因となって——多くの企業と欧州各国が、欧州のテクノロジープロバイダーと連携して価値を共創し、その価値をR&Dに再投資して、自ら作り出した依存状態から脱却する時が来たと気づき始めています。
この技術的依存こそ、おそらく米国の最大の権力の源泉です。JD Vanceもまさにそのように位置づけています。私たちが構築しなければならないのはそのレバレッジであり、最大のリスクを回避することです。そのリスクとは何か。欧州がAIの植民地になることです。欧州のテクノロジーが目標を達成できなければ、デジタルサービスとAIの95%が米国から輸入される状態になりかねません。そうなれば、欧州の産業全体が、米国が決断一つでオフにできるインフラの上で動くことになります。防衛テクノロジーや抑止力もオフにできるものに依存することになり、抑止力は意味をなさなくなります。さらに消費者レベルでは、情報へのアクセスと人々の思考を左右できる米国の二社が、選挙や政治体制に影響を与えることができるようになります。
4-3. MistralのフルスタックAI戦略と対米デジタル依存の低減
Rachman: あなたはビジネスの責任者として、政治的に必要だと考えること——対米リスクの低減——を実際に実行できているのですか。
Mensch: 私たちはそれを実行しています。具体的には、大手IPスケーラーへの依存を低減しました。そのためにインフラへの投資を決断し、自社サーバーの購入、自社GPUの取得、それらの運用を行いました。その結果、私たちは今やフルスタックの垂直統合型クラウドプロバイダーになっています。これにより米国サービスへの依存は実質的に低減されています。当初はモデルをトレーニングするために米国のクラウドサービスを使っていましたが、他に選択肢がなかったからです。
ハードウェア(モノ)への依存については、これは簡単には消えません。しかしモノの依存は米国にとっても欧州にとっても相互的なものです。米国は欧州の財を必要とし、欧州は米国の財を必要としています。折り合いはつくはずです。一方、デジタルサービスの依存は全く均衡していません。これが非常に高いリスクであり、だからこそ私たちは垂直統合スタックの構築を決断しました。公共セクター、防衛産業から、これが要件だという声を市場から聞いたからです。私たちは米国に輸出もしており、主権上の懸念だけに基づいて差別化を構築しているわけではありません。製造業や金融サービスにおけるエンタープライズソフトウェアへのアプローチと価値創造の手法が、実際に米国にも輸出できるものになっています。欧州は楽観的になれる理由があります。私たちはゆっくりと沸騰する鍋の中のカエルであることをやめつつあります。多くの赤い線が越えられ、行動が取られ始めています。この方向に進み続けるべきです。
5. ロシアの軍事的脅威と大西洋同盟の危機
5-1. ロシア経済の悪化とベラルーシへの制裁強化の必要性
Rachman: Nausėda大統領、ロシア経済の現状をどう評価していますか。また欧州はロシアへの圧力をさらに強めることができますか。
Nausėda: 私たちが受けている情報は、ロシア経済にとって明るいものではありません。ロシア経済は悪化し続けており、深刻なマクロ経済的不均衡を抱えています。スタグフレーション、つまり停滞と高インフレが同時進行する段階に移行するのは時間の問題だと思います。ただし、ロシアの特殊性を理解しなければなりません。独裁者や政治家はこうしたマクロ経済的状況を無視することができます。すべての負担を一般市民に転嫁し、防衛への投資を続けながら、こうした不均衡をとりあえず放置することができるのです。だからといって、制裁という形でロシアへの追加圧力をかけることをやめるべきではありません。欧州連合はそれを実行するはずですし、実行しなければなりません。
さらに、ロシアの共犯者であるベラルーシへの制裁も強化すべきです。ベラルーシはリトアニアと600キロメートルの国境を接する非常に近い隣国です。私たちはほぼ毎日、何らかの形の攻撃を経験しています。不法移民の流入、金属バルーン、ウクライナ方面からのドローンがその例です。ベラルーシはOrezhnik(オレジュニク)システムを配備し、戦術核兵器を配備し、さらにすべての安全基準と規則に違反する形で新たな原子炉建設の計画まで立てています。これは特に、この体制が自己強化を続けていることを考えると、深刻な懸念材料です。これは今後1〜2年の問題ではなく、今後10年にわたる問題になりうるのです。
De Wael: Putinと交渉することは良い考えではないと思います。なぜなら、アメリカ人が言うように「柔らかく話すなら、大きな棍棒を持て」という原則があります。しかし私たちには大きな棍棒がない。柔らかく話すことしかできない。それが今の私たちの問題です。柔らかい言葉でBelarusを、Putinを説得することはできません。しかし、欧州には別の力があります。人々が欧州連合に加盟したいと思うという事実です。誰も中国に加盟したいとは思わない。米国の隣国も米国に加盟したいとは言わない。人々が欧州連合に加盟したいのは、私たちが法の支配と尊厳を持っているからです。
5-2. 脅威評価の対立と和平後も続く軍事的リスク
Rachman: ロシアの軍事的脅威については、非常に異なる評価が聞かれます。ある元欧州の指導者は「ロシアの脅威は誇張されている。4年間戦って、国境から30マイルしか離れていないKharkivさえ占領できていない。欧州を攻撃する能力などない」と言います。一方でNATOのMark Rutte事務総長は「これは非常に危険な瞬間だ」と言います。あなたはどちらの立場ですか。
Nausėda: これはバルト諸国だけの問題ではありません。ミサイルは5分から10分で欧州のどの首都にも届きます。これはBarreが指摘したことでもあります。私たちは全員が影響を受けるのです。Putinが今回挑もうとしているのは、私たちの民主主義、法の支配、そして私たちが大切にしてきたすべての価値観です。和平合意後にロシアが大量生産した銃、弾薬、装備をそのまま遊ばせておくと思いますか。私はそうは思いません。ロシアの本質を知っているからです。メシアニズムの思想、この膨張主義の衝動——これは深刻な懸念事項であり、団結してのみ対処できるものです。だからこそ、米国と欧州の間の対立を見るのは胸が痛い。私は大西洋横断の絆を強く信じているからです。
欧州はもっと責任を負わなければなりません。経済分野だけでなく、軍事力においても。この数カ月で相当の進展がありましたが、まだやるべきことは多い。軍事能力においても、生産能力においても遅れをとっています。ロシアは弾薬、銃、その他の軍事装備を生産し続けています。欧州にはその差を埋める時間はそれほどありません。
5-3. 米国は本当に欧州の同盟国か——「Coalition of the Willing」での衝撃
Rachman: De Wael首相、あなたは先ほど「惨めな奴隷になることと幸せな臣下であることは違う」とおっしゃいました。米国が欧州の同盟国であることを今もあなたは信じますか。
De Wael: 残念ながら、それを確認することができません。同盟国であってほしいと思っています。しかし同盟国であるならば、同盟国らしく振る舞わなければなりません。ロシアの脅威についていえば、西側が団結していれば、それほど大きなものではありません。しかし私たちは団結していない。そしてPutinはそれを見ています。ロシアの経済は非常に弱い。彼らの軍事的脅威も、私たちが分断されていなければ、それほど現実的ではありません。しかしPutinが見ているのはまさに私たちの分断です。
パリで「Coalition of the Willing(有志連合)」の最終会議があったとき、米国代表団は冒頭発言でこう言いました。「私たちはこの紛争においてどちらかの側につくためにここに来たのではない。」私はこれに非常に衝撃を受けました。私は1980年代に育ち、西側は何かを体現していると信じていました——人々の主権、民主主義、自由。暴君と民主主義国家の紛争において、米国が「どちらの側にもつかない」と言う。しかも民主的な同盟国が集まり、「私たちの一国がロシアの侵略に脅かされているから支援しよう」と集った有志連合の場において、「私たちはどちらの側にもつかない。取引をしに来た」と言うのです。Putinはこれを見ています。これが彼の強さであり、私たちの分断です。
そして今、NATOの加盟国が別のNATO加盟国に軍事侵攻で脅しをかけているという状況が生まれています。これはPutinのウクライナへの戦争継続を抑止するどころか、中国が帝国主義的アジェンダを選ぶことへの抑止力も失わせます。
Barre: 私は米国で大学を過ごし、この国を深く愛しています。しかし今の米国の制度の弱さには驚かされます。かつては最も強固な民主主義、強力なチェックアンドバランスを持つ国だと思っていた。しかし今、米国のCEOたちと話すと、多くの人が非公開では言えることを公開では言えないでいます。自社への報復を恐れているからです。これが米国の話なのかと、私は愕然としています。もう一点、米国の国家戦略文書が共有されたとき、そこで欧州がどのように描写されていたか——それは同盟国や友人への描写ではありませんでした。
De Wael: 友人への介入ということでしょう。私たちは文明的な消去(civilizational erasure)に直面しており、彼らは助けに来る必要があると。しかし大西洋主義が本当に死ぬならば——そうならないことを願っていますが——グローバリゼーションも一緒に死ぬことになります。それは明白です。そしてその世界では、草食動物のままでいることはできません。それが欧州の学ぶべき教訓です。目を覚まさなければならない。再軍備しなければならない。市場を統合し、市場を武器化しなければならない。そして新たな同盟を模索しなければならないのです。
6. 欧州の自立に向けた処方箋:再軍備・市場統合・新同盟・技術主権
6-1. 米国の構造的パワーシフトと欧州が学ぶべき教訓
De Wael: 私たちはTrumpについて不満を言い続けることができます。今日のあらゆる会話でTrumpの名前が出てきます。彼のやり方、言い方、屈辱の与え方——それは確かに度を越しています。しかしそれは、欧州が自分自身の宿題をすることを免除する理由にはなりません。もしかしたら5年後に私たちは「Trump大統領、ありがとう。あなたのおかげで目が覚め、より強く、より団結した欧州を時間内に構築できた」と言えるかもしれない。どちらに転ぶかはわかりません。団結するか、グローバリゼーションが死に欧州がその犠牲者になるか、どちらかです。
重要なのは、米国の変化はTrumpという一つの政権に縛られたものではないということです。これは構造的なシフトです。Obamaが「私は最初の太平洋大統領だ」と言ったとき、すでにその予兆はありました。米国の顔は太平洋に向き、大西洋には背中を向けている。これはTrumpの後も変わらない構造的なものです。私たちは目を覚まし、自分たちの宿題に集中すべきです。Mercosurの合意は非常に有益でした。それを実行しなければなりません。既存の同盟を破棄する必要はありませんが、新たな同盟を模索しなければなりません。
Barre: 私もDe Waelと完全に同意します。一つ際立った事実として、私が米国のCEOたちと話すとき、多くの人が非公開では言えても公開では言えないことがあります。自社への報復を恐れているからです。かつて最強の民主主義、強固なチェックアンドバランスを持つと思っていた国でこれが起きている。これが今私たちが直面している米国の現実であり、この認識を持った上で欧州としての立ち位置を考えなければなりません。
6-2. 対中関与の可能性と欧州経済凋落を示す数字
Rachman: 中国に対してある程度傾く必要がありますか。
De Wael: 中国との関与は続けなければなりません。中国は常に謎です。完全な帝国主義に向かう可能性もあれば、ウィン・ウィンの関係に向けて関与できる可能性もある。しかし欧州が団結してこそ、「私たちのウィンは何か」を中国に対して主張できます。今は彼らのウィンと私たちのロスという構図になっています。
数字が嘘をつかないことを見てください。2007年、欧州経済は中国の10倍の規模でした。今や私たちは同規模です。2007年、私たちは米国と同規模でした。今や米国は私たちより50%大きい。この差全体がテクノロジーセクターにあります。私たちは自分たちが所有も制御もしないテクノロジーに完全に依存する状態になってしまいました。中国はそのようなやり方をしませんでした。彼らは違うやり方をした。私たちは少し無邪気すぎたのです。今こそ目を覚ます時です。明日の繁栄を構築するための独自の技術プラットフォームが必要です。そうでなければ、Trumpは私たちを思いのままに扱うことができます。私たちが実際に奴隷であるならば、彼は私たちを奴隷として扱えます。そして彼の言うことをそのまま受け入れざるを得なくなります。
Mensch: テクノロジーの依存が米国の最大の権力ベクターであることは間違いありません。私たちがMistralで取り組んでいるのはまさにこの問題です。防衛、経済、そして情報主権という三つの軸でレバレッジを構築することです。欧州はもっと欧州のテクノロジーに投資し、もっと欧州のテクノロジーを調達し、米国のテクノロジーの調達を減らすべきです。それが私たちを前進させるでしょう。AIは再プラットフォーム化の機会であり、欧州にはエネルギー、人材、世界クラスの製造業・金融サービス企業という強みがあります。これらを活かして、デジタルサービスの依存という最大のリスクに対処していくことができます。楽観的になれる理由は確かにあります。私たちはその機会を活かすべきです。
7. EU拡大政策の再定義と質疑応答
7-1. 条件主義から地政学的アプローチへ——ウクライナ加盟と西バルカンの扱い
Rachman: Plenković、クロアチアはEUへの最後の加盟国ですが、それはもう13年前のことです。拡大は今も欧州が自らを強化する手段として追求すべきものだとお考えですか。
Plenković: 絶対にそうです。私たちはEUの最後の加盟国ですが、NATOには2009年に加盟しました。当時、Bucharest NATOサミットの後、Bush大統領がクロアチアを訪れ、ザグレブの政府・議会前のSan Marco広場で「誰もあなたたちの自由を奪うことはない」と述べました。かつて占領地が領土の27%に達したことがある国にとって——これはちょうど2022年のウクライナの状況と同じ割合です——これは安定と平和の保証として非常に重要なメッセージでした。だからこそ、私たちにとって大西洋横断関係を維持することは重要なのです。それは民主主義と西側をどう見るかという私たちの思考に根付いており、リトアニアも同様の論理を持っていると確信しています。
拡大の見え方という点では、私たちは今、視点を変えるべき時点に来ていると思います。これまでの拡大の視点は、各国がそれぞれの基準——政治的、経済的、法の支配の基準——を自国の成果として満たすというものでした。しかし今、もしウクライナの和平合意の一部として、ウクライナのEU加盟に向けたペースを加速することが条件となるならば、拡大へのアプローチは完全に変わりえます。それは完全に地政学的なアプローチになり、私たちの近隣諸国、特に西バルカン諸国にも空間が開かれることになります。私たちにとって戦略的に重要なのは、ウクライナへの強力な支援を続けながら、私たちの近隣、特にボスニア・ヘルツェゴビナも、これまでよりも好意的な目で見られる機会をつかんでほしいということです。
この議論はEUの吸収能力という問題にも直結します。私たちはこれをあまり語りませんが、これは極めて重要な要素です。まず意思決定の問題があります。6カ国、9カ国、12カ国、15カ国、25カ国、27カ国での意思決定でさえ複雑なのに、35カ国、36カ国となればさらに複雑になります。そして予算上の影響も無視できません。私たちの多くはいまだに結束基金の受益者側——つまりEU予算の分配機能においてネット受益者の側——にいます。クロアチアはEU予算への貢献額が、実際に受け取るべき水準よりも少ない。これが欧州の結束、農業・予算政策を通じた連帯の論理です。ウクライナが加盟すれば、事情は大きく変わります。2028〜2034年の次期多年次財政枠組みの交渉と並行して、拡大が何をもたらすかについて新鮮な目で見直す必要があります。これはEUがより強くなるべき、産業、競争力、AI、そして何より防衛と安全保障において強くなるべきグローバルな瞬間であり、その文脈において拡大を軽視すべきではありません。東南欧州のグレーゾーン、つまり欧州連合の本体の中にある空白地帯を埋めていくべきです。
7-2. 独裁者との対話・制裁緩和は有効か、多速度ヨーロッパ論、加盟日程の政治的設定
会場からベラルーシ民主化プロセスの指導者が発言を求め、「ロシアやベラルーシへの制裁を解除すべきだ、あるいは独裁者と関与すべきだという声を耳にする。これは有効なのか」と問いかけました。
Rachman: 米国がロシアと対話しているのだから、欧州もロシアと話すべきだという意見もあります。どうお考えですか。
Nausėda: 米国はベラルーシとも対話しています。ベラルーシは政治犯を釈放する一方で、新たな囚人を刑務所に送り込んでいます。ベラルーシへの対応についても団結が問われています。私はベラルーシに対してもロシアと同じ政策を適用すべきだと考えています。ベラルーシはこの地域における不安定の源泉であり、Oreshnikシステムの配備、戦術核兵器の配備、さらには安全基準に違反した新たな原子炉建設計画まであります。これは今後1〜2年の問題ではなく、今後10年にわたる問題になりうるものです。この体制は自己強化を続けており、その問題は非常に根深い。
De Wael: Putinと交渉するには大きな棍棒が必要ですが、私たちにはそれがありません。柔らかく話すことしかできない。それが問題です。しかし欧州の本当の力は拡大にあります。人々は欧州連合に加盟したいと思っている。中国に加盟したいとは誰も思わない。米国の隣国も米国に加盟したいとは言わない。欧州連合には法の支配と尊厳があるから、加盟したいのです。ただしこの拡大の議論は矛盾も含んでいます。今まさに大きな棒を手に入れるために深い統合が必要なときに、拡大の議論はそれと矛盾します。おそらく私たちは両方をやるべきで、多速度ヨーロッパを創ることが答えかもしれません。拡大は望ましい。いつかベラルーシ民主化運動の真のリーダーとして欧州の家族に加わってほしいと心から思っています。
続いてウクライナの大手鶏肉生産企業MHPの副社長を名乗る人物が発言し、ウクライナへの支持への感謝を述べた上で、「欧州がウクライナの潜在力を戦略的自律の強化にどう活かすか、より明確な戦略が必要ではないか」と問いかけました。
Plenković: サンクションの問題について明確にしておきたいことがあります。米国とロシアの対話は、まずモスクワとワシントンの関係を回復させることが第一の目的です。第二に、欧州、米国、英国などによる様々な制裁レジームを段階的に解除できる立場に立つこと。第三に、国際社会における完全な名誉回復を求めることです。この三段階は極めて明確です。ここ数カ月の交渉の文脈で起きていることはすべてその方向に動いています。制裁はロシア経済に確かに影響を与えましたが、政治的路線、政治的文脈、野党の強化、体制の弱体化、政策の転換——いずれにも反映されませんでした。これが私たちが扱っている問題の特殊性であり、だからこそ米国は新しいTrump第二期政権のもとで欧州連合の他のメンバーとは異なる文脈で話すことができる立場に自らを置いているのです。彼らは自分たちに機動余地を与えたのです。
ウクライナの問題についていえば、ウクライナは安全保障と防衛において欧州に多くのものを提供できます。ウクライナ軍は今日、これほど大規模な戦争と防衛のテストを受けた唯一の軍隊です。他のどの国もこれほど大規模なテストを経験していません。クロアチアは30年前に問題を抱えていましたが、ウクライナが耐え忍んできたこと、そしてこれほど強く抵抗してきたこと、現在不法に占領・併合されている領土の割合を27%から19.5%まで減らしてきたこととは比べ物になりません。私はZelenskyy大統領に「領土を譲渡するいかなる文書にも一滴のインクも署名しないように」と伝えました。
最後に私は一つの具体的な提案を申し上げます。私はすべての欧州理事会の会議で、ウクライナのEU加盟に向けた明確な加盟日程を設定すべきだという考えを主張しています。法的拘束力のある期日としてではなく、政治的な野心として。この考えを支持する同僚が増えることを願っています。これはあなた方が言及した戦略的自律への貢献にもなるでしょう。
Rachman: 具体的で力強い提案でこのセッションを締めくくるのにふさわしい言葉です。パネリストの皆さん、そして会場の皆さん、ありがとうございました。
