※本記事は、AI for Good主催のウェビナー「Are AI jobs driving up demand for STEM education? Yes, but not for women」の内容を基に作成されています。本ウェビナーはITUが50以上の国連パートナーと共同で運営し、スイス政府と共同開催するAI for Goodプラットフォームの一環として開催されました。ウェビナーの詳細およびアーカイブ映像はhttps://aiforgood.itu.int/neural-network よりご覧いただけます。
登壇者は以下の3名です。Alexis Antoniades氏はジョージタウン大学カタール校にて国際経済学の教授・学科長・ディレクターを務めています。Hannah Liepmann氏は国際労働機関(ILO)調査・出版部門のエコノミストです。Pawel Gmyrek氏はILOのシニア・リサーチャーです。
本記事ではウェビナーの内容を要約・再構成しております。原登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りが生じている可能性もありますので、正確な情報や文脈についてはオリジナルの映像をご視聴いただくことをお勧めいたします。
第1部:Alexis Antoniadis 発表
1. 問題設定:ジェンダー賃金格差の現状と職業選択の役割
1.1. 過去40年の賃金ギャップの推移と停滞の構造
Antoniadis: まず、今日の議論の背景として、ジェンダー賃金格差の長期的な推移をご覧いただきたいと思います。いくつかの条件を統制した上で比較すると、男性は平均的に女性よりも37.7%高い賃金を得ているというデータがあります。この数字は決して小さくありませんが、歴史的に見れば1980年代には大幅な縮小が見られました。ところが、その後の約30年間、この格差はほとんど変化していません。つまり、大きな進歩は過去40年の前半に集中しており、ここ数十年は停滞が続いているというのが現状です。
1.2. 教育水準ではなく職業選択が格差の主因であるという根拠
Antoniadis: では、なぜ賃金格差が生じるのかという問いに対して、多くの人は教育水準の違いを思い浮かべるかもしれませんが、データを見るとそれは主因ではありません。教育水準ごとに男女の賃金を比較したグラフを見ると、どの学歴レベルにおいても男性の賃金は女性を上回っており、教育の差で格差を説明することはできないのです。同様の傾向は人種や年齢など他の属性間の不平等についても確認されています。では何が格差を生み出しているのか。それは職業選択です。この点を本日の議論の出発点として押さえておいていただきたいと思います。技術の進歩、すなわちスキル偏向型の技術変化によって、一部の職業への需要が他よりも急速に伸び、その職業の賃金水準も同様に上昇してきました。需要が高まった職業に就いた人の賃金は上がり、そうでない職業に就いた人の賃金は伸び悩む。これが不平等を生み出す根本的なメカニズムです。
1.3. AIが創出するSTEM雇用機会と女性参入の意味
Antoniadis: このことを念頭に置いて、今まさにAIが新たな雇用機会を大量に生み出しつつあるという現実を見てください。私たちのデータによれば、2014年には米国で掲載されたすべての求人のうちAI関連スキルを求めるものは1%未満でしたが、2022年には2.2%、つまり50件に1件以上がAI関連スキルを要求するようになっています。そしてSTEM分野、すなわち科学・技術・工学・数学の従事者は、非STEM職と比べて平均26%高い賃金を得ています。女性に限って見れば、そのプレミアムはさらに大きく35%に上ります。ところが、STEMで働く労働者のうち女性が占める割合はわずか24%にとどまっています。つまり、女性がSTEMに参入すれば賃金面で大きな恩恵を受けられるにもかかわらず、実際には著しく過少参入の状態にあるわけです。AIによって高賃金のSTEM職が今後さらに増えていくとき、その恩恵を女性が享受できるかどうかは、ジェンダー賃金格差の今後の行方を左右する非常に重要な問いになります。
2. 研究の動機・問い・データ
2.1. STEM賃金プレミアムと女性の過少参入という二重の問題
Antoniadis: 私たちがこの研究に取り組んだ動機は、先ほど示した二つの事実の組み合わせにあります。一方では、AIの普及によってSTEM関連の求人が急増しており、それらの職は非STEM職に比べて高い賃金を提供しています。他方で、そのSTEM分野に女性は24%しか参入できていない。この二重の問題が重なることで、AIの恩恵が男性に偏って分配されるリスクが生まれます。もし現状のまま推移すれば、過去40年かけて積み上げてきたジェンダー賃金格差の縮小という成果が、AI時代の到来によって逆転してしまう可能性があります。この危機感が本研究の出発点です。
2.2. AIがSTEMジェンダーギャップを縮小・拡大する2つのシナリオと2つのリサーチクエスチョン
Antoniadis: AIの普及がSTEM教育のジェンダーギャップに与える影響には、理論的に二つの相反するシナリオが考えられます。一つ目は楽観的なシナリオです。AI関連の求人が増えることで、より多くの学生がSTEM学位を目指すようになり、その動きが女性においても男性と同等かそれ以上に強く働けば、STEMのジェンダーギャップは縮小します。その結果、より多くの女性が高賃金のSTEM職に就き、ジェンダー賃金格差はさらに縮小するという好循環が生まれます。二つ目は悲観的なシナリオです。AIがSTEMへの需要を全体として押し上げたとしても、その恩恵が女性よりも男性に偏って及ぶのであれば、STEMのジェンダーギャップは相対的に拡大します。その場合、高賃金のSTEM職を得るのはますます男性に偏り、ジェンダー賃金格差は再び拡大に転じてしまいます。このような問題意識から、本研究では二つのリサーチクエスチョンを設定しました。第一に、AIの普及はSTEM教育への需要を高めるか。第二に、もし高めるとすれば、その効果は男女に均等に及ぶのか、それとも不均等なのか。シンプルですが、なぜこれが重要な問いであるかは十分にご理解いただけたと思います。
2.3. 学位取得データと求人票データ(Lightcast社)の構造・AI需要の測定方法
Antoniadis: この問いに答えるために、二種類のデータを組み合わせました。一つ目は学位取得データです。米国の約5,348機関を対象とし、分析期間である2013年から2021年を通じて継続的にデータが取得できる機関に絞っています。毎年320万件から370万件の学位取得記録があり、各レコードには取得した学位の種類、専攻分野、それがSTEMか否かの分類、機関の所在地、そして性別・年齢・人種といった学生の属性情報が含まれています。二つ目はAI需要のデータです。ここではLightcast社が提供するオンライン求人票データを用いました。同社は米国の4万から5万のポータルサイトから求人情報を毎日収集しており、その膨大なデータを活用することができます。AI需要の測定は非常にシンプルな手法によります。求人票をスキャンし、AIに関連するキーワードが含まれているものをAI求人として識別します。たとえば機械学習、自然言語処理、コンピュータビジョンといった用語が対象になります。こうして特定の地域、たとえば米国のある郡において、ある期間に掲載された求人のうちAI関連スキルを求めるものが何%を占めるかを計算します。2014年に管理職分野ではこの比率が0.4%でしたが、2022年第1四半期には1.9%に上昇しています。コンピュータ・数学分野では同期間に3.3%から15.8%へと急増しており、分野によって伸びに大きなばらつきがあることも確認できます。分析の枠組みとしては、AI求人比率が高い郡とそうでない郡を比較し、AI需要の強度がSTEM学位取得に与える影響を推定します。その際、移民の流入、オフショアリング、アウトソーシング、失業率、所得水準など、AI以外の要因によるSTEM需要への影響を丁寧に統制します。
2.4. 内生性問題とShift-Share操作変数法による対処
Antoniadis: この分析にはひとつ重大な計量上の懸念があります。それは内生性の問題です。因果関係の方向として私たちが想定しているのは、AI求人が多い地域では学生がSTEMを選びやすくなるというものですが、逆の因果関係も成り立ちえます。つまり、ある地域でSTEM人材が豊富に育っているからこそ、企業がその地域にAI関連のビジネスを展開し、AI求人を多く掲載するという方向です。この逆方向の因果関係が存在すると、単純な回帰分析ではAIの真の効果を正確に推定できません。この問題に対処するため、私たちはShift-Share操作変数法と呼ばれる手法を用いました。詳細な説明は論文に譲りますが、この操作変数を用いることで、地域固有の要因に起因するAI需要の変動を適切に取り除き、AIがSTEM教育需要に与える因果効果を識別することが可能になります。結果の報告においては、操作変数を用いない推定値と用いた推定値の両方を示しており、頑健性の確認も行っています。
3. 分析結果①:AIはSTEM教育需要を広く押し上げる
3.1. AIジョブ比率の上昇とSTEM学位取得率の増加の実態
Antoniadis: まず全体的な傾向を確認しておきましょう。米国では2013年時点で授与された全学位のうちSTEM学位が占める割合は16%でしたが、2021年には22%まで上昇しています。同期間に、AI関連スキルを求める求人の比率も1%未満から2.2%へと倍増以上の伸びを見せています。ただし、STEM学位取得率の上昇が観察されるからといって、それが直ちにAIの影響によるものとは言えません。私たちが取り組んだのは、まさにそのSTEM需要の増加の中からAIに起因する部分を計量的に切り出すという作業です。
分析の結果、操作変数を用いた推定において係数は17.17という正の値を示し、統計的にも有意でした。これは、AI求人比率が高い郡ほど、その地域の機関においてSTEM学位を取得する学生が有意に多いことを意味します。つまり、AIへの需要の高まりは、学生をSTEM教育へと向かわせる実質的な力として機能しているということです。「ChatGPTのようなAIが普及すればSTEMを学ぶ必要がなくなるのではないか」という直感とは逆に、AIの浸透はむしろSTEM教育への需要をさらに押し上げているという結果が得られました。この点は政策的にも重要な含意を持ちます。
3.2. 学位種別(準学士・学士・修士)および全人種での一貫した正の効果
Antoniadis: 次に、この正の効果が特定の学位種別や特定の人種集団に限定されたものなのか、それとも幅広く観察されるものなのかを確認しました。学位種別で見ると、準学士、学士、修士の三種類で分けて分析を行いました。準学士、すなわち2年制コミュニティカレッジにおける技術系短期学位については、AIの影響は統計的に有意ではありませんでした。一方、学士と修士については、いずれも経済的・統計的に有意な正の効果が確認されました。AIがSTEM教育に与える影響は、4年制大学および大学院レベルにおいて最も強く現れるというこの結果は、直感的にも納得のいくものです。AI関連職の多くが学士以上の学位を前提としていることを考えれば、学生がその需要シグナルに応じて学士・修士課程でのSTEM選択を増やすのは合理的な行動と言えます。
人種別の分析では、アジア系、黒人、ヒスパニック系、白人、その他のいずれの人種においても、AIがSTEM学位取得に与える効果は正であることが確認されました。効果の大きさはアジア系と白人で相対的に高くなっていますが、いずれの人種グループでも正の効果が観察されたことは注目に値します。AIによるSTEM需要の押し上げは特定の人種集団だけに恩恵をもたらすものではなく、広く学生全体に及んでいるという意味で、これは歓迎すべき結果です。以上が第一の問いへの答えです。AIはSTEM教育への需要を確かに高めており、その効果は学士・修士レベルで顕著であり、かつ人種を問わず広く観察されます。
4. 分析結果②:AIはSTEMのジェンダーギャップを拡大させる
4.1. ジェンダーギャップ指標の定義と全学位種別・全人種での格差拡大の確認
Antoniadis: STEMのジェンダーギャップをどのように測定するかについて、まず定義を明確にしておきます。私たちが用いる指標は、男性学生全体に占めるSTEM学位取得者の割合から、女性学生全体に占めるSTEM学位取得者の割合を引いたものです。たとえば、男性学生の10%がSTEM学位を取得し、女性学生も同じく10%がSTEM学位を取得しているなら、ギャップはゼロです。しかし男性が10%、女性が8%であれば、ギャップは2%となります。この指標が正の値を取るほど、STEMにおける男性優位の構造が強いことを意味します。
このギャップの推移を見ると、2013年から2021年にかけて米国ではSTEM教育のジェンダーギャップが一貫して拡大しています。これ自体すでに憂慮すべき事実ですが、私たちが問いたいのはAIがこの趨勢にどう関与しているかです。分析結果は非常に明確でした。操作変数を用いた推定において、AI求人比率の上昇はSTEMジェンダーギャップを統計的に有意に拡大させることが確認されました。つまり、AIへの需要が高まるほど、男性学生はSTEMへ向かう傾向が女性学生よりも強く強化されるということです。
この結果は学位種別で分けても変わりません。準学士ではギャップが縮小する方向に動いていますが、学士と修士ではいずれもジェンダーギャップが拡大しています。さらに人種別に見ても、アジア系、黒人、ヒスパニック系、白人、その他のすべての人種グループにおいて、AIはSTEMジェンダーギャップを拡大させるという結果が得られました。第一の発見としてAIがSTEM全体の需要を人種を問わず押し上げることを示しましたが、第二の発見はその恩恵が男女に均等には届いていないという、社会的に深刻な含意を持つものです。
4.2. コンピュータサイエンス・工学など男性優位分野への需要集中というメカニズム
Antoniadis: なぜAIはSTEMジェンダーギャップを拡大させるのでしょうか。そのメカニズムを理解するには、STEM内部の分野構成に目を向ける必要があります。STEM学位といっても、その内訳は非常に多様です。心理学や保健・医療系の学位もSTEMに分類されますが、これらは女性学生が多数を占めます。たとえば心理学では、女性10人に対して男性3人という比率になっています。一方、工学や輸送・材料加工の分野では、女性10人に対して男性が78人という極端な男性優位の構成になっています。
AIが生み出す求人はコンピュータサイエンス、数学、工学といった分野に集中しています。実際、コンピュータ・数学分野のAI求人比率は2014年の3.3%から2022年には15.8%へと大幅に上昇しており、他の分野を圧倒する伸びを示しています。これらの分野はもともと男性学生が圧倒的多数を占めており、AIによって需要が高まった際に流入するのも主として男性学生です。つまり、AI需要の拡大がSTEM全体への進学を促しているのは確かですが、その流入が向かう先は女性学生が多い保健・心理分野ではなく、男性学生が多いコンピュータサイエンスや工学だということです。この集計上の偏り、いわゆる集計バイアスがジェンダーギャップ拡大の主たるメカニズムです。STEM全体としての数字が改善しているように見えても、その内訳を見れば男性優位分野への集中がギャップを広げているという構造が浮かび上がります。
4.3. ロバストネス検定の概要と頑健性の確認
Antoniadis: この発見が特定の分析条件に依存した偶発的なものでないことを確かめるため、私たちは多数のロバストネス検定を実施しました。まずAI求人データをラグ処理し、2期分(約4年)遅らせて学位取得データと照合しても結果は変わりませんでした。次に、AIスキルの定義を拡張して対象キーワードを広げても、結果は本質的に変化しませんでした。操作変数を比率ではなく水準で構築するという別の手法を用いても同様です。また、コンピュータサイエンス関連の職業を分析から除外した上で再推定しても、やはり結果は頑健でした。さらに共和党優勢州と民主党優勢州で分けた分析や、州議会における女性議員比率が高い州と低い州で分けた分析も行いましたが、いずれにおいてもAIがSTEMジェンダーギャップを拡大させるという方向性は揺らぎませんでした。当初、私たちはこの否定的な結果が何らかの条件のもとで消えてくれることを期待していました。しかし、様々な切り口で繰り返し検証を行っても結果は一貫しており、AIによるSTEMジェンダーギャップの拡大は非常に頑健な発見であると言わざるを得ません。
5. 緩和要因:女性STEM教員のロールモデル効果と政策的含意
5.1. 役割モデル仮説と先行研究・SCIET学術データベースによる女性教員比率の推計手法
Antoniadis: AIがSTEMジェンダーギャップを拡大させるという頑健な結果を前にして、私たちの研究チームはこの負の効果を和らげる要因が存在しないかを探り始めました。最初はブルー州とレッド州の比較、州議会における女性議員比率の高低など、様々な変数を試みましたが、いずれも結果を変えるには至りませんでした。そうした模索の中で私たちが注目したのが、女性教員・マイノリティ教員がロールモデルとして果たす役割に関する先行研究の蓄積です。この分野の文献は必ずしも大量にあるわけではありませんが、重要な知見が積み上げられています。女性の学生にとって女性の教員が身近にいることが、進路選択や学習継続に正の影響を与えるというものです。その理由としては複数の説明が考えられます。女性教員が女性学生にとってより良いメンターになりやすいという説、女性学生が女性教員に相談しやすいという説、あるいは女性教員の存在そのものが「自分もこの分野でやっていける」という自己効力感を高めるロールモデルとして機能するという説です。いずれの説明が正しいにせよ、様々な研究がこの効果の存在を示唆しています。同様に、マイノリティの学生にとってマイノリティの教員が与える正の影響も確認されています。
こうした先行研究を踏まえて私たちが検証したのは、STEM分野における女性教員の比率が高い機関では、AIによるSTEMジェンダーギャップの拡大効果が弱まるかどうかという問いです。ただし、この検証には一つの大きな障壁がありました。機関ごと・専攻分野ごとの教員の性別構成に関するデータが存在しないのです。そこで私たちが活用したのがSCIET(Science and Technology)と呼ばれる学術データベースです。このデータベースには2億7,200万件もの学術論文が収録されており、各論文には著者の所属機関と著者名が記録されています。SCIETはこのデータを用いて、著者の姓からその民族的背景(「トライブ」と呼ばれる分類)を推定し、さらに名前と確率的モデルを組み合わせることで著者が男性か女性かを推定しています。私たちはこの情報を機関レベルで集計することで、各機関・各STEM分野における女性教員の比率を推計しました。手法としてはやや間接的ですが、論文の詳細はペーパーに記載しており、これにより機関横断的な女性教員比率の代理変数を構築することができました。
5.2. 女性教員比率が高い機関ではジェンダーギャップ拡大効果が消失するという実証結果
Antoniadis: この女性教員比率の変数を分析に組み込んだ結果は、非常に示唆に富むものでした。基本的な結果として、AI求人比率の上昇はSTEMジェンダーギャップを拡大させるという正の係数が確認されます。ここまでは先ほどお示しした通りです。しかしそこに、AI求人比率と女性教員比率の交差項を加えると、その係数は負の値を示しました。具体的には、AI求人比率が高い環境でも、女性STEM教員の比率が高い機関ではジェンダーギャップへの負の影響が打ち消される方向に働いています。二つの係数を合算すると、女性教員比率が高い機関においてはAIによるジェンダーギャップ拡大効果が実質的に消失することが確認されました。この結果は全学位種別において一貫しており、女性教員比率が低い機関と高い機関とを比較したとき、後者ではAIの負の影響が明確に弱まっています。
つまり、AIがSTEMジェンダーギャップを広げるという問題に対して、女性STEM教員の存在が有効な緩和要因として機能しうることが、データによって示されたということです。私自身の身の回りでも似たような現象を目にしています。私の隣には優秀な若手の女性経済学者がいて、彼女のオフィスの前には常に学生の列ができています。また別の同僚には女性の歴史学者がいますが、彼女のオフィスにも同様に多くの学生が集まります。二人とも優れたメンターですが、女性学生が女性教員のもとに集まりやすいという傾向は明らかに存在します。そしてもし女性学生を鼓舞するロールモデルが歴史学の教員しかいなければ、その学生は歴史学者になるかもしれない。逆に、数学や工学に女性教員が揃っていれば、その分野への進路選択が促される可能性があります。この発見はまさにその直感をデータで裏付けるものです。
5.3. 生成AI登場後の展望・コーディング不要化と女性の新たな機会・研究の限界と今後の課題
Antoniadis: 本研究のデータは2013年から2021年を対象としており、ChatGPTが公開された2022年末以降の生成AI時代は分析の射程に含まれていません。この点について正直に申し上げると、生成AIの登場以降も同様の傾向が続いているかどうかは現時点では確認できていません。ただ、私が他の研究や観察から得ている印象では、AIがSTEMジェンダーギャップに与える負の影響が生成AI時代に突然消えるとは考えにくく、むしろ引き続き懸念すべき問題として残ると見ています。
一方で、生成AIの普及は新たな可能性も開いています。これまでゲーム開発やソフトウェア開発の現場を見ると、開発チームはほぼ男性で占められていましたが、それはコーディングという技術的障壁が参入条件として機能していたからです。しかし生成AIによってコーディングの重要性が相対的に低下し、アイデアや視点、コミュニケーション能力がより重要になれば、これまで技術的障壁によって排除されてきた女性が開発チームに加わりやすくなります。ゲームはすべての人に向けて作られるものであるにもかかわらず、開発者に女性の視点が欠けていれば、その分だけ多様性に乏しいプロダクトになってしまいます。その意味で、技術的障壁の低下は女性の参入機会を広げる力を持ちます。実際に私が大学院生に対してLLMを活用したアルゴリズム取引モデルの課題を課したとき、パフォーマンスの高さはコーディングの技術よりも、AIエージェントに対して的確に意図を伝えるコミュニケーション能力によって左右されることがわかりました。そして先週、ソブリン・ウェルス・ファンドの幹部向けトレーニングで同様の演習を行ったところ、主に男性から構成されるチームの中で最も優れた成果を上げたのは女性参加者たちでした。創造性や対話的な思考、相手の意図を汲む能力といった、これまで十分に評価されてこなかった強みが、AI時代においてはより高く評価される可能性があります。
ただし、本研究が捉えているのはあくまでSTEMという一つのチャネルを通じた影響であり、AIが女性に与える影響の全体像を描くものではありません。今後は複数の研究を積み重ねることで、より包括的な理解を形成していく必要があります。
第2部:Hannah Liemann コメントと討論
6. 労働市場のジェンダー平等化が困難な構造的背景
6.1. AI普及による男性優位職の需要増と人口高齢化によるケア労働需要増という二重トレンド
Liemann: Alexisの発表は非常に興味深く、AIとジェンダーに関する研究文献に重要な貢献をするものだと思います。その上で、私はまずより広い視野から労働市場のジェンダー平等化という問題を考えてみたいと思います。結論から申し上げると、近い将来に労働市場が男女にとってより平等なものになる可能性は低いと見ています。その理由は二つの大きなトレンドが同時進行しているからです。
一つ目はAlexisが示してくれたトレンド、すなわちAIの普及による技術変化が男性優位の職業への労働需要を押し上げているというものです。二つ目は、多くの地域で進行している人口高齢化です。高齢化は医療、教育、社会福祉といったケア労働全般への需要を大きく押し上げており、これらは女性が多数を占める職業です。一見すると、ケア労働への需要増加は女性にとって追い風のように思えるかもしれません。しかし問題はそう単純ではありません。女性優位の職業は平均的に賃金水準が低く、この職業分離の構造が女性とその家族の経済的安定に直接的な影響を与えているからです。つまり、AIが男性優位の高賃金職への需要を増やす一方で、女性優位の職業への需要も増えてはいるものの、その職業の賃金水準が低いままであれば、ジェンダー間の経済格差は縮まるどころか広がり続ける恐れがあります。Francine Blauが最近ILR Reviewに記したように、また今日Alexisが示した賃金格差の推移グラフが示すように、大きな社会的・政治的変化がない限り、ジェンダー賃金格差が近い将来に縮小する見通しは明るくありません。
6.2. 職業分離の根本原因:社会規範・差別・ケア労働の構造的過小評価
Liemann: では、なぜ男女は異なる職業に集中するのでしょうか。Alexisが見出した女性STEM教員のロールモデル効果は、この問いに対して非常に示唆的な答えを提供しています。女性教員の存在が女性学生のSTEM進学を後押しするという発見は、職業選択における社会規範の強力な影響を示しているからです。この点に関連して、社会学者Paula Englandの研究が思い起こされます。彼女の議論によれば、女性は母親世代の職業選択を参照点として自らの進路を選ぶ傾向があります。かつて母親世代が事務・サポート系の職業に就くことが多かった時代、その娘世代は管理職や専門職へと上昇しましたが、それでも会計やHR管理といった母親世代の仕事に近い分野にとどまりやすかったとされています。一方、土木技術者やコンピュータプログラマーといった職業は選ばれにくかった。特にコンピュータプログラミングは興味深い事例で、米国では一時期女性の参入比率が増加したにもかかわらず、その後再び低下に転じています。進歩は必ずしも一方向ではなく、逆行することもあるという現実を示しています。
社会規範の影響は明らかですが、それだけが原因ではありません。差別もまた重要な役割を果たしています。特に男性優位の技術職や、職場内訓練(OJT)への依存度が高い職業において、女性の参入を阻む制度的・慣行的な障壁が存在することは研究によって確認されています。大学卒業資格を必要とする職業においても差別の影響は確認されており、定量的に捕捉することは難しいながらも、その存在は否定できません。
そしてもう一つ、私たちがILOで特に重視しているのがケア労働の構造的な過小評価という問題です。これはAlexisが論じてきた問題のいわば裏側に位置するものです。男性優位の職業の賃金が高いということは、女性優位の職業の賃金が相対的に低く評価されているということでもあります。育児、介護、教育、医療といったケア労働は社会の根幹を支える不可欠な仕事でありながら、その価値が賃金に十分反映されていないというのが現実です。
6.3. 社会情動スキルの賃金リターン非均一性(ILO新知見):ビジネスサービスでは有意・ケア労働では有意でない非対称性
Liemann: この問題を別の角度から照らし出す新しい知見を、私たちはILOのワーキングペーパーとして準備中です。Ariana Higavishとの共同研究で、米国の労働市場における社会情動スキルの賃金リターンを分析したものです。社会情動スキルとは、対人コミュニケーション、共感、協調性、感情調整といった能力を指します。これらは女性が比較優位を持つと先行研究で示されており、少なくとも男性よりも頻繁に活用していることが確認されています。AIが技術的スキルの代替を進める中で、こうした社会情動スキルの重要性が高まることへの期待は大きく、未来の労働市場において女性にとって有利に働くのではないかという希望的観測もあります。
しかし私たちの分析結果は、そのような楽観的な見方に慎重さを求めるものでした。確かに米国の労働市場全体で見れば、社会情動スキルには正の賃金リターンが存在することが確認されました。ところがそのリターンは労働市場全体で均一なわけではありません。男女が比較的混在するビジネスサービス分野では、社会情動スキルへの賃金リターンは非常に大きく統計的にも有意です。ところが、社会情動スキルが最も重要であるはずのケア労働、すなわち女性が多数を占め、日常的にこれらのスキルを駆使している分野においては、その賃金リターンはほとんど有意ではないという結果が得られました。
Liemann: この発見は、女性優位の職業が社会的に過小評価されているという構造的現実をデータで裏付けるものだと私たちは解釈しています。社会情動スキルが最も必要とされる場所で、そのスキルへの報酬が最も低い。これはスキルの市場価値が職業の性別構成によって歪められているという、職業分離がもたらす本質的な問題を映し出しています。
Antoniadis: Hannahの指摘は非常に重要です。私たちはしばしばSTEMへの参入を促すことだけを議論しがちですが、それと並行して、女性が多く従事しているケア労働そのものの価値を社会として正当に評価し直すことも不可欠です。ソフトスキル、コミュニケーション能力、創造性といったものは、AIが技術的障壁を下げていく時代においてますます重要になっています。私が授業で学生にLLMを使ったアルゴリズム取引の課題を課したとき、成績を左右したのはコーディングの技術よりも、AIに対して的確に意図を伝えるコミュニケーション能力でした。これまで過小評価されてきたこれらのスキルが、AI時代においてより可視化され、適切に評価される方向に社会が向かうことを期待しています。
Liemann: ただし、市場の力だけでこの問題が自然に解決されるとは考えにくい状況があります。ケア経済には特殊な構造的特徴があるからです。ケア労働は公共財的な性質を持っており、その労働が生み出す便益が市場価格に反映されにくい構造があります。また、ケア労働の雇用市場では単一買い手独占(モノプソニー)的な市場構造が生じやすく、労働者の交渉力も限られています。こうした特徴が組み合わさることで、労働不足が進行しても賃金が十分に上昇しない状況が生まれやすく、市場メカニズムだけでは問題が解決しないことを示しています。この点において、政策的な介入の必要性は明らかです。
第3部:質疑応答・地域差・総括
7. 1990年代以降のトレンドとの連続性・地域差・政策的展望
7.1. 女性がコンピュータサイエンスを選ばない背景と本研究の新規性
Pavag(司会): ここで聴衆から興味深い質問が来ています。今日Alexisが示した結果は、1990年代以降に起きた女性のコンピュータサイエンス職からの系統的な排除トレンドの単なる延長線上にあるのではないか、という指摘です。もし分析期間を1990年代まで遡って延長したとしても、同様の傾向が見られると予想されますか。それとも今回の研究はそれとは異なる新しい現象を捉えているのでしょうか。
Antoniadis: 率直に言うと、私たちはその点の特定を試みているわけではありません。大学生が工学やコンピュータサイエンスを選ぶかどうかは、最終的には本人の選択です。私たちが示しているのは、女性はコンピュータサイエンスを選ばない傾向があるという事実であり、その上でAIがコンピュータサイエンスへの需要をさらに強く押し上げているということです。背景にある理由は多様です。Hannahが触れたように、社会規範、差別、ロールモデルの欠如など、女性がいわゆるハードSTEM、つまり数学・工学・コンピュータサイエンスに進みにくくしている要因は以前から存在していました。看護や保健分野でSTEM学位を取ることは相対的に容易ですが、コンピュータサイエンスや工学でのSTEM参入はそうではない。その障壁の構造はすでにあったものです。私たちが新しく見出したのは、AIがその既存の構造の上に乗っかる形で、コンピュータサイエンスや工学への需要を特異的に増幅させているということです。その意味で、1990年代からのトレンドの延長という側面はあるかもしれませんが、AIが特定分野の需要をここまで集中的に押し上げるという効果は、データによって初めて定量化できた新しい知見です。
なお、私たちが分析しているのは学位の取得であり、入学時の専攻申告ではありません。途中で専攻を変えたり、優秀な学生がAI関連企業に学位取得前に採用されたりするケースも考えられますが、私たちは授与された学位を見ているため、そうした動態は分析に含まれていません。この点は研究の限界の一つです。
7.2. GCC・MENA地域のパラドクス:高い女性STEM学位取得率と低い就業率の乖離
Pavag(司会): 次に、地域差について伺いたいと思います。今日の分析は米国を対象としていましたが、国によって状況は大きく異なります。特に興味深いのが湾岸協力会議(GCC)諸国を含むアラブ諸国のパラドクスです。これらの地域では女性のSTEM学位取得率が高いにもかかわらず、STEM関連職への就業率は低いという逆説的な状況が見られます。この文脈について簡単に教えてください。
Antoniadis: 湾岸諸国について言えば、女性がSTEM学位を取得する割合はむしろ高まっています。私が教えている経済学もSTEM分野ですが、女性学生の比率は高い。イランでは数学専攻の女性が多く、トルコも同様です。しかし問題はその先にあります。彼女たちが学位を取得した後、それに見合った民間部門の職に就けているかどうかです。GCC諸国の経済は民間部門の多様化が十分に進んでおらず、高度なスキルを持つ女性の多くは政府部門に流れることになります。政府の仕事は午後2時に終わり、その後は自分のビジネスを副業として持つことができる。それ自体は合理的な選択です。しかし、経済全体として見たとき、女性STEM卒業生が活躍できる民間の雇用機会が十分に創出されていないという構造的問題があります。
Antoniadis: GCCの外に目を向けると、状況はさらに深刻です。MENA地域全体では女性の労働参加率は20%程度にとどまっており、その背景には複合的な要因が絡んでいます。社会規範によって女性が教育を受けることすら制限されている国もあります。教育を受けられたとしても、公共交通機関の未整備や移動の自由に対する制約から、職場に通うことができない女性もいます。エジプト、ヨルダンでは女性の労働参加率は非常に低く、シリアではさらに低い。STEMの学位を持っていても就業できないという問題は、経済の多様化不足と社会規範の双方が絡み合った結果です。つまり、STEM教育の普及だけでは問題は解決しないということが、この地域の事例から明確に示されています。
Antoniadis: ただし、ここで一つ希望の光を示したいと思います。Hannahがまとめている新しいILOの報告書が示しているように、私たちが今後重視すべきは学位ではなくスキルです。社会規範や移動制約によって大学に通えない、あるいは職場に出かけられない女性であっても、オンラインの短期コースを通じてスキルを習得することは可能です。そのスキルはオンラインで提供できる仕事に活かすこともできます。学位を取得することが難しい環境においても、スキル重視のアプローチに転換することで、制約された状況の中でも女性の経済参加への道を開ける可能性があります。
7.3. データ整備の重要性・STEM需要の継続モニタリング・新卒者を直撃する「経験のキャッチ22」問題
Antoniadis: 政策的な含意を論じる前に、いくつかの重要な前提条件について触れておきたいと思います。まず、データの重要性です。適切な政策を設計するためには、トレンドを正確に把握するためのデータが不可欠です。残念ながら、ここ数ヶ月でデータをめぐる環境が悪化しており、データへのアクセスや収集が脅かされるような動きが見られます。しかし、データこそがトレンドの理解と適切な政策立案の基盤です。この点は強調しておきたいと思います。
次に、STEM需要の継続的なモニタリングの必要性です。AIによるSTEM需要の拡大が今後も続くかどうかは自明ではありません。AIに関連しない他のスキルへの需要も同様に伸びており、労働市場全体の変化を複合的に把握することなしに、STEM教育への投資だけを増やすような一面的な政策は危険です。双方のトレンドを継続的に追いながら政策を設計していく必要があります。
そして三つ目として、これはまだ十分に議論されていないが今後数年以内に顕在化すると私が懸念しているテーマがあります。新卒者が直面する「経験のキャッチ22」問題です。就職市場において新卒者は「数年の実務経験が必要」という求人要件に直面し、「経験がなければ採用されない、採用されなければ経験が積めない」という悪循環に陥ってきました。これは以前から存在する問題ですが、LLMの普及がこの問題を一段と深刻化させる恐れがあります。かつてはリサーチアシスタント、初級アナリスト、特許申請の補助といった、新卒者が最初のステップとして就く初期職が多数存在していました。しかし今やLLMがそれらの業務を代替できるようになっています。Goldman Sachsが初級アナリスト職を大幅に削減しているという報道もあります。法律事務所においても、特許申請の作業を80%削減できるツールが登場しており、必要なのはシニア弁護士が最終確認をするだけという状況になりつつあります。つまり、新卒者がキャリアの第一歩を踏み出すために必要な初期職そのものが消滅しつつあり、そのためにキャリアのスタートラインに立つためのハードルが以前よりもはるかに高くなっているということです。この問題が男性と女性の新卒者に同じように影響するのか、それとも性別によって異なる形で現れるのかはまだわかりません。しかしその影響の方向性によっては、ジェンダー賃金格差にさらなる影響を与える可能性があり、早急に研究が必要なテーマだと考えています。
7.4. 政策提言の総括:STEM参入促進・ケア労働の適正評価・柔軟な労働時間制度・スキル重視アプローチ
Pavag(司会): それでは最後に、今日の議論を踏まえた政策的含意についてお聞きします。女性のSTEM参入を促す政策をもっと強化すべきなのか、あるいはすでに女性が多く働いているケア労働などの職業をより正当に評価する政策が必要なのか、あるいはその両方か。Hannahからお願いします。
Liemann: 答えはイエス、かつイエスです。両方が必要です。ただし、どうやってそこに到達するかという問いの方がより重要です。というのも、これらの問題は非常に根強い持続性を持っているからです。STEMに関して言えば、Alexisの発見はロールモデルへのターゲットを絞った介入が一定の効果を持ちうるという希望を与えてくれます。もっとも、社会的価値観の変化が非常に緩慢であることも事実です。この点で私がいつも励みにしている事例が、医師・外科医という職業です。1970年代には非常に男性優位の職業であり、女性にはふさわしくない、あるいは女性には向いていないという社会的通念が存在していました。しかし今日では、少なくともこの大きな職業分類のレベルでは、ジェンダー平等がほぼ達成されています。変化は可能だという証左です。
Liemann: ケア労働の適正評価については、Claudia GoldinとMelanie Vasanamの研究が示している知見が参考になります。労働時間の柔軟性が高まることで、女性が仕事と家庭を両立しやすくなり、より多様な職業に参入できるようになる。この変化がケア労働の評価向上にも一定の寄与をしてきたとされています。また、現在すでにケア分野では労働不足が顕在化しており、経済的な必要性から賃金が上昇することへの期待もあります。しかし先ほど申し上げたように、ケア経済が持つ公共財的性質、モノプソニー的市場構造、労働者の限られた交渉力という三つの構造的特徴が重なることで、市場メカニズムだけでは問題は解決しません。政策による積極的な介入が不可欠です。
Antoniadis: Hannahの言ったことにすべて同意した上で、いくつか補足させてください。まず、AIの影響は社会ごとに大きく異なるという点を認識することが重要です。米国で起きていることはフィリピンで起きていることとは全く異なります。たとえばコールセンターの仕事は、推計では97%がAIによって置き換えられるとされています。フィリピンはこの産業の主要拠点であり、そこで働く人々が仕事を失ったとき、彼らはどこへ向かうのか。一方でフィリピンの看護師にとっては、高齢化が進む社会においてますます多くの機会が生まれています。同じ国の中でも、AIの影響は職業によって正反対の方向に働きます。南アジアのサービス輸出型経済も同様に大きな打撃を受けるでしょう。そうした国々の政府が、大量に職を失った人々を社会的に支えられる財政的能力を持っているかどうかも深刻な問題です。私自身は、長期的には週3〜4日労働制への移行やユニバーサルベーシックインカムの導入が現実の政策議題になってくると予測しています。
Antoniadis: 加えて、スキル重視というアプローチの重要性を強調したいと思います。Hannahが準備しているILOの旗艦報告書が示すように、今後重要なのは特定の学位を持っているかどうかではなく、実際にどのようなスキルを持っているかです。制約があって大学に通えない女性であっても、オンラインの短期コースでスキルを身につけ、それをオンラインで活かせる仕事に就くことができる環境を整えることは、学位取得への道が遠い地域においても現実的な政策オプションとなります。技術的障壁の低下によって女性の創造性やコミュニケーション能力がより高く評価される時代において、これらを適切に認識し、報酬として反映させる仕組みを社会として整えていくことが求められています。
