※本記事は、Aaron Young氏による講演「AI-powered wearable robots providing personalized assistance for mobility and biomechanics」の内容を基に作成されています。本講演はITU(国際電気通信連合)が主催し、40の国連関連機関およびスイス政府と共同開催するAI for Good Global Summitの一環として配信されました。講演の動画は https://www.youtube.com/watch?v=CWNdfRnKgxs でご覧いただけます。本記事では講演の内容を要約しております。なお、本記事の内容は原著作者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。
登壇者のAaron Young氏はジョージア工科大学Woodruff機械工学部の准教授およびWoodruff Faculty Fellowであり、外骨格・義肢インテリジェント制御ラボ(EPIC Lab)を主宰しています。モデレーターはITU(国際電気通信連合)のAI・ロボティクス・プログラムオフィサーであるGuillem Martínez Roura氏が務めました。
1. はじめに:研究室の概要とウェアラブルロボットの全体像
1-1. EPIC Labの活動・対象領域・使用デバイスの紹介
Martinez: 本日のセッションへようこそ。今回のAI for Goodイベントのテーマは「モビリティと生体力学への個別化支援を実現するAI搭載ウェアラブルロボット」です。本セッションはITUが主催するAIとロボティクス・ディスカバリーシリーズの一環であり、自律ロボットシステムの最先端動向を扱っています。本日の講演者は、ジョージア工科大学のWoodruff機械工学部にて准教授およびWoodruff Faculty Fellowを務めるAaron Young教授です。Aaron、よろしくお願いします。
Young: ありがとうございます。AI for Goodにお招きいただき、大変光栄です。私はジョージア工科大学でEPIC Lab(Exoskeleton and Prosthetic Intelligent Controls Laboratory)を主宰しています。私たちのミッションは、ロボットシステムの応用を通じて人間の生活状態を改善することです。ジョージア工科大学の「Institute for Robotics and Intelligent Machines」を拠点として、複数の研究室・教員が連携し、こうした大きな健康課題の解決に取り組んでいます。
私たちが日常的に扱うロボットデバイスは多岐にわたります。下肢(足首・膝・股関節)を対象とするもの、腰部を支援するもの、上肢を補助するものなど、身体のさまざまな部位をターゲットにしたシステムを開発・研究しています。支援の対象となる集団も幅広く、移動に困難を抱える高齢者、脳卒中患者、脳性麻痺や外傷性脳損傷などの神経リハビリテーションが必要な小児・成人、さらには臨床領域を超えて、重量物の取り扱いが多い産業現場の労働者も含まれます。ウェアラブルロボットによって作業中の傷害リスクを低減し、人々が健康を維持しながら働き続けられる環境をつくることも、私たちの重要な目標のひとつです。
1-2. 臨床的意義:高齢化社会における移動障害と転倒リスク
Young: なぜ今ウェアラブルロボットなのか、その臨床的な意義についてお話しします。米国では高齢者人口が急速に増加しており、移動能力の低下はあらゆる年齢層の中で最大の障害要因となっています。とりわけ高齢者においてその影響は顕著であり、医療コストの増大、生活の質の低下、そして転倒への恐怖と実際の転倒事故による深刻な二次的健康被害が社会問題となっています。転倒は単なる怪我にとどまらず、その後の活動範囲の縮小、精神的な不安、さらなる身体機能の低下という悪循環を生み出します。
私たちが目指しているのは、こうした人々が自宅でも地域社会でも、屋外の実環境でも安全に移動できるよう支援することです。転倒を予防し、移動能力そのものを向上させること——これがウェアラブルロボット研究の根本的な目標です。現在、市場にはロボット技術を活用した歩行補助・拡張デバイスが複数登場しており、FDA承認を取得した外骨格も存在します。しかしながら、現時点で市販されているデバイスの多くは大型で重く、使用に際して歩行補助具を必要とするケースも多く、実際に家庭や地域社会で日常的に使われるには至っていません。この状況を変えていくこと、つまりクリニックの外へこの技術を届けることが、私たちが取り組むべき次の大きな挑戦です。
2. 現在の技術水準と制御問題という壁
2-1. 代謝コストバリアの突破:研究分野の成果と残された課題
Young: ウェアラブルロボットの性能を評価する指標として、研究分野で長らく「ゴールドスタンダード」とされてきたのがエネルギーコスト、すなわち代謝コストです。デバイスを装着したうえで、装着していない状態よりも実際に楽に動けるかどうか——これが「良い支援とは何か」を測る最も重要な基準です。ところが、外骨格を身につけるだけでその重量や慣性による大きな代謝ペナルティが生じるため、デバイスがまずそのペナルティを補填したうえで、さらに上乗せの恩恵を提供して初めて「代謝コストバリアを突破した」と言えます。この壁を越えることは長らく困難とされており、2020年に私がGreg Sawicki博士と共同でまとめたレビュー論文でも、それまでにバリアを有意に突破したと言えるデバイスはごく限られていました。
しかしその後の10年で状況は大きく変わりました。2020年時点でリストアップできたデバイスの数は今や3〜4倍に膨れ上がっており、歩行・階段昇降・傾斜路歩行といった特定のタスクにおいてエネルギーコストを削減できるデバイスを作ること自体は、研究分野として着実に達成されてきたと言えます。
しかし問題はそこではありません。これほどの成果が積み重なっているにもかかわらず、ウェアラブルロボットは依然として実世界で広く使われていない。これが現実です。その最大の理由は「制御の問題」にあります。これらのデバイスの評価は大半がトレッドミル上で行われており、一定速度の歩行という極めて限定された条件では非常に優れた効果を発揮します。ところが実際の人間の動作はそれとはまったく異なります。人間は速く動き、予測不可能で、非常に多様なタスクを瞬時に切り替えながら生活しています。スーパーマーケットへ買い物に行くだけでも、縁石の昇降、車への乗り降り、荷物を押したり運んだり、数えきれないほどのタスク遷移が発生します。単一タスクで卓越した性能を発揮するよう手作りされた従来のコントローラは、こうした多様性にはほとんど対応できません。
2-2. 従来の外部状態推定アプローチとその限界
Young: では従来の制御はどのように設計されてきたかを説明します。多くの産業用デバイスが採用してきたアプローチは「外部状態推定」と呼ばれるものです。まずセンサによって「今、ユーザーは何をしているか」——平地歩行なのか、傾斜路なのか、階段なのか——を推定し、それぞれのタスクに対して個別に設計されたトルクプロファイルを適用するという構造です。例えばヒップ外骨格であれば、平地歩行用・階段昇降用・立ち座り動作用というように、タスクごとに最適なアシストプロファイルが用意され、状態推定の結果に応じて切り替えられます。
この方式には根本的な問題が二つあります。一つ目は「スケール」の問題です。人間が日常生活でとる動作の種類を洗い出していくと、歩行速度・地面の勾配・荷物の有無・非対称歩行・障害物の回避・滑りや躓きへの対応など、事実上無限に近い状態の組み合わせが生まれます。これをすべて分類・同定しようとすると、状態の数は手に負えないほど膨大になります。二つ目は「コントローラ設計のコスト」の問題です。仮にすべての状態を正確に推定できたとしても、その状態の組み合わせそれぞれに対して最適なトルク軌道を設計しなければなりません。これは企業にとっても研究室にとっても非常に手間と時間のかかる作業であり、実世界への展開を大きく妨げる要因となっています。
こうした課題を踏まえて、私たちジョージア工科大学では全く異なるアプローチを採ることにしました。外部の世界を丸ごと推定しようとするのではなく、「人間自身がすでに何をすべきかを知っている」という事実に着目し、人体の内部状態を読み取ることに注力する方針へと転換したのです。これが次のセクションで詳述するAIによる内部状態推定の出発点です。
3. AIによる内部状態推定:制御アーキテクチャの革新
3-1. 内部状態推定への転換と時系列畳み込みニューラルネットワーク(TCN)
Young: 私たちが採用したアプローチの核心は、「外部環境を推定するのではなく、人体の内部生理状態を推定する」という発想の転換です。人間の脳はすでに何をすべきかを知っています。ならばロボット側が世界全体を把握しようとするのではなく、人体の内部で何が起きているかを読み取り、それに同期することの方がはるかに合理的です。具体的には、筋肉が各関節で生み出している内部関節モーメント、すなわち関節にかかるトルクをリアルタイムで推定することを目標としています。AIシステムは「ユーザーが今何をしているか」を知る必要はなく、「股関節においてどれだけのエネルギーが必要とされているか」さえわかれば、適切なアシストを提供できます。これによって、タスクの種類や歩行フェーズを明示的に特定するという従来の問題が丸ごと解消されます。
このアーキテクチャは非常にシンプルなエンドツーエンド構造です。外骨格に搭載された機械的センサ——関節の位置・速度を計測するエンコーダと、加速度・角速度を計測するIMU——からのデータがニューラルネットワークに入力され、出力として人体の内部関節モーメントの推定値が得られます。ヒップ外骨格の場合、骨盤と大腿部にそれぞれIMUが配置されており、神経センサや筋電図といった特殊なセンシングは一切必要としません。現在市販されているデバイスと同等のセンサ構成で実装できる点が、この手法の実用上の大きな強みです。
この推定を担うニューラルネットワークとして私たちが採用したのが、Temporal Convolutional Network(TCN)です。TCNはリカレントニューラルネットワークの一種であり、生体時系列データに対して特に優れた性能を発揮します。その理由は「指数関数的に拡張する畳み込み層(exponentially dilating layers)」にあります。人間の動作を正確に把握するには、現在の瞬間のデータだけでは不十分で、過去約1秒間の動作履歴を参照する必要があります。TCNはこの時系列情報を計算効率よく処理でき、私たちのシステムでは200Hzで動作しています。つまり5ミリ秒ごとにモータへの新しい指令が生成されます。ネットワークの末尾には従来型の全結合層が配置されており、応用に応じたファインチューニングが可能です。私たちの実験では、TCNがTransformerやLSTM、CNNといった他の標準的な深層学習アーキテクチャを上回る性能を示しており、この知見は現在では複数の研究グループによっても確認されています。
3-2. データ収集・モデル学習・オープンソース公開
Young: こうしたAIシステムを機能させるためには、大規模なデータセットが不可欠です。深層学習は人間のように推論するために膨大なデータを必要とします。私たちはこの分野において人間とロボットのインタラクションデータを大規模に収集することに注力してきました。
具体的には、34名の被験者から多様なタスクにわたるデータを収集しました。タスクの種類は、複数速度での平地歩行、歩行開始・終了の遷移、さまざまな勾配での傾斜路昇降、異なる段差高さでの階段昇降とその遷移など多岐にわたります。データ収集はモーションキャプチャ設備を備えた生体力学ラボで実施し、外骨格センサのデータと時刻同期された形で、床反力計による6軸の床反力データとモーションキャプチャの映像を同時取得しています。この床反力データと逆動力学計算を組み合わせることで、人体内部の股関節モーメントの正解値(グラウンドトゥルース)を算出します。収集されたデータポイントは数百万点に上り、このデータセットの構築だけでほぼ1年間を要しました。
モデルの学習スケールとしては、現在は数百万点規模ですが、将来的には数千万から数億点規模に拡大したいと考えています。学習データ量とモデル精度(RMSEで評価した追跡誤差)の関係は対数曲線を描いており、データが増えるにつれて精度は着実に向上します。このことは、さらなる大規模データ収集への投資が確実に報われることを示しています。
このデータセットとモデルは2024年にScience Roboticsに掲載された論文とともにオープンソースとして公開しており、他の研究者がこれらの大規模モデルを基盤にして独自の研究を発展させられるようにしています。
4. 実証実験1:ヒップ外骨格によるタスク汎化と個別化の検証
4-1. ユーザー非依存モデルの性能と発見:個人固有の生体力学を学習していた
Young: 実際にこのAIシステムがどれほどの性能を発揮するかをお示しします。まず強調しておきたいのは、ここで示すすべての結果が「ユーザー非依存モデル」によるものだという点です。つまり、テストに参加した被験者は全員、学習データには含まれていない新規ユーザーです。事前にその人のデータを一切取得することなく、初めて装着した状態でリアルタイムに個人の生体力学を推定できているかどうかを検証しています。
性能評価の基準として私たちが用いたベースラインは非常に厳しいものです。それは「完全に完璧な外部状態推定器」を仮定した場合の理論上限値です。すなわち、ユーザーが今どのタスクをどのフェーズで行っているかを誤りなく100%正確に把握したうえで、そのタスクに対応する生体力学データのルックアップテーブルを参照した場合の性能——これが従来アプローチにおける到達可能な最高性能です。私たちのAIシステムがこのベースラインを超えられるかどうかが、ひとつの重要な問いでした。
結果は明確でした。AIシステムはこのベースラインを複数のタスクにわたって上回りました。これが意味することは非常に重要です。ルックアップテーブルが参照しているのは「平均的な関節モーメント」、すなわちデータベースに含まれる多くの人々の平均値です。一方、私たちのAIシステムはそれを超えているということは、単に「このタスクでは一般的にこれくらいのトルクが必要」という情報を使っているだけでなく、「この特定のユーザーにはこれだけのトルクが必要」という個人固有の生体力学特性を、センサデータからリアルタイムに推定できているということです。事前の個別キャリブレーションなしに個人化が自然に実現されていた——これは私たちにとっても予想以上の発見でした。
タスク別の追跡性能を見ると、平地歩行・傾斜路昇降・階段昇降・歩行遷移といった多様な動作全般にわたって、AIシステムの出力(リアルタイム推定)と床反力計から算出したグラウンドトゥルースの間に非常に高い一致が確認されています。被験者が力板上にいる瞬間だけグラウンドトゥルースが得られる実験設計のなかで、AIの出力が地面接触のたびに正解値に収束している様子が動画でも確認できます。
4-2. 代謝コスト実験の結果:統一コントローラによる複数タスクへの対応
Young: 工学的な性能指標だけでなく、実際にユーザーへの恩恵として現れているかどうかを確かめるために、代謝コスト実験を実施しました。被験者にブレスマスクを装着してもらい、酸素消費量と二酸化炭素排出量を計測することで、歩行中の全身エネルギーコストを評価しています。
比較条件は四つです。デバイスなし、ゼロインピーダンスモード(デバイスを装着しているが動力オフ、内部摩擦のみ補償)、従来手法における最良の既存コントローラ、そして私たちの統一AIコントローラです。使用した外骨格はあくまで研究用プロトタイプであり、重量は4.5キログラムと決して軽くはありません。これだけの重量を装着するだけで大きな代謝ペナルティが生じます。
結果として、AIコントローラは平地歩行では既存の最良コントローラと同等の代謝削減効果を示し、傾斜路昇降においてはそれを上回る成績を収めました。さらに重要なのは、デバイスオフ条件と比較してもAIコントローラは常に有意な改善をもたらしており、重量ペナルティを差し引いてもなお上乗せの恩恵があることが示されました。この時点での実験では約7%の代謝削減効果が確認されており、その後の改良を重ねた最新バージョンでは傾斜歩行と重量挙上のタスクに特化した条件で約14%の代謝削減を達成しています。
特筆すべきは、これらすべてのタスクに対して単一の統一コントローラが使われているという点です。平地歩行から傾斜路、階段昇降にいたるまで、コントローラの切り替えも、チューニングの変更も、タスクの明示的な識別も一切行っていません。AIシステムが人体の内部ダイナミクスを継続的に読み取り、タスクに応じたトルクプロファイルを自動的に生成しています。これは従来のアプローチとは根本的に異なる制御哲学の実証であり、「タスク非依存なコントローラ」という目標に向けた大きな一歩です。この結果は現時点での性能の「下限」であり、モデルとコントローラの両面をさらに改善することで、より高い効果が得られると私たちは確信しています。
5. 高多様性データセットの構築と非周期タスクへの拡張
5-1. 人間の歩行実態の分析と従来データセットの偏り
Young: セクション4で示したAIシステムの成果は、歩行・傾斜路・階段・立ち座り遷移といったタスクをカバーするものでしたが、これはコミュニティ内での移動が必要とする動作の一部にすぎません。実世界における人間の動作はもっとはるかに多様であり、そして非常に非周期的です。この点を改めて認識させてくれた重要な研究があります。それによると、人間の歩行ブートのうち実に40%が12歩未満であるという事実が明らかになっています。つまり、人々が日常生活で歩くとき、何百歩も連続して歩き続けることはむしろ例外的であり、ほとんどの場合は短い歩行と別のタスクへの素早い遷移を繰り返しているのです。
この事実は、従来の外骨格制御研究が抱える根本的な偏りを浮き彫りにします。これまで生体力学データセットの大半は平地でのトレッドミル歩行に集中しており、研究が進んでも傾斜路・階段・走行が追加される程度でした。私たちのデータセットでもターン動作を加えましたが、それでも依然として特定の周期的動作に偏ったデータしか存在していませんでした。このような偏ったデータで学習したAIシステムでは、日常生活の実態に即したタスク多様性に対応できません。縁石の乗り越え、急な方向転換、物を拾い上げる動作、ランジやスクワット——こうした非周期タスクへの対応こそが、デバイスを実世界に持ち出すうえで不可欠な能力です。
5-2. 29種・100条件の新規データセットと膝関節の重要性という発見
Young: こうした課題に応えるため、私たちは大幅にタスク多様性を拡張した新しいデータセットを構築し、約1年前にオープンソースとして公開しました。このデータセットは29種類のコアタスク、約100の異なるタスク条件から構成されており、29名の被験者から収集されています。収録されているのは、これまで研究の中心だった周期的な歩行系タスクだけでなく、縁石昇降、方向転換(カッティング)、ジャンプ、重量物の持ち上げ、ランジ、スクワットといった非周期タスクも幅広く含んでいます。人々が普段の生活の中で行うと思いつく限りの動作を可能な限り網羅することを意図して設計されました。
このデータセットを分析した結果、非常に興味深い発見がありました。従来の研究では周期タスクにおける関節貢献度の分析が主流であり、股関節と足首関節が支配的な役割を果たすことが広く知られていました。ところが非周期タスクを含む本データセットで関節ごとの仕事量を分析すると、膝関節の重要性が著しく増大することが明らかになったのです。非周期タスクでは股関節と膝関節の両方が主要な役割を担っており、足首だけ、あるいは股関節だけを補助するデバイスでは非周期タスクへの対応が不十分になる可能性が示唆されます。
この発見は私たちの次世代デバイス開発の方向性を直接規定しました。次のセクションで紹介するヒップ+膝統合外骨格の開発は、まさにこのデータセットから得られた知見に基づくものです。また、このデータセットは真に「タスク非依存なモデル」を実現するための基盤として設計されており、学習時に見たことのないタスクに対しても汎化できるモデルの構築を可能にします。トレーニング時に含まれていないタスクへの汎化性能を損失関数に直接組み込んだ最適化を行うことで、ニューラルネットワークが未知のタスクに対しても頑健に機能するよう学習させることができます。これが私たちの考える「真のタスク非依存モデル」への道筋です。
6. 実証実験2:ヒップ+膝統合外骨格(Google X / Skip連携)の検証
6-1. スマートクロージング型外骨格の設計とタスク汎化モデルの性能
Young: セクション5で示したデータセット分析の結果、非周期タスクでは膝関節の重要性が増すことが明らかになりました。この知見を受けて、私たちが次に取り組んだのが股関節と膝関節の両方を同時に補助するヒップ+膝統合外骨格です。このデバイスはもともとGoogle Xによって開発されたもので、現在はSkipにライセンスされており、私たちはパートナーシップのもとでこの技術を活用した研究を継続しています。
このデバイスの設計思想において特筆すべきは、ハードウェアの方向性そのものです。従来の外骨格というと、大型のフレームを身体に装着するストラップオン型のシステムが一般的でした。このデバイスはそこから大きく踏み出し、「ロボットクロージング」、すなわちスマートな衣服としての外骨格という概念を体現しています。具体的には、ウェアラブルなパンツ型の構造を採用しており、装具的なカットアウトを一切持たない設計です。力の伝達を担う部分には伸縮しないゼロストレッチ織物が使われており、それ以外の部分は伸縮性のある快適な素材で構成されています。これにより、デバイスを装着しているにもかかわらず、衣服に近い着用感を実現しています。将来的には、支援が必要な人が朝起きてパンツを履くだけで、その日一日の活動を助けてくれる——そういった世界観を目指した設計です。
制御面では、このデバイスに対してもタスク汎化に最適化されたモデルを実装しています。具体的には、学習データに含まれていない「保留タスク(withheld tasks)」への汎化性能を損失関数に直接組み込んだ最適化を行っています。ニューラルネットワークの学習において、未知のタスクに対するパフォーマンスを重点的に改善するよう誘導することで、モデルがデータベース内のタスクを単に暗記するのではなく、タスクの本質的な生体力学パターンを汎化的に捉えられるよう訓練されます。
実際の追跡性能の評価には、セクション4と同様にリアルタイム推定と床反力計由来のグラウンドトゥルースとの一致度を用いており、今回はR²(決定係数)によって評価しています。R²は二つの信号の形状的な一致度を示す指標であり、値が1に近いほど推定が正確であることを意味します。AIシステムのR²は約0.8を達成しており、これはリアルタイム推定とグラウンドトゥルースの間に非常に高い相関があることを示しています。比較対象である従来手法のルックアップテーブルは、最良条件でもR²が約0.6程度にとどまります。さらに、ルックアップテーブルは周期的タスクに対してしか設計できず、縁石昇降や物の持ち上げといった非周期タスクに対しては意味のあるテーブルを作成すること自体が困難です。その点でAIシステムは、周期・非周期を問わず一貫した高い性能を維持しており、これはまさに大規模かつ多様なデータで適切に訓練されたAIシステムの真価を示しています。
6-2. 周期・非周期タスク双方での効果:最新実験で約14%の代謝改善
Young: 追跡精度の高さが実際のユーザーへの恩恵として現れているかどうかを確かめるために、このヒップ+膝統合外骨格を用いた人体実験を実施しました。この結果はつい最近Natureに掲載されたものです。実験では10種類の異なるタスクにわたって人体パフォーマンスを評価しています。上段の4タスクが周期的なタスク(複数速度の平地歩行・傾斜路昇降など)、下段の6タスクが非周期的なタスク(立ち座り、階段昇降、ランジ、スクワット、重量物の持ち上げと置き直しなど)です。
周期タスクについては代謝コストを計測しており、ゼロインピーダンスモード(デバイス装着だが動力オフ)との比較でAIコントローラが有意な代謝削減効果をすべての周期タスクにわたって示しました。なお、このデバイスは7キログラムと非常に重く、装着するだけで大きな代謝ペナルティが生じます。それにもかかわらず、AIコントローラはそのペナルティを補填したうえでなお追加の恩恵をもたらしています。最新の実験において傾斜歩行と重量挙上に特化した条件では、デバイスなし条件と比べて約14%の代謝削減を達成しており、やや旧いバージョンのデバイスと実験条件での約7%から大きく改善されています。
非周期タスクについては連続的な代謝計測が困難なため、動作の質や補助効果を別指標で評価していますが、ほぼすべての非周期タスクにおいてデバイスなし条件と比べて有意な改善、あるいは少なくとも同等以上の結果が確認されています。つまり、AIシステムをオンにした状態では、ユーザーが何をしていても必ず何らかの恩恵が得られる、あるいは少なくとも足を引っ張ることはない——これが現時点での到達点です。
これらの結果はあくまで現時点での「性能の下限」です。モデルの精度向上、デバイスの軽量化、コントローラのさらなる洗練によって、今後これらの数値は着実に改善されていくと私たちは見ています。すでに特定領域でのファインチューニングによってより高い効果が得られていることも確認しており、エンドツーエンドモデルの発展とあわせてさらなる性能向上が期待されます。
