※本記事は、Masters of Scale Summitの2024年10月開催イベントにおいて、メリーランド州知事Wes Moore氏、AOL共同創業者Steve Case氏、元ニューヨーク南部地区連邦検事兼「Stay Tuned with Preet」ポッドキャストホストのPreet Bharara氏による対談の内容を基に作成されています。イベントの詳細情報はhttps://mastersofscale.com/attend でご覧いただけます。 本記事では、対談の内容を要約しております。なお、本記事の内容は登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画をご視聴いただくことをお勧めいたします。
Masters of Scaleは、世界で最も魅力的な企業を成長させてきたビジネスリーダーたちが、その教訓と戦略を共有するプラットフォームです。Uber、Airbnb、Apple、Disneyなどの企業の創業者、CEO、イノベーターたちが、LinkedIn共同創業者兼Greylockパートナーであるリードホフマンをはじめとする著名なホストとの率直な会話に参加しています。初期プロトタイプのナビゲーションからブランドのグローバル展開まで、Masters of Scaleはあらゆる人が夢の企業を成長させるための貴重な洞察を提供しています。
1. 導入と対話の基盤
1.1. 社会的課題(民主主義、貧困、気候変動、分極化)の概要
Preet Bharara:午後の皆さん、調子はいかがですか?私は法律のメモ帳を持ってきましたので、この二人はちょっと困ったことになりそうですね。本日ここでお話できることを嬉しく思います。今日は、多くのアメリカ人の心に浮かんでいることについて話し合いたいと思います。それは、民主主義、貧困、気候変動、分極化といった私たちが直面している問題についてです。
一部の人々は政府がこれらの問題を解決すべきだと考え、一方で別の人々は政府はこれらの問題から手を引き、民間セクターが最良の解決策を提供できると考えています。私たち全員が、協力して取り組むべきだという考えに賛同していると思います。「官民パートナーシップ」という言葉は少し古風かもしれませんが、これが私たちの世界の現実です。
最初に、人々の生活をより良くするために、政府とビジネスが協力するために必要な条件について考えてみましょう。相互尊重、相互信頼、誠実さ、法の支配などが必要だと思います。皆さんはどう思われますか?どちらかから始めていただけますか?
Wes Moore:まず、皆さんとこの場にいることができて非常に光栄です。その質問への答えは「はい」です。つまり、すべてが必要なのです。私が初めて政治に出馬しようと決めた時のことを覚えています。私はそれまで一度も選挙に出たことがありませんでした。私は陸軍将校として戦闘で兵士を指揮し、帰国後にビジネスの世界に入りました。金融業界で働き、その後小さなビジネスを経営し、2017年に成功裏に事業を売却しました。その後、アメリカ最大の貧困撲滅団体の一つであるRobin Hoodを運営していました。
私が州知事に立候補しようと考えていることを理事の一人に話したとき、子どもの貧困や経済成長、包括的な経済成長などの問題に焦点を当てたいと伝えました。彼は「なぜそのためにここを離れて政府に行くのか」と尋ねましたが、私の正直な答えは、最初からこれらの問題を作り出した政府の役割を過小評価してはならないからです。
Preet Bharara:興味深い反応ですね。
Wes Moore:いいえ、でも本当のことです。政府が勝者と敗者を選ぶのが一番上手いというのは歴史的事実です。政府はこれらの問題の解決に独自の役割を果たせると主張するなら、それらを作り出した役割も認めなければなりません。導入されてきた政策、規則、規制、そして勝者と敗者を選ぶことに政府が果たしてきた役割があるのです。
1.2. 官民パートナーシップの条件(相互尊重、信頼、善意、法の支配)
Preet Bharara:公平を期すために言いますが、「私は政府から来た、あなたを助けに来た」という言葉は英語の中で最も恐ろしい言葉だと有名に発言したのはRonald Reaganでした。彼は正しかったのでしょうか?
Wes Moore:いいえ、違います。なぜなら、政府が問題を作り出した役割を認識することが重要だと思いますが、同時に政府がそれらを解決するのを助ける役割も理解することが重要だからです。政府は「すべてがめちゃくちゃになったから、みんなで来て修正してください」という傍観者の役割だけを取ることはできません。特に州政府が持つ予算の規模を考えると。
例えば、私がRobin Hoodを運営していた時のことを覚えています。「公教育支援に2500万ドルを投入します」と発表すると、チームからは歓声が上がり、新聞にも少し取り上げられるかもしれません。しかし、ニューヨーク市の教育局の予算だけでも270億ドルだということに気づくまでは。
Steve Case:私はそれに付け加えるなら、私は一生をイノベーション経済の中で過ごしてきました。起業家として、投資家として、慈善家として、そして政策に影響を与えようとする者として。政府が正しくできる場合と間違う場合の両方を見てきました。常にイノベーションを抑制する政府、規制による既得権の保護、既存企業の固定化など、様々な不満があることは確かです。会場からの拍手の一部はそういった不満を反映しているのでしょう。
しかし、私自身のケースを含め、政府が行動を起こさなければ始まらなかった企業も見てきました。私たちはAmerica Online(AOL)を約40年前に始めましたが、その会社は政府が電気通信分野でのイノベーションを創出するためにMa Bellを解体したり、インターネットへのアクセスを商業化する電気通信法を議会が可決したりしなければ、始まらなかったでしょう。
私たちが1985年に始めた頃、オンラインにいた人々はわずか3%で、週に約1時間しかオンラインにいませんでした。理由はコストが高すぎたからです。コストを下げるのに数年かかり、そもそもインターネット自体が消費者や企業に利用可能になるまで時間がかかりました。元々はDARPAによって政府が資金を提供し、様々な戦略的理由でネットワークを設立したもので、教育機関や政府機関に限定されていました。消費者や企業は利用できなかったのです。政府がそれを修正する必要がありました。
また、FTCは電話会社に対して「オープンアクセス」と呼ばれるネットワークの開放を義務付けました。それによってインターネット革命が解き放たれ、アメリカがその革命の最前線に立つことになったのです。今、AIなどの技術を考える際、それらの教訓からどう学び、例えばAIに対してもオープンアクセスやオープンソースのアプローチを確保し、単に大手テック企業をより大きくするのではなく、公平な競争環境を確保して新しい企業が登場できるようにするにはどうすればよいでしょうか。
Wes Moore:そうですね、私がメリーランド州で行ってきたことを考えると、ある種の民間セクターや慈善団体などの主体が本当に「先行指標」として機能できることを理解しています。それらは最良の実践メカニズムであり、イノベーションの「シード資本」として機能することが多いのです。彼らが必要とするのは、何が機能するかを理解した政府のパートナーです。これが実際に社会的なROI(投資収益率)を持っていることを理解したら、公的なものにする準備ができます。「何が機能するかを示してください、そうすれば資金を提供します。何が機能していないかを示してください、そうすれば資金提供を停止します」と言えるようになるのです。それほど複雑ではありませんが、社会的課題に対処するために政府が取ることのできる適切な役割になります。
Preet Bharara:政治について触れましたが、私たちはこのような問題について、あなた方のように賢明で知的で誠実に議論に参加している人々が話しているとき、まるですべての理性的な人々が同意するかのように、そこに政治的またはイデオロギー的な次元がないかのように話すことがあります。私たちの政治的レトリックや対話について何かをする必要があるのでしょうか?政府を過度に悪魔視することがないように、また一方では起業家精神を通じて成功した人々を過度に悪魔視することがないようにするために。
2. 政府の役割についての見解
2.1. Wes Moore知事の経歴と政府への転身理由
Wes Moore:私が政界に入る前の経歴をお話ししたいと思います。私はこれまで一度も公職に就いたことがありませんでした。私は陸軍将校として戦闘で兵士を指揮していました。帰国後、ビジネスの世界に入り、金融業界で働き、その後小さなビジネスを経営し、2017年に成功裏に事業を売却しました。その後、Robin Hoodという、アメリカ最大の貧困撲滅団体の一つを運営していました。
私が州知事に立候補しようと考えていることを理事の一人に話したとき、子どもの貧困や経済成長、特に包括的な経済成長などの問題に焦点を当てたいと伝えました。彼は「なぜそのような課題に取り組むためにここを離れて政府に行くのか」と尋ねました。私の正直な答えは、最初からこれらの問題を作り出した政府の役割を過小評価してはならないからです。
Preet Bharara:それは興味深い反応ですね。
Wes Moore:いいえ、本当のことなんです。歴史を振り返れば、政府が勝者と敗者を選ぶことに最も長けていることは明らかです。ですから政府がこれらの問題の解決に独自の役割を果たせると主張するなら、それらを作り出した役割も認めなければなりません。これまでに導入されてきた政策、ルール、規制、そして勝者と敗者を選ぶことにおいて政府が果たしてきた役割があるのです。
政府が創出した問題を解決するために民間企業に参入して欲しいという姿勢では不十分です。政府自身が解決のために積極的に関与する必要があります。私が Robin Hood を運営していたとき、私たちが2500万ドルを公教育支援に投入すると発表すれば、チームは喜び、新聞にも少し取り上げられるかもしれません。しかし、ニューヨーク市の教育局の予算だけでも270億ドルだということに気づくと、状況は全く違って見えてきます。
Preet Bharara:では、政府が果たすべき役割についてどのようにお考えですか?
Wes Moore:政府が問題解決に役割を果たさないと考えるのも現実的ではありません。特に州政府の予算規模を考えると、問題解決のプロセスに政府が関わることが重要です。メリーランド州での取り組みを例に挙げると、私たちは民間セクターや慈善団体が先行指標として機能することを理解しています。彼らは最良の実践方法を示し、イノベーションの「シード資本」として機能することが多いのです。
そうした民間の取り組みが必要としているのは、何が効果的かを理解した政府のパートナーです。民間の成功事例が実際に社会的な投資収益率を生み出していることが確認できれば、政府はそれを公的に拡大する準備ができるのです。つまり「何が機能するかを示してください、そうすれば資金を提供します。何が機能していないかを示してください、そうすれば資金提供を停止します」という姿勢です。これが社会的課題に対処するために政府が取るべき適切な役割だと考えています。
2.2. 政府が問題創出と解決の両方に関与する視点
Wes Moore:政府が問題解決の唯一の主体であるかのように振る舞うことはできません。特に、政府自身がそれらの問題を作り出す役割を果たしてきたことを認めない限りは。実施されてきた政策、ルール、規制、そして政府が最も得意としてきた「勝者と敗者」を選ぶことが、多くの社会問題の根底にあるのです。
Preet Bharara:公平を期すために言いますが、その点についてはRonald Reaganが有名に言及していました。英語で最も恐ろしい言葉は「私は政府から来ました、あなたを助けに来ました」だと。彼は正しかったのでしょうか?
Wes Moore:いいえ、違います。政府が問題創出に果たした役割を認識することが重要だと思いますが、同時に政府がそれらを解決するための役割も理解する必要があります。政府がただ傍観者的な立場で「すべてが混乱してしまったから、皆さん来て直してください」と言うだけではいけません。特に州政府が持つ予算規模を考えると、そのアプローチは現実的ではありません。
私がRobin Hoodを運営していたとき、「公教育支援に2500万ドルを投入します」と発表すれば、チーム内では歓声が上がり、新聞にも少し取り上げられるかもしれません。しかし、ニューヨーク市の教育局の予算だけでも270億ドルだということを考えると、政府の資金力と影響力の大きさが明らかになります。そのため、政府が社会問題の解決に関与しないと考えるのは現実的ではないのです。
Steve Case:私も同感です。私はイノベーション経済の中で一生を過ごしてきました。起業家として、投資家として、慈善家として、そしていくつかの政策に影響を与えようとする者として。政府がイノベーションを抑制し、既得権を保護し、既存企業を固定化するなど、間違った方向に進むことは確かにあります。おそらく会場からの拍手の一部はそういった不満を反映しているのでしょう。
しかし、私自身のケースを含め、政府が積極的に関与したことで成功した例も多く見てきました。例えば、私たちが約40年前にAmerica Online(AOL)を始めることができたのは、政府がMa Bellを解体して電気通信分野でのイノベーションを促進し、議会がインターネットへのアクセスを商業化する電気通信法を可決したからこそです。さらに、FTCが電話会社に「オープンアクセス」の義務付けを行ったことも、インターネット革命を解き放ち、アメリカをその最前線に立たせる大きな要因となりました。
これらの例が示すように、政府は問題を作り出すこともあれば、イノベーションを促進し社会的課題の解決に貢献することもあるのです。重要なのは、政府がその両方の側面を認識し、建設的な役割を果たすための適切なアプローチを見つけることです。
2.3. 「政府は助けにきた」というレーガンの有名な言葉への反論
Preet Bharara:公平を期すために言っておくと、Ronald Reaganが有名に言った言葉があります。英語で最も恐ろしい言葉は「私は政府から来ました、あなたを助けに来ました」というものです。彼は正しかったのでしょうか?
Wes Moore:いいえ、違います。なぜなら政府が問題を作り出した役割を認識することが重要だと思いますが、同時に政府がそれらを解決するのを助ける役割も理解することが重要だからです。政府は「すべてがめちゃくちゃになったから、みんなで来て修正してください」という傍観者の役割だけを取ることはできません。特に州政府が持つ予算の規模を考えると。
完璧な例を挙げると、私がRobin Hoodを運営していた時のことを覚えています。「公教育支援に2500万ドルを投入します」と発表すると、チームからは歓声が上がり、新聞にも少し取り上げられるかもしれません。しかし、ニューヨーク市の教育局の予算だけでも270億ドルだということに気づくまでは。政府が社会問題の解決に役割を果たさないと考えるのも現実的ではありません。
Steve Case:私はイノベーション経済の中で一生を過ごしてきました。起業家として、投資家として、慈善家として、そして政策に影響を与えようとする者として。政府が正しくできる場合と間違う場合の両方を見てきました。確かに会場からの拍手の一部は、イノベーションを抑制する政府、規制による既得権の保護、既存企業の固定化などへの不満を反映しているのでしょう。
しかし、私自身のケースを含め、政府が行動を起こさなければ始まらなかった企業も見てきました。例えば、私たちはAmerica Online(AOL)を約40年前に始めましたが、その会社は政府が電気通信分野でのイノベーションを創出するためにMa Bellを解体したり、インターネットへのアクセスを商業化する電気通信法を議会が可決したりしなければ、始まらなかったでしょう。
私たちが1985年に始めた頃、オンラインにいた人々はわずか3%で、週に約1時間しかオンラインにいませんでした。理由はコストが高すぎたからです。コストを下げるのに数年かかり、そもそもインターネット自体が消費者や企業に利用可能になるまで時間がかかりました。元々はDARPAによって政府が資金を提供し、様々な戦略的理由でネットワークを設立したもので、教育機関や政府機関に限定されていました。消費者や企業は利用できなかったのです。政府がそれを修正する必要がありました。
また、FTCは電話会社に対して「オープンアクセス」と呼ばれるネットワークの開放を義務付けました。それによってインターネット革命が解き放たれ、アメリカがその革命の最前線に立つことになったのです。このような事例が示すように、政府の関与が時に革新的な変化を促進することがあります。
Wes Moore:そうですね、私がメリーランド州で行ってきたことを考えると、ある種の民間セクターや慈善団体などの主体が本当に「先行指標」として機能できることを理解しています。それらは最良の実践メカニズムであり、イノベーションの「シード資本」として機能することが多いのです。彼らが必要とするのは、何が機能するかを理解した政府のパートナーです。これが実際に社会的なROI(投資収益率)を持っていることを理解したら、公的なものにする準備ができます。「何が機能するかを示してください、そうすれば資金を提供します。何が機能していないかを示してください、そうすれば資金提供を停止します」と言えるようになるのです。それほど複雑ではありませんが、社会的課題に対処するために政府が取ることのできる適切な役割になります。Reaganの言葉は確かに記憶に残りますが、現実はもっと複雑で、政府と民間の協力が多くの場合最も効果的な解決策を生み出すのです。
3. 官民連携のメカニズム
3.1. 予算規模の違いと政府の資金力の重要性
Wes Moore:私がRobin Hoodを運営していたときの経験から、予算規模の違いについて具体的な例を挙げることができます。私が「公教育支援に2500万ドルを投入します」と発表すると、チームからは歓声が上がり、新聞にも少し取り上げられるかもしれません。しかし、その喜びも束の間でした。なぜなら、ニューヨーク市の教育局の予算だけでも270億ドルだと知ったからです。
この事実は政府と民間セクターの資金力の圧倒的な違いを明確に示しています。政府が「社会問題の解決には関与しない」という立場を取るのは、この予算規模の差を考えると現実的ではありません。政府には、民間団体では到底及ばない資金力があり、それは社会問題の解決において大きな役割を果たす可能性を持っています。
Preet Bharara:その点は非常に重要ですね。政府と民間団体の予算規模の差は、どのような社会問題においても無視できない要素です。2500万ドルと270億ドルという差は1000倍以上ですね。このような資金力の違いがある中で、官民パートナーシップはどのように機能すべきなのでしょうか?
Steve Case:私はイノベーション経済の観点からこの問題を見ています。確かに政府の資金力は圧倒的ですが、資金だけでは革新的な解決策は生まれません。政府がすべての問題に対して最適な解決策を持っているわけではありません。むしろ、民間セクターの柔軟性やイノベーション能力と、政府の資金力や規模を組み合わせることが重要です。
私たちがAOLを立ち上げた時も、政府が適切な条件を整えることで初めて事業が可能になりました。電気通信法の制定やFTCによるオープンアクセスポリシーがなければ、インターネット革命は起きなかったでしょう。これは官民連携の良い例だと思います。政府が枠組みを作り、民間企業がその中でイノベーションを起こすという関係です。
Wes Moore:全くその通りです。メリーランド州で私たちが取り組んでいるのも、まさにそのような官民連携です。政府の大きな予算を活かして、民間セクターや非営利団体が生み出した革新的な解決策を大規模に展開することが可能になります。私たちの社会的課題に対する解決策を見出すためには、政府の資金力と民間のイノベーション能力の両方が必要なのです。
3.2. 民間部門をリーディングインディケーターとして活用する戦略
Wes Moore:私がメリーランド州で実施している官民連携の核心は、民間セクターを「リーディングインディケーター」(先行指標)として活用する戦略にあります。民間部門、特に革新的な企業や非営利団体は、社会課題に対する新しいアプローチを試し、検証する上で最適な立場にあります。彼らは最良の実践メカニズムを提供し、本質的にはイノベーションの「シード資本」として機能しているのです。
例えば、教育や雇用創出、気候変動対策などの分野で、民間団体は小規模でありながらも効果的な解決策を開発・実証することができます。彼らは素早く行動し、リスクを取り、官僚的な制約なしに実験することができます。これらの試みの中から、真に効果的なモデルが浮かび上がってきます。
Preet Bharara:その「リーディングインディケーター」という概念は興味深いですね。政府が最初から大規模な政策を実施するのではなく、まず民間の実験から学ぶということですか?
Wes Moore:その通りです。政府が必要とするのは、何が機能するかを理解できる能力です。民間セクターが「これが機能します」と示し、実際にそれが社会的なROI(投資収益率)を生み出していることが確認できれば、政府はそれを大規模に展開する準備ができるのです。
私たちの役割は、「何が機能するかを示してください、そうすれば資金を提供します。何が機能していないかを示してください、そうすれば資金提供を停止します」という姿勢を取ることです。これがベストプラクティスを速やかに採用し、失敗を迅速に切り捨てることを可能にします。政府単独では難しい、このような俊敏性が官民連携の大きな利点なのです。
Steve Case:私もその観点に賛成です。イノベーション経済において、小さな実験から始めて成功事例を拡大していくアプローチは非常に重要です。私たちがベンチャーキャピタルで投資する際も同様の考え方をします。すべてのスタートアップが成功するわけではありませんが、成功した少数の企業が大きなインパクトを生み出します。
政府もこのベンチャーキャピタル的な思考を採用することで、公共資金をより効果的に活用できます。成功事例に集中的に投資し、スケールアップすることで、限られた資源で最大の社会的成果を生み出すことが可能になります。また、民間のイノベーションが先行することで、政府はすでに実証された解決策に投資することができ、リスクを軽減できるというメリットもあります。
Wes Moore:その通りです。私たちメリーランド州では、この戦略を積極的に推進しています。民間団体や非営利組織と緊密に連携し、彼らの革新的なアプローチを注意深く観察・評価しています。そして効果が実証されたプログラムを州全体に拡大するための資金と資源を提供しています。これにより、政府と民間セクターの強みを最大限に活かした持続可能な社会変革を実現しようとしているのです。
3.3. 成功事例の拡大と失敗事例への資金停止
Wes Moore:私がメリーランド州の官民連携で重視している重要なアプローチは、成功が証明されたプログラムには積極的に資金を投入し、効果のない取り組みからは迅速に資金を引き上げるという原則です。つまり、「何が機能するかを示してください、そうすれば資金を提供します。何が機能していないかを示してください、そうすれば資金提供を停止します」という単純な方針です。
この方針は、限られた公的資源を最も効果的に活用するためのものです。民間セクターでイノベーションが始まり、それが実際に社会的ROI(投資収益率)を生み出していることが確認できれば、政府はそれを大規模に展開するための資金を提供できます。逆に、効果が見られないプログラムには資金を継続して投入せず、より効果的なアプローチに資源を振り向けることができます。
Preet Bharara:その「何が機能するか」を判断する基準はどのように設定されるのでしょうか?成功と失敗を分ける線引きは簡単ではないと思います。
Wes Moore:実際、それは非常に重要な点です。私たちは明確な成果指標と評価プロセスを設定しています。例えば、教育プログラムであれば学習成果や卒業率、雇用創出であれば新規雇用数や賃金上昇率といった具体的な指標を用います。そして、民間パートナーと協力して、これらの指標に基づいた定期的な評価を行います。複雑に見えるかもしれませんが、本質的には非常に実用的なアプローチです。
Steve Case:それは私たちがベンチャーキャピタルの世界でも採用している考え方に似ていますね。すべての投資が成功するわけではありませんが、うまくいかない企業からは早めに撤退し、成功している企業には追加投資を行います。政府もこのような「ポートフォリオ・アプローチ」を取ることで、イノベーションを促進しながらも公的資金を効率的に使うことができます。
Wes Moore:その通りです。政府がしばしば批判されるのは、一度始めたプログラムをその効果にかかわらず継続してしまう点です。私たちが構築しようとしているのは、成功と失敗の両方から学び、常に最も効果的なアプローチに資源を集中させる文化です。これは民間セクターから学ぶべき重要な原則の一つですが、公共政策の文脈に適応させる必要があります。
社会問題の解決には、この「何が機能するか」に基づいた実用的なアプローチが不可欠です。イデオロギーや過去の慣行ではなく、実際の結果に基づいて政策を形成していくことが、真の社会的成果を生み出す鍵となります。メリーランド州では、この原則に基づいた官民パートナーシップを通じて、社会的課題への効果的な解決策を見いだし、拡大していくことを目指しています。
4. 技術革新における政府の成功と失敗
4.1. Steve CaseのAOL創業経験に基づく視点
Steve Case:私はイノベーション経済の中で一生を過ごしてきました。起業家として、投資家として、慈善家として、そして政策に影響を与えようとする者として。その経験から、政府が正しくできる場合と間違う場合の両方を見てきました。確かに会場からの拍手の一部は、イノベーションを抑制する政府、規制による既得権の保護、既存企業の固定化など、様々な不満を反映しているのでしょう。
しかし、私自身のケースを含め、政府が積極的に関与したことで成功した例も多く見てきました。私たちはAmerica Online(AOL)を約40年前に始めましたが、その会社は政府の介入がなければ始まらなかったでしょう。具体的には、政府がMa Bell(AT&T)を解体して電気通信分野でのイノベーションを創出する決断や、議会がインターネットへのアクセスを商業化する電気通信法を可決したことが重要でした。
Preet Bharara:それは興味深い例ですね。政府の介入がなければAOLは存在しなかったと言えるわけですか?
Steve Case:その通りです。私たちが1985年に始めた頃、オンラインにいた人々はわずか3%で、週に約1時間しかオンラインにいませんでした。理由はシンプルで、コストが高すぎたからです。インターネットを一般の人々が利用できるようにするには、まずコストを下げる必要がありました。そして、そもそもインターネット自体が消費者や企業に利用可能になるまでに数年かかりました。
元々インターネットは、DARPAによって政府が資金を提供し、様々な戦略的理由でネットワークを設立したものでした。しかし当初は教育機関や政府機関に限定されていて、一般の消費者や企業は利用できませんでした。この状況を変えるには政府の介入が必要だったのです。
さらに重要なのは、FTCが電話会社に対して「オープンアクセス」と呼ばれるネットワークの開放を義務付けたことです。この政策によってインターネット革命が解き放たれ、アメリカがその革命の最前線に立つことができました。現在、AIなどの新たな技術を考える際も、これらの教訓から学ぶべきです。例えば、AIに対してもオープンアクセスやオープンソースのアプローチを確保し、単に大手テック企業をより大きくするのではなく、公平な競争環境を確保して新しい企業が登場できるようにするにはどうすればよいかを考える必要があります。
Wes Moore:Steve、あなたの経験は非常に興味深いです。メリーランド州でも、政府と民間セクターが協力することでイノベーションを促進できると考えています。政府の役割は、時に障壁を取り除き、時に必要な投資を行い、イノベーションのための環境を整えることだと思います。ただ規制するだけでなく、積極的に可能性を広げる政策が重要なのではないでしょうか。
Steve Case:そうですね。政府は時に問題を作り出すこともありますが、同時にイノベーションを解き放つ力も持っています。重要なのはバランスです。過剰規制は確かに危険ですが、適切な枠組みがなければイノベーションの恩恵が社会全体に行き渡らないこともあります。私のAOLでの経験は、適切な政府の関与がいかに重要かを示す好例だと思います。
4.2. 電気通信法の制定とインターネットの商業化
Steve Case:インターネットが今日のように普及した背景には、政府による重要な政策決定があったことを強調したいと思います。私たちがAOLを1985年に始めた当時、オンラインにいた人々はわずか3%でした。しかも週に約1時間しかオンラインにいませんでした。なぜこんなに限られていたかというと、単純にコストが高すぎたからです。
インターネットを一般に広めるためには、まずコストを下げる必要がありました。そして、それを実現したのが議会による電気通信法の制定でした。この法律によって、それまで教育機関や政府機関に限定されていたインターネットへのアクセスが商業化され、一般の消費者や企業にも開放されたのです。
Preet Bharara:それは非常に重要な転換点だったんですね。その法律がなかったら、インターネットはどうなっていたと思いますか?
Steve Case:おそらく今日のように広く普及することはなかったでしょう。電気通信法の制定前は、インターネットは主に学術研究や政府の通信目的で使用されていました。一般消費者には縁遠い存在だったのです。この法律により、民間企業が参入してサービスを提供できるようになり、競争が生まれました。競争は価格の低下とサービスの向上をもたらし、それがさらに多くの人々をオンラインに引き寄せる好循環を生み出しました。
さらに、法律の制定と並行して、FTCは電話会社に対して「オープンアクセス」と呼ばれる方針を義務付けました。これは電話会社が自社のネットワークを他の事業者にも開放しなければならないというものです。この決定がなければ、既存の大手電話会社がインターネットアクセス市場を独占し、イノベーションが抑制されていた可能性があります。
Wes Moore:そのオープンアクセスの考え方は、今日のデジタル経済においても非常に重要な原則だと思います。メリーランド州でも、デジタルインフラへの公平なアクセスを促進する政策を進めています。政府の役割は、時に独占や集中を防ぎ、公平な競争環境を確保することにあると考えています。
Steve Case:その通りです。オープンアクセスの原則があったからこそ、AOLのようなニューカマーもMa Bell(AT&T)のような巨大企業が支配する市場に参入できたのです。政府がこうした枠組みを作ったことで、インターネット革命が解き放たれ、アメリカがその最前線に立つことができました。
この歴史的教訓は、現在のAIなどの新技術を考える際にも非常に重要です。同じように、オープンアクセスやオープンソースのアプローチを確保し、単に大手テック企業がさらに大きくなるのではなく、新しい企業が登場できる公平な競争環境を整える必要があるのです。政府の規制は時に煩わしいものですが、このような競争促進型の政策は長期的にイノベーションを加速させる効果があります。
4.3. DARPA(国防高等研究計画局)の初期インターネット開発
Steve Case:インターネットの歴史を語る上で欠かせないのが、DARPAによる初期開発の貢献です。多くの人が知らないかもしれませんが、インターネットは元々政府機関によって開発されたものでした。具体的には、DARPA(国防高等研究計画局)が戦略的な理由から資金を提供してネットワークを設立したのです。
当初、このネットワークは教育機関や政府機関に限定されていました。一般の消費者や企業は利用できなかったのです。これは現在のインターネットとは全く異なる姿でした。この限られたネットワークが今日のような世界的なインフラストラクチャーに発展するためには、政府による方針転換と新たな枠組みづくりが不可欠だったのです。
Preet Bharara:つまり、インターネットの起源は軍事目的だったということですね?
Steve Case:その側面もありますが、より広く科学研究や情報共有のためのネットワークとして構想されました。軍事目的だけでなく、学術機関同士の共同研究や知識交換を促進するという側面も大きかったのです。政府が戦略的な理由から最初のシード資金を提供し、基本的なインフラを構築したことが重要でした。
しかし、インターネットが真に革命的なものになるためには商業化が必要でした。そのために政府は、それまで限られた機関だけに開放していたネットワークを一般に開放する決断をしました。議会による電気通信法の制定と、FTCによる電話会社へのオープンアクセス義務付けがなければ、インターネットは今日のような形で発展することはなかったでしょう。
Wes Moore:それは興味深い例ですね。政府が最初のインフラ投資をし、その後民間セクターのイノベーションを促進するための環境を整えた。これはまさに官民パートナーシップの好例ではないでしょうか。
Steve Case:まさにその通りです。インターネットの発展は、政府と民間セクターの協力がもたらした成功例の一つです。政府が最初の投資と基本的な研究開発を行い、その後適切な政策決定によって民間セクターのイノベーションを促進しました。その結果、アメリカはインターネット革命の最前線に立つことができたのです。
この教訓は現在の新技術、特にAIの開発においても重要です。例えば、政府がオープンソースやオープンアクセスのアプローチを支援し、公平な競争環境を確保することで、単に大手テック企業だけが支配するのではなく、新しいプレーヤーも参入できる市場を作ることが可能になります。インターネットの歴史から学べることは多いと思います。
5. 米国のイノベーション優位性
5.1. トップダウン型(中国)vs ボトムアップ型(米国)のイノベーションアプローチ
Steve Case:アメリカが多くの新産業でリードしてきた理由の一つは、税制政策、移民政策、イノベーション政策などが、ヨーロッパや中国よりも優れていたからです。現在の米中の対立の核心は、イノベーションへのアプローチの違いにあります。本質的には、政府主導のトップダウンアプローチと、アメリカ型のボトムアップの草の根イノベーション文化との戦いなのです。
中国のアプローチは、政府が主導して重要な決定を下し、どの企業が勝ち、どの企業が負けるかを決めるトップダウン型です。対照的に、アメリカのアプローチはより草の根的で、パイオニア精神に基づくイノベーション文化です。私たちは、このイノベーション文化がサンフランシスコだけでなく、アメリカ全土で活気づき、繁栄していることを確認する必要があります。
Preet Bharara:その点については、地域間の格差という課題がありますね。イノベーションが一部の地域に集中していることが、社会的・政治的分断につながっているという指摘もあります。
Steve Case:その通りです。この格差は政治的な分断とも密接に関連しています。国内の多くの地域で人々が取り残され、見捨てられたと感じている現状があります。この問題は今日の政治的分断において非常に重要な要素です。具体的なデータとして、8年前にDonald TrumpがHillary Clintonに勝利した時、彼は30の州で勝ちました。これらの30州のベンチャーキャピタル投資総額は全体の15%に過ぎませんでした。一方、彼女が勝った20の州は全体の85%を占めていたのです。
これは重要なポイントです。なぜなら、この会場にいる皆さんもご存じの通り、ベンチャーキャピタルはイノベーションを推進し、スケールする企業の成長を促進し、多くの雇用を創出し、経済成長を牽引します。しかし、一部の地域だけに投資が集中していれば、多くの人々はテクノロジーの破壊的影響だけを経験し、その恩恵である新しい企業や雇用の創出を実感できません。それが分断につながるのです。
Wes Moore:私もその分析に同意します。メリーランド州でも、イノベーションの恩恵が州全体に均等に行き渡るよう努めています。特に経済的機会へのアクセスが制限されてきた地域やコミュニティに焦点を当てています。ボトムアップ型のアプローチを維持しながらも、その機会が一部の地域や人々に限定されないようにすることが重要です。
Steve Case:アメリカのイノベーション文化の強みは多様性と包摂性にあります。だからこそ、イノベーションの機会を全国に広げ、あらゆる背景を持つ人々が参加できるようにする必要があります。米中の競争においても、このボトムアップ型のアプローチが長期的な優位性をもたらすと信じています。ただし、それが一部のエリートだけのものになってしまえば、その強みは失われてしまうでしょう。
5.2. ベンチャーキャピタル投資の地理的偏在(トランプvsクリントン選挙時の統計)
Steve Case:ベンチャーキャピタルの地理的偏在について具体的なデータを共有したいと思います。8年前にDonald TrumpがHillary Clintonに勝利した時、彼は30の州で勝ちました。注目すべきなのは、これら30州に投資されたベンチャーキャピタルの総額が全体のわずか15%に過ぎなかったことです。対照的に、彼女が勝利した20州には全体の85%のベンチャーキャピタル投資が集中していました。
この統計は非常に重要です。なぜなら、この会場にいる皆さんもご存知の通り、ベンチャーキャピタルは一般的にイノベーションを促進し、急成長する企業を支援し、多くの雇用を創出し、経済成長を牽引します。もし特定の地域だけに投資が行われるなら、多くの人々はテクノロジーによる破壊的な影響だけを経験し、その恩恵である新しい企業や雇用創出を実感できません。そうした状況は政治的な分断を引き起こし、私たちは今まさにその状況に直面しています。
Preet Bharara:その格差は驚くべきものですね。15%対85%という数字は、機会の不均衡を如実に示しています。これがどのように政治的な分断に結びついたと思いますか?
Steve Case:これは非常に複雑な問題ですが、経済的機会の格差が政治的な不満と分断につながっています。Pewが約10年前に実施した調査では、驚くべきことに、80%の人々が将来に対して不安や恐れを抱いているという結果でした。80%です!幸いにも我々はその問題を抱えていませんが、国内の大多数の人々は朝起きた時から将来に対して不安を感じているのです。
そうした不安の一因は、イノベーションやテクノロジーの恩恵が一部の地域に集中し、多くの地域が取り残されていると感じているからです。この格差を解消するためには、ベンチャーキャピタルを含む経済的機会をより広く分散させる必要があります。
Wes Moore:Steve、そのデータは非常に説得力があります。メリーランド州でも同様の課題に直面しています。州内には繁栄している地域がある一方で、長年経済的機会から取り残されてきた地域もあります。私たちが最初に導入した法案の一つは、シードレベルにある起業家に資本を提供することに焦点を当てたものでした。彼らがメリーランド州で成長できるようにするためです。
特に重要なのは、初期段階の「友人と家族」からの資金調達ラウンドにおける格差です。問題は、すべての人が同じ友人や同じ家族を持っているわけではないということです。そのため、経済成長の機会を民主化し、すべての人にとって現実のものにするためには、どのようにしてその初期資金へのアクセスを提供できるかを考える必要があります。
Steve Case:その通りです。機会の民主化は非常に重要です。DanとDetroitで取り組んでいる「Rise the Rest」のイニシアチブもそのような取り組みの一つです。全国の様々な地域でイノベーションのエコシステムを構築し、ベンチャーキャピタルの投資をより広く分散させることを目指しています。投資の地理的な偏りを是正することが、長期的には経済的機会の公平な分配と政治的分断の緩和につながると信じています。
5.3. 地方都市のイノベーション機会欠如と政治的分断の関連性
Steve Case:ベンチャーキャピタル投資の地理的偏在は単なる経済問題ではなく、社会的・政治的分断の重要な要因になっています。Pewの調査によると、約10年前の時点で、実に80%の人々が将来に対して不安や恐れを抱いているという衝撃的な結果が出ています。80%という数字です!幸いにも私たちはそうした問題を抱えていませんが、国内の大多数の人々は朝起きた時から将来に不安を感じています。
この不安の根底には、イノベーションとそれに伴う経済的機会へのアクセスが一部の都市や地域に限定されているという現実があります。多くの地方都市では、テクノロジーの破壊的な影響だけを経験し、新しい企業や雇用創出といった恩恵を受けられていません。これが政治的な分断を深める一因となっているのです。
Preet Bharara:この問題は民主主義の健全性にも関わってくる重要な指摘ですね。特定の地域だけが繁栄し、他の地域が取り残されることで、国としての一体感が失われる危険性があります。この状況を改善するための具体的なアプローチはありますか?
Steve Case:そうです。私たちが「Rise the Rest」と呼ぶイニシアチブを10年前から始め、全国の様々な都市でイノベーションエコシステムの構築を支援してきました。例えば、Dan Gilbertとともにデトロイトでの取り組みを開始しました。当時、多くの人がデトロイトに見切りをつけていました。大きな課題を抱えていたのは確かです。
しかし、Danは103棟もの建物に大規模な投資を行い、自身の企業であるQuick and Loansをダウンタウンに移転させました。また、私たちが資金を提供したStockXのような企業を立ち上げ、現在ではデトロイトで3000の雇用を創出しています。市長や州知事、Kresgeなどの財団とも連携しました。そして10年後の今、私たちは数ヶ月前にデトロイトを再訪し、その進展を祝いました。
デトロイトはまだ課題を抱えていますが、確実に前進し、復活の道を歩んでいます。かつてデトロイトは100年前、自動車が時代の最先端技術だった頃には、アメリカで最もイノベーティブな都市でした。いわば当時のシリコンバレーだったのです。しかし、その後衰退し、人口の60%を失い、私たちが10年前に訪れる数ヶ月前には破産していました。それが今、復活の兆しを見せているのです。
Wes Moore:Steve、その取り組みは非常に印象的です。地方都市の再生は、私たちが直面している分断を解消するためにも不可欠だと思います。メリーランド州でも、ボルチモアのような都市の再生に取り組んでいます。歴史的に見ると、これらの都市には強固な産業基盤がありましたが、世界経済の変化とともに衰退しました。
イノベーションの機会を地理的に分散させることは、単に経済的な問題ではなく、国家としての結束と民主主義の健全性に関わる問題です。私たちの州では、経済発展とイノベーションの機会が州全体に広がるよう、様々な取り組みを進めています。特に若い起業家たちが地元で事業を始め、成長させることができる環境の整備に力を入れています。
Steve Case:重要なのは、シリコンバレーのような特定の地域でイノベーションを抑制することではなく、より多くの地域でイノベーションを促進することです。アメリカの強みは多様性と包摂性にあります。様々な背景や考え方を持つ人々が参加することで、より強固で持続可能なイノベーションのエコシステムが構築できるのです。政治的分断を緩和し、より多くの人々に経済的機会を提供するためにも、イノベーションを地理的に分散させることが重要です。
6. 政治的対話と社会分断
6.1. ソーシャルメディアの意図しない結果と部族主義的傾向
Steve Case:私は我々の会社がオンラインの世界を広げ、インターネットが多くの側面で肯定的な影響を与えたことを非常に誇りに思っています。しかし、ソーシャルメディアの展開については本当に失望している部分があります。
我々はインスタントメッセージング、バディリスト、チャットルームなどを最初に立ち上げた企業の一つでした。ある意味ではFacebookなどより前のソーシャルメディア分野の先駆者だったとも言えます。当時私は「これは素晴らしいことだ」と考えていました。なぜなら、私が育った時代は、3つのテレビネットワーク(プラスあまり視聴率を獲得できなかったPBS)が放送するコンテンツしか見ることができず、その町の大物や一族が所有する新聞しか読むことができなかったからです。
もっと多くの声が聞かれるように、情報の場がより平等になれば素晴らしいと思ったのです。そしてインターネットはそれを可能にしました。ブログやポッドキャストなど、「マスターズ・オブ・スケール」のような様々なコンテンツが生まれました。
Preet Bharara:しかし、何か予期しない結果も生じたのではないですか?
Steve Case:そうです。私にとって驚きであり、非常に残念だったのは、人々がこの技術を他の問題について学んだり、他の人々とつながったりする方法として使うのではなく、「部族的な傾向」や「フィルターバブル」を強化する方向に使ってしまったことです。この会場にいるほとんどの人も含め、多くの人々は自分の考えに合致する情報を追い、同じ視点を持つコンテンツを消費し、異なる視点を学ぶ時間を取っていません。
これは大きな失望でした。唯一ポジティブな点を挙げるとすれば、数年前にSpecial Olympicsの会長であるTim Shriverが「Unite」という非営利イニシアチブを立ち上げ、「尊厳指数」(Dignity Index)と呼ばれるものを開発したことです。これは多くの上院議員や州知事を含む政治家たちが、より共通基盤を構築し、合意形成を目指すコミュニケーションになるよう、自分たちの発言を評価するために使用しています。ケーブルテレビやXで話題になるような過激なレトリックではなく、人々が共に歩み寄る方法を見つけるためのツールです。
Preet Bharara:その「尊厳指数」は興味深いですね。現在の大統領候補たちの評価もしているのですか?
Steve Case:はい、討論会を含めて分析しています。
Preet Bharara:スコアはどうだったのですか?
Steve Case:両候補ともより良くできたでしょうが、予想通りTrumpのレトリックは少し過熱気味で、「尊厳」の点では若干劣っていました。
Wes Moore:そうした対話の質の問題に関連して、私は成功を悪魔視することをやめる必要があると思います。社会のリスクテイカーを悪魔視するのをやめるべきです。人々は私に「何人の億万長者がいるかで夜も眠れないのではないか」と尋ねますが、いいえ、私が夜眠れないのは、どれだけ多くの人々が貧困の中で生活しているかということです。私たちは焦点を当てるべきことを変えなければなりません。
何が本当に私たちのエネルギーと時間を費やすべき課題なのかを考える必要があります。「億万長者であることは政策の失敗だ」という人もいますが、違います。貧困の中で生活している人々の数こそが政策の失敗なのです。本当に焦点を当てるべき問題に集中しましょう。
6.2. 「ディグニティ・インデックス」イニシアチブの重要性
Steve Case:政治的対話の質を向上させるための注目すべき取り組みとして、数年前にSpecial Olympicsの会長であるTim Shriverが立ち上げた非営利イニシアチブ「Unite」を紹介したいと思います。特に彼らが開発した「尊厳指数」(Dignity Index)は、政治的コミュニケーションを改善するための重要なツールになっています。
この指数は、政治家たちが自分のコミュニケーションを採点する方法を提供し、より共通基盤を構築し、合意形成を目指す対話になるよう促します。現在、上院議員や州知事を含む多くの政治家たちがこのツールを活用しています。ケーブルテレビやXなどのプラットフォームで注目を集めるような過熱したレトリックではなく、人々が共に歩み寄る方法を見つけることを支援するツールなのです。
Preet Bharara:そのような取り組みは非常に時宜を得ていますね。この「尊厳指数」は現在の大統領候補たちのコミュニケーションも評価しているのでしょうか?例えば討論会なども分析対象になっていますか?
Steve Case:はい、討論会を含めていくつかの分析を行っています。
Preet Bharara:その分析結果はどうでしたか?両候補のスコアに差はあったのでしょうか?
Steve Case:両候補ともより良いスコアを獲得できたはずです。しかし予想されるかもしれませんが、Trumpのレトリックは少し過熱気味で、「尊厳」という観点では若干低いスコアでした。
Wes Moore:私は「尊厳指数」のようなツールの価値を認めつつも、政治的対話の質を向上させるためには、まず社会全体として私たちの議論の焦点を正しい場所に当てる必要があると考えています。特に経済的成功や格差についての議論では、すぐに「億万長者は多すぎる」という話になりがちですが、本当に焦点を当てるべきなのは「貧困に苦しむ人々があまりにも多い」という問題のはずです。
この「尊厳指数」が提供するのは、単に言葉遣いやトーンの問題だけではなく、対話の本質的な方向性を建設的なものに変えていくための枠組みでもあると思います。相手を悪魔視するのではなく、共通の目標に向かって建設的な対話を促進する、そのようなコミュニケーションを評価し奨励する仕組みとして重要なのです。
Preet Bharara:なるほど、この取り組みは単なるコミュニケーションの問題ではなく、社会的分断を解消し、共通の目標に向かって協力するための基盤づくりとして機能しているわけですね。Wes知事が指摘するように、議論の焦点をどこに置くかという本質的な部分とも密接に関連しています。
Steve Case:その通りです。自分自身のコミュニケーションを評価することは目から鱗の経験になります。私は皆さんに「尊厳指数」を調べて、自分のコミュニケーションを評価してみることをお勧めします。問題の一部ではなく、解決策の一部になるために、私たち一人ひとりが貢献できることがあるのです。政治家だけでなく、メディア、ビジネスリーダー、そして市民一人ひとりが、より建設的な対話のあり方を模索する必要があります。
6.3. 成功の悪魔化と貧困問題への焦点の必要性
Wes Moore:私は、これらの議論に沿って、ぜひ一点付け加えたいと思います。私たちは成功を悪魔視することをやめる必要があります。私たちの社会のリスクテイカーを悪魔視することをやめるべきです。
人々はよく私に「何人の億万長者がいるかで夜も眠れなくなるのではないか」と尋ねてきます。いいえ、私が夜眠れなくなるのは、どれだけ多くの人々が貧困の中で生活しているかということです。私たちは焦点を当てるべき対象を実際に変えていく必要があります。
私が言いたいのは、私たちが「どれだけ多くの富を持つ人がいるか」を問題視するのではなく、「どれだけ多くの人が貧困に苦しんでいるか」に焦点を当てるべきだということです。なぜなら、人々は「億万長者であることは政策の失敗だ」と言うかもしれませんが、違います。貧困の中で生活している人々の数こそが政策の失敗なのです。私たちは本当に焦点を当てるべき問題に時間とエネルギーを注ぐべきです。
Preet Bharara:その視点は非常に重要ですね。成功自体を問題視するのではなく、機会の欠如や格差を問題視すべきだということですね。この考え方は、経済的機会をより広く分配するという私たちの議論とも繋がっています。
Wes Moore:その通りです。私は、ある社会で「非常に豊かな人々と非常に貧しい人々がいる」という事実について懸念する声があることも理解しています。しかし、真の解決策は成功者を叩くことではなく、機会を拡大し、すべての人がその恩恵を受けられるようにすることです。
私たちの州で最初に導入した法案の一つは、シードレベルの起業家、つまり本当に概念段階からアイデアを持つ人々に資本を提供することに焦点を当てたものでした。彼らがメリーランド州で成長する機会を持てるようにするためです。なぜこの段階に焦点を当てたかというと、最初の資金調達ラウンドは通常「友人と家族」のラウンドと呼ばれていますが、問題は誰もが同じ友人や同じ家族を持っているわけではないということです。
Steve Case:全くその通りです。私たちが「Rise the Rest」のイニシアチブで取り組んでいるのもまさにそのポイントです。単に富の再分配を議論するのではなく、機会の再分配、より正確には機会の創出を目指すべきです。起業家精神とイノベーションの力を活用して、より多くの人々、より多くの地域に経済的チャンスをもたらすことが重要です。
成功した起業家を批判するのではなく、彼らの成功体験から学び、より多くの人々が同様の道を歩めるようにサポートすることが真の解決策です。デトロイトの例でも見たように、都市の復活は、リスクを取る起業家とそれをサポートする環境があってこそ実現するものです。
Wes Moore:起業家や成功者を称え、そのリスクテイキングの精神を讃えながらも、その機会がより広く、より公平に分配されるよう取り組む。これこそが、より統合された社会を実現するための道筋だと思います。私はメリーランド州でそのようなバランスの取れたアプローチを目指しています。
6.3. 成功の悪魔化と貧困問題への焦点の必要性
Wes Moore:私は、これらの議論に沿って、ぜひ一点付け加えたいと思います。私たちは成功を悪魔視することをやめる必要があります。私たちの社会のリスクテイカーを悪魔視することをやめるべきです。
人々はよく私に「何人の億万長者がいるかで夜も眠れなくなるのではないか」と尋ねてきます。いいえ、私が夜眠れなくなるのは、どれだけ多くの人々が貧困の中で生活しているかということです。私たちは焦点を当てるべき対象を実際に変えていく必要があります。
私が言いたいのは、私たちが「どれだけ多くの富を持つ人がいるか」を問題視するのではなく、「どれだけ多くの人が貧困に苦しんでいるか」に焦点を当てるべきだということです。なぜなら、人々は「億万長者であることは政策の失敗だ」と言うかもしれませんが、違います。貧困の中で生活している人々の数こそが政策の失敗なのです。私たちは本当に焦点を当てるべき問題に時間とエネルギーを注ぐべきです。
Preet Bharara:その視点は非常に重要ですね。成功自体を問題視するのではなく、機会の欠如や格差を問題視すべきだということですね。この考え方は、経済的機会をより広く分配するという私たちの議論とも繋がっています。
Wes Moore:その通りです。私は、ある社会で「非常に豊かな人々と非常に貧しい人々がいる」という事実について懸念する声があることも理解しています。しかし、真の解決策は成功者を叩くことではなく、機会を拡大し、すべての人がその恩恵を受けられるようにすることです。
私たちの州で最初に導入した法案の一つは、シードレベルの起業家、つまり本当に概念段階からアイデアを持つ人々に資本を提供することに焦点を当てたものでした。彼らがメリーランド州で成長する機会を持てるようにするためです。なぜこの段階に焦点を当てたかというと、最初の資金調達ラウンドは通常「友人と家族」のラウンドと呼ばれていますが、問題は誰もが同じ友人や同じ家族を持っているわけではないということです。
Steve Case:全くその通りです。私たちが「Rise the Rest」のイニシアチブで取り組んでいるのもまさにそのポイントです。単に富の再分配を議論するのではなく、機会の再分配、より正確には機会の創出を目指すべきです。起業家精神とイノベーションの力を活用して、より多くの人々、より多くの地域に経済的チャンスをもたらすことが重要です。
成功した起業家を批判するのではなく、彼らの成功体験から学び、より多くの人々が同様の道を歩めるようにサポートすることが真の解決策です。デトロイトの例でも見たように、都市の復活は、リスクを取る起業家とそれをサポートする環境があってこそ実現するものです。
Wes Moore:起業家や成功者を称え、そのリスクテイキングの精神を讃えながらも、その機会がより広く、より公平に分配されるよう取り組む。これこそが、より統合された社会を実現するための道筋だと思います。私はメリーランド州でそのようなバランスの取れたアプローチを目指しています。
7. 起業環境の民主化
7.1. 「友人と家族」からの資金調達に関する格差問題
Wes Moore:起業環境の民主化について語る際に、特に重要な点として挙げたいのは、初期段階での資金調達における格差の問題です。私たちがメリーランド州で導入した最初の法案の一つは、シードレベルの起業家、つまり概念段階からアイデアを持つ人々に資本を提供することに焦点を当てたものでした。彼らがメリーランド州内で成長する機会を持てるようにするためです。
なぜこの段階に特に焦点を当てたかというと、最初の資金調達ラウンドは通常「友人と家族のラウンド」と呼ばれています。ここに大きな問題があります。すべての人が同じ友人を持っているわけではありません。すべての人が同じ家族を持っているわけではないのです。この現実が、起業の入り口での大きな格差を生み出しています。
Preet Bharara:その「友人と家族のラウンド」における格差について、もう少し詳しく説明していただけますか?
Wes Moore:もちろんです。例えば、高所得層や富裕層の家庭出身の起業家は、最初のビジネスアイデアを実現するために家族や友人から10万ドル、20万ドル、あるいはそれ以上の資金を調達できることがあります。一方で、低所得コミュニティや歴史的に恵まれないコミュニティ出身の起業家は、アイデアが素晴らしくても、周囲にそのような資金力を持つ人々がいないために、最初の一歩を踏み出すことさえ難しいのです。
この格差を埋めるために、私たちはメリーランド州で政府主導のシード資金プログラムを立ち上げました。これにより、「友人と家族のラウンド」で不利な立場にある起業家でも、優れたアイデアを持っていれば、初期段階での資金調達機会を得ることができます。経済成長の機会を民主化し、すべての人にとって現実のものにするための取り組みです。
Steve Case:Wes知事の指摘は非常に重要です。私はベンチャーキャピタルの世界にいますが、「友人と家族のラウンド」での格差が後の資金調達ステージにも大きな影響を与えることを目の当たりにしてきました。初期資金がなければ、製品やサービスの基本的なプロトタイプさえ作れないことがあります。そして、プロトタイプなしでは、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから資金を調達することはほぼ不可能です。
これが累積的な不利益につながり、結果的に起業のエコシステム全体での多様性の欠如を生み出しています。私たちが「Rise the Rest」で取り組んでいるのも、こうした初期段階からの格差に対処するためです。すべての人が平等なスタートラインに立てるようにすることが、真のイノベーションと包括的な経済成長のために不可欠だと考えています。
Wes Moore:まさにその通りです。起業環境の民主化は単なる公平性の問題ではなく、経済的な合理性もあります。多様な背景を持つ起業家がより多く参入することで、より多様な問題解決アプローチや製品イノベーションが生まれます。「友人と家族のラウンド」の格差を解消することは、より包括的で強靭な経済エコシステムを構築するための第一歩なのです。
7.2. 女性・マイノリティへのベンチャーキャピタル投資の少なさ
Steve Case:起業環境の民主化について議論する際、看過できない重要な問題があります。女性は人口の半分を占めているにもかかわらず、ベンチャーキャピタルの投資額のわずか10%未満しか受け取っていません。ある推計によれば、実際にはわずか2%という数字も出ています。計算方法によって異なりますが、いずれにしても極めて少ない割合です。
同様の状況は黒人やラテン系の起業家にも当てはまります。これらのコミュニティも十分な投資を受けられていません。Wes知事が指摘した「友人と家族」の問題と同様に、ここでも「誰を知っているか」「どの学校に通ったか」が大きく影響しています。これでは多くの人々がアメリカンドリームを実現する機会を奪われていることになります。
Preet Bharara:その格差の原因はどこにあると思いますか?単なる偏見なのか、それともシステム上の問題なのでしょうか?
Steve Case:それは複雑な問題です。一部には無意識の偏見があり、多くの投資家が自分と似た背景を持つ起業家に投資する傾向があります。また、ネットワークの問題もあります。ベンチャーキャピタルの世界は紹介ベースで動くことが多いため、既存のネットワークに属していない人々はそもそも検討の対象になりにくいのです。
より多くの人々、より多くの場所で機会を創出することは、単に道徳的に正しいだけでなく、経済的にも理にかなっています。女性やマイノリティが直面している問題を解決するために、彼ら自身がイノベーションを起こすことができれば、より適切なソリューションが生まれる可能性が高いのです。
Wes Moore:Steve、その点はとても重要です。メリーランド州では、女性やマイノリティが所有するビジネスへの支援を強化しています。彼らが直面する障壁は単に資金調達だけではありません。メンターシップ、ネットワーク、ビジネス知識へのアクセスなど、多岐にわたります。
ベンチャーキャピタルの投資が女性に10%未満、黒人やラテン系にはさらに少ないという現状は、明らかに機会の不平等を示しています。これは単に社会正義の問題ではなく、経済的な損失でもあります。これらのグループからも素晴らしいアイデアやイノベーションが生まれる可能性があるのに、そのポテンシャルを活かせていないのです。
Steve Case:そうですね。「Rise the Rest」イニシアチブでは、地理的な多様性だけでなく、起業家自身の多様性も重視しています。女性やマイノリティの起業家を支援することで、新たな視点やアイデアが生まれ、イノベーションのエコシステム全体が豊かになります。多様性は単なる社会的目標ではなく、イノベーションと経済成長の原動力なのです。
7.3. ハリス副大統領の起業支援政策評価
Preet Bharara:Kamala Harris副大統領が提案している政策について少し議論したいと思います。特に、通常の9時5時の仕事から起業家や小規模ビジネスへの移行を容易にし、インセンティブを与えるための政策についてはどのようにお考えですか?これらの政策は正しい方向に向かっていると思いますか?
Steve Case:はい、それらの政策は非常に重要だと思います。Biden-Harris政権の「Build Back Better」と呼ばれる政策や、CHIPS and Science Actに関連する取り組みの一部は、技術の発展と起業家精神を全国に広げることを目指しています。例えば、Tech Hubsへの資金提供が承認されましたが、これは100億ドルが承認され、そのうち5億ドルがすでに配分されています。
このような取り組みは、資本をより広く分散させるための重要な一歩です。Wes知事が言ったように、女性は人口の半分を占めていますが、ベンチャーキャピタルの10%未満しか受け取っていません。一部の統計では2%ほどという数字も出ています。計算方法によって異なりますが、黒人やラテン系の起業家も同様の状況です。
これは重要な問題です。なぜなら、「誰を知っているか」「どの学校に通ったか」が大きく影響している現在の状況では、多くの人々がアメリカンドリームを実現し、コミュニティを発展させる機会を奪われているからです。そして、私たちとは異なり、多くの人々が朝起きたときに将来に対して不安や恐れを感じています。
Wes Moore:私もSteve同様、これらの政策は重要な一歩だと考えています。特に感銘を受けるのは、起業環境の民主化に焦点を当てている点です。私たちが直面している課題の一つは、起業するためのハードルがあまりにも高いことです。多くの人々が安定した仕事を辞めて起業することにリスクを感じています。健康保険の問題、資金調達の問題、そして失敗した場合のセーフティネットの欠如などが大きな障壁となっています。
Harris副大統領の政策は、これらの障壁を取り除き、より多くの人々が自分のアイデアを実現できるような環境を作ろうとしています。特に、初期段階の起業家への支援は、「友人と家族のラウンド」で不利な立場にある人々にとって非常に重要です。
Preet Bharara:こうした政策が実際に効果を上げるためには、どのような実施方法が重要だと考えますか?
Steve Case:政策の設計だけでなく、実施方法も非常に重要です。例えば、Tech Hubsへの資金配分は、既存の革新的な地域の強化だけでなく、新たな革新の中心地を育成することにも焦点を当てるべきです。また、資金配分の際には多様性の視点も考慮する必要があります。
最も重要なのは、これらの政策が官民パートナーシップの精神に基づいて実施されることです。政府だけでこの問題を解決することはできませんし、民間セクターだけでも同様です。両者が協力して、より包括的なイノベーションのエコシステムを構築することが必要です。
Wes Moore:同感です。政策の実施には、地域の実情に合わせた柔軟なアプローチが必要です。各地域には独自の強みと課題があり、一律の解決策は効果的ではありません。また、これらの政策が短期的な政治サイクルを超えて持続可能な影響を与えるためには、長期的な視点と継続的な評価・改善のプロセスが不可欠です。
メリーランド州での経験から言えば、政府の政策が実際に機能するためには、現場のニーズに応え、実際の結果を重視する実践的なアプローチが必要です。政策の有効性は最終的に、どれだけ多くの人々が起業の機会を得られるか、そして彼らのビジネスがどれだけ成功し、コミュニティに貢献できるかによって測られるべきでしょう。
8. デトロイト再生の事例研究
8.1. ダン・ギルバートとの「Rise the Rest」イニシアチブ
Steve Case:「Rise the Rest」というリージョナル起業家精神イニシアチブを10年前にデトロイトで開始しました。このプロジェクトはDan Gilbertと協力して立ち上げたもので、当時は多くの人々がデトロイトに見切りをつけていた時期でした。確かにデトロイトは大きな課題を抱えていましたが、私たちはその復活の可能性を信じていました。
Danは非常に大胆な決断をし、デトロイトのダウンタウンに約103棟もの建物を購入しました。彼の会社であるQuick and Loans(現在のRocket Mortgage)をダウンタウンに移転させ、私たちが出資した企業も含めていくつかの新しい企業を立ち上げました。例えばStockXはその一つで、現在ではデトロイトで3000人もの雇用を創出しています。
Preet Bharara:それは素晴らしい変革ですね。このイニシアチブの核心的な目的は何だったのでしょうか?
Steve Case:「Rise the Rest」の基本的な考え方は、イノベーションとベンチャーキャピタルの恩恵をサンフランシスコやニューヨークなどの一部の都市だけでなく、全米の様々な都市に広げることです。デトロイトはその象徴的な例でした。私たちは市長や州知事、Kresge財団などの地元のステークホルダーとも協力し、包括的なアプローチを取りました。
歴史的に見ると、100年前のデトロイトは当時の「シリコンバレー」とも言える存在でした。自動車がその時代の最先端技術だった頃、デトロイトはアメリカで最もイノベーティブな都市だったのです。しかし、その後衰退し、人口の60%を失い、私たちが10年前に訪れる数ヶ月前には破産していました。
Wes Moore:その取り組みは非常に印象的です。政府と民間セクターの協力があってこそ実現したものだと思います。メリーランド州でも同様の取り組みを行っていますが、地域の再生には様々なステークホルダーの協力が不可欠だと実感しています。
Steve Case:その通りです。「Rise the Rest」の重要な点は、単に資金を提供するだけでなく、地域全体のエコシステムを構築することです。起業家、投資家、大学、企業、そして政府が協力して初めて、持続可能なイノベーションの環境が生まれます。デトロイトの場合、Danのような地元の起業家のリーダーシップが非常に重要でした。
彼は単なる投資家ではなく、デトロイトの再生に対する明確なビジョンを持っていました。彼は「デトロイトは単なる自動車の街ではなく、技術とイノベーションの中心地になれる」と信じていました。そして、彼の会社を移転させることで、他の企業にも模範を示したのです。
Preet Bharara:他の都市でも同様のアプローチが通用すると思いますか?
Steve Case:はい、各都市には独自の課題と強みがありますが、基本原則は同じです。地元のリーダーシップ、官民パートナーシップ、長期的視点が重要です。私たちは「Rise the Rest」を通じて、全米の数十の都市で同様の取り組みを行ってきました。デトロイトの成功は、他の都市にとっても希望となっています。地域の経済的再生が政治的分断を緩和し、より包括的な繁栄をもたらす可能性を示しているからです。
8.2. 10年間での都市再生と雇用創出の成果
Steve Case:この「Rise the Rest」イニシアチブを10年前にデトロイトで開始してから、都市の変貌には目を見張るものがあります。10年という歳月を経て、私たちは数ヶ月前にデトロイトを再訪し、その進展を祝うことができました。デトロイトはまだ課題を抱えていることは確かですが、明らかに前進し、復活の道を歩んでいます。
最も顕著な成果の一つは、StockXのような企業の成長です。私たちが資金提供したこの企業は、現在デトロイトで3000人もの雇用を創出しています。これは単なる数字ではなく、3000の家族に経済的安定をもたらし、地域経済に新たな活力を吹き込んでいるのです。
Dan Gilbertの投資も大きな成果を上げています。彼が購入した103棟の建物は、単なる不動産取引ではなく、都市再生のための戦略的な布石でした。彼の会社Quick and Loans(現Rocket Mortgage)がダウンタウンに移転したことで、他の企業も追随し、かつては空洞化していたダウンタウンに新たな活気が生まれました。
Preet Bharara:その変化は具体的にどのような形で現れていますか?雇用以外にも目に見える成果はありますか?
Steve Case:はい、雇用創出だけでなく、ダウンタウンの再活性化という形で明確に現れています。かつては空きビルが目立ち、人通りも少なかったエリアに、今では新しいレストラン、カフェ、小売店が次々とオープンしています。住宅需要も高まり、若い専門家がデトロイトに移り住むようになりました。
もう一つ重要な点は、デトロイトが「単に自動車を製造する街」というイメージから脱却し、テクノロジーとイノベーションの中心地としての新しいアイデンティティを確立しつつあることです。現在、自動車産業とテクノロジー産業が融合する中で、デトロイトはその歴史的な製造業の強みと新たなデジタル技術を組み合わせた独自のポジションを築きつつあります。
Wes Moore:その変革は非常に印象的です。特に、人口の60%を失い、破産までした都市が、わずか10年でこれほどの復活を遂げたのは驚くべきことです。メリーランド州でも、ボルチモアのような都市の再生に取り組んでいますが、デトロイトの事例から学ぶべき点は多いと感じています。
特に興味深いのは、民間企業の移転が都市再生のきっかけになったという点です。Danが会社を移転したという決断が、他の企業や人々を引き寄せる触媒になった。これは政府主導の再開発だけでは実現できない変化であり、官民パートナーシップの重要性を示す好例だと思います。
Steve Case:その通りです。10年前、私たちがデトロイトで「Rise the Rest」を始めた時、多くの人々は懐疑的でした。しかし今では、デトロイトの再生は他の都市にとってのモデルケースとなっています。私たちはこの成功体験を全米の他の都市にも展開しようとしています。デトロイトの物語は、諦められていた都市でも、適切なリーダーシップとビジョン、そして官民の協力があれば、劇的な変革を遂げることができるという希望を与えてくれます。
8.3. 官民連携による都市再生モデル
Steve Case:デトロイトの再生は、官民連携の力を示す素晴らしい例だと思います。「Rise the Rest」イニシアチブを通じて、私たちはDan Gilbertだけでなく、デトロイト市長や州知事、Kresge財団などの様々なステークホルダーと協力してきました。このマルチセクターのアプローチこそが、持続可能な変革の鍵でした。
一つの組織や個人だけでは、デトロイトのような複雑な課題を抱えた都市を再生することはできません。Dan Gilbertの大胆な投資と民間企業の力、市や州政府の支援策、そして地元の財団の長期的なコミットメントが組み合わさることで、総合的な再生が可能になりました。
特に重要だったのは、短期的な利益ではなく、長期的なビジョンに基づいたパートナーシップでした。デトロイトの再生には何年もかかると理解した上で、各ステークホルダーが持続的な取り組みを行いました。
Wes Moore:私も官民連携の重要性に強く共感します。メリーランド州知事として、行政だけでは解決できない課題が多いことを日々実感しています。特に都市の経済的再生においては、政府と民間セクターが互いの強みを持ち寄ることが不可欠です。
政府は基盤整備や制度的障壁の除去などを通じて環境を整え、民間セクターはイノベーションと資本を提供する。デトロイトのモデルはまさにその好例です。私たちメリーランド州も、ボルチモアなどの都市再生に同様のアプローチを適用しようとしています。
Steve、あなたがデトロイトで学んだ教訓の中で、他の都市にも応用できる最も重要なポイントは何だと思いますか?
Steve Case:最も重要なのは、地元のリーダーシップと長期的なコミットメントだと思います。デトロイトの場合、Dan Gilbertのような地元の起業家が主導権を握り、長期的なビジョンを持って投資を行いました。彼は単に不動産投資としてではなく、都市の将来に対する信念から103棟もの建物を購入したのです。
また、既存の強みを活かすことも重要でした。デトロイトは製造業の伝統と技術的な専門知識を持っていました。私たちはそれを否定するのではなく、デジタル時代に合わせて進化させることを目指しました。それが自動車産業とテクノロジーの融合という形で実現しつつあります。
Preet Bharara:この官民連携モデルを他の都市にも展開する際、政府の役割についてもう少し具体的に教えていただけますか?行政はどのような支援を提供すべきでしょうか?
Wes Moore:政府の最も重要な役割は、民間投資を促進するための環境整備です。具体的には、規制の簡素化、税制優遇措置、スキル開発プログラムの提供などが挙げられます。また、公共インフラへの投資も不可欠です。デトロイトの場合、公共交通機関の改善や公共スペースの整備が、民間投資をさらに引き寄せる効果がありました。
もう一つ重要なのは、地域社会との橋渡し役としての機能です。都市再生が単なる「ジェントリフィケーション」ではなく、既存のコミュニティにも恩恵をもたらすようにするためには、政府が包括的なアプローチを推進する必要があります。
Steve Case:その通りです。デトロイトの再生モデルは、経済発展とコミュニティの包摂を両立させることを目指しています。単に新しいビジネスを誘致するだけでなく、地元の人々がスキルを身につけ、新たな経済機会に参加できるようにすることが重要です。それこそが、持続可能で包括的な都市再生の鍵なのです。
9. 技術革新と規制のバランス
9.1. AIなど新技術に対する規制アプローチ
Preet Bharara:政府と民間セクターの間の大きな対立点の一つが規制の問題です。特に税金や他の問題以外にも、AIや暗号通貨、量子コンピューティングなどの新技術が登場した際の規制について。これらの技術に投資し、その可能性を見出している人々は、誰もが前進し、繁栄し、妨げられることなく花開くことを望んでいます。一方で政府は、時には些細なことに過ぎませんが、時には合理的かつ誠実に「待ってください、これがどのような被害を引き起こす可能性があるのかわかりません、規制したいのです」と言います。
そして、この問題を通じて浸透している問題は、敬意を込めて言いますが、私たちの選出された役人の多くは技術についてほとんど知識がないということです。次期大統領候補を含む多くの政治家たちが、自分たちはメールを送ったことがないと自慢しているのに、AIを賢く規制できるのでしょうか。また、AIに関しては自主規制の可能性もあり、AIの最も熱心な提唱者や賛美者でさえ「ちょっと待って、何かをすべきだ」と言っています。このような政府と民間セクターの対立を克服するための方法として、イノベーションと規制のバランスを取るための具体的な例はありますか?
Wes Moore:私は個人的に新技術、特にAIとクォンタムコンピューティング、テクノロジー、サイバーなどの可能性について非常に楽観的です。メリーランド州がこれらの分野でグローバルリーダーになってほしいと考えています。その理由の一部は、我が州が持つ資産を認識しているからです。例えば、メリーランド州はNIST(国立標準技術研究所)の本拠地であり、NSA(国家安全保障局)、サイバーコマンド、そして新しいFBI本部の所在地でもあります。なぜこれらの資産があるにもかかわらず、グローバルリーダーにならないでしょうか?
しかし、グローバルリーダーになるための投資と、そのリーダーになるということは、適切なガードレールを設置する必要があることも意味します。また、一般市民をこの旅に巻き込むことも必要です。多くの人々はこれが何を意味するのか恐れています。彼らは将来について、そしてウィル・スミスの映画を思い浮かべ、新技術の未来についての恐怖を抱いています。
適切なガードレールを設置しながらも、どのような機会と可能性があるかについて恐れないアプローチをとる方法があります。私たちはメリーランド州で、AI担当の上級顧問を州知事に任命しました。全米でも数少ない州の一つです。私たちはこれに参入したいと考えています。そして、適切なガードレールを設置することは、盲目的に進むことではないということを理解していますが、それには実際のイニシアチブと思慮深いリーダーシップが必要です。
Steve Case:私が学んだ厳しい教訓の一つは、約25年前にAOLがTime Warnerと合併したときのことです。これは史上最大の合併でした。私はCEOを退き、より経営側の視点から見ていましたが、私が十分に理解していなかった状況が展開していました。私たちが構築した起業家文化、このイノベーション文化は、「未来を想像する」というものでした。一方、大企業、フォーチュン500企業では、リーダーシップに上り詰める人々の多くが、「管理」に焦点を当てていました。つまり、悪いことが起きないように「リスクを軽減する」ことに重点を置いていたのです。「良いことを解き放ち、可能にする」という視点ではなく。
これらの教訓を、イノベーションや政策に関する仕事に活かすことができました。現在、私はNational Advisory Council on Innovation and Entrepreneurshipの議長を務めています。オバマ大統領の雇用・競争力評議会、JOBS法など、さまざまなプロジェクトに取り組んできました。政府内の人々は一般的に「悪いことが起きないようにする」という姿勢を取っていることに気づきました。一般的に、「FDA」と呼ばれる機関で、ある薬が承認され、それが機能すれば、誰も本当に注目しません。しかし、ある薬が承認され、機能せず、誰かが死亡すると、議会の公聴会や監視などが行われます。
私はその力学を理解しています。一般的に、インターネットに関しては、政府は「これは興味深いことであり、リスクがあるようですが、規制についてはまだ早いでしょう」という姿勢を取り、発展に応じて対応を考えていくという比較的良い対応をしてきました。AIについては、その発展が非常に急速であることが興味深いところです。インターネットは約50年前に作られ、AIは実は75年前に作られました。AIはインターネットよりも古いのです。しかし、AIが実際に消費者現象として表面化するまでには72年ほどかかりました。ChatGPTの登場によってAIが一般に知られるようになる前は、多くの企業がより控えめな、ほとんど隠れた形でAIを様々な方法で使用していました。
私は上院の超党派AIフォーラムで証言し、過去一年間にわたって開催されてきた多数のセッションに参加しました。彼らはただAIについて学ぼうとしているだけです。私は、アメリカはヨーロッパが犯していると思われる過剰規制の間違いを犯さないと信じています。ヨーロッパはしばしば、悪いことが起きないように非常に慎重になるあまり、良いことが起きることを許さないという間違いを犯します。私たちは過去の教訓に基づいたいくつかの視点や適切なバランスを見つける方法を考える必要があります。
9.2. メリーランド州のAI戦略と州知事直属のAIアドバイザー設置
Wes Moore:私は新技術、特にAIとクォンタムコンピューティングの可能性について非常に楽観的です。メリーランド州がこれらの分野でグローバルリーダーになるべきだと固く信じています。なぜなら、我が州には他にはない重要な資産があるからです。
メリーランド州はNIST(国立標準技術研究所)の本拠地であり、NSA(国家安全保障局)、米国サイバーコマンドの所在地でもあります。また、FBIの新本部も我が州に移転してきます。これらの資産があるにもかかわらず、なぜAIとクォンタムコンピューティングのグローバルリーダーを目指さないのか理由がありません。
この目標に向けて、私は州知事として具体的な行動を取りました。その中でも特筆すべきなのが、州知事直属のAI上級顧問の設置です。これは全米でも数少ない取り組みの一つで、州政府としてAIの戦略的活用と適切な規制のバランスを取るための専門的な知見を直接州の最高レベルに取り入れる試みです。
Preet Bharara:AI上級顧問の具体的な役割は何ですか?アドバイスするだけなのか、それとも規制や政策の策定に直接関わるのでしょうか?
Wes Moore:この役職は単なる助言者ではなく、州全体のAI戦略を形作る重要な役割を担っています。具体的には、適切なガードレールを設置しながらも、AIがもたらす機会と可能性を最大限に活用するための包括的な戦略の開発を主導しています。
私たちの基本姿勢は、「メリーランド州はこの領域にしっかりと参入する」というものです。ただし、盲目的に突き進むのではなく、市民の懸念に耳を傾け、潜在的なリスクに対処するための適切な規制枠組みを構築しながら進むということです。
特に重要なのは一般市民を巻き込むことです。多くの人々はAIについて怖れています。彼らはウィル・スミスの映画のようなSF的な未来を想像し、新技術に対する不安を抱いています。AI上級顧問の役割の一つは、こうした不安に対処し、AIがどのようにメリーランド州民の生活を向上させるのかについて明確なビジョンを示すことでもあります。
Steve Case:Wes知事のアプローチは非常に賢明だと思います。州レベルでAI戦略を積極的に展開することで、連邦レベルでの過度な規制の必要性を減らすことができるでしょう。また、各州が独自のアプローチを取ることで、いわば「実験室としての州」の役割を果たし、どのような政策が効果的かを試すことができます。
私は連邦レベルでの議論にも関わっていますが、上院の超党派AIフォーラムでの議論を聞いていると、多くの議員は単にAIについて学んでいる段階です。このような状況で、州が先導して実践的な取り組みを行うことの価値は計り知れません。
Wes Moore:その通りです。私たちの取り組みは単なる理論上の議論ではなく、実際のイニシアチブと思慮深いリーダーシップに基づいています。AIは私たちの経済、安全保障、そして市民生活のあらゆる面に影響を与える可能性を持っています。だからこそ、州レベルで戦略的なアプローチを取ることが重要なのです。
9.3. 過剰規制(欧州型)と過小規制のリスク
Steve Case:テクノロジー規制のバランスについて考えるとき、私が学んだ最も厳しい教訓の一つは、約25年前にAOLとTime Warnerの合併に関わったときのことです。これは当時史上最大の合併でした。私はCEOを退き、取締役会のメンバーとして見守る立場になりましたが、そこで私が十分に理解していなかった力学が展開していました。
私たちがAOLで構築した起業家文化、イノベーション文化は「未来を想像する」というものでした。一方、大企業、フォーチュン500企業では、リーダーシップに上り詰める人々の多くは「管理」に焦点を当てていました。つまり、「リスクを軽減する」ことに重点を置き、悪いことが起きないようにすることを優先していたのです。「良いことを解き放ち、可能にする」という視点ではなかったのです。
これはテクノロジー規制の問題とも密接に関連しています。政府機関では一般的に「悪いことが起きないようにする」という姿勢が取られています。例えば、FDAで承認された薬が機能すれば、誰も特に注目しませんが、その薬が機能せず誰かが死亡すると、議会の公聴会や監視などが行われます。このような動機付けがあるため、規制当局は慎重になりがちです。
Preet Bharara:では、バランスを取るためのアプローチはどうあるべきでしょうか?
Steve Case:私は、アメリカがヨーロッパの犯している過剰規制の間違いを犯さないことを願っています。ヨーロッパはしばしば、悪いことが起きないよう非常に慎重になるあまり、良いことが起きる可能性も制限してしまうという間違いを犯しています。
インターネットに関しては、米国政府は「これは興味深い現象であり、確かにリスクもあるが、規制については少し様子を見よう」という姿勢を取りました。技術が発展するにつれて規制のアプローチを調整していくという、比較的バランスの取れた対応でした。
AIについても同様のバランスが必要です。興味深いのは、AIの発展スピードです。インターネットは約50年前に創られましたが、AIは実は75年前に誕生しています。つまり、AIはインターネットよりも古いのです。しかし、AIが実際に消費者現象として表面化するまでには72年ほどかかりました。ChatGPTの登場によってAIが一般に認知されるまでは、多くの企業がより控えめな、ほとんど目立たない形でAIを様々な方法で活用していたのです。
Wes Moore:私はそのバランスの重要性に同意します。メリーランド州では、AIの可能性を最大限に活用しながらも、適切なガードレールを設置することを目指しています。過剰規制は革新を窒息させる可能性がありますが、過小規制も同様にリスクをはらんでいます。
特に重要なのは、技術に詳しくない政治家や当局者が規制を作ることの難しさです。多くの政治家は自分たちがメールを送ったことさえないと自慢していますが、そのような人々がAIを適切に規制できるでしょうか?だからこそ、専門知識を持つアドバイザーや、民間セクターとの継続的な対話が不可欠なのです。
Steve Case:上院の超党派AIフォーラムで証言した経験から言えば、多くの議員はまだAIについて基本的なことを学んでいる段階です。彼らは過去1年間、多くのセッションを開催してきましたが、それはAIとは何か、どのような可能性とリスクがあるのかを理解するためのものです。
このような状況で急いで厳格な規制を導入するのではなく、過去のテクノロジー発展から学んだ教訓に基づいて、適切なバランスを見つけることが重要です。イノベーションを促進しながらも、社会的な価値や安全を守る規制の枠組みを構築していくべきでしょう。
10. リーダーシップと人材育成
10.1. Wes MooreとFagan Harris(チーフ・オブ・スタッフ)の15年に及ぶ関係
Steve Case:私とWesの出会いは15年前にさかのぼります。私がRhodes Scholar選考委員会の委員長を務めていた時のことです。明確にしておきますが、私自身はRhodes Scholarではありません。彼らは委員長に他の理由で私を選びました。委員会の他のメンバーはみなRhodes Scholarだったのですが、委員長には何か他の理由が必要だったようです。それが私の役割でした。Rhodes Scholarではない「おバカさん」の委員長です。
Wesとは何年もその委員会で一緒に活動し、ある年、私たちはFagan Harrisという名前の人物を選びました。彼はオックスフォードに行き、帰国後にボルチモアで様々な活動に取り組みました。Baltimore Corpなどの非営利団体を通じて地域に貢献しました。そして興味深いことに、Wes Mooreはずっと彼の指導者であり、メンターでした。
そして、Wes Mooreがメリーランド州知事になった時、彼はFagan Harrisをチーフ・オブ・スタッフに任命しました。これは、15年前に誰かの潜在能力を見出し、その後もずっとその人を見守り、育て、困難な時期を通じて支え、そして今その人を活用している素晴らしい例です。Wesは彼のことを「全米で最高のチーフ・オブ・スタッフだ」と言っています。
Preet Bharara:それは素晴らしい人材育成の話ですね。Wes知事、Faganについてもう少し教えてください。彼をチーフ・オブ・スタッフに選んだ理由は何だったのでしょうか?
Wes Moore:正確に言うと、私は彼のことを「全米で最もドープなチーフ・オブ・スタッフだ」と言いました。Faganは非常に優れた人材です。メリーランド州で何が起きているかを理解したいなら、Fagan Harrisを知る必要があります。彼は卓越した人物です。
Steveが話したように、私たちはRhodes Scholar選考プロセスでFaganと出会いました。彼の潜在能力は当時から明らかでした。オックスフォードから帰国後、彼はボルチモアでの地域活動に力を注ぎ、本当に素晴らしい仕事をしてきました。私は長年彼の指導者として関わり、彼の成長を見守ってきました。
私が州知事選に出馬することを決めた時、私のビジョンを実現するのに最適な人物としてFaganを思い浮かべました。彼は単に有能なだけでなく、価値観を共有し、メリーランド州の未来に対する同じビジョンを持っています。彼は公職に就いた経験はありませんでしたが、彼の知性、献身、そして問題解決能力は比類のないものでした。
Steve Case:これこそがリーダーシップの本質だと思います。有能な人材を見出し、育成し、信頼して重要な役割を任せること。Wesがそれを15年という長い時間をかけて行ったことは、彼のリーダーシップスタイルと人材に対する眼識を物語っています。
Wes Moore:人材育成とメンタリングは私にとって常に重要な価値観でした。Faganとの関係はその一例に過ぎません。真のリーダーシップとは、自分自身の成功だけでなく、他者の可能性を最大限に引き出すことにもあると信じています。Faganは今や私の右腕として、メリーランド州の未来を形作る重要な役割を果たしています。彼との15年にわたる関係が、今、州政府のリーダーシップチームとして結実していることを誇りに思います。
10.2. 潜在能力の早期発見と長期的な人材育成の重要性
Steve Case:Wes MooreとFagan Harrisの関係は、潜在能力の早期発見と長期的な人材育成の重要性を示す素晴らしい例です。これは15年前、Rhodes Scholar選考委員会でのことでした。当時、私たちはFagan Harrisの中に何かを見出しました。彼はオックスフォードに留学し、その後ボルチモアに戻って様々な活動を行いました。そして興味深いことに、Wes Mooreは常に彼のメンターとして関わり続けていました。
何が特に印象的かというと、Wesが15年という長い年月をかけて彼の潜在能力を見出し、彼の成長を見守り、困難な時期にも支え続け、そして今、彼の能力を州政府の最高レベルで活用しているという点です。これは人材育成における「見出す、育てる、機会を与える」という理想的なサイクルの実例です。
Preet Bharara:人材の早期発見と育成についてですが、どのようにして人の潜在能力を見極めるのでしょうか?具体的にFaganのどのような点に可能性を感じたのですか?
Wes Moore:人材を見極める際に私が重視するのは、知性やスキルだけでなく、価値観やビジョンの共有、そして困難に立ち向かう姿勢です。Faganの場合、彼の知的能力はもちろん素晴らしかったのですが、それ以上に、社会問題に対する彼の情熱と解決策を見つけ出す創造性に強く惹かれました。
Rhodes Scholar選考プロセスで彼に出会った時から、彼には特別な何かがありました。オックスフォードから帰国後、彼はボルチモアで素晴らしい活動を展開し、現実の社会問題に取り組む能力を証明しました。私は彼の成長過程を見守り、助言を与え、時には困難な状況での支援も行ってきました。
Steve Case:潜在能力の早期発見と長期的な育成は、私がベンチャーキャピタリストとしても常に心がけていることです。起業家を評価する際、現在のビジネスプランの出来だけでなく、その人物の成長可能性と逆境に立ち向かう姿勢を重視しています。WesとFaganの関係は、公共セクターにおけるその素晴らしい例です。
実際、「Rise the Rest」イニシアチブでも、私たちは単に資金を提供するだけでなく、長期的な視点でメンタリングと支援を行うことを重視しています。成功する起業家や組織を育てるには、数年ではなく、数十年の視点が必要なのです。
Wes Moore:本当にその通りだと思います。リーダーシップの本質は、短期的な成果を出すことだけでなく、次世代のリーダーを育成することにもあります。Faganとの関係を通じて私が学んだのは、真のメンターシップは一方通行ではなく、相互に学び合い、成長し合う関係だということです。
彼は現在、私が「全米で最もドープなチーフ・オブ・スタッフ」と呼ぶほどの活躍をしています。これは単なる冗談ではなく、彼の能力と貢献に対する本当の評価です。メリーランド州で起きていることを理解したいなら、Fagan Harrisを知る必要があります。彼はそれほど重要な存在となっています。
Preet Bharara:潜在能力の早期発見と長期的な育成が、官民両セクターで重要なリーダーシップの要素であることがよくわかります。この対話全体を通じて見えてきたのは、政府と民間セクターの協力、イノベーションと包摂性、そして長期的視点での人材育成が、私たちの社会が直面する複雑な課題を解決するための鍵だということですね。
お二人の豊富な経験と洞察からは、多くの学びがありました。ありがとうございました。