※本記事は、AI for Good Global Summit 2025において、サウジアラビア通信情報技術省(MCIT)のハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ副大臣閣下とDLA Piperのダニー・トビー パートナーによる座談会「バランスの取れた、イノベーションに有利な規制枠組みの構築」の内容を基に作成されています。この座談会では、人工知能(AI)が経済と社会を変革する中で、従来の規制枠組みを持たない国々が直面する機会と責任について議論されました。本記事では、座談会の内容を要約しております。なお、本記事の内容は登壇者の見解を正確に反映するよう努めていますが、要約や解釈による誤りがある可能性もありますので、正確な情報や文脈については、オリジナルの動画(https://www.youtube.com/watch?v=bNWRv5KwrUE)をご視聴いただくことをお勧めいたします。AI for Good Global Summitの詳細情報は https://aiforgood.itu.int/ でご覧いただけます。
登壇者紹介:
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ サウジアラビア王国通信情報技術省(MCIT)副大臣。サウジアラビアのデジタル変革とAI戦略の中心的役割を担い、Vision 2030の実現に向けたICT分野の発展を統括。過去12年間のデジタル変革において250億ドルの投資を主導し、ICT部門の雇用を15万人から38万人へと拡大させた実績を持つ。現在は170億ドル規模のAI投資戦略を推進し、国際的なAI規制枠組みの構築にも積極的に参画している。
ダニー・トビー DLA Piper パートナー。AI法・司法研究所を国連の支援で設立し、AI規制とイノベーションのバランスに関する法的専門知識を有する。医学博士の背景も持ち、技術と法律の両分野にまたがる深い見識で、新興国におけるAI規制枠組みの構築支援に取り組んでいる。
1. サウジアラビアのAIエコシステム構想
1.1 国家レベルでのAI投資戦略
ダニー・トビー: 閣下とお会いできて本当に嬉しく思います。私たちが初めてお会いしたのは、リヤドで開催されたサウジ・米国投資フォーラムだったと記憶していますが、サウジ王国が人工知能に対して示している興奮と投資は、世界でも本当にユニークなものだと思います。まず、持続可能なエコシステムを構築するために必要なことについて、これまでもお話しいただいたことがありますが、AIエコシステム構築に対するサウジ王国のビジョンについてお聞かせください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: ありがとうございます。まず、ITUがデジタル変革を世界的にリードして160年になることをお祝い申し上げます。ITU、お誕生日おめでとうございます。そして、今後のさらなる成功をお祈りしています。皇太子殿下のリーダーシップの下で進められているサウジアラビアにおけるAIのビジョンは、確かに非常にエキサイティングなものです。私たちがエコシステムにアプローチする方法は、デジタル変革を行った時、そしてビジョン2030のプロセスを進めた時と実はそれほど変わりません。政府として、あるいは民間セクターとして提供できるすべての促進要因について考え、投資と成長を可能にしてきました。
ダニー・トビー: その戦略的アプローチについて、もう少し詳しく教えていただけますか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 過去12年間にサウジアラビアで起こったデジタル変革を振り返ってみると、それは政府、ユニバーサル・サービス・ファンド、そして通信事業者の間での大規模な投資パッケージから始まりました。250億ドルがインフラのアップグレードに投入され、今日私たちが持っている素晴らしいインフラが構築されたのです。AIについても同じように考えています。AIは安価ではありません。高価なものです。高価なインフラを必要とします。だからこそ、私たちはGoogle、Amazon、Microsoftといった企業と提携して、サウジアラビアに真に世界クラスのAI対応クラウドを構築しているのです。
ダニー・トビー: 国家レベルでの戦略的投資という観点から、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: また、PIF(公共投資基金)の下で、Alefという会社を設立しました。これはサウジアラビアのAIにおけるナショナル・チャンピオンのような存在です。最近のトランプ大統領のサウジアラビア訪問中には、サウジアラビア王国におけるAIの加速を可能にするための大規模な契約が発表されました。例えば、AMDとは約100億ドルの契約、AWSとは50億ドルの契約、そしてQuantumとは約20億ドルの契約を結びました。これらはすべて共同投資であり、AIをデータセンターやクラウドだけでなく、エッジにも持ち込むものです。これは私たちサウジにとって非常に重要です。石油・ガス産業を営む国として、そこから多くの恩恵を受けることができるからです。
1.2 デジタル変革の経験からの学習
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちがエコシステムにアプローチする方法は、デジタル変革を行った時、そしてビジョン2030のプロセスを進めた時と実はそれほど変わりません。私たちは、政府として、あるいは民間セクターとして提供できるすべての促進要因について考え、投資と成長を可能にするという同じアプローチを採用しています。
ダニー・トビー: その過去の経験から、どのような学習を得られたのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 過去12年間にサウジアラビアで起こったデジタル変革を振り返ってみると、それは政府、ユニバーサル・サービス・ファンド、そして通信事業者の間での大規模な投資パッケージから始まりました。250億ドルがインフラのアップグレードに投入され、今日私たちが持っている素晴らしいインフラが構築されました。この経験から、私たちは大規模なインフラ投資がすべての基盤となることを学びました。デジタル変革における成功の秘訣は、政府と民間セクターが協力し、すべての促進要因を総合的に考慮することでした。
ダニー・トビー: その学習をAI分野にどのように応用されているのですか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: AIについても同じように考えています。私たちは、デジタル変革で得た知見と経験をAIエコシステムの構築に直接応用しています。ビジョン2030のプロセスで学んだ包括的アプローチ、つまり政府と民間セクターが連携して必要なすべての要素を同時に整備するという手法を、AI分野でも採用しているのです。過去のデジタル変革が成功したのは、インフラ、人材、規制環境、民間投資を同時並行で進めたからであり、この成功モデルをAIにも適用することで、より効果的なエコシステム構築が可能になると確信しています。
1.3 インフラ投資への大規模な取り組み
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 過去12年間にサウジアラビアで起こったデジタル変革を振り返ってみると、それは政府、ユニバーサル・サービス・ファンド、そして通信事業者の間での大規模な投資パッケージから始まりました。250億ドルがインフラのアップグレードに投入され、今日私たちが持っている素晴らしいインフラが構築されました。この投資が、現在のサウジアラビアのデジタル基盤の礎となったのです。
ダニー・トビー: その大規模投資の経験を、AI分野ではどのように活かされているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: AIについても同じように考えています。AIは安価ではありません。高価なものです。高価なインフラを必要とします。デジタル変革で250億ドルの投資が必要だった経験から、AIにおいても同様に大規模なインフラ投資が不可欠であることを理解しています。だからこそ、私たちはGoogle、Amazon、Microsoftといった企業と提携して、サウジアラビアに真に世界クラスのAI対応クラウドを構築しているのです。
ダニー・トビー: インフラ投資の規模感について、具体的にはどの程度を想定されているのですか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 最近のトランプ大統領のサウジアラビア訪問中には、サウジアラビア王国におけるAIの加速を可能にするための大規模な契約が発表されました。例えば、AMDとは約100億ドルの契約、AWSとは50億ドルの契約、そしてQuantumとは約20億ドルの契約を結びました。これらはすべて共同投資であり、総額で170億ドルに及ぶ投資です。この規模は、過去のデジタル変革における250億ドル投資の経験があったからこそ、適切な投資水準として判断できたものです。過去のインフラ投資が他分野での成功につながったように、現在のAIインフラ投資も将来の競争優位性の基盤となることを、私たちの経験が証明しています。
2. AIインフラストラクチャーへの戦略的投資
2.1 主要テクノロジー企業との提携
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: AIは安価ではありません。高価なものです。高価なインフラを必要とします。だからこそ、私たちはGoogle、Amazon、Microsoftといった企業と提携して、サウジアラビアに真に世界クラスのAI対応クラウドを構築しているのです。これらの企業を選択したのは、単に技術力があるからではなく、サウジアラビアの長期的なAI戦略と合致する包括的なソリューションを提供できるパートナーだからです。
ダニー・トビー: 民間企業との提携だけでなく、国家レベルでの取り組みもあるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: また、PIF(公共投資基金)の下で、Alefという会社を設立しました。これはサウジアラビアのAIにおけるナショナル・チャンピオンのような存在です。Alefは、国際的な技術企業との提携を活用しながら、同時にサウジアラビア独自のAI能力を構築する役割を担っています。私たちは海外企業に依存するのではなく、彼らの技術と専門知識を活用して、自国のAI産業を育成するという戦略的アプローチを採用しています。
ダニー・トビー: そのような提携において、どのような基準で企業を選択されているのですか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちが重視するのは、単なる技術提供ではなく、サウジアラビアのビジョンを理解し、長期的なコミットメントを示す企業との関係構築です。Google、Amazon、Microsoftとの提携は、彼らが単にクラウドサービスを提供するだけでなく、サウジアラビア国内でのAI人材育成、ローカルエコシステムの発展、そして私たちの戦略的目標の達成に貢献できるパートナーだからです。同時に、PIF主導でAlefを設立することで、外国企業への依存を避けながら、彼らの知識と経験を国内のAI能力向上に活用するバランスの取れたアプローチを実現しています。
2.2 具体的な投資案件と金額
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 最近のトランプ大統領のサウジアラビア訪問中には、サウジアラビア王国におけるAIの加速を可能にするための大規模な契約が発表されました。例えば、AMDとは約100億ドルの契約、AWSとは50億ドルの契約、そしてQuantumとは約20億ドルの契約を結びました。これらの契約は単独で総額170億ドルに達する規模です。
ダニー・トビー: これほど大規模な投資を一度に実行する背景には、どのような戦略的判断があるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: これらはすべて共同投資です。私たちは一方的に資金を提供するのではなく、パートナー企業と共にリスクを分担し、利益も共有するアプローチを採用しています。AMDとの100億ドル契約では、最先端の半導体技術とプロセッサー開発における協力が含まれています。AWSとの50億ドル契約は、クラウドインフラストラクチャーの構築と運営に関するものです。そしてQuantumとの20億ドル契約は、量子コンピューティング技術の開発と実装に焦点を当てています。
ダニー・トビー: これらの投資規模は、サウジアラビアのAI戦略全体の中でどのような位置づけなのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: この170億ドルの投資は、サウジアラビアがAI分野で世界的なリーダーになるという野心的な目標を達成するための第一段階です。過去のデジタル変革で250億ドルを投資した経験を踏まえると、AI分野での成功にはさらに大規模な投資が必要であることを理解しています。これらの契約は、単なる資金提供ではなく、技術移転、人材育成、そして長期的な戦略的パートナーシップの構築を含む包括的な取り組みなのです。共同投資という形式を採用することで、リスクを分散しながら、同時に各パートナーのコミットメントを確保し、プロジェクトの成功確率を最大化しています。
2.3 エッジコンピューティングの重要性
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: これらの契約により、AIをデータセンターやクラウドだけでなく、エッジにも持ち込むことが可能になります。これは私たちサウジにとって非常に重要です。なぜなら、私たちは石油・ガス産業を営む国として、そこから多くの恩恵を受けることができるからです。
ダニー・トビー: 石油・ガス産業におけるエッジコンピューティングの具体的な意義について教えてください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 石油・ガス産業では、遠隔地での即座の意思決定が極めて重要です。油井の安全性監視、生産効率の最適化、設備の予防保全など、これらすべてがリアルタイムでの処理を必要とします。データをクラウドに送信して処理結果を待つという従来のアプローチでは、遅延が発生し、緊急時の対応が困難になります。エッジコンピューティングにより、現場でのAI処理が可能になることで、瞬時の判断と対応ができるようになるのです。
ダニー・トビー: エッジコンピューティングの展開において、どのような技術的課題があるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: エッジコンピューティングを実現するためには、厳しい環境条件に耐えられる堅牢なハードウェア、効率的な電力管理システム、そして限られた計算資源で動作する最適化されたAIモデルが必要です。AMDとの100億ドル契約やQuantumとの20億ドル契約は、まさにこれらの課題を解決するための投資なのです。私たちは、砂漠の過酷な環境や海上プラットフォームといった極限状況でも安定して動作するエッジAIシステムの構築を目指しています。この技術的優位性を確立することで、石油・ガス産業におけるAI活用において世界をリードできると確信しています。
3. 人材育成とダイバーシティの推進
3.1 大規模な人材教育プログラム
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: もう一つの重要で非常に大切なマイルストーン、つまり柱となるのは人材です。私たちが行うすべてのことと同様に、それはすべて私たちの人的資本に根ざしており、サウジから生まれるイノベーションに本当に依存して、AIエコシステムを加速させることができるかにかかっています。私たちは、過去4年から5年間にわたって、約17万人の人々をサイバーセキュリティ、クラウド、AIプログラミングなどの分野で訓練することに投資してきました。
ダニー・トビー: 17万人という規模は驚異的ですね。具体的にはどのような教育内容を提供されているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: これらのスキルは、成長を加速させるために極めて必要なものです。私たちのプログラムには、サイバーセキュリティの基礎から高度な脅威対策まで、クラウドアーキテクチャの設計から運用まで、そしてAIプログラミングの基本から機械学習の実装まで、幅広いカリキュラムが含まれています。さらに、私たちは小学校レベルの生徒たちにも、コーディング経験がなくてもAIを使ってソフトウェア開発を教える能力を導入しています。これは、子どもたちを興奮させ、AIに慣れ親しませ、AIを採用することを容易にするためです。
ダニー・トビー: 小学生レベルからAI教育を始めるという取り組みは非常に先進的ですね。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: そうです。私たちは次世代がAI時代に完全に対応できるよう、可能な限り早期からAI技術に触れさせることを重視しています。ノーコード環境でのAI開発ツールを活用することで、プログラミングの複雑さに煩わされることなく、AIの概念と可能性を理解できるようになります。17万人という数字は単なる量的な成果ではありません。この教育プログラムの効果は、私たちのICTセクターで働く人々の数に反映されています。私たちは15万人から38万人以上へと成長させることができました。これは、人材への投資が直接的に雇用創出と産業発展につながることを実証しています。
3.2 ICT部門の雇用拡大実績
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: これらのスキルは、成長を加速させるために極めて必要なものです。そして、それが私たちのセクターで働く人々の数に反映されているのを見てきました。私たちは、ICTセクターで働く人々を15万人から今日では38万人以上まで成長させることができました。これは約2.5倍の成長を意味しており、過去4年から5年という比較的短期間での驚異的な拡大です。
ダニー・トビー: 15万人から38万人への成長は本当に印象的ですね。この成長の背景にある要因は何でしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: この成長は、17万人への大規模教育プログラムと直接的な因果関係があります。人材への投資が雇用創出に直結することを、この数字が明確に実証しています。私たちが実施したサイバーセキュリティ、クラウド、AIプログラミングなどの分野での訓練プログラムが、実際に産業界のニーズに合致していたからこそ、これほどの雇用拡大が実現できたのです。単に人数を増やしただけではなく、質の高いスキルを持った人材を育成できたことが重要です。
ダニー・トビー: この雇用拡大は、サウジアラビアの経済全体にどのような影響を与えているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: ICT部門での38万人の雇用は、単なる数字以上の意味を持っています。これらの人材は、政府のデジタル変革プロジェクトから民間企業のAI導入まで、サウジアラビア全体のデジタル化を支える基盤となっています。15万人から38万人への成長は、私たちが正しい投資を正しいタイミングで行ったことを証明しており、現在進行中のAI戦略においても同様のアプローチが成功をもたらすと確信しています。この人材基盤があったからこそ、Google、Amazon、Microsoftといった企業が私たちとの長期的なパートナーシップに魅力を感じ、大規模な投資を決断したのです。
3.3 女性活躍推進の成果と多様性
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちは、このセクター内での多様性についても非常に誇りに思っています。私たちは、セクター内での女性の活躍推進が約7%から始まりました。現在、サウジアラビアでは35%にまで達しており、これは真にベスト・イン・クラスと言えるレベルです。この成果は世界的に見ても最高水準の女性参画率を示しています。
ダニー・トビー: 7%から35%への成長は驚異的な変化ですね。この変革をどのように実現されたのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: この変化は偶然に起こったものではありません。私たちは意図的に、ICTおよびAI分野における女性の参画を促進するための包括的な戦略を実施してきました。17万人の教育プログラムにおいても、女性の参加を積極的に奨励し、彼女たちが技術分野で活躍できるよう特別な支援体制を構築しました。サイバーセキュリティ、クラウド技術、AIプログラミングといった分野で、女性が男性と同等に学習し、キャリアを築けるような環境を整備したのです。
ダニー・トビー: この多様性の推進は、サウジアラビアのAI戦略全体にどのような効果をもたらしているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 35%という女性参画率は、単なる数字以上の意味を持っています。多様性はイノベーションの源泉であり、AI開発において異なる視点や発想が極めて重要だからです。女性の視点が加わることで、より包括的で社会の多様なニーズに応えられるAIソリューションの開発が可能になります。また、ICTセクターで38万人の雇用を実現する過程で、女性の才能と能力を最大限に活用できたことが、この成長の重要な推進力の一つでもありました。この実績は、私たちが単に量的な成長だけでなく、質的な多様性も同時に追求してきたことを証明しており、今後のAI分野でもこの多様性が競争優位性をもたらすと確信しています。
4. AI規制に対するアプローチ
4.1 歴史的経験に基づく段階的規制論
ダニー・トビー: 規制の問題は、もちろん世界中で議論されているテーマです。私自身の国でも、AI規制のアプローチについて、イノベーションと安全保障のバランスをどう取るかで非常に異なる見解があります。サウジ王国は、AI規制の方針を決定する素晴らしい機会を持っていると思います。規制への様々なアプローチについて、どのような見解をお持ちでしょうか。そして、これまでのところ何が機能していると感じていらっしゃいますか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちのアプローチは、歴史が未来の優れた予測因子であると本当に考えているということです。もし以前の産業から類推を描くとすれば、例えば航空業界では、1940年代と1950年代に産業が発展するにつれて、フレームワークとガイドラインから始まり、その後、安全性や旅行の促進などのために条約と規制が生まれました。
ダニー・トビー: 航空業界の例は興味深いですね。他の分野でも同様のパターンが見られるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: デジタル分野でも同じことが言えます。世界的なデジタル化または digitization revolution の始まりにおいて、インターネット時代などでは、サイバーセキュリティやクラウドに関するガイドラインを持つことが非常に重要でした。そして今、これらのガイドラインはサイバーセキュリティ統制法、データ法などの法律に発展してきました。つまり、各産業の始まりにおいては、まずガイドラインと原則に関するコンセンサスを持つべきであり、その後に規制に移行するというのが私たちの見解です。
ダニー・トビー: この段階的なアプローチの根拠について、もう少し詳しく説明していただけますか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 歴史を見ると、新しい技術や産業が登場する際には、必ずこの同じパターンを繰り返しています。最初は技術の可能性と限界が十分に理解されていないため、厳格な規制を設けるのは時期尚早です。代わりに、業界関係者、政府、学術界が協力してガイドラインと基本原則を確立し、実際の使用事例と影響を観察しながら徐々に理解を深めていく必要があります。航空業界では40年代と50年代にこのプロセスを経て、最終的に国際的な安全基準と規制体制が確立されました。デジタル分野でも、インターネットの初期にはガイドライン中心で始まり、技術の成熟とともに具体的な法律へと発展しました。AI分野でも、この歴史的に実証されたアプローチを採用することが最も合理的だと考えています。
4.2 ガイドライン先行から法制化への移行戦略
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: サウジアラビアでは、データを規制するデータ規制とサイバーセキュリティに関する法律を既に整備しており、現時点ではこれで十分だと考えています。私たちは過去数年間にわたって、AIエシックス、ディープフェイク、誤情報などに関するガイドラインの策定に焦点を当ててきました。これらのガイドラインが、現在のAI開発段階において適切な枠組みを提供していると確信しています。
ダニー・トビー: 現在のガイドライン中心のアプローチから、将来的な法制化へはどのような条件が整った時に移行される予定でしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちは本当に、このAIという野獣が正式に形作られ、どこに向かっているのか、そしてその使用事例が何なのかを理解できるようになった時、おそらく数年後には、規制などを通じた義務を設けることができるかもしれないと考えています。重要なのは、技術の成熟度と実際の応用例が十分に蓄積され、その影響を適切に評価できるようになってからということです。
ダニー・トビー: その移行のタイミングを判断する具体的な指標はありますか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 現在のデータ規制とサイバーセキュリティ法は、AI技術の基盤となる部分を既にカバーしています。私たちが段階的に追加しているAIエシックス、ディープフェイク対策、誤情報防止のガイドラインは、技術の発展と社会への影響を観察しながら継続的に更新されています。法制化への移行は、AIの使用事例が明確に定義され、その社会的・経済的影響が十分に理解され、国際的なコンセンサスがある程度形成された段階で検討されるべきです。拙速な規制は技術革新を阻害する可能性がある一方、適切なタイミングでの法制化は、持続可能で責任あるAI開発を促進する重要な役割を果たすことになります。私たちは歴史的な経験に基づき、このバランスを慎重に見極めながら進めています。
4.3 多国間協力の重要性
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちは本当に、これには多国間アプローチが必要だと考えています。そのため、ITUやAI for Goodなどのフォーラムで非常に積極的に活動し、世界的なコンセンサスを本当に推進しています。これらの国際的なプラットフォームでの協力は、AI規制において統一された基準と原則を確立するために不可欠です。
ダニー・トビー: サウジアラビアが多国間協力で果たしている具体的な役割について教えてください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちは2020年のG20で、AIがまだ注目される前から、人類のためのAI、人類の善のためのAIに関するコンセンサスを本当に得るために活動していました。これは、AI分野での国際協力における私たちの先駆的な取り組みの一例です。当時、AIが今ほど話題になっていない時期に、すでに私たちは国際的な枠組み作りの重要性を認識し、積極的に推進していました。
ダニー・トビー: 2020年という早い時期からの取り組みは非常に先見性がありますね。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: そうです。私たちは、この取り組みを他の多くのフォーラムでも継続し、発展させていきたいと考えています。AI技術は国境を越えて影響を与えるものであり、一国だけで規制や基準を設定しても十分な効果は期待できません。だからこそ、ITU、AI for Good、G20といった多様な国際機関やフォーラムでの継続的な協力が重要なのです。私たちの経験では、早期から多国間での対話と協力を開始することで、技術が広く普及する前に適切な国際的合意を形成できることが分かっています。2020年のG20での成果は、このアプローチの有効性を示しており、今後もこの方向性を維持し、さらに拡大していく予定です。国際協力なくしては、AI技術の恩恵を全人類が享受しながら、同時にリスクを最小化することは不可能だと確信しています。
5. AIがもたらすデジタル格差への対応
5.1 三つの新たな格差の識別
ダニー・トビー: AIエコシステム構築の課題についてお話しいただきましたが、データへのアクセス、質の高いデータ、コンピュートとエネルギーへのアクセス、アルゴリズムバイアスなど、サウジ王国が素晴らしい検討と発言をされてきた分野について、これらの問題に対処するためにサウジ王国がどのような措置を講じているかお聞かせください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: ITUは、デジタル格差への取り組みにおいて素晴らしい成果を上げてきました。接続性の格差、スキルや人材の格差などです。AIは、これまで存在しなかった全く新しい一連の格差をもたらすと私たちは考えています。あなたが言及されたように、コンピュートと電力の格差、アルゴリズムの格差、そしてデータの格差です。私たちは、将来に向けて、これらの三つが最も重要であると考えています。
ダニー・トビー: これらの新しい格差は、従来のデジタル格差とどのように異なるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 従来のデジタル格差は主に、インターネットアクセスやデジタルスキルに関するものでした。しかし、AI時代の格差はより根本的で複雑です。コンピュートと電力の格差は、AI処理に必要な膨大な計算資源と電力供給能力の有無による格差です。アルゴリズムの格差は、AI技術の開発と実装能力の差によるものです。そして、データの格差は、質の高いデータへのアクセスと活用能力の違いから生まれます。これらの三つの格差は相互に関連し合っており、一つでも欠けるとAI技術の恩恵を十分に享受できなくなります。
ダニー・トビー: ITUがこれまで取り組んできたデジタル格差の経験は、これらの新しいAI格差にも応用できるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: ITUがデジタル格差解決で蓄積してきた経験は確かに貴重ですが、AI格差はより複雑で資源集約的な性質を持っています。従来のデジタル格差では、インフラ整備と教育によってある程度解決できました。しかし、AI格差では、国家レベルでの大規模な戦略的投資、国際協力、そして技術主権の確保が不可欠です。私たちは、ITUの経験を基盤としながらも、これらの新しい挑戦に対応するための全く新しいアプローチが必要だと認識しています。この三つの格差に適切に対処しなければ、AI技術によってデジタル格差がさらに拡大し、世界の不平等が深刻化する可能性があります。
5.2 コンピュート・電力格差への対策
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: コンピュートと電力については、AI技術は2030年までに約63ギガワットが必要になると予想されます。これはインドで生産される電力量を上回る規模です。これは大きな課題となるでしょう。フロンティアモデルの訓練を実際に行えるのは、ごく少数の国に限られています。フロンティアモデルを訓練するには約1億ドルの費用がかかります。これらはすべて、世界的に平等なアクセスを阻害する格差を脅かす課題なのです。
ダニー・トビー: 63ギガワットという数字は確かに膨大ですね。サウジアラビアはこの電力課題にどのように対処されているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: サウジアラビアは、素晴らしいエネルギーミックス、非常に安定したエネルギーミックス、そして手頃な価格のエネルギーミックスに恵まれています。私たちは、エネルギー部門で行ってきた投資が、現在別の部門で成果を上げていることを嬉しく思っています。ですから、私たちの地域にとって、さらには世界にとっても、電力とコンピュートに関して非常に有用なリソースを提供できる良いポジションにいると思います。
ダニー・トビー: 具体的には、どのような成果が現れているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 最近、Aramco Digitalと、推論チップを製造するGroqという会社の間でパートナーシップを結びました。彼らはダンマームに世界規模のAI推論センターを立ち上げ、初日だけで10億トークンがそのセンターを通じて生成されました。Groqのグローバルトラフィックの70%がそこに流れています。その理由の一部は、彼らが世界的に最低のトークン単価を実現しているからです。世界のどこよりも30%から35%安いと思います。これは、サウジアラビアが持つ優位性であり、世界的に提供したいと考えているものです。
ダニー・トビー: そのコスト優位性の実現は、どのような要因によるものでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: この競争力は、私たちの安定で手頃な価格のエネルギー供給能力に直接起因しています。AI処理には膨大な電力が必要ですが、私たちはそれを効率的かつ経済的に提供できます。Groqとの協業で実現した30%から35%というコスト削減は、単なる価格競争ではなく、私たちのエネルギーインフラの優位性が技術分野で具現化されたものです。63ギガワットという世界的な電力需要に対して、サウジアラビアが重要な供給源となることで、コンピュート・電力格差の解決に貢献できると考えています。
5.3 アルゴリズム格差とソブリンLLMの必要性
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 二番目のアルゴリズム格差は、少し複雑です。ご存知のように、アルゴリズムは特定のタイプのデータで訓練されますが、すべてのデータが等しいわけではありません。あなたが医学博士としてのバックグラウンドをお持ちであることから理解していただけると思いますが、遺伝学は医学において大きな役割を果たしており、それは地域によって、国によって異なります。そのため、各国がその国のデータで訓練され、その国のデータから来る技術者と科学者によって開発された主権的なLLMを持つことが非常に重要です。
ダニー・トビー: 遺伝学の例は非常に分かりやすいですね。サウジアラビアでは、この主権的LLM開発にどのように取り組まれているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちはAlamを誇りに思っています。これはアラビア語データで大規模な訓練を行ったサウジのLLMです。これはアラブ世界に提供できるものです。多くのグローバルランキングの一部として、アラビア語LLMで第1位にランクされています。また、スタートアップコミュニティがこれらの大規模言語モデルのバリエーションを作成することに大きな興奮があります。これは今後、各国にとって非常に重要になるでしょう。
ダニー・トビー: Alamの開発において、どのような技術的な挑戦がありましたか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: アラビア語データでの訓練は、単に言語の違いを超えた課題でした。アラブ世界特有の文化的背景、歴史的文脈、社会的価値観を理解し、それらを適切に反映できるAIシステムを構築する必要がありました。医学の分野で言えば、アラブ系の遺伝的特性や疾患パターン、伝統的な医療慣行などを理解したAIでなければ、適切な医療支援は提供できません。Alamがアラビア語LLMで世界第1位を獲得したのは、これらの地域特性を深く理解したサウジの技術者と科学者が開発に携わったからです。
ダニー・トビー: スタートアップによるLLMバリエーション開発についても言及されましたが、これはどのような意味を持つのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: スタートアップコミュニティによる大規模言語モデルのバリエーション作成への興奮は、非常に重要な現象です。これは、単一の汎用LLMではカバーできない、特定の産業や用途に特化したAIソリューションの開発を意味します。例えば、石油・ガス産業向け、医療分野向け、金融サービス向けなど、それぞれの分野に最適化されたLLMが必要です。これらの専門化されたモデルを開発することで、各国は自国の産業特性や社会的ニーズに最適なAIエコシステムを構築できるようになります。これこそが、アルゴリズム格差を解決し、真の技術的主権を確保する道筋なのです。
6. データ格差とローカライゼーション戦略
6.1 データの地域性と医療分野での実例
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: ご存知のように、アルゴリズムは特定のタイプのデータで訓練されますが、すべてのデータが等しいわけではありません。あなたが医学博士としてのバックグラウンドをお持ちであることから理解していただけると思いますが、遺伝学は医学において大きな役割を果たしており、それは地域によって、国によって異なります。これは、データの地域性がなぜ重要なのかを示す完璧な例です。
ダニー・トビー: 医療分野での遺伝学的差異は確かに重要ですね。具体的には、どのような違いが見られるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 遺伝学的特性は、薬物に対する反応、疾患の発症リスク、治療効果など、医療のあらゆる側面に影響を与えます。例えば、特定の薬物が西洋人には効果的でも、中東地域の人々には異なる反応を示す場合があります。また、糖尿病や心血管疾患の発症パターンも、遺伝的背景によって大きく異なります。もし西欧のデータのみで訓練されたAIシステムを使用した場合、サウジアラビアやアラブ世界の患者に対して不適切な診断や治療推奨を行う可能性があります。
ダニー・トビー: そうした地域特性を考慮したAI開発の重要性についてお聞かせください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ官: そのため、各国がその国のデータで訓練され、その国のデータから来る技術者と科学者によって開発された主権的なLLMを持つことが非常に重要なのです。医療分野においては特にそうです。サウジアラビアの技術者と科学者が、サウジアラビアの患者データ、遺伝的特性、疾患パターン、治療反応などを深く理解してAIシステムを開発することで、初めて私たちの人々に適切な医療AIサービスを提供できるようになります。これは単なる技術的な問題ではなく、国民の健康と生命に直結する重要な課題なのです。データの地域性を無視したAI開発は、医療格差をさらに拡大させる危険性があり、だからこそ各国が独自のデータと専門知識に基づいたAI能力を構築する必要があるのです。
6.2 アラビア語LLM「Alam」の開発成果
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちはAlamを誇りに思っています。これはアラビア語データで大規模な訓練を行ったサウジのLLMです。アラビア語という言語の特性と、アラブ世界の文化的背景を深く理解したAIシステムの開発は、技術的にも文化的にも大きな挑戦でした。しかし、サウジの技術者と科学者の努力により、真にアラブ世界のニーズに応えられるLLMを実現することができました。
ダニー・トビー: Alamの性能や評価について、具体的な成果をお聞かせください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: Alamは、多くのグローバルランキングの一部として、アラビア語LLMで第1位にランクされています。これは単なる技術的優位性を示すだけでなく、アラビア語という言語の複雑さと豊かさを適切に理解し、処理できるAIシステムを構築できたことを意味します。アラビア語は右から左に書かれる言語であり、文法構造、語彙の豊富さ、方言の多様性など、多くの独特な特徴を持っています。これらすべてを適切に処理できるLLMの開発は、決して容易なことではありませんでした。
ダニー・トビー: Alamがアラブ世界全体に与える影響についてはいかがでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: これはアラブ世界に提供できるものです。Alamの開発成功は、サウジアラビアだけでなく、アラブ世界全体のAI能力向上に貢献しています。アラビア語を母語とする約4億人の人々が、自分たちの言語と文化を深く理解したAIシステムの恩恵を受けることができるようになりました。世界第1位という評価は、私たちが単に技術を模倣するのではなく、真にアラブ世界に適したAIソリューションを開発できたことを証明しています。これにより、教育、医療、ビジネス、公共サービスなど、あらゆる分野でアラビア語話者が最新のAI技術を活用できる基盤が整いました。Alamの成功は、各地域が独自の言語的・文化的特性を持つAIシステムを開発することの重要性と可能性を世界に示すモデルケースとなっています。
6.3 データ主権確保への取り組み
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 最後に重要なのは、データ格差です。おそらくご存知のように、世界のデータの大部分は私有財産であり、これは大きな課題です。AI分野のIPやR&Dの70%が、わずか10カ国からのみ生まれているのが現実です。これは深刻なデータの集中と格差を意味しており、多くの国がAI開発において不利な立場に置かれています。
ダニー・トビー: 70%が10カ国に集中しているという状況は確かに深刻ですね。サウジアラビアはこの課題にどのように対処されているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちがこれに取り組む方法は、アップスキリングとリスキリング、そして適切なインフラストラクチャーを確保してデータを国内でホストし、企業や組織がデータをローカライゼーションし、他のサウジ組織が利用できるようにすることを奨励することです。単に海外のデータに依存するのではなく、国内でのデータ生成、蓄積、活用の循環システムを構築することが重要です。
ダニー・トビー: データローカライゼーションの具体的な取り組みについて教えてください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちは、サウジ国内の企業や組織に対して、データを国内でホスティングし、ローカライゼーションするよう積極的に奨励しています。これは単なる規制要求ではなく、国内のAIエコシステム全体の発展を支援する戦略的な取り組みです。ローカライゼーションされたデータは、他のサウジ組織、研究機関、スタートアップ企業が活用できるようにすることで、データの価値を最大化し、国内のAI開発能力を向上させています。また、適切なインフラストラクチャーを整備することで、データの安全性とアクセス性の両方を確保しています。
ダニー・トビー: この取り組みが将来に与える影響についてはいかがでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: しかし、これら三つのタイプの格差は、各国が今後取り組まなければならない課題です。そして、私たちが前もってこれらに取り組むほど、今後数年間の生活がより楽になり、デジタル格差で経験したような26億人の未接続状態に対処する必要がなくなります。データ主権の確保は、単なる技術的な問題ではなく、国家の競争力と自立性に直結する重要な課題です。早期にデータローカライゼーション戦略を実施することで、将来的なデータ格差の拡大を防ぎ、サウジアラビアが真のAI主権国家として発展できる基盤を構築しています。
7. サウジアラビアの競争優位性
7.1 エネルギー分野での優位性
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: サウジアラビアは、素晴らしいエネルギーミックス、非常に安定したエネルギーミックス、そして手頃な価格のエネルギーミックスに恵まれています。これは、AI技術の発展において極めて重要な競争優位性となっています。AI処理には膨大な電力が必要であり、2030年までに約63ギガワットという、インドで生産される電力量を上回る規模の電力が世界的に必要になることを考えると、安定したエネルギー供給能力は決定的な優位性です。
ダニー・トビー: その優位性が他分野にどのような波及効果をもたらしているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私たちは、エネルギー部門で行ってきた投資が、現在別の部門で成果を上げていることを嬉しく思っています。長年にわたるエネルギーインフラへの投資が、今やAI分野での競争優位性として結実しているのです。この好循環は、戦略的な長期投資の重要性を示す素晴らしい例です。過去数十年間にエネルギー分野で蓄積してきた技術力、インフラ、専門知識が、現在のAI革命において私たちに独特な地位を与えています。
ダニー・トビー: 世界的な視点から見て、サウジアラビアの役割をどのように捉えていらっしゃいますか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: ですから、私たちの地域にとって、さらには世界にとっても、電力とコンピュートに関して非常に有用なリソースを提供できる良いポジションにいると思います。世界各国がAI開発のための電力不足に直面する中、サウジアラビアは安定した、手頃な価格の電力を大規模に提供できる数少ない国の一つです。これは単に自国の利益だけでなく、世界的なAI発展への貢献でもあります。私たちの豊富で安価なエネルギー資源は、国際的なAIコンピューティングハブとしてのサウジアラビアの地位を確立し、世界中の企業や研究機関にとって魅力的な選択肢となっています。この優位性を活用することで、AI分野における国際協力を推進し、同時に自国の技術力向上と経済多角化を実現する戦略を展開しています。
7.2 AI推論センターの設立と成果
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 最近、Aramco Digitalと、推論チップを製造するGroqという会社の間でパートナーシップを結びました。彼らはダンマームに世界規模のAI推論センターを立ち上げました。このセンターは、サウジアラビアのエネルギー優位性と最先端のAI技術を組み合わせた画期的なプロジェクトです。Aramco Digitalという石油産業の知見を持つ企業と、Groqという革新的なAIチップメーカーとの協業により、世界最高水準のAI推論能力を実現しました。
ダニー・トビー: そのAI推論センターの実際の成果はいかがでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 初日だけで10億トークンがそのセンターを通じて生成されました。これは驚異的な数字であり、センターの処理能力と需要の高さを明確に示しています。10億トークンという規模は、大規模な言語処理、複雑な分析、多様なAIアプリケーションが同時に動作していることを意味します。このような処理量を初日から達成できたのは、私たちの安定したエネルギー供給能力と、Groqの高性能推論チップ技術の組み合わせによるものです。
ダニー・トビー: 世界的な観点から見て、このセンターの位置づけはどのようなものでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: Groqのグローバルトラフィックの70%がそこに流れています。これは、ダンマームのAI推論センターが、単に地域的な施設ではなく、世界的なAIインフラストラクチャーの中核的な役割を果たしていることを示しています。世界中の企業、研究機関、開発者が、サウジアラビアの推論センターを利用してAI処理を行っているのです。70%という圧倒的なシェアは、私たちのセンターが提供する性能、安定性、コスト効率性が世界最高水準であることの証明です。これにより、サウジアラビアは単なるエネルギー輸出国から、AIコンピューティング分野における世界的なハブへと変貌を遂げつつあります。この成功は、戦略的な国際パートナーシップと自国の強みを活かした産業政策の有効性を実証するものです。
7.3 コスト競争力の実現
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: その理由の一部は、彼らが世界的に最低のトークン単価を実現しているからです。私たちのダンマームのAI推論センターでは、世界のどこよりも30%から35%安いトークン単価を達成しています。この圧倒的なコスト優位性は、単なる価格競争の結果ではなく、サウジアラビアの構造的な競争優位性が技術分野で具現化されたものです。
ダニー・トビー: 30%から35%という大幅なコスト削減は、どのような要因によって実現されているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: この競争力の源泉は、私たちの安定で手頃な価格のエネルギー供給能力にあります。AI処理、特に推論処理には膨大な電力が必要ですが、サウジアラビアは豊富で低コストのエネルギー資源を有しており、それを安定的に供給できる完備されたインフラストラクチャーを持っています。電力コストがAI処理の運営費用に占める割合は極めて大きいため、この優位性が直接的にトークン単価の大幅な削減につながっているのです。
ダニー・トビー: このコスト優位性が世界市場に与える影響についてはいかがでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: これは、サウジアラビアが持つ優位性であり、世界的に提供したいと考えているものです。30%から35%のコスト削減は、世界中の企業や開発者にとって極めて魅力的であり、だからこそGroqのグローバルトラフィックの70%が私たちのセンターに集まっているのです。この競争力により、サウジアラビアは世界のAIコンピューティング市場において重要な地位を確立しました。私たちは、この優位性を活用して、世界中にコスト効率的なAI処理サービスを提供し、同時に自国の技術産業の発展と経済多角化を実現しています。これは、従来のエネルギー輸出に依存した経済モデルから、高付加価値の技術サービス提供へと転換する重要な一歩なのです。
8. AIの実用化における期待分野
8.1 スタートアップエコシステムの活況
ダニー・トビー: 多くの緊急事項がある中、終了前にポジティブな話題で締めくくりたいと思います。これらすべてのインフラと投資を踏まえ、AIの未来について最も期待されていることは何でしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 私はAIについて非常に楽観的です。AIは私を興奮させます。一部の人々のように悪い面よりも良い面を本当に見ています。グラスは半分どころか、はるかに満たされています。サウジアラビア特有の状況で言えば、皇太子殿下のリーダーシップの下で非常に野心的で、AIで多くのことを実現したいと考えており、経済の多角化、生産性の向上、そしてGDPへの貢献において多くの機会を開くことができると信じています。
ダニー・トビー: 具体的に、どのような分野でAIの活用が期待されているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 特に私がサウジでのAIが非常にエキサイティングだと思う理由の一つは、人材です。サウジで見られるAIスタートアップの数は信じられないほどです。VC企業がサウジのAIへの投資を倍増させているのを見ることができ、人々が取り組んでいるアイデアは、遺伝病への取り組み、糖尿病への対処、石油井戸での生産性と安全性の向上、意思決定の改善など多岐にわたります。スタートアップエコシステムと起業家精神によって多くのことが行われています。
ダニー・トビー: スタートアップの具体的な取り組み事例について、もう少し詳しく教えてください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: スタートアップが取り組んでいる分野の多様性は本当に印象的です。遺伝病の分野では、私たちが以前話したアラブ系特有の遺伝的特性を理解したAI診断システムの開発が進んでいます。糖尿病対策では、地域の食習慣やライフスタイルを考慮した予防・管理システムが開発されています。石油・ガス分野では、生産効率の最適化、設備の予防保全、作業員の安全確保など、AI技術を活用した革新的なソリューションが次々と生まれています。VC企業の投資倍増は、これらのアイデアの市場価値と成長可能性を物語っています。このようなスタートアップエコシステムの活況こそが、サウジアラビアのAI戦略の最も重要な成果の一つなのです。
8.2 社会課題解決への応用可能性
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: また、R&Dコミュニティと大学でも、サウジアラビアが抱えるいくつかの課題に取り組むために多くのことが行われています。水不足、気候変動、緑化は、私たちが日々直面している課題であり、AIがこれらの問題について考える方法を本当に革命化できると信じています。これらは単なる技術的課題ではなく、サウジアラビアの持続可能な発展にとって極めて重要な社会的課題なのです。
ダニー・トビー: 水不足という課題は特に深刻だと思いますが、AIはどのように貢献できるのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 水不足への対応では、AIは複数の側面で革新的な解決策を提供できます。まず、既存の水資源の効率的な管理において、AIは使用パターンの分析、漏水の早期発見、配水システムの最適化などを実現できます。海水淡水化プロセスでは、AIによる運転条件の最適化でエネルギー効率を大幅に改善できます。また、地下水の探査や管理、雨水や排水の再利用システムの最適化など、水資源の総合的な管理においてAIの活用可能性は無限大です。
ダニー・トビー: 気候変動と緑化についてはいかがでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 気候変動対策では、AIが気象パターンの予測精度を向上させ、極端な気象現象への対応策を最適化できます。緑化プロジェクトでは、植物の成長条件の分析、最適な植栽場所の選定、灌漑システムの効率化など、AIが砂漠緑化の成功率を大幅に向上させることができます。私たちの大学やR&D機関では、これらの課題に特化したAI研究が活発に行われており、理論的な研究から実用的なソリューションの開発まで、幅広いアプローチが取られています。サウジアラビア特有の環境条件を理解した研究者たちが、AIを活用してこれらの根本的な社会課題の解決に取り組んでいることは、非常に心強い状況です。これらの技術革新は、サウジアラビアだけでなく、同様の課題を抱える世界の乾燥地域にも貢献できる可能性を秘めています。
8.3 エネルギー転換におけるAIの役割
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: エネルギー部門では、私たちが炭素ベースのエネルギーから再生可能エネルギーと水素へと移行する中で、太陽光と風力の素晴らしい組み合わせを実現しようとしています。この移行において、AIはこれらの負荷をバランスさせ、非常に効率的に実行するのに極めて重要になるでしょう。エネルギー転換は単なる技術的な変更ではなく、エネルギー供給システム全体の根本的な再構築を意味しています。
ダニー・トビー: 再生可能エネルギーの負荷バランシングにおいて、AIはどのような役割を果たすのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 太陽光発電は日中の太陽の強度によって、風力発電は風速によって出力が大きく変動します。この変動性は従来の炭素ベースエネルギーとは全く異なる管理上の課題を生み出します。AIは、気象データ、過去の発電パターン、電力需要予測などを統合的に分析し、リアルタイムで最適な電力配分を決定できます。また、蓄電システムの充放電タイミング、水素製造への余剰電力の活用など、複雑な意思決定をミリ秒単位で実行することが可能です。
ダニー・トビー: 水素エネルギーの分野でのAI活用についてはいかがでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 水素の製造、貯蔵、輸送、利用の各段階で、AIは革命的な効率改善をもたらします。電解による水素製造では、電力価格が最も安い時間帯を予測して製造スケジュールを最適化し、製造コストを大幅に削減できます。また、水素の需要予測、供給チェーンの最適化、安全性管理など、水素経済の構築に必要なすべての要素でAIが重要な役割を果たします。サウジアラビアが目指している世界最大級の水素輸出国としての地位確立においても、AIによる統合的なシステム管理が成功の鍵となるでしょう。私たちの豊富な太陽光と風力資源を、AIの力で最大限に活用し、世界に清潔で安価なエネルギーを供給する、これがサウジアラビアのエネルギー転換における野心的なビジョンなのです。
9. メガプロジェクトでのAI活用
9.1 NEOM:未来都市のテストベッド
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 二番目は、サウジアラビアで進行中のギガプロジェクトです。NEOMという、都市生活を再定義する未来都市があります。そして、それはすべて自動化とAIに基づいています。そこには多くの機会があります。NEOMは単なる都市建設プロジェクトではなく、AIが人間の生活をどのように改善できるかを実証する、世界最大級のテストベッドになると思います。
ダニー・トビー: NEOMでのAI活用について、具体的にはどのような構想をお持ちでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: NEOMは、都市生活を根本から再定義する試みです。従来の都市では後からAI技術を導入しようとすると、既存のインフラや社会システムとの調整が困難になります。しかし、NEOMでは最初からAIを前提とした都市設計が可能です。交通システム、エネルギー管理、廃棄物処理、水資源管理、公共安全、住民サービスなど、都市機能のすべてがAIによって統合的に管理されます。これにより、従来の都市では実現不可能なレベルの効率性、持続可能性、住民の生活品質向上が達成できるのです。
ダニー・トビー: 世界最大のテストベッドという位置づけについて詳しく教えてください。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: それは世界最大級のテストベッドの一つになると思います。AIが人間の生活を改善する方法について、世界で最も包括的な実証実験の場となるでしょう。NEOMでは、スマートビルディング、自動運転交通システム、AI医療、個人化された教育システム、予測的メンテナンス、環境モニタリングなど、あらゆる分野でAI技術が実装されます。重要なのは、これらの技術が個別に動作するのではなく、統合されたAIエコシステムとして機能することです。この実証実験の結果は、世界中の都市開発や社会システム設計に影響を与える可能性があります。NEOMで得られる知見とデータは、AIが社会全体に与える影響を理解し、より良い未来社会の設計に貢献する貴重な資産となるでしょう。
9.2 QDI:エンターテインメント都市構想
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: QDIは、世界のエンターテインメント首都または世界のエンターテインメント首都になることを約束している別のギガプロジェクトです。そこでは、eスポーツと伝統的なエンターテインメント、アミューズメントパーク、そしてメディアを組み合わせています。この野心的なプロジェクトでは、エンターテインメント産業のあらゆる分野を統合し、新しい娯楽体験の創造を目指しています。
ダニー・トビー: そのような多様なエンターテインメント分野において、AIはどのような役割を果たすのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 可視化、芸術、メディアなどの分野で、AIが何をできるかは想像できるでしょう。eスポーツ分野では、AIがゲームプレイの分析、選手の戦術支援、観客体験の個人化などを実現します。アミューズメントパークでは、来園者の好みや行動パターンを分析して、個別最適化されたアトラクション体験を提供できます。メディア制作では、AIが脚本作成、映像編集、音響効果、さらには俳優のパフォーマンス分析まで支援することで、これまでにないクオリティのコンテンツ制作が可能になります。
ダニー・トビー: 伝統的なエンターテインメントとテクノロジーの融合について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか。
サウジ政府高官: 可視化技術では、AIがリアルタイムでCGを生成し、観客一人ひとりに合わせた視覚体験を創造します。芸術分野では、AIが伝統的なアラブ芸術とデジタル技術を融合させ、新しい表現形式を生み出します。メディア分野では、多言語での同時配信、文化的背景に応じたコンテンツ調整、観客の感情反応に基づくリアルタイム編集などが可能になります。QDIでは、これらすべてのAI技術が統合され、訪問者が従来では体験できなかった没入的で個人化されたエンターテインメント体験を享受できるようになります。世界のエンターテインメント首都としての地位確立において、AIは単なる技術的支援ではなく、新しい娯楽パラダイムの創造そのものを担っているのです。
9.3 紅海プロジェクト:持続可能性への貢献
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 最後に重要なのは紅海プロジェクトです。そこでは今日、AIが私たちの持続可能性を支援し、紅海のエコシステムを本当に保全し、水上と水中にあるすべての宝物を守るのに役立っています。このプロジェクトは、観光開発と環境保護を同時に実現するという、従来では困難とされてきた課題に取り組んでいます。AIがなければ、このような複雑なバランスを維持することは不可能でしょう。
ダニー・トビー: 紅海の生態系保全において、AIは具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: AIは海洋生物の行動パターンをリアルタイムで監視し、観光活動が生態系に与える影響を最小限に抑えるための意思決定を支援しています。水中ドローンや海洋センサーから収集される膨大なデータを分析することで、サンゴ礁の健康状態、魚類の回遊パターン、水質変化などを継続的にモニタリングできます。また、観光客の動線を最適化し、環境負荷が高い地域への立ち入りを制限しながら、同時に最高品質の観光体験を提供するという複雑な調整もAIが担っています。
ダニー・トビー: 水上と水中の宝物を保護するという表現について、もう少し詳しく説明していただけますか。
H. E. Eng. ハイサム・アブドゥルラーマン・アルオハリ: 紅海は世界でも稀に見る生物多様性を誇る海域であり、数千種の海洋生物、原始的なサンゴ礁、そして何世紀にもわたって形成された独特な海洋生態系という宝物を有しています。水上では、渡り鳥の飛行ルート、沿岸植生、海岸線の自然景観なども重要な保護対象です。AIは、これらすべての要素を統合的に監視し、開発活動が環境に与える影響をリアルタイムで評価します。例えば、建設活動のタイミングを動物の繁殖期を避けて調整したり、観光施設の照明が海洋生物に与える影響を最小化したりといった、きめ細かい環境配慮をAIが可能にしています。紅海プロジェクトは、AIを活用した持続可能な開発のモデルケースとなり、世界中の沿岸開発プロジェクトに重要な示唆を与える存在になるでしょう。